(平成25年6月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律第40条《東日本大震災の被災者等が被災代替建物に係る土地を取得した場合の所有権の移転登記等の免税》の規定を適用せずに登録免許税を納付して登記を受けた後、納付税額が過大であったとして行った還付通知をすべき旨の請求について、原処分庁が登記申請時に当該規定の適用に必要な書類の添付がなかったとして還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ d県e市f町全域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、平成23年4月22日に、計画的避難区域に設定された。
ロ 請求人は、d県e市f町○−○に住民登録していたところ、平成23年4月○日に、同所からa市b町○−○に住民票を異動した。
ハ 請求人は、平成24年10月30日に別表1に記載の各土地について、別表2の各登記(以下、これらの登記をそれぞれ「本件所有権移転登記」及び「本件抵当権設定登記」といい、これらを併せて「本件各登記」という。)の申請をした。
 請求人は、本件各登記に係る申請書(以下、これらの登記申請書をそれぞれ「本件所有権移転登記申請書」及び「本件抵当権設定登記申請書」という。)に別表2の「登録免許税」欄の金額に相当する収入印紙をそれぞれ貼付して、登録免許税を納付した。
ニ 請求人が原処分庁に提出した本件所有権移転登記申請書及び本件抵当権設定登記申請書には、東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(以下「震災特例法」という。)第40条の規定(以下「本件免税規定」という。)の適用を受ける旨の記載及び本件免税規定による登録免許税の免税を受けるための書類の添付はなかった。
ホ 請求人は、平成24年11月30日に原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第2項の規定に基づいて、請求人の納税地の所轄税務署長に還付通知すべき旨の請求をした。
ヘ 原処分庁は、これに対し、平成24年12月3日付で還付通知すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ト 請求人は、本件通知処分を不服として平成24年12月13日に審査請求をした。
チ なお、請求人は、平成25年3月25日に、住所をa市b町○−○から肩書地に移動した。
リ 原処分庁は、平成25年4月1日付人事異動により、B地方法務局登記官EからB地方法務局登記官Dとなった。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 争点

 本件各登記に係る登録免許税の納付額に過誤納は生じているか。

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2 主張

請求人 原処分庁
 以下の理由から、本件各登記に係る登録免許税には過誤納が生じており、本件通知処分は取り消されるべきである。  以下の理由から、本件各登記に係る登録免許税に過誤納の事実は認められないので、本件通知処分は適法である。
(1) 請求人は東日本大震災の被災者であり、本件各登記は、被災代替建物に係る土地の取得のため行ったものであるから、本件免税規定に該当する。
 登記申請の際に、必要書類の添付がなくても、結果として、登録免許税は納めすぎとなっているのであるから、本件免税規定の適用を認めるべきである。
 また、後日申出があれば、既に納付している登録免許税の還付が受けられるとする規定を設けてでも救済すべきである。
(1) 本件各登記に関し、本件所有権移転登記にあっては土地の売買による登録免許税の軽減措置を適用した登録免許税額、本件抵当権設定登記については通常どおりの登録免許税額を納付して登記の申請がなされたものであり、本件免税規定による登録免許税の免税の適用を求める際に必要とされる書類等は何ら提出がなく、申請情報の内容として免税の根拠となる法令条項の記載もされていなかった。
 本件免税規定の適用を受けるに当たっては、必要な証明書類を添付して登記をするものに限り登録免許税を課さないものとし、その必要な証明書類を添付しないで登記をした者は、免税要件を満たしていないのであるから、請求人から提出された還付通知請求書に対し、過誤納の事実は認められない。
(2) 原処分庁は、登記申請の際に、前住所の記載のある住民票で住所確認を行っていれば、請求人の住所地であったf町が本件免税規定が適用される区域に該当することを確認し、本件免税規定の適用について指導できたにもかかわらず、印鑑証明書で住所確認を行い請求人に対して本件免税規定についての指導を行わなかった。また、原処分庁は本件免税規定の周知徹底を怠っていた。
 このため、請求人は本件免税規定の適用を受けるために必要な書類を添付できず過誤納となってしまったのであるから救済すべきである。
(2) 請求人の提出した本件各登記の申請書には住民票が添付されていなかったことから印鑑証明書で住所確認を行ったが、住所確認書類は、市町村長の発行した住民票に限るものではなく、印鑑証明書をもって充てることができるとされており、原処分庁の取扱いは適法である。また、ホームページにおいて、本件免税規定の適用を受けるための必要書類についても詳細に示していることから、本件免税規定の周知徹底を怠っていたものとは認められない。

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3 判断

(1) 登録免許税の納付義務は、別紙の1のとおり、登記の時に成立し、納付すべき税額は、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定するのであり、登録免許税の納付をした場合において過誤納が生じるのは、別紙の2のとおり、国税として納付された金員に対応する確定した登録免許税の額が、登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていないなどにより存在しない場合である。

(2) 本件各登記に係る登録免許税の額は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び租税特別措置法第72条《土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減》第1項の規定に基づき適正に算出されており、請求人が本件所有権移転登記申請書及び本件抵当権設定登記申請書に記載した登録免許税の課税標準の額又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていないなどにより存在しないとはいえないことから、本件各登記に係る登録免許税の納付額には、上記(1)の過誤納は生じていない。

(3) 請求人は、東日本大震災の被災者であり、本件各登記は被災代替建物に係る土地の取得のために行ったものであるから本件免税規定に該当しており、本件各登記の申請時に本件免税規定の適用を受けるために必要な書類を添付していなくとも、過誤納が生じている旨主張する。
 しかしながら、本件免税規定の適用を受けるには、別紙の3及び5のとおり、被災代替資産の所有権移転登記についてはその申請の際に震災特例法施行規則第16条に規定する書類の添付が必要であり、また、抵当権設定登記については当該所有権移転登記と同時に受ける場合に限られているところ、所有権移転登記の申請書に震災特例法施行規則第16条に規定する書類を添付しなかった場合について、既に確定した登録免許税を免除できる規定は存在しないから、請求人の主張は採用できない。
 また、請求人は、本件所有権移転登記申請書に本件免税規定の適用を受けるために必要な書類を添付しなかったのは、原処分庁の住所確認の不備から本件免税規定の指導を行わなかったこと及び原処分庁の本件免税規定の周知不足に起因するものであるから救済すべきである旨主張するが、登記申請書を受け付ける際に原処分庁が登記申請者に本件免税規定について指導すべきことを定めた法令の規定はなく、本件免税規定について請求人が知らなかったとしても、所有権移転登記の申請書に震災特例法施行規則第16条に規定する書類を添付しなかった場合に本件免税規定の適用を受けることができるとする規定は存在しないから、請求人の主張はいずれも採用できない。
 なお、請求人は、後日申出があれば、既に納付している登録免許税の還付が受けられるとする規定を設けてでも救済すべきである旨主張するが、請求人の主張は立法論をいうものであるから、請求人の主張する事由についての判断は、当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。

(4) 本件通知処分について

 上記(2)のとおり、本件各登記に係る登録免許税の課税標準の額及び税額の計算は適法になされており、過誤納の事実はないから、本件通知処分は適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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