(平成25年5月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の実兄である滞納者K(以下「本件滞納者」という。)の滞納国税を徴収するため、本件滞納者から請求人へ所有権移転の登記がされた各不動産を、いずれも国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第1項に規定する譲渡担保財産であるとして、同条第2項(徴収法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》による読替え後のもの。以下同じ。)の規定に基づく請求人に対する告知処分及び徴収法第24条第3項の規定に基づく当該各不動産の差押処分をしたところ、請求人が、当該各不動産は、いずれも代物弁済により請求人の所有財産となったから譲渡担保財産ではないとして、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成10年5月27日までに、本件滞納者に係る別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、L税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、本件滞納者から請求人へ所有権移転の登記がされた別表2の各土地(以下「本件各土地」という。)が、いずれも徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産に当たるとして、平成23年11月28日付で、請求人に対し、同条第2項の規定に基づき譲渡担保権者の物的納税責任に関する告知処分(以下「本件告知処分」という。)をするとともに、同日付で、請求人の住所を所轄するL税務署長及び本件滞納者に対し、その旨を通知した。
 なお、本件告知処分に係る告知書(以下「本件告知書」という。)は、平成23年12月5日に、請求人に送達された。
ハ 原処分庁は、本件告知書を発した日から10日を経過した日までに、本件滞納国税が完納されなかったことから、徴収法第24条第3項の規定に基づき、平成23年12月12日付で、本件各土地につき差押処分(以下「本件差押処分」という。)をし、同日付で差押えの登記をした。
ニ 請求人は、平成24年2月3日、本件告知処分及び本件差押処分の取消しを求めて異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成24年4月27日付でいずれも棄却の異議決定をし、当該決定書謄本は、同年5月8日、請求人に送達された。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件告知処分及び本件差押処分について不服があるとして、平成24年6月7日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 徴収法第24条第1項は、納税者が国税を滞納した場合において、その者が譲渡した財産でその譲渡により担保の目的となっているもの(以下「譲渡担保財産」という。)があるときは、その者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる旨規定している。
ロ 徴収法第24条第2項は、国税局長は、同条第1項の規定により徴収しようとするときは、譲渡担保財産の権利者(以下「譲渡担保権者」という。)に対し、書面により告知しなければならない旨、また、この場合においては、その者の住所又は居所の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知しなければならない旨規定している。
ハ 徴収法第24条第3項は、同条第2項の告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていないときは、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる旨規定している。
ニ 徴収法第24条第8項は、同条第1項の規定は、国税の法定納期限等以前に、担保の目的でされた譲渡に係る権利の移転の登記がある場合には、適用しない旨規定している。
ホ 民法第482条《代物弁済》は、債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、遅くとも平成17年頃から、不動産の貸付けに係る収入を有する者である。
ロ 本件滞納者は、請求人の実兄であり、昭和46年7月○日に設立されたM社の代表取締役として、従来から不動産の管理や売買等に携わっている者である。
ハ 本件滞納者は、平成11年2月3日当時、本件各土地のうち、別表2の番号1の土地(以下「本件土地1」という。)を所有していた。
 なお、請求人及び本件滞納者は、本件土地1について、別表2の「登記記録の内容」欄に記載のとおり、平成11年2月3日の譲渡担保を原因とする所有権移転の登記(以下「本件登記1」という。)を、本件滞納国税に係る各法定納期限等後である同月4日に共同申請し、その旨の登記をした。
ニ 本件滞納者は、平成15年2月28日当時、本件各土地のうち、別表2の番号2ないし4の各土地(以下、併せて「本件土地2」という。)を所有していた。
 なお、請求人及び本件滞納者は、本件土地2について、別表2の「登記記録の内容」欄に記載のとおり、平成15年2月28日の代物弁済を原因とする所有権移転の登記(以下「本件登記2」という。)を、本件滞納国税に係る各法定納期限等後である同年3月3日に共同申請し、その旨の登記をした。
ホ 本件登記2の申請当時、本件土地1の上には請求人の自宅建物(未登記)が存在していた。
ヘ 原処分庁所属の徴収担当職員(以下「本件職員」という。)は、原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)のため、請求人に対しては平成23年9月26日及び同年10月26日に、本件滞納者に対しては平成23年9月16日及び同年10月26日に、上記ロのM社の事務所においてそれぞれ質問を行い、請求人及び本件滞納者の申述を録取した聴取書を各人に2通ずつ、作成した(以下、請求人の申述を録取した聴取書2通を併せて「請求人聴取書」といい、本件滞納者の申述を録取した聴取書2通を併せて「本件滞納者聴取書」という。)。

(5) 争点

 本件各土地は、徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産であるか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
(1) 本件土地1について
 請求人及び本件滞納者は、本件調査の際に、本件土地1は本件滞納者の請求人に対する借入金債務(以下「本件借入金債務」という。)に係る担保である旨申述したのであるから、請求人及び本件滞納者の間で本件土地1を本件借入金債務の代物弁済に充てた事実は確認できない。
 したがって、本件土地1は、本件登記1のとおり、本件告知処分の時点において譲渡担保財産である。
(1) 本件土地1について
 請求人及び本件滞納者は、平成15年2月28日までに、本件土地1及び本件土地2を、本件滞納者の請求人に対する総額4億3,240万円の本件借入金債務の一部の代物弁済に充てる旨合意し、本件土地2について本件登記2をした。そのため、この時点で、本件土地1は、代物弁済を原因とする所有権移転の登記がされていないものの、請求人の所有財産となった。
 なお、請求人及び本件滞納者が、本件土地1について代物弁済を原因とする所有権移転登記をしなかった理由は、まる1既に本件土地1の所有名義人が請求人になっていたこと、まる2本件土地1は、請求人の自宅建物の敷地であり、既に請求人への引渡しが完了していたことの他、まる3登記費用を節約するためである。また、本件登記2に係る登記申請書に請求人の印鑑証明書が添付されていることは、請求人及び本件滞納者の本件土地1及び本件土地2の全部についての代物弁済の意思の存在を裏付けるものである。
 したがって、本件土地1は、本件告知処分の時点において譲渡担保財産ではない。
(2) 本件土地2について
 請求人及び本件滞納者は、本件調査の際に、請求人が本件借入金債務の返済を受けたら、本件土地2を本件滞納者に返す旨申述したのであるから、本件登記2の登記原因が代物弁済であるとしても、請求人及び本件滞納者の間では、本件土地2を本件借入金債務の譲渡担保とする旨の合意があったとみるのが相当である。
 したがって、本件土地2は、本件告知処分の時点において譲渡担保財産である。
(2) 本件土地2について
 請求人及び本件滞納者は、上記(1)のとおりの本件土地1及び本件土地2に係る代物弁済の合意をし、本件土地2について本件登記2をした。そのため、この時点で、本件土地2は、請求人の所有財産となった。
 したがって、本件土地2は、本件告知処分の時点において譲渡担保財産ではない。
(3) 原処分庁の主張の根拠である請求人及び本件滞納者の各申述について
 請求人及び本件滞納者は、本件調査の際に、本件職員に対して任意に申述した上、それに誤りのないことを確認して、請求人聴取書又は本件滞納者聴取書にそれぞれ署名押印したのであるから、請求人及び本件滞納者の各申述は、いずれも信用性に欠けるものではない。
(3) 原処分庁の主張の根拠である請求人及び本件滞納者の各申述について
 請求人及び本件滞納者は、本件調査の際に、本件職員に対して、原処分庁が主張するような申述をしていない。本件職員は、請求人及び本件滞納者に対し、誘導尋問をして都合の良い内容を記載した請求人聴取書又は本件滞納者聴取書をそれぞれ作成し、請求人及び本件滞納者は、当該各聴取書の内容が原処分庁のどのような処分につながるかを認識することなく、漫然と署名押印したのであるから、当該各聴取書に記載された請求人及び本件滞納者の各申述は、いずれも信用性に欠ける。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 譲渡担保財産の意義等について
 債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債務者が債務の履行を遅滞したときは、債権者は、譲渡担保の目的となった当該不動産(以下「目的不動産」という。)を処分する権能を取得し、この権能に基づき、目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめるか又は第三者に売却等をすることによって、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等をもって自己の債権(換価に要した相当費用額を含む。)の弁済に充てることができ、その結果剰余が生じるときは、これを清算金として債務者に支払うことを要するものと解すべきであるが(最高裁昭和46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)、他方、弁済期の経過後であっても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復することができるものと解するのが相当であり(最高裁昭和49年10月23日大法廷判決・民集28巻7号1473頁、同昭和57年1月22日第二小法廷判決・民集36巻1号92頁参照)、債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができるのであるから、債権者が単に上記の意思表示をしただけでは、いまだ債務消滅の効果を生ぜず、したがって、清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定しないものというべきである(最高裁昭和62年2月12日第一小法廷判決・民集41巻1号67頁参照)。
 以上のことからすれば、債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は清算金が生じない旨の通知をするまでの間、あるいは、債権者が譲渡担保財産を第三者に処分するまでの間は、当該不動産は譲渡担保財産であると解される。
ロ 登記の推定力について
 登記はその記載事項につき事実上の推定力を有するから、登記事項は反証のない限り真実であると推定すべきであり(最高裁昭和46年6月29日第三小法廷判決・判例タイムズ264号197頁等参照)、登記原因たる契約(権利関係変動の原因たる事実)についても、反証のない限り真実に行われたものと推定すべきである(大審院大正11年1月20日判決・民集1巻4頁、最高裁昭和36年11月30日第一小法廷判決・集民56号415頁参照)。

(2) 認定事実

 請求人及び本件滞納者から提出された資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件登記1及び本件登記2に係る登記申請の添付書類について
 本件登記1の登記申請書には、本件滞納者による署名・押印のある代理権限証書(「登記申請委任状」と題する書面)及び同人の印鑑証明書が添付されている。
 また、本件登記2に係る登記申請書には、請求人及び本件滞納者の署名・押印のある代理権限証書(「委任状」と題する書面)及び各人の印鑑登録証明書が添付されている。
ロ 本件滞納者の妻がつづった日記帳の提出及びその記載内容の要旨について
 本件滞納者は、当審判所に対し、本件滞納者の妻であるNがつづった日記帳(以下「本件日記帳」という。)を提出した。
 本件日記帳は、1994年(平成6年)1月1日から2003年(平成15年)12月31日までの10年間の日付ごとに記入欄のある日記帳であり、平成6年1月1日から平成15年12月31日までの約10年間にわたり、ほぼ毎日、日付ごとの記入欄に書き込みがなされ、その内容は、その日の天候や食事のメニュー等のほか、N自身、夫である本件滞納者、義妹である請求人、その他の家族や知人の言動等と、それらに対するNの所感が中心である。
 そのうち、請求人からの借入れに関しては、次の(イ)ないし(チ)のとおりの言動等が記載されている(各末尾の括弧書は本件日記帳における日付を示す。)。
(イ) 昼、請求人来て「借金返せ。もうつきあわなくてもいい。」等々(平成8年8月26日)。
(ロ) 3時30分、請求人来て、「もう縁を切ってもいいから借金返して貰ってお兄ちゃんと話し合いたい。」と言う(平成8年9月12日)。
(ハ) 請求人見え、Pさんより預かっている債券3億円以上とか(平成9年6月3日)。
(ニ) 本件滞納者は、請求人とdへ。13書替え、内11借り入れる(平成9年9月9日)。
(ホ) 昼より請求人私達2人の3人でdへ。6持ち帰る(平成10年9月17日)。
(ヘ) 請求人、本件滞納者と3人でdへ。14くずす(平成10年9月21日)。
(ト) b町土地名変で170万出る(平成11年2月2日)。
(チ) 本件滞納者、b町印刷屋の土地を請求人に名変手続をとる(75万)(平成15年3月3日)。

(3) 請求人及び本件滞納者の原処分庁に対する各申述及び当審判所に対する各答述の要旨

イ 請求人について
(イ) 請求人の原処分庁に対する申述(請求人聴取書)の要旨(下記AないしGの各末尾の括弧書は申述した日を示す。)。
A 本件滞納者への貸付けは、平成5年頃から始まった。本件滞納者の要求がある度に100万円単位で貸した。貸付金の額は、数千万円はあると思うが、金銭消費貸借契約書その他のいかなる書類も作成していないので、いつ、いくら貸し付けたのか、はっきりした金額は分からない。また、身内なので返済期限も決めなかった。数十万円は返済してもらったが、それ以外は全く返済を受けていない。一応、催促はしているが、本件滞納者は赤字だからと言って、全く返済してもらえない(平成23年9月26日及び同年10月26日)。
B 本件登記1に関して、譲渡担保契約書を作成していない。本件土地1は、本件滞納者が、お金を借りているから譲渡担保として本件土地1を請求人の名義にすると言って、登記してくれた(平成23年9月26日)。
C 本件土地1がいくらなのか、また、本件滞納者に貸したお金がいくらなのか分からないが、本件土地1は、貸付金の担保だと思っているので、貸付金の返済を受けたら、本件滞納者に返す(平成23年10月26日)。
D 本件登記2に関して、代物弁済契約書は作成していない。本件土地2は、本件滞納者が、代物弁済として請求人に所有を移すと言って、名義を変えてくれた。代物弁済は本件滞納者がやってくれたことであり、詳しいことは分からない。貸付金がいくら減ったかもよく分からない(平成23年9月26日)。
E 本件土地2は、本件滞納者が、お金の代わりに請求人名義にしてくれたが、貸付金の返済を受けたら、本件滞納者に返そうと思っている。本件滞納者に対し、貸付金の返済を求め、固定資産税を払うのは嫌なので、貸付金が返済されれば、本件土地2を本件滞納者に返す(平成23年10月26日)。
F 納税の通知は請求人の家に届くので、全て請求人が納税している。本件滞納者に固定資産税を請求しても、返ってこないと思うので、請求はしないが、貸付金の返済を受けるときに請求するかもしれない(平成23年9月26日及び同年10月26日)。
G 貸付金の全額を返してもらったら、本件滞納者に本件各土地を返す(平成23年10月26日)。
(ロ) 請求人の当審判所に対する答述の要旨
 請求人は、平成25年2月25日に、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 本件滞納者には、母親の死後から総額で3億円以上は貸し付けていると思うが、契約書を作成しておらず、記録も付けていないので正確には分からない。残額については、5千万円以上1億円未満という位しか分からない。ここ数年は新たな貸付けをしていない。
B 請求人は、本件滞納者に対して、請求人の知人であるPのことを過去に話したことがある。
C 本件土地1については、本件滞納者が、請求人からお金を借りているから、本件土地1の名義を請求人に変えておけば安心だろうと言うので、請求人もそれでいいと思い、本件登記1をした。
 また、本件滞納者から、本件土地1は、清算が済んで請求人の名義にしてやるから、請求人のものだと言われた。自分の名義になっているから、固定資産税を払っている。
D 本件土地2については、本件滞納者から、代物弁済にしておいたほうが請求人も安心だろうと言われ、本件登記2をした。譲渡担保と代物弁済を明確に区別して考えていなかった。この代物弁済によって減った貸付金は大体数億円という程度としか言えない。
ロ 本件滞納者について
(イ) 本件滞納者の原処分庁に対する申述(本件滞納者聴取書)の要旨(下記AないしFの各末尾の括弧書は申述した日を示す。)。
A 母が死亡した平成5年頃から、請求人から金を借り始めた。資金がないときにその都度、100万円単位で借りていた。借入額は、7,500万ないし8,000万円はあると思うが、少しずつ借りたので、いつ借りたかは覚えていない。返済期限も特に決めていない。借りてから、一切返済はしていない(平成23年9月16日及び同年10月26日)。
B 請求人との間では、身内のため、金銭消費貸借契約書、本件土地1に係る譲渡担保契約書及び本件土地2に係る代物弁済契約書のいずれも作成していない(平成23年9月16日)。
C 請求人から、本件各土地はいらないから、現金で返してと言われている(平成23年9月16日)。
D 請求人がお金を返してほしいと何度も言うので、それをなだめるために本件各土地を請求人名義にした。したがって、本件借入金債務は減っていない。請求人も、本件各土地が請求人の名義になっているからといって、本件借入金債務がなくなったとは思っていない(平成23年9月16日)。
E 本件登記1をした頃、平成5年頃から借り続けた分が3,000万ないし4,000万円くらいになっていたと思う。それまで返済は一切しておらず、請求人から年中、返済を求められている。譲渡担保や代物弁済で土地の名義を変えているのに、土地はいらないから現金で返してほしいと言われている。いつまでに返済してほしいとは言ってこないが、借入金の返済ができたら、本件土地1の名義は本件滞納者に戻す(平成23年10月26日)。
F 借入額や借入時期で譲渡担保とするか代物弁済とするかを決めただけであり、特に理由はなく、どちらでもよかった。請求人も、どちらの方法で名義が変わったとしても、気にしていない。現金で返済したら、本件土地2は、本件滞納者の名義に戻す(平成23年10月26日)。
(ロ) 本件滞納者の当審判所に対する答述の要旨
 本件滞納者は、平成24年12月26日に、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 請求人からは、平成5年頃に6,000万円を借りたのが最初であり、その後、何回にもわたって借入れをし、総額3億円ほどの借入れをした。借りた金は、金融機関への負債の返済に充てた。借入れに際し、金銭消費貸借契約書あるいはそれに代わる書類は、兄妹の関係なので作成しなかった。借入れの金額は、自分の記憶によるものである。
B 請求人の貸付金の原資は、Q銀行(現・R銀行)d支店に、請求人の知人のPが請求人に残してくれた割引金融債(S)である。
C 本件日記帳の記載のうち、上記(2)のロの(ニ)は「請求人と本件滞納者がQ銀d支店へ行き、Sを1億3,000万円満期で書き替え、そのうち1億1千万円を本件滞納者が借り受けた。」という意味であり、同(ホ)は「請求人、本件滞納者及びNの3人でQ銀d支店へ行って、請求人から6,000万円を借りて持ち帰った。」という意味であり、同(ヘ)は「請求人、本件滞納者及びNの3人でQ銀d支店へ行って、1億4,000万円のSを現金化した。」という意味である。
D 本件土地1については、当時既に請求人から借入れはあったが、計画していたとおりe県f市の老人ホームの建設ができれば返済できると考えていたことと、登記費用の節約のために、譲渡担保を原因として所有権移転登記をした。その際、譲渡担保契約書は作成していないし、担保の評価もしていない。
E 本件土地1については、老人ホーム建設の計画が頓挫したことにより返済できていないので、譲渡担保のままということになる。
F 本件土地2については、いくら妹といっても多額の借金を長期間返済していない状況であり、老人ホームの建設も見通しが立たなかったことから、請求人への本件借入金債務の返済というつもりで代物弁済を原因とした所有権移転登記を行った。請求人には、本件土地2で、借入金の金額に見合うという話をしている。

(4) 本件日記帳の記載内容、並びに請求人及び本件滞納者の原処分庁に対する各申述及び当審判所に対する各答述の信用性等について

イ 本件日記帳について
 本件日記帳に記載されている内容は、本件滞納者の妻であるNが、長年にわたり継続して私生活に関する出来事をつづったものであり、本件滞納者による請求人からの借入れに関する内容をみると、上記(2)のロのとおり、関係者のした言動等や本件各土地に係る名義変更手続のあったことなどが具体的に記載されている上、当該各手続に関する記載のある日付と実際の本件各土地に係る登記の時期(上記1の(4)のハ及びニの当該各登記の日)に整合性があることからすると、本件日記帳の記載内容は、基本的には、実際の出来事に即した当時のNの認識をそのまま記載したものであり、高い信用性を有すると認められる。
 そうすると、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、平成8年8月頃の時点で、本件借入金債務が存在し、請求人が本件滞納者に対してその返済を求めていたこと、同(ハ)ないし(ヘ)のとおり、平成9年ないし平成10年の時点で、本件借入金債務の額が計3億円以上の多額に上っていたこと、同(ト)及び(チ)のとおり、平成11年及び平成15年に順次、本件滞納者が本件各土地の名義変更手続を行ったことなど、本件日記帳に記載されたとおりの事実があったものと推認することができる。
ロ 請求人及び本件滞納者の各申述及び各答述について
 請求人は、上記2の請求人欄の(3)のとおり、請求人聴取書及び本件滞納者聴取書は、いずれも本件職員が誘導尋問をして都合のよい内容を記載したものであるから、当該各聴取書に録取された請求人及び本件滞納者の各申述は信用性に欠ける旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、請求人聴取書及び本件滞納者聴取書の各記載内容には、請求人及び本件滞納者がそれぞれ任意に当審判所へ来所した上で当審判所に対して述べた内容(各答述)と一致する部分もあり、また、本件日記帳の記載と整合する部分もあるから、いずれも全面的に信用性に欠けるものということはできない。
 もっとも、請求人及び本件滞納者の各申述には、それぞれの答述(上記(3)のイの(ロ)及び同ロの(ロ))とそごする部分もある上、当該各答述の間にも相互に一致をみない部分があるので、以下、登記の日及び原因の異なる本件土地2と本件土地1を分けて順に検討する中で、その都度、当該各申述及び当該各答述の信用性についても言及する。

(5) 本件土地2についての検討

イ 上記(1)のロのとおり、登記はその記載事項につき事実上の推定力を有するから、登記事項の一つである登記原因についても、反証のない限り真実であると推定すべきであるところ、別表2の「登記記録の内容」欄に記載のとおり、本件土地2に係る本件登記2の原因は、平成15年2月28日になされた代物弁済である旨登記されているから、反証のない限りその原因のとおりの代物弁済が真実行われたものと推定される。これに対する反証の根拠となり得るのは、上記2の原処分庁欄の(2)及び(3)のとおり、請求人及び本件滞納者の原処分庁に対する各申述のみであるから、以下、その信用性について検討する。
ロ 上記(3)のイの(イ)及び同ロの(イ)の各申述の要旨によれば、請求人及び本件滞納者は、それぞれ、原処分庁が主張するように、請求人と本件滞納者との間で、実質的に本件土地2を本件借入金債務の(譲渡)担保とする旨の合意をした上で、形式的には登記原因を代物弁済とする本件登記2をした旨申述したものとみる余地もあるものの、他方で、当該各申述の全体を総合的に捉えれば、いずれも要するに、貸付金(又は借入金)の全額を返済すれば本件各土地の名義を本件滞納者に戻す旨を述べているから、請求人と本件滞納者との間で、本件土地2を本件借入金債務の全部又は一部の代物弁済の用に供し、その上で、最終的に本件滞納者が請求人に対して本件借入金債務の全額に相当する金額の提供をした場合には、本件土地2の買戻しをする(又は応じる)つもりである旨をそれぞれ述べたものとみる余地もあるから、結局、請求人及び本件滞納者の本件土地2に係る各申述は、いずれもそれ自体の趣旨が多義的で曖昧であり、原処分庁が指摘するのとは異なる別の法律行為について申述された可能性を否定し難いものである。
ハ そうすると、請求人及び本件滞納者の本件土地2に係る原処分庁に対する各申述は、いずれも、必ずしも原処分庁が主張する趣旨に解釈することのできないものであり、その信用性に関わらず、原処分庁主張の証拠としての証明力は弱いものであって、結局、当該各申述をもって、上記イの登記の推定力の妨げとなる反証があったとはいえない。また、当審判所が、請求人及び本件滞納者の提出資料並びに原処分関係資料を精査しても、他に上記の反証があったというべき事情も見当たらない。
ニ 以上のとおりであるから、本件土地2は、本件登記2のとおり、代物弁済を原因として本件滞納者から請求人に所有権移転がされたと認定することができる。
 そうすると、本件告知処分の時点において、本件土地2は、請求人の所有財産であり、譲渡担保財産ではない。

(6) 本件土地1についての検討

イ 上記(1)のロのとおり、登記はその記載事項につき事実上の推定力を有するから、登記事項の一つである登記原因についても、反証のない限り真実であると推定すべきであるところ、別表2の「登記記録の内容」欄に記載のとおり、本件土地1に係る本件登記1の原因は、平成11年2月3日になされた譲渡担保である旨登記されているから、反証のない限りその原因のとおりの譲渡担保が真実行われたものと推定される。加えて、上記(3)のイ及びロのとおり、請求人及び本件滞納者が、いずれも本件土地1を本件登記1のとおり譲渡担保の用に供した旨を一貫して申述及び答述していること、また、当審判所が請求人及び本件滞納者の提出資料並びに原処分関係資料を精査しても、他に上記反証の根拠となり得る事情が見当たらないことをも総合すると、本件登記1のとおり、本件滞納者から請求人に対して平成11年2月3日の譲渡担保を原因として本件土地1の所有権が移転したことは、優に認定することができる。
ロ そうすると、上記(1)のイのとおり、まる1請求人が本件滞納者に対して清算金の支払若しくはその提供、又は清算金が生じない旨の通知(以下、併せて「清算手続」という。)を既にしたか否か、また、まる2請求人が本件土地1を第三者に処分したか否か、により、本件告知処分の時点でもなお、本件土地1が譲渡担保の付された財産であったか否かが定まるので、以下、この点を検討する。
 まずまる1についてみると、上記(3)のロの(ロ)のとおり、本件滞納者は、本件登記1をした際に本件土地1の担保価値の評価をしておらず、本件借入金債務の返済もできていないので、本件土地1は譲渡担保のままである旨を、譲渡担保を設定した経緯と併せて具体的かつ明確に答述しているのに対し、同イの(ロ)のCのとおり、請求人は、本件滞納者から、本件土地の清算は済んでおり、請求人のものだと言われた旨の答述をしており、相互の答述が一致をみていない。そこで、検討するに、本件滞納者の上記答述は、請求人及び本件滞納者のいずれの申述及び答述によっても、本件土地1の清算手続により消滅した債権額が具体的に明らかでないこと、また、本件日記帳にも本件土地1に付された譲渡担保の清算手続に関する記述がないことなど、他の証拠と整合する内容であるのに対し、請求人の上記答述は、これらの証拠との整合性を欠くものであるから、本件滞納者の上記答述の信用性が、請求人の上記答述の信用性に比して高いといえる。したがって、本件滞納者の上記答述のとおり、本件土地1に付された譲渡担保の清算手続は未了であると認められる。
 次にまる2についてみると、本件告知処分の時点でもなお、請求人は本件土地1の処分をしていなかったことは明らかである。
 そうすると、本件告知処分の時点において、請求人と本件滞納者との間で、本件土地1に付された譲渡担保の清算手続等はとられていなかったものと認められる。
ハ もっとも、請求人は、本件登記1の後、本件登記2の時点までに、請求人と本件滞納者との間で本件各土地をもって本件借入金債務の一部を弁済する旨の代物弁済の合意をし、本件土地2についてのみ本件登記2をしたから、それと同時に本件土地1についても、平成15年2月28日の代物弁済を原因とする所有権移転の登記はされていないものの、その頃、請求人の所有財産となった旨主張し、その根拠として、上記2の請求人欄の(1)のまる1ないしまる3などの事実を指摘する。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件滞納者は、本件土地1については、本件借入金債務の返済ができていないので、譲渡担保のままである旨答述しており、その答述の信用性は、これを否定する趣旨の請求人の答述に比して高いということができる一方で、これに反する証拠(請求人と本件滞納者との間で、本件登記2の時点までに、本件土地1を本件借入金債務の一部の代物弁済の用に供する旨の合意をしたことを裏付ける証拠)は見当たらない。なお、請求人は、本件登記2に係る登記申請書に請求人の印鑑証明書が添付されていることは、請求人及び本件滞納者の本件土地1及び本件土地2の全部についての代物弁済の意思の存在を裏付けるものである旨主張するところ、確かに上記(2)のイのとおり、本件登記2(本件土地2についての代物弁済を原因とする所有権移転登記)に係る登記申請書に請求人の印鑑証明者が添付されている事実が認められるものの、これは飽くまで本件土地2に係る事実であり、当該事実をもって、別個の不動産である本件土地1についての代物弁済の意思の存在を推認すること自体に無理があるといわざるを得ない。
 そうすると、上記1の(4)のホのとおり、上記2の請求人欄の(1)のまる1及びまる2の状況が現にあり、また、同まる3の登記費用を節約すべき事情が仮にあったとしても、これらの状況等の前提となるべき事実関係(請求人と本件滞納者との間で、本件登記2の時点までに、本件土地1を本件借入金債務の一部の代物弁済の用に供する旨の合意をしたこと)を欠くのであるから、これらの状況等のみをもって、請求人が主張するように、本件登記2の時点までに、請求人と本件滞納者との間で、実質的に本件土地1を代物弁済の用に供する旨の合意があったことを推認することはできない。
 以上によれば、請求人の主張を踏まえて検討しても、請求人と本件滞納者との間で、本件土地1を代物弁済の用に供する合意をした事実は認められない。
ニ したがって、本件土地1は、本件登記1のとおり、譲渡担保を原因として本件滞納者から請求人に所有権移転がされたものであり、かつ、いまだ清算手続等がとられていないものであると認定することができる。そうすると、本件告知処分の時点において、本件土地1は、請求人の所有財産ではなく、譲渡担保財産である。

(7) 本件告知処分及び本件差押処分について

イ 本件土地1に係る各処分について
 本件土地1が譲渡担保財産であり(上記(6)のニ)、本件登記1も本件滞納国税に係る各法定納期限等に遅れており(上記1の(4)のハ)、また、当審判所の調査の結果によれば、本件告知処分の時点において本件滞納者の財産につき滞納処分を執行してもなお本件滞納国税に不足していたと認められるから、本件土地1に係る本件告知処分及び本件差押処分は、上記1の(2)のロ及びハのとおり、徴収法第24条の規定により行われたものであり、適法である。
ロ 本件土地2に係る各処分について
 本件土地2は譲渡担保財産ではなく(上記(5)のニ)、請求人の主張には理由があるから、本件土地2に係る本件告知処分及び本件差押処分は、別紙のとおり取り消すべきである。

(8) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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