(平成25年5月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、納税者E社(以下「本件滞納法人」という。)が行った審査請求人(以下「請求人」という。)に対する寄附について、原処分庁が、当該寄附は国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当するとして、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分並びに不動産及び債権の各差押処分をしたのに対し、請求人が、本件滞納法人については、破産廃止決定が確定して法人格が消滅したことによってその納税義務も消滅したから、請求人の第二次納税義務も消滅したとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、本件滞納法人に係る別表1記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成17年8月23日までにF税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、請求人に対し、徴収法第39条の規定に該当する事実があるとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、まる1納付すべき限度の額を○○○○円、まる2納付の期限を平成24年3月15日、まる3その他必要な事項を記載した同年2月15日付の納付通知書により、第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件納付告知処分を不服として、平成24年4月4日に異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、上記ロの納付の期限までに本件滞納国税が完納されなかったことから、請求人に対し、平成24年4月25日、徴収法第32条第2項の規定に基づき、同日付の納付催告書により本件滞納国税の納付を督促した。
ホ 原処分庁は、平成24年5月14日現在において本件滞納国税が完納されなかったことから、同日付で、別表2記載の各不動産及び別表3記載の各債権の各差押処分(以下「本件各差押処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、本件各差押処分を不服として、平成24年6月7日にそれぞれ異議申立てをした。
ト 異議審理庁は、平成24年7月2日付で、上記ハ及びヘの各異議申立てについて、それぞれ棄却する旨の異議決定をした。
チ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年7月31日にそれぞれ審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 徴収法第32条第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。以下同じ。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定し、同法第32条第2項は、第二次納税義務者がその国税を同条第1項の納付の期限までに完納しないときは、国税局長は、所定の場合を除き、納付催告書によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ハ 徴収法第47条《差押の要件》第1項は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないとき(同項第1号)は、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定し、同条第3項は、第二次納税義務者について同条第1項の規定を適用する場合には、同項中「督促状」とあるのは「納付催告書」とする旨規定している。
ニ 会社法第471条《解散の事由》は、株式会社は、破産手続開始の決定(同条第5号)によって解散する旨規定している。
ホ 会社法第475条《清算の開始原因》は、株式会社は、解散した場合(破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合等を除く。)(同条第1号)には、同法第2編第9章の定めるところにより、清算をしなければならない旨規定している。
ヘ 会社法第476条《清算株式会社の能力》は、同法第475条の規定により清算をする株式会社は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす旨規定している。
ト 会社法第481条《清算人の職務》は、清算人は、現務の結了(同条第1号)、債権の取立て及び債務の弁済(同条第2号)、並びに残余財産の分配(同条第3号)に係る職務を行う旨規定している。
チ 破産法第35条《法人の存続の擬制》は、他の法律の規定により破産手続開始の決定によって解散した法人又は解散した法人で破産手続開始の決定を受けたものは、破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなすと規定している。
リ 破産法第216条《破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定》第1項は、裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならないと規定している。
ヌ 破産法第217条《破産手続開始の決定後の破産手続廃止の決定》第1項は、裁判所は、破産手続開始の決定があった後、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、破産手続廃止の決定をしなければならない旨規定している。
ル 破産法第220条《破産手続終結の決定》第1項は、裁判所は、最後配当、簡易配当又は同意配当が終了した後、同法第88条《破産管財人の任務終了の場合の報告義務等》第4項に規定する債権者集会が終結したとき等は、破産手続終結の決定をしなければならない旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和29年6月○日に設立された法人である。
ロ 本件滞納法人は、平成13年3月○日に設立された株式会社である。
 なお、平成18年12月16日に商号を変更する前の本件滞納法人の商号は、G社であり、請求人の代表役員であるBは、平成13年9月20日までは本件滞納法人の代表取締役、同年10月10日までは本件滞納法人の取締役であった。
ハ 本件滞納法人は、請求人に対して、平成13年12月10日に○○○○円、同月20日に○○○○円、合計○○○○円を寄附(以下「本件寄附」という。)した。
ニ 本件滞納法人は、平成20年3月○日付の破産手続開始申立書により破産手続開始の申立てをした。
ホ 上記ニの申立てを受けたH地方裁判所は、平成20年4月○日午後5時、破産手続開始の決定をした。
ヘ H地方裁判所は、上記ホの破産手続について、平成20年7月○日に費用不足による破産手続廃止の決定をし、同決定は同年8月○日に確定した。

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2 争点

 主たる納税義務者である本件滞納法人に係る破産手続廃止決定の確定によって、本件滞納国税が消滅するか否か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 以下の理由から、本件滞納法人に係る破産手続廃止決定の確定によって、本件滞納国税が消滅するものではない。
イ 本件滞納法人の法人格について
(イ) 株式会社は、解散したとしても法人格が消滅するわけではなく、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまでは、なお存続するものとみなされる(会社法第476条)。そして、清算とは、まる1現務の結了、まる2債権の取立て及び債務の弁済、まる3残余財産の分配をいい(会社法第481条参照)、これらが全て終了し、法務省令で定める決算報告が株主総会で承認を受けたときに清算が結了し、法人格が消滅する(最高裁昭和59年2月24日第二小法廷判決参照)と解されることから、租税債務を履行していない間は、清算の目的の範囲内において、なお法人格は存続すると解するのが相当である(神戸地裁尼崎支部昭和62年4月8日判決参照)。
(ロ) 会社法第475条柱書は、株式会社は、同条各号に掲げる場合には、同法第2編第9章の定めるところにより清算をしなければならない旨を、また、同法第476条は、同法第475条の規定により清算をする株式会社(清算株式会社)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす旨を、それぞれ規定するところ、破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合、同条第1号括弧書によれば、同条柱書の規定は適用されず、その結果、同法第476条の規定も適用されない。これは、まる1破産手続は破産法の定めるところによって清算が行われるものであること、及びまる2破産手続の開始の決定によって解散した法人が破産手続による清算の目的の範囲内において破産手続終了まで存続するものであることによるものと解される。
 そして、破産法第9章は、破産手続の終了事由を規定しているところ、同時破産手続廃止決定(同法第216条)及び異時破産手続廃止決定(同法第217条)の場合は、破産手続開始の決定による株式会社の解散の効果(会社法第471条第5号)は存続すると解されることから、清算手続が破産手続によって行われなくなった以上、清算すべき財産(積極財産)の有無に関わらず、当該株式会社は会社法第2編第9章に定めるところにより清算しなければならず、清算の目的の範囲内で法人格が存続すると解するのが相当である。
(ハ) したがって、本件滞納法人の法人格は、異時破産手続廃止決定の確定後も、上記の目的の範囲内で存続している。
ロ 本件滞納法人の納税義務について
 上記イのとおり、本件滞納法人の法人格は、異時破産手続廃止決定の確定後も清算の目的の範囲内で存続しているから、本件滞納法人の納税義務は消滅していない。また、租税債権債務については、全て租税法律主義の建前がとられており、租税関係法規に基づいてのみ成立し消滅するものである(名古屋高裁金沢支部昭和44年12月22日判決参照)ことからしても、本件滞納法人の納税義務が消滅することはない。

(2) 請求人

 以下の理由から、本件滞納法人に係る破産手続廃止決定の確定によって、本件滞納国税は消滅する。
イ 本件滞納法人の法人格について
(イ) 本件滞納法人については、破産手続開始の決定後、裁判所が選任した破産管財人が残余財産の有無を調査した結果、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認められており、破産法第217条第1項の異時破産手続廃止決定時に何らの積極的な残余財産が存在していないことが判明している。
(ロ) 破産法第35条は、破産手続開始の決定によって解散した法人が「破産手続による清算の目的の範囲内において、破産手続が終了するまで存続するものとみなす」旨を規定しているところ、ここでいう清算とは、法人格の消滅前に、まる1現務を結了し、まる2債権を取り立て、債務を弁済し、まる3残余財産を分配する手続である(会社法第481条)。
 そうすると、破産法第35条は、破産手続開始の決定がされた法人に何らかの積極的な残余財産が存在することにより清算手続が必要となる限りにおいて、当該法人の法人格が存続することを規定しているものと解される。
 よって、破産管財人の調査によって当該法人に積極的な残余財産が存在しないことが判明している場合には、たとえ租税債権が存したとしてもそれを徴すべき積極財産がない以上、清算手続をする余地がなく、「清算の目的の範囲内において」法人を存続させる理由がないのであるから、当該法人の法人格は消滅する。
(ハ) したがって、本件滞納法人の法人格は、異時破産手続廃止決定の確定により、破産法第35条による破産手続終了の効果として直ちに消滅したものである。
ロ 本件滞納法人の納税義務について
 上記イのとおり、本件滞納法人の法人格は、異時破産手続廃止決定により消滅しているから、本件滞納法人の納税義務も当然に消滅する。

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4 判断

(1) 争点に対する判断

イ 法令解釈
 会社法第471条第5号は、株式会社は、破産手続開始の決定により解散する旨、同法第475条第1号は、株式会社は、解散した場合には、破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合等を除き、同法第2編第9章に定めるところにより清算をしなければならない旨、同法第476条は、清算をする株式会社は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす旨、それぞれ規定しているところ、ここにいう「清算」とは、同法第481条に規定する清算人の職務からみて、まる1現務の結了、まる2債権の取立て及び債務の弁済、まる3残余財産の分配をその内容とするものと解され、これら清算人の職務が全て終了して初めて、清算が結了するものと解される。
 そして、会社法第475条第1号が、株式会社は解散した場合には清算をしなければならない旨の規定から、破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除いたのは、破産管財人が、破産会社の破産手続において、破産法の定める残余財産の管理、換価、配当等の破産手続を行って、当該破産手続が終結すれば同条に規定する「清算」が行われたのと同じことになるからであって、破産法第35条が、会社法第476条と同様に、破産手続開始の決定によって解散した法人が破産手続による清算の範囲内において破産手続終了まで存続する旨を規定しているのも、同様の趣旨によるものと解される。
 そうすると、最後配当、簡易配当又は同意配当が終了した後に行う破産手続終結の決定(破産法第220条)によって破産手続が終了した場合には、破産会社の清算手続が終了したということができるが、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認められる場合に、まる1破産手続開始の決定と同時に行う破産手続廃止の決定(同法第216条の同時廃止)又はまる2破産手続開始の決定後に行う破産手続廃止の決定(同法第217条の異時廃止)によって破産手続が終了した場合には、破産手続が終結に至らないまま破産手続が終了していることになるから、会社法第475条に規定する「清算」が行われた場合と同じであるということはできない。
 したがって、これら破産手続廃止の決定により破産手続が終了した場合は、会社法第475条第1号に規定する「当該破産手続が終了していない場合」には当たらず、また、清算が破産手続によって行われなくなった以上、それ以前の破産手続開始の決定による株式会社の解散の効果として、当該株式会社は、同法第475条第1号の規定により清算をしなければならないこととなり、同法第476条の規定により、清算の目的の範囲内で法人格が存続するものと解される。
ロ 当てはめ
 上記1の(4)のホのとおり、本件滞納法人は、破産手続開始の決定を受けたため、会社法第471条第5号の規定により解散したものであるが、同法第475条第1号の規定により、当該破産手続が終了するまでの間は、別途清算手続をとる必要はなかった。
 しかしながら、上記1の(4)のヘのとおり、当該破産手続は、破産法第220条第1項が規定する配当等による終結によってではなく、同法第217条第1項が規定する異時廃止によって終了しているから、本件滞納法人については、会社法第475条第1号に規定する「当該破産手続が終了していない場合」には当たらない。
 また、清算が破産手続によって行われなくなったのであるから、本件滞納法人は、それ以前の破産手続開始の決定による解散の効果として、会社法第475条第1号の規定により清算をしなければならず、同法第476条の規定により、清算の目的の範囲内で、その法人格は存続しているものである。
 したがって、本件滞納法人の法人格が存続している以上、本件滞納法人を主たる納税義務者とする本件滞納国税は消滅しておらず、なお存続しているものである。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、上記3の(2)のとおり、本件滞納法人については、裁判所が選任した破産管財人が残余財産の有無を調査した結果、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認められており、破産法第217条第1項の異時破産手続廃止決定時に何らの積極的な残余財産が存在していないことが判明しているのであって、清算手続をする余地がなく、清算の目的の範囲内において法人格を存続させる理由がないことから、本件滞納法人の法人格は消滅しており、本件滞納法人の主たる納税義務も当然に消滅している旨主張する。
 しかしながら、本件滞納法人の法人格が存続していることについては、上記ロで述べたとおりであるから、請求人の主張はその前提を欠くものであって、採用することはできない。
 なお、破産手続廃止決定は、破産財団をもって、配当や破産手続終結に至るまでの手続費用を支弁するのに不足すると認められたことを意味するものにすぎず、破産手続廃止決定がされたという事実のみで、清算すべき財産がないと認めることはできず、このことからしても、請求人の主張はその前提を欠くものであって、採用することはできない。

(2) 本件納付告知処分について

 本件滞納法人の破産管財人が作成した本件滞納法人の破産手続開始決定の日における財産目録、及び同日から破産手続廃止決定の日の前日までの収支計算書によれば、破産手続開始決定日における唯一の資産である現金200,000円が全額管財人報酬に充てられたものと認められ、その後、本件納付告知処分の時点までの間に、本件滞納法人の財産が増加した事実は認められないことからすると、本件滞納法人については、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められ、本件寄附がなければ本件滞納国税を徴収できたことは明らかであるから、上記徴収不足は本件寄附に基因するものと認められる。
 また、上記1の(4)のハのとおり、本件寄附は、本件滞納国税の法定納期限(平成14年5月31日)の1年前の日以後である平成13年12月10日及び同月20日に行われているところ、昭和29年6月○日に設立された宗教法人である請求人が、本件寄附に対応して本件滞納者に対して物品あるいは役務の提供をした事実は認められないから、本件寄附は請求人に対する無償譲渡であると認められる。
 そして、本件納付告知処分に係る納付すべき限度の額は、請求人が本件寄附により受けた利益が現に存する額となるところ、当審判所の調査の結果によっても、上記1の(4)のハの本件寄附の金額○○○○円を下回ることとなる事情は認められない。
 以上のとおり、本件納付告知処分は、徴収法第39条に規定する要件を満たしているところ、上記1の(2)のロのとおり、徴収法第32条第1項(上記1の(3)のイ)の規定に基づき行われていることが認められるから、適法である。

(3) 本件各差押処分について

 本件各差押処分は、上記1の(2)のニ及びホのとおり、本件滞納国税について平成24年4月25日付の納付催告書を発した日(同日)から起算して10日を経過した日後に行われており、徴収法第54条《差押調書》、同法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》及び同法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の各規定に基づき行われていることが認められるから、適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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