(平成25年8月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、納税者D(以下「本件滞納者」という。)が審査請求人(以下「請求人」という。)に対してした不動産の贈与及び協議離婚の際の不動産等の財産分与について、いずれも国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡……、債務の免除その他第三者に利益を与える処分」に該当するとして、請求人に対して第二次納税義務の各納付告知処分をしたのに対し、請求人が、当該贈与及び当該財産分与はいずれも「無償又は著しく低い額の対価による譲渡……、債務の免除その他第三者に利益を与える処分」に該当しないと主張して、当該各納付告知処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成8年6月24日から平成19年5月24日までに、本件滞納者の別表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、E税務署長及びF税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成24年3月27日付で、請求人に対し、徴収法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、まる1本件滞納国税のうち別表記載の番号1ないし3の滞納国税を徴収するため、本件滞納者から請求人への不動産の贈与が同法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡…、債務の免除その他第三者に利益を与える処分」に該当するとして、まるア納付すべき限度の額を○○○○円、まるイ納付の期限を平成24年4月27日、まるウその他必要な事項を記載した納付通知書により、また、まる2本件滞納国税を徴収するため、本件滞納者から請求人への不動産等の財産分与が同法第39条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡…、債務の免除その他第三者に利益を与える処分」に該当するとして、まるア納付すべき限度の額を○○○○円、まるイ納付の期限を平成24年4月27日、まるウその他必要な事項を記載した納付通知書により、第二次納税義務の各納付告知処分をした。
ハ 請求人は、平成24年5月25日、上記ロの各納付告知処分に不服があるとして、異議申立てをした。
ニ 原処分庁は、平成24年8月8日付で、上記ロのまる1の納付告知処分に係る納付すべき限度の金額○○○○円のうち○○○○円、及び、上記ロのまる2の納付告知処分に係る納付すべき限度の金額○○○○円のうち○○○○円を、それぞれ取り消した(以下、上記各一部取消し後の当該各納付告知処分を併せて「本件各納付告知処分」という。)。
ホ 異議審理庁は、平成24年8月10日付で、棄却の異議決定をし、その決定書謄本は同月13日に請求人に送達された。
ヘ 請求人は、平成24年9月12日、異議決定を経た後の本件各納付告知処分になお不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 第二次納税義務関係
(イ) 徴収法第32条第1項は、国税局長(同法第184条《国税局長が徴収する場合の読替規定》の規定による読み替え後のもの。)は、納税者の国税を第二次納税義務者から徴収しようとするときは、その者に対し、徴収しようとする金額、納付の期限その他必要な事項を記載した納付通知書により告知しなければならない旨規定している。
(ロ) 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償又は著しく低い額の対価による譲渡(担保の目的でする譲渡を除く。)、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族等であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
ロ 徴収の所轄庁関係
(イ) 通則法第43条第1項は、国税の徴収は、その徴収に係る処分の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定している。
(ロ) 通則法第43条第3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができる旨規定している。
(ハ) 財務省設置法第23条《国税局等》第4項は、国税局の名称、位置及び管轄区域は、政令で定める旨規定し、財務省組織令第96条《国税局の名称、位置及び管轄区域》は、B国税局の管轄区域をd県、e県、f県及びg県と、G国税局の管轄区域をh県、i県、j県、k県、m県及びn県と規定している。
(ニ) 財務省設置法第24条《税務署》第2項は、税務署の名称、位置、管轄区域、所掌事務及び内部組織は、財務省令で定める旨規定し、財務省組織規則第544条《名称、位置及び管轄区域》は、k県a市を管轄区域とする税務署はH税務署である旨規定している。
ハ 所得税の納税地関係
(イ) 所得税法第15条《納税地》第1号は、所得税の納税地は、納税義務者が国内に住所を有する場合、その住所地とする旨規定している。
(ロ) 民法第22条《住所》は、各人の生活の本拠をその者の住所とする旨規定している。

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2 判断

(1) はじめに

 通則法第43条第1項は、国税の徴収は、その徴収に係る処分の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定し、また、同条第3項は、国税局長は、必要があると認めるときは、その管轄区域内の地域を所轄する税務署長からその徴収する国税について徴収の引継ぎを受けることができる旨規定しているところ、本件においては、本件各納付告知処分時における本件滞納国税の徴収の所轄庁が原処分庁であるか否かが問題となり、この問題は、本件各納付告知処分時における本件滞納国税の納税地がいずこにあるかという問題に帰着する。
 そして、本件滞納国税は所得税であるところ、所得税法第15条第1号は、所得税の納税地は、納税義務者が国内に住所を有する場合、その住所地とする旨規定していることから、本件各納付告知処分時における本件滞納国税の徴収の所轄庁が原処分庁であるか否かの問題は、結局、本件各納付告知処分時における本件滞納者の住所がいずこにあるかという問題に帰着する。

(2) 法令解釈

イ 通則法第43条第1項は、国税の徴収の所轄庁を規定しているところ、同項の「徴収」とは、国税を納付させるための一切の行為をいう。
 そして、第二次納税義務の納付告知処分は、形式的には独立の課税処分ではあるけれども、実質的には、本来の納税義務者と同一の納税上の責任を負わせても公平を失しないような特別の関係にある第三者を本来の納税義務者に準ずるものとみてこれに主たる納税義務についての履行責任を負わせるものにほかならない(最高裁昭和50年8月27日第二小法廷判決・民集29巻7号1226頁)から、通則法第43条第1項の「徴収に係る処分」に含まれると解するのが相当である。
ロ 所得税法第15条第1号は、納税義務者が国内に住所を有する場合、その住所地を納税地とする旨規定しているところ、法の文言と趣旨とに照らすと、同号にいう住所は、民法第22条にいう住所と同一の意義を有するものであることは現行法体系上明らかであり、各人の生活の本拠であるというべきである。
 そして、生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(最高裁平成9年8月25日第二小法廷判決・集民184号1頁参照)。

(3) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件滞納者の住民票上の住所について
 本件滞納者は、平成18年3月8日、g県p市長に対し、同月4日にe県q市r町○−○からg県p市s町○−○(以下、同所に所在する住居を「p市住居」という。)に転入した旨の届出をした。
 なお、本件滞納者は、平成25年4月1日、k県t市長に対し、同日にp市住居からk県t市u町○−○(以下、同所に所在する住居を「t市住居」という。)に転入した旨の届出をした。
ロ 本件滞納者の住所が記載された書面について
(イ) 本件滞納者に対する平成22年6月3日付の年金振込通知書は、k県a市b町○−○に所在する請求人の住居(以下「a市住居」という。)に転送されていた。
(ロ) J病院長に対して提出された平成24年5月23日付の入院保証書には、本件滞納者の現住所として、a市住居の所在地が記載されていた。
ハ 原処分庁の徴収担当職員がa市住居の内部を確認した際の状況等について
 原処分庁の徴収担当職員は、平成22年8月12日、a市住居の一室において、ベッド、本件滞納者名義の通帳、及び年配の男性用の洋服を確認した。当該通帳は、同室内のたんすの引き出しの中に、また、当該洋服は、同室内のクローゼットの中にあった。
 なお、このとき、原処分庁の徴収担当職員が本件滞納者及び請求人に聴取したところ、本件滞納者及び請求人は、本件滞納者は上記一室において起居している旨をそれぞれ申述した。
ニ p市住居における電気の使用状況等について
 本件滞納者は、平成18年7月13日から平成24年5月9日までの間、K社との間で、p市住居の電気需給契約をしていた。
 p市住居の平成22年1月ないし平成24年5月の各月の電気の使用量は、いずれも0キロワット時であった。

(4) 本件滞納者の答述の要旨及び当該答述の信用性について

イ 本件滞納者は、平成25年6月25日、当審判所に対し、まる1平成20年の年末頃から平成25年4月1日にt市住居に転居するまでの間、a市住居において請求人と同居していた旨、まる2上記まる1のとおり同居することとなった経緯は、本件滞納者が平成20年11月28日からL病院神経内科に入院するなどして健康面に不安があったため、退院後、a市住居において請求人と同居していたものである旨を答述した。
ロ まる1請求人提出資料によれば、まるア本件滞納者が、平成20年11月28日から7日間、L病院神経内科に入院を予定していたこと、及び、まるイ平成20年12月1日から同月8日までの間は同病院神経内科に入院していたことが認められ、このことに加え、まる2上記(3)のハのとおり、平成22年8月12日、まるア原処分庁の徴収担当職員が、本件滞納者が起居する居室を確認し、まるイ本件滞納者及び請求人が、原処分庁の徴収担当職員に対し、本件滞納者及び請求人がa市住居で同居している旨を申述していたこと、まる3上記(3)のロのとおり、まるア平成22年6月の時点の本件滞納者宛の郵便物がa市住居に転送され、また、まるイ平成24年5月の時点の病院への提出書面に本件滞納者の現住所としてa市住居が記載されていたこと、まる4上記(3)のニのとおり、p市住居の平成22年1月ないし平成24年5月の各月の電気の使用量は,いずれも0キロワット時であったこと、まる5まるア上記(3)のニのとおり、本件滞納者は平成24年5月9日にp市住居の電気需給契約を終了し、まるイ上記(3)のイのとおり、平成25年4月1日にt市住居への転入手続をとっていることを併せ考えると、本件滞納者の上記答述は信用することができる。

(5) 本件各納付告知処分時における本件滞納者の住所について

イ まる1上記(3)のロ及びハの各事実、並びに、まる2信用性が認められる上記(4)のイの本件滞納者の答述によれば、本件滞納者は、平成20年の年末頃からa市住居を起居の場所として日常生活を営むようになり、平成25年4月頃までの間、a市住居において日常生活を営んでいたものと認められる。
 他方、上記(3)のイのとおり、本件滞納者は、平成18年3月4日から平成25年4月1日までの間、p市住居を住民票上の住所としていたものであるが、上記(3)のニのとおり、平成22年1月ないし平成24年5月の各月の電気の使用量がいずれも0キロワット時であることからすると、客観的にみて、本件滞納者は、少なくともこの間、p市住居を日常生活の場所として全く利用していなかったものと認められる。
 そして、本件滞納者について、平成20年の年末頃から平成25年4月頃までの間、p市住居又はa市住居以外の他の場所で日常生活を営んでいたことをうかがわせる証拠は見当たらない。
 これらの事実及び証拠関係を併せ考えると、a市住居は、平成20年の年末頃から平成25年4月頃までの間、客観的にみて、本件滞納者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心としての実体を具備していたものと認められる。
 したがって、本件各納付告知処分時における本件滞納者の住所は、a市住居である。
ロ 原処分庁は、まる1本件滞納者が、F税務署長に対して、まるア平成21年3月17日、住所をp市住居とする平成20年分の所得税の確定申告書を提出し、また、まるイ平成25年3月18日、住居をp市住居とする平成24年分の所得税の確定申告書を提出している事実、及び、まる2本件滞納者が所得税法第20条《納税地の異動の届出》に規定されている納税地の異動の届出をしていない事実からすると、本件各納付告知処分時における本件滞納者の住所は、p市住居である旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のロで述べたとおり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものであるところ、上記(3)のニで述べたとおり、p市住居の平成22年1月ないし平成24年5月の各月の電気の使用量がいずれも0キロワット時であることからすると、客観的にみて、本件各納付告知処分の時点において、p市住居が本件滞納者の生活の本拠たる実体を具備していたと認めることはできない。
 なお、本件滞納者は、当審判所に対して、本件滞納者がF税務署長に対して所得税の確定申告をした理由について、住民票上の住所に基づき所得税の申告をしなければならないと認識していたためである旨答述しており、当該答述は特段不合理なものではないから、本件滞納者が所得税の確定申告書に住所をp市住居と記載してF税務署長に対して確定申告をしたことが、p市住居が本件滞納者の生活の本拠たる実体を具備していたことを根拠付ける事実であるとみることはできない。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 本件各納付告知処分について

イ 上記(5)のイのとおり、本件各納付告知処分時における本件滞納者の住所はa市住居であったと認められる。
 そして、本件滞納国税である所得税については、納税義務者が国内に住所を有する場合、その住所地を納税地とするものである(所得税法第15条第1号)から、本件各納付告知処分時における本件滞納国税の納税地は、a市住居の住所地である。
ロ また、上記(2)のイのとおり、通則法第43条第1項の「徴収に係る処分」には第二次納税義務の納付告知処分も含まれると解するのが相当であるから、第二次納税義務の納付告知処分をする権限を有する税務署長は、その処分の際における滞納者の滞納国税の納税地を所轄する税務署長である。
 そして、本件各納付告知処分時における本件滞納国税の納税地であるa市住居の住所地を所轄する税務署長はH税務署長である(財務省組織規則第544条)から、本件滞納国税の徴収の所轄庁は、H税務署長である。
 しかるに、上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、H税務署はB国税局の管轄区域内の地域を所轄する税務署ではないので、原処分庁はH税務署長から徴収の引継ぎを受けることができない(通則法第43条第3項)。
ハ したがって、原処分庁は、本件各納付告知処分時において、本件滞納国税について同処分をする権限を有しないのにこれを行ったものであるから、本件各納付告知処分は、その余の点について判断するまでもなく、違法である。

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