(平成25年9月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)が納付すべき国税を徴収するためとして、請求人が本邦を出国した後に、請求人がJ銀行に対して有する普通預金の払戻請求権等の差押処分(原処分)をしたところ、請求人が、まる1まるア原処分庁が当該差押処分によって徴収しようとする国税の決定処分に係る通知書及びまるイ当該差押処分に係る通知書のいずれも受け取っていない、まる2当該差押処分の対象とされた当該普通預金の払戻請求権等は生活に必要な資金であり、差押禁止財産に該当するなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成23年2月17日、請求人が納付すべき別表1記載の国税(以下「本件国税」という。)を徴収するためとして、国税徴収法第62条《差押えの手続及び効力発生時期》第1項の規定に基づき、第三債務者(J銀行(取扱店u支店))に対する債権差押通知書の送達により、同月14日付の別表2記載の債権(普通預金の払戻請求権等)の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ロ 請求人は、平成24年7月27日、本件差押処分を不服として、異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をした。
 本件異議申立てに係る異議申立書(以下「本件異議申立書」という。)には、まる1異議申立てに係る処分、及びまる2異議申立てに係る処分があったことを知った年月日(当該処分に係る通知を受けた場合には、その受けた年月日)の各記載がなかった。
ハ 本件異議申立てがされたH税務署長(以下「本件異議審理庁」という。)は、本件異議申立書に記載の不備があると認め、平成24年8月10日付の「異議申立ての補正要求書」により、請求人に対し、まる1補正の期限を同月31日までと定めて、まる2まるア原処分名等の記載、及びまるイ異議申立てに係る処分があったことを知った具体的年月日の記載をするよう補正を求めた(上記まるア及びまるイの補正を求めた事項を、以下「本件補正事項」という。)。
 上記補正要求書は、平成24年8月27日、フランス共和国(以下「フランス」という。)s市t町○−○の請求人の住所(以下「フランス住所」という。)に送付され、請求人に送達された。
ニ 請求人は、上記ハの補正の期限である平成24年8月31日までに本件補正事項に係る補正をしなかったことから、本件異議審理庁は、本件異議申立ては不適法であるとして、同年9月20日付で却下の異議決定をし、当該異議決定に係る決定書謄本は、同年10月2日、フランス住所に送付され、請求人に送達された。
ホ 請求人は、平成24年10月22日、上記ニの異議決定を経た後の本件差押処分になお不服があるとして、審査請求(以下「本件審査請求」という。)をした。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年8月2日にv県f市g町○−○(以下「f市住居」という。)へ転入し、その後、f市住居に居住していた。
ロ 請求人は、まる1平成21年5月28日、v県f市長に対し、同月29日にf市住居からv県h市i町○−○(以下「h市住居」という。)へ転出予定である旨の届出をするとともに、まる2同年6月1日、v県h市長に対し、同年5月29日にh市住居へ転入した旨の届出をした。
 v県f市長は、平成21年6月2日、v県h市長からの転入通知により上記まる1の転出を確認し、請求人の住民票を消除した。
ハ 請求人は、平成21年6月23日、v県h市長に対し、同月25日にフランスへ転出予定である旨の届出をした。
 v県h市長は、平成21年6月25日、請求人の住民票を消除した。
ニ 請求人は、平成21年6月25日に本邦から出国し、その後フランスに居住して本邦には帰国しておらず、本件差押処分の時点において本邦には居住していなかった。

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2 判断

(1) 本件審査請求の適法性について

イ はじめに
 原処分庁は、請求人は適法な異議申立てをしていないことから、通則法第75条第3項に基づき審査請求をすることはできず、本件審査請求は不適法なものとして却下されるべきである旨主張するので、まず、本件審査請求が適法であるか否かについて判断する。
 この問題は、本件異議申立てが適法であるか否かという問題に帰着し、具体的には、まず、本件異議申立書の記載の不備が軽微なものであるとして、本件異議審理庁が通則法第81条第2項の規定に基づき職権で補正をしなければならなかったか否かが問題となる。
ロ 法令解釈
(イ) 異議申立書の必要的記載事項について
 通則法第81条第1項は、各号において、異議申立書の必要的記載事項を規定する。
 通則法第81条第1項第1号が異議申立てに係る処分を必要的記載事項とする趣旨は、異議申立ての対象である処分を特定する必要があるためであると解され(当該異議申立てをした申立人に対して複数の行政処分がされている場合もある。)、また、同項第2号が異議申立てに係る処分があったことを知った年月日(当該処分に係る通知を受けた場合には、その受けた年月日)を必要的記載事項とする趣旨は、異議審理庁において当該異議申立てが適法な期間内にされたかどうかを知り得るためであると解される。
(ロ) 異議申立ての補正について
A 通則法第81条第2項前段は、異議審理庁は、異議申立てが国税に関する法律の規定に従っていないもので補正することができるものであると認めるときは、相当の期間を定めて、その補正を求めなければならない旨規定する。
 上記規定は、異議申立てが国税に関する法律の規定に従っていないために不適法なものであっても、補正により当該異議申立てを適法とすることが可能なものについては、異議審理庁に対して、直ちに当該異議申立てを却下することなく、相当の期間を定めて、申立人に対して当該補正を求めることを義務付けたものと解される。
B また、通則法第81条第2項後段は、同項前段の場合において、不備が軽微なものであるときは、異議審理庁は、職権で補正することができる旨規定する。
 上記規定は、異議申立ての不備が軽微である場合に、簡易な手続で補正ができるよう、異議審理庁が、異議申立人に対して殊更補正を求めることなく、職権で補正をすることとしたものと解され、上記Aのとおりの通則法第81条第2項前段の規定の趣旨からすれば、異議審理庁は、異議申立ての不備が軽微である場合には、職権で補正をしなければならないものと解される。
 そして、上記のとおりの職権補正の趣旨からすると、異議申立ての不備が軽微であるか否かは、当該異議申立人の意思を容易に推測することができ、かつ、審理の障害とならないような不備であるか否かにより決すべきものと解される。
C したがって、異議申立てが国税に関する法律の規定に従っていないもので補正することができるものと認められ、かつ、その不備が軽微である場合、異議審理庁は、当該異議申立人に対して補正を求めることなく、職権で補正をしなければならない。
D ところで、異議申立てを却下した異議決定につき当該異議申立てを不適法であるとした判断が誤りであるときには、原処分につき通則法第75条第3項に基づく審査請求が許されなければならないから、却下の異議決定につき不服のある異議申立人は、異議決定の取消しの訴えを経由することなく、原処分につき審査請求をすることができると解される。
 そして、却下の異議決定がされた原処分についての審査請求を受けた国税不服審判所長は、当該異議決定について、異議審理庁が異議申立ての不備について職権補正をしなければならない場合であるにもかかわらず当該補正をすることなく当該異議申立てを却下したものであると判断したときは、当該異議申立てについては当該補正がされたものとして、その後の審理・判断をしなければならないと解される。
ハ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人に対する滞納処分について
 原処分庁が本件国税を徴収するためにした滞納処分は、本件差押処分のみである。
(ロ) 請求人に対する本件国税の決定処分及び賦課決定処分に係る通知の状況等について
 H税務署長は、平成20年6月27日、請求人に対して、平成17年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(本件国税の決定処分及び賦課決定処分。いわゆるFX取引による雑所得の無申告事案に係るもの。)をした。
 上記決定処分及び賦課決定処分に係る通知書(以下「本件課税処分通知書」という。)の送達は、請求人が不在であったことから、平成20年6月27日午後1時18分、f市住居に本件課税処分通知書を差し置く方法により行われた。
(ハ) 請求人に対する本件差押処分に係る通知の状況等について
A 原処分庁は、平成22年6月9日頃、同日付の請求人の住民票(v県f市長作成に係るもの)により、請求人が平成21年5月29日にh市住居へ転出した旨の届出がされていることを把握した。
B 原処分庁は、平成22年6月22日頃、同日付の請求人の住民票(v県h市長作成に係るもの)により、まる1請求人が平成21年6月25日にフランスへ転出予定である旨の届出がされていること、まる2同日請求人の住民票が消除されていることを把握した。
C 原処分庁は、平成22年8月23日、請求人に対する「未納国税の納付について」と題する書面をf市住居に宛てて発送したが、当該書面は、同月26日、宛所に尋ね当たらずとの理由により返戻された。
D 原処分庁は、平成22年10月18日、K入国管理局長からの回答により、まる1請求人が平成21年6月25日に本邦から出国した記録があること、まる2その後、請求人が平成22年10月6日までの間に帰国した記録がないことを把握した。
 なお、原処分庁は、上記回答を受けた後平成23年3月2日にK入国管理局長から回答を受けるまでの間は、平成22年10月7日以降の請求人の出帰国記録を把握していなかった。
E 原処分庁は、平成23年2月16日、請求人に対して、同月14日付の本件差押処分に係る差押調書謄本(以下「本件差押調書謄本」という。)を、通常の取扱いによる郵便(郵便法第44条《特殊取扱》の規定による特殊取扱いとされる郵便(速達の取扱いによる郵便を除く。)以外のもの。以下同じ。国税通則法基本通達第12条関係6《通常の取扱いによる郵便又は信書便》(1)参照。)により、h市住居に宛てて発送した。
 本件差押調書謄本は、原処分庁に返戻されていない。
F 日本郵便株式会社は、国内郵便物の国外転送を行っていない。
(ニ) 請求人が原処分庁所属の徴収担当職員に対してした本件差押処分に係る申立ての状況等について
A 原処分関係資料には、平成24年6月29日、まる1請求人が、H税務署に電話をかけ、原処分庁所属の徴収担当職員に対して、まるア現在フランスに居住している旨を申し立てるとともに、まるイ差押えがされたようであるがどうなっているのかと質問をした旨の記録、まる2原処分庁所属の徴収担当職員が、上記電話で、請求人に対して、差押中である旨を伝えたとの記録、まる3請求人が、上記電話で、差押えの前に通知しなければいけないのではないかと申し立てた旨の記録がある。
B 原処分関係資料には、平成24年7月10日、請求人が、H税務署に電話をかけ、本件課税処分通知書及び本件差押調書謄本の送達を受けていないと申し立てた旨の記録がある。
C 原処分関係資料には、平成24年10月2日、請求人が、H税務署に電話をかけ、本件異議審理庁の徴収担当職員から、差押えを知った時期について尋ねられたのに対して、平成24年の3月か4月頃ではなかったかと回答した旨の記録がある(なお、平成24年3月ないし4月頃であることの根拠に係る回答がされた旨の記録はない。)。
D 原処分関係資料には、本件差押処分以後平成24年6月29日までの間に、請求人又は請求人の関係者から、原処分庁に対して、本件差押処分に係る問合せ等がされた記録はない。
ニ 請求人が本件差押処分の通知を受けたと認められるかについて
(イ) 通則法第12条第2項は、通常の取扱いによる郵便によって同条第1項に規定する書類(国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類)を発送した場合には、その郵便物は、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する旨規定する。
(ロ) 原処分庁は、平成23年2月16日、本件差押調書謄本を、通常の取扱いによる郵便により、h市住居に宛てて発送しており(国税徴収法第54条《差押調書》第2号)、本件差押調書謄本は、原処分庁に返戻されていない(上記ハの(ハ)のE)。
 しかしながら、まる1請求人は、平成21年6月25日に本邦から出国しており、本件差押処分の時点において本邦には居住していなかったこと(上記1の(4)のニ)、まる2日本郵便株式会社は国内郵便物の国外転送を行っていないこと(上記ハの(ハ)のF)からすると、請求人が本件差押調書謄本を受領したであろうと推認することは、経験則に反し妥当ではなく、まる3他に請求人が本件差押調書謄本を受領したことをうかがわせる事情も認められない。
 したがって、通則法第12条第2項により、本件差押調書謄本が請求人に送達されたものと推定することはできず、請求人が本件差押処分の通知を受けたとは認められない。
ホ 請求人が本件差押処分があったことを知った日はいつであると認められるかについて
(イ) 請求人は、本件差押処分があったことを知った日は平成24年6月25日であると主張し、当審判所に対し、本件差押処分があったことを知った経緯等については、要旨、まる1同月24日、J銀行u支店に電話をかけ、本件差押処分がされたと知った、まる2同月25日、H税務署に電話をかけ、課税部門及び徴収部門の各担当者に対し、本件差押処分の経緯を確認した、まる3同月29日、H税務署に電話をかけ、徴収部門の担当者と話をしたというものである旨回答する(なお、請求人は、当審判所に対して提出した同年12月11日付「審査請求書の記載事項についての回答書」において上記回答を記載しているところ、当該回答書には、まる2の電話の際の課税部門の担当者の発言内容等については記載されているが、徴収部門の担当者の発言内容等については記載されておらず、また、まる3の電話の際の徴収部門の担当者の発言内容については記載されている。)。
(ロ) しかしながら、原処分関係資料には、本件差押処分以後平成24年6月29日までの間に、請求人が原処分庁所属の徴収担当職員に対して本件差押処分に係る問合せをした記録はなく(上記ハの(ニ)のD)、請求人の当審判所に対する上記(イ)の回答書においても、同月25日の電話の際の原処分庁所属の徴収担当職員の発言内容等に関する記載はない。また、当審判所の調査の結果によっても、同月24日に、請求人がJ銀行u支店に電話をかけた事実は認められない。
 そうすると、請求人が本件差押処分を知った日が平成24年6月25日であると認めることはできない。
(ハ) 上記(イ)の請求人の回答内容のうち、まる3の点(請求人が平成24年6月29日に原処分庁所属の徴収担当職員と電話で話をしたこと)については、原処分関係資料によってもこれを認めることができる(上記ハの(ニ)のA)ところ、原処分関係資料には、この電話のとき、請求人が差押えがされたようであるがどうなっているのかと質問をし、原処分庁所属の徴収担当職員が差押中である旨を伝えたとの記録があり(上記ハの(ニ)のA)、その記録内容には特に不自然な点は見当たらないことからすると、同日、請求人と原処分庁所属の徴収担当職員との間の電話で、上記記録のとおりの会話がされたものと認められる。
 そして、「差押えがされたようであるがどうなっているのか」との請求人の発言の内容からすると、請求人は、上記の平成24年6月29日の電話の前の直近の時期に初めて、本件差押処分がされたようであると知ったことがうかがわれ、そうすると、同日の電話において、原処分庁所属の徴収担当職員の「差押中である」旨の回答を受けて初めて、本件差押処分がされたことを明確に知ったものと推認するのが相当である。
(ニ) なお、原処分関係資料には、平成24年10月2日に、請求人が、本件異議審理庁所属の徴収担当職員に対して、差押えを知った時期は平成24年3月か4月頃ではなかったかと申述した旨の記録がある(上記ハの(ニ)のC)。
 しかしながら、上記申述は、内容自体が非常に曖昧なものである上、上記原処分関係資料には、請求人が、差押えを知った時期が平成24年3月ないし4月頃であることについて何らかの根拠を申述した記録はない(上記ハの(ニ)のC)。
 そうすると、仮に請求人が上記のとおり差押えを知った時期は平成24年3月か4月頃ではなかったかとの申述をしたと認められるとしても、そのことをもって直ちに、請求人が本件差押処分を知った日が平成24年3月ないし4月頃であると認めることまではできない。
 加えて、一般に、自己の預金債権に差押えがされたようであると知った場合、速やかに当該差押処分をした処分庁に問い合わせるのが自然な行動といえるところ、請求人が平成24年3月ないし4月頃に原処分庁に本件差押処分の問合せをした記録はなく(上記ハの(ニ)のD)、請求人自身もその時期にかかる行動をとった旨の申立てはしていない(上記(イ))。そうすると、請求人が同年3月ないし4月頃に原処分庁に本件差押処分の問合せをした事実を認めることはできず、このことを前提にすると、請求人は、同年3月ないし4月頃に本件差押処分の存在を知った場合に通常とるであろうと考えられる行動をとっていないこととなり、このことからしても、請求人が本件差押処分を知った日が同年3月ないし4月であるとは認めることはできない。
(ホ) 以上からすると、請求人が本件差押処分があったことを知った日は、平成24年6月29日であると認められる。
ヘ 本件異議申立てに関し、本件異議審理庁は職権補正をしなければならなかったか否かについて
(イ) 本件補正事項に係る本件異議申立書の各記載の不備は、通則法第81条第1項第1号及び第2号の必要的記載事項を欠くものであるが、補正することが可能なものである。
(ロ) そして、上記ハの(イ)のとおり、原処分庁が本件国税を徴収するためにした滞納処分は本件差押処分のみであるから、本件異議申立てに係る処分が本件差押処分であることは容易に特定することができるのであって、本件補正事項のうちまるア原処分名等の記載の不備は、請求人の意思を容易に推測することができ、かつ、審理の障害とならないような不備であるといえる。
 したがって、本件補正事項のうちまるア原処分名等の記載の不備は、軽微なものである。
(ハ) また、まる1原処分庁は、請求人の住民票が消除されていると把握しながら、当該消除された住民票にフランスへの転出前の住所地として記載されているh市住居に宛てて本件差押調書謄本を発送していること(上記ハの(ハ)のB及びE)、まる2平成24年6月29日に、請求人が、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、フランスに居住している旨や、差押えの前に通知しなければいけないのではないかと申し立てており、その旨の記録があること(上記ハの(ニ)のA)、まる3同年7月10日に、請求人が、原処分庁所属の徴収担当職員に対し、本件差押調書謄本の送達を受けていない旨申し立てており、その旨の記録があること(上記ハの(ニ)のB)からすると、本件異議審理庁においても、通則法第12条第2項の規定により本件差押調書謄本が請求人に送達されたものと推定することはできないことは容易に認識することができたというべきである。これに、まる4平成24年6月29日に請求人及び原処分庁所属の徴収担当職員の間で交わされた会話の内容(上記ホの(ハ))を併せ考えると、本件異議審理庁においても、請求人が同日の電話において本件差押処分がされたことを明確に知ったものと容易に推認することができ、請求人が本件差押処分があったことを知った日が同日であることは容易に認定することができたというべきであり、本件補正事項のうちまるイ異議申立てに係る処分があったことを知った具体的年月日の記載の不備も、請求人の意思を容易に推測することができ、かつ、審理の障害とならないような不備であるといえる。
 したがって、本件補正事項のうちまるイ異議申立てに係る処分があったことを知った具体的年月日の記載の不備も、軽微なものである。
(ニ) 以上からすると、本件異議審理庁は、本件異議申立てに関し、本件補正事項について職権で補正をしなければならなかったものである。
ト 本件異議申立てに関し、通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」があるか否かについて
(イ) 本件異議申立ては、本件差押処分があった日(平成23年2月17日)の翌日から起算して1年を経過した後の平成24年7月27日にされていることから、通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」があると認められなければ、不服申立期間を徒過した異議申立てとなる。そこで、本件異議申立ての適法性を判断するに当たっては、次に、通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」が問題となる。
(ロ) 通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」とは、不服申立制度全体の目的及び法的安定性の要請を考慮して、不服申立期間の例外を認めることが社会通念上正当であるとするような理由をいうと解すべきであり、同条第3項の「やむを得ない理由」よりも狭い概念であって、少なくとも、申立人が不服申立てをしようとしても、その責めに帰すべからざる事由により、不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情の存在することが必要であるというべきである。
(ハ) 本件において、請求人は本件差押処分の通知を受けていなかったと認められる(上記ニ)上、本件差押処分の時点において本邦から出国しており(上記1の(4)のニ)、本件差押処分があったことを知った日が平成24年6月29日であると認められること(上記ホ)からすると、本件差押処分があった日(平成23年2月17日)の翌日から起算して1年を経過する前に本件異議申立てをすることは客観的に不可能であり、これは請求人の責めに帰すべからざる事由に基づくものであるから、通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」があると認められる。
チ 本件異議申立ての適法性について
 以上のとおり、まる1本件異議審理庁は、本件補正事項について職権で補正をしなければならなかったものであり、また、まる2請求人については、通則法第77条第4項ただし書の「正当な理由」があると認められるから、本件異議申立ては、適法である。
リ 本件審査請求の適法性について
 以上のとおりであるから、本件審査請求は適法である。

(2) 本件差押処分の適法性について

イ はじめに
(イ) 通則法第43条第1項は、国税の徴収は、その徴収に係る処分の際におけるその国税の納税地を所轄する税務署長が行う旨規定していることから、本件においては、本件差押処分の時点における本件国税の徴収の所轄庁が原処分庁であるか否かが問題となる。この問題は、本件差押処分の時点における本件国税の納税地がいずこにあるかという問題に帰着する。
(ロ) ところで、本件国税は平成17年分の所得税(無申告加算税及び延滞税を含む。)であるところ、所得税法第15条は、所得税の納税地について、納税義務者が国内に住所を有する場合に該当するか等に応じ、異なる納税地を規定している。
 本件差押処分の時点における本件国税の徴収の所轄庁が原処分庁であるか否かを判断するに当たっては、本件差押処分の時点に至るまでの請求人の住所がいずこにあるかを認定した上で、所得税法第15条の規定の適用をしなければならない。
ロ 法令解釈
(イ) 所得税の納税地について
A 所得税法第15条は、所得税の納税地について、まる1納税義務者が国内に住所を有する場合には、その住所地とする旨(同条第1号)、まる2納税義務者が国内に住所を有せず、居所を有する場合には、その居所地とする旨(同条第2号)、まる3納税義務者が、同条第1号及び同条第2号に掲げる場合を除き、所得税法第164条第1項第1号から第3号までに掲げる非居住者に該当する場合には、その国内において行う事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地とする旨(同法第15条第3号)、まる4同条第1号又は第2号の規定により納税地を定められていた納税義務者が国内に住所及び居所を有しないこととなった場合において、その者がその有しないこととなった時に同条第3号に規定する事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを有せず、かつ、その納税地とされていた場所にその者の親族その他その者と特殊の関係を有する者として政令で定める者が引き続き、又はその者に代わって居住しているときには、その納税地とされていた場所とする旨(同条第4号)、まる5同条第1号ないし第4号に掲げる場合を除き、所得税法第161条第3号に掲げる対価を受ける場合には、当該対価に係る資産の所在地とする旨(同法第15条第5号)、及びまる6同条第1号ないし第5号に掲げる場合以外の場合には、政令で定める場所とする旨(同条第6号)規定する。
B そして、所得税法第15条第6号の委任を受けた所得税法施行令第54条は、まる1所得税法第15条第1号から第5号までの規定により納税地を定められていた者がこれらの規定のいずれにも該当しないこととなった場合(同条第2号の規定により納税地を定められていた者については、同号の居所が短期間の滞在地であった場合を除く。)には、その該当しないこととなった時の直前において納税地であった場所とする旨(同条第1号)、まる2同条第1号に掲げる場合を除き、その者が国に対し所得税に関する法律の規定に基づく申告、請求その他の行為をする場合には、その者が選択した場所とする旨(同条第2号)、及びまる3同条第1号及び第2号に掲げる場合以外の場合には、麹町税務署の管轄区域内の場所とする旨(同条第3号)規定する。
C したがって、所得税法第15条第1号の規定により納税地を定められていた納税義務者が国内に住所を有しないこととなった場合には、当該納税義務者が同条第2号ないし第5号に掲げる場合のいずれにも該当しなければ、同条第6号が委任する所得税法施行令第54条の規定により納税地が決せられることとなる。
(ロ) 住所の意義及びその判断基準等について
 上記(イ)のとおり、所得税法第15条は、納税義務者が国内に住所を有する場合に該当するか等に応じ、異なる納税地を規定しているところ、法の文言と趣旨とに照らすと、同条にいう住所は、民法第22条に規定する住所と同一の意義を有するものであることは現行法体系上明らかであり、各人の生活の本拠であるというべきである。
 そして、生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心を指すものであり、一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(最高裁平成9年8月25日第二小法廷判決・集民184号1頁参照)。
 なお、所得税法第15条に規定する居所もまた、民法上のそれと同一の意義を有するものと解されるところ、居所とは、住所と同様にその人の生活の中心となる場所であるが、住所ほど確定的な関係を生じるに至らない場所をいうと解される。
ハ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
(イ) f市住居について
A f市住居は貸室であり、請求人は、平成8年8月1日、貸主との間で、当該貸室を、賃料を1か月13万5000円、賃貸期間を同日から平成10年7月31日までとの約定で賃借する旨の賃貸借契約をし、平成8年8月1日、当該契約に基づき、当該貸室の引渡しを受けた。なお、当該契約は更新された後、平成21年6月7日に終了した。
B 請求人は、フランスに居住するため、家具等を処分して、平成21年6月7日、f市住居を退去した。
(ロ) h市住居について
A h市住居は貸室であり、各部屋にベッドやたんす等の家具が備え付けられ、また、共用の風呂、便所及び台所が設置された賃貸物件であって、賃借することができる最短期間は1か月間であった。
 請求人は、平成21年5月31日、貸主との間で、当該貸室(物件の名称:N○階○○−○)を、賃料を1か月3万2000円、賃貸期間を同年6月1日から同年8月31日までとの約定で賃借する旨の定期建物賃貸借契約をし、同年5月31日、当該契約に基づき、当該貸室の引渡しを受けた。
B 請求人は、フランスに居住するために家具等を処分してf市住居を退去することとした(上記(イ)のB)ところ、上記Aのとおりh市住居を借り受け、本邦から出国した平成21年6月25日までの間、h市住居において生活していた。
(ハ) その他の事実関係について
A 請求人が、まる1国内に所得税法第164条第1項第1号に規定する事業を行う一定の場所を有していた事実、まる2国内において同項第2号に規定する作業又はその作業の指揮監督の役務の提供を行っていた事実、及びまる3国内に同項第3号に規定する代理人等を置いていた事実は認められない。
B h市住居の入居者は請求人のみである。また、請求人の親族等が請求人に代わってh市住居に居住していた事実は認められない。
C 請求人が、所得税法第161条第3号に規定する不動産の貸付けによる対価等を受けた事実は認められない。
D 請求人は、原処分庁に対して、納税地異動の届出、並びに納税管理人の選任及びその届出をしていない。
E 原処分庁は、f市住居及びh市住居における請求人の居住実態に係る調査をしていない。
ニ 請求人の住所等について
(イ) 本件差押処分の時点の請求人の住所等について
 請求人は、平成21年6月25日に本邦から出国した後、フランスに居住していて、本件差押処分の時点においては本邦に帰国していない(上記1の(4)のニ)のであるから、当該時点においては、もっぱらフランスで全生活を送っていたものと認められる。
 そうすると、客観的にみて、本件差押処分の時点において、請求人の生活の本拠はフランスにあり、国内においては全く生活をしていなかったと認められるから、当該時点においては、請求人が国内に住所(及び居所)を有していたとは認められない。
(ロ) フランスに出国する前の請求人の住所について
A ところで、上記1の(4)のイ及び上記ハの(イ)の各事実によれば、f市住居は請求人の住所であったと認められるが、請求人は、f市住居からh市住居に転出した後、フランスに出国・転居している(上記1の(4)のロ及びハ、並びに上記ハの(イ)及び(ロ))ことから、h市住居が請求人の住所であったと認められるか否かについて検討する必要がある。
B 一定の場所がある者の住所であるか否かは、客観的に生活の本拠(その者の生活に最も関係の深い一般的生活、全生活の中心)たる実体を具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である(上記ロの(ロ))ところ、まる1h市住居は家具付の賃貸物件であり(上記ハの(ロ)のA)、請求人は、フランスに居住するために家具等を処分して、h市住居を賃借し、同所で生活していたこと(上記ハの(ロ)のB)、まる2請求人は、v県f市長に対してf市住居からの転出の届出をした際、今後フランスへ転出予定である旨の届出をすることなく、h市住居へ転入予定である旨の届出をし、その後、v県h市長に対しh市住居への転入の届出をしたこと(上記1の(4)のロ)からすると、客観的にみて、h市住居は、請求人がf市住居を退去した後、請求人の全生活の中心、すなわち生活の本拠たる実体を具備していたものと認められ、h市住居は請求人の住所であったと認められる。
 そして、まる1請求人が、平成21年6月23日、v県h市長に対し、同月25日にフランスへ転出予定である旨の届出をし、同市長が、同日、請求人の住民票を消除していること(上記1の(4)のハ)、まる2請求人が、同日、本邦から出国していることからすると、h市住居が請求人の住所であったのは、f市住居の退去後からフランスに出国した同日までの間であったと認められる。
C なお、居所とは、人の生活の中心となる場所であるが、住所ほど確定的な関係を生じるに至らない場所をいうと解される(上記ロの(ロ))ところ、請求人がh市住居で生活していた期間は、1か月に満たない期間であったと認められ(上記ハの(ロ))、比較的短期間であるともいいうることから、h市住居が請求人の住所ではなく居所であったかどうかも問題となり得る。
 しかしながら、そもそも生活していた期間の長短は住所の判断の一要素にすぎず、また、本件の場合、h市住居は最短で1か月間から賃借可能な物件であったのに、請求人は賃貸期間を3か月間としてh市住居を賃借したこと(上記ハの(ロ)のA)からすると、実際の居住期間が1か月足らずであったのは、フランスへの出国時期が予定よりも早まったからであることがうかがわれ、実際に生活していた期間が比較的短期間であるともみられることをもって、h市住居が請求人の住所であることが直ちに否定されることとなるものではない。むしろ、請求人が、v県f市長に対してf市住居からの転出の届出をした際、今後フランスへ転出予定である旨の届出をすることなく、h市住居へ転入予定である旨の届出をし、その後、v県h市長に対しh市住居への転入の届出をしたこと(上記1の(4)のロ)からすると、h市住居は請求人にとって確定的な関係を生じるに至っていた場所であると認められる。
 したがって、h市住居は、請求人がf市住居を退去した後フランスに出国するまでの間、居所ではなく、住所であったと認められる。
D 以上のとおりであるから、フランスに出国する前の請求人の住所は、h市住居であったと認められ、また、請求人は、フランスに出国したことにより国内に住所を有しないこととなったものである。
 なお、請求人は出国当日である平成21年6月25日にh市住居を退去し(上記ハの(ロ)のB)、v県h市長は同日に請求人の住民票を消除している(上記1の(4)のハ)ことから、フランスに出国した後、h市住居が居所であったとは認められず、当審判所の調査の結果によっても、他の場所が国内における請求人の居所であったと認めるに足りる証拠もないから、請求人が、フランスに出国した後、国内に居所を有していた事実は認められない。
ホ 当てはめ
(イ) まず、請求人の住所はf市住居であったから、当初の請求人の所得税の納税地は、所得税法第15条第1号の規定に基づき、住所地であるf市住居の所在地である。
 そして、請求人の住所がf市住居からh市住居に移転したこと(上記ニの(ロ))から、請求人の所得税の納税地も異動し、請求人がf市住居を退去した後フランスに出国するまでの間の住所地であるh市住居の所在地が、本件国税の納税地となったものである。
(ロ) そして、請求人は、本邦から出国したことにより国内に住所を有しないこととなったものと認められる(上記ニの(ロ)のD)から、所得税法第15条第1号の規定により納税地を定められていた者が、国内に住所を有しないこととなり、同号に該当しないこととなったものである。
 また、まる1請求人が、出国後国内に居所を有していた事実は認められず(上記ニの(ロ)のD)、まる2請求人が、まるア国内に所得税法第164条第1項第1号の事業を行う一定の場所を有していた事実、まるイ国内において同項第2号の作業又はその作業の指揮監督の役務の提供を行っていた事実、及びまるウ国内に同項第3号の代理人等を置いていた事実も認められず(上記ハの(ハ)のA)、まる3h市住居の入居者は請求人のみであり、請求人の親族等が請求人に代わってh市住居に居住していた事実も認められず(上記ハの(ハ)のB)、まる4請求人が、所得税法第161条第3号の不動産の貸付けによる対価等を受けた事実は認められない(上記ハの(ハ)のC)ことから、本件差押処分の時点において、請求人については、所得税法第15条第2号ないし第5号のいずれにも該当せず、同条第6号が適用されることとなり、所得税法施行令第54条各号のいずれに該当するかを検討することとなる。
(ハ) そして、本件差押処分の時点において、請求人については、所得税法第15条第1号の規定により納税地を定められていた者が同条第1号ないし第5号の規定のいずれにも該当しないこととなった場合として、所得税法施行令第54条第1号に該当するから、その該当しないこととなった時(請求人が本邦から出国した平成21年6月25日)の直前において納税地であった場所、すなわち、h市住居の所在地が、本件国税の納税地である。
(ニ) そうすると、本件差押処分の時点における本件国税の徴収の所轄庁は、原処分庁ではなく、財務省組織規則第544条に基づきh市住居を所轄するP税務署長である。
 したがって、原処分庁によってされた本件差押処分は、本件国税について徴収権限を有しないにもかかわらずされた違法な処分である。
ヘ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、まる1h市住居が請求人の生活の本拠であった事実は確認できないから、必ずしもh市住居が請求人の納税地となるものではなく、また、まる2請求人が、所得税法第20条《納税地の異動の届出》に規定する納税地の異動の届出及び通則法第117条《納税管理人》に規定する納税管理人の選任・届出をしておらず、このため、原処分庁においては、本件差押処分の時点において請求人の納税地が判明しないことにつきやむを得ない事情があるとして、通則法第43条第2項第2号の規定により、本件差押処分の時点における本件国税の徴収の所轄庁は原処分庁である旨主張する。
(ロ) 上記(イ)のまる1の原処分庁の主張について
 しかしながら、上記ニの(ロ)のDのとおり、h市住居は、フランスに出国する前の請求人の住所であったと認められるから、h市住居が請求人の生活の本拠であった事実は確認できないことを前提とする上記(イ)のまる1の原処分庁の主張は、前提を誤るものである。
(ハ) 上記(イ)のまる2の原処分庁の主張について
A 通則法第43条第2項第2号は、徴収の所轄庁の特例として、所得税等につき納付すべき税額が確定したとき以後にその納税地に異動があった場合において、その異動に係る納税地で旧納税地を所轄する税務署長においてその異動の事実が知れず、又はその異動後の納税地が判明せず、かつ、その知れないこと又は判明しないことにつきやむを得ない事情があるときは、旧納税地を所轄する税務署長が徴収に係る処分をすることができる旨規定しているところ、同号にいう「やむを得ない事情があるとき」とは、例えば、まる1納税地異動につき届出義務を課されている者が、納税地異動があったにもかかわらずその届出をしなかった結果、その異動前の納税地を所轄する税務署長において異動の事実を知る機会を持たなかったときや、まる2ある国税につき納税地異動のあったことが判明した場合において、その異動前の納税地を所轄する税務署長が、市町村役場、取引先、近隣者等関係者への照会、登記関係の調査など異動後の納税地を発見するための相応の努力をしたのになおそれが発見できなかったときのような場合をいうものと解される。
B しかるに、この点、確かに、請求人は、原処分庁に対して、納税地異動の届出、並びに納税管理人の選任及びその届出をしていない(上記ハの(ハ)のD)。
 しかしながら、原処分庁は、まる1平成22年6月9日頃の時点で、請求人が平成21年5月29日にh市住居へ転出した旨の届出がされていることを(上記(1)のハの(ハ)のA)、まる2平成22年6月22日頃の時点で、請求人が平成21年6月25日にフランスへ転出予定である旨の届出がされ、同日請求人の住民票が消除されていることを(上記(1)のハの(ハ)のB)、まる3平成22年10月18日の時点で、請求人が平成21年6月25日に本邦から出国し、平成22年10月6日まで帰国していないことを(上記(1)のハの(ハ)のD)、それぞれ把握しており、それにもかかわらず、まる4f市住居及びh市住居における請求人の居住実態に係る調査をしていない(上記ハの(ハ)のE)。
C 上記Bのまる1ないしまる4の各事実からすれば、請求人が原処分庁に対して納税地異動の届出、並びに納税管理人の選任及びその届出をしていなくとも、原処分庁は、本件差押処分の時点において、請求人の住所がf市住居からh市住居へと異動し、さらには国外へと異動して、その結果、納税地もまた異動していることがうかがわれると把握していたものと認められ、かつ、原処分庁としては、f市住居及びh市住居における請求人の居住実態に係る相応の調査(例えば、不動産管理会社に照会をして、賃貸借関係を把握するなど)をして、異動後の新たな納税地を把握することは十分可能であったと認められる。
 それにもかかわらず、原処分庁は、当該居住実態に係る調査を全くすることなく本件差押処分をしているのであるから、本件は通則法第43条第2項第2号にいう「やむを得ない事情があるとき」には該当しない。
(ニ) 小括
 以上のとおりであるから、本件国税の徴収の所轄庁は原処分庁である旨の原処分庁の主張には理由がない。

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3 結論

 以上のとおり、本件差押処分は、本件国税の徴収の所轄庁でない税務署長によってされた違法な処分であるから、本件差押処分のその余の点について判断するまでもなく、取り消すべきである。

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