(平成25年11月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、一括購入した土地及び建物の取得価額をあん分計算して確定申告したことに誤りがあり課税仕入れに係る消費税額が過大であるなどとして消費税及び地方消費税の修正申告をしたところ、原処分庁が、当該土地及び建物の購入に関する行為に、事実の仮装があったとして重加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、仮装の事実はないとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年9月1日から平成23年8月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件課税期間の消費税等について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成24年6月11日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成24年6月27日付で、別表1の「賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成24年8月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月22日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年11月20日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
ロ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和46年9月○日に設立された法人で、主に不動産の賃貸、管理及び保全、売買等の業務を行っており、本件課税期間における代表取締役はG(以下「G代表」という。)であった。
ロ 請求人は、平成23年3月25日、H(以下「本件売主」という。)から、別表2に記載の土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を購入した。なお、本件不動産には、本件課税期間の開始の日現在で、J社を根抵当権者とする2つの根抵当権(以下「本件各根抵当権」という。)が設定されている旨の登記がされており、また、d県を債権者とする差押え及び参加差押えがされている旨の登記がされていたが(以下、d県を債権者とする差押え及び参加差押えを「本件差押え等」という。)、平成23年3月25日に、本件各根抵当権及び本件差押え等の抹消の登記が行われた。
ハ 請求人は、本件不動産の購入に関し、本件売主又は次の受託者との間で、要旨次のとおりの記載がある各契約書を取り交わした。
(イ) 平成23年3月4日付「不動産売買契約書」(以下「本件売買契約書」という。)
A 売主である本件売主と買主である請求人は、売主所有の本件不動産につき売買契約を締結した。
B 本件不動産の売買代金は180,000,000円(以下「本件売買契約代金」という。)とする。
(ロ) 受託者をK社とする平成23年3月4日付「業務委託契約書」
A 委託者である請求人と受託者であるK社は、K社に対して請求人が依頼する本件不動産の各種調査、助言及び交渉をK社が行うにつき、業務委託契約を締結する。
B 請求人は、本件不動産の購入に伴い、次のCに定める業務をK社に委託し、K社はこれを受託する。
C 請求人がK社に委託する業務は、以下のとおりとする。
(A) 本件不動産の購入に関しての調整・交渉
(B) 取引の手続及び日程に関する検討並びに立案
(C) 契約書類の確定及び作成についての支援並びに履行についての助言及び支援
D 請求人は、K社が上記Cの業務を遂行し、本件不動産の売買契約が締結され、当該契約に基づいて本件不動産の引渡しが完了したときは、次のとおり報酬を支払うこととする。
(A) 報酬金額35,000,000円
(B) 消費税等相当額は上記金額に含む。
(ハ) 受託者をL社とする平成23年3月4日付「業務委託契約書」(以下、上記(ロ)の業務委託契約書と併せて「本件各業務委託契約書」といい、本件各業務委託契約書と本件売買契約書を併せて「本件各契約書」という。)
A 委託者である請求人と受託者であるL社は、L社に対して請求人が依頼する本件不動産の各種調査、助言及び交渉をL社が行うにつき、業務委託契約を締結する。
B 請求人は、本件不動産の購入に伴い、次のCに定める業務をL社に委託し、L社はこれを受託する。
C 請求人がL社に委託する業務は、以下のとおりとする。
(A) 本件不動産の購入に関しての調整・交渉
(B) 取引の手続及び日程に関する検討並びに立案
(C) 契約書類の確定及び作成についての支援並びに履行についての助言及び支援
D 請求人は、L社が上記Cの業務を遂行し、本件不動産の売買契約が締結され、当該契約に基づいて本件不動産の引渡しが完了したときは、次のとおり報酬を支払うこととする。
(A) 報酬金額7,500,000円
(B) 消費税等相当額は上記金額に含む。
ニ 請求人は、平成23年3月25日に、本件売主に対して180,000,000円、K社に対して35,000,000円、L社に対して7,500,000円の金員をそれぞれ支払った。
ホ 請求人は、M社に対し、本件不動産の売買契約締結の仲介手数料(以下「本件仲介手数料」という。)として、平成23年3月4日に2,800,000円及び平成23年3月25日に2,933,000円の合計額5,733,000円(消費税等の額273,000円を含む。)を支払った。
ヘ 請求人は、本件建物に係る消費税等の計算に関し、本件土地の路線価を参考にして本件土地の代金相当額を算出し、本件売買契約代金(180,000,000円)から、当該代金相当額を控除した残額を本件建物の代金相当額(消費税等の額を含む。)とし、これに本件各業務委託契約書に係る報酬金額の合計額42,500,000円及び本件仲介手数料の額を合計した金額から、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項本文に規定する課税仕入れに係る消費税額(以下「控除対象仕入税額」という。)を計算し、別表1の「確定申告」欄のとおりとする確定申告をした。
ト 請求人は、本件調査に基づき、本件各契約書に記載された金額の総額222,500,000円を本件土地及び本件建物の購入に係る金額として、当該金額を本件土地及び本件建物の固定資産税評価額を基礎にあん分して算出した本件建物の代金相当額(消費税等の額を含む。)及び本件仲介手数料の額、並びに計上が漏れていた経費の額などから控除対象仕入税額を計算するなどして、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告をした。
チ 原処分庁は、本件不動産の売買価額は222,500,000円であるところ、これを180,000,000円とし架空の業務委託手数料42,500,000円の全額を建物に係る手数料として計上することにより控除対象仕入税額を過大に計上して消費税等の確定申告をしたのだから、請求人の行為には事実の仮装があるとして、上記トの修正申告に対し、本件賦課決定処分をした。

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2 争点

 請求人が行った本件不動産の購入に関する行為に、事実の仮装があったか否か。

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3 主張

(1) 原処分庁

 G代表及びM社の本件調査時の従業員であるN(以下「M社従業員N」という。)の各申述及び本件売主、K社及びL社が原処分庁宛に作成した「Pビルの売買価格の合意に関する証明書」と題する各書面(以下「本件各証明書」という。)によれば、本件不動産の契約当事者が真に合意した売買価額は222,500,000円であり、本件売買契約代金(180,000,000円)は虚偽の表示と認められ、また、本件各業務委託契約書に基づく各契約は、本件売主が本件不動産の売買価額のうち42,500,000円を本件売買契約代金とは別に受領するために締結された実体のないものと認められ、請求人も実体のない本件各業務委託契約書の作成に携わっていたと認められる。
 そして、G代表は、本件各業務委託契約書に記載された金額が本件不動産の売買価額を分散させたものであることを了知していたと認められるにもかかわらず、その分散させた金額が本件課税期間の消費税等の確定申告書に適正に反映しているか否か何ら確認することなく消費税等の確定申告をしたのであるから、請求人の行為には事実の仮装がある。

(2) 請求人

 請求人が、本件売主との間で合意した総額222,500,000円の支払先を3分割し、本件売買契約代金を180,000,000円、権利関係を調整する対価という名目でK社及びL社に対する各報酬の合計額を42,500,000円とする本件各契約書にそれぞれ記名押印をしたのは、本件不動産を購入するための取引条件として売主側から要請を受けたためであり、請求人には、取引を仮装する意思やその事実はない。
 そして、G代表は、税務代理人にその旨を伝え、本件不動産の購入に関する資料を提出して会計処理の判断を委ねたが、結果的に本件各業務委託契約書に記載された各報酬の額を全て本件建物の取得価額として消費税等の確定申告をしたのは、税務代理人が単に本件土地及び本件建物の各取得価額のあん分計算を誤ったにすぎず、請求人及び税務代理人のいずれも虚偽の事実をもって申告するという意思はなかった。したがって、請求人の行為に事実の仮装はない。

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4 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件売主による本件不動産の売却の経緯について
(イ) 本件売主は、J社から本件不動産の任意売却による債務の弁済を求められ、平成22年暮れ頃から、当時本件売主の妻であったQ(以下「妻Q」という。)の依頼により、K社の代表取締役であるR(以下「K社代表R」という。)が本件不動産の任意売却に関与することとなった。
(ロ) K社代表R及びK社の従業員として業務に従事したS(以下「K社従業員S」という。)は、平成22年12月から平成23年1月までにかけて、J社との間で、本件各根抵当権を抹消するための債務の弁済額の交渉を行った。また、K社代表Rは、平成23年1月及び2月に、e県税事務所との間で、本件差押え等の解除のための滞納税金の納付額の交渉を行った。
(ハ) K社代表Rは、平成23年1月17日に、e県税事務所の担当者から、本件差押え等の解除のためには、本件不動産に係る固定資産税の納付が必要である旨伝えられた。また、妻Qは、同年2月1日に、J社の担当者から、本件各根抵当権の抹消のためには、180,000,000円の債務の弁済が必要である旨伝えられた。
(ニ) K社代表Rは、平成23年2月2日に、e県税事務所の担当者に、J社が本件各根抵当権の抹消のためには180,000,000円の債務の弁済を求めている旨を電話で伝え、また、K社代表R及びK社従業員Sは、平成23年3月15日に、J社を訪れ、本件不動産を180,000,000円で購入する者が見つかったので、本件各根抵当権を抹消してほしい旨申し出た。
(ホ) 本件売主は、平成23年3月25日、上記1の(4)のニのとおり、請求人から本件売買契約代金の支払を受け、J社に対して、180,000,000円の債務の弁済をした。
ロ 請求人による本件不動産の購入の経緯について
(イ) G代表は、M社従業員Nから本件不動産の売買情報の提供を受け、本件不動産を見分した後、本件不動産を購入価格220,000,000円(消費税等の額を含む。)で購入したい旨が記載された本件売主宛の平成23年2月22日付「買付証明書(購入申込書)」と題する書面に記名押印し、M社従業員Nへ提出した。
(ロ) その後、G代表は、本件不動産の購入価格を222,500,000円(消費税等の額を含む。)とした上記(イ)と同一書式の平成23年2月25日付「買付証明書(購入申込書)」と題する書面に署名押印し、M社従業員Nへ提出した。
(ハ) G代表は、平成23年3月4日、M社従業員Nの立会いの下、本件売買契約書に記名押印した。そして、請求人は、上記1の(4)のホのとおり、同日、M社に対して、本件仲介手数料の一部として2,800,000円を現金で支払った。なお、当該本件仲介手数料の額は、本件売買契約代金180,000,000円を基に算定されている。
(ニ) G代表は、平成23年3月21日及び同月24日、本件不動産の売買代金が222,500,000円と記載された「精算書(Pビル)」(以下「本件精算書」という。)と題する各書面をM社従業員Nから電子メールで受信した。なお、同月21日に受信した当該書面の「売主指定金種」欄には金額の記載がないが、同月24日に受信した当該書面の同欄には、まる1振込金額(1)180,000,000円、まる2振込金額(2)4,236,100円、まる3現金30,000,000円、まる4現金763,900円、まる5現金435,063円、まる6現金7,500,000円、まる7現金(仲介手数料残金)2,933,000円、まる8現金(管理委託手数料)61,266円と記載されていた。なお、まる2ないしまる4の合計金額は、35,000,000円である。
(ホ) G代表は、平成23年3月25日の上記1の(4)のニの支払の際に、本件各業務委託契約書に記名押印した。
ハ 本件調査について
(イ) G代表は、平成24年1月26日及び同年5月21日に、本件調査担当職員に対して、当初から本件不動産を222,500,000円で買い取る契約であったが、本件売主の仲介業者からM社を経由して、本件売買契約書の金額を180,000,000円とし、残額42,500,000円はK社に35,000,000円及びL社に7,500,000円を支払ったことにしてもらいたい旨の要望があったのでそれに従った旨、本件不動産の売買価額は最終的に合意した222,500,000円であると認識している旨申述した。
(ロ) G代表は、平成24年5月21日に、本件売主の氏名の署名押印及びK社の記名押印がされた本件各証明書を、同年6月7日に、L社の記名押印がされた本件各証明書をそれぞれ原処分庁へ提出した。本件各証明書は、いずれも同一の標題及び文章で、「買主F社(請求人)と売主Hの間で平成23年3月25日に売買決済が行われた下記物件の売買価格は総額222,500,000円です。F社は、Hの要請に従いH、K社及びL社の三者に対して売買価格222,500,000円を形式的に分割して支払ったものの、あくまでも買主及び売主の間で合意した本物件の売買価格は222,500,000円です。」と記載されている。
(ハ) M社従業員Nは、平成24年2月13日、本件調査担当職員に対して、本件不動産の総額が確定した時点かその少し前に、売主側から金額の分割の指示があり、G代表も総額が変わらないのであれば内訳は気にしないと言ったので売主側の指示どおりに取引を実行した旨申述した。

(2) 関係者の答述

イ 本件における次の関係者は、本件不動産の売買価額等に関し、当審判所に要旨次のとおり答述した。
(イ) 本件売主の答述
A 本件不動産の売却については、全て妻Qに任せていた。売買契約の締結の数日前に、妻Qから、買主が請求人であることを聞いた。
B 本件不動産の売買価額は、自分と請求人との間の本件売買契約書に記載されている金額で180,000,000円だったと思う。
(ロ) K社代表Rの答述
A 本件不動産については、妻Qから相談を受け、当初、K社が140,000,000円で購入して転売しようと考えたが、J社から根抵当権の抹消のためには180,000,000円の債務弁済が必要であるとの回答があったため、購入を諦め、売買の仲介をすることとし、K社従業員Sが数社の候補の中から売却先を請求人に決めた。
B 本件不動産の売買価額については、J社から提示があった180,000,000円にK社の報酬として35,000,000円を上乗せした額をK社従業員Sが買手側(L社)に提示した。
C この取引でK社として利益を得たいと考えていたので、J社に回収されないような差額を作る目的で、K社と請求人との間の業務委託契約書を作成した。業務委託報酬の額は、もともとK社が得ようとしていた本件不動産の転売益の額に近い35,000,000円とした。
D 本件売主に対しては、報酬を求めておらず、また、K社が請求人から得た業務委託報酬についても伝えていない。
E 自分とK社従業員Sは、本件不動産の代金決済に立ち会った。
(ハ) L社の代表取締役T(以下「L社代表T」という。)の答述
A 本件不動産については、K社従業員Sから買手を探すよう依頼を受けた。本件不動産の情報は複数の業者を介してM社に提供され、同社が請求人を買手として探してきた。当社の従業員であるU(以下「L社従業員U」という。)が、請求人側の仲介業者であるM社従業員N及び本件売主側の仲介業者であるK社従業員Sと交渉した。
B 請求人から提示された本件不動産の購入希望価額をK社に伝えたところ、同社から、当該提示された価額のうち180,000,000円を本件売買契約代金として、残りを業務報酬として支払って欲しいとの依頼があったので、M社従業員Nにその内訳と当社の業務報酬も別途支払って欲しい旨を伝え、最終的に当社の報酬額を7,500,000円として、業務委託契約書を作成した。
C G代表が本件不動産の見分や図面等の閲覧をする際にその段取りなどをし、また、本件売買契約書のひな型を作成した。
(ニ) M社従業員Nの答述
A M社は、請求人の依頼で本件不動産の売買の仲介をすることになった。本件不動産の売買に関する交渉は、L社代表T及びL社従業員Uと行った。
B 請求人の購入希望価額として220,000,000円くらいの額を提示したところ、L社代表Tから、もう少し金額を上げられないかという依頼があり、その後、総額222,500,000円で、かつ、本件売買契約代金は180,000,000円とし、残りを業務報酬として2つに分けて支払って欲しいという条件が提示された。このときには、業務報酬の具体的な内訳の説明はなかったと思う。これをG代表に伝えたところ、総額が222,500,000円であれば予算の範囲内なので承諾するということで、請求人が本件不動産を購入することになった。
(ホ) G代表の答述
A 本件不動産は、M社から紹介を受けた。購入に当たっての交渉は同社に依頼した。
B 本件不動産の見分をして購入の意思表示をした後、M社従業員Nを介して価格の交渉をし、総額220,000,000円の買付証明書(上記(1)のロの(イ))を作成したが、最終的に総額222,500,000円で購入することが決まり、平成23年2月25日付買付証明書(上記(1)のロの(ロ))を作成した。その際には他の条件はなかった。その後、平成23年3月4日の契約締結までの間に、M社従業員Nから、本件不動産の購入に当たり、権利関係の調整を行う業者等が複数介在している旨を聞き、また、取引の条件として、総額222,500,000円のうち本件売買契約代金として180,000,000円を支払い、残額42,500,000円は別な形で支払うよう言われた。当該42,500,000円の内訳の説明はなかったが、総額222,500,000円が予算だったので了承した。平成23年3月24日に、M社従業員Nから本件精算書を電子メールで受信した際に初めて、同人から、K社に35,000,000円及びL社に7,500,000円を支払う旨の説明を受けた。
ロ まとめ
 上記イの関係者の各答述の間に齟齬はなく、当該各答述は、上記(1)のイ及びロの各事実ともおおむね符合しており信用できるところ、当該各答述を総合すると、本件不動産の売買契約における取引価額の決定の経緯は、次のとおりであると認められる。
(イ) 請求人は、まず、本件不動産の購入価額として220,000,000円を提示した。
(ロ) これに対し、K社は、請求人から報酬を得ようと考え、J社から提示があった180,000,000円に、当該報酬の額として35,000,000円を上乗せし、L社に提示した。
(ハ) L社も、請求人から報酬を得ようと考え、K社の提示した額に当該報酬の額として7,500,000円を上乗せし、請求人に対して総額222,500,000円を提示した。
(ニ) 請求人は、上記(ハ)の総額222,500,000円が予算の範囲内であったため、その内訳を知らないまま購入を了承した。
(ホ) 請求人は、その後、本件不動産に係る売買契約締結までの間に、M社従業員Nから、権利関係の調整を行う業者等が複数介在すること、本件売買契約代金として本件売主に対して180,000,000円を支払うこと、別途42,500,000円を支払うことを聞いた上で支払を了承し、そして、本件不動産に係る代金決済までの間に、当該42,500,000円について、K社及びL社に対して35,000,000円及び7,500,000円をそれぞれ支払うことを了承した上で、本件不動産を購入した。

(3) 法令解釈

 国税通則法第68条第1項に規定する「事実を隠ぺいした」とは、課税標準等又は税額等の基礎となる事実を隠ぺいし、あるいは故意に脱漏したことをいい、また、「事実を仮装した」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。

(4) 本件不動産の購入における事実の仮装の有無

イ 請求人と本件売主との間の本件不動産の売買価額について
 上記1の(4)のハの(イ)のとおり、本件売買契約書における本件売買契約代金の額は180,000,000円であり、同(4)のニのとおり、請求人が本件売主に支払った金員も同額であるところ、まる1K社代表R及びK社従業員Sは、上記(1)のイの(ニ)のとおり、本件不動産の根抵当権者であるJ社に、本件不動産を180,000,000円で購入する者が見つかった旨伝えていること、まる2K社は、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人が提示した価額に対し、180,000,000円を本件売買契約代金とし、35,000,000円をK社に報酬として支払うよう提示していること、まる3L社代表Tも、同ロの(ハ)のとおり、K社の当該提示内容に加え、報酬の支払を求めていること、まる4これを受けたM社従業員Nは、上記(2)のイの(ニ)のBのとおり、G代表に対して、本件売買契約代金として本件売主に対して180,000,000円を支払い、別途報酬として42,500,000円を支払うことを伝え、G代表はこれを承諾し、上記(1)のロの(ハ)のとおり、M社に対して支払われた本件仲介手数料の額は、本件売買契約代金180,000,000円を基に算定されていることに加え、まる5当審判所の調査によっても、K社又はL社に対して支払われた金員が、両社を経由して本件売主に渡っていたとする事実は認められないことを総合すると、請求人と本件売主との間の売買取引の対価の額である本件不動産の売買価額は180,000,000円であると認めるのが相当である。
ロ K社及びL社に対して支払われた金員について
 本件各業務委託契約書に記載された業務の内容は、上記1の(4)のハの(ロ)のC及び同ハの(ハ)のCのとおりであるところ、K社代表R及びK社従業員Sは、本件不動産の売買に当たり、上記(1)のイの(ロ)ないし(ニ)のとおり、本件各根抵当権を抹消するための債務の弁済額の交渉や本件差押え等の解除のための滞納税金の納付額の交渉を行うとともに、K社代表Rの答述によれば、代金決済に立ち会ったことが認められ、また、L社は、L社代表Tの答述によれば、M社を介して請求人が要望した本件不動産の見分及び図面等の閲覧の段取りや本件売買契約書のひな型の作成の業務を行ったことが認められ、両社のこれらの業務の内容は、本件各業務委託契約書に記載された業務の内容に符合するものである。
 そうすると、K社及びL社は、請求人に対して、本件不動産の購入に伴う役務の提供を行ったと認めるのが相当であり、そして、本件の売買契約が締結され、請求人は本件不動産を購入したのであるから、請求人がK社及びL社に対して支払った金員は、両社が本件各業務委託契約書に記載された業務を行い、請求人に対して役務の提供をしたことに対する対価であると認めるのが相当である。そして、当該対価の額は、本件不動産の購入に要した費用の額に該当し本件不動産の取得価額に算入されるものではあるが、本件不動産の売買価額そのものであると認めることはできない。
 なお、G代表は、上記(1)のロの(ホ)のとおり、本件不動産の購入の日である平成23年3月25日に、本件各業務委託契約書に記名押印したものであるが、上記(2)のロの(ホ)のとおり、請求人は、本件不動産に係る売買契約締結(同月4日)までの間に、権利関係の調整を行う業者等が複数介在することを聞いた上で、本件不動産に係る取引条件を了承していることからすれば、記名押印の日付をもって、本件各業務委託契約書に係る契約と、請求人とK社又はL社との間の取引の実態との関係が否定されるものではない。
ハ まとめ
 上記イ及びロのとおり、本件不動産の売買価額は180,000,000円であり、K社及びL社に対して支払われた各金員は、両社が本件各業務委託契約書に記載された業務を行い、請求人に対して役務の提供をしたことに対する対価であるところ、G代表の上記(2)のイの(ホ)のBの「M社従業員Nから、本件不動産の購入に当たり、権利関係の調整を行う業者等が複数介在している旨を聞き、また、取引の条件として、総額222,500,000円のうち本件売買契約代金として180,000,000円を支払い、残額42,500,000円は別な形で支払うよう言われた。当該42,500,000円の内訳の説明はなかったが、総額222,500,000円が予算だったので了承した。」との答述の意味するところは、上記(2)のロの本件不動産の売買契約における取引価額の決定の経緯を踏まえると、請求人は、当初、本件不動産を総額222,500,000円で購入することを決めたが、本件売買契約代金を180,000,000円とし、差額の42,500,000円をK社及びL社に支払うという取引条件の提示を受け、これに応じて、本件売買契約書及び本件各業務委託契約書に係る契約を締結したと評価するのが相当であるから、本件各契約書は、いずれも取引の実態に即したものというべきである。
 したがって、請求人が、本件不動産の売買価額を分散したとは認められず、ほかに、請求人が、本件不動産の購入に関し、何らかの事実を仮装したと認めるに足る客観的な証拠もないから、請求人が行った本件不動産の購入に関する行為について、事実の仮装はなかったと認めるのが相当である。
ニ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、本件調査におけるG代表及びM社従業員Nの申述並びに本件各証明書を根拠として、上記3の(1)のとおり主張する。
 しかしながら、本件調査におけるG代表及びM社従業員Nの申述については、上記(2)のイの(ニ)及び(ホ)の答述の内容とおおむね齟齬がないところ、本件不動産の売買価額並びにK社及びL社に対して支払われた金員に対する当審判所の判断は上記ハのとおりであり、また、本件各証明書については、上記(1)のハの(ロ)のとおり、その後段に「売買価格222,500,000円を形式的に分割して支払った」との記載があるものの、その前段に「本物件の売買価格は総額222,500,000円です」との記載があり、全体としてみると、「222,500,000円」は本件不動産の売買価額であるのか、請求人の支払総額であるのか判然とせず、また、G代表は、上記ハのとおり、本件不動産の売買代金として本件売主に対して180,000,000円を、役務提供の対価としてK社及びL社に対してそれぞれ35,000,000円及び7,500,000円を支払うという取引条件を了承して、本件不動産を取得するに至ったものと認めるのが相当であるから、本件各証明書の記載をもって、本件売主及び請求人が合意した本件不動産の売買価額が222,500,000円であったと認めることはできない。また、K社及びL社が本件不動産の売買の成立のための業務を行った実態があると認められることについては、上記ロのとおりである。
 したがって、原処分庁の主張は採用することはできない。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のハのとおり、請求人が本件不動産の購入に関して行った行為に事実の仮装は認められず、重加算税を賦課することは相当でないと認められるところ、本件の修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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