(平成25年12月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成22年分の所得税の確定申告書を法定申告期限後に提出したとして、原処分庁が無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、法定申告期限内に確定申告書を提出できなかったのは、長男の死亡や妻の介護で請求人自身の精神状態が悪化し申告できる状態でなかったことなどが理由であり、このことは、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するとして、その全部の取消しを求めるなどした事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成24年12月13日に原処分庁へ申告した(以下、この申告を「本件期限後申告」といい、本件期限後申告に係る申告書を「本件期限後申告書」という。)。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成24年12月25日付で別表の「賦課決定処分」欄のとおり、無申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成25年1月15日に異議申立てをした。
ニ 請求人は、同日、「平成22年分所得税の更正の申出書」を原処分庁へ提出して、納付すべき税額を減少すべき旨の更正の申出(以下「本件更正の申出」という。)をした。
ホ 原処分庁は、平成25年3月13日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の変更決定処分(以下「本件変更決定処分」という。)をした。
ヘ 異議審理庁は、無申告加算税の賦課決定処分(本件変更決定処分後のもの。以下「本件賦課決定処分」という。)に係る異議申立てに対して、平成25年3月15日付で棄却の異議決定をした。
ト 請求人は、本件更正処分及び異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成25年3月25日に審査請求した。

(3) 関係法令の要旨

 通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、当該納税者に対し、当該申告に基づき納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、同項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 生命共済金の取得状況
 請求人は、D共済との生命共済に関する契約に基づき、請求人の長男であるE(以下「長男」という。)が平成22年9月○日に死亡したことを事由とする生命共済金10,000,000円(以下「本件共済金」という。)を平成22年9月24日に取得した。
ロ 本件期限後申告
 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)から、平成22年分の所得税について、本件共済金の取得に係る一時所得の申告が必要である旨の指摘を受け、本件期限後申告をした。
ハ 本件更正の申出及び本件更正処分
 請求人は、本件期限後申告に長男を特別障害者とする障害者控除が漏れていたことを理由とする本件更正の申出をしたところ、原処分庁は、長男を特別障害者以外の障害者とする障害者控除を適用した本件更正処分をした。
ニ 請求人の転居状況
 請求人は、平成22年11月22日にe市f町○−○からg県h市i町○−○へ、平成24年8月28日に肩書地であるa県b市d町○−○へ住所地を異動している。
ホ 精神障害者保健福祉手帳の交付状況
(イ) 請求人は、j県から交付日を平成21年9月15日、障害等級を3級とする精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第45条《精神障害者保健福祉手帳》に規定する精神障害者保健福祉手帳(以下「障害者手帳」という。)の交付を受け、さらに、g県から交付日を平成22年12月1日、有効期限を平成23年9月30日、障害等級を3級とする障害者手帳の交付を受けていた。
(ロ) 請求人の妻であるF(以下「妻」という。)は、g県から交付日を平成22年12月16日、有効期限を平成26年12月31日、障害等級を1級とする障害者手帳の交付を受けていた。
(ハ) 長男は、j県から交付日を平成21年7月14日、有効期限を平成23年7月31日、障害等級を3級とする障害者手帳の交付を受けていた。

トップに戻る

2 争点

 本件期限後申告については、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当するか否か。

トップに戻る

3 主張

請求人 原処分庁
 請求人は、長男が○○により○○死亡したことや妻の病気が悪化し介護が必要であったことなどから請求人自身の精神状態が悪化し、申告できる状況でなかったこと、税務署から申告案内の通知がなかったこと、請求人に税に関する知識がなかったことなどの理由から期限内申告ができなかったものであり、これらのことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する。  通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合とは、災害、交通・通信の途絶など期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。
 そして、請求人が主張する事情は、いずれも請求人の主観的な事情であると認められることから、当該事情をもって、真に請求人の責めに帰することのできない客観的な事情があるとはいえず、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、本件賦課決定処分が不当又は酷になるものとはいえないから、正当な理由があると認められる場合に該当しない。

トップに戻る

4 判断

(1) 法令解釈

 通則法第66条に規定する無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的として、適正に法定申告期限までに申告をした者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正するとともに、納税申告書を提出しないことによる申告義務違反の発生を防止する行政上の措置であり、法定申告期限までに申告をしなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて一律に課されるものである。
 そして、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合とは、災害、交通・通信の途絶など、期限内に申告ができなかったことについて、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成22年9月18日に本件共済金に係る共済金請求書に必要事項を記入の上、当該共済金請求書をD共済へ提出し、D共済は、同月24日に請求人から指定された請求人名義の銀行口座へ本件共済金を振り込んだ。
ロ 請求人は、平成22年12月1日に自らの障害者手帳の住所変更に係る申請書をg県知事宛に提出しており、当該申請書の添付書類であるG病院の担当医師であるH氏による平成21年9月9日作成の「診断書(精神障害者保健福祉手帳用)」によれば、請求人の日常生活能力の判定における「社会的手続や公共施設の利用」について、「適切にできる」、「おおむねできるが援助が必要」、「援助があればできる」及び「できない」の4段階のうち「適切にできる」と診断されている。
ハ また、請求人は、平成23年9月20日に自らの障害者手帳の更新に係る申請書をg県知事宛に提出しており、当該申請書の添付書類であるJ病院の担当医師のK氏による同月14日作成の「診断書(精神障害者保健福祉手帳用)」によれば、請求人の日常生活能力の判定における「社会的手続や公共施設の利用」について、上記ロの4段階のうち「おおむねできるが援助が必要」と診断されており、また、その具体的程度、状態等として、「慢性的な睡眠障害、苛々感等がある。日常生活は保たれている。就労している。」と診断されている。なお、当該診断書に係る初診年月日は平成22年12月8日である。
ニ 請求人は、少なくとも平成19年分ないし平成21年分の所得税について、いずれも法定申告期限内に確定申告している。

(3) 本件への当てはめ

イ 請求人は、長男が○○によって○○死亡したことや妻の病気が悪化し介護が必要であったことなどにより、請求人自身の精神状態が悪化し、申告できる状況でなかったことから期限内申告ができなかったのであり、このことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のイないしハのとおり、請求人は、平成22年9月18日にD共済に対して本件共済金の請求手続を、同年12月1日にg県知事に対して自らの障害者手帳の住所変更に係る申請手続を、平成23年9月20日に当該障害者手帳の更新の申請手続をそれぞれ自ら行っていること、また、平成21年9月9日に作成した診断書及び平成22年12月8日初診の医療機関が平成23年9月14日に作成した診断書では、いずれも請求人は社会的手続がおおむね可能である以上の診断を受けていることに鑑みると、特に平成22年分の所得税の確定申告期間(平成23年2月16日から同年3月15日までの期間をいい、以下「本件確定申告期間」という。)において、請求人の精神状態が悪化していたとは認められず、また、請求人が申告できる状態になかったことを証する証拠資料等も見受けられないことからすれば、請求人が本件確定申告期間において本件期限後申告書を法定申告期限内に提出できないほどの精神状態であったとか、あるいは、税理士等他の者に申告を依頼するなどの意思表示すらできない状態であったとはいえず、そのほか請求人が申告できる状態になかったとする事実も認められないことから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ロ また、請求人は、税務署から申告案内の通知がなかったから期限内申告ができなかったのであり、このことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、所得税は、所得税法第120条《確定所得申告》第1項において、居住者が所得税の額を記載した申告書を法定申告期限までに税務署長へ提出しなければならない旨規定されているとおり、申告納税制度の下では、税務署長からの申告案内の有無に関わりなく、法定申告期限までに確定申告書を提出することが義務付けられているのであり、税務署長が申告案内をしなければならないとする法令の規定もないことから、申告案内の通知がなかったことをもって、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情がある場合に該当すると認めることはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ さらに、請求人は、請求人には税に関する知識がなかったから期限内申告ができなかったのであり、このことは、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のニのとおり、請求人には、所得税の確定申告に関する知識があったと認められることに加え、そもそも、上記(1)のとおり、無申告加算税は、法定申告期限までに申告をしなかったという客観的事実があれば、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて一律に課されるものであり、期限内申告書の提出がなかった理由について納税者が税法を知らなかったことや誤解していたことに基づく場合など納税者自らの責任によるものは、正当な理由があると認められる場合に該当するものではないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(4) 本件賦課決定処分

 上記(3)のとおり、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は適法である。

(5) 本件更正処分

 本件更正処分は、納付すべき税額を減少させる更正処分であるところ、本件更正処分が不利益処分に当たるか否かは、本件更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきであり、本件更正処分が納付すべき税額を増加させる更正処分でないことは明らかであるから、本件更正処分は、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 なお、請求人は、本件更正処分に先立って本件更正の申出をしているが、更正の申出の手続は、更正の請求とは異なり、法令上の根拠に基づくものではないことからすれば、原処分庁は、単に、請求人からの減額更正を求める申出を契機として、調査に基づき減額更正処分を行ったにすぎず、本件更正処分が請求人が求める減額の全ての金額でなかったとしても、請求人の権利又は利益を侵害するものとはなっていない。
 したがって、請求人には、本件更正処分の取消しを求める利益はなく、本件更正処分に対する審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

(6) 請求人のその他の主張

 請求人は、本件期限後申告書の提出の際に、調査担当職員から、適正な指導・説明がなく押印を強要された旨主張する。
 請求人の当該主張は、必ずしもその趣旨が明らかではないが、本件期限後申告書の無効などを主張するようである。
 しかしながら、当審判所の調査の結果によれば、本件期限後申告書の提出に際し、調査担当職員は、請求人に対し税務署内の資料等を調査した結果に基づき確定申告が必要である旨指摘したことが認められ、また、調査担当職員が本件期限後申告書の押印を強要したと認めるに足る証拠を請求人は提出しておらず、当審判所の調査の結果によっても、強要した事実は認められないことから、本件期限後申告書が無効なものということはできない。
 よって、請求人の主張には理由がない。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る