(平成25年11月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、宅地建物取引業、建設業及び不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の事業所得について、帳簿書類の備付けがされていないことを理由に請求人の平成18年分以後の青色申告の承認の取消処分を行うとともに、請求人の平成18年分ないし平成23年分の事業所得及び不動産所得に係る所得税並びに平成18年1月1日から平成18年12月31日までの課税期間ないし平成23年1月1日から平成23年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)に係る各確定申告において、請求人は売上げの一部を計上せず、さらに、架空の外注費などを経費として計上していたなどとして、請求人の所得税及び消費税等の各更正処分並びに過少申告加算税ないし重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、原処分庁の調査手続等に違法があった、帳簿書類の提示要求がされなかった、所得税及び消費税等の課税標準額は適正に計上されており、請求人に隠ぺい又は仮装の事実はないなどとして、その全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の11点である。

争点1 調査手続等に違法があったか否か。

争点2 所得税の青色申告の承認の取消処分は、違法又は不当か否か。また、平成18年分ないし平成23年分の所得税の各更正処分に係る通知書に理由附記がないことは違法か否か。

争点3 事業所得に関し、顧客に販売した住宅等に係る追加工事代金、水道分担金及び建築確認申請費用等の各種手数料等並びに受取仲介手数料(以下、併せて「本件追加工事代金等」という。)に計上漏れがあったか否か。

争点4 事業所得に関し、外注費の一部に過大計上があったか否か。

争点5 不動産所得に関し、修繕費の一部に過大計上があったか否か。

争点6 消費税等の課税売上げに計上漏れがあったか否か。

争点7 平成18年1月1日から平成18年12月31日まで及び平成19年1月1日から平成19年12月31日までの各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

争点8 消費税等の課税仕入れに過大計上があったか否か。

争点9 請求人の申告に係る収入ないし課税売上げの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

争点10 請求人の申告に係る外注費などないし課税仕入れの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

争点11 請求人の申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか否か。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 審査請求に至る経緯及び基礎事実は、以下のとおりである。

 なお、所得税に係る平成18年分、平成19年分、平成20年分、平成21年分、平成22年分及び平成23年分を併せて、以下「本件各年分」という。また、消費税等に係る平成18年1月1日から平成18年12月31日まで、平成19年1月1日から平成19年12月31日まで、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで及び平成23年1月1日から平成23年12月31日までの各課税期間を以下、順次、「平成18年課税期間」、「平成19年課税期間」、「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」及び「平成23年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。

イ 請求人

 請求人は、○市○町○−○において、「M社」ないし「N社」の名称で宅地建物取引業、建設業及び不動産賃貸業を営んでいる。従業員は、請求人の事業専従者である妻のP2を含め、2名である。

 請求人の事業に係る経理事務については、遅くとも平成17年頃から従業員であるP3(以下「本件事務員」という。)が行っている。

ロ Q社

 請求人の子であるP4は、不動産の売買、賃貸、仲介及び管理並びに建築工事業等を主な業務目的とするQ社(以下「本件法人」という。)の代表取締役を務めている。請求人は、本件法人に、請求人の事業に係る不動産の販売の仲介及び不動産の買主との交渉等の業務を委託していた。

 本件法人は、平成19年8月○日付で、○県○市○町○−○を本店として設立され、平成20年4月1日付で同市○町○−○に本店を移転したものである。平成23年12月31日現在における本件法人の発行済株式総数は60株であり、その全株についてP4が有している。

ハ 請求人の所得税・消費税等の申告等及び帳簿等の備付けに係る状況

(イ) 請求人は、平成元年3月15日、原処分庁に対して、事業所得について所得税の青色申告承認申請書を提出し、平成元年以後の所得税について青色申告の承認を受け、本件各年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の所得税確定申告書を、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。

(ロ) 請求人の本件各年分の所得税確定申告書に記載された租税特別措置法第25条の2《青色申告特別控除》に規定する青色申告の控除の額は、いずれも100,000円であり、本件各年分の所得税確定申告書に添付して原処分庁に提出された所得税青色申告決算書には、そのいずれにも貸借対照表に係る記載がなく、ほかに貸借対照表の添付もなかった。

(ハ) 請求人は、消費税法第2条《定義》第1項第3号及び第9号の規定による課税資産の譲渡等を行う個人事業者である。

 請求人は、本件各課税期間の消費税等について、それぞれ確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。

(ニ) 請求人は、平成20年9月11日から同年11月11日までの間に、請求人の所得税及び消費税等の申告について原処分庁所属の調査担当者による調査(以下「本件先行調査」という。)を受けて、平成18年課税期間及び平成19年課税期間(以下「本件先行各課税期間」という。)の消費税等について、別表2の「修正申告まる1」欄のとおりの内容の修正申告を行った。

(ホ) 本件先行調査の際に、請求人は、原処分庁に対して平成18年分及び平成19年分(以下「本件先行各年分」という。)の各総勘定元帳を提出したが、当該各総勘定元帳は、本件事務員が領収証等に基づいてパソコンで作成したまる1売上げ並びに売上原価等に該当する仕入れ及び外注費等についての入出金状況等を記録した「業務出納帳」と称する文書(以下「本件業務出納帳」という。)と、まる2一般経費についての出金状況等を記録した「事務所出納帳」と称する文書(以下「本件事務所出納帳」といい、本件業務出納帳と併せて「本件各出納帳」という。)の各データと預金通帳のコピーとを基にして、関与税理士であるP5税理士が作成していた。

(ヘ) 請求人は、平成21年分の所得税について、売上原価等に計算誤りがあったとして、別表1の「修正申告」欄のとおりの内容の修正申告書を提出した。

(ト) 請求人は、平成21年課税期間の消費税等について、別表2の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求を行い、原処分庁は、同表の「更正(減額)処分」欄のとおりの更正処分をした。

(チ) また、請求人は、平成22年課税期間の消費税等について、別表2の「修正申告まる2」欄のとおりとする修正申告書を提出した。

ニ 原処分庁の調査について

 原処分庁は、R国税局と共同して、平成24年4月3日から請求人の所得税及び消費税等について原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)を開始したが、請求人は、本件調査の終了のときまでに、本件先行各年分の各総勘定元帳を本件調査に係る担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対して提示しなかった。

ホ 原処分について

(イ) 原処分庁は、請求人に対し、平成24年7月5日付で、平成18年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色取消処分」という。)をし、同日付で、所得税及び消費税等について、それぞれ別表1及び別表2の各「更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(以下、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。

(ロ) 原処分庁は、本件青色取消処分の通知書に、当該取消しの基因となった事実として、請求人の平成18年分の所得税の調査において、事業所得の生ずべき業務につき、青色申告者が備え付けるべき所定の事項を記載した帳簿書類の備付けがないことが判明し、当該事実は、所得税法(平成23年12月法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)第143条《青色申告》に規定する業務に関する帳簿書類の備付け、記録又は保存が同法第148条《青色申告者の帳簿書類》第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないことになり、所得税法第150条《青色申告の承認の取消し》第1項第1号に定める取消事由に該当する旨附記した。

ヘ 審査請求に至る経緯等

(イ) 請求人は、平成24年7月23日に、本件青色取消処分及び本件各更正処分等を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月23日付で、棄却の異議決定をした。

(ロ) 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年11月12日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

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2 主張

(1) 争点1 調査手続等に違法があったか否か。

請求人 原処分庁
1 請求人は、調査担当職員から、修正申告のしょうようを受けるに当たり、本件各更正処分の内容のうち、本件追加工事代金等の計上漏れの内訳は提示を受けたものの、計数の間違い等の弁明等を拒否された上、外注費及び修繕費(以下「外注費等」という。)の額を過大に計上したとする総額の数字を口頭で説明されただけで、個別具体的な説明は一切なかった。
 このことは、「調査内容を納税者が納得するように説明し、これを契機に納税者が税務知識を深め、さらに進んで将来にわたり適正な申告と納税を続けるように指導していくことに努めなければならない。」と定めている国税庁の税務運営方針(昭和51年4月1日)及び実務上の取扱いに反しており、説明責任が果たされていない。
1 調査担当職員は、本件調査において確認した本件追加工事代金等を売上金額に計上していないことや、外注費等の水増し計上などの問題点を請求人に繰り返し説明するとともに、これに対する請求人の説明等も十分に確認した上で原処分を行っている。
2 請求人は、「査察部門に引き継ぐ。」等の脅しによって修正申告に応じるように強要されたものであり、それに応じなかったとしてなされた本件各更正処分等は違法である。
 具体的には、平成24年6月7日、調査担当職員が請求人の関与税理士であったP6税理士に対し、「査察が口を開けて待っている。」と言ったこと、同月8日、P6税理士が請求人に対し、「私が7年分を4年に負けてもらったからすぐ(月曜日6月11日)に修正申告の手続をしましょう。」と言ったこと、同月7日、調査担当職員が請求人に対し、「架空外注費を認めないなら青色申告を取り消して7年間に遡って課税する。」と言ったことである。
2 本件調査において、請求人の関与税理士であったP7税理士が調査担当職員に対し、請求人は同業者から請求人に査察が入るかもしれないという話(噂)を聞いたため動揺している旨の発言をした事実は確認できたものの、P6税理士の請求人に対する発言は、原処分庁の関知するところではなく、調査担当職員が請求人に対して脅しをかけて修正申告に応じるよう強要した事実はなく、脅し又は恫喝があったとする請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2 本件青色取消処分は、違法又は不当か否か。また、本件各年分の所得税の各更正処分に係る通知書に理由附記がないことは違法か否か。

原処分庁 請求人
1 本件青色取消処分は、以下のとおり、適法かつ相当である。
(1) 帳簿書類の提示要求について
イ 調査担当職員は、平成24年4月18日、同年5月1日、同月11日、同年6月7日及び同月20日の本件調査において、請求人、P5税理士その他請求人の関与税理士に本件先行各年分の総勘定元帳の提出を求めたが、請求人はこれを提示しなかった。このため、調査担当職員は、平成18年分の所得税について、請求人が所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の備付け等があることを本件調査において確認することができず、このことは、所得税法第150条第1項第1号に規定する業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が財務省令で定めるところに従って行われていない事実がある場合に該当する。
 平成24年6月1日の本件調査において、調査担当職員がその調査の結果を請求人に説明した際、総勘定元帳がない場合には消費税等の仕入税額控除が認められなくなる旨も説明したことに対して、請求人は「そうですか。」と申述した。
 なお、平成24年6月20日の本件調査において、P5税理士は、調査担当職員に対し、本件先行各年分の総勘定元帳の帳面及びデータはない旨申述した。
1 本件青色取消処分は、以下のとおり、違法又は不当である。
(1) 帳簿書類の提示要求について
イ 請求人は、調査に全面的に協力し、必要な帳簿書類は全て提示しており、その提示を拒否した事実はない。
 また、平成18年分の総勘定元帳の有無を確認されたのは、平成24年5月11日と同年6月7日の2回であり、同年4月18日は、総勘定元帳の提出を要請されておらず、同年6月20日は総勘定元帳の有無について全く話をしていない。
 平成24年5月1日においては、P5税理士が原処分庁に対し、まる1平成18年分の総勘定元帳のデータの保存はある旨、まる2自分は先日、請求人から解任と連絡があったので今後は請求人を通じて連絡して欲しい旨を回答したものであって、原処分庁から当該元帳の提出の要請は一切なかった。
 平成24年6月1日においては、「総勘定元帳がない場合には…。」と帳票を特定した説明ではなかった。
 平成24年6月7日においては、本件事務員がP5税理士に連絡して本件先行各年分の総勘定元帳のデータを持って来る旨を返答すると、調査担当職員に「今さら出てくるのはおかしいでしょう。」と言われ、受け付けてもらえなかった。
 また、同日、調査担当職員が提示した調査額どおりに請求人が修正申告すれば、7年のところを4年で済ませる旨をP6税理士と調査担当職員との間で合意したために平成18年分の総勘定元帳を提出する必要が無くなったものと判断し、その後は原処分に至るまで一度も、原処分庁から平成18年分の総勘定元帳の提示を求められていないから提示をしなかったにすぎない。
ロ 請求人は、調査担当職員が本件先行各年分の帳簿の提出を繰り返し要請したにもかかわらず、本件先行各年分に係る本件各出納帳、売上原価表及びマンション出納帳並びに平成18年分に係る家賃入金表はもとより、本件先行各年分に係る帳簿を本件調査時に提出及び提示していない。
 なお、本件各出納帳、売上原価表及びマンション出納帳には、「日々の現金の残高」が記載されていないので、大蔵省告示の要件を満たさないものである。
ロ 本件各出納帳は、大蔵省告示の要件を完全に満たすものではないものの、これを基礎にP5税理士に当該告示の要件を満たす総勘定元帳の作成を依頼しているわけであるから、帳簿として否定されるべきものではなく、その他の業務における全ての売買契約書及び領収証も揃っているのだから、平成18年分の総勘定元帳がなくても、取引内容は調査できたはずである。それにもかかわらず、原処分庁は、平成18年分の総勘定元帳の不存在をもって直ちに帳簿書類が不存在と認定しており、その事実認定には誤りがある。
ハ 平成24年6月7日の本件調査において、本件事務員から自ら作成した本件先行各年分の本件各出納帳ではだめなのかと尋ねられた際、調査担当職員が「税理士の先生が作成したちゃんとした帳面が必要なのですよ。」と発言したかは確認できなかったが、平成19年分以前の総勘定元帳の存在を本件調査において確認できなかったことから、内容を確認できない時点で出納帳データは帳面と判断できないとの趣旨で「出納帳は帳簿ではないんで帳面がないとダメですわ。」との発言をした。
 調査担当職員は、複数回にわたって本件先行各年分の帳簿等の提示を要請しており、調査担当職員が請求人から提出するとの申出を受けて、これを拒否する理由はない。
ハ 平成24年6月7日の本件調査において、本件事務員が本件先行各年分の本件各出納帳ではだめなのかと尋ね、提出を申し出たのに、調査担当職員に「税理士の先生が作成したちゃんとした帳面が必要なのですよ。」と言われ、拒否されたものである。
ニ 調査担当職員が請求人に対して脅しをかけて修正申告に応じるよう強要した事実はない。
ニ 平成24年6月7日、調査担当職員が請求人に対し、「架空外注費を認めないなら青色申告を取り消して7年間に遡って課税する。」と言った。
 また、原処分庁は水増し(架空)と主張する外注費等の明細を個別具体的に開示できなかったので、青色申告の承認を取り消すために平成18年分の総勘定元帳の不存在を持ち出したものであり、違法である。
(2) 所得税法第150条第2項は、青色申告の承認取消しの処分をする旨を通知する書面には、その処分の基因となった事実が同条第1項各号のいずれかに該当するかを附記しなければならない旨規定しているところ、本件青色取消処分に係る通知書には、請求人の平成18年分の所得税の調査において、同項第1号に規定する取消事由に該当する事実があったことが記載されており、請求人の主張には理由がない。
(2) 本件青色取消処分に係る通知書において「平成18年分の事業所得の生ずべき業務につき…備え付けるべき所定の事項を記載した帳簿書類の備付けがないことが判明しました。」と記載されているが、当該認定の基因となった事実が明らかにされておらず、本件青色取消処分の理由の附記に不備がある。
2 本件青色取消処分は、以上のとおり、適法にされているため、平成18年分以降青色申告者ではない請求人には所得税法第155条第2項の規定は適用されないから、本件各年分の所得税の各更正処分に係る通知書に更正の理由を附記する必要はなく、請求人の主張には理由がない。
2 本件青色取消処分は、以上のとおり、違法又は不当であり、取り消されるべきであるから、本件各年分の所得税の各更正処分に係る通知書に更正の理由を附記せずに行った所得税の各更正処分も違法である。

(3) 争点3 事業所得に関し、本件追加工事代金等に計上漏れがあったか否か。

原処分庁 請求人
1 請求人は、請求人が販売した不動産の買主(以下「本件売上先」という。)から、本件追加工事代金等の一部について領収しているにもかかわらず、本件各年分の事業所得の総収入金額に計上していないため、総収入金額に計上すべきである。これは、本件法人の元営業担当者であるP8(以下「P8従業員」という。)及びP9(以下「P9従業員」といい、P8従業員と併せて「本件各従業員」という。)又は本件売上先が所持していた決済明細書と題する書面(以下「決済明細書」という。)から認められる。
1 本件追加工事代金等の一部計上漏れは事実であるが、水道分担金は、追加工事代金に含まれるものではなく、決済明細書に記載してある金額全てが請求人の売上代金に反映される金額ではないので、以下の売上先について、原処分庁の認定に誤りがある。

(1) P10に係る地鎮祭代は領収していない。

(2) P11、P12、P13に係る契約書貼付印紙代は領収していない。

(3) P14に係る正しい追加工事代金は、○○○○円である。

(4) P15に係る建築確認等の代金○○○○円とあるのは間違っており、正しい金額は○○○○円である。

(5) P16・P17に係る水道分担金、P18に係る水道市納金及び建築確認申請費用、P19に係る振込手数料並びにP20に係る○○証券発行手数料は、売上先に負担してもらえなかった。

2 本件各従業員は、調査担当職員に対し、決済明細書について、自分らが作成しており、まる1請求人は当該決済明細書に記載された金額のうち「追加工事代総額」及び「諸費用総額」の項目に「その他費用」として記載されている金額を受領する旨、まる2最終決済をする際には、当該決済明細書に記載されているそれぞれの金額を記載した領収証を事前に請求人又は本件事務員から受け取り、それを決済代金と引換えに売上先に渡していた旨を申述した。
2 P8従業員は、本件調査当時、請求人が原告の○○事件の被告(平成23年9月○日提訴、平成24年8月○日勝訴的和解)であり、また、P8従業員が現金にタッチすることは一切あり得ず、決済明細書のデータを自己のUSBにコピーして保存しているとすれば、窃盗罪等刑法に触れる罪を犯しているので、その申述に信用性がない。また、P9従業員が、売上先に渡した決済明細書のデータは後々のこともあるので、自分のパソコンに保存しているという申述はねつ造である。

(4) 争点4 事業所得に関し、外注費の一部に過大計上があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、外注費を現金で支払う際、実際の支払金額に数万円から数十万円程度の金額を上乗せした金額を記載した領収証を外注先に作成させ、外注費の一部を過大に計上していた。
 原処分庁の主張する事実は、以下のとおり、事実誤認又はねつ造である。
1 調査担当職員は、外注先に対して「請求人から水増しの領収証や架空の領収証を書かされただろう。」としつこく言わせようとしたり、「請求人との取引がなくなったのは、領収証の水増しをしないから切られたのだ。」とか請求人が不正計算をしているかのごとく誘導して申述を得たりしており、これらの申述に信用性はない。
2 S社の代表取締役P21は自らの収入除外があった事実を認めており、「T社」の名称で内装工事業を営むP22も、自己において修正申告している。
3 「U社」の名称で建材卸売業を営むP23は、いわゆる白色申告者であるから、記帳をしておらず、物件名・売上計上日等、個別具体的に答えられるはずがなく、照会回答書添付の表も、P23が作成したものではない。
4 「V社」の名称で内装工事業を営むP24が記帳した現場名と請求人が記帳した現場名に相違があっても、原処分庁は、現金欄に記載されている数字を基に適当に金額を振り分けて支払金額を認定しており、その認定には不明瞭な箇所が多数ある。
5 請求人に外注費の水増しがあるのではなく、X社の方に売上除外がある。
6 Y社については、もし金額に違いがあれば、相手方が間違えているとしか考えられない。
7 「Z社」の名称で屋根・金物工事業を営むP25については、その発行された領収証のとおり支払を行っている。

(5) 争点5 不動産所得に関し、修繕費の一部に過大計上があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、修繕費を現金で支払う際、実際の支払金額に数万円から数十万円程度の金額を上乗せした金額を記載した領収証を外注先に作成させ、当該領収書を基に過大な修繕費の計上を行っていた。
 原処分庁の主張する事実は、以下のとおり、事実誤認又はねつ造である。
1 調査担当職員は、外注先等に対して「請求人から水増しの領収証や架空の領収証を書かされただろう。」としつこく言わせようとしたり、「請求人との取引が無くなったのは、領収証の水増しをしないから切られたのだ。」とか請求人が不正計算をしているかのごとく誘導したりした。
2 原処分庁は、a○○号室について、外注先のうち、P26の大工手数料及びP23の家具住設残代金をいずれも零円と認定し、P24のクロス工事についても、クロス張替のみの改装工事が行われたように主張するが、請求人は同室の全面改装を行っている。
3 S社の代表取締役P21は自らの収入除外があった事実を認めている。
4 P23は、いわゆる白色申告者であるから、記帳をしておらず、物件名・売上計上日等、個別具体的に答えられるはずがなく、照会回答書添付の表も、P23本人が作成したものではない。
5 P24が記帳した現場名と請求人が記帳した現場名に相違があっても、原処分庁は、現金欄に記載されている数字を基に適当に金額を振り分けて支払金額を認定しており、その認定には不明瞭な箇所が多数ある。
6 請求人に修繕費の水増しがあるのではなく、X社の方に売上除外がある。
7 P25については、同人発行の領収証のとおり支払っている。

(6) 争点6 消費税等の課税売上げに計上漏れがあったか否か。

原処分庁 請求人
1 請求人は、本件各従業員又は本件売上先が所持していた決済明細書等に記載されている本件追加工事代金等の一部について領収しているにもかかわらず、本件各課税期間の消費税等の課税売上高に計上していないため、消費税等の課税売上高に計上すべきである。
1 追加工事代金の一部計上漏れは事実であるが、水道分担金と追加工事代金は別であり、決済明細書に記載してある金額全てが請求人の売上代金に反映される金額ではないので、以下の売上先について、原処分庁の認定に誤りがある。
(1) P10に係る地鎮祭代は領収していない。
(2) P11、P12、P13に係る契約書貼付印紙代は領収していない。
(3) P14に係る正しい追加工事代金は○○○○円である。
(4) P15に係る建築確認等の代金○○○○円とあるのは間違っており、正しい金額は○○○○円である。
(5) P16・P17に係る水道分担金、P18に係る水道市納金及び建築確認申請費用、P19に係る振込手数料並びにP20に係る○○証券発行手数料は、売上先に負担してもらえなかった。
2 本件各従業員は、調査担当職員に対し、決済明細書について、自分が決済明細書を作成しており、まる1請求人は決済明細書に記載された金額のうち「追加工事代総額」及び「諸費用総額」の項目に「その他費用」として記載されている金額を受領する旨、まる2最終決済をする際には、決済明細書に記載されているそれぞれの金額を記載した領収証を事前に請求人又は本件事務員から受け取り、それを決済代金と引換えに売上先に渡していた旨を申述した。
2 P8従業員は、本件調査当時、請求人が原告の○○事件の被告(平成23年9月○日提訴、平成24年8月○日勝訴的和解)であり、また、同人が現金にタッチすることは一切あり得ず、決済明細書のデータを自己のUSBにコピーして保存しているとすれば、窃盗罪等刑法に触れる罪を犯しているので、その申述に信用性がない。また、P9従業員が、売上先に渡した決済明細書のデータは後々のこともあるので、自分のパソコンに保存しているという申述は、ねつ造である。

(7) 争点7 本件先行各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

原処分庁 請求人
1 請求人は、調査担当職員の帳簿書類等の提示要請に対して、これらの課税期間に係る法定帳簿の提示をしていない。
1 平成18年課税期間の総勘定元帳を提示しなかったのは、争点2のとおりであるが、その作成の基となった本件各出納帳なども、消費税法第30条第7項に規定する帳簿書類に該当する。
2 平成24年6月7日の本件調査において、本件事務員から自ら作成した本件先行各課税期間の本件各出納帳ではだめなのかと尋ねられた際、調査担当職員が「税理士の先生が作成したちゃんとした帳面が必要なのですよ。」と発言したかは確認できなかったが、本件先行各課税期間の総勘定元帳の存在を本件調査において確認できなかったことから、内容を確認できない時点で出納帳データは帳面と判断できないとの趣旨で「出納帳は帳簿ではないんで帳面がないとダメですわ。」との発言をした。
2 平成24年6月7日の本件調査において、本件事務員が自ら作成した本件先行各課税期間の本件各出納帳ではだめなのかと尋ねると、調査担当職員に「税理士の先生が作成したちゃんとした帳面が必要なのですよ。」と言われたので、本件事務員がP5税理士に連絡して本件先行各課税期間の総勘定元帳のデータを持って来る旨を返答すると、調査担当職員に「今さら出てくるのはおかしいでしょう。」と言われ、受け付けてもらえなかった。

(8) 争点8 消費税等の課税仕入れに過大計上があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、外注費等を現金で支払う際、実際の支払金額に数万円から数十万円程度の金額を上乗せした金額を記載した領収証を外注先に作成させ、当該領収書の金額を基にして過大な控除対象仕入税額を計上していた。
 原処分庁の主張する事実は、以下のとおり、事実誤認又はねつ造である。
1 原処分庁は、外注先に対して「請求人から水増しの領収証や架空の領収証を書かされただろう。」としつこく言わせようとしたり、「請求人との取引がなくなったのは、領収証の水増しをしないから切られたのだ。」とか請求人が不正計算をしているかのごとく誘導したりした。
2 原処分庁は、a○○号室について、P26の大工手数料及びP23の家具住設残代金をいずれも零円と認定し、P24のクロス工事についても、クロス張替のみの改装工事が行われたように主張するが、請求人は同室の全面改装を行っている。
3 S社の代表取締役P21は自らの収入除外があった事実を認めており、P22も、自己において修正申告している。
4 P23は、いわゆる白色申告者であるから、記帳をしておらず、物件名・売上計上日等、個別具体的に答えられるはずがなく、照会回答書添付の表も、P23本人が作成したものではない。
5 P24が記帳した現場名と請求人が記帳した現場名に相違があっても、原処分庁は、現金欄に記載されている数字を基に適当に金額を振り分けて支払金額を認定しており、その認定には不明瞭な箇所が多数ある。
6 請求人に外注費等の水増しがあるのではなく、X社の方に売上除外がある。
7 Y社については、もし間違いがあれば、同社が間違えているとしか考えられない。
8 Z社については、同店発行の領収証のとおり支払っている。

(9) 争点9 請求人の申告に係る収入金額ないし課税売上げの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

原処分庁 請求人
1 請求人は、本件売上先から受領した本件追加工事代金等を売上金額に計上していないところ、当該代金は申告しなければならないことを認識しながら、これを受領したことを本件事務員に伝えず、その受領に係る領収証の一部を破棄した。
 このことは隠ぺい又は仮装に当たる。
 なお、請求人が調査担当職員に提出した領収証の控えは手付金等に係るものばかりであり、本件追加工事代金等に係るものはない。
1 追加工事代金の一部計上漏れは事実であるが、隠ぺい又は仮装の意図はない。
 また、現金で受け取る収入については、領収証の控えの使用済み分は処分したが、現行で使用している分の控えは局へ提出した。
2 P9従業員は、請求人の事務所に呼び出されて、請求人から追加工事について、調査でばれないようにしろと強要されたため、平成24年4月19日から20日にかけて売上先を回り、税務署や国税局が来た場合は、書類を見せると固定資産税が上がると嘘をついて書類を見せないように言った旨申述しており、本件調査時のこのような対応から隠ぺい又は仮装の意図が認められる。
2 請求人から追加工事について、調査でばれないようにしろと強要された旨のP9従業員の申述はねつ造であり、請求人が固定資産税が上がるから書類を見せないようにして欲しい等というような稚拙な嘘を言うはずがない。

(10) 争点10 請求人の申告に係る外注費などないし課税仕入れの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、以下のとおり、外注先等に対して、実際に支払う金額よりも多い金額を領収証に記載させることにより、必要経費に計上している外注費等を水増し(架空計上)していたもので、これが隠ぺい又は仮装に当たる。
 原処分庁が主張する事実は、以下のとおり、事実誤認又はねつ造であり、請求人が隠ぺい又は仮装を行った事実はない。
1 外注先等(ただし、P25を除く。)の代表者又は社員は、いずれも、請求人宛の外注先等名義の領収証が、水増し(架空計上)された領収証であると申述した。
1 外注先等は、いずれも架空とか水増しではない等否定しているのに、原処分庁は、予断をもって決め付けたものである。
2 P8従業員は、請求人が外注先等に実際に支払った金額以上の金額を領収証に記載させている行為を、実際に請求人の事務所で見たと申述した。
2 P8従業員は、別会社の社員であるので、請求人と下請業者の支払金銭のやり取りの場に存在することはあり得ない。

(11) 争点11 請求人の申告は、偽りその他不正の行為により税金を免れたものか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、本件追加工事代金等の売上げを隠ぺいし、また、外注費(売上原価)等を仮装した上で、納付すべき税額を過少に記載した確定申告書を提出したことが認められ、この行為は、通則法第70条第5項所定の「偽りその他不正の行為」に該当する。
 請求人は、偽りその他不正の行為をしていない。

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3 判断

(1) 争点1 調査手続等に違法があったか否か。

イ 法令解釈

(イ) 通則法第24条に規定する調査とは、課税標準等又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠資料の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての要件事実の認定、租税法その他の法令解釈を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であると解される。

(ロ) 中でも、所得税法第234条及び消費税法第62条の規定する質問検査権は、当該調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入・保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると認められる場合に行使できるものであり、税務調査における質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要性と相手方の私的利益との比較衡量において、社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられると解される。

(ハ) そして、質問検査の際、調査結果について納税者に対してどの程度まで説明を行うか、また、どの段階で調査等を打ち切って更正処分を行うかについても、実定法に何らの定めもないことから、制度の趣旨、目的に反しない限りにおいて、原処分庁に広い裁量が認められていると解される。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人は、本件調査の開始当初、P5税理士と税務代理の委任契約を締結していたが、平成24年5月8日、原処分庁に対し、税務代理の委任契約をP7税理士と締結する旨の税理士法第30条《税務代理の権限の明示》に規定する書面(以下「税務代理権限証書」という。)を提出した。

(ロ) 調査担当職員は、平成24年6月1日午後3時30分頃、R国税局庁舎内においてP7税理士と面談し、本件調査においてこれまで確認できた事項等として、まる1請求人の事業所得について、本件追加工事代金等を現金で収受し、これを収入金額に計上していないこと、さらに、実際に払った外注費の金額よりも多い金額の領収証を当該外注先に発行させ、水増し記載させた領収書の金額を基に必要経費の額を計上していること、まる2不動産賃貸に基因する不動産所得についても、水増し記載させた領収証の金額を基に必要経費の額を計上していること及びまる3当該まる1及びまる2の方法により、本件各年分の所得金額を合計で約○○○○円過少に申告しており、請求人の本件各年分における資産等の増加額についても当該過少申告額に見合うこと等についての説明を行った。
 P7税理士は、調査担当職員に対して、請求人が同業者から「このままだと請求人にR国税局査察部(以下「査察部」という。)による国税犯則取締法に基づく犯則調査がされるのではないか。」などの風聞を聞かされ、査察部に勤務したことのある税理士に税務代理を依頼する必要があるのではないかと述べる等、大変動揺している旨申し述べた。

(ハ) P6税理士は、平成24年6月7日午後2時15分頃、請求人及び本件事務員と共にR国税局を訪れ、請求人と税務代理の委任契約を締結したとして税務代理権限証書を提出した。
 調査担当職員は、R国税局庁舎内1階の会議室において、P6税理士に対して、本件調査の経緯等ないし確認事項について、本件先行各年分の総勘定元帳の提示がないことに加え、同月1日にP7税理士に説明した内容と同様の説明をしたところ、P6税理士は、調査担当職員のうちの責任者と2人で話し合いたい旨申し向け、当該責任者と共に当該会議室を退室し、その後、請求人及び本件事務員も当該会議室を退室した。
 そして、P6税理士と請求人とで話合いがされた後、P6税理士は、調査担当職員に対して、請求人から本件調査における今後の対応について一任するとの申出を受けた旨申し述べ、請求人も、全てP6税理士に任せる旨申述した。

(ニ) P5税理士は、平成24年6月20日午前9時46分頃、調査担当職員に電話連絡を行い、請求人から税務代理の委任契約を再度締結したいとの申出を受けて受任した旨を申し述べた。

ハ 判断

(イ) 請求人は、請求人の事業所得に係る外注費等について、調査担当職員はその調査結果の総額を口頭で主張したのみで、個別具体的な説明を一切されていないとし、原処分庁が国税庁の定めている税務運営方針及び実務上の取扱いに反して説明責任を果たしていない旨主張する。
 しかしながら、税務運営方針は、申告納税制度の下における税務行政の円滑な運営のための基本方針を示すにとどまるものであって、当該税務運営方針に定められた内容を根拠として具体的な調査が直ちに違法となるものではない。また、税務運営指針が、原処分庁に対し、個々の調査内容につき、必ず納税者の納得を得るまで説明すべきことを法律上の義務として課したものとも認められないし、そもそもかかる義務を課すことは、納税者の納得が得られない場合に課税処分を困難にするものであり、課税処分の平等や租税行政の安定の要請に反し相当でない。
 のみならず、上記イのとおり、税務調査における質問検査の際、調査結果の説明の程度や、どの段階で調査等を打ち切って更正処分等をすべきかについては、制度の趣旨、目的に反しない限りにおいて、原処分庁に広い裁量が認められていると解されるのである。
 そして、本件において、仮に請求人主張のとおり、調査担当職員が請求人に対し、請求人に対する税務調査の結果について、原処分庁が請求人において過大に計上したものと考える外注費等の内訳やその理由等、その詳細についてまで個別具体的に説明を行わなかったとしても、そのことが直ちに権限ある税務職員の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとは認められない。
 よって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(ロ) また、請求人は、平成24年6月7日に、調査担当職員が請求人に対し、「架空外注費を認めないなら青色申告を取り消して7年間に遡って課税する。」と言ったこと、また、調査担当職員がP6税理士に対し、「査察が口を開けて待っている。」と告げたこと、同月8日に、P6税理士が請求人に対し、「私が7年分を4年に負けてもらったから、すぐに修正申告の手続をしましょう。」と言ったことを指摘して、これらの言動が請求人に修正申告に応じるよう強要したものであり、当該強要に応じなかったとしてされた原処分が違法である旨主張する。
 しかしながら、仮に、調査担当職員がこれらの発言をしたことがあったとしても、結果的に請求人は、調査担当職員の修正申告のしょうように応じることがなく、修正申告を行わなかったのであり、課税処分である本件各更正処分等自体を取り消さねばならないほどの著しい違法が税務調査の過程にあったとまではいえない。
 さらに、P6税理士が請求人に対して「私が7年分を4年に負けてもらったから、すぐに修正申告の手続をしましょう。」等の発言を行ったとしても、調査担当職員がP6税理士に対して当該発言を請求人に行うよう依頼したなどの事情も認められないのであって、請求人の関係税理士であるP6税理士の請求人に対する発言によって、原処分庁の行った本件各更正処分等が違法になるものともいえない。

(ハ) 以上のとおり、請求人の上記主張はいずれも採用することができない。

(2) 争点2 本件青色取消処分は、違法又は不当か否か。また、本件各年分の所得税の各更正処分に係る通知書に理由附記がないことは違法か否か。

イ 法令解釈等

(イ) 青色申告制度とその承認取消し

A 所得税法が採用する申告納税制度が適正に機能するためには、納税義務者たる個人が帳簿書類を備え付け、これに全ての取引を正確に記帳し、これを基礎として申告を行うことが必要である。そこで、所得税法は、事業所得等を生ずべき業務を行い一定の所得を有する個人に対し、帳簿書類の備付け等を義務付け(同法第231条の2第1項)、申告の正確性を担保する手段として、税務職員に対し、個人の帳簿書類を検査する権限を付与し(同法第234条第1項)、この検査を拒み、妨げ若しくは忌避し、又はこの検査に関し偽りの記載をした帳簿書類を提示した者に対する罰則を定めている(同法第242条第9号及び第10号)。
 そして、所得税法は、帳簿書類を基礎とした正確な申告を奨励する趣旨で、一定の帳簿書類を備え付けている居住者に限って、税務署長の承認を受けて青色申告をすることを認め、当該居住者に対し課税手続や税額計算等に関する各種の特典を与えている。青色申告の承認を受けている居住者は、同法第231条の2第1項とは別に、同法第148条第1項によって帳簿書類の備付け等が義務付けられているが、その帳簿書類が上記の検査の対象となることは当然のことである。
 税務署長は、青色申告の承認を行うに当たって、青色申告の承認を申請した居住者の帳簿書類の備付け、記録及び保存が財務省令で定めるところに従って行われていることを確認し(同法第145条)、青色申告の承認を受けている居住者に対しても、帳簿書類について必要な指示をすることができ(同法第148条第2項)、この指示に従わなかった居住者や、帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載した居住者に対しては、青色申告の承認を取り消すことができるとされている(同法第150条第1項第2号及び第3号)。また、税務署長は、青色申告に係る所得税の課税標準又は純損失の金額の更正をする場合には、その居住者の帳簿書類を調査し、その調査により当該課税標準又は純損失の金額の計算に誤りがあると認められる場合に限り、更正をすることができるとされている(同法第155条第1項本文)。
 さらに、所得税法の委任を受けた所得税法施行規則第63条第1項は、青色申告の承認を受けている居住者は、帳簿書類を7年間保存しなければならないと規定しているが、この保存期間は、通則法第70条第5項所定の更正の制限期間に符合するものである。これらの各規定は、全て、税務職員が、青色申告の承認を受けた居住者の帳簿書類を適時に検査することができるように、その備付け、記録及び保存がされるべきことを当然の前提としているものということができ、そのようにして上記検査の円滑な実施が確保されることは、青色申告制度の維持に不可欠なものということができる。
 そうすると、所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けた居住者に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないこととしているというべきであり、居住者が税務職員の同法第234条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法第148条第1項の規定に違反し、同法第150条第1項第1号に該当するものというべきである。

B 事業者が税務調査において適法に帳簿書類の提示を求められ、これに応じ難いとする理由も格別なかったにもかかわらず、帳簿書類の提示を拒み続けたというような場合には、上記調査が行われた時点で所定の帳簿書類を保管していたとしても、税務職員の同法第234条の規定に基づく検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかったとして、同法第150条第1項第1号に定める青色申告承認の取消事由に該当することがある。

C もっとも、青色申告承認の取消処分が納税者に対して相当の不利益を課する処分であることに加え、上記Bのような青色申告承認の取消事由が法規上明文をもって規定されていないこと等からすれば、そのような取消事由の認定に当たっては、一定の慎重さが要求されるものというべきである。
 すなわち、納税義務者の帳簿書類の提示拒否の事実の有無は、一定の時点においてのみ判断されるべきものではなく、原処分庁の行う調査の全過程を通じて、原処分庁側が帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考えられる場合に、取消事由の存在が肯定されるものと解するのが相当である。

(ロ) 個人の青色申告承認の取消しに関する税務署長の裁量権とその限界
 青色申告承認による特典は大きく、一般にその取消しは、納税者に対して相当程度の不利益を課すこととなるところ、法が、これに関する定めを設けているのは、青色申告の承認を受けた納税者について、青色申告による特典等の付与を継続することが青色申告制度の趣旨・目的に反することとなるような一定の事情がある場合には、その承認を取り消すことができるものとすることによって、青色申告制度の適正な運用を図ろうとすることにあるものと解される。
 以上に述べた青色申告制度の趣旨及び青色申告承認の取消しの意義や所得税法第150条第1項柱書及び同項各号の規定の内容からすれば、同項各号に規定する事由が認められる場合に、青色申告の承認を取り消すかどうかは、基本的には税務署長の合目的的かつ合理的な裁量に委ねられているということができる。しかし、その裁量権の行使は、上記青色申告制度の趣旨及び青色申告承認取消しの意義に照らし、かつ、実際上、個人として事業所得等を生ずべき業務を行う納税者の帳簿書類の備付け、記録及び保存の水準は、その業種、業態、経営規模等を反映した一定の限界を有するものとならざるを得ないことに鑑みれば、青色申告承認取消処分をするかどうかの判断に当たっては、原処分庁において、納税者に係る所得税法第150条第1項第1号に該当する帳簿書類の備付け、記録の不備の程度、内容、その不備に基因する当該納税申告に係る信頼性の破壊の程度等を総合的に考慮して、それが真に青色申告による納税申告を維持させるにふさわしくない内容、程度に達しているものといえるかどうかという観点からこれをすべきものであって、納税者に係る帳簿書類の備付け、記録の状況が同条第1項第1号に該当するものであったとしても、そのことのみを根拠として、直ちに本件青色取消処分が税務署長の合目的的かつ合理的な裁量に委ねられた範囲内にあるものであることを基礎づけることはできないといわなければならない。

(ハ) 青色申告承認のために備え付けるべき帳簿について

A 所得税法第148条第1項は、青色申告の承認を受けた居住者に対し、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことを定めており、これを受けて、所得税法施行規則第56条ないし第64条は、青色申告者に対し、所定の取引を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ明瞭に記録し、その記録に基づき、貸借対照表及び損益計算書を作成し、また所定の記載方法に従った仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿を備えるべきことなどを定めている。

B しかしながら、個人の青色申告者全員について、仕訳帳、総勘定元帳その他必要な帳簿書類を備え付け、これにその所得に係る資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引を正規の簿記の原則に従い、整然と、かつ、明瞭に記録し、その記録に基づき、貸借対照表や損益計算書等の作成を求めることは、到底できるものではない。そこで、所得税法施行規則第56条第1項ただし書及びこれを受けた大蔵省告示は、青色申告者の帳簿書類について、簡易な記録の方法及び記載事項により帳簿書類(以下、当該帳簿を「簡易帳簿」という。)を作成することができる旨定めており、これによれば、青色申告者であっても、必ずしも仕訳帳や総勘定元帳を作成し、備え付ける必要はないのである。

C そうすると、確定申告書に貸借対照表の添付がなく、また、総勘定元帳を作成しない、いわゆる簡易帳簿しか備え付けられていない場合であっても青色申告の承認の要件を満たすものと解するのが相当である。
 そして、簡易帳簿の記録の方法及び記載事項は、青色申告書が提出できる年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額が正確に計算できるように、必要な帳簿を備え、その取引を大蔵省告示の別表第1各号の表の第2欄に定めるところにより、整然と、かつ、明瞭に記録しなければならないとされており(大蔵省告示第3項)、別表第1の1号の表の第2欄に定める記載項目のうち「売上に関する事項」は、取引の年月日、売上先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の売上げの合計金額を、「仕入に関する事項」は、取引の年月日、仕入先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の仕入れの合計金額を、「仕入以外の費用に関する事項」は、当該費用を適宜な科目に区分して、それぞれの取引の年月日、事由、支払先及び金額を記載することとされている。

ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人の帳簿等作成状況
 請求人の帳簿等の作成等の状況は、以下のとおりである。

A 請求人の本件各年分の事業所得に係る帳簿書類

(A) P5税理士は、本件業務出納帳から販売物件ごとに原価を集計した売上原価表と称する文書及び土地原価表と称する文書(以下、これらを併せて「本件各原価表」という。)を作成するとともに、本件各原価表及び本件事務所出納帳等に基づき総勘定元帳を作成していた。

(B) 本件業務出納帳には、「月日」、「収入金額」、「支払金額」及び「摘要」の各欄が設けられており、請求人が販売する不動産に係る収入金額及び売上原価に相当する支出金額が日付順に記載され、その全ての入出金について各「摘要」欄に取引先名、現場名及び入金内容ないし役務提供の内容等が記載入力されていた。
 また、本件事務所出納帳には、「月日」、「科目」、「支払金額」及び「摘要」の各欄が設けられており、請求人の事業所得に係る経費支出金額が日付順に記載され、各「科目」欄に当該経費支出に係る勘定科目が、各「摘要」欄に取引先名がそれぞれ記載入力されていた。

B 請求人の不動産所得に係る帳簿書類
 本件事務員は、預金通帳及び領収証等に基づき、不動産所得に係る家賃収入及び必要経費の入出金状況等を記録した文書(以下「本件不動産出納帳」という。)を作成し、申告書作成のためにP5税理士に交付していた。

C 請求人の確定申告書及び青色申告決算書
 P5税理士は、総勘定元帳を基に所得税青色申告決算書(一般用)を、本件不動産出納帳を基に所得税青色申告決算書(不動産所得用)をそれぞれ作成し、当該各所得税青色申告決算書を基に確定申告書を作成していた。

(ロ) 調査
 調査担当職員作成の調査報告書、メモ、預かり証及び原処分庁作成の質問回答書等に記載された調査の経過は、以下のとおりである。

A 調査担当職員は、平成24年4月12日午前10時頃、請求人の所得税及び消費税等に係る調査のため、請求人の事務所(以下「本件事務所」という。)に臨場し、請求人、本件事務員及びP5税理士と面談して請求人の事業内容等について質問調査を実施し、併せて、請求人の帳簿書類等の確認調査を行った。
 調査担当職員は、請求人の平成21年分ないし平成23年分の各総勘定元帳及び本件各出納帳、平成15年分ないし平成23年分の不動産売買契約書並びに平成20年分ないし平成23年分の各種経費の領収証を預かり、午後6時50分頃、本件事務所を辞去した。

B 調査担当職員は、平成24年4月16日、P5税理士の事務所に臨場し、P5税理士から、請求人の平成20年分の総勘定元帳及び申告関係書類を預かった。

C 調査担当職員は、平成24年4月18日午後1時10分頃、本件事務所に臨場し、請求人、本件事務員及びP5税理士に対し、本件各出納帳等を基に請求人の記帳状況等について質問調査を実施した。
 その際、調査担当職員は、P5税理士に対し、平成17年分から19年分までの総勘定元帳を提示してほしい旨要求したところ、P5税理士は、本件先行各年分の総勘定元帳については本件先行調査終了後破棄したと思われるが探してみる旨、少なくとも平成19年分の総勘定元帳のデータは保存しているかもしれない旨申し述べた。

D 調査担当職員は、平成24年5月1日午前10時35分頃、P5税理士に対して電話連絡を行ったところ、P5税理士は、請求人が本件をP5税理士以外の人に相談するかもしれないという話を聞いたところであるなどと述べた。調査担当職員が、平成17年分ないし平成19年分に係る総勘定元帳について聞いたところ、P5税理士は、本件先行各年分に係る各総勘定元帳について、先行調査終了後に廃棄した旨を申し述べ、併せて、本件先行各年分に係る総勘定元帳の提出についてしばらく猶予がほしい旨の要望を行った。
 調査担当職員は、平成17年分から平成19年分の総勘定元帳も含めた申告書類は、今回の調査では必要になること、保存義務は7年であることなどを告げ、5月7日以後に再度連絡を行う旨の応答をした。

E 原処分庁は、平成24年5月8日、請求人の関与税理士をP7税理士とする旨の税務代理権証書を収受した。

F 調査担当職員は、平成24年5月11日午前10時頃、本件事務所に臨場し、請求人、本件事務員及びP7税理士と面談し、調査担当職員がP5税理士に対して本件先行各年分に係る総勘定元帳を提示するよう要求したがP5税理士から総勘定元帳は保存していないとの回答を受けたことなどを伝えたところ、本件事務員は、直ちにP5税理士に電話で連絡したが、P5税理士から本件先行各年分の総勘定元帳について保存していない旨の回答を聞き、さらに、調査担当職員に対してもP5税理士からの当該回答を伝えた。
 その後、調査担当職員は、請求人の本件先行各年分の事業所得に係る売上原価及び経費に係る領収証等、不動産所得に係る経費の領収証並びに平成17年分の本件事務所出納帳を預かり、午後零時20分頃、本件事務所を辞去した。

G 調査担当職員は、平成24年6月1日午前10時55分頃、本件事務所に臨場し、これまで預かった帳簿書類等を全て請求人に返却した。
 その際、調査担当職員は、請求人に対し、総勘定元帳がない場合には消費税の仕入税額控除が認められなくなる旨の説明を行った。

H 調査担当職員は、平成24年6月7日、R国税局庁舎内の会議室において、上記(1)のロの(ハ)のとおり請求人、本件事務員及びP6税理士と面談した。
 その際、本件事務員は、調査担当職員からの本件先行各年分の総勘定元帳の提示の要求に対して、領収証については平成16年分から全て保存しており、これらを全て提示している旨申し述べたが、調査担当職員は、総勘定元帳がないためその確認ができない旨回答した。本件事務員は、調査担当職員に対し、自分がP5税理士に対して送った本件各出納帳に係るデータ等では総勘定元帳の代わりにならないのか等を尋ねたが、調査担当職員は、本件各出納帳は帳簿ではないため総勘定元帳の代わりとならない旨回答した。
 その後、本件事務員は、調査担当職員に対し、平成18年分の総勘定元帳を提出する旨申し述べた。

I 調査担当職員は、平成24年6月20日、R国税局庁舎内においてP5税理士と面談し、本件調査の結果に基づいて更正処分を行った場合、本件先行各課税期間における総勘定元帳の保存が確認できないために消費税の課税仕入れに係る消費税額の全額についてその控除が認められないこととなる旨の説明を行った。P5税理士は、本件先行調査の際に総勘定元帳を提示している旨申し述べたが、調査担当職員は、本件調査期間中に本件先行各課税期間の総勘定元帳の提示をすることが必要である旨回答した。
 さらに、調査担当職員は、P5税理士に対し、本件先行各年分の総勘定元帳及び当該総勘定元帳の作成の基となったデータの保存の有無を確認したが、P5税理士は、本件先行各年分の総勘定元帳については保存していない旨申し述べた。

ハ 判断

(イ) 本件青色取消処分
 原処分庁は、平成24年4月18日、同年5月1日、同月11日、同年6月7日及び同月20日の各本件調査の際、請求人及び関与税理士に対し、本件先行各年分の各総勘定元帳の提示を求めたにもかかわらず、請求人は当該総勘定元帳を提出しなかったため、平成18年分以後について本件青色取消処分をした旨主張するので、以下検討する。

A 上記イの(ハ)のB及びCのとおり、青色申告者が青色申告の承認を受けた事業について作成し保存する帳簿書類については、所得税法施行規則第56条ないし第62条及び第64条の各規定の全部を満たす必要はなく、青色申告の承認を受けるためには、必ずしも総勘定元帳自体を作成・保存している必要はなく、損益計算が正確にできる簡易帳簿で足りるのである。

B また、上記イの(ハ)のCのとおり、簡易帳簿の記録の方法及び記載事項は、まる1青色申告書を提出できる年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額が正確に計算できるように必要な帳簿を備え付け、その取引を、整然と、かつ、明瞭に記録すること、及び、まる2「売上に関する事項」は、取引の年月日、売上先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の売上げの合計金額を、「仕入に関する事項」は、取引の年月日、仕入先その他の相手方、品名その他給付の内容、数量、単価及び金額並びに日々の仕入れの合計金額を、「仕入以外の費用に関する事項」は、当該費用を適宜な科目に区分して、それぞれの取引の年月日、事由、支払先及び金額をそれぞれ記載することとされている。
 そうであるところ、上記1の(2)のハの(ホ)並びに上記ロの(イ)のA及びCのとおり、請求人が当審判所に提出した本件各出納帳を基礎として総勘定元帳、青色申告決算書ないし確定申告書が作成されていると認められること、さらに、本件各出納帳のうちの本件業務出納帳は、請求人の事業に基因する取引に係る領収証等を基礎として作成され、売上げ並びに売上原価に係る仕入れ及び外注費等について、取引年月日、取引の相手方名、取引金額及び給付、役務の内容がある程度明確に記載されており、また、本件事務所出納帳は、請求人の事業に係る一般経費について、取引年月日、取引の相手方名、取引金額及び勘定科目がある程度明確に記載されていることが認められる。
 そうすると、請求人が当審判所に提出した本件各出納帳は、所得税法施行規則第56条第1項ただし書及びこれを受けた大蔵省告示において、同規則第56条ないし第64条に規定する帳簿等に代わり青色申告者が作成し保存すべきものとされたに係る簡易帳簿としての要件を満たすものと解される。
 加えて、実際、青色申告承認が取り消された平成18年分について、請求人から当審判所に提出された総勘定元帳及び本件各出納帳等を精査したところ、まる1これら帳簿書類は記載内容等の状況からみて、日々継続して作成されたものであるとみても不自然な点は認められないこと、まる2平成18年分の確定申告書添付の事業所得の決算書記載の各科目の金額は、当審判所に提出された平成18年分の総勘定元帳の金額と一致すること、まる3当審判所に提出された平成18年分の総勘定元帳の金額及び記載内容は、当審判所に提出された平成18年分の本件各出納帳の金額及び記載内容と相互に一致すること、まる4当審判所に提出された平成18年分の本件各出納帳の金額及び記載内容は、平成18年分の領収書の金額及び記載内容と一致していること、まる5原処分庁が、本件先行調査においてこれらの帳簿書類の作成を確認していたことなどからすれば、請求人の平成18年分の所得税確定申告における事業所得の金額は、総勘定元帳を含め、これらの帳簿書類を基に算出したものであると認められ、以上の事情等からすれば、総勘定元帳によらずとも、本件各出納帳を調査すれば、請求人の申告内容の検証は十分に確保できたものと認められる。
 そうすると、調査担当職員が請求人に対して青色申告に係る帳簿書類の提示を求めたというためには、本件先行各年分の総勘定元帳の提示を求めるのみならず、当該総勘定元帳の保存がないこと等が確認された場合には、簡易帳簿の提示を求めるべきであったのであり、また、請求人としても、所得税法第148条第1項に規定する帳簿書類の保存義務を履行したというためには、簡易帳簿、本件においては本件各出納帳を保存していれば足りるものというべきである。そして、請求人が、これらの帳簿の保存義務を怠ったことは認めるに足りない。

C この点、原処分庁は、本件各出納帳には、日々の現金の残高の記載がなく、大蔵省告示の要件を満たさないと主張する。
 前記大蔵省告示によれば、青色申告の承認を受けた所得の金額が正確に計算できるように、必要な帳簿を備え、その取引を当該告示に定めるところにより、整然と、かつ、明瞭に記載しなければならず、現金取引については、日々の残高が正確かつ明瞭に把握できる記載が必要とされるところ、上記ロの(イ)のAの(B)のとおり、本件各出納帳は、日々の取引が明瞭に記載され日々の現金取引の残高が容易に把握されるものであるから、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。

D ところで、上記イの(イ)のとおり、青色申告の承認を受けた居住者は、財務省令で定めるところにより、帳簿書類を備え付けてこれにその取引を記録すべきことはもとより、これらが行われていたとしても、さらに、税務職員が必要と判断したときにその帳簿書類を検査してその内容の真実性を確認することができるような態勢の下に、帳簿書類を保存しなければならないというべきであり、居住者が税務職員の所得税法第234条の規定に基づく検査に適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかった場合は、同法第148条第1項の規定に違反し、青色申告の承認を受けた業務に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が財務省令で定めるところに従っていないことに該当するものというべきである。そして、居住者が帳簿書類の提示を拒否したことをもって税務職員の同法第234条の規定に基づく検査に適時に帳簿書類を提示することが可能なように態勢を整えて当該帳簿書類を保存していなかったとして青色申告承認を取り消すに当たっては、提示の拒否の事実について、一定の時点においてのみ判断されるべきものではなく、原処分庁の行う調査の全過程を通じて、原処分庁側が帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考えられる場合に、取消事由の存在が肯定されるというべきである。
 そうであるところ、上記ロの(ロ)のC、D、F、H及びIのとおり、調査担当職員は、平成24年4月18日、5月1日、同月11日、6月7日及び同月20日、請求人及び関与税理士であるP5税理士、P7税理士又はP6税理士に対して、本件先行各年分の総勘定元帳の提示を求め、いずれの提示要求に対しても本件先行各年分の総勘定元帳の保存がない旨の回答を受けていることから、調査担当職員が本件先行各年分の総勘定元帳について十分な確認及び精査をすることができなかった事実が認められるが、その一方で、調査担当職員が請求人の申告の基礎となる簡易帳簿に該当する本件各出納帳の提示を要求したことをうかがわせる証拠はない。かえって、調査担当職員は、平成24年6月7日、請求人らと面談した際、本件事務員から、総勘定元帳の代わりに本件各出納帳に係るデータ等を提示する意向を示されて、本件各出納帳は帳簿ではないため総勘定元帳の代わりとならないなどと回答しているところ、このような回答状況からは、原処分庁は、調査当時、請求人が本件各出納帳を提示したとしても、これを受ける意思はなかったものと認められる。
 そうすると、本件において、原処分庁が、原処分庁の行う調査の全過程を通じて、原処分庁側が帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力をし、それにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったものとはいえない。

E これに対して、原処分庁は、調査担当職員が請求人に対して本件先行各年分の総勘定元帳の提出を繰り返し要請したにもかかわらず、請求人が本件先行各年分に係る本件各出納帳をはじめとする帳簿書類を提出しなかった旨、さらに、仮に請求人から本件各出納帳の提示の申出があったとすれば、それを拒否する理由がない旨主張する。
 しかしながら、上記で認定・説示のとおり、請求人は、簡易帳簿の要件を満たす帳簿書類を作成し、かつその後当審判所に対して提出し得たところ、調査担当職員が請求人に対して本件先行各年分の本件各出納帳の提示要求を行ったと認めるに足りる証拠はなく、また、原処分庁が原処分庁の行う調査の全過程を通じて、原処分庁側が総勘定元帳以外の帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったとはいえない。
 かえって、上記ロの(ロ)のF及びHのとおり、調査担当職員は、請求人の本件先行各年分の事業所得に係る売上原価及び経費に係る領収証等の提示を受けてこれらを預かっており、さらに、本件事務員からの本件各出納帳の提示の申出を明確に拒否しているのである。したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。

F 以上のとおりであり、請求人に係る帳簿書類の備付け、記録の状況が、所得税法第150条第1項第1号に該当するものであったことを認めるに足りず、また、仮に同状況がこれに該当するものであったとしても、請求人は従業員2名を有する個人経営者であることや、請求人が当審判所に提出した本件各出納帳を確認することにより、請求人の売上げ、仕入れ及び経費の内容並びに金額を調査することが可能であったと認められることから、請求人に係る帳簿書類の備付け、記録及び保存の不備が、請求人の業種、業態、経営規模等を考慮してもなお、真に青色申告による納税申告を維持させるにふさわしくない内容、程度に達しているとは認められない。
 これらに併せて、上記ロの(ロ)のHのとおり、調査担当職員が、請求人からの本件先行各年分の本件各出納帳の提示の申出を拒否したことからすると、本件調査の全過程を通じて原処分庁が帳簿の備付状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力をしたとは認められず、所得税法第150条第1項第1号に即して、請求人が平成18年分の帳簿を保存していなかったと認めるに足りる十分な根拠のないまま本件青色取消処分に及んだといわざるを得ない。
 なお、原処分庁は、所得税法第150条第1項第3号については処分理由としておらず、原処分に際しても、同事情があることを理由として附記していないことは、上記1の(2)のホの(ロ)記載のとおりである。

G そうすると、本件青色取消処分については、その余の点について判断をするまでもなく違法であり、取り消しを免れない。

(ロ) 本件各年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分に理由附記がないことについて
 本件各年分の所得税の各更正処分並びに過少申告加算税ないし重加算税の各賦課決定処分は、本件青色取消処分を前提として行われたことは上記1の(2)のホの(イ)のとおりであるところ、上記(イ)のGのとおり、本件青色取消処分は違法として取り消しを免れないものである。そうすると、所得税法第155条第2項により、本件各年分の総所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、更正通知書にその更正の理由を附記しなければならないこととなるが、当審判所が調査したところによれば、当該更正通知書にはいずれもその更正の理由が附記されていない。
 したがって、争点3から争点5までを判断するまでもなく、本件各年分の所得税の各更正処分は、いずれも所得税法第155条第2項に反して違法にされたものであるから、同処分並びにこれに付随してなされた過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分は、違法なものとして、その全部が取り消されるべきである。

(3) 争点6 消費税等の課税売上げに計上漏れがあったか否か。

イ 法令解釈等

 消費税法第4条第1項は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には、この法律により消費税を課する旨規定し、さらに、同法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」をいうものとし、消費税の課税の対象について、包摂的に規定している。消費税は、財貨及び役務が生産から流通の過程を経て消費者に提供される流れの中で、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税することにより、間接的に消費者に負担を求める税である。
 そして、消費税法基本通達5−1−2は、消費税法第2条第1項第8号に規定する「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」とは、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいうから、無償による資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、資産の譲渡等に該当しないことに留意する旨定めているところ、当該通達の定めは、消費税法第2条第1項第8号にいう「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」の意味を念のため明らかにしたものとして、当審判所においても相当と認める。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件法人は、請求人の業務に係る不動産の販売仲介業務を請求人から受託しており、仲介した不動産に係る販売代金の清算の際に、顧客に対して本件法人名義の決済明細書を交付している。

 決済明細書には、決済明細書作成日、契約日、顧客名、決済日及び決済時間、物件所在地、住居表示の各記載欄があり、また、不動産の販売代金の清算項目として、販売した不動産の未収代金相当額を記載する「物件決済残代金」欄、追加工事代金を記載する「追加工事代総額」欄、保険及び登記等の諸費用の合計額を記載する「諸費用総額」欄及びこれらの合計額であり、請求すべき清算代金総額を記載する「決済金総額」欄を備えている。
 なお、「諸費用総額」欄の内訳として、「その他費用」欄があり、その中に未経過固定資産税・都市計画税に係る「固定資産税、都市計画税」欄のほか、各種の顧客への請求をすべき費用を記載する欄が設けられている。

(ロ) 本件各従業員(本件法人の元営業担当者であるP8従業員及びP9従業員)は、調査担当職員に対して、各自が有する決済明細書の写し(以下「本件決済明細書写し」という。)を提出した。

 そのうち、P9従業員は、原処分庁に対し、要旨以下のとおりの申述を行った。なお、P9従業員は、原処分に関し請求人と利害関係がなく、その申述の内容には、格別不自然な点は認められず、その提出する本件決済明細書写しや、本件売上先の保管する不動産契約書、領収証等の書面とも整合し、信用することができるから、以下のとおりの事実が認められる。

A P9従業員は、平成19年12月から平成23年4月まで本件法人に勤務していた。P9従業員が本件法人に勤務していた時期に、P8従業員も本件法人に勤務していた。

B 決済明細書は、本件法人において作成していた書類であるが、P8従業員を含む各営業担当者は、自身のパソコンを本件法人に持ち込んで作成していた。P9従業員は、本件法人に備え付けてあったパソコンを使用して決済明細書を作成していたが、本件法人が新しいパソコンを購入した際に、それまで決済明細書を作成していたパソコンをもらい受けたことから、P9従業員が担当した顧客に係る決済明細書のデータがP9従業員の手に渡ることとなった。

C 決済明細書は、銀行での最終決済を行う直前に、顧客に必ず渡すこととなっており、P9従業員が担当した顧客にも渡していた。その際、担当した顧客から質問を受けても対応できるように、本件決済明細書写しをパソコンに保存していた。そのため、P9従業員が使用しているパソコンに保存している決済明細書のデータは、顧客に最終決済時に確認してもらい、顧客に渡したものと同じ内容である。

D 最終決済前に、請求人ないし本件事務員から決済明細書記載の各項目に係る金額が記載された領収証を預かり、決済代金と引換えに当該領収証を顧客に渡していた。

E 決済明細書に記載された金額のうち、M社(請求人の名称)が受領する金額は、「物件決済残代金」と「追加工事代総額」と「諸費用総額」のうちの「その他費用合計」である。

(ハ) 本件決済明細書写しは、本件売上先が保管している決済明細書と同じ内容であり、また、本件決済明細書写しの各欄に記載されている金額については、領収書等の保管がなかったP27を売上先とする固定資産税清算金を除き、本件売上先の保管する不動産売買契約書や領収証にそれぞれ記載されている金額と整合する。

ハ 判断

(イ) 当審判所の判断

 本件について、上記イ及びロに基づいて、請求人の本件各課税期間の本件追加工事代金等に係る課税売上高(税込み)を審理した結果は、別表3の「審判所認定額」のとおりである。
 請求人が争っている課税売上高に関して上記のとおり認定・判断した理由は、以下のとおりである。
 なお、本件先行各課税期間の課税売上高においては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所において審理した結果においても原処分庁主張額のとおりの本件追加工事代金等に係る課税売上高があったと認められる。

A 決済明細書は、請求人の業務に係る不動産の販売仲介業務を受託している本件法人が、仲介した不動産に係る販売代金の清算の際に、顧客に対して交付するものである。ところで、当審判所の調査の結果によれば、決済明細書の一部については、売上先に保管はなく、本件各従業員がパソコン内に保存していたデータが残っているのみであるものと認められる。しかし、当該データのうち、これに対応する決済明細書が売上先に保管されているものについて、互いに照合したところ、当該データと売上先の保管していた決済明細書は同じ内容であるものと認められたことや、これを保存した経緯に係るP9従業員の申述が上記ロの(ロ)の認定のとおりであることなどからすれば、決済明細書のデータについては、決済明細書と同内容が保存されていたものと推認でき、これを覆すに足りる事情は認められない。

 なお、以後、決済明細書又はそのデータのことを、単に本件決済明細書と記載することとする。

B 次に、本件決済明細書の各欄に記載されている追加工事代金等の金額については、領収書等の保管がなかった後記P27を売上先とする固定資産税清算金を除き、本件売上先の保管する不動産売買契約書や領収証にそれぞれ記載されている金額と整合する。そうすると、本件決済明細書は、そのデータを保管していた本件各従業員と請求人との人的関係その他請求人の主張する事情にかかわらず信用でき、これに記載された金額が、請求人の課税資産の譲渡等の対価の額として確定し、併せて、本件売上先から本件法人に支払われたものと認められる。

C そして、本件法人は、仲介業者として本件売上先からこれらの金額の支払を受けていたことが認められるところ、P9従業員の申述によれば、これらの金額のうち、「物件決済残代金」と「追加工事代総額」と「諸費用総額」のうち「その他費用合計」記載の金額は、請求人が受領していたものと推認でき、請求人の売上げであるものと認められる。

D 以上を前提に、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間における請求人の課税売上高のうち、請求人が争っているものについて、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果により認められる各事実を踏まえて、以下検討する。

 なお、その他の項目については、請求人は積極的に争っておらず、上述のとおり信用できる本件決済明細書等から、本件追加工事代金等が請求人の課税売上高(税込み)として確定し、併せて、請求人が当該金員を受け取ったことが推認できる。

(A) P10に係る地鎮祭費用

 請求人は、P10から地鎮祭費用を収受していない旨主張するが、同人は、宛先が同人、受領者が請求人の屋号であるM社名義で平成20年8月28日付の領収金額○○○○円を地鎮祭の費用として領収した旨記載された領収証、及び、平成20年8月8日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に地鎮祭一式費用○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より地鎮祭費用○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(B) P11に係る契約書貼付印紙代

 請求人は、P11に係る契約書貼付印紙代は領収していない旨主張するが、同人は、平成20年4月22日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に契約書貼付印紙代○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より同契約書貼付印紙代○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(C) P12に係る契約書貼付印紙代

 請求人は、P12に係る契約書貼付印紙代は領収していない旨主張するが、同人は、平成21年5月21日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に契約書貼付印紙代○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より同契約書貼付印紙代○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(D) P13に係る契約書貼付印紙代

 請求人は、P13に係る契約書貼付印紙代は領収していない旨主張するが、同人は、平成22年4月23日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に契約書貼付印紙代○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より同契約書貼付印紙代○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(E) P14に係る追加工事代金

 請求人は、P14に係る正しい追加工事代金は、○○○○円である旨主張するが、同人は、宛先が同人、受領者が請求人名義で、平成22年8月31日付のまる1領収金額が○○○○円で新築追加工事代金である旨記載された領収証及びまる2領収金額が○○○○円で電気追加工事費である旨記載された領収証、並びに、平成20年8月27日付の「追加工事代金総額」欄に追加工事代金が○○○○円となる旨、及び決済当日に電気追加工事分○○○○0円の自己資金が必要となる旨記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より平成22年8月31日に「追加工事代金」として○○○○円を受領したほか、「電気追加工事代金」として○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(F) P15に係る建築確認等の費用

 請求人は、P15に係る建築確認等の代金は○○○○円ではなく○○○○円である旨主張するが、同人は、宛先が同人、受領者が請求人名義で、平成22年6月29日付のまる1領収金額が○○○○円で新築追加工事代金である旨記載された領収証、まる2領収金額が○○○○円で地盤改良工事代金である旨記載された領収証、まる3領収金額が○○○○円で書類作成費用である旨記載された領収証、まる4領収金額が○○○○円で建設確認申請及び中間・完了検査一式の費用である旨記載された領収証、及び、平成22年6月25日付の「追加工事代金総額」欄に追加工事代金が○○○○円と、「諸費用総額」欄のうちの「登記関係費用」欄に書類作成費用が○○○○円と、同じく「その他費用」欄に地盤改良工事代金が○○○○円と、建築検査立会及び中間・完了検査費用が○○○○円と記載された本件決済明細書をそれぞれ受領していたと認められ、同人に係る建築確認等の代金は○○○○円であると推認できるものの、結局のところ、請求人は、同人より、合計○○○○円を受け取ったものと推認され、請求人の同人に係る課税売上高(税込み)は、原処分庁が認定したとおりの金額であると認められる。

(G) P16・P17に係る水道分担金

 請求人は、P16・P17に係る水道分担金は領収していない旨主張するが、同人らは、平成21年8月17日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に水道分担金○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人らより同水道分担金○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(H) P18に係る水道市納金及び建築確認申請費用

 請求人は、P18に係る水道市納金及び建築確認申請費用は領収していない旨主張するが、同人は、平成22年12月3日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に水道市納金○○○○円及び建築確認費用○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より同水道市納金○○○○円及び建築確認申請費用○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(I) P19に係る振込手数料

 請求人は、P19に係る振込手数料は領収していない旨主張するが、同人は、平成22年10月18日付の「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に振込手数料○○○○円と記載された本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より振込手数料○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(J) P20に係る○○証券発行手数料

 請求人は、P20に係る○○証券発行手数料は領収していない旨主張するが、同人は、宛先が同人、受領者が請求人名義の平成23年7月29日付の領収金額が○○○○円で建築確認申請費用(○○○○円)及び○○証券発行手数料(○○○○円)として領収した旨記載された領収証を受領していたと認められ、請求人は、同人より○○証券発行手数料○○○○円を受領していたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(K) P27に対する固定資産税・都市計画税の清算金等

 原処分庁は、請求人のP27に対する本件追加工事代金等に係る課税売上高(税込み)について、追加工事代金○○○○円、水道市納金○○○○円及び建築確認申請費用○○○○円のほか、固定資産税・都市計画税の清算金○○○○円を加え、○○○○円と認定している。
 P27は、宛先が同人、受領者が請求人の屋号であるM社名義で、平成22年4月20日付のまる1領収金額が○○○○円で追加工事代金として領収した旨記載された領収証並びにまる2領収金額が○○○○円で水道市納金及び建築確認申請費用として領収した旨記載された領収証、並びに、平成22年4月6日付の「追加工事代総額」欄に追加工事代金が○○○○円と、「諸費用総額」欄のうちの「その他費用」欄に水道市納金○○○○円及び建築確認申請費用○○○○円とそれぞれ記載されていたが、固定資産税・都市計画税について記載されていない本件決済明細書を受領していたと認められ、請求人は、同人より、追加工事代金○○○○円、水道市納金○○○○円及び建築確認申請費用○○○○円の合計○○○○円を受領したと推認できるものの、固定資産税・都市計画税の清算金○○○○円についてはその受領を認めるに足りない。原処分庁は、同人が保管していた「平成22年度 固定資産(土地)明細書」及び「固定資産税・都市計画税計算書」の写しを提出しているものの、これらは、必ずしも請求人が当該金員を受け取ったことを明らかにするものとはいえない。したがって、請求人が同人に係る固定資産税清算金を受領したことは認められず、課税売上げの計上漏れとは認められない。
 そうすると、請求人の同人に対する課税売上高(税込み)は、○○○○円となる。

(ロ) 請求人の主張について

 請求人は、P9従業員が本件売上先に渡した本件決済明細書を後々のこともあるので自分のパソコンに保存している旨の申述がねつ造されたものである旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、P9従業員は、本件決済明細書を保管していた理由について、本件法人に備え付けてあったパソコンを使用して本件決済明細書を作成していたが、本件法人が新しいパソコンを購入した際に、それまで本件決済明細書を作成していたパソコンをもらい受けたことから、P9従業員が担当した顧客に係る本件決済明細書がP9従業員の手元に残ることとなったと申述しているものである。また、本件決済明細書写しに係るデータの内容が、売上先に保管されていた決済明細書、領収書、不動産契約書の内容と整合し、P9従業員が当該データを保管していた経緯にかかわらず信用できることも前記認定・説示のとおりである。
 そうすると、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(4) 争点7 本件先行各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除が認められるか否か。

イ 法令解釈

(イ) 消費税法における帳簿の保存等義務

 消費税の納付すべき税額は、納税義務者である事業者が課税期間ごとにする「課税資産の譲渡等についての確定申告」により確定することが原則とされており(消費税法第45条第1項、通則法第16条第1項第1号)、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合に限り、税務署長等の処分により確定する(通則法第16条第1項第1号、同法第24条及び第25条)。
 このような申告納税方式の下では、納税義務者のする申告が事実に基づいて適正に行われることが肝要であり、必要に応じて税務署長等がこの点を確認することができなければならない。そこで、事業者は、帳簿を備え付けてこれにその行った資産の譲渡等に関する事項を記録した上、当該帳簿を保存することを義務付けられており(消費税法第58条)、国税庁、国税局又は税務署の職員(以下「税務職員」という。)は、必要があるときは、事業者の帳簿書類を検査して申告が適正に行われたかどうかを調査することができるものとされ(同法第62条)、税務職員の検査を拒み、妨げ、又は忌避した者に対しては罰則が定められていて(同法第65条第4号)、税務署長が適正に更正処分等を行うことができるようにされている。
 消費税法が事業者に対して上記のとおり帳簿の備付け、記録及び保存を義務付けているのは、その帳簿が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしていることが明らかである。そして、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、課税仕入れに関する事項も同法第58条により帳簿に記録することが義務付けられているから、税務職員は、上記の帳簿を検査して上記事項が記録されているかどうかなどを調査することができる。

(ロ) 仕入税額控除と帳簿及び請求書等の保存

 仕入税額控除について、消費税法第30条第1項は、事業者が国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条第1項第2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。
 そして、消費税法第30条第7項は、同法第58条の場合と同様に、当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等が税務職員による検査の対象となり得ることを前提にしているものであり、事業者が、国内において行った課税仕入れに関し、同法第30条第8項第1号所定の事項が記載されている帳簿を保存している場合及び同条第9項第1号所定の書類で同号所定の事項が記載されている請求書等を保存している場合において、税務職員がその両方を検査することにより課税仕入れの事実を調査することが可能であるときに限り、同条第1項を適用することができることを明らかにするものであると解される。これに関し、消費税法第30条第10項の委任を受けて同条第7項に規定する帳簿及び請求書等の保存に関する事項を定める消費税法施行令第50条第1項は、同法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者が、同条第7項に規定する帳簿及び請求書等を整理し、所定の日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないことを定めているが、これは、国税の更正、決定等の期間制限を定める国税通則法第70条が、その第5項において、その更正又は決定に係る国税の法定申告期限等から7年を経過する日まで更正、決定等をすることができると定めているところと符合する。
 消費税法第30条第7項によれば、事業者が上記帳簿及び請求書等を保存していない場合には同条第1項が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、上記帳簿又は請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。
 以上のとおり、事業者が、消費税法施行令第50条第1項の定めるとおり、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等、すなわち、法定帳簿及び法定請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、同法第62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、同法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条第1項の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されないものというべきである。

(ハ) 法定帳簿・法定請求書等の記載事項等

A 消費税法第30条第7項に規定する法定帳簿については、その対象物が帳簿であること、すなわち、日々の取引を証ひょう書類等の原始記録を基に、整然と、かつ、明瞭に記録されるものであることが必要とされるほか、同条第8項により、課税仕入れに係るまる1相手方の氏名又は名称、まる2課税仕入れの年月日、まる3その資産又は役務の内容及びまる4支払対価の額の各記載が必要である。

B そして、消費税法第30条第7項に規定する法定請求書等のうち、事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が交付する請求書、納品書等については、同条第9項第1号により、まる5書類の作成者の氏名又は名称、まる6課税資産の譲渡等を行った年月日、まる7課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、まる8課税資産の譲渡等の対価の額及びまる9書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称の法定記載事項の各記載が必要である。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人は、異議調査手続において、平成18年課税期間に係る総勘定元帳を提出した。さらに、請求人は、当審判所に対して、本件先行各課税期間の総勘定元帳、本件各出納帳及び領収証等をそれぞれ提出した。

(ロ) 本件先行各課税期間の本件各出納帳に係る記載内容

A 本件先行各課税期間の本件業務出納帳は、いずれも、「月日」、「収入金額」、「支払金額」及び「摘要」の各欄が設けられており、請求人の事業に係る売上げの収入金額及び売上原価に係る支出金額が日付順に記載され、その全ての入出金について、各「摘要」欄に取引先名、現場名、入金内容ないし提供された役務の内容等が記載入力されていた。

B 本件先行各課税期間の本件事務所出納帳は、いずれも、「月日」、「科目」、「支払金額」及び「摘要」の各欄が設けられており、請求人の事業所得に係る経費支出金額が日付順に記載され、「月日」欄に支払日、「科目」欄に当該経費支出に係る勘定科目、「摘要」欄に当該経費の支払先及び「支払金額」欄に当該経費の支払金額がそれぞれ記載入力されていた。

(ハ) 本件先行各課税期間の領収証には、いずれも、作成者名、支払日、支払金額、支払先が記載され、摘要欄には現場名の記載がされていた。

ハ 判断

 原処分庁は、請求人が本件調査において本件先行各課税期間の総勘定元帳を提示しなかったことから、消費税法第30条第8項に規定する帳簿の提示がなかったとして、課税仕入れに係る消費税額の税額控除が認められない旨主張するので、以下検討する。

(イ) 帳簿の提示要求ないし備付け状況等の確認について

 上記イの(ロ)のとおり、事業者が、法定帳簿及び法定請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、消費税法第62条に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、同法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを証明しない限り、課税仕入れに係る消費税額の控除の規定は、当該保存がない課税仕入れに係る課税仕入れ等の税額については、適用されない。
 そうしたところ、上記(2)のハの(イ)で認定・説示したとおり、調査担当職員は、請求人に対し、本件調査の全期間を通じて、本件先行各課税期間の法定帳簿に該当する本件各出納帳の提示を要求し、その備付け状況の確認を行っておらず、また、調査担当職員が本件調査の全期間を通して本件各出納帳の備付け状況等の確認を行うことが客観的にみてできなかったともいえない。
 そうすると、請求人の本件先行各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の控除が認められないとした処分は、原処分庁がその処分理由として主張する事実の存在を肯定することはできないこととなるから、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。

(ロ) 帳簿等の保存ないし記載状況等について

A 上記1の(2)のハの(ホ)、上記(2)のロの(イ)及び上記ロの(イ)並びに当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件先行各課税期間の本件各出納帳を確定申告前に作成し、本件各出納帳を基礎として各総勘定元帳を作成し、さらに消費税等の確定申告書を作成したと認められる。

 そして、上記イの(ハ)のとおり、法定帳簿については、日々の取引を証ひょう書類等の原始記録を基に、整然と、かつ、明瞭に記録される必要があり、さらに、消費税法第30条第8項により、課税仕入れに係るまる1相手方の氏名又は名称、まる2課税仕入れの年月日、まる3その資産又は役務の内容及びまる4支払対価の額の法定記載事項の各記載が必要であるところ、上記ロの(ロ)のとおり、本件先行各課税期間の本件各出納帳には、本件先行各課税期間における請求人と外注先との日々の取引が整然と、かつ、明瞭に記載され、課税仕入れに係る支払先の宛名、支払日、現場名と工事内容又は支払の科目、支払金額が記載されていることを考慮すると、本件先行各課税期間の本件各出納帳の記載内容からは、同条第8項に規定された法定記載事項が全て記載されていることが明らかに認めることができる。そうすると、請求人が、消費税法上の帳簿の保存義務を果たしたというためには、本件各出納帳の保存があれば足る。

B さらに、上記(2)のロの(ロ)のF、上記ロの(イ)及び(ハ)並びに当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件先行各課税期間の領収証等を保存していたものと認められる。

 そして、上記イの(ハ)のとおり、事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が交付する請求書、納品書等については、消費税法第30条第9項第1号により、まる5書類の作成者の氏名又は名称、まる6課税資産の譲渡等を行った年月日、まる7課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容、まる8課税資産の譲渡等の対価の額及びまる9書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称の法定記載事項の各記載が必要であるところ、上記ロの(ハ)のとおり、本件先行各課税期間の領収証等には、作成者名、支払日、支払金額、支払先及び摘要欄には現場名が記入されていることを考慮すれば、本件先行各課税期間の領収証等の記載内容からは、同条第9項第1号に規定された法定記載事項が全て記載されていることが明らかに認めることができる。

(ハ) まとめ

 以上のとおり、本件各出納帳は、消費税法第30条第8項に規定された法定記載事項が全て記載されている法定帳簿に該当し、本件先行各課税期間に関し、請求人が保存していた領収証等は、同条第9項第1号に規定された法定記載事項が全て記載されている法定請求書等の要件を満たす。そして、請求人は、本件領収証等を保存していたのであり、本件各出納帳についても、本件調査の際には提示を求められておらず、後にこれを提示していることは前記のとおりであるから、請求人に、仕入税額控除を否認すべき消費税法上の法定帳簿・法定請求書等の保存等義務の違反があったことを認めるに足らない。そうすると、本件先行各課税期間の消費税等の各更正処分のうち、課税仕入れに係る消費税額の控除を否認した部分については、その全てを取り消すべきである。

(5) 争点8 消費税等の課税仕入れに過大計上があったか否か。

 原処分庁が過大計上であると主張する消費税等の課税仕入れについて、請求人の課税仕入れの相手先である外注先ごとに検討したところ、以下のとおりである。

イ S社について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A S社は、請求人から電気配線工事を請け負う業者である。

 調査担当職員は、平成24年5月14日、○県○市○町所在のS社の本社事務所に臨場し、S社が業務上作成し、保管している会計日記帳と題する帳簿(以下「本件会計日記帳」という。)について、平成21年4月分ないし平成24年3月分までの提示を受けた。
 その際、調査担当職員は、平成21年3月分以前の本件会計日記帳について、その保存の有無について確認できなかった。

B S社は、平成24年5月23日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件S社回答書」という。)を提出したが、その際、S社の代表取締役のP21は、S社と請求人との取引内容について、本件会計日記帳に請求人から実際に現金で受け取った金額を記帳しており、本件会計日記帳を確認すれば正確な取引金額が分かる旨を申し述べた。

C 本件S社回答書に記載された取引金額のうち、複数の取引日に係る支払金額は、本件会計日記帳記載の請求人との取引金額と一致していない。

(ロ) 判断

A 本件S社回答書は、S社が原処分庁の調査に際して過去の取引内容を振り返って作成したものであり、S社の代表取締役のP21は、請求人とS社の正確な取引金額については本件会計日記帳を確認すれば分かる旨申述している。そして、上記(イ)のBにおけるP21の申述及び本件会計日記帳の記載内容からすれば、本件会計日記帳は、S社が業務上日々取引内容を記載し、作成した帳簿であると認められるから、その信用性は高い。しかるに、上記(イ)のCのとおり、本件S社回答書に記載された金額の一部は、本件会計日記帳記載の請求人との取引金額と一致していない。そうすると、請求人とS社との間の取引金額について、本件S社回答書の記載には裏付けがないことになり、その記載のとおりであると認めることはできない。

B また、平成21年3月分以前の本件会計日記帳について調査担当職員は保存を確認できず、本件の全証拠をもってしても、本件S社回答書記載の金額のうち、平成20年1月分ないし平成21年3月分の取引金額が正確に記載されていることを裏付けるに足りない。

C 以上のとおりであり、ほかに原処分庁主張の課税仕入れの金額が正しいことを認めるに足りる証拠もないのであるから、請求人がS社からの課税仕入れの金額を過大に計上しているとする原処分庁の主張は採用することができず、請求人のS社からの課税仕入れの金額は、別表4−1の「審判所認定額」欄のとおりであって、当該金額は、請求人の主張する金額と同額である。

ロ b社について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A b社は、請求人にサッシ類を納入する業者である。

 調査担当職員は、平成24年5月22日、○県○市○町所在のb社の事務所に臨場し、代表取締役のP28及び常務取締役のP29と面談し、b社の事業概況等を質問するとともに、b社が業務上作成し、保管している平成17年課税期間ないし平成23年課税期間の現金出納帳と称する帳簿(以下「本件b出納帳」という。)及び請求書控の提示を受けた。
 その際、調査担当職員は、本件b出納帳に記載された請求人との取引金額についてその請求額と一致しないことについて質問したところ、P28又はP29は、調査担当職員に対し、請求人との取引の決済状況について、まる1決済前に本件事務所に請求書を持参するが、端数等を削られた決済の見込金額を決めること、及び、まる2上記まる1の数日後に本件事務所において現金集金を行うが、その際に、領収証に決済額より多い領収金額を記載するよう依頼されること等を申し述べた。

B b社は、平成24年5月25日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件b回答書」という。)を提出したが、その際、P28は、請求人との取引内容について、以下のとおりの申述を行い、当該申述内容を記載した質問てん末書に署名・押印を行った。

(A) b社は、毎月1回程度請求人との取引に関し請求書を作成して請求人の事務所に持参するが、その後請求人から請求金額を値切られ、値引き後の金額を現金で受け取る。そのため、b社が発行する請求人に対する請求書には、値引きをされる前の請求金額が記載されている。一方、現金で決済される際に「N社」ないし「M社」(いずれも請求人の名称)に宛てて作成する領収証には、請求人からの要請により、b社の常務取締役であるP29が、実際の受取金額に数万円ないし200,000円程度の金額が上乗せされた虚偽の金額を記載している。

(B) 本件b出納帳には、請求人から実際に現金で受け取った正確な金額が記載されている。

C 本件b回答書に記載された金額は、本件b出納帳記載の取引金額と一致しており、さらに、本件b回答書に記載された請求人との取引金額に、数万円ないし数十万円程度上乗せされた金額が、b社作成の請求人宛の領収証に記載されていた。

(ロ) 判断

A 上記(イ)のA及びBのとおり、P28の調査担当職員に対する申述によれば、請求人とb社との取引内容を正確に反映しているのは、本件b出納帳であることとなる。そこで検討するに、本件b出納帳は、その記載内容からb社が業務の遂行上日々の現金取引について業者名や取引金額を記載する帳簿であると認められ、その信用性は高い。
 そして、上記(イ)のCのとおり、b社作成の請求人宛の領収証には、本件b出納帳に記載されたb社と請求人との取引金額に数万円ないし数十万円程度上乗せされた金額が領収金額として記載されており、P28の申述内容と合致するのである。P28の前記申述は、このように客観的証拠とよく整合して格別不自然な点もなく、信用できる。

B この点につき、請求人は、P28が平成25年6月19日付で作成した、前記申述をした覚えはないとか、R国税局の高圧的な態度に恐怖し、書面の内容を確認せずに署名・押印した、M社との取引は息子のP29が行っており、自分は請求人と会ったこともないなどとする文書や、P29が平成24年6月8日付で作成した、領収金額を増額して記入したことはないなどとする文書をそれぞれ提出しているが、これらの文書は、結局のところ、実際にb社作成の請求人宛の領収証の金額と本件b回答書及び本件b出納帳記載の金額が一致しないことについて何ら説明するものではなく、前記P28の調査担当職員に対する申述の信用性を覆すに足りない。
 なお、P28は、前記平成25年6月19日付の文書で、自己に係る質問てん末書について、自分が署名押印した文書と明らかに違っており、後ですり替えられたものであるなどとも述べているが、同質問てん末書は、署名・押印欄のある最終ページのほか、質問と応答の具体的な内容が記載された各ページについても、b社の社印や、「P28」名義の印鑑が押されていることなどから、P28の上記申述は信用できない。

C そうすると、本件b出納帳は、信用性があるものと認められ、b社と請求人との実際の取引金額が記載されていると認められる。

D 以上のことからすれば、本件b回答書記載の金額は、上記(イ)のCのとおり、本件b出納帳記載の金額に裏付けられるので信用性があり、請求人のb社からの課税仕入れの金額は、別表4−2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

ハ d社について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A d社は、請求人から建物の外壁工事を請け負う業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月17日、○県○市○町所在のd社の本社事務所に臨場し、d社が業務上作成し、保管している売上帳(以下「本件d売上帳」という。)及び請求書綴について、それぞれ平成20年分及び平成21年分の提示を受けた。

B d社は、平成24年5月25日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間及び平成21年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件d回答書」という。)を提出したが、その際、d社の代表取締役であるP30は、d社と請求人との取引内容について、請求人に係る請求書控の金額と本件d売上帳とを確認すれば正しい取引金額が分かる旨、さらに、本件d売上帳とd社が発行した領収証の金額とが異なる時が1回あると思う旨を申し述べた。

C 本件d回答書に記載された取引金額のうち、複数の取引日に係る支払金額は、本件d売上帳記載の請求人との取引金額と一致していない。

(ロ) 判断

A 上記(イ)のB及びCのとおり、d社の代表取締役であるP30は、d社と請求人との取引内容について、請求人に係る請求書控の金額と本件d売上帳とを確認すれば正しい取引金額が分かる旨、さらに、本件d売上帳とd社が発行した領収証の金額とが異なる時が1回あると思う旨申述したにもかかわらず、本件d回答書に記載された金額の複数の箇所にわたり、本件d売上帳記載の請求人との取引金額と一致していない。
 さらに、本件d回答書と本件d売上帳の不一致箇所について、原処分庁ないしd社から、何ら合理的な説明がされていない。

B 以上のことからすれば、本件d回答書記載のとおりの取引が請求人とd社との間でされたと直ちに認めることはできず、ほかにこれを裏付ける証拠もない。そうすると、本件d回答書記載の取引金額が正しいことを前提として、請求人がd社からの課税仕入れの金額を過大に計上しているとする原処分庁の主張は採用することができず、請求人のd社からの課税仕入れの金額は、別表4−3の「審判所認定額」欄のとおりであって、当該金額は、請求人の主張する金額と同額である。

ニ P26について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A P26は、請求人から大工仕事を請け負う業者である。

B P26は、平成24年5月24日、調査担当職員に対し、平成21年課税期間及び平成22年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件P26回答書」という。)を提出したが、その際、同人は、以下の内容の申述を行った。

(A) P26は、請求人からの実際の領収金額について、手控えを残していたが、先々月引越しをした際に紛失したのかもしれず、現在探しているところである。

(B) 請求人との取引は、新築の場合には1坪当たり30,000円、リフォームの場合には1日当たり18,000円と取り決めている。現場名や延べ床面積が分かれば、実際の取引金額を回答できると思う。

(C) 実際の領収金額より上乗せした金額を書いた領収証を発行したほかに空の領収証を交付した分や、P26の父であるP31名義で領収証を発行した分もあり、これらについても記憶の限りで回答する。

(ロ) 判断

 上記(イ)のBの(A)及び(B)のとおり、P26は、請求人からの実際の領収金額について、手控えを残していたが紛失した旨申述しているところ、その後も当該「手控え」は証拠として提示された形跡はない。
 また、P26は、請求人との取引形態について、新築の場合には1坪当たり30,000円、リフォームの場合には1日当たり18,000円と取り決めている旨申述しているが、本件P26回答書に記載された取引金額については、新築又はリフォームの区別がされておらず、また、坪数又は作業日数も明らかではなく、さらに、当該坪数又は作業日数に係る資料の存否自体も明らかでない。
 それに加えて、上記(イ)のBの(C)によれば、本件P26回答書記載の取引金額は、P26がその記憶の限りで回答しているものとみるほかなく、その正確性は担保されない。
 以上のことからすれば、本件P26回答書に記載された取引金額は、客観的な資料に基づいて記載されたものであると認めることができないから、正確に本件P26回答書記載のとおりの金額の取引が請求人とP26との間でされたと認めることはできない。
 そうすると、本件P26回答書記載の金額が正しいことを前提として、請求人がP26からの課税仕入れの金額を過大に計上しているとする原処分庁の主張は採用することができず、請求人のP26からの課税仕入れの金額は、別表4−4の「審判所認定額」欄のとおりであって、当該金額は、請求人の主張する金額と同額である。

ホ P23について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A P23は、U社という名称で請求人に建材を納入する業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月2日、○市○町所在のU社の事務所に臨場し、P23が保存している平成22年1月分ないし平成24年4月分の領収証(以下「U領収証」という。)及び平成20年から平成23年までの収支帳又は収支記録帳と称する帳簿(以下、収支帳及び収支記録帳を併せて「U収支記録帳等」という。)等の提示を受けた。

B P23は、平成24年5月17日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件P23回答書」という。)を提出したが、その際、P23は、請求人との取引について、P23において請求書を作成し、請求人に見せると端数等を値切られる、現金を受け取る際、請求人に領収証を交付するが、その際、領収証には、受け取る金額に何十万か足した金額を書いている、正しい取引金額については、請求人に見せる請求書を見れば分かるほか、実際の領収金額を記録するために請求人に交付するものとは別にU領収証を作成している旨、並びに、年間の売上げ及び仕入を記録しているU収支記録帳等でもP23と請求人との取引金額が確認できる旨申述した。

C 本件P23回答書に記載された取引金額のうち、複数の取引日に係る取引金額がU領収証ないしU収支記録帳等記載の取引金額と一致しない。
 なお、U収支記録帳等は、平成21年課税期間以後の取引について、課税売上げに係る領収金額の記載がされているものである。

(ロ) 判断

 上記(イ)のA及びCのとおり、本件P23回答書に記載された金額の一部は、U領収証記載の領収金額ないしU収支記録帳等記載の取引金額と一致していない。また、当審判所が調査したところ、かかる不一致が認められる金額について、U領収証やU収支記録帳等記載の金額と請求人提出の領収証の金額が一致する場合もあるのである。このように、本件P23回答書記載の金額は、記載の根拠とした資料の存在が明らかでない取引がある上、P23が作成したU収支記録帳等ないしU領収証に記載された金額と異なっている箇所が確認され、それについて合理的な説明がされていないため、全体として信用性が低く、本件P23回答書記載のとおりの金額の取引が請求人とP23との間でされたと認めることはできない。さらに、U領収証が平成22年課税期間以後の取引を記録したものであり、U収支記録帳等が平成21年課税期間以後の取引についてのみ実際の領収金額が記載されていることからすれば、平成20年課税期間におけるP23と請求人との取引については、実際の領収金額を確認することができないというべきである。
 そうすると、本件P23回答書記載の金額が正しいことを前提として、請求人がP23からの課税仕入れの金額を過大に計上しているとする原処分庁の主張は採用することができず、請求人のP23からの課税仕入れの金額は、別表4−5の「審判所認定額」欄のとおりであって、当該金額は、請求人の主張する金額と同額である。

ヘ P24について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A P24は、V社という屋号で請求人から内装の仕事を請け負う業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月2日、○市○町所在のP24の自宅に臨場し、P24から、平成19年課税期間ないし平成23年課税期間の得意先元帳、仕入先元帳及び総勘定元帳並びに請求書等の提示を受けた。
 そのうち、P24作成の請求書(以下「P24請求書」という。)は、パソコンにより作成され、同人ないし同人の妻作成の得意先元帳(以下「P24得意先元帳」という。)は、手書きで記載されているところ、P24得意先元帳は、現場名、役務提供の内容及び請求金額並びに消費税相当額が日付順に記載されており、その記載内容は、P24請求書の記載内容に沿うものであった。さらに、P24得意先元帳には、工事代金の集金の都度、領収金額及び値引き額が記載されており、その際、当該得意先に対する売掛債権残高の減額記帳もされていた。
 また、P24は、調査担当職員の請求人との取引内容についての質問に対し、請求人から工事代金を現金で受領するが、その際、請求人から、数万円から十万円程度を上乗せした嘘の領収金額を領収証に記載させられていた旨申述しており、P24が内容虚偽の領収金額が記載されているとする請求人に係る領収証控の当該領収金額は、P24の申述内容のとおり、P24得意先元帳に記載された請求人に対する請求金額及び領収金額をいずれも数万円ないし十万円程度上回っていた。

B P24は、平成24年5月28日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件P24回答書」という。)を提出したが、その際、P24は、同人と請求人との取引内容について、請求人に係る領収証には実際の領収金額よりも上乗せされた内容虚偽の金額が記載されているが、帳簿には実際の領収金額が記帳されているので、帳簿を確認すれば正確な取引金額が確認できる旨申し述べた。

C 本件P24回答書に記載された取引金額は、P24得意先元帳に記載された取引金額と一致している。

(ロ) 判断

A 上記(イ)のA及びBのとおり、P24得意先元帳は、P24に係る業務上の取引が同人ないし同人の妻の手によって日々継続的に記載されており、得意先に対する請求書の記載内容を反映するものであって、さらに、売掛債権の増減の管理もされていることなどからすれば、信用性が高く、P24の業務に係る正確な取引金額が記載されていると認められる。
 また、P24の調査担当職員に対する申述内容は、信用性の高いP24得意先元帳の記載内容に沿うものであって信用することができるから、申述内容のとおりの事実があったものと認められる。
 この点について、請求人は、当審判所に対し、領収金額を増額して記入したことは一切ない旨記載したP24名義の平成24年7月13日付文書及び自分は調査担当職員と会ったこともなく、電話で2、3回問合せがあっただけである旨記載された作成日付不明の文書を提出する。しかし、これらの文書の内容は、P24得意先元帳記載の金額が、請求人に係る領収証控に記載された金額と一致しないことについて何ら説明するものではなく、前記P24の申述内容の信用性等を覆すに足りない。さらに、上記(イ)のCのとおり、本件P24回答書に記載された取引金額は、P24得意先元帳記載の請求人との取引金額と一致しており、信用性が認められる。
 以上のことからすれば、本件P24回答書記載の取引金額は、信用性が認められるP24得意先元帳に裏付けられるものであり、請求人のP24からの課税仕入れの金額は、別表4−6の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

B これに対し、請求人は、本件P24回答書に記載された現場名と請求人が記帳した現場名に相違があるにもかかわらず、原処分庁は、現金欄に記載されている数字を基に適当に金額を振り分けて支払金額を認定しており、その認定には不明瞭な箇所が多数ある旨主張する。
 確かに、本件P24回答書記載の現場名と請求人の業務出納帳記載の現場名が異なるものはあるが、本件P24回答書に記載された取引金額は、信用性の高いP24得意先元帳に記載された取引金額と一致するものであることからすれば、現場名の記載誤りは、上記Aの判断に影響を及ぼさない。
 以上のとおり、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

ト X社について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A X社は、請求人からサッシの納入等を請け負う業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月23日、○県○市○町所在のX社事務所に臨場し、X社の従業員であるP32(以下「P32従業員」という。)と面談し、X社の事業概況等を質問するとともに、X社が業務上作成し、保管している平成20年9月から平成23年8月までの課税期間に係る総勘定元帳及び平成21年7月以降の請求書控の提示を受けた。
 X社の請求書は、コンピューターで作成されており、また、X社の帳簿についても電子化され、得意先ごとに請求額が一覧で表示されていた(以下、当該一覧表を「本件請求額一覧表」という。)。
 その際、P32従業員は、請求人にX社との取引に係る決済の状況について、請求人に対する請求金額のうち1,000円未満の端数の切捨てを求められ、さらに、代金の領収に際して作成する領収証に、領収金額の10パーセント程度上乗せした金額を領収金額として記載するよう求められる旨、P32従業員が当該請求人の求めに応じ、実際の領収金額に10パーセント程度上乗せした領収金額を記載した領収証を作成して請求人に手渡した等旨申述した。

B X社は、平成24年6月1日、調査担当職員に対し、平成21年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件X回答書」という。)を提出し、併せて、X社の得意先からの集金状況を記載したノート(以下「本件Xノート」という。)を提示した。
 これについて、P32従業員は、調査担当職員に対し、請求人にX社との取引に係る決済の状況について、請求人からの求めに応じ、領収金額の10パーセント程度上乗せした金額を領収金額として記載した領収証を請求人に交付した旨、さらに、取引先から代金を受け取った際に受取日、業者名及び金額を記載する本件Xノートを確認すれば、X社と請求人との正確な取引金額が分かる旨申し述べた。

C 本件請求額一覧表記載の請求人に対する請求金額は、本件Xノート記載の代金受取金額に近似したものであり、また、X社の請求人に対する領収証控に記載された金額は、1件の取引を除いてそのいずれもが本件請求額一覧表に記載された請求人に対する請求金額を上回っていた。
 さらに、本件X回答書記載の取引金額は、本件Xノート記載の請求人に係る受取金額と一致する。

(ロ) 判断

A 本件Xノートは、X社が取引先から代金を受け取った際に、その受取日、業者名及び金額が記載されるものであり、業務上日々の入金を記載する帳簿であると認められる。
 さらに、上記(イ)のA及びBのとおり、P32従業員の申述内容は、本件Xノートや、本件請求額一覧表の記載内容と整合しており、その内容に格別不合理な点は認めることができないところ、P32従業員は、調査担当職員に対して、X社と請求人との正しい取引金額については本件Xノートを確認すれば分かる旨申述していることを併せ考慮すれば、本件Xノートは、X社が請求人から領収した正確な金額を記載しているものということができるから、信用性が高いと認められる。

B この点、請求人は、P32従業員作成の領収金額を増額して記入したことは一切ない旨記載された平成24年6月8日付文書及び、P32従業員は上記(イ)のBの発言をしていないなどと記載した文書を提出する。しかし、これらの文書の内容は、本件Xノート記載の取引金額が、本件各出納帳に記載された金額と一致しないことについて何ら説明するものではなく、前記認定を覆すに足りない。
 そうすると、本件X回答書記載の金額は、本件Xノート記載の金額に裏付けられるので信用性があり、課税仕入額は別表4−7の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

C これに対し、請求人は、自分に外注費等の水増しがあるのではなく、X社に売上除外がある旨主張するが、請求人は当該主張に係る証拠を何ら提出していないことから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

チ P22について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A P22は、平成24年4月20日、調査担当職員に対して要旨次のとおりの申述をした。

(A) P22は、T社という屋号で建築業者からの外注や個人からの直接注文による内装工事を請け負う業者である。
 P22に対する内装工事の注文は、ほとんどが電話連絡による申込みであり、その後、顧客と会って見積りを行い、了解が得られれば発注書を作成して相手に渡し、契約となる。決済は、現金決済が大半である。
 帳簿書類は作成しておらず、収入金額は発注書記載の金額を合計し、必要経費は領収証等の金額を合計して事業所得の金額の金額を算出する。
 なお、発注書は、妻のP33にパソコンで作成してもらうが、データは残しておらず、発注書自体も平成22年分以前のものは保存していない。

(B) 請求人と知り合ったきっかけは、e社の前会長の葬儀の際に名刺交換を行ったのが始まりである。

(C) 請求人との取引は、4年ほど前から行ったものであるが、当時は仕事が忙しかったため、知り合いで内装工事等のブローカーなどをしているP34とP35(以下、P34と併せて「P34ら」という。)に営業を担当させていた。
 請求人の仕事の内容については、全てP22が請け負うこととしているが、実際には工事を行わず、工事業者の手配等は全てP34らが行っていた。

(D) P22と請求人の間に契約書などはなく、P22が動くのは施工主との最初の顔合わせだけであり、内容も金額などもほとんど分からないので、P22の印と印紙の割り印だけ押した領収金額欄が空欄の領収証をP34らに渡していた。
 請負金額のP22の取り分は、多くても請負金額総額の25パーセント程度であり、それについてもP34らとの口約束であった。

(E) 請求人がP22から受け取ったとする領収証は、嘘の金額が書かれたデタラメの領収証である。P22として受け取った金額は、最高に多かったのは○○○○円程度であり、他は大体○○○○円から○○○○円の間であって、多くても年間で○○○○円位である。

(F) 請求人は、P22が以前世話になった者の知り合いであり、現在の段階では、請求人に対して文句を言うことはできない。

B P22は、平成24年5月11日、原処分庁庁舎内において調査担当職員と面談し、要旨次のとおりの申述をした。

(A) 請求人からの仕事に係る工事代金は、直接に請求人から受領することなく、喫茶店等でP34らから手数料相当の現金を受領する。その際、明細書等の受領もなく、工事内容等の説明も受けていない。

(B) P22がP34らから受領した金額は、年間で○○○○円から○○○○円であるが、この金額は、当初、契約総額の2割程度とのことであったが、後のほうでは、利益の2割程度とのことであった。

C 請求人は、調査担当職員に対し、P22にフロアー、間取りのデザインを依頼しており、買主とP22が直接話をすることは無く、自分又は本件法人が買主から聞いたニーズをP22に説明する旨の申述を行った。

D P9従業員は、平成24年4月24日、調査担当職員に対し、P22又はT社という名称は知らない旨申述した。

E P22は、平成24年6月18日に、請求人からの外注費に計上漏れがあったとして、その管轄署であるf税務署に平成22年課税期間及び平成23年課税期間の消費税等の修正申告を行った。

(ロ) 判断

A 原処分庁は、請求人のP22に係る課税仕入れについてP22発行の領収証記載の領収金額の全額が架空であるとして主張するので、以下検討する。

(A) 確かに、P22は、請求人がP22から受け取ったとする領収証は、嘘の金額が書かれたデタラメの領収証であるなどと述べる。そして、当審判所の調査によれば、請求人の平成21年課税期間及び平成22年課税期間のP22に対する外注費は総額○○○○円にもなり、請求人の外注先の中では一番多額であるにもかかわらず、請求人の当該課税期間の業務出納帳にP22に係る外注費に関する記載は当初なく、平成21年課税期間の更正の請求及び平成22年課税期間の修正申告の間際になって追加されたものである。このような事情に加え、上記(イ)のCのとおり、請求人は、P22に対して、フロアー、間取りのデザインを依頼していたとするが、P22が実際に行った仕事の具体的内容は必ずしも明らかでなく、買主がP22と直接話をしたこともないなど、請求人とP22の間の取引の存在に疑問を生じさせる事情が認められ、この点に関し、請求人から合理的な説明はなされていない。
 しかしながら、上記(イ)のAのとおり、P22は、調査担当職員に対し、請求人がP22から受け取ったとする領収証について、虚偽の領収金額が記載されている旨の申述をするが、当該申述に沿う具体的な証拠は、同人の申述のほかに提示されておらず、また、そもそも、P22は、自己の業務に係る日々継続して記帳する帳簿書類を備え付けておらず、その代わりとなる発注書ないし領収証等についても平成23年課税期間以前のものは保存していない旨申述して、自己の主張する受注金額に係る発注書について調査担当職員に提示していない。したがって、P22の申述を裏付ける客観的証拠は、存在しないのである。

(B) また、上記(イ)のEのとおり、P22は、請求人との取引があったとされる平成22年課税期間及び平成23年課税期間について、請求人からの外注費に計上漏れがあったとして、消費税等の修正申告を行っているのである。

(C) 以上のことからすれば、上記(イ)のAのP22の申述は、直ちに信用することができない。

B したがって、P22の申述内容を理由として、請求人がP22からの課税仕入れの金額を過大に計上しているとする原処分庁の主張は採用することができず、請求人のP22からの課税仕入れの金額は、別表4−8の「審判所認定額」欄のとおりであって、当該金額は、請求人の主張する金額と同額である。

リ Y社について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A Y社は、請求人から地盤調査や地盤改良工事等などを請け負う業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月21日及び同月30日、○市○町所在のY社の本社に臨場し、代表取締役のP36及び営業担当のP37と面談し、Y社の事業概況等を質問するとともに、Y社が業務上作成し、保管している平成19年11月から平成24年3月までの期間に係る売上帳と称する帳簿(以下「本件Y社売上帳」という。)及び請求書控等の提示を受けた。
 Y社作成の請求書(以下「Y社請求書」という。)は、パソコンにより作成され、現場名及び提供した役務の内容等が記載入力されており、本件Y社売上帳は、手書きで記載されているところ、その記載内容について、現場名、請求金額及び消費税相当額が日付順に記載されており、Y社請求書の記載内容に沿うものであった。さらに、本件Y社売上帳には、工事代金集金の都度、領収金額が記載されており、その際、当該得意先に対する売掛債権残高の減額記帳もされていた。
 その際、P36は、調査担当職員に対し、Y社と請求人との取引の状況について、まる1施工後にY社請求書を請求人に送付すると、数日後に本件事務員から支払日の連絡が入るので、経理担当職員がY社請求書に記載された金額と同額の金額が記載された領収証を作成する旨、及び、まる2営業担当のP37は、当該領収証を本件事務所に持参し、工事代金を集金するが、現金で渡されるので会社の袋に入れて持って帰り、経理担当者が当該現金と領収証控を基に本件Y社売上帳等に入金の記載をする旨申し述べた。

B Y社は、平成24年5月26日、調査担当職員に対し、平成20年課税期間ないし平成23年課税期間の請求人との取引内容についての回答文書(以下「本件Y社回答書」という。)を提出したが、本件Y社回答書に記載された取引金額は、本件Y社売上帳に記載された取引金額と一致している。

(ロ) 判断

A 上記(イ)のAのとおり、本件Y社売上帳は、Y社請求書ないし取引入金等を基礎として、Y社に係る業務上の取引が日々継続的に記載され、さらに、売掛債権の増減の管理もされていることからすれば、信用性が高く、Y社の業務に係る正確な取引金額が記載されていると認められる。
 さらに、上記(イ)のBのとおり、本件Y社回答書に記載された取引金額は、信用性が認められる本件Y社売上帳に裏付けられるものであり、請求人のY社からの課税仕入れの金額は、別表4−9の「審判所認定額」欄のとおりである。

B これに対し、請求人は、Y社の経理処理が間違えているとしか考えられない旨主張するが、請求人は当該主張に係る証拠を何ら提出していないことから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

ヌ P25について

(イ) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A P25は、Z社の屋号で請求人から物件の屋根や雨戸の工事を請け負う業者である。
 調査担当職員は、平成24年5月15日、○市○町所在のP25の自宅に臨場し、P25と面談して同人に係る事業概況等について質問を行い、併せて、P25の業務に係る請求書の控え、領収証の控え及び売上ノート(以下「本件Zノート」という。)の提示を受けた。
 P25は、調査担当職員に対して、まる1顧客に対して発行する請求書の金額と領収証に記載する金額は、同じ金額とし、実際に領収した金額は、本件Zノートに記載しているが、これは、以前に税務調査を受けたときに、指摘を受けたためである旨、及び、まる2請求人から領収金額の水増し計上を要求されるが、前記まる1のこともあり、P25の方で消費税相当額の値引きをすることで請求人の納得を得た旨を申し述べた。

B 調査担当職員は、P25より提示を受けた請求書控、領収証控及び本件Zノートの記載内容を検討したところ、P25の申立てのとおり、請求書控及び領収証控に記載されている金額の消費税相当額を減額され、さらに、10,000円未満の端数を切り捨てた金額が実際の領収金額として本件Zノートに記載されていることを確認したため、P25より本件Zノートの記載内容に基づくP25と請求人との取引内容に係る照会回答文書(以下「本件Z回答書」という。)の提出を受けた。

(ロ) 判断

 上記(イ)のとおり、P25は、請求人に請求したお金の消費税分ぐらいを値引きすることで納得してもらった旨、実際に請求人から領収した金額を本件Zノートに記載している旨を申述しているところ、本件Zノートの記載内容は、当該申述内容のとおりであり、さらに、本件Z回答書の記載内容は、本件Zノートの記載内容に沿うものであり信用性は高いと認められる。
 したがって、課税仕入額は別表4−10の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

(6) 争点9 請求人の申告に係る課税売上げの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

 争点10 請求人の申告に係る課税仕入れの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か。

イ 法令解釈

 通則法第68条第1項は、過少申告した納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、重加算税を課す旨規定している。
 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の刑罰を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであると解される。
 そして、ここでいう隠ぺいとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、仮装とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。

ロ 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人は、本件調査の全期間を通じて、調査担当職員に対して本件追加工事代金等に係る領収証控を提示しなかった。

(ロ) 本件各課税期間の本件各出納帳には、本件追加工事代金等に係る課税売上高が記載・入力されていなかった。

(ハ) 本件各課税期間の本件各業務出納帳には、本件各外注先が発行した領収証等に記載された領収金額が記載・入力され、本件各業務出納帳に記載・入力された金額が本件各課税期間に係る消費税等の確定申告の課税標準等又は税額等の計算の基礎とされていた。

ハ 判断

(イ) 請求人の申告に係る課税売上げの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か(争点9)。

A 上記1の(2)のロ及びハの(ホ)、上記(2)のロの(イ)のA及びC、(3)のロの(イ)及び(ロ)並びに上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、本件各売上先から本件追加工事代金等について、現金で受領し、当該受領の事実を証する領収証を本件各売上先に交付しているにもかかわらず、本件事務員に指示して消費税等の申告の基礎とされた本件各出納帳に記載・入力をさせていない。ところで、本件各出納帳が、青色申告者である請求人が日々の業務に際し、売上げ等について、取引年月日、取引の相手方名、取引金額及び給付、役務の内容を網羅的に記載したものであることや、請求人が、本件各売上先から仲介業者である本件法人を介して現金で受領した金額について、追加工事代金や諸費用等、その一部のみを除いた金額を帳簿に記載させることを約6年間にわたり繰り返していること、さらに行為後の事情として、請求人が調査担当職員等に対し、本件追加工事代金等が存在しない旨強弁していることなどからすれば、請求人が単なる不注意等により本件追加工事代金等を本件出納帳に記載させなかったものとは認められず、請求人は、本件事務員に指示して本件各出納帳を作成させるに当たり故意に事実をわい曲して本件追加工事代金等の記載を脱漏し、もって課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしたものということができる。

B 請求人は、現金で受領する課税売上げについては、領収証控の使用済み分は処分したが、現行使用の分については原処分庁に提出した旨、さらに、本件追加工事代金等の収受の事実が露見しないようP9従業員に強要したことはない旨主張する。
 しかしながら、仮に請求人主張のとおりの事実があったとしても、上記の認定判断を左右するものではなく、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

C 以上のとおり、請求人は、本件追加工事代金等に係る課税売上げについて、本件各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいして本件各課税期間の各確定申告を行ったものと認められる。

(ロ) 請求人の申告に係る課税仕入れの計上は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか否か(争点10)。

A 上記(5)のロの(イ)、ヘの(イ)のA及びB、トの(イ)並びに上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、b社、P24及びX社に対して実際の支払外注費である課税仕入れに係る支払対価の額を上回る金額を領収金額であるとして領収証に記載させ、当該内容虚偽の領収金額の記載のある領収証に基づいて本件各業務出納帳を作成していたものである。そして、上記1の(2)のハの(ホ)並びに上記(2)のロの(イ)のA及びCのとおり、P5税理士は、本件各業務出納帳を含む本件各出納帳を基に消費税等の確定申告書作成し、原処分庁に提出していたというのである。
 したがって、請求人の平成20年課税期間、平成21年課税期間、平成22年課税期間及び平成23年課税期間(以下「本件後続各課税期間」という。)の消費税等の課税仕入れのうち、b社、P24及びX社に係るものについては、当該各外注先の課税仕入れに係る支払対価の額を意図的に過大に計上する方法により、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、又は仮装したものと認められる。

B これに対し、請求人は、b社、P24及びX社について、いずれもその発行された領収証につき架空ないし領収金額の水増し計上の事実がないとしているにもかかわらず、原処分庁が予断を持って決め付けた旨主張し、当該主張に沿った内容が記載された文書等を提出する。
 しかしながら、上記(5)のロの(ロ)のB、ヘの(ロ)のA及びB並びにトの(ロ)のBのとおり、請求人提出の文書に記載されたとおりの事実が存在することは認められないことからすれば、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

C なお、Y社及びP25に係る課税仕入れについては、原処分庁も重加算税を賦課していない。

D その他、上記(5)のイ、ハ、ニ、ホ及びチの各(ロ)のとおり、S社、d社、P26、P23及びP22に係る課税仕入れに過大計上は認められないので、当該過大計上について隠ぺい又は仮装に該当する行為があったとする原処分庁の主張は採用することができない。

E 以上のとおり、請求人は、本件外注先に係る課税仕入れのうち、b社、P24及びX社に係る課税仕入れについて、本件後続各課税期間の消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装して本件各課税期間の各確定申告を行ったものと認められるが、S社、d社、P26、P23及びP22に係る課税仕入れについては、請求人は、消費税等の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいし、又は仮装した事実を認めることはできない。

(7) 争点11 請求人の申告は、偽りその他不正の行為により税額を免れたものか否か。

イ 法令解釈

 通則法第70条第5項第1号は、「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた消費税等についての更正決定等は、その更正又は決定に係る消費税等の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。
 ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解するのが相当である。
 そうすると、税額を免れる意思をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を行うことにより、その全部又は一部の税額を免れた消費税等についての更正処分は、その各更正処分に係る消費税等の法定申告期限から7年を経過する日まですることができることとなるが、そうでない場合の消費税等の更正処分は、法定申告期限から3年を経過した日以後においては、することができないこととなる。

ロ 判断

 請求人は、本件各課税期間の消費税等の各更正処分等のうち、法定申告期限から3年を経過した日以後に行われているものがあることに関し、それらの課税売上げの計上漏れ及び外注費等の課税仕入れの過大計上は、いずれも通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為には該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(6)で認定・説示したとおり、 請求人は、本件各売上先から本件追加工事代金等について、受領しているにもかかわらず、故意にこれを本件各出納帳に記載・入力をしていない。また、請求人は、故意にb社、P24及びX社に対して実際の支払外注費である課税仕入れに係る支払対価の額を上回る金額を領収金額であるとして領収証に記載させ、当該内容虚偽の領収金額の記載のある領収証に基づいて本件各業務出納帳を作成していた。
 したがって、請求人は、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような偽計その他の工作を行ったものと認められる。そして、これらの行為の態様等からすれば、請求人は、税額を免れる意思をもって、その手段としてこれらの行為を行ったものと認められるのである。そうすると、請求人の課税売上げの計上漏れ及び外注費等の課税仕入れの過大計上は、通則法第70条第5項にいう偽りその他不正の行為に該当する。
 以上のことからすれば、請求人のこれらの行為により免れた税額についての更正は、法定申告期限から7年を経過する日まですることができるので、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(8) 本件各課税期間の消費税等の更正処分について

イ 消費税等の合計税額

 上記(3)、(4)、(5)及び当審判所が調査した結果によれば、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税標準額は、別表5の「審判所認定額」の各「課税標準額」欄のとおりとなり、また、消費税額は、同表の「審判所認定額」の各「消費税額」欄のとおりである。
 そして、請求人の本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税仕入に係る消費税額は、別表5の「審判所認定額」の各「控除対象仕入税額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人の本件各課税期間の消費税額等の納付すべき税額は、別表5の「審判所認定額」の各「消費税等の合計税額」欄のとおりとなり、いずれの課税期間も別表2の「更正処分等」の各「消費税等の合計税額」欄の額を下回ることになるので、本件各課税期間の消費税等の各更正処分は、別紙2ないし別紙7のとおり、その一部を取り消すべきである。

ロ 重加算税の賦課決定処分について

 上記(6)のハの(イ)のA及び(ロ)のAのとおり、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装した行為により、請求人の本件各課税期間における本件追加工事代金等に係る各課税資産の譲渡等の対価の額は計上されず、また、本件後続各課税期間におけるb社、P24及びX社の課税仕入れに係る支払対価の額については、過大に計上されていたものである。そして、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の基礎となる税額は、別紙2ないし別紙7の「取消額計算書」の「加算税の額の計算」の「加算税の基礎となる税額」の「重加算税」の各「裁決後の額」欄のとおり、平成18年課税期間が○○○○円、平成19年課税期間が○○○○円、平成20年課税期間が○○○○円、平成21年課税期間が○○○○円、平成22年課税期間が○○○○円、平成23年課税期間が○○○○円となる。
 そうすると、本件後続各課税期間の消費税等に係る重加算税の額については、原処分の金額を下回るので、本件後続各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、別紙4ないし別紙7のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
 なお、本件先行各課税期間の消費税等に係る重加算税の金額は、原処分の金額と同額となるため、適法である。

ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記イのとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分は、その一部を取り消すべきであるから、それに伴って、その過少申告加算税の計算の基礎となる税額は、別紙2、別紙3及び別紙6の「取消額計算書」の「加算税の額の計算」の「加算税の基礎となる税額」の「過少申告加算税」の各「裁決後の額」欄のとおり、平成18年課税期間及び平成19年課税期間零円、平成22年課税期間が○○○○円となる。
 そうすると、平成18年課税期間及び平成19年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙2及び別紙3のとおり、いずれもその全部を取り消すべきである。
 なお、平成22年課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の基礎となる税額の計算の基礎となった事実については通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、さらに、原処分の金額と同額となるため、適法である。

(9) その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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