(平成25年12月17日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した減価償却費の額について、原処分庁が、当該減価償却費の償却限度額の計算の基礎とした耐用年数に誤りがあるとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁の中古建物の耐用年数の認定には誤りがあるなどとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成21年3月31日まで、平成22年4月1日から平成23年3月31日まで及び平成23年4月1日から平成24年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成20年3月期」、「平成21年3月期」、「平成23年3月期」及び「平成24年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 請求人は、平成20年3月期及び平成21年3月期の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した各修正申告書を平成21年7月27日に提出したところ、原処分庁は、同年8月28日付で同表の「賦課決定処分」欄のとおり、平成20年3月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分並びに平成21年3月期の法人税の過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。

ハ 請求人は、平成23年3月期の法人税について、別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求を平成23年8月1日にしたところ、原処分庁は、同年9月14日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

ニ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、平成21年3月期の法人税について、別表1の「再修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成24年9月12日に提出したところ、原処分庁は、同年11月27日付で同表の「再賦課決定処分」欄のとおり、平成21年3月期の法人税の過少申告加算税の賦課決定処分をし、また、本件各事業年度の法人税について、平成24年12月25日付で同表の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ホ 請求人は、上記ニの処分のうち本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成25年1月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち、その内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額(以下「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする旨規定している。

ロ 法人税法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)第153条《当該職員の質問検査権》第1項は、法人の納税地の所轄税務署の当該職員は、法人税に関する調査について必要があるときは、法人に質問し、又はその帳簿書類その他の物件を検査することができる旨規定している。

ハ 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」という。)第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項第1号は、法人税法施行令第13条《減価償却資産の範囲》第1号に掲げる資産の耐用年数については、耐用年数省令別表第一(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)による旨規定し、同表では、建物のうち構造が「鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの」及び「金属造のもの(骨格材の肉厚が4ミリメートルを超えるものに限る。)」の耐用年数をそれぞれ別表2のとおり規定している。

ニ 耐用年数省令第3条《中古資産の耐用年数等》第1項は、中古資産の取得をしてこれを事業の用に供した場合における当該資産の耐用年数については、上記ハの規定にかかわらず、同項第1号において、当該資産をその用に供した時以後の使用可能期間の年数によることができる旨規定し(以下、この方法を「見積法」という。)、また、同項第2号において、見積法により使用可能期間を見積もることが困難な場合には、当該資産の法定耐用年数(耐用年数省令第1条第1項に規定する耐用年数をいう。以下同じ。)からその経過年数(当該法定耐用年数を上限とする。)を控除した年数に、当該経過年数の100分の20に相当する年数を加算した年数によることができる旨規定している(以下、この方法を「簡便法」といい、見積法と併せて「見積法等」という。)。

ホ 耐用年数の適用等に関する取扱通達(昭和45年5月25日付直法4−25ほか1課共同国税庁長官通達をいい、以下「耐用年数取扱通達」という。)1−5−1《中古資産の耐用年数の見積法及び簡便法》は、中古資産についての見積法又は簡便法による耐用年数の算定は、その事業の用に供した事業年度においてすることができ、当該事業年度において算定しなかったときは、その後の事業年度において算定することはできない旨定めている。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、別表3の「名称」欄記載の各建物(以下、同表の順号1ないし14の各建物をそれぞれ、「x1」、「x2」、「x3(住宅用)」、「x3(事務所用)」、「x3(工場用)」、「x4」、「x5」、「x6」、「x7」、「x8」、「x9」、「x10」、「x11」及び「x12」といい、これらを併せて「本件各建物」という。)を、同表の「取得価額」欄の金額で取得し、同表の「事業の用に供した年月」欄の年月に事業の用に供した。
 なお、本件各建物の建築年月は別表3の「建築年月」欄のとおりであり、新築又は中古の別は同表の「新築中古の区分」欄のとおりである(以下、本件各建物のうち、中古で取得した同表の順号1ないし12の各建物を「本件各中古建物」という。)。

ロ 請求人は、本件各建物について、平成20年3月期、平成21年3月期及び平成23年3月期においては、別表4の「平成20年3月期、平成21年3月期及び平成23年3月期」欄のとおり、耐用年数をいずれも39年として減価償却費の償却限度額の計算を行い、また、平成24年3月期においては、同表の「平成24年3月期」欄のとおり、本件各中古建物の耐用年数を変更して減価償却費の償却限度額の計算を行って、これらの償却限度額の金額を本件各事業年度の損金の額に算入して申告した。

ハ 原処分庁は、本件調査に基づき、本件各建物について、別表5のとおり減価償却費の償却限度額の計算を行い、算出した同表の「償却超過額」欄の各金額は本件各事業年度の損金の額に算入されないとして、本件各更正処分をした。

トップに戻る

2 争点

(1) 争点1 本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。

(2) 争点2 本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する各事業年度に適用した耐用年数を、当該各事業年度後の事業年度において、見積法等を用いて変更することができるか否か。

(3) 争点3 平成24年3月期の法人税の更正処分は、信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反する違法な処分か否か。

トップに戻る

3 主張

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

イ 請求人

 本件調査担当職員は、平成24年12月3日の本件調査の結果の説明の際、請求人に対し、要旨別表6のとおり本件各中古建物の耐用年数が法定耐用年数によっていた場合と見積耐用年数によっていた場合のそれぞれの減価償却費の償却超過額等を記載した書面(以下「本件書面」という。)を提示し、同表の(1)及び(2)の各「増差税額+加算税額」欄のとおり、追加で納付すべき税額が異なる2つの案を示した上で、同月25日までに回答するよう選択を迫った。
 このことは、原処分庁が請求人に対して調査結果の選択を迫ったものであり、社会通念に反する違法な行為であるから、原処分は取り消されるべきである。

ロ 原処分庁

 本件調査担当職員は、本件調査において、請求人に対し、平成23年3月期以前に請求人が適用した本件各中古建物の耐用年数について、見積法を適用して算定したのか、そうでなかったのかを再三確認したが、明確な回答がなかったところ、請求人から、見積法を適用して算定していた場合とそうでない場合では、どのような違いがあるか問われたので、平成24年12月3日に、本件書面に見積法を適用して算定していなかった場合(別表6の「(1)法定耐用年数によっていた場合」)と見積法を適用して算定していた場合(同表の「(2)見積り耐用年数によっていた場合」)のそれぞれについて、同表のとおり減価償却費の償却超過額及び追加で納付すべき税額を取りまとめ、これを請求人に提示した。
 その際、本件調査担当職員は、本件書面に沿って、どのような違いがあるかを説明した上で、平成23年3月期以前の本件各中古建物の耐用年数について、再度、見積法を適用して算定していたのか、そうでなかったのかの確認を求めたものであり、調査結果の選択を迫ったという事実はない。

(2) 争点2(本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する各事業年度に適用した耐用年数を、当該各事業年度後の事業年度において、見積法等を用いて変更することができるか否か。)について

イ 原処分庁

 減価償却資産の耐用年数は、原則として法定耐用年数によることとされているが、中古資産の耐用年数については、見積法等を適用して算定することができることとされているところ、見積法等を適用して算定できるのは、中古資産を取得して法人の事業の用に供した日の属する事業年度に限られることは耐用年数省令第3条の規定上明らかである。
 そうすると、請求人が本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する事業年度において適用した耐用年数が請求人の主張どおり見積法を適用して算定していなかったものとすれば、本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する事業年度から法定耐用年数が適用され、法人税額が本件各更正処分の額を上回ることとなるから、請求人の主張はいずれも理由がない。

ロ 請求人

(イ) 請求人は、平成23年3月期以前の本件各中古建物の耐用年数について法定耐用年数を適用していた誤りに気付いたので、平成24年3月期の確定申告において、本件各中古建物が事業用として使用できる期間を見積法等により実態に即した耐用年数を算定し、適用したのであるから、平成24年3月期に損金の額に算入した本件各中古建物に係る減価償却費の額は認められるべきである。
 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達をいい、以下「基本通達」という。)において、基本通達の具体的な運用に当たっては、「社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい」とある。この考え方は法令を解釈する場合も同じであるから、中古建物に適用すべき耐用年数について、誤って法定耐用年数を適用していた場合、その誤りに気付いた時点において是正できないという解釈は、社会通念等に即さないものである。

(ロ) 原処分庁は、更正処分をする際は、所得金額が増額する要因だけではなく、所得金額が減額する要因も併せて見直すべきであるから、新築建物の耐用年数を遡って是正する以上、本件各中古建物の耐用年数についても、請求人が平成24年3月期に事業用として使用できる期間を実態に即して見直した耐用年数を遡って適用し、減価償却費の償却限度額を計算し直すべきである。

(ハ) 上記(イ)及び(ロ)は、法人税法の根幹である、実質(本当の内容)で課税すべきであるとする法人税法第11条《実質所得者課税の原則》の規定の趣旨にも合致する。

(3) 争点3(平成24年3月期の法人税の更正処分は、信義則に反する違法な処分か否か。)について

イ 請求人

 請求人は、平成23年8月に法人税の更正の請求をした際に、原処分庁所属の当該更正の請求を担当する職員から、平成23年3月期の法人税の確定申告で本件各中古建物に適用した耐用年数について、遡って見積法等を適用して算定することはできないから、当該更正の請求は認められないが、平成24年3月期以降は見積法等を適用して算定することができる旨の指導を受けた。
 請求人は、上記の指導を信じて本件各中古建物の耐用年数を見積法等で算定し、平成24年3月期の法人税の確定申告をしたのにもかかわらず、原処分庁が上記指導を覆し、更正処分をしたことは、信義則に反して違法であるから、平成24年3月期の法人税の更正処分のうち上記指導に係る部分は取り消されるべきである。

ロ 原処分庁

 請求人が主張する信義則に反し課税処分が取り消される場合の解釈については、最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決(昭和60年(行ツ)第125号所得税更正処分等取消請求上告事件)において、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきとされており、この場合の特別な事情が存するか否かの判断は、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか等を考慮することとされている。
 信義則の法理の適用の対象となる税務官庁が表示した公的見解というには、一定の責任のある立場の者による正式見解の表示であることが必要と解されるところ、一般に税務相談における税務職員による指導ないし助言は、相談者に対して、一応の参考意見を示すものにとどまり、相談者がその指導ないし助言の内容のとおりに納税申告をした場合にその申告内容を是認することまでを意味するものではない。
 減価償却費の償却限度額の計算等については法人税法等に規定されており、本件においては、それ以外に特段に税務官庁が表示した公的見解は存在しないことから、平成24年3月期の法人税の更正処分について信義則の法理を適用すべき特別な事情は存在しない。

トップに戻る

4 判断

(1) 争点1(本件調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

イ 法令解釈

 法人税法第153条第1項の規定は、税務署の調査権限を有する職員において、調査の目的、調査すべき事項、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合には、職権調査の一方法として、法人等に対し質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他当該調査事項に関連性を有する物件の検査を行う権限を認めた趣旨であって、この場合の質問検査権の行使の時期、範囲、程度、場所など実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解するのが相当である。

ロ 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件調査担当職員は、平成24年7月17日に、電話で、請求人の取締役常務であるE(以下「E常務」という。)に対し同月23日に請求人の事務所で本件調査を行う旨通知し、了解を得た。

(ロ) 本件調査担当職員は、平成24年7月23日に、請求人の事務所に臨場し、平成23年3月期以前の各事業年度に適用していた本件各中古建物の耐用年数が、平成24年3月期に変更されていることを指摘し、その後、同年11月21日までの間、D税務署又は請求人の事務所において、請求人が平成23年3月期以前の各事業年度に適用していた本件各中古建物の耐用年数を平成24年3月期に変更した理由等について調査を行った。

(ハ) 平成24年11月29日に、請求人の代表取締役であるG(以下「G社長」という。)から、本件調査担当職員に対し、本件調査が長引いていることについての説明を求める旨の電話があった。
 そこで、本件調査担当職員は、平成24年11月30日にD税務署内でG社長と面接し、平成23年3月期以前の各事業年度に適用していた本件各中古建物の耐用年数が見積法により算定したものであるか否かについて確認する必要がある旨説明するとともに、本件各中古建物の耐用年数が法定耐用年数であった場合と見積法により算定したものであった場合のそれぞれについて、減価償却費の償却超過額及び増加する法人税額の概算金額を記載した書面を示し、その内容について説明した。

(ニ) G社長は、上記(ハ)の説明に対し、正確な所得金額と法人税額を計算し、連絡してほしい旨申し出た。

(ホ) 本件調査担当職員は、上記(ニ)のG社長の申出を受けて、本件書面を作成し、平成24年12月3日にG社長に連絡したところ、G社長は、E常務をD税務署へ行かせる旨答えた。

(ヘ) 本件調査担当職員は、平成24年12月3日にD税務署に来署したE常務に対し本件書面を提示した上、平成23年3月期以前の各事業年度に適用していた本件各中古建物の耐用年数について法定耐用年数を適用していた場合と見積法を適用して算定していた場合との相違点を説明した。

ハ 当てはめ及び請求人の主張の当否

 請求人は、上記3の(1)のイのとおり、本件調査担当職員が税額の異なる2つの案を提示して回答を迫ったことが社会通念に反する違法な行為である旨主張する。
 しかしながら、法人税法第153条第1項の質問検査権の行使の時期、範囲、程度、場所など実定法上特段の定めのない実施の細目については、上記イのとおり、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられているところ、本件調査においては、上記ロのとおり、請求人が平成23年3月期以前の各事業年度に適用していた本件各中古建物の耐用年数が見積法を適用して算定されたものであるか否かという事実を確認する必要があったため、本件調査担当職員は、G社長及びE常務に対し、法定耐用年数を適用していた場合と見積法を適用して算定していた場合の相違が両人に理解し得るようにするためにG社長に対しては上記ロの(ハ)の書面を、また、E常務に対しては本件書面を提示したものであり、請求人の主張のように選択を迫ったとは認められず、また、当審判所の調査によっても、上記ロの一連の調査手続によって請求人の私的利益が侵害された事実は認められないから、これらの一連の調査手続は社会通念上相当な限度にとどまるものと認められる。
 したがって、本件調査の手続に請求人が主張するような原処分を取り消すべき違法は認められないから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する各事業年度に適用した耐用年数を、当該各事業年度後の事業年度において、見積法等を用いて変更することができるか否か。)について

イ 法令解釈

 上記1の(3)のハ及びニのとおり、建物等の減価償却資産の耐用年数については、法定耐用年数によることを原則とし、その特則として、中古資産については、耐用年数省令第3条第1項において、中古資産を取得してこれを事業の用に供した場合における当該資産の耐用年数は、法定耐用年数によらずに見積法等による耐用年数によることができる旨規定している。
 そして、上記1の(3)のホのとおり、耐用年数取扱通達1−5−1は、中古資産についての見積法等による耐用年数の算定は、当該中古資産を取得してこれを事業の用に供した最初の事業年度に限りすることができ、当該事業年度において算定をしなかったときは、その後の事業年度において算定することはできない旨定めているところ、見積法等は飽くまでも法定耐用年数の特則であること、そして、いつでも変更が可能であるとすると利益調整等のために納税者によって恣意的に変更される可能性があることを併せ考えると、特則である見積法等の適用を望む法人は、当該中古資産を事業の用に供した最初の事業年度において、自らその意思を表示してその適用を受けることを要し、その意思を表示しなかった場合には、原則どおり法定耐用年数が適用され、これを事後的に変更することは許されないとするのが相当であり、上記取扱いは、当審判所においても相当と認められる。

ロ 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人の関与税理士であるF(以下「F税理士」という。)の本件調査担当職員に対する申述の要旨及びE常務の当審判所に対する答述の要旨は、次のとおりであり、これらの内容が事実と異なることをうかがわせる証拠はない。

A F税理士

(A) 平成23年3月期以前の本件各建物の減価償却費の償却限度額の計算について一律39年の耐用年数を適用していたのは、請求人が貸し付ける建物は、賃借人の用途に関係なく店舗用であると考え39年が相当とした。

(B) 法人の決算時の忙しい時期に請求人から確定申告書の作成依頼があることから、新たな建物を取得したとの報告を受けても、建物の内容等は確認していない。

(C) 過去の税務調査で中古資産の耐用年数の根拠についていろいろ聞かれたことがあり、法定耐用年数なら税務署も指摘しないからその手間が省ける。

B E常務

 請求人が平成23年3月期以前に適用していた本件各建物の耐用年数について、その全てを39年としていたのは、F税理士から39年とするのが無難である旨助言を受けたからである。

(ロ) 請求人の平成17年4月1日に開始する事業年度から平成23年3月期までの各事業年度の法人税の確定申告書に添付されている「資産別固定資産減価償却内訳表」の「耐用年数」欄、「当期償却限度額」欄及び「償却累計額」欄によれば、請求人は、本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する事業年度以降平成23年3月期までの各事業年度において、耐用年数を一律39年として減価償却費の償却限度額の計算を行い、当該金額を損金の額に算入し、法人税の確定申告をした。

ハ 当てはめ

(イ) 請求人は、上記ロのとおり、本件各中古建物の耐用年数について、その用途に関係なく、一律に39年を適用して減価償却費の償却限度額の計算を行い、法人税の確定申告をしていたものと認められるところ、上記3の(2)のロの請求人の主張(平成23年3月期以前の各事業年度の本件各中古建物の耐用年数について法定耐用年数を適用していたとする点。)並びに上記ロの(イ)のF税理士の申述及びE常務の答述からすると、請求人は、平成23年3月期以前の各事業年度の本件各中古建物の耐用年数について見積法等を適用して算定したものではなく、別表2の順号7の「鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの」の「店舗用のもの」の法定耐用年数である39年を適用していたものと認められる。

(ロ) そうすると、上記イのとおり、中古資産についての見積法等による耐用年数の算定は、当該中古資産を取得してこれを事業の用に供した最初の事業年度に限りすることができ、当該事業年度において算定をしなかったときは、その後の事業年度において算定することはできないのであるから、本件各中古建物の耐用年数は、原則どおり法定耐用年数を適用することとなり、本件各中古建物を取得して事業の用に供した日の属する各事業年度に適用した耐用年数を、当該事業年度後の事業年度において、見積法等を用いて変更することはできない。

ニ 請求人の主張について

(イ) 請求人は、上記3の(2)のロの(イ)のとおり、「社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい」とする基本通達の運用の考え方は、法令を解釈する際も同様であるから、中古建物に適用すべき耐用年数について、誤って法定耐用年数を適用していた場合、その誤りに気付いた時点において是正できないという解釈は、社会通念等に即さないものであり認められない旨主張するが、耐用年数省令第3条第1項に規定する中古資産を事業の用に供した場合の耐用年数の特則である見積法等の適用については、上記イのとおり解釈すべきであるから、請求人の主張は採用できない。

(ロ) また、請求人は、上記3の(2)のロの(ロ)のとおり、新築建物の耐用年数を遡って是正する以上、本件各中古建物についても実態に即して見直した耐用年数を遡って適用すべきである旨主張するが、本件各中古建物について遡って見積法等を適用することができないことは上記ハのとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(ハ) さらに、請求人は、上記3の(2)のロの(ハ)のとおり、上記(イ)及び(ロ)の各主張は法人税法第11条の規定の趣旨にも合致する旨主張するが、同条は、資産又は事業から生ずる収益の帰属に関する通則を定めたものであって、耐用年数省令第3条第1項の解釈に関し法人税法第11条の規定の趣旨を考慮する余地はないから、請求人の主張はその前提を欠き採用できない。

(3) 争点3(平成24年3月期の法人税の更正処分は、信義則に反する違法な処分か否か。)について

イ 信義則の法理の適用について

 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理とりわけ租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合に初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきものと解される。
 そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的な不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁のその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであると解される。

ロ 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 請求人は、原処分庁に対し、平成23年8月1日に平成23年3月期の法人税について、中古建物の減価償却費の償却限度額の計算について適用していた法定耐用年数を見積法等を適用して算定した耐用年数に変更すること等を内容とする更正の請求を行い、これを受け、原処分庁所属の更正の請求に係る調査担当職員(以下「前回調査担当職員」という。)は、当該調査に当たり、同年9月7日にD税務署において、請求人に対し、中古資産の耐用年数の見積法等については、当該中古資産を事業の用に供した日の属する事業年度において算定し、適用していなかった場合は、進行事業年度である平成24年3月期において算定し、適用することができる旨の指導(以下「本件指導」という。)をした。

(ロ) 請求人は、本件指導に基づき、本件各中古建物について、別表4の「平成24年3月期」欄のとおり、減価償却費の償却限度額の計算を行い、別表1の「平成24年3月期」欄の「確定申告」欄のとおり、平成24年3月期の法人税の確定申告書を提出した。

(ハ) 原処分庁は、平成24年3月期の法人税の更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうち上記(ロ)の事実は、平成24年3月期の法人税の更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当するとして、平成24年3月期の法人税の更正処分により納付すべき税額から上記(ロ)の事実に基づく税額として国税通則法施行令第27条《過少申告加算税等を課さない部分の税額の計算》に規定するところにより計算した金額(以下「本件指導税額」という。)を控除して、通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税を賦課した。

(ニ) 原処分庁は、上記(ロ)の事実は通則法(平成24年法律第16号による改正前のもの。)第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》第6項第4号に規定する延滞税の免除事由に該当するとして、請求人の本件指導税額に係る延滞税について、平成24年6月1日から平成25年1月2日までの期間に対応する部分の金額を免除した。

ハ 当てはめ及び請求人の主張の当否

 上記ロの(イ)及び(ロ)を前提とすると、前回調査担当職員は、請求人に対し、本件各中古建物の耐用年数を事後的に見積法等を適用して算定することはできないにもかかわらず平成24年3月期に変更できる旨の誤った指導をしたものであり、請求人が本件指導を租税法規に適合したものと信じてこれに沿った申告をしたとしてもやむを得ない状況にあったと認められる。そうすると、請求人が、本件指導の内容を信頼し、その信頼した内容に従い、本件各中古建物の耐用年数を見積法等を適用して算定した耐用年数に変更して申告をしたことについて、請求人の責めに帰すべき事由はないと認めるのが相当である。
 しかしながら、本件各中古建物の耐用年数を法定耐用年数から見積法等による耐用年数に変更することができないことは上記(2)のとおりであること、そして、原処分庁は、上記ロの(ハ)のとおり、本件指導税額に係る過少申告加算税の賦課決定処分を行わず、同(ニ)のとおり、本件指導税額に係る延滞税も免除していることからすれば、請求人は、租税法規に従って算出された正当な税額の負担を超える経済的不利益を受けたとは認められない。
 以上のとおり、上記イで示した諸点を考慮すると、請求人は上記3の(3)のイのとおり主張するが、本件指導に関し税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したものであるか否かにかかわらず、平成24年3月期の法人税の更正処分について、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなおその課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存するとは認められない。
 したがって、平成24年3月期の法人税の更正処分は信義則に反する違法な処分であるとは認められず、請求人の主張には理由がない。

(4) 本件各建物の減価償却費の償却限度額等について

イ 本件各中古建物の法定耐用年数

 本件各中古建物の減価償却費の償却限度額の計算の基礎となる耐用年数は、上記(2)のハのとおり法定耐用年数によるべきところ、本件各中古建物の構造及び細目は、本件各中古建物の登記事項証明書、平成24年度固定資産(評価)証明書、平成25年度土地・家屋名寄台帳兼固定資産税課税台帳及び当審判所の調査の結果によれば、別表7の「構造及び細目」欄のとおりであるから、当審判所が認定した本件各中古建物の法定耐用年数は、同表の「法定耐用年数」欄のとおりとなる。

ロ x11及びx12の法定耐用年数

 x11及びx12の減価償却費の償却限度額の計算の基礎となる耐用年数については、当該各建物が新築であることから、いずれも法定耐用年数によるべきところ、当該各建物の構造及び細目は、当該各建物の登記事項証明書及び当審判所の調査の結果によれば、別表7の「構造及び細目」欄のとおりであるから、当審判所が認定した当該各建物の法定耐用年数は、同表の「法定耐用年数」欄のとおりとなる。

ハ x3(住宅用)、x3(事務所用)及びx3(工場用)の取得価額

 x3(住宅用)、x3(事務所用)及びx3(工場用)については、同一の平成20年5月2日付不動産売買契約書によりまとめて売買がなされており、当該契約書には、これらの建物の売買価額の総額の記載はあるものの、それぞれの建物の売買価額の内訳の記載がないため、それぞれの建物の売買価額が明らかでないところ、これらの建物に係る法定耐用年数は別表7の「法定耐用年数」欄のとおり異なることから、合理的な方法によりそれぞれの取得価額を算定する必要がある。
 ところで、地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に基づき定められた固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号)は、家屋の評価は、再建築価格法により評価する旨定めているところ、当該再建築価格法は、評価の対象となった家屋と全く同じものを評価時にその場所に建築するものとした場合に必要とされる建築費を求めた上、当該家屋の時の経過によって生ずる損耗の状況による減価等をして評価時点の現状に適合するよう調整する方法で算出するものであり、その具体的な算定方式が比較的簡明である上、家屋の資産としての客観的価格を算出するものとして基本的・普遍的なものと考えられるから、より客観性を有する評価を可能ならしめるものであるということができる。
 そうすると、家屋の価格の評価につき、再建築価格法を内容とする固定資産評価基準は、一般的な合理性を有しているというべきであるから、x3(住宅用)、x3(事務所用)及びx3(工場用)のそれぞれの取得価額については、別表3の順号3ないし5のこれらの建物の全体の取得価額を、当該固定資産評価基準に基づき算定された固定資産(評価)証明書の評価額の割合であん分して算定するのが合理的である。
 そして、x3(住宅用)、x3(事務所用)及びx3(工場用)に係る平成20年度の固定資産(評価)証明書の評価額の割合でこれらの建物の取得価額を算定すると、次表のとおりとなる。

名称 まる1全体の取得価額 まる2平成20年度の固定資産(評価)証明書の評価額 それぞれの取得価額
まる1×まる2/まる3
x3
 (住宅用)
378,148,000円 ○○○○円 360,929,522円
x3
 (事務所用)
○○○○円 10,061,615円
x3
 (工場用)
○○○○円 7,156,863円
合計 まる3○○○○円

(注)それぞれの建物の取得価額の算定において、1円未満の端数は四捨五入し、全体の取得価額とそれぞれの四捨五入後の金額の合計額との差額1円は、x3(工場用)に加算した。

ニ 本件各建物の減価償却費の償却限度額及び償却超過額

 本件各建物に係る本件各事業年度における減価償却費の償却限度額を、x3(住宅用)、x3(事務所用)及びx3(工場用)については上記ハの各取得価額、それ以外の本件各建物については別表3の「取得価額」欄の各取得価額に基づき、別表4の「償却方法」欄の償却方法で、別表7の「法定耐用年数」欄の各耐用年数に係る償却率を用いて算定すると、別表8−1ないし8−4の「償却限度額」欄の「審判所認定額」欄のとおりとなり、その結果、本件各建物に係る本件各事業年度における償却超過額は、別表8−1ないし8−4の「償却超過額」欄の「審判所認定額」欄のとおりとなる。

(5) 本件各更正処分について

 上記(4)のニに基づき本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を算出すると、別表9の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分の金額と同額であるか又はこれを上回るから、本件各更正処分は、いずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

 上記(5)のとおり本件各更正処分はいずれも適法であり、また、本件各更正処分により本件指導税額に係る部分以外の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る