(平成25年10月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、まる1審査請求人(以下「請求人」という。)が平成18年に父から金地金の贈与を受けたが贈与税の申告をしなかった、まる2請求人の母の預金口座に入金された金員は請求人の父が母に贈与したものであるが、請求人の母は贈与税の申告をしなかった(母の死亡に伴う相続により納付義務を承継)、まる3請求人が平成20年に父から受けた金地金の贈与に係る贈与税の申告をしなかったことについて仮装・隠ぺい行為があったとして、まる1まる2に係る贈与税の各決定処分並びにまる2に係る無申告加算税及びまる1まる3に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、まる1金地金の贈与は原処分庁の認定した平成18年よりも前の年分で行われたものであるから、請求人に平成18年分の贈与税の納付義務はない、まる2母の預金口座に入金された金員の原資は母のものであり贈与の事実はない、まる3仮装・隠ぺいの事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成24年11月7日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、当該各審査請求については、国税通則法(以下「通則法」という。)第104条《併合審理等》第1項の規定を適用して併合審理をする。

(3) 関係法令

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によって容易にその事実が認められる。
イ 請求人の父母の相続について
(イ) 請求人の父であるH(以下「父H」という。)は、平成21年10月○日に死亡した。同人の法定相続人は、請求人の母であるG(以下「母G」という。)並びに父Hの子であるJ、K、L、M、請求人及びNの7名である。
(ロ) 母Gは、平成22年5月○日に死亡した。同人の法定相続人は、上記(イ)に記載の父Hの子6名である。
ロ 請求人が父から譲り受けた金地金について
(イ) 請求人は、平成18年4月4日、夫であるP名義で、Q社d店において、金地金25s(以下「本件金地金」という。)を○○○○円で売却した。
 本件金地金は、請求人が父Hから譲り受けたものであった。
(ロ) 請求人は、平成20年4月18日、P名義でR社において、金地金8.75sを○○○○円で売却した。
 同金地金は、請求人が父Hから譲り受けたものであった。
(ハ) 請求人は、平成18年分及び平成20年分の贈与税の申告書を原処分庁に提出していない。
ハ 請求人の父母の預金の入出金状況について
(イ) S信用金庫e支店の父H名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件H口座」という。)に、平成18年7月13日、50,000,000円(以下「本件資金」という。)が入金されており、その後、同月26日、同口座から○○○○円が出金され、同日、同支店の母G名義の普通預金口座(口座番号○○○○、以下「本件G口座」という。)に○○○○円が入金された(以下、当該入金及び入金額をそれぞれ「本件入金」及び「本件入金額」という。)。
(ロ) 母Gは、平成18年分の贈与税の申告書を原処分庁へ提出しておらず、請求人も、母Gの死亡に伴い同人の納付義務を承継した日以後において同人に係る平成18年分贈与税の申告書を原処分庁に提出していない。
ニ 審査請求に至る経緯等について
(イ) 原処分庁は、別表1の「決定処分等」欄のとおり、まる1請求人が平成18年に父Hから本件金地金を受贈した、まる2母Gが平成18年に父Hから本件入金額に相当する金額を贈与によって取得した各事実が認められるところ、母Gの死亡により、同人の贈与税の納付義務について、請求人が法定相続分である6分の1の割合で承継した、まる3請求人が平成20年に父Hから36kgの金地金を受贈したとして、贈与税の各決定処分を行うとともに、上記まる1及びまる3については、請求人が贈与税の申告をしなかったことにつき、仮装・隠ぺいがあるとして、重加算税の各賦課決定処分を、上記まる2については、無申告加算税の賦課決定処分を行った。
(ロ) 請求人は、上記(イ)の各決定処分等に対し、その全部又は一部の取消しを求めて、別表1の「異議申立て」欄のとおり、異議申立てを行った。その際に請求人は、異議申立書に「故H氏、故G氏の金の売却数量と保有明細書」と題する書面(主な記載事項は別表2のとおりであり、以下「本件明細書」という。)及び本件明細書の資料1ないし9を添付しており、当該資料のうち資料4は、平成16年11月25日を作成日とする税理士法人T(以下「T」という。)作成の「報告書」と題する書面(主な記載事項は別表3のとおりであり、以下「本件報告書」という。)であった。
(ハ) 異議審理庁は、上記(ロ)の異議申立てに対し、別表1の「異議決定」欄のとおり、まる1平成18年分については、仮装又は隠ぺいはないとして重加算税の賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分を一部取消し、まる2平成18年分(G承継分)については、棄却、まる3平成20年分については、金地金の贈与が36kgではなく8.75kgであったとして決定処分等の一部取消しの異議決定を行った。

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2 争点

 争点1 請求人が父Hから本件金地金を贈与され取得したのは平成18年か否か。
 争点2 母Gが父Hから本件入金によって本件入金額に相当する金額の利益を受けたか否か。
 争点3 請求人が平成20年分贈与税の申告をしなかったことに隠ぺい又は仮装があるか否か。

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3 主張

(1) 争点1 請求人が父Hから本件金地金を贈与され取得したのは平成18年か否か。

原処分庁 請求人
 請求人が父Hから本件金地金の贈与を受けたのは、以下のとおり、平成18年4月4日である。  請求人が父Hから本件金地金の贈与を受けたのは、以下のとおり、平成18年ではない。
1 請求人は、父Hから許可を得て、平成18年4月4日に本件金地金を売却したと申述していること、また、当該売却までの間は、本件金地金を処分せず所持していたことから、本件金地金の処分権を請求人が有していたとは認められず、父Hのために民法第181条に規定する代理占有をしていたものと認められる。
 また、請求人が本件金地金の処分権を取得したのは、父Hから売却の許可を得た時であり、請求人が現実に譲渡することができた平成18年4月4日である。
1 請求人が父Hから本件金地金の贈与を受けたのは、本件明細書に明記されているとおり、平成6年6月12日に13kg、平成12年7月20日に5kg及び平成16年12月6日に7kgである。
 請求人は、平成18年4月4日に本件金地金を自らの意思で売却したのであって、父Hの許可は求めておらず、「売却の許可を得た」旨の発言はしていない。また、請求人は、父Hからもらった物はあったが、預かった物はないから、本件金地金を代理占有していたものではない。
2 請求人は、本件金地金を平成6年6月12日に13kg、平成12年7月20日に5kg及び平成16年12月6日に7kgと3回に分けて贈与を受けたと主張するが、まる1贈与契約書等の書面は作成されていないこと、まる2本件明細書に記載はあるが移動原因に関する資料の添付はないこと、まる3本件報告書に贈与を受けた旨の記載がないこと及びまる4金地金の贈与に関し、請求人の申述が「平成2〜3年頃に受け取った」「もらったことは一切ない」と変遷し、異議申立て時に3回の贈与があったとするなど主張が矛盾していることから、上記の3回の贈与があったとは認められない。 2 原処分庁は左記2のとおり主張するが、まる1贈与契約書は作成されていないが請求人の金地金に係る受領書が贈与の立証になる、まる2金地金の売却の資料はあっても贈与の資料がないことは当然である、まる3本件報告書に記載がないのは、金銭や不動産は相続人全てに共通して渡した財産であるが、金地金は請求人だけが受けた贈与なので、ほかの兄弟との関係上、そのことを伏せるため本件報告書に明記しなかったと思われる、まる4請求人が「もらったことは一切ない」と申述したのは、売却はP名義で行ったため、2人とももらったとみなされたら困るので、請求人はもらっていないと言っただけであり、もらった事実は一度も隠していない。

(2) 争点2 母Gが父Hから本件入金によって本件入金額に相当する金額の利益を受けたか否か。

原処分庁 請求人
 以下のとおり、母Gは、本件入金によって父Hから対価を支払わないで利益を受けたのであるから、相続税法第9条の規定により、母Gは、父Hから本件入金額に相当する金額を贈与によって取得したものとみなされる。  本件入金は、以下の理由により、母G固有の財産であり、同人が父Hから贈与を受けたものではない。
1 本件H口座及び本件G口座は、いずれも公共料金等が引き落とされていることから、いずれも各人の固有の財産であると認められ、現金が当該各口座に入金された時点で各人固有の財産となる。 1 母Gは、U社の役員報酬等を蓄財しており、50,000,000円位の固有財産があっても不思議ではない。
2 本件H口座に母G名義の預金口座から入金を行った事実及び本件資金が母G名義の預金を解約した資金であるか否かは明らかでない。 2 本件入金は、母Gの医療費及び介護費(月額1,500,000円〜2,000,000円)の支払いのため、母Gの預金口座を管理していた父Hが整理過程で入金したものであり、その原資である本件資金は、子供たちが母Gから預かっていた母G名義の定期預金等を解約して、父Hに渡したものを、自宅で保管後、本件H口座に入金したものであるから、母Gの固有財産である。
  3 そもそも健康であった父Hが、平成17年頃から入院し、○○が進んでいる母Gに贈与することは考え難く、少なくとも、母Gの受贈意思は確認できない。

(3) 争点3 請求人が平成20年分贈与税の申告をしなかったことに隠ぺい又は仮装があるか否か。

原処分庁 請求人
 請求人が平成20年分の贈与税の申告をしなかったことは、以下のとおり、通則法第68条第2項に規定する事実の全部又は一部を隠ぺいし、この隠ぺいしたところに基づき申告書を提出しなかったときに該当する。  請求人が平成20年分の贈与税を申告しなかったことについて、以下のとおり、仮装、隠ぺいの意思はない。
1 請求人は、過去において贈与税の申告を行ったことがあった旨申述しており、贈与を受けた場合に贈与税の申告が必要であることを認識していた。 1 申告しなかったのは、単なる知識不足が原因である。
2 請求人は、原処分調査時に、金地金の贈与があったにもかかわらず、贈与はなかったと虚偽の申述を行っていた。 2 原処分調査時に、金地金を夫名義で売却したため、請求人が贈与を受けたことになれば2人とも課税されると思い、贈与はないと申述しただけであり、その後原処分庁の調査担当者(以下「本件調査担当者」という。)から、請求人一人の贈与にまとめるよう指導があったため請求人の贈与としただけであるから、虚偽の申述ではなく、もらった事実は一度も隠していない。
3 請求人は、平成18年及び平成20年に金地金の売却をしており、金地金の金銭価値等を認識していた。 3 「金地金の金銭価値等を認識していた」という意味が理解できない。
4 父Hが、金地金は表に出る財産ではない旨発言し、請求人に対しても意図的に贈与税の申告をしなくていい旨伝えていたと推認され、請求人は、父Hの発言のとおり申告をしなかった。 4 父Hが「金(きん)は表に出ない物」、「申告しなくてもよい」と言っていたのを聞いたこともないし、請求人はその旨の申述もしていない。
5 平成18年分は、原処分庁が贈与の時期及び贈与財産の数量を認定したものであるから、隠ぺい又は仮装の事実は認められない。 5 平成18年分の重加算税は、異議調査の結果取り消されているのに、同じ状況にある平成20年分が取り消されないのは納得できない。また、平成20年に同様の贈与を受けたほかの兄弟の重加算税が取り消されているのに請求人だけが取り消されないのは理解できない。
  6 金地金の取引については、実名で行い、その売却代金も通常の取引口座に入金している。

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4 判断

(1) 争点1 請求人が父Hから本件金地金を贈与され取得したのは平成18年か否か。

イ 法令解釈
 贈与は、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方(受贈者)が受諾することによってその効力を生ずる(民法第549条)。もっとも、書面によらない贈与については、履行の終わった部分を除き、各当事者が撤回することができる(民法第550条)。
 ところで、通則法第15条第2項第5号は、贈与税の納税義務は、贈与(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)による財産の取得の時に成立する旨規定している。これは、贈与税が財産の無償移転による受贈者の財産の増加に担税力を認めて課税される租税であることからすると、受贈者が当該贈与によって現実に担税力を取得するに至った時に初めて贈与税を課税すべきであるとしたものと解される。
 基本通達1の3・1の4共−8の(2)は、贈与による財産取得の時期を、書面による贈与についてはその契約の効力の発生した時、書面によらない贈与についてはその履行の時によるものとする旨定めており、同通達の取扱いは当審判所においても相当と認められる。
 そして、金地金のような権利者の表示がない動産を書面によらない贈与によって取得した場合、その履行の時については、特別な事情が認められない限り、受贈者が当該動産を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分することができる状態に至った時と解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 純金地金受領書の作成及び交付
 請求人及びLは、平成20年3月4日付で、それぞれ純金地金36kgを受領した旨、Mは、同日付で純金地金36.15kgを受領した旨、Kは、同月6日付で、純金地金36.15kgを受領した旨の父H宛の書面をそれぞれ作成し(以下「本件各受領書」という。また、請求人が作成した受領書を以下「本件請求人受領書」といい、請求人以外の者が作成した受領書についても同様に表記する。)、父Hに交付した。
(ロ) 遺留分減殺請求訴訟
 K、M及びNは、Jを被告としてV地方裁判所に提起した遺留分減殺請求訴訟における平成23年2月○日付の訴えの変更申立書において、持戻しの対象となる特別受益(贈与)に関して、要旨次のとおり主張した。
A 父Hから相続人K、M、L及び請求人に対する純金地金の贈与は各人36.15kg合計144.6kgである。
B 上記純金地金については、Kは昭和48年に2kg・平成7年に20kg・平成14年に3kg・平成20年3月6日に11kgを、Mは平成7年に20kg・平成8年に3kg・平成12年に2kg・平成20年3月4日に11kgを順次被相続人から受け取ったものであり、ほかのL及び請求人らも同様に受け取っていたが被相続人の要請により、これまでの総量を記載した書面を被相続人に渡したものである。
(ハ) 本件金地金の売却代金の入金
 平成18年4月5日、S信用金庫f支店において、請求人名義で○○○○円並びにP名義及び請求人の子であるX名義で各○○○○円、合計○○○○円の定期預金が現金入金扱いで設定されている。
(ニ) 請求人は、当審判所に対し、本件金地金の贈与に係る経緯につき、要旨以下のとおり答述した。
A 平成2年から3年頃、父Hは、長男であるJが出て行ったことから、請求人に跡取りになって欲しいと要望し、請求人に対し、保証書を付けて金地金25sを贈与した。その後、父Hの思いから、平成6年6月11日に在庫確認をするから金地金25sを持ってくるように連絡があり、父Hと私の夫が2人で在庫を確認した。次の日に金地金を13sあげるので自宅に持って帰るよう自筆の金買入内訳書を付けて戻してくれた。なぜ13kgなのか尋ねることもできず、そのまま持ち帰った。平成12年7月○日、父Hと養子縁組をしていた(請求人の)長男Xが離縁となり、父Hから「迷惑かけたな。」という感じで金地金5kgをもらった。これらの贈与や、(原処分庁に対してTが作成した報告書による請求人の生前贈与額がほかの兄弟に比べて少なかったことによるものと説明した)平成16年12月6日の金地金7kgの贈与に係る贈与時期を説明する書類としては、本件明細書を提出している。本件明細書は、平成6年のものについては被相続人が自筆で書いた金買入内訳書、平成12年の贈与に関しては長男Xの離縁届及び平成16年の贈与に関してはTの報告書の日付と当時のメモ等を根拠として作成したものだが、その証拠として提出するものはほかにない。
B (平成20年3月4日の金地金の受渡しは、)父Hの自宅に行くと既に奥の部屋でLとMの2人が、父Hの指示どおり、L、M及びKの3人が各36kg、私が8.75kgの各人の金地金の取り分が分けて置いてあったので私は自分の取り分をもらって帰った。
C 父Hから金地金の贈与を受けたのは私であるが、売却する際に証明書がないので、免許証を持っているP名義で取引をした。このため、本件調査担当者による調査の最初の時は、請求人とPの両方が贈与を受けたと思われてはいけないと思い、請求人はもらっていないと言った。
D (金地金を平成18年及び平成20年に売却した理由は、)この時期、金地金の相場が高くなったので売却した。
(ホ) Kは、平成24年2月17日、原処分庁に対し、要旨以下のとおり申述した。
 (本件K受領書の作成日である)平成20年3月6日に私が父Hからもらった金地金は11kgであるが、父Hは、これまでに私にあげた金地金の数量が36.15kgであると言い、この数量を受領した旨を記載するよう指示したため、父Hの言うとおり、本件K受領書に36.15kgを受領した旨を記載した。この数量も父Hの勝手な思い込みの部分があり、私が本当にこれだけの数量を父Hから貰ったのかについてはわからない。
 父Hは、常に強引に命令することがあり、金地金はじめ不動産等いろいろな財産を「あげる」、「あげない」とか「今度あげる」とか、既にもらったものを「やった」、「返せ」と、常に繰り返し言われ続けていた。父Hは何事にも思いのまま、私たちに無理、無茶なことを言い続けていた。そんな人であったことから、父Hの言うことに逆らえず、父Hが言っている過去から私にあげたという金地金の合計額を記載するしかなかった。
 (父Hから受け取った金地金について贈与税の申告をしなかった理由は、)父Hから申告しなくていいと言われていた。
(ヘ) Mは、平成24年2月16日、原処分庁に対し、要旨以下のとおり申述した。
 (本件M受領書の作成日である)平成20年3月4日に私が父Hからもらった金地金は11kgである。その他に、昔から、父Hからは金地金をもらっていた。同日父Hから、私がこれまでに父Hから受け取った金地金の合計が36.15kgと言われ、この総数量を書くことを命令され、父Hの命令には逆らうことができず、本件M受領書に36.15kgを受領した旨を記載した。
 父Hから受け取った金地金の総量が、きっかり36.15kgだったのかはわからない。父Hの指示は我が家では絶対であり、言ったとおりにしなければならなかった。父Hは、金地金だけではなく、全てのものを、一旦「あげた」といったその物をもらっても、突然「返せ」と言ってくることも、たびたびあった。
(父Hから受け取った金地金について贈与税の申告をしなかった理由は、)父Hにしなくていいと言われた。
ハ 判断
 本件の争点は、請求人が父Hから贈与により本件金地金を取得した時期はいつかである。請求人は、父Hから本件金地金の贈与を受けたのは、本件明細書に明記されているとおり、平成6年6月12日に13kg、平成12年7月20日に5kg及び平成16年12月6日に7kgである旨主張し、原処分庁は、請求人が本件金地金を売却した平成18年4月4日である旨主張する。
 ところで、本件で請求人は贈与契約書等は作成されていない旨主張しており、上記ロの(ニ)のAの請求人の答述もこれに沿う内容であることなどからすれば、本件贈与に関し、贈与契約書等は作成されていないものと認められる。
 そうすると、本件金地金の贈与は書面によらない贈与であるから、上記イで説示したとおり、贈与の履行の時、すなわち、請求人が、本件金地金を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至った時が贈与による財産取得の時期となるため、このような状態に至った時がいつであるかについて、以下検討する。
(イ) 上記1の(4)のロの(イ)及び上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、平成18年4月4日に本件金地金を売却し、売却代金は請求人及び請求人の家族名義で預金している。したがって、同日までに、父Hからの本件金地金の贈与が履行され、請求人が本件金地金を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至ったことは明らかである。
 なお、請求人は平成20年3月4日付で、父Hから純金地金36kgを受領した旨の本件請求人受領書を作成しているが、請求人は、本件金地金の贈与は同日付で行われたものではない旨主張しており、上記ロの(ホ)及び(ヘ)のとおり、同じく同日付で父Hからの純金地金の贈与に係る本件各受領書を作成したK及びMは、いずれも、請求人の主張と同様、本件各受領書の作成日前に本件各受領書に記載した金地金の一部を父Hから受け取っていた旨申述するとともに、上記ロの(ロ)のBのとおり、遺留分減殺請求訴訟においても同様の主張をしていることからすれば、本件請求人受領書が存在するからといって、本件金地金の贈与がその作成日にされたものであるとは認められない。
(ロ) 請求人の主張する平成6年6月12日、平成12年7月20日及び平成16年12月6日の三度に分けての本件金地金の贈与に際し、贈与契約書等が作成されていないことは前述のとおりである。請求人は、同贈与以後、本件金地金を請求人宅で保管するようになった旨主張するが、これを裏付ける証拠は請求人の申述のほかなく、請求人主張の贈与があったことを認めるに足る証拠は見当たらない。
(ハ) 上記ロの(ニ)のA、(ホ)及び(ヘ)のとおり、請求人、K及びMは、父Hは一度渡した金地金の返還を求めることがあり、請求人等としては返還を求められれば従わざるを得なかった旨答述及び申述している。このような事情や、請求人等と父Hとの人的関係等からすれば、仮に請求人がその主張する時期に本件金地金を父Hから受け取っていたとしても、それは請求人の父の思惑によりいつでも返還を求められる可能性を含むものであって、請求人は、いまだ本件金地金を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至ったものとはいえず、贈与があったとしてもその履行があったものとまではいえない。
 何より、請求人は、本件金地金の贈与に関し、請求人の主張する贈与時期において贈与税の申告もしていないのである。これらの事情等からすれば、請求人がその主張する時期に本件金地金の贈与を受けてこれを取得したものと認めることはできない。
(ニ) ところで、請求人は、平成18年4月4日に本件金地金を売却していることは前述のとおりである。同売却により本件金地金の所有権は父H及び請求人から離れほかに移転しており、もはや、本件金地金は、父Hの意向のみにより返還を求めることはできなくなり、請求人は、本件金地金を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態に至ったものと認められる。したがって、請求人が本件金地金を贈与により取得したのは、平成18年4月4日であると認めるのが相当である。
(ホ) 請求人は、父Hから本件金地金の贈与を受けたのは、本件明細書に明記されているとおり、平成6年6月12日に13kg、平成12年7月20日に5kg及び平成16年12月6日に7kgである旨主張し、その裏付けとなる証拠として、本件明細書及び本件報告書等を提出する。
 しかしながら、本件明細書は、その記載内容や提出経緯等から、父Hの死後、本件に関する異議申立てに際し、請求人の主張する本件金地金の贈与時期等について資料に基づいて説明するために作成されたものであると認められ、その記載内容について、信用性を検討することなく直ちに認めることはできない。そして、請求人が本件明細書の信用性を裏付ける証拠として提出する本件報告書等の資料は、いずれも請求人主張の贈与があったことを記載するものではなく、請求人やその夫の答述又は申述のほか本件明細書の記載内容を裏付ける証拠はない。そのうえ、本件報告書は、別表3のとおり、その記載内容等から、父Hが、請求人を含む父Hの子らの遺留分の額を算定するためにTに依頼して作成したものと認められるところ、本件報告書は、請求人が主張する本件金地金の贈与の時期のうち先の2回の贈与の時期よりも後に作成されたものであるにもかかわらず、本件報告書に記載された請求人に対する贈与財産の中には金地金は含まれていないことは、請求人の主張と整合しない。これについて、請求人は、金地金はほかの兄弟はもらっておらず請求人だけがもらったものなので、父Hがほかの兄弟との関係上そのことを伏せて本件報告書を作成させたなどと主張するが、本件報告書が作成された趣旨からして採用できない。そうすると、本件明細書の記載をもって、請求人が請求人の主張する時期に父Hから本件金地金を受け取った事実を認定することはできない。
 また、仮に、請求人が請求人の主張する時期に父Hから本件金地金を受け取っていたとしても、その時点においては、請求人は、いまだ本件金地金を自己の財産として現実に支配管理し自由に処分できる状態には至っていなかったものと認められることは上記(ハ)のとおりであり、請求人の主張を採用することはできない。
(ヘ) 以上のとおり、請求人が父Hから本件金地金を贈与によって取得した時期は、請求人が本件金地金を売却した平成18年4月4日であると認めるのが相当である。

(2) 争点2 母Gが父Hから本件入金によって本件入金額に相当する金額の利益を受けたか否か。

イ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 母Gは、遅くとも昭和63年頃から死亡までの間、一部の期間を除き、U社の取締役を務めていた。
(ロ) 母Gは、平成16年10月10日以降○○であり、○○のため自己の財産を管理、処分することができないことから、平成21年10月○日から平成22年6月○日までの間、Y弁護士が成年後見人として後見事務を行っていた。
(ハ) 本件H口座に本件資金が入金された平成18年7月13日の直前数か月間において、別表4のとおり、合計約40,000,000円の母G名義の定期預金等が解約されている。
(ニ) 請求人は、上記(ハ)の母G名義の解約された定期預金に関して、当審判所に対し、父Hから頼まれて、請求人が解約したものもあるが、具体的にどの取引を代行したか覚えていない、出金したお金は父Hに渡したが、その後そのお金がどうなったか知らない旨答述した。
ロ 判断
(イ) 預貯金は、一般的に、その名義人に帰属するのが通常であるが、現金化や別の名義の預貯金への預け替えが容易にでき、また、家族の名前を使用して預金したりすることも世上稀ではないことなどから、その帰属については、単に名義人が誰かという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理及び運用の状況などを総合的に勘案して判断するのが相当である。
(ロ) ところで、原処分庁は、本件入金額は、母Gに帰属するところ、その原資は、同日に本件H口座から出金された同額の金員であり、同金員は、父Hに帰属するものであったとして、父Hから母Gに本件入金額相当の贈与があったものと主張する。
 これに対し、請求人は、本件入金額が母Gに帰属するものであること、その原資が本件H口座から出金された金員であることは認めるものの、同金員は、母Gの預金を管理していた父Hが、母Gの定期預金等を解約したものを、一旦本件H口座に入金した上で本件G口座に入金したものであり、本件入金額の原資は母Gの固有財産であって贈与の事実はない旨主張する。
(ハ) そこで、請求人の主張する内容について検討するに、まず、父Hが母Gの預金を管理していたかという点について、上記イの(ロ)及び(ニ)のとおり、母Gは、平成16年10月以降○○であり、その後後見が開始されていること及び請求人が母Gの別の預金を解約し、出金した現金を父Hに渡したと答述していることからすると、本件資金の入金当時において、母Gの預金等を父H及び請求人を含む母Gの子らが管理していたことが推認される。
(ニ) 次に、本件H口座から出金された金員の原資が、母G固有財産である定期預金等を解約したものであるかについて検討する。
 同金員が出金されたのは、平成18年7月26日であるところ、1の(4)のハの(イ)のとおり、同月13日に、本件H口座に本件資金(50,000,000円)が入金されている。また、上記イの(ハ)のとおり、本件資金の入金前数か月間に、母G名義の定期預金等が合計約40,000,000円解約されている。そして、当審判所の調査によっても、当該解約に係る資金がほかに移動した事実は確認できず、また、父H固有の資産のうちに、本件資金の原資たり得るものがあった事実も確認できない。
 上記イの(イ)のとおり、母Gは、遅くとも昭和63年頃から、父Hが経営していたU社の取締役に就任しており収入を得ていたと推認されることや、本件資金の入金前に解約された約40,000,000円の母G名義の定期預金等が母G以外の者の資産であることをうかがわせる証拠はないことなどからすると、同定期預金等は、母G固有の資産であると認めるのが相当である。
(ホ) そうであるとすると、本件入金の原資となった金員は、原処分庁主張のとおり父Hに帰属するものとも認められず、かえって、請求人主張のとおり、元々母Gの資産を、父Hがその整理過程で自らの口座に入金した本件資金であると認められるから、本件入金をもって、母Gが父Hから本件入金額に相当する金額の利益を受けたものとはいえない。
(ヘ) この点に関し、原処分庁は、本件H口座が公共料金を引き落としている父Hの固有財産であることを理由に、当該口座に入金された資金は入金された時点でその原資に関係なく父Hの固有の資産となる旨主張するが、上記(イ)のとおり、預金の帰属は、単にその口座の名義人が誰かという形式的事実のみにより判断するのではなく、その原資となった金員の出捐者、その管理及び運用の状況などを総合的に判断すべきであり、また、本件入金が本件資金の入金の13日後に行われていることを併せ考えれば、少なくとも本件資金のうち本件入金の原資となった部分については、原処分庁の主張を採用することはできない。

(3) 争点3 請求人が、平成20年分贈与税の申告をしなかったことに隠ぺい又は仮装があるか否か。

イ 法令解釈
 通則法第68条第2項は、通則法第66条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。この重加算税の制度は、納税者が納税申告書を提出しなかったことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者が納税申告書を提出しなかった行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、提出しなかった行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせて納税申告書を提出しなかったことを要するものである。しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではない。たとえば、納税者が、当初から所得等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて納税申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の課税要件が満たされるものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出証拠及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 平成20年の金地金の売却代金について
 平成20年4月21日、Z銀行f支店のP名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に、R社を振込依頼人として○○○○円が振込入金されている。
(ロ) 原処分庁の調査
A 原処分庁の本件調査担当者は、平成23年11月頃、父Hに係る相続税の調査に着手し、その過程において、父Hから、K、M、L及び請求人(以下「請求人ら4名」という。)に金地金が贈与されていることが想定されたため、平成24年1月頃、請求人ら4名に対する贈与税の調査(以下「本件調査」という。)に着手した。
B 本件調査担当者による請求人に対する面談は、平成24年1月25日、同月26日、同年2月2日及び同月24日に請求人宅に臨場して、また、同年5月8日及び同年6月5日に請求人が原処分庁に赴いて行われた。
 なお、平成24年5月8日及び同年6月5日の面談時において、請求人は、平成20年3月4日に父Hから贈与を受けた金地金の数量が8.75kgであると主張し、これに対し原処分庁は、36kgであると主張した。
 また、Pは、平成24年6月13日に原処分庁に赴いて、本件明細書を提示したが、本件調査担当者はこれを受け取らなかった。
C 請求人は、平成24年6月17日付、同月25日付及び同月30日付で、平成20年3月4日に受け取った金地金は36kgではなく8.75kgである旨及び本件G口座に振り込まれた○○○○円の原資は母Gの固有財産である旨の主張並びに再調査を依頼する旨を記載した書面を原処分庁に送付した。
ハ 判断
(イ) 原処分庁は、請求人が過去において贈与税の申告を行った旨申述していること及び請求人が金地金の金銭価値等を認識していたことから贈与税の申告が必要であることを認識していながら申告書を提出しなかったこと及び本件調査時に金地金の贈与があったにもかかわらず、贈与はなかったと虚偽の申述を行ったことから、重加算税の課税要件が満たされる旨主張する。
(ロ) 確かに、本件における金地金の売却代金は、約○○○○円と高額であること、本件報告書のとおり請求人は過去に不動産等の贈与を受けていたと認められること並びに請求人が父Hから贈与を受けた金地金以外にも金地金の売買を行っていた旨及び請求人が過去に贈与税の申告をしていた旨申述していることなどからすると、請求人が単なる知識不足で贈与税の申告義務があることを知らなかったとは認め難く、請求人が、無申告の理由について、父Hが申告しなくてよいと言った旨申述し、KやMも請求人と同様の申述を行っていることを踏まえても、請求人は申告義務があることを認識しながら、申告しなかったと認めるのが相当である。
 そして、請求人は、上記(1)のロの(ニ)のCのとおり、本件調査の最初の時は、金地金を「もらっていない。」と申述を行い、申述が変遷していることが認められる。
(ハ) しかしながら、請求人は、上記(ロ)の原処分庁に対する申述に関し、上記(1)のロの(ニ)のCのとおり、贈与を受けたのは私であるが、P名義で取引をしたため、本件調査の最初の時は、請求人とPの両方が贈与を受けたと思われてはいけないと思い、請求人はもらっていないと言った旨答述しており、原処分庁作成の請求人に対する質問てん末書(請求人は、その記載内容の信用性等を争っている。)をみても、金地金をもらっていない旨の記載のある平成24年1月26日付の質問てん末書が作成された約1週間後である同年2月2日付の質問てん末書には、父Hから金地金33.75kgの贈与があったと贈与を受けた数量について真実の申述をしていることが認められることからすると、本件調査時において、請求人に明らかな虚偽の答弁があったとまでは認められない。
(ニ) また、上記ロの(ロ)のB及びCのとおり、請求人は、その後の本件調査の過程において、平成20年の金地金の贈与に関し36sであるとする原処分庁に対し、真実の数量である8.75kgである旨を主張し、本件調査担当者に本件明細書を提出して説明しようとしていたのであり、これを仮装・隠ぺいと評価することができないことは当然である。
 さらに、上記1の(4)のロの(ロ)及び上記ロの(イ)のとおり、平成20年3月4日に贈与を受けた金地金8.75kgは、同年4月18日にP名義で売却され、当該売却代金は同人名義の普通預金口座に振込入金されており、請求人が、同金地金の贈与に関して、他人名義や架空名義を使用するなどの積極的な隠ぺい又は仮装を行ったとは認められない。
(ホ) 結局、請求人が、本件において、請求人が贈与を受けた財産を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて申告しなかったといえるような事実その他請求人が、平成20年分の贈与税について、重加算税の課税要件である隠ぺい・仮装を行ったとは認められない。

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5 結論

(1) 争点1の平成18年分の贈与税の決定処分については、上記4の(1)のハのとおりであり、その他、同決定処分に違法な点は認められない。また、請求人が同贈与税に係る期限内申告書を提出しなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められず、これに関して原処分庁がした重加算税の賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超えない部分については、違法とは認められない。
(2) 争点2の平成18年分(母G承継分)の贈与税の決定処分及び賦課決定処分については、上記4の(2)のロのとおり、贈与の事実は認められないことから違法であり、その全部を取り消すべきである。
(3) 争点3の平成20年分の贈与税に係る重加算税の賦課決定処分については、上記4の(3)のハのとおり、通則法第68条第2項の重加算税の賦課要件を満たさず違法であるが、同贈与税に係る期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には該当しないので、同法第66条第1項及び第2項の規定に基づき算出した無申告加算税相当額を超える部分の金額につき、取り消すのが相当である。
(4) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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