(平成27年6月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、仕入先からの棚卸資産の購入に係る取引に関し、当該仕入先に対して解約料として支払った金員の額を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該金員の額を棚卸資産の取得価額に含めて申告しなかったことに隠ぺい又は仮装の行為があったとして、法人税に係る重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠ぺい又は仮装の行為はないなどとして、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年12月1日から平成21年11月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに申告した。

区分

項目

確定申告 修正申告
所得金額 ○○○○円 ○○○○円
納付すべき税額 ○○○○円 ○○○○円

ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、平成23年11月30日に、本件事業年度の法人税について、上記イの表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。

ハ T税務署長は、これに対し、本件調査に基づき、平成24年5月29日付で、本件事業年度の法人税に係る重加算税の額を○○○○円とする重加算税の賦課決定処分(以下「本件重加算税賦課決定処分」という。)及び過少申告加算税の額を○○○○円とする過少申告加算税の賦課決定処分をした。

ニ 請求人は、本件重加算税賦課決定処分を不服として、平成24年6月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月12日付で棄却の異議決定をした。

ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成24年10月5日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。

ロ 通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

ハ 通則法第74条の2(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下同じ。)《行政手続法の適用除外》第1項は、行政手続法第3条《適用除外》第1項に定めるもののほか、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為については、行政手続法第2章《申請に対する処分》及び第3章《不利益処分》の規定は適用しない旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、主に○○の輸入販売を行う法人である。

ロ 請求人は、平成20年6月30日付及び同年9月8日付の「○○契約」と題する各契約書により、V国所在のU社との間で、「f商品」という製品名の○○(以下「f商品」という。)を同社から購入する各売買契約(以下「本件各当初契約」という。)を締結した。
 なお、本件各当初契約に係る「○○契約」と題する各契約書には、f商品の売買に関する取引数量、価格等について、それぞれ次の(イ)及び(ロ)の表のとおりとする旨記載されていた。

(イ) 平成20年6月30日付の「○○契約」と題する契約書

船積期日 数量 単価(1MT当たり) 金額 仕向地
平成20年10月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 g
平成20年11月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
平成20年12月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
平成21年1月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
平成21年2月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
平成21年3月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
合計 X,XXXMT ○○○○円

(注) 「MT」は、重量単位であるメートル法上の「トン」(Metric Ton)を示す。以下同じ。

(ロ) 平成20年9月8日付の「○○契約」と題する契約書

船積期日 数量 単価(1kg当たり) 金額 仕向地
平成21年1月 XXXMT ○○○○円 ○○○○円 h
平成21年2月 XXXMT ○○○○円 h
平成21年3月 XXXMT ○○○○円 h
平成21年4月 XXXMT ○○○○円 h
合計 XXXMT ○○○○円

ハ 請求人は、平成21年1月6日(平成20年12月23日船積分)までに、本件各当初契約により取り決めたf商品の取引数量の合計X,XXXMTのうちのX,XXXMTをU社から購入しており、平成21年1月6日時点において購入していない残高はX,XXXMT(以下「本件未履行残高」といい、本件各当初契約により取り決めた内容のうち本件未履行残高に係る部分を「本件未履行部分」という。)であった。

ニ 請求人は、U社との間で、本件各当初契約の解除に合意したとし、その解約料として、平成21年3月6日、U社に対し○○○○円を支払った(以下、請求人が解約料としてU社に支払った金員を「本件金員」という。)。
 なお、請求人は、本件各当初契約の解除に関する書類として、次の(イ)ないし(ホ)の各書面を保存していた(以下、これらのうち(イ)ないし(ニ)の各書面を併せて「本件解約関係書類」という。)。

(イ) 平成20年12月3日付の事故報告書
 平成20年12月3日付の事故報告書(以下「本件事故報告書」という。)は、請求人の平成20年12月当時における営業第一本部の部長兼○○チームのチームリーダーであったi(以下「i部長」という。)が作成した請求人内における書面であり、本件事故報告書には、案件名を「○○」とし、本件各当初契約に関して、要旨次のことが記載されており、また、その後の結果報告として、U社との交渉の結果、○○○○円を同社へ支払うことを条件に解約に応ずるとの回答を得たことが記載されている。

A 平成20年11月末時点で、f商品の既着在庫がX,XXXMTまで拡大する一方、顧客の使用量は明らかな減少傾向が予想できるため、このまま本件各当初契約に対する船積みを受け続けると近々X,XXXMT超(○か月分以上)の在庫を抱えてしまうことが予想されること。

B ○○需給が急激に変化した事情があり、今後の需要回復も見込めないため、既にコンテナ詰めを完了した部分を除いた本件未履行部分について解約できるかU社に非公式に打診したところ、解約に伴って発生する為替予約の解消に伴う損失を主とする費用をU社に支払うことを条件に解約に応ずるかもしれないとの感触を得たこと。

C ○○○○円程度の損失が見込まれるが、在庫の圧縮を第一に考え、また、○○事業の今期損失を最小限に食い止めるためにU社との交渉を進めたいこと。

(ロ) 平成20年12月5日付の解約申込みに関する書面
 平成20年12月5日付の「Re:○○Contracts」と題する書面(以下「本件解約申込書簡」という。)は、請求人の平成20年12月当時におけるV国駐在員事務所の所長であったj(以下「j所長」という。)が、U社の営業部長であったk(以下「k部長」という。)に宛てた本件未履行部分の解約の申込みに関する事項が記載された書簡であり、要旨次のことが記載されている。

A 日本の状況変化で、○○の供給増と消費減により、請求人においてf商品の在庫を減らす必要がある中、f商品の在庫が増加していること。

B 請求人の社内協議の結果、U社に本件未履行部分の解約について検討をお願いすることが必要となったこと。

C 当該解約に伴って発生するU社の損失について、U社からの提案を受ける用意があること。

(ハ) 平成20年12月12日付の条件提案に関する書面
 平成20年12月12日付の「Re:○○Contracts」と題する書面(以下「本件解約条件提案書簡」という。)は、上記(ロ)の本件解約申込書簡に対する回答として、k部長が請求人に宛てた同(ロ)のCのU社からの提案に関する事項が記載された書簡であり、要旨次のことが記載されている。

A 本件各当初契約におけるf商品の未履行残高がX,XXXMTであること。

B U社としては本件未履行部分の解約に応ずる心構えをしているが、当該解約によって金銭的な不利益をU社が被ることがあってはならないと考えていること。

C 契約の終結に伴う違約金は、為替予約の解消に伴う損失○○○○円、機会損失○○○○円及び保管料○○○○円の合計金額○○○○円となること。

(ニ) 平成20年12月22日付の条件同意に関する書面
 平成20年12月22日付の「Re:○○Contracts」と題する書面(以下「本件解約条件同意書簡」という。)は、上記(ハ)の本件解約条件提案書簡に対する回答として、j所長がk部長に宛てた回答事項が記載された書簡であり、要旨次のことが記載されている。

A U社の提案に同意すること。

B 支払の時期については、お互いの最終の合意の2か月後を希望すること。

(ホ) 平成21年1月6日付の解約に関する契約書
 請求人とU社との間で取り交わされた「○○契約」と題する契約書(以下「本件解除契約書」という。)は、本件各当初契約の解除に関する事項が記載された書面であり、要旨次のことが記載されている。

A 両社は、契約締結日及び解約日を平成21年1月6日として本件各当初契約の解除に同意したこと。

B 請求人は、U社の追加費用及び損失を填補するために、○○○○円を支払わなければならないこと。

ホ 請求人は、U社との間で、f商品を同社から購入する各売買契約(以下「本件各新規契約」という。)を締結した書類として、次の(イ)ないし(ハ)の各書面を保存していた。
 なお、これらの各書面には、f商品の売買に関する取引数量、価格等について、それぞれ次の(イ)ないし(ハ)の表のとおりとする旨記載されている。

(イ) 平成21年3月19日付の「○○契約」と題する書面

船積期日 数量 単価(1MT当たり) 金額
平成21年3月 XXXMT ○○○○V国通貨 ○○○○V国通貨
平成21年4月 XXXMT ○○○○V国通貨 ○○○○V国通貨
合計 X,XXXMT ○○○○V国通貨

(注) 「○○」は、通貨単位であるV国通貨を示す。以下同じ。

(ロ) 平成21年5月1日付の「○○契約」と題する書面

船積期日 数量 単価(1MT当たり) 金額
平成21年5〜6月 XXXMT ○○○○V国通貨 ○○○○V国通貨

(ハ) 平成21年5月29日付の「○○契約」と題する書面

船積期日 数量 単価(1MT当たり) 金額
平成21年6月 XXXMT ○○○○V国通貨 ○○○○V国通貨

ヘ 請求人は、平成21年4月15日から同年7月7日までの間に、合計X,XXX.XXMTのf商品をU社から仕入れた。

ト 請求人は、本件事業年度において、本件金員の額を特別損失の解約違約金勘定に計上して損金の額に算入し、上記(2)のイのとおりの本件事業年度の法人税の確定申告をした。

チ 請求人は、本件調査を受け、本件金員の額を上記ヘにおいて仕入れたf商品のうち本件未履行残高に相当する数量の製品に係る取得価額に含めて本件事業年度末における期末棚卸高を再計算し、その結果算出された棚卸計上漏れの額○○○○円を本件事業年度の確定申告における所得金額に加算するなどして、上記(2)のロのとおりの本件修正申告書を提出した。

リ 原処分庁は、請求人が、本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことには隠ぺい又は仮装の行為があるとして、本件重加算税賦課決定処分をした。

(5) 争点

イ 本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。(争点1)

ロ 本件重加算税賦課決定処分に至る手続には、同処分を取り消すべき違法があるか否か。(争点2)

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2 主張

(1) 争点1(本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 原処分庁

請求人は、本件各当初契約の締結後におけるU社とのf商品の購入に関する交渉並びに請求人内における交渉状況の報告及び連絡等を電子メールで行っているところ、当該電子メールの内容等によれば、次の(イ)ないし(ホ)に掲げる事実等が認められ、これらを総合すれば、請求人とU社との間で本件未履行部分が解約された事実はなく、当事者の意思としては、本件未履行残高のf商品について、従前と同様の条件で購入を存続させるということにとどまり、上記交渉の過程において作成された新規購入に係る契約書面で変更されたのは、決済通貨及び船積期日についての軽微な変更及びU社が本件未履行残高に追加して購入を要望したf商品の売買に関する合意にすぎないと認められる。
 しかるに、請求人は、関税の負担の軽減を図ることを目的として、請求人及びU社の双方において本件未履行部分を解約する意思はないにもかかわらず、本件金員を解約料に仮装するために、U社と通謀の上、虚偽の内容を記載した本件解除契約書を日付操作の上で事後的に作成し、さらに、これに関連して、本件解除契約書と新規購入に係る契約書面を分離し、新規購入に係る契約書面を破棄し、本件解約関係書類を日付操作の上で事後的に作成した。
 したがって、請求人が、本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為が認められる。

(イ) 請求人は、U社に対して本件各当初契約の見直し又は契約単価の改定を再三依頼していたところ、U社からは、契約価格についての見直しはしないとの姿勢を明確にされた。一方で、U社のk部長から「インボイス価格を一時的に下げるので、後から別途送金して欲しい。そうすればR社(請求人)は関税分が助かる」という請求人の関税の負担を軽減させる趣旨の代替案が提案され、この考え方に基づいて、U社から本件未履行残高のf商品につき購入単価を1kg当たり○○○○円に改定した場合の差額により解約料を算出した計算書が提示された。そして、当該差額により算出された解約料について、請求人内の電子メールにおいて、j所長が「これをスタートとして一旦受け止めた上で」値引き交渉する旨を関係者に報告しており、この報告に対して、請求人の営業第一本部長であったm(以下「m本部長」という。)は「結局、k意向は、当方の意向すなわちキャンセル料を支払、既契約を無しとして新規契約を新規価格にて締結するというものとは異なり、飽くまで既契約を残してその付帯費用を支払うという方式になると了解します。」とコメントし、請求人の代表取締役であったe(以下「e社長」という。)は「キャンセルいったん受けてもらう事により○○○○円分に対する関税がセーブ出来ることは大きなメリットです。」とコメントしており、これら3名の電子メールの記載を総合すれば、請求人は冒頭記載のk部長の提案に同意したものと認められる。

(ロ) U社は、平成21年1月30日頃に、上記(イ)の差額に相当する金額から値引きを行った○○○○円という金額を解約料として請求人に提示した際、U社は本件各当初契約が履行された場合の資金繰りを前提として、それ以後同年6月までの船積数量や決済条件などに関する要望の申入れを併せて行っている等の事情に鑑みれば、請求人及びU社の共通認識は、引き続き本件各当初契約が存続しているというものであったと認められる。

(ハ) 請求人がU社から平成21年2月20日頃に受領した、本件各当初契約の解除に係る事項と新規購入に係る事項が一体となった「○○契約」と題する書面において、U社は、本件未履行残高に同社が追加で要望したXXXMTを含めたX,XXXMTのf商品の取引を前提として、1kg当たりの単価を○○○○円とすること及び船積期日を平成21年3月から6月とすることなどを明記して条件の申入れをしたと認められるので、この時点でもU社は本件各当初契約が解除されたとの認識を持っていなかったと認められる。

(ニ) 本件未履行残高のf商品については、平成21年3月に取引が再開されたが、当該取引においては、本件各当初契約から単価、決済通貨及び船積期日の変更はあるものの、製品、価格条件、仕向地及び決済条件に係る変更は格別認められない。また、取引されたf商品に係る製造番号に関しては、中断前の最終の取引である平成20年12月と再開後の最初の取引となった平成21年3月との間では連続性が認められる。

(ホ) U社は、本件解除契約書を、本件未履行残高のf商品の船積みが完了した後の平成21年6月23日に請求人に交付しており、同社は、請求人によって本件未履行残高全ての製品の購入がされるまでの間、本件解除契約書の引渡しを留保し、請求人による本件各当初契約での約定事項の履行を求めていたのであるから、本件各新規契約に係る各書面が存在していたことによっても、本件各当初契約が解除されたことにはならない。

ロ 請求人

本件各当初契約の解除の合意及び本件金員の支払に至る経緯並びにf商品の購入状況等は次の(イ)ないし(ヘ)のとおりであり、本件金員については、本件各当初契約の解除の合意に基づいてU社に生ずる損害の填補として支払われた解約料であるから、本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為は存在しない。
 なお、本件金員が本件各当初契約の解除の合意に伴う解約料であることは、監査法人の監査においても認められており、請求人は、本件金員の額は法人税の所得金額の計算上損金の額に算入されると考えて経理処理を行ったものであったが、本件金員の額が本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含まれる可能性を本件調査において指摘され、今後、本件を法的に争う前提の下で、原処分庁の意向する計数を踏まえて、本件金員の額を棚卸資産の取得価額に含めて期末棚卸高を再計算し、算出された棚卸計上漏れの額を所得金額に加算して本件修正申告書を提出したものであり、本件各当初契約について解除の合意がなかったと請求人が認めたものではない。

(イ) 平成20年12月中旬、e社長が本件各当初契約の解除を行うとの経営判断をし、本件未履行部分を完全に解約すること及び解約についてU社と交渉することを関係者に指示しており、当該判断により請求人の従業員は徹底した方針に基づき行動している。

(ロ) ○○価格が下落した状況においては、多額の含み損を抱えた価格(本件各当初契約に基づく価格)で購入を継続した場合、当該価格を下回る価格で顧客に販売するための商談となることから、営業担当者のモチベーション低下につながり、また、販売不振による在庫の積み上がりも想定されたことから、多額の解約料を支払ってでも契約を解除した方がよいと経営判断したものであり、本件各当初契約の解除を行うことは、営利企業として合理的な行動である。

(ハ) U社は、本件各当初契約に係る取引について為替予約を行っていたため、本件各当初契約の解除に合意した場合には、U社において為替予約の解消に伴う差損金として銀行に支払う金員が生ずることから、本件各当初契約の解除に伴って解約料が生ずるのは当然であり、実際に本件金員が支払われた後、U社は本件金員の大部分を当該差損金として銀行に支払っている。

(ニ) 次のAないしEのとおり、本件各新規契約は本件各当初契約とは関連性を持たない全く別の契約であり、これらを同一の契約と認定するのは経済取引の実情に合わないものである。

A 本件各当初契約に基づくf商品の最後の船積みは平成20年12月23日であり、その後の本件各当初契約の解除の合意、本件金員の支払を経て、平成21年3月下旬から本件各新規契約に基づく購入が再開されており、従来の取引においてはなかった3か月という船積断絶期間があるところ、こうした長期断絶は従来の取引においてはなく、本件各当初契約を解除した結果によるものである。

B 本件各当初契約の解除の合意に関する契約は有効に成立している。

C 本件各当初契約前及び本件各新規契約後の取引においては、契約途中における契約条件の変更は全くなされたことがない状況にあって、本件各新規契約は、本件各当初契約とは異なり、契約の最も重要な要素である決済通貨を円建てからV国通貨建てに変更し、為替リスクを請求人側(実質的には請求人の販売先)が負う形とし、また、契約締結に当たっては、以前より少量でこまめに取引をするように変更している。

D 本件各新規契約におけるf商品の購入価格は、その時々の国際相場を踏まえた時価であって、本件金員の支払が本件各新規契約の購入価格に反映されて価格が安くなっている事実はないから、購入価格の前払として巨額な本件金員を一括して支払ったとするとつじつまが合わない。

E U社から提示があった本件各当初契約の解除に係る事項と新規購入に係る事項が一体となった内容の書面について、これらを分離するように申し入れたのは、新規購入に係る部分はU社が業績確保のため社内説明用に一方的に作成した書面であり、また、新契約締結時には新たな個別契約が優先されることから、新契約が締結された時点で効力がなくなる実現可能な目標という位置付けにあったためである。したがって、原処分庁が上記イで主張する新規購入に係る契約書面の内容が正式に締結された場合には、その効力は新たな個別の契約書の締結時になくなることから、請求人及びU社の双方において破棄することとしたものである。
 なお、請求人は、原処分庁が上記イで主張する新規購入に係る契約書面には最終的に署名していない。

(ホ) 本件解除契約書及び本件解約関係書類における日付遡及及び内容削除については、本件各新規契約が成立したところで、請求人及びU社の双方で交渉過程を振り返って、合意した日付や内容を確認して整理したものである。

(ヘ) 本件金員は、U社が当初提案した本件未履行残高の数値に、本件各当初契約における購入単価と本件未履行残高に相当する数量のf商品を継続して購入する場合の予定単価との差額を乗じた金額を根拠として算出されたものではなく、新規購入に係る契約における決済通貨など重要な要素の変更など諸事情を基礎として、U社自らが請求人の考え方を取り入れて、改めて本件各当初契約の解除に伴う自らの損失とその填補額を具体的に算出した別物の数値に基づくものであり、本件各新規契約に基づく実際の購入単価が、結果的に本件金員の額の算出過程において使用された、本件未履行残高に相当する数量のf商品を継続して購入する場合の予定単価に近い価格となったとしても、請求人が当初から予測できるものではなかった。また、請求人は、解約料として提示された○○○○円が、本件各当初契約の解除に伴ってU社に発生すると予測される損害金額の範囲にあったことから合意したものである。

(2) 争点2(本件重加算税賦課決定処分に至る手続には、同処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

イ 請求人

本件重加算税賦課決定処分に至る次の具体的な経緯からすると、同処分に至る手続は適法・適正に行われておらず、納税者に対する適切な告知・説明を欠き、日本国憲法第31条が規定し、国民に対して保障する適正手続を侵害するものであるから、同処分を取り消すべき違法がある。

(イ) 本件修正申告書の提出は、請求人が本件各当初契約の解除の合意を仮装行為と認めたものではなく、法務局への供託金制度は課税の是非を争う場合には使えないという現行制度の不備のために、やむを得ず自発的にしたものであり、請求人の誠実な納税姿勢を示すものである。

(ロ) 本件重加算税賦課決定処分は、本件修正申告書の提出後、6か月もの長期間をおいてなされており、しかも、○○より調査が遅かった○○の重加算税の賦課決定処分が先にされ、○○の処分はそれを後追いしたものであるから、手順として極めて異例である。

(ハ) 本件重加算税賦課決定処分は、不利益処分であるにもかかわらず、原処分庁から請求人に対して、調査講評時に重加算税の賦課決定に係る適切な説明及び本件重加算税賦課決定処分の通知書における理由の提示がなく、このことは日本国憲法及び課税慣行に反するものである。

ロ 原処分庁

次のとおり、本件重加算税賦課決定処分に至る手続について違法は認められないところ、重加算税の賦課決定処分について、一般に刑事手続に関して適正手続を保障するとされる日本国憲法第31条を適用して、本件重加算税賦課決定処分の手続が保障されると解釈することはできないから、同処分を取り消すべき違法はない。

(イ) 原処分庁は、請求人が仮装行為を認めるか否かにかかわらず、仮装行為があれば、重加算税の賦課決定処分ができる。

(ロ) 本件重加算税賦課決定処分が、本件修正申告書の提出後、約6か月を経過した後になされたのは、○○による重加算税の賦課決定処分を後追いしたものではなく、申告書上で疑義が生じた事項等に関する解明作業など、原処分庁内部での事務に時間を要したためである。

(ハ) 重加算税の賦課決定処分は不利益処分に該当するが、本件重加算税賦課決定処分は、平成23年法律第114号による改正前の通則法に基づき行われた処分であり、その改正前においては、行政手続法上の不利益処分に係る理由の提示に係る規定は適用除外とされていたことから、本件重加算税賦課決定処分時に理由を提示する必要はなく、また、調査講評時に重加算税の賦課決定に係る適切な説明を要するとの規定もない。

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3 判断

(1) 争点1(本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を本件未履行残高に相当する数量のf商品に係る取得価額に含めなかったことについて、隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 法令解釈

通則法第68条に規定する重加算税は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出しているときに課されるものであるところ、ここでいう「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠ぺいし、あるいは故意に脱漏することをいい、また、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解するのが相当である。

ロ 認定事実

(イ) 関係者間の電子メールの内容
 請求人は、U社との間のf商品の取引に関して、U社との交渉並びに請求人内における報告及び連絡等を電子メールで行っていたことが認められるところ、その主な内容等は別表のとおりであった(当該電子メールにおける文章には文字や表現の間違いと認められるものが含まれているが、別表において当該文章を示している部分は、原文のまま記載し、また、原文が英文のものについては、請求人が当審判所に提出した日本語訳を参考として和訳したものを記載している。)。
 なお、別表において登場する主な請求人の役員及び従業員は、e社長、m本部長、平成20年12月当時管理本部長であったn(以下「n本部長」という。)、i部長、営業第一本部○○チーム課長であったp(以下「p課長」という。)及びj所長であり、また、U社の役員及び従業員は、U社のCEO(Chief Executive Officer)であったq及びk部長である。さらに、別表における「R」は、請求人(R社)を示し、「U」はU社を示すものである。

(ロ) e社長の陳述書の内容
 請求人が当審判所に提出したe社長の陳述書の内容は、要旨次のとおりである。

A 平成20年12月上旬に開催された決算に関する会議の席上、f商品の担当営業部を管掌する取締役であったr(以下「r取締役」という。)から、同年後半のf商品の相場下落により、f商品の既着在庫の販売において、○○○○円ほどの損失が見込まれるとの報告を受けた。
 f商品は、r取締役が開発した製品であり、その当時、r取締役は請求人におけるf商品の輸入から販売に至る一切を自らが取り仕切っていた。

B 平成20年12月15日に開催された定例役員会の席上、r取締役から、f商品の未着分を本件各当初契約の約定どおりに輸入した場合、○○○○円ほどの損失が見込まれるとの報告を受けた。損失見込みの理由についてr取締役に説明を求めたところ、f商品の輸入取引は、以前から円建てで行っていたところ、本件各当初契約の締結後に為替相場が大きく円高に振れたためであるということであった。私は、本件各当初契約締結時の為替相場と役員会開催当時の為替相場の比較等から、○○○○円程度の損失になることを理解した。

C 上記Bの定例役員会の翌日である平成20年12月16日、現地においてU社との交渉に直接当たっているj所長に電話で実態を問い合わせたところ、j所長は、ちょうどk部長と面談をしている途中であった。j所長は、それまでr取締役が本件各当初契約の価格改定(値下げ)要望を行っていたが色よい返事が得られなかったため、r取締役からの依頼もあって、U社を訪問して直接k部長と交渉しているとのことであった。k部長が同年11月に来日した際、価格改定について話合いをしていたことも後から知った。
 同日の夕方、j所長から電話で報告があり、U社は本件各当初契約について為替予約を行っているため、値引きはできないとのことで、交渉は不調に終わったとのことであった。これを聞いて、私は、契約がV国通貨建てであれば値引きの余地があると思ったが、円建てでは為替変動はU社の責任の範ちゅうではなく、値引きが難しいことを理解した。

D 私は、今後のf商品の商売は、損失販売となるであろうということ、私の経験から、損失を出しながらの販売は営業担当者のモチベーション低下につながるであろうことを危惧した。また、併せて、平成20年は干ばつもあって○○生産が低下し、f商品の製造数量も落ちていると聞いていたため、もしかするとU社は、前シーズンに製造したものを船積みする可能性もあるとの危惧も去来し、賞味期限の問題から安売りや廃棄処分などによる損失の拡大も心配した。
 以上を考えた挙げ句、残る道は、U社と交渉し、先方が要望する違約金を支払ってでも本件各当初契約をキャンセルする方法しかないと考えた。

E 違約金の内容は、U社が締結済の為替予約の解消に伴う損失がほとんどであろうと考え、○○○○円程度となることを想定した。違約金を会社全体の損失として確定させることにより、営業担当者に新たな気持ちで仕事をしてもらうことを期待できると考えた。ただし、r取締役については、f商品の輸入販売取引の当事者であったという経緯から、交渉の難航を懸念し、解約の交渉から外すことを決めた。

F これらの結果、私は、平成20年12月17日に、本件各当初契約のうち本件未履行部分のキャンセルを行うことを決断し、m本部長、n本部長及びi部長の3名を社長室へ呼び、U社とのキャンセル交渉を行うこと及びその交渉からr取締役を外すことを指示した。

(ハ) 関係者間の電子メール及びe社長の陳述書における記載内容の信用性等
 上記(イ)の電子メールは、その記録されている日時において実際に送受信がされたものであることからすると、その内容は、当該送受信時における請求人とU社との交渉並びに請求人内における報告及び連絡等の内容を的確に表しているものと認められる。
 さらに、上記(ロ)のe社長の陳述書の内容は、具体的、詳細かつ自然であって、上記(イ)の電子メールの内容との間にも矛盾はないことからすると、当時の事情や状況等を的確に表しているものと認められ、信用することができる。

(ニ) 上記(イ)の電子メールの内容及び上記(ロ)のe社長の陳述書の内容のほか、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

A 請求人とU社との間のf商品の取引に関する交渉等の経緯

(A) f商品は、○○の原材料に用いられる○○製品(○○)として請求人とU社とが共同で開発した日本市場向けの製品であり、請求人は、平成12年頃より、継続してf商品をU社から購入(輸入)していた。

(B) 請求人は、輸入取引は外貨建てとすることが通常であったが、f商品については、一部の事例を除いて、円建て取引とする慣習になっており、本件各当初契約は、上記1の(4)のロのとおり、その取引価格は円建てにより定められていた。

(C) 請求人は、平成20年10月下旬から同年12月16日までの間、再三にわたり、U社に対し本件各当初契約における契約単価の改定(値下げ)を要望していたが、U社では請求人との取引について為替予約を行っていることを理由に断られ、値下げについては合意に至らなかった。
 なお、値下げ交渉の過程において、p課長は、k部長から「インボイス価格を一時的に下げるので、後から別途送金し(て)欲しい、そうすればR社(請求人)は関税分が助かる」との提案を受けたが、「問題外でありとても無理」と回答した。

(D) e社長は、上記(C)の状況を踏まえ、違約金を支払うことになっても本件各当初契約を解除するとの方針により、U社と交渉するようm本部長らに対し指示した。

(E) j所長は、平成20年12月17日に、上記(D)のe社長の指示をm本部長を通じて受け、k部長に対し、本件各当初契約の解除を申し入れ、その後、解約に伴いU社に発生する損失を解約料として負担する意向を伝え、金額の算出を依頼していたところ、平成21年1月上旬、k部長から、解約後の新しい契約において想定しているf商品の取引価格の提示を求められ、想定価格として1kg当たり○○○○円程度であると回答した。

(F) j所長は、平成21年1月13日に、k部長から、本件各当初契約の解除に合意した場合の解約料は○○○○円になる旨の提示を受け、その計算書を併せて受領したところ、当該計算書には当該金額の内訳として要旨次のaないしdの内容が記載されていた。

a 本件各当初契約におけるf商品1MT当たりの価格と○○○○円(上記(E)のj所長がk部長に回答した1kg当たりの想定価格○○○○円から算出した1MT当たりの新たな契約の見込価格)との差額に本件未履行残高を乗じた金額
 X,XXXMT×(○○○○円−○○○○円)+XXXMT×(○○○○円−○○○○円)=○○○○円

b 金利相当額(1か月当たり0.75%)
 (X,XXXMT×○○○○円+XXXMT×○○○○円)×0.75%=○○○○円

c 保管料相当額(1MTにつき1か月当たり1,550円)
 (X,XXXMT+XXXMT)×1,550円=○○○○円

d 合計額(a+b+c)
 ○○○○円+○○○○円+○○○○円=○○○○円

(G) m本部長は、平成21年1月14日に、上記(F)のk部長から提示された解約料の計算書から、k部長の意向が「既契約を残してその付帯費用を支払うという方式」、すなわち、本件各当初契約を存続させ値引きした上、その値引き額を別途支払う方式であると考え、U社の返事は請求人が要望する本件各当初契約の解除とは異なることから、U社の意向及びそれを受け入れるか否かについてe社長に報告して最終判断を仰ぐようi部長に指示した。

(H) e社長は、上記(F)の内容に関して報告を受け、平成21年1月15日に、m本部長、n本部長、i部長及びj所長に対して送信した電子メール(別表の順号11)において、今後のf商品の輸入に伴い納付すべきこととなる関税の額について、「キャンセルいったん受けてもらう事により○○○○円分に対する関税がセーブ出来ることは大きなメリット」と記載し、併せて、本件未履行残高に相当するf商品X,XXXMTの購入を1kg当たり○○○○円で新規に契約した場合の利益の見込額及び解約ということを文書で正式に取り交わすことが可能かという点について報告するよう指示した。また、e社長は、j所長に対して、k部長から提示された解約料の減額を求めてk部長と交渉するよう指示した。

(I) 上記(G)及び(H)の指示を受けたi部長は、e社長、m本部長及びn本部長との打合せ等を経て、平成21年1月19日に、j所長に対し、上記(F)の解約料の算出方式に表れたU社の考え方では、○○当局に本件各当初契約の価格改定と捉えられる可能性があり、請求人が求めているのは、まずは本件未履行部分の解約であり、その後の取引については販売見通し等の状況を見ながら新たな契約に基づき行っていきたいということをU社に理解させるよう指示した。

(J) 上記(I)の指示を受けたj所長は、平成21年1月20日に、k部長との面談において、1請求人としては、本件未履行部分の解約が必要であること、2解約料の内訳を明らかにした書面を発行してほしいこと、3解約及び新規契約に基づくf商品の購入に関するi部長から受けた請求人側の希望条件(解約日、解約料の支払、f商品の船積みの時期、建値、価格等)などについて申し入れた。

(K) j所長は、平成21年1月30日に、k部長から、上記(J)の申入れに対する回答として、1本件未履行部分の解約に伴う解約料は○○○○円になること、2f商品の取引について新規契約として平成21年6月までの船積みにより合計X,XXXMT(船積時期の希望は、平成21年2月XXXMT、同年3月XXXMT、同年4月XXXMT、同年5月XXXMT、同年6月XXXMT)の取引を求めることなど、本件未履行部分の解約及びその後のf商品の取引に関するU社の条件が提案された。

(L) j所長は、平成21年2月上旬、k部長に対し、上記(K)の提案のうち、同(K)の1については本件未履行部分の解約に伴う解約料として提示された金額を承諾すること、同(K)の2については要望された取引数量のうちU社が同年6月の船積みを希望するXXXMTの購入については現在確約できないが、X,XXXMTの購入については同年6月中の船積みを了解し、新契約による船積みは同年3月からとすることなどを伝えるとともに、本件未履行部分の解約に関する契約書等のドラフトの作成を依頼した。

(M) j所長は、平成21年2月6日に、k部長から解約料の金額が○○○○V国通貨と記載された本件解約条件提案書簡のドラフトを受領した後、当該ドラフトの記載内容に関するk部長との間の調整を経て、平成21年2月10日に、k部長から解約料の金額が○○○○円と記載された本件解約条件提案書簡のドラフトを改めて受領した。
 また、j所長は、平成21年2月19日に、k部長から「○○契約」と題する契約書のドラフトを受領した。当該ドラフトには、本件各当初契約の解除に係る事項と新規購入に係る事項が併せて記載されていた。

(N) i部長は、平成21年2月20日に、k部長と面談し、上記(M)の「○○契約」と題する契約書のドラフトについて、本件各当初契約と新規購入に係る契約は別個のものであるとの認識から記載内容を本件各当初契約の解除に係る事項のみとするよう要望したが、k部長から、U社としては新規購入に係る事項についても本件各当初契約の解除に係る契約書に盛り込むことが必要であるとの回答を得た。これを受け、i部長は、k部長に対し、1本件各当初契約の解除に係る契約書と新規購入に係る契約書を分離して作成すること、2両契約書の日付を異なるものとすること、3新規購入に係る契約書は、実際の契約(合計X,XXXMTを異なる価格で3回に分ける。)が締結された時点で破棄すること、4新規購入に係る契約書には、数量をX,XXXMT、船積時期を平成21年3月ないし6月及びf商品1kg当たりの単価をV国通貨建て平均○○○○円相当の金額と記載することなどを提案した。

(O) 上記(N)の提案を受けたk部長は、同(N)の1及び4について、平成21年2月24日、本件各当初契約の解除に係る契約書と新規購入に係る契約書とを分離した各契約書に係るドラフトを提示し、また、同(N)の3について、同月26日、新規購入に係る契約書は、X,XXXMTの注文が完了次第で破棄することを約束する旨をi部長に回答した。その後、各契約書に係るドラフトの記載内容及び新規購入の条件についての細部にわたる交渉を経て、平成21年3月10日頃に、各契約書に係る最終的なドラフトがU社により作成された。
 このうち、本件各当初契約の解除に係る「○○契約」と題する契約書のドラフトには、本件解除契約書と同旨の内容が記載されており、他方で、本件各当初契約の解除後におけるf商品の新規購入に係る「○○契約」と題する契約書のドラフトには、請求人がU社からf商品を次表の条件で購入する旨記載されていた。なお、いずれの契約書のドラフトにおいても、請求人及びU社の代表者の署名欄が設けられていた。

数量 出荷期間 価格
X,XXXMT 平成21年3月分としてXXXMT
平成21年4月分としてXXXMT
平成21年5月分としてXXXMT
平成21年6月分としてXXXMT
1kg当たり○○○○円CFRに相当する平均X国通貨
XXXMT 平成21年6月30日以前で、出荷の最低1か月前までに請求人からU社に通知される月。当該通知がない場合には、平成21年6月中。 請求人とU社との間で合意すること。合意がない場合には、両当事者が合理的に行動し、1kg当たり○○○○円CFRに相当するV国通貨±10%とする。

(注) 「CFR」は、Cost and Freight(運賃込み本船渡し条件)を示す。

(P) 上記(O)の各契約書のドラフトのうち、「○○契約」と題する契約書のドラフトについては、本件解除契約書が、最終的に平成21年6月下旬に当事者双方の代表者及び担当部長が署名した契約書として作成されたが、「○○契約」と題する契約書のドラフトについては、最終的に当事者双方の署名入りの契約書は作成されなかった。

(Q) 本件解約関係書類は、いずれも各書面に記載された日付において作成されたものではなく、平成21年3月から同年9月までの間の次のaないしdの時期において、請求人が作成し、あるいはU社から受領したものであった。
 なお、次のcの本件解約条件提案書簡は、上記(M)の平成21年2月10日時点における当該書簡のドラフトの記載内容について、その後もj所長とk部長との間で継続して協議し更に修正したものに、k部長が署名し、請求人がU社から受領した書類であった。

a 本件事故報告書  発生報告は平成21年3月10日頃、結果報告は同年8月7日頃

b 本件解約申込書簡  平成21年9月末頃

c 本件解約条件提案書簡  平成21年6月23日頃

d 本件解約条件同意書簡  平成21年9月末頃

B f商品の取引状況

(A) 請求人とU社との間のf商品の取引は、請求人が平成21年1月に購入した上記1の(4)のハの取引(平成20年12月23日船積分)を最後に中断していたが、U社による平成21年3月24日の船積みにより再開され、以後、請求人は、同(4)のヘのとおり、f商品をU社から購入(輸入)したところ、具体的には、次表の「輸入年月日」欄の各年月日に同表の「数量」欄の各数量のf商品をそれぞれ購入(輸入)した。なお、請求人は、その購入に際して、U社から「○○」と題する書面を受領しており、当該書面には、当該購入に係るf商品の価格として次表の「金額」欄の各金額がそれぞれ記載されている。

輸入年月日 数量 金額
平成21年4月15日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年4月23日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年5月13日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年5月18日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年6月8日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年6月15日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年6月15日 XX.XXMT ○○○○V国通貨
平成21年6月23日 XXXMT ○○○○V国通貨
平成21年6月25日 XXX.XXMT ○○○○V国通貨
平成21年7月7日 XXXMT ○○○○V国通貨
合計 X,XXX.XXMT ○○○○V国通貨

(B) 請求人は、上記(A)の再開後の取引について、f商品の購入に係る代金として、同(A)の表の「金額」欄の各金額を、平成21年4月23日から同年7月16日までの間に、V国通貨によりU社に対してそれぞれ支払った。

(C) U社が上記Aの(K)の2において平成21年6月船積みを希望し、また、同Aの(O)の「○○契約」と題する契約書のドラフトにおいて請求人が購入する旨記載されていたf商品XXXMTの取引については、j所長がk部長に対し、その取引価格等は後々の必要なタイミングで取り決めることを依頼していたところ、j所長は、平成21年4月3日までに、k部長から、取引価格を白紙に戻すことを了解する旨の回答を得た。

ハ 当てはめ

(イ) 本件各当初契約の解除の合意等について
 本件各当初契約については、上記ロの(ニ)のAの(C)ないし(J)のとおり、請求人からU社に対して要望していた本件各当初契約に係る契約単価の改定(引下げ)について合意に至らなかったことから、請求人は、平成20年12月中旬に、U社に相応の違約金を支払うこととなっても解除するとのe社長の判断の下に、U社に対して解約を行いたい旨を申し入れ、その後、両社の間で、本件各当初契約の解除に関する交渉が行われた。この交渉の過程において、U社は、同Aの(K)のとおり、請求人に対して、本件各当初契約の解除に伴う解約料の支払に加え、本件各当初契約を解除した後に本件未履行残高を超える数量のf商品の新たな購入を求め、また、同Aの(M)及び(N)のとおり、この新規購入に関する事項についても本件各当初契約の解除に係る契約書に盛り込むことを求めていた。これに対し、請求人は、同Aの(L)ないし(O)のとおり、その内容等につき引き続きU社と交渉を経た後、平成21年3月10日頃に、U社より、請求人が求める本件各当初契約の解除及びU社が求めるf商品の新規購入に関する取引条件が記載された各契約書のドラフトを受領したところ、このうち新規購入に関して作成される契約書については、個別の購入契約を締結した時点で破棄するとの請求人の提案にU社は同意していた。
 このような経緯の中、請求人は、上記1の(4)のニのとおり、平成21年3月6日に、U社に対して本件金員を解約料として支払っているところ、本件金員の額は、上記ロの(ニ)のAの(O)の「○○契約」と題する契約書のドラフトにおいて本件各当初契約の解除に伴い請求人がU社に対して支払うこととされた金員の額と一致している。
 一方、請求人とU社との間のf商品の取引は、上記ロの(ニ)のBの(A)のとおり、平成20年12月のU社による船積みを最後に一旦中断していたが、その後、上記1の(4)のホの本件各新規契約を締結し、U社による平成21年3月24日の請求人へのf商品の出荷(船積み)により再開し、以後継続して行われたところ、上記ロの(ニ)のBの(A)の取引における取引数量は、本件各新規契約において定められた取引数量との間でおおむね一致していたと認められ、また、同(A)の取引における取引金額は、本件各新規契約において単価として定められた価格に同(A)における実際の取引数量を乗じた結果算出される金額と一致している。さらに、同Bの(B)のとおり、請求人は、同Bの(A)の取引に係るf商品の購入代金として、本件各当初契約において定められていた円貨による支払ではなく、本件各新規契約において定められたV国通貨によって支払っていることからすると、同(A)の船積み再開後の取引に係るU社及び請求人の行為は、いずれも本件各新規契約に基づき行われたものであったと認められる。他方、請求人がU社から受領した上記ロの(ニ)のAの(O)の「○○契約」と題する契約書のドラフトに記載された条件等については、同(ニ)のBの(C)のとおり、船積み再開後である平成21年4月3日においても請求人とU社との間でなお協議が継続していたと認められることからすると、当該ドラフトを受領した同年3月10日頃の時点において、その記載された条件等によりf商品の取引を行う旨を請求人とU社との間で合意していたとまで認めることはできない。
 そうすると、請求人がU社との間で交渉していた本件各当初契約の解除及び本件未履行残高を超える数量のf商品の新規購入に関して、平成21年3月10日頃に請求人がU社から受領したそれぞれの契約書のドラフトは、いずれもその受領した時点において、請求人及びU社の代表者の署名がされた契約書として取り交わされたものではなかったが、本件各当初契約の解除に関しては、その契約書のドラフトに記載された条件等により請求人とU社との間で解除の合意が成立していたと認められ、他方で、U社から要求された本件未履行残高を超える数量のf商品の新規購入に関しては、請求人は今後もU社との間でf商品の取引を引き続き行うことを前提に交渉していたものの、当該解除の合意が成立した時点においては、価格等の条件を含め要求された総数量での取引の合意にまでは至らず、今後何回かに分けた個別の購入契約を締結することを合意したにとどまったものと認められる。そして、当該解除の合意に従って、本件金員が支払われ、また、その後のf商品の取引は本件各新規契約を順次締結することに基づき行われたものと認められる。

(ロ) 本件解除契約書の記載内容
 本件解除契約書は、上記ロの(ニ)のAの(P)のとおり、平成21年6月下旬に契約当事者の署名がされたが、その記載内容に関しては、本件各当初契約の解除に合意したとする平成21年1月6日という日付を除けば、上記(イ)のとおり、平成21年3月10日頃の時点において、請求人及びU社の間で本件各当初契約の解除に関して合意した内容を明らかにしたものであったと認められる。また、その日付についても、結果として、上記1の(4)のハのとおり、本件各当初契約に基づく最終の取引が平成21年1月6日であったことからすると、本件各当初契約の解除が当該日付以後に予定されていた取引(本件未履行部分)に関して解約するものであったという意味において虚偽の内容を記載したものと評価することはできない。そうすると、本件解除契約書は、上記(イ)のとおり、請求人とU社との間の交渉の結果、両社が最終的に本件各当初契約の解除に合意したことから、その合意に係る契約書として作成され、双方の代表者等の署名がされたと認めるのが相当である。

(ハ) 本件解約関係書類の記載内容
 本件解約関係書類は、上記ロの(ニ)のAの(Q)のとおり、いずれも平成21年3月から同年9月までの間に請求人が作成し、あるいはU社から受領した書類で、その記載内容に関しては、上記1の(4)のニの(イ)ないし(ニ)のとおり、本件各当初契約の解除に関して請求人とU社との間における解約の申込みやその条件提示等の内容を明らかにしたものであったと認められる。しかしながら、請求人とU社との間の本件各当初契約の解除に係る交渉が、上記ロの(ニ)のAのとおり、平成20年12月中旬から平成21年3月上旬までの間に行われたものであったことからすると、本件解約関係書類はその記載された各日付において行われた交渉内容が正確に記載された書類であるとは認められず、請求人及びU社において、平成21年1月6日を解約日とする本件解除契約書の記載と整合性を持たせるように、いずれも同日より前の時期に作成されたものとする体裁を取りつつ、事後に作成した書類であったと認められる。
 他方、本件各当初契約の解除に関しては、上記(イ)及び(ロ)のとおり、請求人とU社との間で行われた交渉の結果に基づき合意し、その合意に係る契約書として本件解除契約書が作成されたところ、本件解約関係書類の内容は、その交渉経緯の全体を網羅するものでなく本件解除契約書に記載された内容に係る部分のみが記載されているものであるが、その部分に限れば、その記載された各日付を除き、請求人による解約の申入れ、これに対するU社の条件提示、当該条件に対する請求人の応諾というそれぞれの項目について、上記ロの(ニ)のAの(C)ないし(O)の交渉経緯に照らし、事実に即した内容が記載されていると認められることからすれば、この点においては、本件解約関係書類の記載内容が全く虚偽であるとまでいうことはできない。

(ニ) 隠ぺい又は仮装の有無について
 本件各当初契約は、上記(イ)のとおり、請求人とU社との間においてその解除の合意は有効に成立しており、本件金員は当該解除の合意に基づいて請求人によりU社に対して支払われたものである。そして、上記(ロ)のとおり、本件解除契約書は、当該解除の合意に係る契約書として作成されたものと認められることからすると、これらの点において、請求人に事実を隠ぺい又は仮装したと評価される行為があったとは認められない。
 また、購入した棚卸資産の取得価額は、法人税法施行令第32条《棚卸資産の取得価額》第1項第1号イにおいて、資産の購入の代価に、当該資産の購入のために要した費用の額を加算した金額とする旨規定されており、本件金員が、本件各当初契約の解除の合意に係る解約料として請求人からU社に支払われたものであっても、棚卸資産の購入のために要した費用の額に該当する場合には、その取得価額に含まれることとなる。そして、上記(イ)のとおり、上記ロの(ニ)のBの(A)の船積み再開後の取引が本件各新規契約に基づき行われたものであったことからすると、本件金員の額が棚卸資産の取得価額に含まれるものか否かという課税要件に関して、本件各新規契約に基づく取引について本件金員の支払との関係を示す事実は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実に該当するというべきである。
 この点については、請求人とU社との間では、上記(イ)のとおり、請求人が申し入れた本件各当初契約の解除に関する内容とともに、U社から要求された本件未履行残高を超える数量のf商品の新規購入に関する内容についても交渉が行われ、また、請求人においても、U社との間のf商品の取引を今後も引き続き行うことを前提にこの交渉を行っていたにもかかわらず、上記(ハ)のとおり、本件解約関係書類は、当該交渉に関する経緯のうち本件各当初契約の解除に関して本件解除契約書に記載された内容に係る部分のみが記載され、さらに、本件解除契約書において解約日とされている平成21年1月6日より前の時期に作成されたものとする体裁を取りつつ、事後に作成されたものであって、その作成経緯等は極めて不自然なものといわざるを得ない。しかし、上記(イ)のとおり、本件各当初契約の解除に合意した時点においては、U社から要求されたf商品の新規購入に関して条件等の合意には至らず、結果として、本件未履行残高に相当する数量のf商品はその後に順次締結された本件各新規契約に基づき取引が行われたのであるから、本件解約関係書類において、合意に至らなかったU社の要求内容に係る交渉経緯が記載されていないとしても、そのことをもって、本件各新規契約に基づく取引について本件金員の支払との関係を示す事実を隠ぺいし又は故意に脱漏したとまでいうことはできない。さらに、本件各当初契約の解除に係る合意の時期が平成21年1月6日あるいは同年3月10日頃のいずれであったとしても、当該解除の合意は、請求人とU社との間の本件各新規契約の締結よりも前に合意していたこととなるのであるから、実際に、解除の合意の時期と異なるように体裁を取っていたとしても、そのことをもって、本件各新規契約に基づく取引について本件金員の支払との関係を示す事実をわい曲したものと評価することもできない。
 したがって、請求人が本件金員の額を棚卸資産の取得価額に含めなかったことにつき、隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められない。

ニ 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記2の(1)のイの(イ)ないし(ホ)に掲げる事実等が認められるとして、請求人及びU社との間で本件未履行部分が解約された事実はなく、当事者の意思は、本件未履行残高のf商品について従前と同様の条件で購入を存続させるということにとどまり、契約条件の一部につき軽微な変更及び追加で売買の合意をしたにすぎない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が上記2の(1)のイの(イ)ないし(ハ)に掲げる内容は、いずれも、両当事者間における交渉過程において請求人又はU社が相手方に提示した条件等に係るものであるから、最終的に当事者間で合意した内容がこれと異なることをもって、その合意の事実がなかったということはできない。さらに、原処分庁が、同イの(ニ)において、本件未履行残高のf商品に係る取引について、製品及び決済条件等に係る変更は格別認められず、また、取引されたf商品に係る製造番号が直前の最終取引との間で連続性が認められることを掲げ、同イの(ホ)において、U社が、本件解除契約書を、本件未履行残高のf商品の船積みが完了した後に請求人に交付していることを掲げているが、請求人とU社との間におけるf商品の取引のうち上記ロの(ニ)のBの(A)の船積み再開後の取引については、上記1の(4)のホのとおり、本件各新規契約に係る各契約書が存在し、また、本件各新規契約に定められた条件等と本件各当初契約に定められた条件等との間では、f商品という同一製品の取引に係るものではあるものの、単価、決済通貨、船積期日及び取引数量のいずれもが異なる内容で定められており、かつ、上記ハの(イ)のとおり、再開後の取引に係るU社及び請求人の行為が、いずれも本件各新規契約に基づき行われていたと認められるのであるから、原処分庁が上記2の(1)のイの(ニ)及び(ホ)において掲げる内容は、いずれも当該取引が本件各新規契約に基づいて行われたとの認定を覆すに足りる事実とは認められず、また、ほかに当該取引が本件各当初契約に基づく取引であったと認めるに足りる証拠はない。そうすると、請求人及びU社との間で本件未履行部分が解約された事実はなかったとする原処分庁の主張は、その前提を欠くものである。
 また、原処分庁は、請求人がU社と通謀の上、虚偽の内容を記載した本件解除契約書を日付操作の上で事後的に作成し、さらに、これに関連して、本件解除契約書と新規購入に係る契約書面を分離し、新規購入に係る契約書面を破棄し、本件解約関係書類を日付操作の上で事後的に作成しており、隠ぺい又は仮装の行為が認められる旨主張する。
 しかしながら、上記ハのとおり、本件各当初契約の解除の合意は有効に成立していたのであり、本件解除契約書は、当該解除の合意の時点において作成されたものではないものの、当該解除の合意に係る契約書として作成されたものというべきであって、その内容自体を虚偽ということはできず、また、原処分庁が日付操作と主張する本件解除契約書及び本件解約関係書類の記載内容に関しても、本件金員の額が棚卸資産の取得価額に含まれるものか否かという点に関して事実を隠ぺいし又は仮装した行為があったと認めることはできない。さらに、原処分庁が新規購入に係る契約書面であるとする書類は、上記ロの(ニ)のAの(O)のとおり、「○○契約」と題する契約書のドラフトとして請求人がU社から受領した書類ではあるものの、上記ハの(イ)のとおり、当該書類に記載された内容が、その受領した平成21年3月10日頃の時点において請求人とU社との間で合意したものであるということはできず、請求人がU社に対して、本件解除契約書の内容として本件未履行残高を超える数量のf商品の新規購入に関する内容を分離することや当該新規購入に係る契約書のドラフトであった「○○契約」と題する書類の破棄を求めたことについても、上記ハの(イ)のとおり、本件金員が請求人とU社との間の本件各当初契約の解除の合意に基づき支払われ、他方で、請求人による本件未履行残高に相当する数量のf商品の新規購入が本件各新規契約に基づく取引として行われたことからすれば、合意された内容を記載した書面として作成を要求したものと評価するのが相当であり、事実を隠ぺいし又は仮装した行為であったと認めることはできない。
 したがって、原処分庁の主張は、いずれも理由がない。

(2) 争点2(本件重加算税賦課決定処分に至る手続には、同処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

請求人は、本件重加算税賦課決定処分が、請求人による本件修正申告書の提出後長期間を経過した後にされた処分であったことや、本件調査において重加算税の賦課決定に係る適切な説明及び本件重加算税賦課決定処分に係る通知書において理由の提示がなかったといった経緯を挙げ、本件重加算税賦課決定処分に至る手続は適法・適正に行われておらず、日本国憲法第31条が規定し、国民に対して保障する適正手続を侵害するものであって、本件重加算税賦課決定処分に至る手続には、同処分を取り消すべき違法がある旨主張する。
 しかしながら、重加算税は、上記1の(3)のロのとおり、通則法第68条第1項に規定する要件を充足する場合に課されるものであって、重加算税の賦課決定処分に関して、その期間制限につき修正申告書の提出からの期間により制限する旨を定めた法令の規定はなく、また、本件重加算税賦課決定処分が平成23年法律第114号による改正前の通則法の規定に基づきなされた処分であり、同(3)のハのとおり、通則法第74条の2において、国税に関する法律に基づき行われる処分等については、行政手続法の第2章及び第3章の規定は、適用しない旨規定されていることからすると、本件重加算税賦課決定処分に当たり、処分の理由を事前に説明すべき又は処分の通知書に理由を付記すべきであったということはできない。さらに、本件重加算税賦課決定処分に至る手続が、憲法に違反するか否かの判断は、当審判所の権限に属さないものであるから、当審判所の審理の限りではない。
 したがって、本件重加算税賦課決定処分については、その手続において、取り消すべき違法があったということはできないから、この点に関する請求人の主張はいずれも採用できない。

(3) 本件重加算税賦課決定処分について

上記(1)のハの(ニ)のとおり、請求人が、本件事業年度末における期末棚卸高の算定に当たり、本件金員の額を棚卸資産の取得価額に含めなかったことについて隠ぺい又は仮装の行為はなく、重加算税を課すことは相当でないと認められる。他方で、上記(2)のとおり、本件重加算税賦課決定処分はその手続において取り消すべき違法があったとは認められず、また、本件の修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件重加算税賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき、別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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