(平成27年6月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人F、同D及び同G(以下、順に「請求人F」、「請求人D」及び「請求人G」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により共有で取得した宅地の各持分について、当該宅地の上に存する建物が被相続人等の居住の用及び関係会社の事業の用のいずれの用にも供されていたことから、請求人Fの取得した当該宅地の持分は、被相続人等の居住の用に供されていた部分に相当する宅地であり、請求人D及び請求人Gの取得した当該宅地の各持分は、関係会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地であるとして、それぞれ租税特別措置法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して相続税の申告をしたところ、原処分庁が、請求人らの取得した当該宅地の各持分には、いずれも被相続人等の居住の用及び関係会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地があることから、請求人Fの取得した当該宅地の持分のうち関係会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地並びに請求人D及び請求人Gの取得した当該宅地の各持分のうち被相続人等の居住の用に供されていた部分に相当する宅地については、それぞれ適用要件を満たしていないため、本件特例を適用することはできないなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人らが、当該各更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

イ 請求人らは、平成22年7月○日に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「期限内申告」欄のとおり記載した相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに共同で原処分庁に提出して、相続税の期限内申告をした。

ロ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成26年4月28日付で、別表1の「当初更正処分等」欄のとおり、請求人らに対して相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、請求人D及び請求人Gに対する各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人らは、平成26年6月12日、上記ロの各更正処分及び各賦課決定処分に不服があるとして、別表1の「異議申立て」欄のとおり、それぞれ異議申立てをした。

ニ 異議審理庁は、平成26年9月4日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、1請求人Fに対する上記ロの更正処分及び賦課決定処分については、いずれもその一部を取り消すとともに、2請求人D及び請求人Gに対しては、上記ロの各更正処分についてはいずれもその一部を取り消し、本件各賦課決定処分についてはいずれも棄却する旨の異議決定をした。

ホ 請求人らは、平成26年9月29日、異議決定を経た後の上記ロの各更正処分(上記ニの1及び2の異議決定によりいずれもその一部が取り消された後のもの)及び各賦課決定処分(請求人Fについては、上記ニの1の異議決定によりその一部が取り消された後のもの)に不服があるとして、それぞれ審査請求をし、同日、請求人Dを総代として選任する旨を届け出た。

ヘ なお、原処分庁は、平成27年3月31日付で、別表1の「減額更正処分等」欄のとおり、1請求人らに対して減額の各更正処分(以下、上記ロの各更正処分について、上記ニの1及び2の異議決定によりいずれもその一部が取り消され、当該減額の各更正処分後のものを「本件各更正処分」という。)をするとともに、2請求人Fに対して過少申告加算税の変更決定処分(以下、上記ロの賦課決定処分について、上記ニの1の異議決定によりその一部が取り消され、当該変更決定処分後のものを「本件変更後賦課決定処分」という。)をした。

(3) 関係法令の要旨

別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人ら及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 本件相続について

(イ) 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の妻である請求人F、同長女であるJ、同長男である請求人D及び同二男である請求人Gの4名である。

(ロ) 本件被相続人の相続財産の中には、別表2の1の宅地(以下「本件宅地」という。)及び本件宅地上に存する同表の2の建物(以下「本件ビル」といい、本件宅地と併せて「本件不動産」という。)があり、本件不動産は、本件被相続人が単独で所有していた。

(ハ) 上記(イ)の共同相続人は、平成23年1月18日付で、本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、本件宅地については、請求人Fが7,844分の3,266、請求人Dが7,844分の2,289及び請求人Gが7,844分の2,289の各持分をそれぞれ本件相続により取得し、本件ビルについては、請求人Dが2分の1及び請求人Gが2分の1の各持分をそれぞれ本件相続により取得した。
 なお、請求人らは、本件相続の開始の時から本件相続税の相続税法第27条《相続税の申告書》の規定による申告書の提出期限(以下「申告期限」という。)まで、当該取得した本件不動産の各持分を引き続き所有していた。

ロ 関係会社について

(イ) K社(以下「本件会社」という。)は、昭和42年4月○日に設立され、資本金の額を90,000,000円、本店所在地をb市e町○−○(本件宅地の所在地)、事業目的を○○の売買等とする法人であり、本件相続税の申告期限において、事業を継続していた。

(ロ) 本件相続の開始の直前において、本件被相続人及び本件被相続人の親族が、本件会社の発行済株式(180,000株)の全てを所有していたことから、本件会社は、措置法第69条の4第3項第3号に規定する、相続開始の直前に被相続人及び当該被相続人の親族等が有する株式の総数が当該株式に係る法人の発行済株式の総数の10分の5を超える法人(以下「同族会社」という。)である。

(ハ) 請求人Dは、平成22年7月○日、請求人Gは、同年11月○日、本件会社の監査役にそれぞれ就任しており、本件相続税の申告期限において、いずれも本件会社の監査役であった。

ハ 本件不動産の本件相続の開始の直前における利用状況等について

本件宅地は、本件ビルの敷地の用に供されており、本件ビルは、本件相続の開始の直前において、本件被相続人及び請求人F(以下、これら2名を併せて「本件被相続人ら」という。)の居住の用及び本件会社の事業の用のいずれの用にも供されていたことから、本件宅地は、本件相続の開始の直前において、本件被相続人らの居住の用に供されており、また、本件相続の開始の直前から本件相続税の申告期限まで本件会社の事業の用に供されていた。

ニ 本件申告書における本件特例の適用に係る申告内容について

請求人らは、本件申告書において、本件宅地の価額を152,568,355円と評価した上で、別表3のとおり、1本件宅地のうち、本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する面積32.66平方メートル(別表3の3参照。)について、請求人Fが特定居住用宅地等(措置法第69条の4第3項第2号)として選択し(別表3の1参照。)、2本件宅地のうち、本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する面積42.51平方メートル(別表3の3参照。)について、請求人D及び請求人Gが当該面積の各2分の1の面積(21.255平方メートル)を特定同族会社事業用宅地等(同項第3号)として選択し(別表3の1参照。)、これらの選択した宅地について本件特例を適用して、請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき各価額を算定した。

ホ 原処分庁が主張する請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の各価額について

原処分庁は、本件宅地の価額を150,816,819円と評価した上で、請求人らの取得した本件宅地の各持分には、いずれにも本件被相続人らの居住の用及び本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地があり、1ア請求人Fの取得した本件宅地の持分のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地は特定居住用宅地等として、イ請求人D及び請求人Gの取得した本件宅地の各持分のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は特定同族会社事業用宅地等として、これらについては本件特例を適用することができるものの、2ア請求人Fの取得した本件宅地の持分のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地、並びにイ請求人D及び請求人Gの取得した本件宅地の各持分のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地については、それぞれ適用要件を満たしておらず、本件特例を適用することはできないことから、請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の各価額は、次表のとおりである旨主張している。

本件特例の適用を受ける取得者の氏名 1取得した持分に相当する本件宅地の価額 小規模宅地等の種類 2本件特例に基づき減額される金額 本件相続税の課税価格に算入すべき価額
12
請求人F 62,795,477円 特定居住用宅地等 24,327,841円 38,467,636円
請求人D 44,010,670円 特定同族会社事業用宅地等 18,158,190円 25,852,480円
請求人G 44,010,670円 特定同族会社事業用宅地等 18,158,190円 25,852,480円

ヘ 請求人らは、本審査請求において、本件宅地のうち本件特例が適用できる範囲について争っており、それ以外の事項については争っていない。

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2 争点

共同相続人が、複数の利用区分が存する一の宅地を相続により共有で取得した場合、本件特例の適用に当たり、租税特別措置法施行令(平成25年政令第169号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第40条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第7項及び第11項に規定する「相続…により取得した持分の割合に応ずる部分」をどのように算定すべきか。

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3 主張

原処分庁 請求人ら
(1) 民法第249条《共有物の使用》は、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる旨規定しており、また、共有についての一般的な考え方として、宅地に係る共有持分権者の当該宅地に有する権利は、当該宅地の全てに均等に及ぶものとされていることから、請求人らは、本件宅地の全体をその持分の割合により所有しているものと認められる。
 そうすると、請求人らがそれぞれ取得した本件宅地の各持分は、そのいずれもが、本件ビルのうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分及び本件会社の事業の用に供されていた部分のいずれの敷地としても利用されていた宅地であると認めるのが相当である。
(1) 本件ビルは、利用上及び構造上独立しており、昭和49年に建築された当初から本件ビルの1階から3階まで及び4階の2分の1が本件会社の事業の用に、4階の残り2分の1、5階及び6階が本件被相続人及びその親族の居住の用に供されていたことから、請求人らは、本件ビルの利用実態に応じて本件宅地をそれぞれ取得したのである。
 すなわち、請求人Fは、本件宅地のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地を取得し、請求人D及び請求人Gは、本件宅地のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地を各2分の1ずつ取得したのである。
 したがって、請求人らが取得した本件宅地の各持分の全てが、措置法施行令第40条の2第7項及び第11項に規定する「相続…により取得した持分の割合に応ずる部分」であるから、請求人Fが取得した本件宅地の持分の全てが特定居住用宅地等に該当し、請求人D及び請求人Gが取得した本件宅地の各持分の全てが特定同族会社事業用宅地等に該当することになる。
(2) 本件被相続人らの居住の用に供されていた本件宅地の部分については、請求人Fは、本件被相続人の配偶者であるものの、請求人D及び請求人Gは、措置法第69条の4第3項第2号に規定するいずれかの要件を満たす親族に該当しないことから、本件被相続人らの居住の用に供されていた本件宅地の部分のうち、請求人Fが本件相続により取得した持分の割合に応ずる部分のみが、特定居住用宅地等に該当する。
 また、本件会社の事業の用に供されていた本件宅地の部分については、請求人らが当該部分を本件相続の開始の時から本件相続税の申告期限まで引き続き所有し、当該申告期限まで引き続き本件会社の事業の用に供されているところ、請求人D及び請求人Gは、いずれも本件会社の役員であるものの、請求人Fは、本件会社の役員でないことから、本件会社の事業の用に供されていた本件宅地の部分のうち、請求人D及び請求人Gが本件相続により取得した各持分の割合に応ずる部分のみが、特定同族会社事業用宅地等に該当する。
(2) 1本件特例は、相続人等による居住又は事業の継続への配慮から設けられている制度であることからすれば、請求人らは、特定居住用宅地等又は特定同族会社事業用宅地等のいずれかの適用要件を満たしている親族であり、今後も本件ビルで居住及び事業を継続するのであるから、請求人らが取得した本件宅地の各持分の全てについて、本件特例を適用することが立法趣旨に合致すること、加えて、2租税特別措置法施行令(平成22年政令第58号による改正前のもの。)第40条の2の規定は、本件相続の開始の3月前に改正されたが、当該改正は、適用要件を満たさない者が適用対象となる宅地等を取得した場合であっても、結果的に租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のもの。)第69条の4第1項の規定の適用を受けられていたことを是正するために、取得者ごとに適用要件を判定することとしたものであるから、本件のように請求人ら全てが本件特例の適用要件を満たしている場合には、措置法第69条の4第2項に規定する限度面積の範囲内であれば、取得者ごとに本件特例を適用するのが当該改正の趣旨にも合致することから、請求人らが取得した本件宅地の各持分の全てについて、本件特例を認めるべきである。
(3) したがって、請求人らが本件宅地を共有で取得している以上、本件宅地の全部が本件特例の要件を充足するものでないことは、上記(1)及び(2)のとおりであり、その要件を充足しない本件宅地の各部分(請求人Fについては、本件会社の事業の用に供されていた本件宅地の部分のうち、請求人Fが取得した持分の割合に応ずる部分。請求人D及び請求人Gについては、本件被相続人らの居住の用に供されていた本件宅地の部分のうち、請求人D及び請求人Gが取得した各持分の割合に応ずる部分。)に相当する宅地については、本件特例の適用は認められない。

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4 判断

(1) 認定事実

請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件ビルの本件相続の開始の直前における利用状況等について

本件不動産の本件相続の開始の直前における利用状況は、上記1の(4)のハのとおりであるところ、本件被相続人は、本件相続の開始の直前において、本件ビル(総床面積411.82平方メートル)のうち1階から3階まで及び4階の床面積の2分の1の部分(合計240.32平方メートル)について、賃貸料を月額500,000円として本件会社に貸し付けており、本件会社は、本件被相続人から借り受けた本件ビルのうち、1階を店舗として、2階、3階及び4階の床面積の2分の1の部分を倉庫として、いずれも本件会社の事業の用に供していた。
 また、本件被相続人らは、本件相続の開始の直前において、本件ビルのうち4階の床面積の2分の1の部分(上記の本件会社に貸し付けている部分を除く。)並びに5階及び6階(合計171.50平方メートル)を居住の用に供していた。
 なお、請求人D及び請求人Gは、本件相続の開始の前から本件相続税の申告期限まで、本件ビルに居住していなかった。

ロ 請求人Fの本件会社における経営の従事状況等について

請求人Fは、本件会社の役員に就任したことはなく、本件相続税の申告期限において、本件会社の経営方針の決定に関し参画するなど、本件会社の経営にも従事していなかった。

(2) 検討

イ 本件宅地が、本件相続の開始の直前において、本件被相続人らの居住の用及び本件会社の事業の用のいずれの用にも供されていた本件ビルの敷地の用に供されている宅地であり、また、本件宅地を請求人らが本件相続により共有で取得していることから、本件特例の適用に当たり、複数の用途に供されている一棟の建物の敷地の用に供されている宅地の利用区分に係る各面積の算定及び複数の利用区分が存する一の宅地を相続により共有で取得した場合の当該宅地に対する各共有者の権利について、以下検討する。

(イ) 本件特例の概要について
 本件特例は、個人が相続又は遺贈(以下「相続等」という。)により取得した財産で、当該相続の開始の直前において、当該相続等に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等で建物等の敷地の用に供されているもののうち特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に該当し、相続人が本件特例の適用を受けるものとして選択した小規模宅地等に限り、当該小規模宅地等の相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の減額をするものである。

(ロ) 複数の用途に供されている一棟の建物の敷地の用に供されている宅地の利用区分に係る各面積の算定について
 本件特例の対象となる宅地は、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等又は貸付事業用宅地等に該当するものに限られていることから、当該宅地が一棟の建物の敷地の用に供されており、かつ、当該建物が複数の用途に供されている場合には、当該宅地のうち、それぞれの用途に供されている部分に相当する宅地の各面積を算定した上で、当該部分に相当する宅地が特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等又は貸付事業用宅地等のいずれの小規模宅地等に該当するかを判定する必要がある。
 そこで、複数の用途に供されている一棟の建物及び当該建物の敷地の用に供されている宅地を被相続人が単独所有していた場合における当該宅地の利用区分に係る各面積の算定については、当該建物の用途ごとにあん分して算定するのが相当であり、具体的には、当該宅地の面積に、当該建物の総床面積に占めるそれぞれの用途の床面積の割合を、それぞれ乗じて計算した各面積を、それぞれの用途に供されていた部分に相当する宅地の面積とするのが相当である。

(ハ) 複数の利用区分が存する一の宅地を相続等により共有で取得した場合の当該宅地に対する各共有者の権利について
 民法第249条は、各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる旨規定しており、各共有者の有する権利は、単独所有の権利、性質及び内容と異ならず、共有物の全体に及ぶと解される。
 そうすると、被相続人の所有していた宅地について複数の利用区分が存する場合、例えば、当該宅地が被相続人等の居住の用及び同族会社の事業の用のいずれの用にも供されていた場合において、複数の相続人が相続等により当該宅地を共有により取得したときには、当該宅地に対する各相続人の権利は、被相続人等の居住の用及び同族会社の事業の用に供されている部分に相当する宅地のそれぞれに及ぶものと解される。
 言い換えれば、当該宅地のうち被相続人等の居住の用に供されていた部分及び同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は、相続等により共有持分を取得した各相続人が、被相続人等の居住の用に供されていた部分及び同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地を各持分の割合に応じてそれぞれ取得したものであると解される。

ロ 請求人らの取得した本件宅地の各持分が特定居住用宅地等に該当するか否かについて

(イ) 特定居住用宅地等とは、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、1当該被相続人の配偶者又は措置法第69条の4第3項第2号イないしハに掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。下記(ロ)において同じ。)が相続等により取得した当該宅地等で、2配偶者又は当該親族が相続等により取得した持分の割合に応ずる部分に限られている(措置法第69条の4第3項第2号及び措置法施行令第40条の2第7項)。

(ロ) 本件宅地は、上記1の(4)のハのとおり、本件相続の開始の直前において、その一部が本件被相続人らの居住の用に供されていた宅地であるところ、請求人Fは、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件被相続人の妻(配偶者)であるから、上記(イ)の1の「当該被相続人の配偶者」に該当する。
 しかしながら、請求人D及び請求人Gは、上記(1)のイのとおり、本件相続の開始の直前において、本件ビルに居住していなかったこと、本件相続の開始の前から本件相続税の申告期限まで本件ビルに居住していなかったこと及び本件被相続人には配偶者(請求人F)がいることから、上記(イ)の1の「措置法第69条の4第3項第2号イないしハに掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族」には該当しない。 

(ハ) そして、上記イの(ハ)のとおり、各共有者の権利は、単独所有の権利、性質及び内容と異ならず、共有物の全体に及ぶと解され、宅地のうち被相続人等の居住の用に供されていた部分に相当する宅地は、共有持分を取得した各相続人が各持分の割合によりそれぞれ取得したと解されるから、本件宅地のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地は、請求人らが各持分の割合に応じてそれぞれ取得したことになる。
 そうすると、本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地のうち、請求人D及び請求人Gが取得した各持分の割合に応ずる部分は、特定居住用宅地等に該当しないこととなり、上記(イ)の2の配偶者が相続等により取得した持分の割合に応ずる部分、すなわち、請求人Fが取得した本件宅地の持分のうち措置法施行令第40条の2第7項に規定する「相続…により取得した持分の割合に応ずる部分」は、本件宅地のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地の面積を算定し、当該面積に請求人Fが本件相続により取得した本件宅地の持分の割合を乗じて算定するのが相当である。
 したがって、本件宅地の面積(78.44平方メートル)に、本件ビルの総床面積(411.82平方メートル)に占める本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に係る床面積(171.50平方メートル)の割合を乗じ、これに、請求人Fが本件相続により取得した本件宅地の持分の割合(7,844分の3,266)を乗じた部分の面積である13.60平方メートル(別表4の2及び同付表参照。)が、特定居住用宅地等に該当することとなる。

ハ 請求人らの取得した本件宅地の各持分が特定同族会社事業用宅地等に該当するか否かについて

(イ) 特定同族会社事業用宅地等とは、相続開始の直前に同族会社の事業(不動産貸付業等を除く。)の用に供されていた宅地等のうち、1ア租税特別措置法施行規則(平成27年財務省令第30号による改正前のもの。以下「措置法施行規則」という。)第23条の2《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第4項に規定する者に該当する親族が相続開始時から相続税の申告期限まで当該宅地を引き続き所有し、かつ、イ当該申告期限まで引き続き同族会社の事業の用に供されているもので、2当該親族が相続等により取得した持分の割合に応ずる部分に限られている(措置法第69条の4第3項第3号及び措置法施行令第40条の2第11項)。
 なお、措置法施行規則第23条の2第4項に規定する者とは、相続税の申告期限において同族会社の法人税法第2条《定義》第15号に規定する役員である者をいうこととされている。

(ロ) 本件宅地は、上記1の(4)のハのとおり、本件相続の開始の直前において、その一部が本件会社(同族会社)の事業(○○の売買等の事業)の用に供されていた宅地であるところ、請求人D及び請求人Gは、上記1の(4)のイの(イ)のとおり、本件被相続人の長男及び二男であり、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、本件相続税の申告期限において本件会社の監査役であるから、上記(イ)の1アの「措置法施行規則第23条の2第4項に規定する者に該当する親族」に該当し、かつ、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件宅地を本件相続の開始の時から本件相続税の申告期限まで引き続き所有していた。また、本件宅地は、上記1の(4)のハのとおり、本件相続の開始の直前から本件相続税の申告期限まで引き続き本件会社の事業の用に供されていた。
 しかしながら、請求人Fは、上記(1)のロのとおり、本件相続税の申告期限において、本件会社の役員に就任しておらず、また、本件会社の経営に従事していなかったことから、上記(イ)の1アの「措置法施行規則第23条の2第4項に規定する者に該当する親族」に該当しない。

(ハ) そして、上記イの(ハ)のとおり、各共有者の権利は、単独所有の権利、性質及び内容と異ならず、共有物の全体に及ぶと解され、宅地のうち同族会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は、共有持分を取得した各相続人が各持分の割合によりそれぞれ取得したと解されるから、本件宅地のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は、請求人らが各持分の割合に応じてそれぞれ取得したことになる。
 そうすると、本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地のうち、請求人Fが取得した持分の割合に応ずる部分は、特定同族会社事業用宅地等に該当しないこととなり、上記(イ)の2の「当該親族が相続等により取得した持分の割合に応ずる部分」、すなわち、請求人D及び請求人Gが取得した本件宅地の各持分のうち措置法施行令第40条の2第11項に規定する「相続…により取得した持分の割合に応ずる部分」は、本件宅地のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地の面積を算定し、当該面積に請求人D及び請求人Gが本件相続により取得した本件宅地の各持分の割合を乗じて算定するのが相当である。
 したがって、本件宅地の面積(78.44平方メートル)に、本件ビルの総床面積(411.82平方メートル)に占める本件会社の事業の用に供されていた部分に係る床面積(240.32平方メートル)の割合を乗じ、これに、請求人D及び請求人Gが本件相続により取得した本件宅地の各持分の割合(いずれも7,844分の2,289)を乗じた部分の面積である13.36平方メートル(別表4の2及び同付表参照。)が、それぞれ特定同族会社事業用宅地等に該当することとなる。

ニ 請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の各価額について
 上記ロの(ハ)のとおり、本件宅地で本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地のうち請求人Fが本件相続により取得した本件宅地の持分の割合に応ずる部分が特定居住用宅地等に該当し、また、上記ハの(ハ)のとおり、本件宅地で本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地のうち請求人D及び請求人Gが本件相続により取得した本件宅地の各持分の割合に応ずる部分が特定同族会社事業用宅地等に該当することになるから、これらに基づき、請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の各価額を計算すると、別表4の2のとおり、請求人Fは38,467,637円、請求人D及び請求人Gはそれぞれ25,852,480円となる。

(3) 請求人らの主張について

イ 請求人らは、本件ビルが利用上及び構造上独立しており、建築当初から本件会社の事業の用並びに本件被相続人及びその親族の居住の用にそれぞれ供されていたという本件ビルの利用実態に応じて、請求人Fは本件宅地のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地を取得し、請求人D及び請求人Gは本件宅地のうち本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地を取得したのであるから、請求人Fが取得した本件宅地の持分の全てが特定居住用宅地等に該当し、請求人D及び請求人Gが取得した本件宅地の各持分の全てが特定同族会社事業用宅地等に該当する旨主張する(上記3の「請求人ら」欄の(1))。
 しかしながら、宅地を相続等により共有で取得した場合の当該宅地に対する各共有者の有する権利は、上記(2)のイの(ハ)のとおり、単独所有の権利、性質及び内容と異ならず、共有物の全体に及ぶと解され、本件宅地のうち本件被相続人らの居住の用に供されていた部分及び本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地は、請求人らが各持分の割合に応じてそれぞれ取得していると解されるから、請求人らが本件相続により本件宅地を共有で取得した以上、請求人らが取得した本件宅地の各持分には、本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地及び本件会社の事業の用に供されていた部分に相当する宅地がそれぞれ存することになる。
 そうすると、本件特例の適用に当たり、請求人Fが取得した本件宅地の持分は、全て本件被相続人らの居住の用に供されていた部分に相当する宅地(特定居住用宅地等)であり、請求人D及び請求人Gが取得した本件宅地の各持分は、全て本件会社の事業の用に供されている部分に相当する宅地(特定同族会社事業用宅地等)であるとして、請求人らが取得した本件宅地の各持分の全てについて本件特例を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用できない。

ロ 請求人らは、1本件特例は、相続人等による居住又は事業の継続への配慮から設けられている制度であり、請求人らは今後も本件ビルで居住及び事業を継続すること並びに2平成22年の改正は、適用要件を満たさない者が適用対象となる宅地等を取得した場合であっても、結果的に租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のもの。)第69条の4第1項の規定の適用を受けられていたことを是正するために、取得者ごとに適用要件を判定することとしたものであるから、本件のように請求人ら全てが本件特例の適用要件を満たしている場合には、請求人らが取得した本件宅地の各持分の全てについて本件特例を適用することが立法趣旨及び平成22年の改正趣旨にも合致する旨主張する(上記3の「請求人ら」欄の(2))。
 しかしながら、本件特例は、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の要件を満たす者が取得した持分の割合に応ずる部分が特定居住用宅地等(措置法第69条の4第3項第2号)に、また、同族会社の事業の用に供されている宅地等のうち、一定の要件を満たす者が取得した持分の割合に応ずる部分が特定同族会社事業用宅地等(同項第3号)に該当する旨それぞれ規定されているのであるから、請求人らの主張は、独自の解釈に基づくものといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張は採用できない。

(4) 本件各更正処分について

請求人らの本件相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の各価額は、上記(2)のニのとおりであるから、この各価額に基づき、請求人らの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表5のとおりとなり、これらの金額はいずれも、別表1の「減額更正処分等」の「課税価格」欄及び「納付すべき税額」欄の各金額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(5) 本件各賦課決定処分及び本件変更後賦課決定処分について

本件各更正処分は、上記(4)のとおりいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分及び本件変更後賦課決定処分は、いずれも適法である。

(6) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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