(平成27年5月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人A及び同E(以下、審査請求人Aと併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した土地の持分全部移転登記を受けた後、当該登記は「墳墓地に関する登記」であって非課税登記に該当し、登録免許税を納付したことは誤りであったとして、原処分庁に対して税務署長に還付通知をすべき旨の請求をしたところ、原処分庁が、過誤納の事実は認められないとして還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人らが、同処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

平成26年4月2日の登記により納付された登録免許税について、審査請求(同年8月25日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。

以下、平成26年4月2日の登記により納付された登録免許税に係る同年6月18日付でされた還付通知をすべき旨の請求に対して同月23日付でされた還付通知をすべき理由がない旨の通知処分を「本件通知処分」という。

(3) 関係法令

イ 登録免許税法第2条《課税の範囲》は、登録免許税については、同法別表第一に掲げる登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明(以下「登記等」という。)について課する旨規定している。

ロ 登録免許税法第5条《非課税登記等》は、同条第1号から第14号までに掲げる登記等については、登録免許税を課さない旨規定し、同条第10号において「墳墓地に関する登記」を掲げている。

(4) 基礎事実

次の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 本件通知処分に係る登記

本件通知処分に係る登記は、別表2記載の不動産についての、B法務局平成26年4月2日受付第○○号の平成25年12月○日相続を原因とするF持分全部移転登記(亡Fの持分2分の1に係るもの。以下「本件登記」という。)である。

ロ 本件登記に関する不動産の状況

(イ) 本件登記に関する不動産は、a市d町○−○の土地26u(以下「本件土地」という。)である。

(ロ) 本件土地の現況は、遅くとも平成15年頃以降、墓地であった。

(ハ) a市長は、遅くとも平成15年以降、本件土地が地方税法第348条《固定資産税の非課税の範囲》第2項第4号に規定する墓地であるとして、本件土地を固定資産課税台帳に登録せず、a市は、本件土地に対する固定資産税を課していない。

ハ 本件土地に係る平成15年10月9日の持分全部移転登記

請求人らの母親である亡Fの代理人であったG司法書士は、平成15年10月9日、B法務局e出張所(現在、B法務局e出張所はB法務局に統合されている。)に対し、本件土地について、昭和55年10月○日相続を原因とする亡H持分全部移転の登記を受けるため、「登録免許税」欄に「登録免許税法第5条10号」と記載した登記申請書(以下、当該登記申請書を提出して行った申請を「前件登記申請」という。)を提出した。

前件登記申請は、a市b町長作成の平成15年9月22日付固定資産証明書を添付して行われ、当該証明書には、本件土地が固定資産課税台帳に登録されていない旨記載され、その「備考」欄には「地方税法第348条第2項第4号に規定する墓地のため非課税」と記載されていた。

また、前件登記申請は、登録免許税法第5条第10号に該当し非課税との申請内容について、補正指導等を受けることなく、本件土地に係る持分全部移転登記が完了した(以下、この完了した登記を「前件登記」という。)。

ニ 本件土地に係る平成26年4月2日の持分全部移転登記

(イ) 登記申請

請求人らの代理人であるG司法書士は、平成26年4月2日、B法務局に対し、本件土地について、平成25年12月○日相続を原因とする亡F持分全部移転の登記を受けるため、「登録免許税」は「金0円 登録免許税法第5条第10号による」とする登記申請(以下「本件登記申請」という。)を行った。

本件登記申請は、a市長作成の平成26年4月1日付固定資産証明書を添付情報として別途書面で提出して行われており、当該証明書には、本件土地が固定資産課税台帳に登録されていない旨記載され、その「備考」欄には「地方税法第348条第2項第4号に規定する固定資産のため非課税」と記載されていた。

(ロ) 登記補正及び登記の完了

請求人らの代理人であるG司法書士は、本件登記申請について、B法務局所属の登記窓口担当者から、本件土地の登記記録の地目が畑であり、本件登記申請は登録免許税法第5条第10号に該当しない旨の補正指導を受けたため、B法務局に対し、本件土地の不動産価格を○○○○円、本件登記申請に係る課税価格を○○○○円、登録免許税額を○○○○円とする登記補正を行い、登録免許税の額○○○○円を納付して、本件土地に係る持分全部移転登記が完了した。

(ハ) 納付した登録免許税の額の算定

上記(ロ)の登録免許税の額○○○○円は、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び同法別表第一の第1号の(2)のイの規定等に基づき、登録免許税の課税標準の金額(以下「課税標準額」という。)○○○○円に税率1,000分の4を乗じて計算した金額○○○○円が、1,000円に満たない場合に当たることから、同法第19条《定率課税の場合の最低税額》を適用して得た金額である。

(5) 争点

争点1 本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当するか否か。

争点2 本件通知処分は信義誠実の原則(以下「信義則」という。)に反するか否か。

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2 主張

(1) 争点1(本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当するか否か。)

請求人ら 原処分庁
以下の理由から、「墳墓地に関する登記」に該当するか否かは、土地の現況に従い判断されるべきであるから、本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当する。 以下の理由から、「墳墓地に関する登記」に該当するか否かは、土地の登記記録の地目に従い判断されるべきであるから、本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当しない。
イ 登録免許税法第5条第10号は、墳墓地に関する登記と規定し、「登記簿(登記記録)上の地目が墳墓地である土地」に関する登記とは規定していない。 イ 登録免許税法第5条第10号は、墳墓地に関する登記と規定し、「現況が墳墓地と認められる土地」に関する登記とは規定していない。
ロ 相続税法第12条《相続税の非課税財産》第1項第2号は墓所を非課税財産、地方税法第348条第2項第4号は墓地を非課税とそれぞれ規定しているところ、対象不動産が当該各非課税規定に該当するか否かは現況に従って判断されている。
 そして、登録免許税法第5条第10号が「墳墓地に関する登記」を非課税と規定している趣旨は、民法第897条《祭祀に関する権利の承継》と同様、祖先崇拝の慣行を尊重するということにあり、このことは、相続税法及び地方税法の上記各非課税規定に共通するものであるから、登録免許税法第5条第10号該当性も、相続税法及び地方税法の上記各非課税規定と同様に現況に従って判断されるべきである。
ロ 登録免許税は、登記又は登録等を受けることによって生ずる利益に着目し、その担税力に応じて課税されるもので、その登記の内容である登記記録や登記申請の種別を判断の基としているのに対し、固定資産税は、固定資産の所有により一定の収入を得ているという事実を捉えて課税するものであるから、地方税法上固定資産税が非課税とされていることは、課税の趣旨が異なる登録免許税が非課税とされる理由とはならない。
 また、相続税法上の非課税財産に該当するか否かについても、その該当性は同法についての所轄庁の判断基準によってなされるべきものである。
 したがって、他の税法において不動産の非課税規定該当性の判断が現況によりされているとしても、登録免許税法第5条第10号を同様に解釈すべき理由はない。
ハ 大量に申請される登記事件を統一的かつ迅速に処理するという要請の観点から、課税登記又は非課税登記のいずれであるかの判断は原則として登記記録の地目により判断されるべきとしても、本件のように、B法務局が登記申請に係る土地の課税標準額の認定のために登記申請時に提出を求めている固定資産証明書により、登記記録の地目と現況(墓地)が異なる可能性が高いことが明白な場合には、登記官は、登録免許税法第5条第10号該当性の判断に当たり、例外的に当該土地の現況を実地調査して、その現況に従って当該判断をすべきである。
 また、登録免許税法施行令附則第3項及び第4項は、登記官に課税標準額の認定のために固定資産課税台帳を調査し、現地を実地調査する法的権限を認めており、課税登記又は非課税登記のいずれであるかの判断と課税標準額の認定のための判断は区分して行われるものではなく一体として行われるものであるから、前者の判断においても当該各規定を類推適用して実地調査によって判明した事実に基づいて判断されるべきである。
ハ 不動産登記事件には登録免許税に関して課税登記又は非課税登記となるものがあるため、登記申請に際し、第1段階で課税登記又は非課税登記のいずれであるかを判断し、第2段階で課税標準額の認定を行うのが通常の処理である。
 そして、登録免許税法第5条第10号については、大量に申請される登記事件を統一的かつ迅速に処理するという要請の観点から、第1段階の課税登記又は非課税登記のいずれであるかの判断を登記記録の地目という客観的な基準で一律に行い、その上で、第2段階で非課税登記に該当しない不動産について課税標準額を認定することになる。
 このように、第1段階における課税登記又は非課税登記のいずれであるかの判断については、登記記録の地目によるのが客観的かつ最も合理的である。
 請求人らが主張する登録免許税法施行令附則第3項及び第4項は、登記官が課税標準たる不動産の価額の認定方法を示した規定、すなわち第2段階に関する規定であり、上記のとおり第1段階における判断は登記記録の地目によるべきであるから、当該各規定を類推適用する必要はなく、登記官が第1段階において調査権限を有しているか否かを議論する余地もないというべきである。
ニ 本件土地には登録免許税法第5条第10号該当性を本件土地の現況により非課税と判断した前件登記という先例があるから、本件登記も前件登記と同様に判断されるべきである。 ニ 請求人らが先例と主張する前件登記の処理は誤りであり、過去に誤った処理事例があるとしても、登録免許税の課税又は非課税の判断は正しく行われるべきであるから、本件土地の登録免許税法第5条第10号該当性の判断を本件土地の現況に従い行うべきとの主張の根拠とはならない。

(2) 争点2(本件通知処分は信義則に反するか否か。)

請求人ら 原処分庁
前件登記申請を行った際、担当登記官から補正指導を受けることなく非課税と判断されて登記は完了しているから、前件登記は、当該登記官の所属する法務局による公的見解の表示に当たる。
 請求人らは、上記公的見解の表示を信頼し、本件登記申請の登記も非課税として申請していたところ、登録免許税額の納付を強いられることにより当該税額相当の経済的不利益を受けることになったものであり、加えて上記公的見解の表示を信頼したことについて請求人らの責めに帰すべき事由もないことからすれば、最高裁判所第三小法廷昭和62年10月30日判決における信義則の法理の適用をすべき「特別の事情」が存在しているといえるから、本件通知処分は信義則に反している。  
請求人らは、前件登記申請時には非課税であった登記と同様に本件登記申請も非課税と信じて申請したところ、本件登記申請時に課税されたことが信義則に反すると主張するにすぎず、このことが、最高裁判所第三小法廷昭和62年10月30日判決における信義則の法理を適用すべき「特別の事情」に該当するとはいえないから、本件通知処分は信義則に反していない。

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3 判断

(1) 争点1(本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当するか否か。)

イ 争点について

(イ) 登録免許税は、登記等を受けることを対象として課税されるものである。

登録免許税法第2条は、課税の範囲について、同法別表第一に掲げる登記等について課する旨規定し、同法第5条第10号は「墳墓地に関する登記」について非課税とするものであるところ、この規定を適用するについては、登記記録の地目が墓地と記録されている土地に限られる。

これは、登録免許税が、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が自動的に確定する国税で、相続税等の財産税とは異なり流通税としての性格を有し、このような性格を持つ登録免許税において、登記官は、不動産登記の際、登記記録や登記申請に基づき、当該不動産の地目を形式的に判断する必要があるためである。

したがって、現況地目が墓地であっても、登記記録の地目が墓地でなければ、登録免許税法第5条第10号の適用はない。 

(ロ) これを本件についてみると、上記1の(4)のイ及びニの(イ)のとおり、本件登記申請は、本件土地についての平成25年12月○日相続を原因とする亡F持分全部移転の登記に係る申請、すなわち、登録免許税法別表第一の第1号の(2)のイに掲げる相続による所有権の移転の登記に係る申請であり、また、本件登記申請の時点における本件土地の登記記録の地目は畑であるから、本件登記申請に係る登記は、登記記録の地目を畑とする本件土地に係る相続による所有権の移転の登記に該当し、「墳墓地に関する登記」に該当しないことは明らかである。

したがって、本件登記は、登録免許税法第5条第10号に規定する「墳墓地に関する登記」に該当しない。

ロ 請求人らの主張について

(イ) 請求人らは、上記2の(1)の「請求人ら」欄のロのとおり、相続税法第12条第1項第2号が相続税の課税上墓所を非課税財産、地方税法第348条第2項第4号が固定資産税の課税上墓地を非課税とそれぞれ規定しており、当該各規定に該当するか否かは不動産の現況に従って判断されているから、登録免許税法第5条第10号該当性の判断も、立法趣旨の共通する相続税法及び地方税法の上記各規定の判断と同様に、不動産の現況に従って判断されるべきである旨主張する。

しかしながら、相続税の課税は、相続による財産の取得という事実についてその財産的価値に担税力を認めて行われ、また、固定資産税の課税は、固定資産の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて行われるもので、不動産の取得又は所有に即していえば、いずれも財産(資産)の取得又は所有という事実に着目しその資産価値を測定して課税されるのに対し、登録免許税の課税は、登記等を担税力の間接的表現としてとらえて課税の対象とするもので、不動産の登記に即していえば、不動産の登記を受けることにより第三者に対する対抗力を備え、それにより権利が保護されるなどの利益を受けることから、その背後にある担税力に着目して課税されるものである。

このように、登録免許税は、相続税及び固定資産税とは課税の趣旨を異にするものであるから、相続税及び固定資産税において不動産の現況に基づいて非課税該当性が判断されているからといって、登録免許税法第5条第10号の非課税の該当性の判断を同様にすべきものでもない。

したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ロ) 請求人らは、上記2の(1)の「請求人ら」欄のハのとおり、課税登記又は非課税登記のいずれであるかの判断と課税標準額の認定のための判断は一体として行われるものであり、B法務局が申請時に提出を求めている固定資産証明書により、土地について登記記録の地目と現況が異なる可能性が高いことが明白な場合には、登記官は、登録免許税法第5条第10号の非課税の該当性の判断に当たり、登録免許税法施行令附則第3項及び第4項の規定を類推適用して、例外的に当該土地の現況を実地調査して、その現況に従って当該判断をすべきである旨主張する。

しかしながら、登録免許税法施行令附則第3項及び第4項は、登記の対象となる不動産について登録免許税の課税標準額を認定するための登記官の実地調査権限を規定するものであり、登録免許税法第5条第10号の非課税の該当性の判断の根拠となるものではない。

したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(ハ) 請求人らは、上記2の(1)の「請求人ら」欄のニのとおり、本件土地には登録免許税法第5条第10号該当性を本件土地の現況により非課税と判断した前件登記という先例があるから、本件登記も前件登記と同様に判断されるべきである旨主張する。

しかしながら、上記イの(イ)のとおり、登録免許税法第5条第10号の非課税の規定を適用するについては、登記記録の地目が墓地と記録されている土地に限られるから、前件登記において、登記官が登記記録の地目が畑である本件土地の登記について登録免許税を非課税と判断した処理は同号に反する誤った扱いであったといわざるを得ず、過去に請求人らの主張内容に沿った処理が存在するからといって、請求人らの主張の正当性が裏付けられるものでもない。

したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(2) 争点2(本件通知処分は信義則に反するか否か。)

イ 法令解釈

租税法規に適合する処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、この処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、当該法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて当該法理の適用の是非を考えるべきものである。

そして、上記特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

ロ 判断

請求人らは、上記2の(2)の「請求人ら」欄のとおり、前件登記申請の際に担当登記官が前件登記を非課税登記と判断したことは、公的見解の表示に当たるとして、本件においては、信義則の適用をすべき「特別の事情」が存在しているといえるので、本件通知処分は信義則に反する旨主張する。

しかしながら、前件登記は、登記申請者の申請内容について補正が行われることなく登記が完了したというにとどまり、当時のB法務局e出張所の登記官が、これが非課税登記に該当することを公に表明したものではないから、前件登記の結果が公的見解の表示に当たると解することはできない。

以上からすれば、請求人らに信義則を適用すべき特別の事情があるとは認められないから、本件通知処分が信義則に反しているということはできない。

したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

(3) 本件通知処分の適法性

上記(1)のイのとおり、本件登記については、登録免許税法第5条第10号の非課税の適用を受けることはできず、また、上記1の(4)のニの(ハ)のとおり、請求人らが納付した本件登記に係る登録免許税の額に誤りは認められず、本件登記について過誤納の事実はないから、還付通知をすべき理由がないとしてされた本件通知処分は適法である。

(4) その他

原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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