(平成27年6月11日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、会計事務所の職員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成24年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の還付を受けるために確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人は消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文に規定する消費税を納める義務が免除されることとなる事業者に該当するから確定申告書を提出することができないとして更正処分を行ったのに対し、請求人が、本件課税期間の開始前に同条第4項に規定する同条第1項本文の適用を受けない旨の届出書(以下「選択届出書」という。)を提出しており、消費税を納める義務が免除されないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

審査請求(平成26年9月4日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

以下、平成26年3月28日付でされた別表1の「更正処分」欄のとおりの本件課税期間の消費税等の更正処分を「本件更正処分」という。

(3) 関係法令の要旨

イ 消費税法関係

(イ) 消費税法第2条《定義》第1項第3号は、個人事業者とは、事業を行う個人をいう旨、また、同項第4号は、事業者とは、個人事業者及び法人をいう旨規定している。

(ロ) 消費税法第9条第1項本文は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条《納税義務者》第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定し、同法第9条第1項ただし書において、同法に別段の定めがある場合は、この限りでない旨規定している。

以下、同法第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を「免税事業者」といい、免税事業者を除く事業者を「課税事業者」という。

(ハ) 消費税法第9条第4項は、同条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、同項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間中に国内において行う課税資産の譲渡等については、同項本文の規定は、適用しない旨規定している。

(ニ) 消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》第1号は、消費税法第9条第4項に規定する政令で定める課税期間は、事業者が国内において課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間とする旨規定している。

(ホ) 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。)第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項本文は、事業者(免税事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から2月以内に、所定の事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 また、同法第45条第1項ただし書は、国内における課税資産の譲渡等がなく、かつ、同項第4号に掲げる消費税額がない課税期間については、この限りでない旨規定している。

ロ 行政手続法関係

(イ) 行政手続法第2条《定義》第7号は、届出とは、行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう旨規定している。

(ロ) 行政手続法第37条《届出》は、届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ カードホルダーの購入等について

(イ) 請求人は、平成22年4月頃、イタリア共和国に所在するF社の店舗において、カードホルダー5個(以下「本件カードホルダー」という。)を○○○○円で購入した。

(ロ) 請求人は、平成22年12月頃、自身がアカウント(ネットワークにログインするための権利)を登録しているインターネットサイトのGオークション(以下「本件オークション」という。)に、本件カードホルダーを出品したが、落札されなかった。

(ハ) 請求人は、平成22年及び平成23年の各年において、本件カードホルダーを消費税法第4条《課税の対象》第4項第1号の規定にいう家事のために消費(以下「家事消費」という。)したものとして、平成22年1月1日から同年12月31日まで及び平成23年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成22年課税期間」及び「平成23年課税期間」という。)の各課税資産の譲渡等の対価の額に、それぞれ○○○○円(1個分)及び○○○○円(4個分)を算入した。

ロ 中古書籍の売却について

請求人は、平成22年ないし平成24年の各年において、中古書籍を売却し、雑収入を得たとして、平成22年課税期間ないし本件課税期間の各課税資産の譲渡等の対価の額に、それぞれ○○○○円、○○○○円及び○○○○円を算入した。

ハ 不動産の貸付けについて

(イ) 請求人は、平成24年11月19日、H社との間で、売主を同社、買主を請求人とする、e市内の別表2−1の各土地(以下「本件各土地」という。)及び別表2−2の建物(以下「本件建物」といい、本件各土地と併せて「本件不動産」という。)を目的物とする売買契約を締結し、同月30日、本件不動産の引渡しを受けた。

(ロ) 請求人は、平成24年11月19日、J社との間で、賃借人を同社、賃貸人を請求人とする、本件不動産の賃貸借契約を締結し、同年12月1日、同契約に基づき、本件不動産を貸し付けた(以下、当該賃貸借契約を「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に係る請求人の業務を「本件不動産業務」という。)。

本件賃貸借契約の内容は、要旨以下のとおりである。

A 目的
 賃借人は、本件不動産をホテル営業の目的で使用し、その目的以外の用途に使用してはならない。

B 賃料
 賃料は年額○○○○円(うち、本件各土地が○○○○円、本件建物が○○○○円)とする。

C 期間と更新
 本件賃貸借契約の期間は、平成24年12月1日から平成27年11月末日までの3年間とし、賃貸人、賃借人双方からの申出がない限り、本件賃貸借契約は同条件で更新する。

(ハ) 請求人は、本件課税期間において、上記(ロ)のBの賃料のうち○○○○円を課税資産の譲渡等の対価の額に算入した。

ニ 確定申告の状況等について

(イ) 請求人は、平成22年2月15日、消費税法第9条第4項に基づき、平成22年課税期間を同項の適用開始課税期間(同条第1項本文の規定の適用を受けず、課税事業者となる期間)とする旨の選択届出書を原処分庁に提出した(以下、請求人が提出した当該選択届出書を「本件選択届出書」という。)。

(ロ) その上で、請求人は、平成22年課税期間ないし本件課税期間の消費税等について、その還付を受けるために各確定申告書を原処分庁に提出した。

なお、請求人の平成22年課税期間における課税売上高は、○○○○円(上記イの(ハ)の○○○○円と同ロの○○○○円を合計した金額)であった。

(ハ) 原処分庁は、これに対し、平成26年3月28日付で平成22年課税期間ないし本件課税期間の消費税等について、課税標準額及び控除不足還付税額をいずれも○○○○円とする各更正処分並びに本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分をした。

(ニ) 請求人は、上記(ハ)の各処分を不服として、平成26年5月18日に異議申立てをし、異議審理庁は同年8月7日付でいずれも棄却の異議決定をしたが、請求人は、本件更正処分についてのみ不服があるとして、その全部の取消しを求めて審査請求をした。

(ホ) なお、請求人は、本件選択届出書を提出した日以後、原処分庁に対し、選択届出書を提出していない。

(5) 争点

請求人は、本件課税期間において、免税事業者又は課税事業者のいずれに該当するか(具体的には、本件選択届出書を提出した日の属する課税期間において請求人が「事業者」に該当しない場合、本件選択届出書の提出による消費税法第9条第4項の適用は認められるか否か。)。

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2 主張

原処分庁 請求人
請求人は、次の理由から、本件課税期間において、免税事業者に該当する。 請求人は、次の理由から、本件課税期間において、課税事業者に該当する。
(1) 請求人は、本件課税期間に係る基準期間(平成22年課税期間)における課税売上高が○○○○円であり、また、特定期間(平成23年1月1日から同年6月30日までの期間)における課税売上高も○○○○円である。
 そして、下記(2)及び(3)のとおり、本件選択届出書に係る届出の実体的効果、すなわち、消費税法第9条第4項の規定により同条第1項の規定を適用しないとする法律効果は発生していないから、本件課税期間における納税義務は免除される。
(1) 請求人は、本件課税期間において不動産所得があるので事業者である。また、請求人は、平成22年2月15日に本件選択届出書を提出しており、本件課税期間の開始の日の前日までに本件選択届出書を提出しているから、本件選択届出書に係る届出の実体的効果、すなわち、消費税法第9条第4項の規定により同条第1項の規定を適用しないとする法律効果は発生しており、本件課税期間における納税義務は免除されない。
 なお、本件選択届出書は、承認申請書ではなく届出書であるので、届出書を提出した時点で効力が発生する。
(2) 消費税法第9条第4項は、免税事業者が選択届出書を提出した場合には、消費税を納める義務を免除しない旨規定するとともに、選択届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該選択届出書を提出した日を含む課税期間以後の課税期間について課税事業者となる道を開いたものと解されることからして、当該規定が事業者であることを前提とした規定であることは明らかである。
 そうすると、選択届出書を提出できるのは事業者に限られるというべきである。つまり、消費税法上の事業者でない請求人から本件選択届出書が提出されていることから、同法第9条第4項にいう「実体上の義務」の履行はなされておらず、本件選択届出書に係る届出の実体的効果は発生しない。すなわち、同項の規定により同条第1項の規定を適用しないとする法律効果は発生しない。
(2) 消費税法第9条は、どの課税期間に納税義務が免除され、又は免除されないかを定めた規定である。そして、同条第4項は、選択届出書を提出した時点で、事業者であることを要件とした規定ではない。
 原処分庁の主張のとおり、事業者でなければ選択届出書を提出することができないとする条文の解釈には誤りがある。
 原処分庁の主張のとおりに解釈すると、例えば、免税事業者は消費税簡易課税制度選択届出書(消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》)を提出することができないと解釈せざるを得なくなるが、その結論は不合理というほかない。
 すなわち、原処分庁は、消費税法第9条第4項の「第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者」に該当しないことを理由に選択届出書を提出できないと主張するが、そのような条文解釈が相当であるとすると、同法第37条第1項の「事業者(第9条第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)」に該当しない免税事業者は消費税簡易課税制度選択届出書を提出することができないこととなる。
 しかし、免税事業者であっても消費税簡易課税制度選択届出書を当然提出することができる。例えば、第1期の課税売上高が1,000万円を超え、第2期中は免税事業者である場合には、通常第3期から課税事業者となるが、その際に第3期から消費税簡易課税制度を適用したければ、第2期中に当該届出書を提出することができる。
 そうすると、消費税法第9条第4項と同法第37条第1項は、どちらも届出書を提出できる者の条件を定めたものではなく、各課税期間における納税義務の有無又は簡易課税の適用の有無を定めたものであると解すべきである。
(3) したがって、請求人が本件選択届出書を提出するためには、平成22年課税期間において事業者である必要があるところ、次のとおり、請求人は、同課税期間において事業者には該当しない。 (3) したがって、平成22年課税期間における課税売上高が1,000万円以下であるため本件課税期間において納税義務が免除されることとなる事業者である請求人は、消費税法第9条第4項の「第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者」に該当する。
イ 請求人は、平成22年課税期間において本件オークションに商品を出品しているところ、1請求人は、本件オークションに出品した商品は、本件カードホルダーのみであり、売上げの発生はない旨及び平成23年中は出品すらしていない旨申述していること、2当該出品に係る仕入れは、本件カードホルダーの購入1回であることからすれば、当該出品には継続性・反復性があるとは認められない。したがって、当該出品は、消費税法第2条第1項第8号にいう「事業として」行われたものではないこと。
ロ 請求人は、平成22年課税期間において書籍の売却を行っているところ、当該売却については、平成22年12月26日の1回のみであることから、反復・継続して行われているとは認められない上、同書籍は、生活の用に供している資産であると認められることから、消費税法第4条第4項にいう「事業として」行われたものとも認められないので、いずれにしても、「事業として」行われたものとはいえないこと。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法上の「事業」の意義

消費税法上の「事業」の意義については、消費に広く薄く負担を求める旨を規定する税制改革法及び同時に制定された消費税法の趣旨、目的に即して解釈すべきであることからすると、消費税法上の「事業」とは、その規模を問わず、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復・継続・独立して行われることをいうものと解される。

その上で、消費税法第2条第1項第4号は、事業者とは、個人事業者及び法人をいう旨規定し、同項第3号において、個人事業者とは事業を行う個人をいう旨規定していることからすれば、消費税法上は、「事業を行う個人」(事業者)と、それ以外の「個人」とを区別しているのであって、当該個人が、資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供を反復・継続・独立して行っている場合には、事業を行う個人、すなわち事業者に該当する。

ロ 選択届出書を提出すべき個人

(イ) 消費税法第9条第1項本文は、「事業者のうち、……課税売上高が1,000万円以下である者については、……消費税を納める義務を免除する」旨規定しているから、この規定は、消費税を納める義務が免除される者(免税事業者)は、課税売上高が1,000万円以下である事業を行う個人(事業者)であることを定めた規定であり、また、同条第4項は、同条「第1項本文の規定により消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、……第1項本文の適用を受けない旨を記載した届出書を……提出した場合には、……同項本文の規定は、適用しない」旨規定しているから、この規定は、事業を行う個人(事業者)から選択届出書が提出された場合は、同条第4項の規定が適用される(当該事業を行う個人(事業者)は、免税事業者ではなく課税事業者となる)ことを定めた規定である。

(ロ) そうすると、事業を行う個人(事業者)に該当しない個人が、選択届出書を提出した場合は、当該個人がその提出した日の属する課税期間後に事業を行う個人(事業者)に該当することとなったとしても、該当することとなった日の属する課税期間以後の課税期間において、改めて選択届出書を提出しない限り、消費税法第9条第4項の適用は認められないと解すべきである。

(ハ) なお、消費税法第9条第4項括弧書は、選択届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、例外として、新たに事業を開始した個人に対して、当該事業を開始した日の属する課税期間から課税事業者となることを選択する機会を与えたものと解されるところ、新たに事業を開始するに当たっては、当該事業を遂行するために必要な準備行為(資産の取得契約の締結や商品及び材料の購入など、課税資産の譲渡等に係る事業の前提となる行為)を行うのが通常であると考えられる。

したがって、事業を遂行するために必要な準備行為を行った日の属する課税期間において、当該準備行為を行う個人は事業者に該当し、また、当該課税期間は、消費税法施行令第20条第1号に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日」の属する課税期間に該当すると解するのが相当である。

ハ 実体上の義務が履行されていない選択届出書の効果

行政手続法第37条は、行政機関に対し、形式上の要件に適合した届出書が到達したときの取扱い、すなわち手続上の義務を規定したものであり、実体上の義務(真実の事柄を通知する義務)について、同法上、何ら規定されていないことからすれば、物理的に提出された又は形式上の要件に適合した届出を契機として個別法が認めている一定の効果の発生については、個別法の解釈に委ねられているものと解される。

そして、選択届出書が、行政手続法第2条第7号に規定する届出に該当し、消費税法第9条第4項が、事業者から選択届出書が提出された場合の効果について定めた規定であることからすると、当該選択届出書が事業者以外の個人から提出されたものである場合は、その内容が事実又は法令に違反していることになるから、実体上の義務が履行されていない選択届出書に該当するものであって、その届出の実体的効果は提出された時から生じないと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件カードホルダーの落札等

請求人が、本件オークションにアカウントを登録したのは、平成17年6月9日であり、本件カードホルダーを本件オークションに出品したのは、上記1の(4)のイの(ロ)の1回限りであった。

また、請求人は、本件カードホルダーを売却するための宣伝広告を行っておらず、本件カードホルダーは売却されていない。

ロ 中古書籍の売却状況

請求人は、平成22年ないし平成24年の各年において、K社(f店)に対し、別表3のとおり、中古書籍をそれぞれ売却し、同表の「取引金額」欄の各収入を得た(以下、当該中古書籍を併せて「本件各中古書籍」という。)。

なお、請求人が、本件各中古書籍を売却するほかに、中古書籍を売却したという事実は証拠上明らかでない。

ハ 投資に関する書籍の購入

請求人は、平成22年8月16日、題に「○○のための投資入門」が含まれる書籍を、同年12月4日には、題に「○○の不動産投資」が含まれる書籍(以下、これらの書籍を併せて「本件各書籍」という。)をそれぞれ購入した。

(3) 当てはめ

イ 請求人の事業者該当性について

(イ) 本件カードホルダーの家事消費

請求人は、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、本件カードホルダーを家事消費したとして処理しているが、同(ロ)及び上記(2)のイの各事実のとおり、請求人が本件カードホルダーを本件オークションに出品したのは1回限りであり、他の手段によって本件カードホルダーを売却しておらず、また、本件カードホルダーを売却するために、宣伝広告もしていなかったというのであるから、本件カードホルダーを本件オークションに出品した行為は、反復・継続して行っていたものとはいえない。

したがって、本件カードホルダーの家事消費は、消費税法上の事業には該当しない。

(ロ) 本件各中古書籍の売却

上記(2)のロのとおり、請求人が本件各中古書籍を売却した回数は、平成22年ないし平成24年の各年中、それぞれ1回限りであること、また、他に中古書籍を売却した事実がないことからすれば、本件各中古書籍の売却は、反復・継続していると評価できる程度までの行為であったと認めることはできない。

よって、本件各中古書籍の売却は、消費税法上の事業には該当しない。

(ハ) 本件不動産業務

A 請求人は、上記1の(4)のハのとおり、平成24年11月19日、J社との間で本件賃貸借契約を締結し、同社に対し、同年12月1日からホテル営業を目的として本件不動産を貸し付けていること、そして、同(ロ)のCのとおり、本件不動産の賃貸借期間は3年間で、当事者からの申出がない限り更新されることからすると、本件不動産業務は、反復・継続して行われているということができる。なお、本件不動産業務が、請求人の独立した行為に基づいていることは、本件賃貸借契約の内容からして明らかである。

したがって、本件不動産業務は、その規模を問わず、消費税法上の事業に該当する。

B また、請求人は、上記2の「請求人」欄のほか、本件不動産業務に関連して、本件各書籍の購入がその開業準備行為である旨主張する。しかし、本件各書籍は、本件賃貸借契約締結の約2年前に購入された投資あるいは不動産投資に関する市販の書籍にすぎないことからすると、本件各書籍の購入が、本件不動産の取得及び貸付けの前提となる行為とは認められず、本件不動産業務を遂行するために必要な準備行為であるのかも明らかでないといわざるを得ない。なお、請求人は、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、平成24年11月19日、H社との間で本件不動産の売買契約を締結しており、当該売買契約は本件不動産業務の開業準備行為であると認められる。

(ニ) 小括

以上のとおり、本件カードホルダーの家事消費及び本件各中古書籍の売却は、いずれも事業に該当せず、また、本件各書籍の購入は、本件不動産業務の開業準備行為とは認められないから、平成22年課税期間及び平成23年課税期間において、請求人を事業者ということはできない。

ただし、本件課税期間においては、請求人は本件不動産業務を遂行するために必要な本件不動産を取得し、その貸付けを開始しているから、請求人は事業者に該当する。

ロ 本件選択届出書について

請求人は、上記1の(4)のニの(イ)のとおり、平成22年2月15日に本件選択届出書を原処分庁に提出しているが、上記イの(ニ)のとおり、平成22年課税期間において、消費税法上の事業者ではないから、本件選択届出書の提出は、事業を行う個人(事業者)以外の個人からされた届出であるということになる。

そうすると、本件選択届出書は、実体上の義務が履行されていない届出であると認められるから、その届出の実体的効果は、本件選択届出書が提出された時から生じていないというべきである。

ハ まとめ

以上からすると、請求人は、本件課税期間において事業を行う個人(事業者)に該当するものの、1本件課税期間の基準期間(平成22年課税期間)において事業を行っておらず、当該基準期間における課税売上高は○○○○円であること(上記イの(ニ))、2本件選択届出書が事業者ではない請求人から提出されたものであること(同ロ)、及び3本件不動産業務を開始した本件課税期間において改めて選択届出書を提出していないこと(上記1の(4)のニの(ホ))から、課税事業者ではなく、免税事業者に該当する。

そして、消費税法第9条第4項が、事業者から選択届出書が提出された場合に、当該事業者が免税事業者でなくなること、すなわち課税事業者となることを定めた規定であることからすれば(上記(1)のロの(イ))、事業者ではない請求人から提出された本件選択届出書によって同項を適用することは認められないと判断するのが相当である。

ニ 請求人の主張について

請求人は、上記2の「請求人」欄の(1)のとおり主張するが、平成22年課税期間において請求人が事業を行う個人(事業者)に該当しないことは上記イの(ニ)のとおりであり、また、事業者でない個人から提出された選択届出書の効果は、同ロ及びハのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

また、請求人は、上記2の「請求人」欄の(2)のとおり主張するが、消費税法第37条は納税義務者に対する簡易課税制度についての規定であって、同法第9条第4項とはその趣旨及び目的を異にするものであり、同法第37条第1項についての解釈をもって、同法第9条第4項の解釈を論ずることは相当ではないから、請求人の主張には理由がない。

したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。

(4) 本件更正処分について

以上のとおり、請求人は、本件課税期間において免税事業者であるから、本件課税期間における消費税等の還付を受けることはできない。したがって、請求人の本件課税期間における納付すべき消費税等の額(還付金の額に相当する税額)を○○○○円とする本件更正処分は、適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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