納付義務の確定

やむを得ない理由

  1. 納付すべき税額の確定方式
  2. 納税申告
  3. 更正の請求
    1. 請求期間
    2. 通常の事由
    3. 後発的事由
    4. 基礎となった事実関係に関する判決等
    5. やむを得ない理由(6件)
    6. その他
  4. 更正又は決定

贈与契約が解除権の行使によって解除されたことを理由としてなされた贈与税の更正の請求にやむを得ない理由があるとした事例

裁決事例集 No.31 - 1頁

 昭和49年に行われた本件宅地の贈与は、受贈者が贈与者である養父と同居して扶養することを条件とし、かつ、その同居及び扶養をしなくなったときは、その贈与はいつでも解除することができるという解除権留保付きの贈与契約に基づいてなされたものであったところ、請求人がその同居及び扶養をしなくなったことから、当該契約に基づいて昭和59年に当該贈与契約が解除され、本件宅地は養父の相続人に返還されたものであるから、その解除を理由としてなされた贈与税の更正の請求には、国税通則法第23条第2項第3号に定めるやむを得ない理由がある。

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不動産賃貸借契約の合意解除は国税通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除されたこと」に該当せず、更正の請求をすることはできないとした事例

裁決事例集 No.52 - 1頁

 国税通則法第23条第2項第3号を受けた同法施行令第6条第1項第2号に規定する「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情」とは、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約の効力を維持するのが不当な場合(契約内容に拘束力を認めるのが不当な場合)、その他これに類する客観的理由がある場合を指すものと解されるところ、本件においては契約の効力を維持したとしても不当とはいえず、他に契約を合意解除せざるを得ない客観的理由があったとは認められないから、請求人の主張する合意解除の事情は、「当該契約の成立後生じたやむを得ない事情」に該当せず、国税通則法第23条第2項に基づく更正の請求をすることはできない。

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期限内又は期限後申告にかかわらず、当初の申告書が提出された場合には、その後に帳簿書類が押収されたとしても、国税通則法施行令第6条第1項第3号に規定する「やむを得ない事情」に該当しないとした事例

裁決事例集 No.53 - 78頁

 一般的に、国税通則法第23条(更正の請求)第2項第3号及び同法施行令第6条(更正の請求)第1項第3号は納税申告書を提出した者又は同法第25条(決定)による決定を受けた者が、帳簿書類の押収等の事情により、課税標準等又は税額等を計算することができなかった場合において、その後(ただし、納税申告書を提出した者については、同法第23条第1項所定の期間経過後に限る。なお、上記の者による上記期間経過以前の更正の請求は、同項によりすることができる。)、帳簿書類の押収等の事情が消滅した時は、同項の規定にかかわらず、上記事情消滅の時から2か月以内に更正の請求をすることができると規定しているのであって、上記規定は、納税申告書を提出した者については、その提出前に帳簿書類の押収等の事情が生じていたことを前提としており、その後(同法第23条第1項所定の期間経過後)、押収されていた帳簿書類の還付等により上記事情が消滅して、帳簿書類等に基づいて課税標準等又は税額等を計算することによって、帳簿書類に基づく計算をすることができなかった当初の申告に係る納付すべき税額が過大であったこと等が初めて判明した場合に、帳簿書類等に基づき計算した課税標準等又は税額等に従った更正の請求をすることを認めたものであり、期限内又は期限後申告にかかわらず、当初の申告書が提出された場合には、その後に帳簿書類が押収されたとしても、国税通則法施行令第6条第1項第3号に規定する帳簿書類の押収その他やむを得ない事情に該当しない。

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出資口の譲渡について、売買契約の要素に錯誤があるとして契約解除したことが、国税通則法第23条第2項に規定する「やむを得ない理由」に該当しないとした事例

裁決事例集 No.65 - 9頁

 請求人は、保有していた同族会社の出資口の譲渡について、本件売買契約に当たっては、譲受人に新たな課税関係が生じないことが重要な要素となっていたのであるから、重要な要素に錯誤があり、当該契約を解除したことが国税通則法第23条第2項に規定する後発的な理由に該当し、更正の請求ができる旨主張する。
 しかしながら、当該契約の要素の錯誤は、[1]当該契約は口頭で行なわれ、請求人の主張する事情が売買契約の条件として表示されていたものとは認められないこと、[2]当該契約の背景には次世代への事業承継及び経営基盤の安定があったものと認められること、[3]出資口の時価の算定方法は財産評価基本通達に明示されていることから、当該契約を成すに当たっての動機が民法第95条の規定により、当該契約の重要な要素として保護しなければならないものとまで解することはできない。そして、当事者の無効確認は、[1]価額があまりにも低いと贈与税等の問題が起きると認識しながらも財産評価基本通達によって評価をしていないのであるから、近隣の法人及び同業種の法人の株価などを参考にして実際の評価の7分の1の価格にしたことは評価方法の不知による個人的判断に基づく計算方法の誤りであって、[2]譲受人に新たな課税関係が発生しないことが本件売買契約の最重要な関心事であったとするならば不正確であることを自認しながら著しく低い価格で当該契約を成したのは法の不知であり、[3]原処分庁からの指摘後に当該契約無効の主張をしていることから、譲受人の贈与税の負担を免れるために行なわれた親族間における当事者の合意による契約解除であると認めるのが相当である。
 そうすると、この合意解除は請求人の個人的、主観的な事由によるものであって、国税通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「当該契約成立後生じたやむを得ない事情」に当たらない。したがって、国税通則法第23条第2項第3号に規定する「やむを得ない理由」には該当せず、更正の請求ができる場合には当たらない。

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分離長期譲渡所得等について、保証債務の履行のための譲渡に関する課税の特例を適用すべきであるとしてなされた更正の請求に対し、確定申告書にその旨の記載がなく、また、その旨の記載がなかったことについてやむを得ない事情があるとは認められないとして、当該特例を適用することはできないと判断した事例

裁決事例集 No.68 - 23頁

 所得税法第64条第3項及び第4項によれば、同法第152条の規定による更正の請求をする場合を除き、確定申告書に保証債務の特例の適用を受ける旨の記載がある場合に限り本件特例の適用があり、確定申告書にその旨の記載がない場合にも、その旨の記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認められるときは、本件特例を適用することができる。
 これを本件についてみると、本件申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載がなく、また、その旨の記載がなかったことについてやむを得ない事情があるとは認められないから、本件特例を適用することはできない。
 そうすると、債務保証の事実、求償権行使不能の事実等の本件特例の適用を受けるための実体的要件の有無を判断するまでもなく、本件申告書に記載された課税標準等若しくは税額等の計算は、国税通則法第23条第1項第1号に規定する「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」又は「当該計算に誤りがあったこと」のいずれにも該当しないから、本件更正の請求には理由がない。

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相続税の連帯納付義務を免れるためになされた遺産分割協議の合意解除は、後発的な更正の請求事由の一つである「やむを得ない事情によって解除」された場合には当たらないとした事例

平成24年3月8日裁決

《ポイント》
 この事例は、私法上、遺産分割協議の合意解除は認められているが、その目的が相続税の連帯納付義務を免れるためのものである場合には、後発的な更正の請求を認めた趣旨に照らして国税通則法施行令第6条第1項2号に規定する「やむを得ない事情」に当たるとは到底解することはできないと判断したものである。

《要旨》
 請求人らは、被相続人に係る遺産について、代償分割の方法による当初の遺産分割協議(本件当初分割)を行い、代償財産を取得することとなったものの、代償債務を負う者がその債務の履行をせず、更に請求人らに当該代償債務を負う者に係る相続税の連帯納付義務が課されたことから、債務不履行解除の意思表示をして本件当初分割を解除(本件解除)した上で、再度の遺産分割協議を行った結果、請求人らは何らの財産も取得しないこととなったことからすると、本件解除は、国税通則法施行令第6条《更正の請求》第1項第2項に規定する「解除権の行使によって解除され」た場合又は「契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され」た場合に該当するから、本件各更正の請求は、国税通則法第23条《更正の請求》第2項第3号に規定する事由に基づくものである旨主張する。
 しかしながら、遺産分割協議は、債務不履行解除をすることができないから、本件解除は「解除権の行使によって解除され」た場合には該当しない。また、本件においては、本件当初分割を解除する合意と同時に再度の遺産分割協議を行ったということができるところ、本件解除は、請求人らにおいて、上記代償債務を負う者に係る相続税の連帯納付義務を免れることを目的としたものといわざるを得ず、このような合意をもって、国税通則法第23条第2項に規定する後発的な更正の請求が認められるならば、相続税の連帯納付制度そのものを否定するに等しいというべきであり、同項及び国税通則法施行令第6条が連帯納付義務を免れる目的でされた合意に基づく更正の請求を「やむを得ない事情によって解除」された場合として認めているとは到底解することはできないから、「契約の成立後生じたやむを得ない事情によって解除され」たものと認めることはできない。したがって、本件各更正の請求は、国税通則法第23条第2項第3号に規定する要件を満たさないものである 。

《参照条文等》
 民法第541条
 国税通則法第23条第2項第3号
 国税通則法施行令第6条第1項第2号
 相続税法第34条第1項

《参考判決・裁決》
 最高裁平成元年2月9日第一小法廷判決(民集43巻2号1頁)
 最高裁平成2年9月27日第一小法廷判決(民集44巻6号995頁)
 東京地裁平成11年2月25日判決(税資240号902頁)

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