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課税所得の範囲
非永住者の課税所得に含まれる国外源泉所得について、国外から送金を受けた金額から国外へ返金した金額を控除することは認められないとした事例
請求人は、所得税法第7条第1項第2号に規定する国外源泉所得で国外から送金されたものの金額の算定に当たっては、非永住者が国外から送金された金額をその年中に国外に返金した場合、当該返金額を控除すべきである旨、また、仮に控除が認められないとしても、その翌年において、再度、当該返金額を国外から送金した場合、当該返金額が二重に課税所得の対象とされることになるから、当該送金額のうち、当該返金額に達するまでの金額は国外源泉所得に係る所得を送金したとはいえない旨主張する。
しかしながら、所得税法第7条第1項第2号の規定が、国内で支払われ、又は国外から送金されたことを、非永住者の国外源泉所得を課税所得とするための要件としているのは、送金を課税権を行使する契機としたものというべきであり、さらに、所得税法施行令第17条第1号の規定が送金の内容に特段の限定を付していないことにも照らせば、いったん国外払の所得が国外から国内に送金された事実があれば、特段の限定なくこれらの規定による送金があったということができるというべきである。非永住者であっても、国外源泉所得自体を課税所得とする点では、非永住者以外の居住者と変わりはないのであって、請求人が主張するように、同一年中に送金額を返金した場合は、これを送金額から控除できると解すべき理由はない。また、国外からの送金額を返金し、再度、その翌年に当該返金額を送金したとしても、当該送金額は国外から送金されたものとして、その翌年の課税所得の対象となることに対し、請求人は当該返金額が二重に課税所得の対象とされることになると主張するが、その年とその翌年の各年分の国外源泉所得に課税したものであって、同一の所得に二重に課税したものではないから、請求人の主張には理由がない。
平成20年8月4日裁決
海外の法人を退職した請求人の退職前後の客観的諸事情を総合勘案し、非居住者に該当すると認定した事例
《ポイント》
本事例は、請求人が、日本国内の勤務先からシンガポールのグループ会社に赴任し、退職した後も引き続きシンガポールに滞在している間に、勤務先の親会社の株式を取得し、その後帰国して再就職した場合において、当該株式の取得日を含む退職後の期間の事情のみならず、退職前の事情をも含め、客観的諸事情を総合的に勘案し、当該株式を取得した日において、請求人の生活の本拠は、シンガポールにあったと認めるのが相当であると判断したものである。
《要旨》
原処分庁は、請求人が勤務先の親会社から付与されたリストリクテッド・ストック・ユニットの権利確定により同親会社の株式を取得した日における請求人の居住形態について、請求人は日本国内の勤務先からシンガポールのグループ会社に赴任した後、その後の事情の変更により退職したが、引き続きシンガポールに滞在していたものの、当該滞在期間のうち、当該退職後の期間における日本及びシンガポールでの各滞在日数、両国での各住居、退職後の職業活動(就職活動等)、生計を一にする配偶者その他の親族の居所及び資産の所在等の客観的諸事情を総合的に判断すると、当該退職後の期間中である当該株式を取得した日においては、請求人は、所得税法第2条《定義》第1項第3号に規定する「居住者」に該当する旨主張する。
しかしながら、請求人がシンガポールに赴任してから退職後を含め同国に滞在していた期間における上記の各客観的諸事情を総合的に勘案すると、請求人は、当該退職するまでの期間においては、シンガポールに赴任した当初から、シンガポールに生活の本拠を移し、同国において客観的に生活の本拠たる実体を具備していたものと認められるから、「非居住者」に該当し、当該退職後の期間においても、日本とシンガポールでの各滞在日数に大差がないものの、日本に帰国するまで引き続きシンガポールの住居を生活及び職業活動の拠点とし、退職前後においてシンガポールでの生活状況に変わりがないこと、就職活動等の結果、日本での就職が決まったものの、日本に帰国するまで無職のままであったこと、日本国内に生計を一にする親族はいないこと、及び両国での資産の保有及び管理等の状況を総合的に勘案すれば、当該退職後の期間における請求人の生活の本拠は、退職前と同じくシンガポールにあったと認めるのが相当である。したがって、請求人は、上記親会社の株式を取得した日において「居住者」には該当せず、「非居住者」に該当する。
《参考条文等》
所得税法第2条第1項第3号
《参考判決・裁決》
最高裁昭和29年10月20日大法廷判決(民集8巻10号1907頁)
最高裁昭和32年9月13日第二小法廷判決(集民27号801頁、裁Web)
最高裁昭和35年3月22日第三小法廷判決(民集14巻4号551頁)
最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決(集民236号71頁、裁Web)