総則

他人名義による事業

  1. 納税義務者
  2. 課税取得の範囲
  3. 非課税所得
  4. 所得の帰属
    1. 実質所得者課税
      1. 他人名義による事業(6件)
      2. その他
    2. 所得の帰属者
  5. 所得の発生
  6. 収入金額

請求人(眼科医院)の妻はコンタクトレンズ等の販売に係る事業の収益を事業所得として所得税の確定申告をしているが、その収益は請求人に帰属すると認定された事例

裁決事例集 No.59 - 67頁

 請求人は、医療法及び薬事法の規制により、請求人の営む眼科医院とコンタクトレンズ等の販売事業とを分離し、その経営者及び申告名義を請求人の妻としたのであるから、租税回避を目的として制定された所得税法12条の適用はなく、本件販売事業の収益は請求人の妻に帰属する旨主張する。
 しかしながら、本件販売事業は、眼科医院と明確に分離されているとは認められず、請求人がその経営方針の決定等について支配的影響力を有していること、また、所得税法第12条は、その基礎となる所得の帰属について表見的な他の法律上の形式又は効果にかかわらず、実質的な経済効果に着目し、その効果を現実に享受する者を税法上の所得の帰属者として課税しようとするものであり、他の法律上無効又は取り消し得べき行為であっても、その行為に伴って経済効果が発生している場合には、その効果を現実に享受する者について課税することは何ら妨げられないと解すべきであるから、本件販売事業の収益は、請求人に帰属する。

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営業に関する各種届出書等の名義人である請求人には、営業に係る収益は帰属していないとした事例

平成24年8月21日裁決

《ポイント》
 本事例は、風俗店の受付事務所の賃貸借契約、風営法に係る所定の届出書の提出並びに開廃業に関する届出書及び確定申告書の提出が請求人自身の名義により行われているものの、当該風俗店の経営者として営業を支配管理し、その収益を自己に帰属させている者は請求人ではないから、当該風俗店に係る所得は請求人には帰属しないとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人は風俗店の営業に当たり、請求人自身の名義で、当該風俗店の受付事務所を賃借するとともに風営法所定の届出書を提出している他、当該風俗店の開廃業に関する届出書及び確定申告書を原処分庁に提出していることを総合すれば、本件各年分の当該風俗店の収益は請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、これらの届出名義や契約名義等にも関わらず、当該風俗店における事業の経営者として営業を支配管理し、その収益を自己に帰属させていたのは、請求人ではなくKであると認められ、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》及び消費税法第13条《資産の譲渡等を行った者の実質判定》から、各年分の当該風俗店に係る所得はKに帰属し、また、各課税期間の当該風俗店に係る資産の譲渡等の対価を享受する者はKであると認めるのが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第12条
 消費税法第13条

《参考判決・裁決》
 名古屋地裁平成17年11月24日判決(判タ1204号114頁)

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請求人は売買契約の当事者ではないし、売買代金を享受した事実も認められないことから、譲渡所得が発生したとは認められないとした事例

平成24年11月29日裁決

《要旨》
 原処分庁は、まる1請求人が平成17年にした本件不動産による代物弁済はねつ造された金銭消費貸借契約証書に基づく債権債務を前提とするものであり、まる2平成20年にされた本件不動産の売買契約(本件売買契約)の当事者は、形式的には請求人の長男が主催する法人(本件法人)となっているとしても、実質的には本件不動産の真実の所有者である請求人であるから、まる3本件売買契約に係る売買代金(本件売買代金)は、請求人に帰属するものであり、請求人には、本件売買代金を収入金額とする平成20年分の譲渡所得が発生した旨主張する。
 しかしながら、本件売買契約を締結するに至った経緯等によれば、実際買主と交渉を行っていたのは請求人の長男であり、請求人が本件売買契約に関与した事実を認めることはできないし、原処分庁の上記まる1の主張は、民法上他人物売買が有効とされていることを正解しないものなどであって、採用することはできない。また、本件法人における本件売買代金の使途などからすると、請求人が本件売買代金を享受したと認めることはできない。したがって、請求人は、本件売買契約において本件不動産を譲渡した実質的な当事者ではなく、また、本件売買契約において本件法人を単なる名義人として利用し、その収益を享受した事実も認められないから、請求人には平成20年分の譲渡所得が発生したとは認められない。

《参照条文等》
 所得税法第12条、第33条

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従業員名義で経営していた店舗に係る経営上の行為の状況、利益の享受状況及び出資の状況等から当該店舗の事業に係る所得の帰属先は請求人であると認定した事例(1平成18年分〜平成21年分の所得税の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分、2平成22年分〜平成24年分の所得税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分、3平20.1.1〜平24.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに重加算税の各賦課決定処分、4平成22年12月〜平成24年12月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分、5平成25年1月分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税告知処分、6平成25年2月〜平成25年6月の期間分の源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税の納税告知処分並びに不納付加算税の賦課決定処分・136棄却、2一部取消し・平成27年3月31日裁決)

平成27年3月31日裁決

《要旨》
 請求人は、風俗店4店舗(本件各店舗)の経営者はP11であり、本件各店舗の事業に係る所得の帰属先は請求人ではない旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件各店舗の法律行為等について自らの名義又は自ら決定した借名を用いて行い、従業員を雇用、監督し、収支を管理し、本件各店舗から生じた利益を享受していたこと、また、本件各店舗に係る開店及び移転の各費用並びに出資に係る資金の負担者が請求人であったことから、本件各店舗の経営者は請求人であったと認められ、本件各店舗の事業に係る所得の帰属先は請求人である。

《参考判決・裁決》
 名古屋地裁平成17年11月24日判決(判タ1204号114頁)

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本件における飲食店の経営主体が請求人である旨の原処分庁の主張を排斥した事例(1平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、2平成24年分の所得税の更正処分、3平成25年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分、4平成23年1月1日から平成23年12月31日まで及び平成24年1月1日から平成24年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分、5平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分、6平成23年1月から平成25年12月までの各期間分の源泉徴収に係る所得税等の各納税告知処分等・24却下、1356全部取消し・平成28年8月10日裁決)

平成28年8月10日裁決

《ポイント》
 本事例は、事業所得が誰に帰属するかは、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義、事業への出資状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有する者を社会通念に従って判断すべきとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の父(父)が営むものとして申告された飲食店(本件飲食店)の事業について、1平成23年以降の法律行為の名義は全体として請求人であり、2同人が収支の管理を行い、3同人が従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたと認められることから、平成23年分ないし平成25年分(本件各年分)における本件飲食店の経営主体は父ではなく請求人であり、その事業に係る所得は請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、事業所得の帰属者の判断に当たっては、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義に着目するのはもとより、当該事業への出資の状況、収支の管理状況、従業員に対する指揮監督状況などを総合し、経営主体としての実体を有するかを社会通念に従って判断すべきである。本件においては、1本件各年分における本件飲食店の店舗の賃貸借契約は、父名義で行われているほか、その事業の用に供されている物的設備等のほとんどが父の所有するものであり、2請求人は平成23年当時、本件飲食店を経営するだけの資金力を有するに至っておらず、その経営は父の資金力に大きく依存していたところ、3平成23年以降のいくつかの法律行為等に請求人の名義が用いられていることや、請求人が収支の管理を行い、従業員の採用や給与の決定・昇給を行っていたとしても、それは、請求人がいずれ本件飲食店の事業を承継することを前提に本件飲食店に勤務し始めたことから、父から店長としてかなりの裁量を持たされていたにすぎないといえ、4請求人がその生活費等を本件飲食店の事業に係る収益から享受し、父は本件飲食店の事業から収益を享受していなかったとしても、本件各年分における本件飲食店の経営状況は悪く連年損失が生じていたことからすると、父が経営者であって請求人が従業員であるとの状況を前提とすれば整合的であり、これらを総合して考慮すれば、本件飲食店の経営主体は父であったとみるべきであり、その事業に係る所得は父に帰属する。

《参考判決・裁決》
 最高裁昭和37年3月16日第二小法廷判決(集民59号393頁)
 名古屋地裁平成17年11月24日判決(裁web)

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飲食店事業に係る営業許可等の名義人である請求人に当該事業から生ずる収益は帰属しないとした事例(平成24年分の所得税の更正の請求並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の各通知処分、平成23年1月1日から平成25年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の各通知処分・全部取消し・平成28年11月15日裁決)

平成28年11月15日裁決

《ポイント》
 本事例は、飲食店事業(本件事業)に係る営業許可及び各契約等が請求人自身の名義により行われているものの、本件事業を支配管理し、その収益を享受している者は請求人ではないから、本件事業に係る所得は請求人には帰属しないとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、飲食店事業(本件事業)に係る営業許可及び各契約等の名義人が請求人であること、並びに請求人が本件事業に係る開業届出書及び所得税の期限後申告書を原処分庁に提出していることなどを総合すれば、請求人が、本件事業から生ずる収益を享受している旨主張する。
 しかしながら、請求人は、ともに本件事業に従事しているGの依頼に応じて当該各契約等を自らの名義に変更したにすぎず、Gは、請求人名義に変更後も本件事業の資金管理を行い、本件事業から生ずる利益を処分し、従業員の雇用及び労務管理を含む本件事業の運営を行っており、加えて、請求人とGとの間で、Gが従業員の立場で当該運営を行う旨の特段の合意があったとは認められないことからすると、本件事業から生ずる収益を享受しているのは、請求人ではなくGであると認められる。

《参照条文等》
 所得税法第12条
 消費税法第13条
 所得税基本通達12−2

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