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立退料、離作料、農地転用決済金
貸店舗併用住宅の譲渡に関し貸店舗の賃借人に支払った立退料は、貸店舗部分の譲渡費用に該当し、居住用部分の譲渡費用には当たらないとした事例
裁決事例集 No.32 - 24頁
請求人は、貸店舗併用住宅の譲渡をし、その譲渡について特定の事業用資産の買換えの特例と居住用財産を譲渡した場合の特別控除の特例の適用を併せて受ける場合に、その貸店舗の賃借人を立ち退かせるために支払った立退料は、建物全体の立退きのために支払ったものであるから、譲渡資産のうち事業用部分(貸店舗部分)と居住用部分の双方に配賦すべきであると主張するが、所得税法上資産を譲渡するための立退料は譲渡費用に該当するものの、それが事業用資産に係るものか、他の資産に係るものかについてはその支払の基因となった資産が事業の用に供されているかどうかによって判定し、仮に支払の間接的効果が他に及ぶとしても、その間接的効果は判定上格別の考慮を要せず、本件立退料が不動産貸付業の用に供されている資産について支払われたものであるから、全額事業用部分のみに配賦すべきものである。
昭和61年12月25日裁決
使用貸借により長男の事業兼居住の用に供していた建物及びその敷地を譲渡する場合に支払った立退料等のうち、長男が建物に投下した建物改造費用の現存価額並びに閉店及び移転に要した費用は、譲渡費用に当たるとした事例
裁決事例集 No.38 - 72頁
請求人は、使用貸借により長男が事業兼居住の用に供していた建物及びその敷地を譲渡する際、その建物から長男を立ち退かせるために立退料等の金員を支払ったが、使用貸借においては借主に借家権があるとは認められないので、本件立退料のうち借家権の消滅の対価の額に相当する金員については、これを支払う理由はなく、譲渡費用に該当しない。しかし、借主が借受物件に投下した有益費については、使用貸借においても借主が借受物件を返還する際に、貸主は償還業務を負うとされており、その有益費の額は現存価額とされているところ、本件においては、借主である長男は、建物改造費用を負担していることが認められるから、本件立退料のうちその残存価額に相当する部分の金額については譲渡費用とするのが相当である。また、営業補償名義の金員については、長男がチラシ、ポスター等の作成費用等閉店のために支出した費用の実費を補てんするため、請求人が長男に支払ったものと認められるから、これを譲渡費用とするのが相当である。
平成元年11月29日裁決
小作権を消滅させ、新たに建物の所有を目的とする借地権を設定したことによる権利金については、旧小作権部分と旧底地部分に係る収入金額とに区分して、長期・短期のそれぞれの譲渡所得金額を計算することが相当であるとした事例
請求人は、A土地の小作権を消滅させるための離作料を支払い、その直後に、A土地に隣接するB土地を含めた土地に建物の所有を目的とする新たな借地権を設定したことの対価として受領した権利金に係る譲渡所得の金額の計算に当たっては、離作料の額と同額の権利金を受け取って新借地人との間で本件借地権を設定したものであり、その経済的実質は、旧借地権者から新借地権者への借地権の移転とみることができ、借地権の内容に何らの変更がないのであるから、本件借地権取引によって所得は発生していない旨主張する。
しかしながら、本件土地の賃貸借契約においては、A及びB土地の全体が新たな借地権の目的とされ、実際に建築された建物も本件土地全体を利用する状況にあることが認められ、A土地とB土地を格別区分して借地権が設定されたものではないことは明らかであるから、本件権利金を収入金額として区分するに当たっては、A土地とB土地の面積の比率により按分するのが相当である。
また、請求人が主張するように、本件権利金のうちに占める離作料の額の割合が明らかであるとしても、それは本件権利金の使途の問題にすぎず、本件権利金が本件土地全体に借地権を設定することの対価として授受されたものであると解される以上、その割合が直ちにA及びB土地の収入金額に区分する際の割合にならないことは当然である。
平成10年6月26日裁決
土地改良事業の施行地区内に所在する農地の転用を目的として譲渡する際に納付した農地転用決済金は、譲渡費用には当たらないとした事例
譲渡所得計算上の譲渡費用は、資産の譲渡のために直接かつ通常必要な費用又は資産の譲渡価額を増加させるために譲渡に際して支出した費用と解されている。
本件農地転用決済金(以下「決済金」という。)は、[1]土地改良法第42条第2項の定めにより、土地改良区の組合員たる資格の喪失に際して、組合員が有していた土地改良区の事業に関する権利義務が新たな権利者に移転がない場合に、その権利義務を清算するために徴収されるものであって、土地の譲渡とは直接関係がないことは明らかであり、[2]本件決済金の内訳は、長期借入金の返済に充当すべき将来の負担金や維持管理費といったいずれも本件土地の譲渡とは直接の対応関係がない、いわゆる期間対応費用であり、土地の譲渡のために直接かつ通常必要な費用とは認められず、[3]本件決済金は、土地改良区の決済金徴収規程に基づいて徴収されたものであり、請求人が本件決済金を支払ったことをもって、本件土地の譲渡価額が増加したとは認められないから、いずれにしても、譲渡費用には当たらない。
平成13年1月25日裁決
土地改良区内の農地を宅地に転用して譲渡する場合に支払った土地改良法に規定するいわゆる農地転用決済金は譲渡費用には当たらないとした事例
農地転用決済金は土地改良法第42条第2項の規定に基づき土地改良区の土地の全部又は一部について組合員たる資格の喪失に際して、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、当該権利義務を清算するために徴収されるものであって、組合員たる資格に係る権利の目的である土地の譲渡とは直接関係がないことは明らかである。したがって、農地転用決済金は土地を譲渡するために直接かつ通常必要な費用とは認められず、かつその支払をしたことが土地の譲渡価額を増加させることになるとも認められないから、譲渡費用には該当しない。
農地転用決済金として農地転用により農業を廃止又は縮小する組合員が将来の維持管理費に相当する費用を一括して支払うこととされていることは、組合員の減少により残存する組合員の負担が増加しないように措置する必要があるためであることが認められる。一般に土地改良区に参加した組合員は、維持管理費を毎年負担するのであるが、農地転用により農地を利用しなくなったときには、その後に支払うべき維持管理費を一括して支払わなければならないことになっているのであるから、農地転用決済金の本質は、農地という農業用資産について生じた費用とみることができるのであり、農業という業務について生じた費用として、必要経費に算入することが相当である。
また、農地転用決済金は農地転用のときに一括して債務が確定する業務上の費用といえ、当該土地が農業用資産でなくなる時に生じた清算費用たる性質を有する支出であると解するのが相当であるから、必要経費への算入時期については、平成12年分の農業に係る事業所得の必要経費に算入するのが相当である。
平成15年7月29日裁決
請求人が賃貸の用に供していた共同住宅(本件建物)及びその敷地の売却に伴い、本件建物の事務室を賃借していた本件建物の管理会社に対し立退料名目で支払った金員は、本件建物の譲渡に要した費用に該当しないとした事例(平成24年分所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却・平成27年9月30日裁決)
《要旨》
請求人は、賃貸の用に供していた共同住宅(本件建物)及びその敷地の売却(本件譲渡)に伴い、本件建物の事務室(本件事務室)を賃借していた本件建物の管理会社(本件賃借人)に対し立退料名目で支払った金員(本件金員)は、本件譲渡に要した費用に該当する旨主張する。
しかしながら、資産の譲渡に当たって支出された費用が所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する譲渡費用に当たるどうかは、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものである。これを本件についてみると、請求人と本件賃借人との間の賃貸借契約は、遅くとも本件譲渡の日までに合意解約されたものと認められるところ、当該合意解約がされるまでの間に、本件建物及びその敷地の買主が本件事務室からの本件賃借人の退去を求めた事実を認めることはできない。そして、請求人と本件賃借人との間で本件賃借人の本件事務室からの退去に伴う本件金員の支払についての合意が成立したとする請求人の主張は主観に基づくものであり、また、当該合意が成立したことを明らかにする書面が作成された事実もうかがわれないから、当該合意の成立を認めることも困難である。そうすると、本件賃借人の本件事務室からの退去は、客観的に見て本件譲渡の実現に必要であったとは認められないから、本件金員の支払が客観的に見て本件譲渡を実現するために必要な費用の支払いであったと認めることはできない。したがって、本件金員は、譲渡費用に該当しない。
《参照条文等》
所得税法第33条
所得税基本通達33−7
《参考判決・裁決》
最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(税資256号順号10373)