相続税の課税財産の範囲

貸付金等

  1. 土地等
  2. 売買契約に係る土地
  3. 事業用財産
  4. 有価証券等
  5. 預貯金等
  6. 保険金
  7. 会員権
  8. 貸付金等(5件)
  9. 弔慰金
  10. 死亡退職金
  11. 在外財産
  12. 貴金属等

貸金債権は生前において回収不能を理由に既に放棄されていたとの請求人の主張を退けた事例

裁決事例集 No.22 - 163頁

 本件貸金債権は、被相続人が生前において回収不能を理由として40,000,000円の全額を放棄したものであるから、本件貸金債権は本件相続開始時には存在しない旨の主張については、[1]債務者はいずれも被相続人に対して借入金債務のあることを認識していること、[2]本件貸金債権を放棄する旨の意思表示が、被相続人をはじめ当該債権の処分権限を有する者から、本件債務者に対し、本件相続開始前にはなされていないことが認められ、他にこの点に関する主張を認めるべき資料はなく、本件貸金債権に係る回収状況について調査したところによれば、32,500,000円の貸金債権が本件相続開始時において存在していたものと認めるのが相当である。

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被相続人が同族法人に対して有していた債権は、消滅時効の完成により消滅していたとはいえず、被相続人に帰属するものと認定した事例

裁決事例集 No.63 - 495頁

 被相続人が同族法人に対して有していた本件債権(未収入金及び貸付金)について、請求人は消滅時効の完成により消滅していること及び同族法人に対する請求権が存在しないことを遺産分割調停調書により当事者相互間で確認しており、相続人全員がこの内容に同意していることから、相続開始時に本件債権が存在するとして更正した原処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、本件債権が発生した時期及び請求人が時効の起算日とするいずれの時期においても被相続人は同族法人の代表社員の地位にあり、退社するまでの間、業務執行社員として同族法人の決算書類の作成に関与し、その内容について承知し得る立場にあったこと、また、同族法人の社員はすべて親族によって構成され経営されてきたことが認められることから、このような事情の下では被相続人と同族法人との間では毎期、決算書類の作成により本件債権の存在が相互に確認され、同族法人は債務を承認する事実行為を行ったものと認められる。
 そうすると、本件債権に係る消滅時効は少なくとも、毎期、決算書類の作成により中断されており、相続開始時において債権の消滅時効はその要件を具備していないことから、本件債権は消滅時効を完成しておらず、本件債権は存在すると認められるから請求人の主張は採用できない。
 また、調停において当事者は当事者の自由な意思により任意に、真実の権利関係とは異なる権利関係を進めることができるから、相続開始後、各相続人間において成立した調停において、本件債権は消滅時効により消滅し、同族法人に対する請求権が存在しない旨相続人間で確認している事実をもって、本件債権が消滅時効により消滅したので相続開始時には存在しなかったということにはならない。

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所得税の課税処分取消訴訟継続中に被相続人が死亡した場合、相続人である請求人は訴訟上の権利、すなわち過納金の還付を求める権利を相続により取得したとした事例

裁決事例集 No.69 - 217頁

 請求人は、更正処分の公定力を前提とする限り、請求人が所得税還付請求権を「相続により取得した」ものではなく、課税処分取消訴訟の判決が確定した時に初めて所得税還付請求権が確定したものであり、そのときに所得税還付請求権を請求人自らの財産権として取得したものであるから、その権利が発生していない相続開始時に存在していたとして、還付請求権が相続財産を構成することはあり得ない旨主張する。また、仮に、所得税還付請求権が「訴訟中の権利」に該当するとしても、その評価は、財産評価基本津通達210によることとなり、課税処分取消訴訟の相手方は、更正処分を行った原処分庁であり、原処分庁は、当該訴訟の対象である所得税の更正処分等を適法として長年にわたり争い、裁決でも適法として判断しているのであるから、所得税等の納付額に相当する価額が、係争中の所得税還付請求権の時価であると評価することは不可能である旨主張する。
 しかしながら、被相続人は、課税処分取消訴訟を提起し、その訴訟を通じて過納金の還付を受けるべき旨を主張していたと認められるところ、訴訟継続中に被相続人が死亡したため、相続人である請求人が被相続人から相続により訴訟上の地位を承継したものであり、この場合の訴訟上の地位とは、一身専属的なものではなく、財産的性格をもつもの、すなわち、過納金の還付を求める権利であると解されるから、過納金の還付を求める権利は、請求人が被相続人から相続により取得した財産であるということができる。また、[1]課税処分取消訴訟は、被相続人等に係る所得税の更正処分等取消訴訟であり、この訴訟を通じて過納金の還付を求めていること、[2]課税処分取消訴訟に係る判決の確定により更正処分等の全部が取り消され、具体的に還付金の金額が確定していることからすれば、過納金の還付を求める権利の価額は、還付金相当額と同額として評価するのが相当である。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張は採用することができない。

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有料老人ホーム入居時点において入居者が有することとなる入居者の死亡又は入居契約の解約権の行使を停止条件とする金銭債権は相続財産に該当するとした事例

裁決事例集 No.72 - 495頁

 請求人らは、被相続人が相続時点で有していた権利は、返還請求権を含む入居一時金ではなく、老人ホームの施設を終身利用できる権利であり、また当該権利は、相続も譲渡もできない権利であり、民法上の相続財産には該当しない一身専属権であるから、相続税法第2条に規定する本来の相続財産には該当しない旨主張する。
 しかしながら、被相続人らが締結した老人ホーム入居契約は、入居者である被相続人らの自由な意思によりいつでも契約を解約でき、契約が解約された場合には返還金として契約に定める所定の金員を支払う特約付であったことが認められること、また、契約において入居一時金等の一部を返還することとしているのは、専用居室の家賃及び共用施設の利用料の前払分のほか各サービスの費用並びにサービスに要する事務費及び人件費の前払分として無利息の預り金としてN社(施設設置者)が受け取ったものであることにかんがみれば、被相続人らには、入居契約の締結日時点において、契約に定める老人ホームの居室等を終身にわたって利用し、各種サービスを享受する権利とともに、同人らの死亡又は解約権の行使を停止条件とする金銭債権が生じていると認めるのが相当である。
 そして、当該金銭債権は、金銭に見積もることができる経済的価値のある権利として本来の相続財産に該当し、一身専属的権利とはいえないから、請求人らの主張は採用できない。

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相続人名義預金に入金された資金及び上場株式の購入資金の運用から生じた化体財産は、過去に被相続人から相続人に贈与があったと認められるため、これらの資金に相当する預け金返還請求権は相続財産には当たらないとした事例(平成26年12月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・全部取消し・平成30年8月22日裁決)

平成30年8月22日裁決

《ポイント》
 本事例は、被相続人から相続人名義の銀行口座に入金された資金及び上場株式の購入資金の合計(本件資金)について、その化体財産が過去に被相続人から相続人に贈与により移転したものとみるのが相当であることからすると、被相続人は、相続開始日において、相続人に対して本件資金相当額の預け金返還請求権を有しているとは認められないため、相続財産に当たらないと判断したものである。

《要旨》
 原処分庁は、相続人(本件相続人)名義の銀行口座(本件預金口座)に入金された資金及び上場株式の購入資金の合計(本件資金)について、本件資金の原資(本件資金となる直前の財産)は、被相続人(本件被相続人)に帰属するものと認められ、本件被相続人と本件相続人との間で、贈与やその他の債権債務関係があったとは認められないことからすると、本件被相続人は、本件相続人に対し、本件資金相当額の預け金返還請求権を有している旨主張する。しかしながら、1本件資金及び本件資金の原資の管理運用は、本件被相続人が行っていたものであり、そうであれば、本件資金を本件預金口座に入金したり、その後、本件相続人名義の上場株式の購入資金に充てたりしたことは、財産の管理運用の一環として、本件相続人の名義で本件被相続人が実質的に行っていたものと認められること、2平成18年頃に本件資金の運用から生じた化体財産は本件被相続人から本件相続人に贈与されていたことからすれば、そもそも本件資金相当額の預け金返還請求権の存在はおろか発生していたとすらいえない。したがって、本件被相続人は、相続開始日において、本件相続人に対し、本件資金相当額の預け金返還請求権を有しているとは認められない。

《参照条文等》
 相続税法第2条

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