相続税の課税価格の計算

その他

  1. 分割財産に係る課税価格
  2. 非課税財産
  3. 債務控除
  4. 相続開始前3年以内の贈与
  5. その他(9件)

遺贈に対して遺留分による減殺請求がなされている場合であっても、各共同相続人の取得財産の範囲が具体的に確定するまでは、受遺者の課税価格はそれがないものとして計算した金額によるとされた事例

裁決事例集 No.59 - 262頁

  1.  [1]請求人は、平成9年8月20日、家庭裁判所の遺言の検認の際、「遺言書の筆跡は、遺言者のものだと思います。名下等の印影も、遺言者が使用していた印章によるものに間違いありません。」と陳述していること、[2]請求人は、本件遺言に係る遺贈の放棄をしておらず、他の相続人からされている遺言無効及び相続欠格の主張を争っていること、[3]本件遺言の効力及び相続欠格事由の有無については、他の相続人から裁判外において主張されているにすぎず、訴え等の提起はされていないことを考慮すれば現時点においては本件遺言は有効であり請求人は相続欠格者でないことを前提として、その課税関係を判断するのが相当である。
  2.  遺留分減殺請求がなされていても、各共同相続人の取得財産の範囲が具体的に確定するまでは、その遺留分減殺請求がなかったものとして課税価格を計算するのが相当であると解され、そのように解しても、取得財産の範囲が具体的に確定した際には、相続税法第32条の更正の請求、同法第30条又は第31条の期限後申告又は修正申告、同法第35条の更正等による是正手段がある以上、不都合はない。

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遺産分割調停中である場合には、相続税の更正等を行えないとする税法上の規定はなく、原処分は適法であるとした事例

裁決事例集 No.67 - 580頁

 請求人は、遺産分割の基礎である贈与税及び遺産総額は調停内事実検証を踏まえて必然的に確定されるものであるから、更正処分は遺産分割調停の結果に従って行なわれるべきであり、調停中に行なわれた本件更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、相続税法第55条は、相続税の申告書を提出する場合又は更正若しくは決定する場合において、まだ遺産の分割が行なわれていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法の規定による相続分に従ってその財産を取得したものとして課税価格を計算するものとし、その後において、これと異なる割合で遺産の分割がなされた場合には、その分割の内容に従って課税価格の計算をやり直し、それに基づいて、申告書の提出若しくは更正の請求又は更正若しくは決定をすることができると規定し、また、国税通則法第24条は、納税申告書の提出があった場合に申告書に記載された課税標準等が調査したところと異なるときは、その調査により当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定しており、遺産分割が調停中である場合には相続税の申告書に記載された課税標準等を更正できないとする税法上の規定はない。
 本件において、請求人らは、未分割財産につき相続税法第55条の規定に基づいて計算した相続税の申告書を提出しているのであるから、国税通則法第24条に基づいて更正を行なうこと自体何ら支障はなく、本件更正処分は、当初申告書に記載された課税価格及び納付すべき税額が原処分庁の調査したところと異なっていたため国税通則法第24条に基づいて行なわれたものであるから、請求人の主張には理由がない。

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相続税法第55条にいう「相続分の割合」とは、共同相続人が他の共同相続人に対して、その権利を主張することができる持分的な権利の割合をいうものとした事例

裁決事例集 No.69 - 235頁

 請求人は、一部分割後の残余の未分割遺産に係る相続税法第55条の適用に当たっては、当該残余の未分割財産に法定相続分の割合を乗じた金額を課税価格に配分すべきであるから、課税価格は更正の請求前のそれを下回ることとなる旨主張するが、民法上、相続分とは、共同相続人の相続財産全体に対する分け前の限度、普通はその割合をいい、相続財産の中の具体的財産ではなく、相続財産全体に対する持分であると解されているから、相続税法第55条の適用に当たっては、共同相続人各人は、他の共同相続人に対し、遺産全体に対する自己の相続分に応じた価格相当分から、既に分割を受けた遺産の価格を控除した価格相当分についてその権利を主張することができると解される。そうすると、残余の未分割遺産が当該主張することができる金額を上回る本件の場合においては、課税価格は更正の請求前のそれと同額となるから、原処分は相当である。

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可分債権である貸付金債権については、可分債権であることをもって分割の対象とならない財産とみるのは相当ではなく、1共同相続人間で実際に分割が行われた場合、2実際に分割が行われないまでも、相続分に応じて取得する旨の共同相続人全員の合意がされた場合、3一部の相続人が可分債権に対する自己の相続分相当の権利を行使した場合など、明らかにその全部又は一部の帰属が確定している場合を除き、他の未分割財産と一体として取り扱うのが相当であるとした事例

裁決事例集 No.74 - 274頁

 本件は、原処分庁が申告漏れ財産が存在するとして第一次更正処分を行うとともに、遺産の一部未分割の場合には、分割済財産を特別受益と同じように考慮に入れ、いわゆる穴埋方式により課税価格を計算すべきであるとして第二次更正処分を行ったところ、請求人が、1遺産の一部未分割の場合の課税価格は、分割済財産を考慮することなく、いわゆる積上方式で課税価格を計算すべきである、2関係法人に対する貸付金債権(以下「本件貸付金債権」という。)の評価額は○○○○円である等として、原処分の全部の取消しを求めている事案であり、争点は、次の5点である。
 1 未分割財産がある場合の相続税の課税価格の計算方法
 2 本件貸付金債権の評価額
 3 土地の評価額(広大地評価の適用の有無)
 4 小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の適用の有無
 5 第二次賦課決定処分の適否
 最高裁判決によれば、相続人が数人ある場合において、相続財産中に金銭その他の可分債権があるときには、その債権は法律上当然に分割され、各相続人がその相続分に応じて権利を取得するものと解される。
 しかしながら、遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをするとされるところ、金銭等の可分債権については、その他の財産の分配における過不足を調整させる意味合いから、一般的には、これらを一体と捕らえた遺産分割が行われているところであり、また、家庭裁判所の実務においても、最高裁判決を前提としながらも、遺産を総合的に分割するためには、預金等を含めた方が合理的であり、その実際的必要性が高いため、預金等の可分債権を遺産分割の対象にしている例が多いと認められる。
 このような実体を相続税賦課の観点からみるときは、最高裁判決を前提として相続財産が可分債権であることを考慮に入れてもなお、当該財産をもって分割の対象とはならない財産とみることは相当ではないから、当該可分債権について、1共同相続人間で実際に分割が行われた場合、2実際に分割が行われないまでも、相続分に応じて取得する旨の共同相続人全員の合意がされた場合、3一部の相続人が可分債権に対する自己の相続分相当の権利を行使した場合など、明らかにその全部又は一部の帰属が確定している場合を除き、他の未分割財産と一体として取り扱うのが相当である。

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遺産分割協議において寄与分に応ずる財産が具体的に定められるとともに、一部の財産が協議の対象から漏れていた場合において、相続税法第55条の規定により相続税の課税価格をいわゆる穴埋方式で計算するときには、当該寄与分に応ずる財産の価額は各共同相続人の未分割財産の取得可能額の計算の基礎となる財産の価額から除外されるとした事例

裁決事例集 No.75 - 546頁

 相続税法第55条においては、民法の規定による相続分の割合について、同法第904条の2を除く旨規定しているが、その趣旨は、寄与分は、具体的には共同相続人間の協議又は家庭裁判所における審判によって初めて明らかになるのが一般的であることから、遺産が未分割である場合には寄与分も具体的に定まっていないことが多いことを踏まえ、相続税法第55条に規定する相続税の課税価格の計算ができなくなることを防ぐことにあることからすれば、同条の規定は、寄与分に応ずる取得財産が具体的に定められている場合について、これを相続分の算定に反映させることを排除する趣旨とまで解することはできない。また、同条にいう「相続分の割合」とは「共同相続人が他の共同相続人に対しその権利を主張できる持分的な権利の割合」をいうところ、先行する遺産分割により、寄与分に応ずる取得財産が具体的に定められている場合には、当該取得財産額については、穴埋方式による共同相続人の未分割財産の取得可能額の計算の基礎となる財産の価額から除外される(ただし、当該除外された寄与分に応ずる取得財産額は、寄与相続人の課税価格に加算されて、同人の具体的な課税価格が算定されることになる。)と解しても、共同相続人が他の共同相続人に対してその権利を主張できる持分的な権利の割合を適正に計算することの妨げとはならないとともに、それは寄与分に関する民法の定めや共同相続人の意思にも沿うものであり、その解釈は、同条の趣旨に照らしても合理的なものというべきである。
  そうすると、本件相続において共同相続人の寄与分として具体的に確定している財産の価額は、穴埋方式による未分割遺産に係る各共同相続人の取得可能財産額の計算の基礎となる財産の価額から除外して計算するのが相当である。

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遺産分割協議時に、共同相続人間で分割協議対象財産として認識されていない財産があった場合には、遺産分割協議書に「本書に記載のない財産は特定の者に帰属する」旨の記載があったとしても、当該財産は未分割財産とみるのが相当であるとした事例

平成23年8月26日裁決

《ポイント》
 遺産分割協議書には、「本書に記載のない財産は特定の者に帰属する」旨の記載が一般的に見受けられるところであるが、本事例は、遺産分割協議書に当該記載はあるものの、被相続人からの贈与契約が履行されていない財産については、遺産分割協議時点において共同相続人間で分割協議対象財産として認識されていないから、未分割財産であると判定したものである。

《要旨》
 請求人らは、本件被相続人がその預金原資を出捐した請求人らの名義の各定期預金(本件各定期預金)について、本件各定期預金に係る証書が本件被相続人の生前にそれぞれ各名義人へ手渡された時点で、本件被相続人からの贈与の履行が完了しているから、相続財産とはならない旨主張する。
 しかしながら、確かに、本件被相続人と請求人らとの間で、本件各定期預金に関する書面によらない贈与契約がそれぞれ成立したものと認められるものの、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者がいつでもこれを取り消すことができることから、その履行前は目的財産の確定的な移転があったということはできないので、この場合の贈与の有無、すなわち、目的財産の確定的な移転による贈与の履行の有無は、贈与されたとする財産の管理・運用の状況等の具体的な事実に基づいて、総合的に判断すべきである。
 これを本件についてみると、定期預金を自由に運用するためにはその届出印が必要となるところ、本件各定期預金の届出印は、その保管状況・使用状況・各名義人の当該届出印に対する認識及び本件各定期預金に係る証書の改印状況などを勘案すると、相続開始時点においても本件被相続人が引き続き管理していたものと認められることから、本件各定期預金について、本件被相続人から各名義人へ確定的な移転があったとまではみることができない。したがって、本件各定期預金は、贈与によって請求人らが取得したものとは認めることができず、相続税の課税財産に該当する。
 ただし、本件各定期預金は、遺産分割協議書に記載がなく、同書には「本書に記載のない遺産はすべて請求人Gが取得する」旨記載されているものの、請求人らの間において、当該遺産分割協議の時点で遺産分割対象財産として認識していなかったと解されることから、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》に規定する未分割財産であるとみるのが相当である。

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遺産分割協議は有効に成立しており、当該遺産分割協議に基づく決定処分は違法とは認められないとした事例

平成24年9月7日裁決

《要旨》
 請求人は、請求人以外の相続人が相続財産を隠蔽したことにより、相続財産はほとんどないものという誤った認識に陥った上、当該認識に基づき、遺産分割協議に合意(本件遺産分割協議)したものであるから、本件遺産分割協議は無効である旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、本件遺産分割協議において表示された法的効果を発生させようとする意思(効果意思)を形成する前段階の理由(動機)の錯誤をいうものと解されるところ、請求人が、遺産分割協議書の原案を作成し、遺産分割協議の成立後に判明した相続財産については一定の分割割合で各相続人が取得する旨の条項を加えるよう申し出たことから、本件遺産分割協議に係る遺産分割協議書にその旨の記載がなされたのであり、後に判明した相続財産の価額によっては、当該分割割合や本件遺産分割協議そのものを見直すなどの本件遺産分割協議に係る合意を留保する旨の特段の定めも設けられていないことからすると、請求人は、本件遺産分割協議の成立後に相続財産が判明する事態があり得ることを想定していたと認められ、相続財産はほとんどないものという認識に陥っていたとはいえない。したがって、本件遺産分割協議の成立後に、相続財産が判明したとしても、本件遺産分割協議への合意に至る動機に錯誤はないので、本件遺産分割協議が無効とは認められない。

《参考条文》
 民法第95条  

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未分割遺産に係る相続税の課税価格の計算は、いわゆる穴埋方式によるべきであるとした事例(平成22年5月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・平成27年6月3日裁決)

平成27年6月3日裁決

《要旨》
 請求人らは、預貯金等の未分割財産(本件未分割財産)について、本件には請求人ら以外の相続人が本件未分割財産及びこれから発生する収益の全てを支配、独占しているなどの個別的事情があることから、相続税法(平成23年法律第82号による改正前のもの)第55条《未分割遺産に対する課税》に規定する課税価格の計算は、各共同相続人が未分割の財産に対する自己の相続分に応じた価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、積上方式によるべきである旨主張する。
 しかしながら、相続財産の一部が分割された場合、そのことによって、相続財産全体に対する各共同相続人の法定相続分の割合が変更されることはないから、各共同相続人は、他の共同相続人に対し、相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張することができる。そうすると、相続税法第55条に規定する「民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する」とは、各共同相続人が相続財産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から既に分割を受けた財産の価額を控除した残りの価額相当分を取得したものとして計算する方法、すなわち、穴埋方式により課税価格を計算すると解するのが相当である。

《参考条文等》
 相続税法(平成23年法律第82号による改正前のもの)第13条、14条、55条

《参考判決・裁決》
 最高裁平成5年5月28日第三小法廷判決(裁web)
 東京地裁平成17年11月4日判決(税資255号順号10194)

請求人が受贈した現金に係る贈与者は、被相続人の配偶者ではなく被相続人であると判断した事例

令和元年6月17日裁決

《ポイント》
 本事例は、請求人甲が受贈した現金に係る贈与者について、当該現金の原資、被相続人の配偶者から請求人甲へ贈与した旨記載された「贈与契約書」は事後的に作成されたものと認められることなどから、被相続人の配偶者ではなく、被相続人であると判断したものである。

《要旨》
 請求人らは、請求人甲が受贈した現金(本件現金贈与)に係る贈与者は、被相続人ではなく、被相続人の配偶者(本件配偶者)であり、本件現金贈与に係る贈与契約は、本件配偶者と請求人甲との間で成立していたものである旨主張し、当該主張に沿う証拠として、本件配偶者から請求人甲へ贈与した旨記載された「贈与契約書」と題する書面(本件書面)を当審判所に提出した。しかしながら、@請求人甲の預金口座に入金された本件現金贈与に係る原資は、被相続人の固有の財産である預金口座から出金された現金であること、A被相続人は、本件現金贈与に係る現金を贈与する旨の明確な意思を有していたこと、B本件書面は、本件現金贈与に際して作成されたものではなく、事後的に作成されたものと認められることなどからすれば、本件現金贈与に係る贈与者は、被相続人であり、本件現金贈与に係る贈与契約は、被相続人と請求人甲との間で成立していたものと認められる。

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