財産の評価

時価の意義

  1. 評価の原則
    1. 時価の意義(14件)
    2. 評価単位
  2. 土地及び土地の上に存する権利
  3. 家屋及び庭園設備
  4. 動産
  5. 取引相場のない株式
  6. 出資の評価
  7. 預貯金
  8. 貸付金債権等
  9. 預託金制のゴルフ会員権
  10. 施設建築物の一部の給付を受ける権利
  11. 構築物

評価通達に定める路線価が実勢価格に70パーセントの評価割合を乗じた水準に設定されているから、鑑定評価額に70パーセントを乗じた価額を本件土地の評価額とすべきであるとの主張を退けた事例

裁決事例集 No.49 - 408頁

 請求人らは、平成3年分の路線価は前年7月1日時点における実勢価格に70パーセントの評価割合を乗じた水準に設定されていたことは公知の事実であるとし、路線価により評価して申告した相続税について、平成2年秋以降、地価が著しく下落したのは明らかであるとして、本件相続開始時の実勢価格を不動産鑑定士の鑑定により求め、これに70パーセントを乗じた金額を基に評価をし、更正の請求をした。
 これに対し、原処分庁は、本件鑑定評価額による評価により減額更正をしたが、本件鑑定評価額に更に70パーセントの評価割合を乗じる必要はないとした。
 ところで、本件は、更正の請求に対し、原処分庁が本件鑑定評価額により評価して更正したのであるから、請求人は本件土地の価額がこの評価を下回ることを主張、立証することを要すると解すべきであるが、路線価が公示価格水準の70パーセント程度(評価水準)により評価しているのは、評価上の安全性を考慮した計算過程上の一要素にすぎないものであるところ、本件鑑定評価額は、鑑定人が公示価格との均衡を考慮しつつ、本件土地の特殊性をしんしゃくした上で求めた正常価格であって、これに評価水準を乗じなければならない理由はなく、また、そうしなければ課税の公平の原則に反するともいえない。そうすると、請求人の主張、立証をもって、本件土地の価額が本件減額更正に係る価額を下回ると認定することはできない。

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路線価は、1年間適用されることとされているため評価上の安全性等を考慮して、毎年1月1日現在の公示価格水準の価格の80パーセント程度で評定されているので、路線価を1月1日から相続開始日までの地価変動率により修正した価額をもって時価であるということはできないとされた事例

裁決事例集 No.51 - 528頁

 請求人は、更正の請求において、相続税法第22条(評価の原則)によれば、相続等により取得した財産の価額は時価による旨規定されているところ、路線価はその年の1月1日現在の価額であるから、大幅な地価の下落があった場合には、路線価を1月1日から相続開始時までの地価下落率により修正した価額を時価とすべきであると主張する。
 ところで、更正の請求をする場合は、更正の請求をする者が、まず、自ら記載した申告内容が真実に反するものであることを主張・立証すべきであると解されるところ、路線価は、売買実例価額の収集等技術的な理由から1年間適用されることとされており、毎年1月1日を評価時点として、1年間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性など評価上の安全性等を考慮して公示価格水準の価格の80パーセント程度により評定されているので、路線価を1月1日から相続開始時までの地価変動率により修正した価額は、相続税法第22条の時価であるということはできないから、請求人の主張をもって、本件土地の価額が、本件減額更正処分に係る価額を下回るという事実を証明したことにはならない。

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本件土地の価額は、近隣の公示価格から推定した公示価格水準の額に80パーセントを乗じた額により評価すべきであるとの請求人の主張が排斥された事例

裁決事例集 No.57 - 462頁

 請求人らは、公示価格から推定した本件土地の公示価格水準の額に80パーセントを乗じた額により本件土地の価額を算定すべきである旨主張するが、公示価格水準の額に80パーセントを乗じることは、課税庁内部の時価の評価に関する取扱いを統一するに当たり、評価上の安全性等を考慮して取り入れられているのであって、課税庁が実務上少なくともこれを乗じた額を下回ることは通常ないであろうと認めるところにより、課税処分等をするための計算過程上の一要素にすぎないものである。
 一方、請求人らの主張する公示価格から推定した本件土地の価額は、公示価格との均衡を考慮しつつ、本件土地の特殊性をしんしゃくした上で求めた価額であるとするならば、これに80パーセントを乗じる理由はなく、また、そうしなければ課税の公平の原則に反するともいえないから、請求人らの主張は採用できない。

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請求人及び原処分庁の行った両鑑定額とも採用できないとして、審判所において取引事例比較法による比準価格及び公示価格を規準とした価格により本件土地の価額を算定した事例

裁決事例集 No.61 - 579頁

 請求人及び原処分庁とも、路線価が時価を上回るとして、これを採用しないことには争いがないが、本件土地の価額につき、請求人と原処分庁のそれぞれが鑑定評価額をもって本件土地の価額であると主張する。
 しかしながら、審判所の調査によると、請求人と原処分庁のそれぞれが主張する鑑定額はいずれも採用できないから、当審判所において本件土地の価額を算定することとするが、開発法による価格は、その計算過程に想定部分も多く、合理性を欠くことも否定できないので、取引事例比較法による比準価格及び公示価格を規準とした価格により、本件土地の価額を算定するのが相当と認められる。
 そこで、当審判所において採用した取引事例及び公示価格をもとに、当審判所においても相当と認める規準の一つである土地価格比準表に準じ、地域要因及び個別要因等の格差補正を行って本件土地の価額を算定したところ、請求人申告額を下回るので、本件更正処分はその全部を取り消すのが相当である。

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評価基本通達に定める路線価等を適用しないで土地の時価を算定するときは路線価の評価水準等を考慮する必要はなく、また、相続税法第17条に定めるあん分割合につき請求人らが申告に使用した端数処理の方法には合理性が認められないとした事例

裁決事例集 No.62 - 352頁

 請求人らは、本件土地の価額は時価である取引価額に路線価の評価水準を乗じ、さらに、評価基本通達に定める各種減額を適用すべきである旨、また、原処分庁が更正する場合の相続税法第17条に規定するあん分割合は相続税法基本通達17−1の定めにより、請求人らが申告に使用した端数処理の方法を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達に定める路線価等を適用しないで土地の時価を算定する場合に、路線価の評価水準を考慮する必要はなく、路線価等を基に画一的に時価を算定する場合に適用するものとしている各種の減額を適用する余地もない。
 また、相続税法基本通達17−1は、合理的な端数処理を行っている場合には、納税者によって選択されたその端数処理によって相続税額を計算することができることとした取扱いであるが、本件は、請求人らが選択した端数処理の方法に明確な基準は見出せず、合理性があるものとは認められないから、原処分庁はその方法を選択できないのであって、相続税法17条の規定に基づいてした原処分庁のあん分割合に違法はなく、請求人の主張には理由がない。

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原処分庁が財産評価基本通達に基づき評価した土地の価額はその土地の時価を上回るとした事例

裁決事例集 No.64 - 416頁

 請求人は、同族法人の株式の評価に当たり、当該同族法人の所有する本件土地の価額は、本件鑑定評価書を基に広大地補正率を適用して評価すべき旨主張し、これに対し、原処分庁は、当該土地の最有効利用は中高層の耐火共同住宅の敷地と認められ、戸建宅地開発を前提とする広大地補正率の適用はなく、路線価に基づき計算した当該土地の価額は、原処分庁が時価として試算した価額を下回るから適法である旨主張する。
 しかしながら、双方が主張する価額は、いずれも相続税法第22条に規定する時価として採用することはできないので、当審判所が採用した近隣の取引事例の取引価格及び公示地の公示価格を基に、本件相続開始時における本件土地の時価を算出したところ、当該価額は、原処分庁が財産評価基本通達に基づいて評価した価額を下回ることから、原処分庁の評価に係る価額は時価を超えているものと認められるので、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

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請求人が、相続により取得した土地及び建物の価額は、財産評価基本通達により評価すべきであり、請求人の主張する不動産鑑定評価額には合理性が認められないとした事例

裁決事例集 No.68 - 170頁

 請求人は、相続により取得した土地及び建物の価額について、路線価は相続開始日現在までの地価下落が反映されておらず、実際の取引において路線価では売却できないこと、また、建物に居住するためには相当の修理費用が必要であること等から、財産評価基本通達によらず、不動産鑑定士による鑑定評価額により評価すべきであると主張する。
 しかしながら、本件土地の所在する地域の地価は平成14年1月1日から相続開始日までの間に20%を超える下落があったものとは認められないなど、本件土地及び建物の価額については、財産評価基本通達を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別の事情は認められず、更に、請求人提出の不動産鑑定士による鑑定評価書の評価額は適正な時価であるとはいえないことから、財産評価基本通達の定めに従って評価するのが相当である。

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請求人が相続により取得した土地の時価について、請求人の主張する不動産鑑定評価額には合理性が認められず、財産評価基本通達等により難い特別な事情は認められないから、一般的に合理性を有するものと解される財産評価基本通達等に基づき評価した評価額が相当であるとした事例

裁決事例集 No.71 - 505頁

 本件各土地の時価について、請求人は、原処分庁評価額は、相続税法第22条に規定する時価を適正に反映しておらず、時価を超えており違法であるから請求人鑑定評価額である旨主張する。
 ところで、財産評価基本通達及び同通達に基づき国税局長が定めた財産評価基準(以下、これらを併せて「評価通達等」という。)による評価は、一般的に合理性を有するものと解され、評価通達等を適用して評価することが著しく不適当と認められる特別な事情が存する場合、すなわち、評価通達等により算定される土地の評価額が客観的交換価値を上回る場合には他の合理的な評価方法により時価を求めるべきものと解されている。この場合の評価通達等により算定される土地の評価額が客観的交換価値を上回っているといえるためには、これを下回る不動産鑑定評価が存在し、その鑑定評価が一応公正妥当な鑑定理論に従っているというのみでは足りず、同一の土地について他の不動産鑑定評価があればそれとの比較において、また、周辺における公示価格や都道府県地価調査による基準地の標準価格の状況、近隣における取引事例等の諸事情に照らして、評価通達等により算定された土地の評価額が客観的交換価値を上回ることが明らかであると認められることを要するものと解されている。
 これを本件についてみると、請求人鑑定評価額は、更地価格の算定に当たり、公示価格との規準による規準価格を採用せずに比準価格のみを採用し、規準価格との均衡を図っているとはいい難く相当ではないこと、また、請求人鑑定の個別格差補正等による減価に合理性は認められないこと等から、請求人鑑定評価額が時価であるとは認められない。
 したがって、本件各土地について評価通達等により難い特別な事情は認められないから、本件各土地の評価額は、一般的に合理性を有するものと解されている評価通達等に基づき評価するのが相当である。

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請求人らが贈与により取得した中古マンションの評価に当たり、財産評価基本通達により難い特別の事情はなく、建替えが行われる蓋然性が極めて高い事情等を考慮していない鑑定評価額は採用できないとした事例

平成22年10月13日裁決

 請求人らは、贈与により取得したマンション住戸である本件各不動産について、建物の専有部分の床面積に対応するその敷地面積が広大であるから、本件各不動産の時価を財産評価基本通達の定めにより算定すると、売買の実態と乖離した高い評価額が算定されること及び本件各不動産は、住戸面積は狭く、建物等も老朽化していることなどの特別な事情があるから、本件各不動産の価額は鑑定評価額によるべきである旨主張する。
 しかしながら、1本件各不動産の敷地部分について、本件贈与者の有する共有持分が他の区分所有者が有する共有持分と質的に異なることもないのであるから、建物の専有部分の床面積に対応するその敷地の共有持分が広大であれば、それに連動して本件各不動産の価額も上昇又は下落することになること、2財産評価基本通達においては、土地の形状等に応じて、奥行距離に応じた奥行価格補正率を適用したりするなどして、土地の減価要素を考慮した評価方法が採られていること、及び3同通達は、家屋の評価については、固定資産税評価額に1.0の倍率を乗じて計算した金額によって評価する旨定めており、この固定資産税評価額は、請求人らが主張する事情については、それを織り込んで評価していることからすれば、同通達の定めにより本件各不動産を評価した場合に、適正な時価が求められず、著しく課税の公平を欠くことが明らかな場合に当たるとはいえない。他方、本件各不動産の評価に際しては、贈与の日において建替えの蓋然性が極めて高く、その場合には敷地の持分価額に見合う既存建物の2倍以上の面積の建物を取得することが予定されていたことなどの事情を考慮して価額を算定すべきところ、請求人らの主張する鑑定評価額は、これらの事情が十分に考慮されておらず、不動産鑑定評価基準に定める予測の原則に基づく分析検討が客観的かつ十分にされていないといわざるを得ないから、本件各不動産の客観的な交換価値を表しているとは認められない。
 したがって、本件各不動産の評価に当たり、財産評価基本通達の定めにより難い特別な事情は認められず、同通達の定めにより評価した価額をもって本件各不動産の時価と認めることが相当である。

《参照条文等》
 相続税法第22条

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請求人が主張する本件土地の売却価額及び鑑定評価額をもって、本件土地の価額について、財産評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるとは認められないとした事例

平成24年8月16日裁決

《要旨》
 請求人は、相続財産である本件土地の価額について、まる1遺言(本件遺言)により換価による分割方法の指定及び遺言執行者の指定がされており、請求人が売却に参加できないという事情があり、また、本件土地の最有効使用が区画分譲地であって、購入者が不動産業者に限定されるという実情があり、当該換価による価額(本件換価価額)は、当該実情に合ったところで決定されたものであるから、相続税法第22条《時価》に規定する時価であること及びまる2本件換価価額が時価であることは、請求人の依頼に基づく不動産鑑定評価額(請求人鑑定額)からも明らかであることから、本件土地の価額は本件換価価額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、まる1相続税法第22条に規定する時価とは、「取得の時」における「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」を示すものであるから、「特定の者の間で限定的に行われた取引」における価額は、時価としての前提を欠くものであり、また、本件相続開始日の後にされた本件遺言に基づく換価による分割などが本件土地の価額を減ずる要因となるものでもない。そして、まる2請求人鑑定額は、その算定過程に不合理な点が認められ、本件換価価額が時価であることを明らかにしたものであるとは認められない。さらに、まる3異議審理庁が財産評価基本通達に基づいて算出した価額は、当審判所が近隣の地価公示地の公示価格に基づいて算出した本件土地の時価を超えるものではない。したがって、本件土地の価額について、財産評価基本通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないから、本件相続税の課税価格に算入されるべき本件土地の価額は、同通達の定めによる価額を基礎とすべきである。

《参照条文等》
 相続税法第22条

《参考判決・裁決》
 東京高裁平成17年2月23日判決(税資255号順号9941)
 東京高裁平成12年9月12日判決(税資248号711頁)

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財産評価基本通達に定められた評価方法により算定される価額が時価を上回る場合、同通達の定めにより難い特別な事情があると認められることから、他の合理的な評価方法により評価することが許されるとした事例

平成25年5月28日裁決

《要旨》
 原処分庁は、請求人らが相続により取得した土地(本件土地)の相続開始時(本件相続開始時)における価額は、財産評価基本通達(評価通達)による評価額(原処分庁通達評価額)によるべきである旨主張し、請求人らは、本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情があることから、請求人らが依頼した不動産鑑定士による鑑定評価額(請求人鑑定評価額)によるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件の場合、請求人鑑定評価額は、開発法につき都市計画法第33条《開発許可基準》に関する審査基準(本件審査基準)を満たしていないなどの理由により、本件土地の本件相続開始時における時価とは認められないが、他方、本件土地の開発に際しては、袋路状道路の敷設は認められないなど特殊な制約が本件相続開始時にあったことから、当審判所において不動産鑑定士に鑑定評価を依頼し、その評価額(審判所鑑定評価額)を検討したところ、開発法につき本件審査基準を満たしているなどの理由により、本件相続開始時における時価として妥当なものと認められた。そして、評価通達に定められた評価方法により算定された価額が時価を上回る場合には、評価通達の定めにより難い特別な事情がある場合に該当するといえ、その場合には、他の合理的な評価方法により評価することが許されると解されるところ、原処分庁通達評価額は審判所鑑定評価額を上回るものであることからすると、本件土地の価額を評価するに当たっては、評価通達の定めにより難い特別な事情があると認められる。したがって、本件土地の本件相続開始時における価額は、審判所鑑定評価額とするのが相当である。

《参照条文等》
 相続税法第22条

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請求人らの主張する鑑定評価額は、相続開始日現在の時価を表しているとは認められないことから、財産評価基本通達に定める評価方法により評価することが相当であるとした事例

平成25年7月5日裁決

《要旨》
 請求人らは、請求人らの一人が相続により取得した土地(本件土地)について、請求人らの依頼による鑑定評価額(本件鑑定評価額)は、本件相続開始日における本件土地の時価であり、財産評価基本通達(評価通達)による評価額は本件鑑定評価額を上回っているから、評価通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情があるので、本件土地の価額は、本件鑑定評価額に基づき評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定評価額は、開発法による価格を重視し、比準価格を比較考量して決定されているところ、まる1比準価格及び規準価格の試算において考慮されている減価40%(当該宅地の画地規模が大きいことに伴い市場参加者が限定されることによる減価)の必要性が認められないこと、まる2開発法による価格は上記まる1の減価40%を除いて試算した比準価格及び規準価格と大きく乖離することから、いずれの試算価格も合理性が認められないので、本件鑑定評価額は、本件相続開始日における本件土地の客観的交換価値を表しているとは認められない。したがって、本件土地の価額について、評価通達の定めによらないことが正当と認められる特別の事情はないといえるので、本件土地の価額は、評価通達に定められた評価方法により評価すべきである。

《参照条文等》
 相続税法第22条

請求人らが、相続により取得した建物の価額は、固定資産評価基準を基に財産評価基本通達に従って評価すべきであり、請求人の主張する不動産鑑定評価額には合理性が認められないとした事例(平成27年12月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・一部取消し・平成31年2月20日裁決)

平成31年2月20日裁決

《ポイント》
 本事例は、請求人が相続により取得した建物は、機能的、経済的観点から市場性が全く認められないため解体除去を要し、このことを前提として算定された不動産鑑定評価額が時価であるとの主張に対し、当該不動産鑑定評価額には合理性が認められないとした上で、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情等は認められないから、同基準に従って決定した固定資産税評価額に依拠した相続税評価額は適正な時価であると判断したものである。

《要旨》
 請求人らは、相続により取得した家屋(本件家屋)及びその敷地(本件土地)について、本件家屋は、大改修を行っても収益性回復は困難で、機能的、経済的観点から市場性が全く認められないため、解体除去が必要であるとして本件家屋及び本件土地(併せて本件不動産)の最有効使用を判定した不動産鑑定士による鑑定評価書(本件鑑定評価書)には合理性があり、本件鑑定評価書に基づく価額が時価である旨、また、本件家屋の固定資産税評価額は一般常識からかけ離れた評価がされている旨主張する。
 しかしながら、本件家屋は、相続の開始時において、その一部が貸店舗や被相続人等の居宅として利用されていたことからすると、本件家屋には相応の経済価値があったと認められる。一方、本件鑑定評価書における最有効使用の判定に当たっては、不動産鑑定評価基準に定める現実の本件家屋の用途等を継続する場合の経済価値と本件家屋を解体除去した場合の解体除去費用等を適切に勘案した経済価値との十分な比較考量がされているとは認め難いことなどから、本件鑑定評価書に合理性があるとは認めるに足りず、本件土地の更地価格から本件家屋の解体除去費用を控除した本件鑑定評価書による価額が、本件不動産の時価を適正に評価したものであるとは認め難い。したがって、本件鑑定評価書に基づく請求人らの主張立証によって、財産評価基本通達の定めに従って評価した本件不動産の価額が時価であるとの事実上の推認を覆すには至らない。また、本件家屋の固定資産税評価額については、その価額を求めるに当たり、固定資産評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定することができない特別の事情又は固定資産評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情は認められないから、固定資産評価基準に従って決定した固定資産税評価額が適正な時価であると推認される。ところで、当審判所の調査によると、本件家屋の固定資産税評価額は相続開始日前に遡及して一部減額されており、その減額前の固定資産税評価額に依拠した相続税評価額によりなされた原処分は、その一部を取り消すこととなる。

《参照条文等》
 相続税法第22条

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請求人の主張する各種事情によっても、相続により取得した土地の財産評価基本通達の定めに従った原処分庁の評価額は時価であるとの推認を覆されないから、不動産販売業者が試算した価格によって評価することはできないとした事例

令和元年5月29日裁決

《ポイント》
 本事例は、評価通達の定めに従って相続財産を評価したものと認められる場合には、当該評価額は事実上の時価と推認され、請求人において当該評価額が当該財産の客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして、上記推認を覆すことがない限り、当該評価額を時価と認めるのが相当であると判断したものである。

《要旨》
 請求人は、相続により取得した土地(本件土地)について、原処分庁が財産評価基本通達(評価通達)の定めに従って評価した価額(本件通達評価額)は、本件土地の客観的交換価値に影響を及ぼす各事情を看過しており、請求人が売買価格の見積りを依頼した不動産販売業者が試算した価格を上回ることから、時価を上回る違法がある旨主張する。
 しかしながら、評価通達の定めに従って相続財産を評価したものと認められる場合には、当該評価額は事実上の時価と推認され、請求人において当該評価額が当該財産の客観的交換価値を上回るものであることを主張立証するなどして、上記推認を覆すことがない限り、当該評価額を時価と認めるのが相当である。この点、本件通達評価額は、評価通達の定めに従っており、時価と推認されるところ、請求人の主張する各事情は、本件土地の客観的交換価値に影響を及ぼす事情とは認められず、不動産販売業者の試算価格も本件土地の客観的交換価値とは認められないことからすれば、本件通達評価額が時価であることの推認は覆えることはなく、本件通達評価額に時価を上回る違法はないが、原処分庁のした過少申告加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税の加重分の計算に誤りがあることから、その一部を取り消すべきである。

《参照条文等》
 相続税法第22条

《参考判決・裁決》
 最高裁平成22年7月16日第二小法廷判決(集民234号263頁)

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