財産の評価

貸家建付地

  1. 評価の原則
  2. 土地及び土地の上に存する権利
    1. 評価基準の適用
    2. 倍率方式による評価
    3. 路線価による評価
    4. 各影響要因に基づく加減
    5. 私道
    6. 土地区画整理事業施行区域内の土地
    7. 貸宅地
    8. 使用貸借に係る土地
    9. 賃借権
    10. 借地権
    11. 区分地上権
    12. 土地所有権移転請求権
    13. 貸家建付地(4件)
    14. 雑種地
    15. 農地
    16. 山林
    17. その他
  3. 家屋及び庭園設備
  4. 動産
  5. 取引相場のない株式
  6. 出資の評価
  7. 預貯金
  8. 貸付金債権等
  9. 預託金制のゴルフ会員権
  10. 施設建築物の一部の給付を受ける権利
  11. 構築物

被相続人が生前立退料を支払うなどして借家人を立ち退かせた上、その貸家用の家屋を取り壊し、その敷地に貸家用の家屋を建築中である場合において相続が開始したときのその敷地について、貸家建付地としてではなく、自用地として評価すべきであるとした事例

裁決事例集 No.40 - 235頁

 貸家建付地とは、相続開始時点において現に貸付けの用に供されている建物の敷地を指すものと認められる。貸家建付地は自用地に比べて低額に評価することとされているが、これは、借家人はその借りている建物の敷地に対して借地権等の権利を有しているわけではないが、借家した建物利用の範囲内でその敷地に対しても事実上の支配権を有していることから、敷地の所有者にとっては、その分その敷地の経済的な価値がこれらの権利の目的となっていない自用地に比べ低くなっていることを考慮したものと認められる。
 本件は、相続開始の時においては、本件宅地の上に建築中の新建物が存在したが、当該建物はまだ現実に貸付けの用に供されておらず、かつ、立退料の支払等により終了した新建物の建築前に賃貸されていた旧建物に係る賃貸借契約と新建物に係るそれとの間には継続性も認められないから、本件宅地には貸家建付地としてその評価額算定上考慮すべき借家人の事実上の支配権は存在せず、他に本件宅地の評価額算定上考慮すべき特段の事情も認められない。したがって、本件は、貸家建付地としてではなく、自用地として評価すべきものである。

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貸家を建替中の敷地について相続が開始した場合、旧建物の賃借人との賃貸借契約が解除された部分に相当する宅地については、貸家建付地に当たらないとした事例

裁決事例集 No.44 - 284頁

 相続開始の時に貸家を建替中であっても、旧建物の賃借人に立退料の支払がないなど引き続いて新建物に入居することが明らかな場合又は新築中の建物について権利金の授受が完了し賃貸契約が成立している場合には、新建物のうち当該賃借人に賃貸する部分に対応する部分の宅地は、当該賃借人の支配権が及んでいるといえる。しかし、本件宅地上の新建物はA社に賃貸する部分以外は貸付けの用に供されていないから、新建物が当初から賃貸の用に供する目的で建築されたものであっても、本件宅地のうち賃貸予定部分は貸家建付地とは認めない。

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建物の賃貸借予約契約は、将来の賃貸借契約を締結させる義務を確認するものであり、事実上の賃貸借契約の締結と認めることはできないので、本件土地を貸家建付地として評価することはできないとされた事例

裁決事例集 No.50 - 235頁

 請求人は、被相続人が建築中の本件建物について相続開始日前に賃貸借予約契約を締結し、相続開始日後に賃貸借契約を締結したが、その内容は予約契約とほとんど同じであり、予約金が敷金の一部に充当されているので、賃貸借予約契約は本件建物の竣工引渡日を賃料支払開始日とする賃貸借契約であるから、予約日に賃貸借契約が締結されたとみるべきであり、また、最終賃貸人は相続開始日までに独自で行う1階部分の造作工事の発注を行っており、本件建物に自由に立入ることが可能であったことから、少なくとも1階部分については引き渡されていたというべきであるから、本件建物の敷地は貸家建付地として評価すべきであると主張する。
 ところで、貸家建付地とは、借家権の目的となっている建物の敷地として利用されている現況にある宅地でなければならず、原則として、[1]完成した建物が存在していること、[2]賃借人が建物の引渡しを受けて現実に入居していることあるいは契約上の賃貸借開始期日が到来していること及び[3]通常の賃料に相当する金銭の授受があることあるいはその権利義務が発生していること等の要件をすべて具備する建物の敷地をいうものと解することができる。
 しかし、賃貸借予約契約は将来の賃貸借契約を締結させる義務を確認するものであり、事実上の賃貸借契約の締結と解することはできず、仮に、賃貸借予約契約の締結をもって賃貸借契約の締結がされたと判断しても、相続開始日現在、本件建物は完成しておらず、賃料の支払いもされていないので、上記の要件のすべてを具備していないことになる。
 また、最終賃借人の造作工事の工事期間は平成3年9月1日から同年10月15日までと認められるから、相続開始日(平成3年8月10日)以前に本件建物の引渡しを受けて工事を着工していたと認めることはできず、仮に、工事会社が本件建物に立ち入っていたとしても、請求人は平成3年10月16日に本件建物の引渡しを受けたものであるから、最終賃借人が請求人から便宜の供与を受けたものとしか解せず、賃貸借に基づく占有が開始した結果とは認められない。
 したがって、本件宅地を貸家建付地として評価することはできない。

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相続財産である貸家の空室部分は、一時的に賃貸されていなかったものではないため、評価額の減額は認められないとした事例(平成21年8月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・棄却・平成26年4月18日裁決)

平成26年4月18日裁決

《要旨》
 請求人らは、相続財産である貸家(本件各貸家)について、賃貸の意図をもって経常的に維持・管理を行い、賃借人の募集業務を継続して行っていることなどを理由に、相続開始日において現に賃貸されていない各独立部分(本件各独立部分)は、財産評価基本通達26《貸家建付地の評価》の(注)2に定める「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に該当するから、同通達に定める賃貸割合を100%として、本件各貸家及びその敷地を評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価とは、相続により財産を取得した日における客観的な交換価値をいうことからすれば、各独立部分を有する家屋の全部又は一部が貸し付けられているかどうかについては、課税時期の現況に基づいて判断するのが原則である。その上で、同通達26の(注)2が、例外として、賃貸割合の算出に当たり、賃貸されている各独立部分には、継続的に賃貸されていた各独立部分で、課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるものを含むこととして差し支えない旨定めているのである。本件各独立部分については、相続開始日の前後の空室期間は、最も長いもので8年間、最短のもので4か月を超える期間に及んでいることから、「課税時期において、一時的に賃貸されていなかったと認められるもの」に該当しない。したがって、同通達に定める賃貸割合を100%として、本件各独立部分及びその敷地を評価することはできない。

《参照条文等》
 相続税法第22条
 財産評価基本通達26、93

《参考判決・裁決》
 東京地裁平成6年7月22日判決(税資205号209頁)
 横浜地裁平成7年7月19日判決(税資213号134頁)

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