(平成31年3月25日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、日本に恒久的施設を有しない非居住者である審査請求人(以下「請求人」という。)が日本の金融商品取引業者との間で行った店頭外国為替証拠金取引により生じた所得について、J税務署長が国内にある資産の運用により生ずる所得に該当するなどとして所得税等の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該店頭外国為替証拠金取引により生じた所得は国内にある資産の運用により生ずる所得に該当しないとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 行政手続法
     行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
  • ロ 所得税法
    • (イ) 所得税法(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第161条《国内源泉所得》柱書は、国内源泉所得とは、同条各号に掲げるものをいう旨規定し、同条第1号は、国内において行う事業から生じ、又は国内にある資産の運用、保有若しくは譲渡により生ずる所得(同条第1号の2から第12号までに該当するものを除く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの(以下、同条第1号の規定を「本件規定」という。)を、同条第6号は、国内において業務を行う者に対する貸付金(これに準ずるものを含む。)で当該業務に係るものの利子をそれぞれ規定している。
    • (ロ) 所得税法第164条《非居住者に対する課税の方法》第1項柱書及び同項第4号は、同項第1号ないし第3号に掲げる非居住者以外の非居住者(以下「国内に恒久的施設を有しない非居住者」という。)に対して課する所得税の額は、次に掲げる国内源泉所得について、同法第3編第2章第2節第1款《非居住者に対する所得税の総合課税》の規定を適用して計算したところによる旨規定している。
      • A 所得税法第161条第1号(本件規定)及び同条第1号の3に掲げる国内源泉所得のうち、国内にある資産の運用若しくは保有又は国内にある不動産の譲渡により生ずるものその他政令で定めるもの
      • B 所得税法第161条第2号及び第3号に掲げる国内源泉所得
    • (ハ) 所得税法第165条《総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算》は、国内に恒久的施設を有しない非居住者の同法第164条第1項第1号に掲げる国内源泉所得について課する所得税の課税標準及び所得税の額は、同号に掲げる国内源泉所得について、政令で定めるところにより、同法第2編第1章から第4章まで(居住者に係る所得税の課税標準、税額等の計算)の規定に準じて計算した金額とする旨規定している。
    • (二) 所得税法施行令(平成27年政令第141号による改正前のもの。以下同じ。)第280条《国内にある資産の所得》第1項柱書は、次に掲げる資産の運用又は保有により生ずる所得は、本件規定に規定する国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得とする旨規定している。
      • A 公社債のうち日本国の国債若しくは地方債若しくは内国法人の発行する債券又は金融商品取引法第2条《定義》第1項第15号に掲げる約束手形(第1号)
      • B 居住者に対する貸付金に係る債権で当該居住者の行う業務に係るもの以外のもの(第2号) 
      • C 国内にある営業所、事務所その他これらに準ずるもの又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて締結した生命保険契約等に基づく保険金の支払又は剰余金の分配を受ける権利(第3号)
    • (ホ) 所得税法施行令第291条《恒久的施設を有しない非居住者の課税所得》第1項柱書及び同項第6号は、同項第1号ないし第5号に掲げるもののほか、国内に恒久的施設を有しない非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得は、所得税法第164条第1項第4号に規定する政令で定める国内源泉所得に該当する旨規定している。
  • ハ 租税特別措置法
     租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条の14(平成26年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)《先物取引に係る雑所得等の課税の特例》第1項は、居住者又は所得税法第164条第1項第1号ないし第3号に掲げる非居住者が、措置法第41条の14第1項各号に掲げる取引をし、かつ、当該各号に掲げる取引(以下「先物取引」という。)の区分に応じ当該各号に定める決済又は行使若しくは放棄若しくは譲渡(以下「差金等決済」という。)をした場合には、当該差金等決済に係る当該先物取引による事業所得、譲渡所得及び雑所得については、所得税法第22条《課税標準》及び第89条《税率》並びに第165条の規定にかかわらず、他の所得と区分し、その年中の当該先物取引による事業所得の金額、譲渡所得の金額及び雑所得の金額として政令で定めるところにより計算した金額に対し、当該金額の100分の15に相当する金額に相当する所得税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人について
    • (イ) 請求人は、平成25年6月18日、店頭外国為替証拠金取引を始めるため、日本国内に営業所を有するK社(以下「本件金融商品取引業者」という。)に店頭外国為替証拠金取引口座(以下「取引口座」という。)の開設を申し込んだ。
    • (ロ) 請求人は、勤務先から中華人民共和国への転任命令がされたことにより、平成25年8月25日、d市e町○−○から同国に住所を移し、同月26日以降、国内に恒久的施設を有しない非居住者となった。
  • ロ 店頭外国為替証拠金取引の概要について
    • (イ) 店頭外国為替証拠金取引とは、店頭デリバティブのうち、売買の当事者が将来の一定の期間において通貨及びその対価の授受を約する売買であって、当該売買の目的となっている通貨の売戻し又は買戻し等の行為をしたときに差金の授受によって決済することができる取引をいう(金融商品取引法第2条第22項第1号参照)。
    • (ロ) 本件金融商品取引業者の顧客は、店頭外国為替証拠金取引をインターネットによる取引方法である○○取引(以下「本件FX取引」という。)で行うことができる。
    • (ハ) 顧客は、本件FX取引を行う場合、あらかじめ取引口座を開設する必要があり、また、取引の注文をするために、必要証拠金(新規取引を開始するために必要な証拠金で取引額の4%の額)以上の額を取引証拠金(先物やオプション取引等の契約義務の履行を確保するために差し入れる保証金)として取引口座に差し入れる必要がある。
    • (二) 本件FX取引の決済方法は、顧客の指定するところに従い、最終決済によって行われ、差金決済又は受渡決済のいずれかによる。差金決済とは、取引通貨の受渡しをせず、通貨の売戻し又は買戻しによる差(新規注文による約定価格と反対売買による約定価格の差)に基づいて算出された損失又は利益に応じて差金を授受することによる決済方法をいい、受渡決済とは、取引通貨の受渡しにより決済する方法をいう。
       また、差金決済の場合、売買損益が顧客の取引口座に記帳される。
    • (ホ) 新規注文により約定した取引のうち、最終決済の取引が成立していないものを建玉という。建玉の最終決済は、顧客の指定した決済注文(最終決済するために行う取引)に従うものとされ、その決済日は、取引日の原則2営業日後である。
    • (へ) 顧客から最終決済の指定のない取引については、本件金融商品取引業者の裁量により、顧客の計算において決済日をその翌営業日に更新するための手続(以下「ロールオーバー」という。)が行われる。
    • (ト) ロールオーバーが行われた場合、決済日が更新されたことによる組合せ通貨間の金利差を調整するため、その差に基づいて算出される額であるスワップポイントの受払いが行われる。スワップポイントの受払いは、新規約定時の決済日及びロールオーバーによる更新後の決済日の都度、顧客の取引口座への入出金記帳により清算される。
  • ハ 請求人の行った本件FX取引の経緯について
    • (イ) 請求人は、平成25年6月21日、請求人名義の取引口座(以下「本件口座」という。)に30,000,000円を入金し、同年7月1日以降、本件口座を利用して本件FX取引を始めた。
    • (ロ) 請求人が居住者であった平成25年8月25日までの本件FX取引による損益は、建玉の差金決済により本件口座に入出金記帳された額(以下「売買損益」という。)が21,612,480円の損失であり、スワップポイントとして本件口座に入出金記帳された額(以下「スワップ損益」という。)が419,269円の利益であった。
    • (ハ) 請求人が国内に恒久的施設を有しない非居住者となった平成25年8月26日以降、本件口座に入出金記帳された本件FX取引による各年分の売買損益及びスワップ損益は、次表のとおり、全て利益が生じていた(以下、売買損益に係る利益を「差金決済に係る所得」、スワップ損益に係る利益を「スワップポイントに係る所得」といい、これらを併せて「本件所得」という。)。
       また、平成25年分の売買損益のうち11,200,000円は、平成25年8月23日に差金決済の約定が成立し、同月27日に本件口座に入出金記帳されたものであった
平成25年分 平成26年分 平成27年分
売買損益 ●●●円 ●●●円 ●●●円
スワップ損益 ●●●円 ●●●円 ●●●円
合計 ●●●円 ●●●円 ●●●円

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、別表の「確定申告」欄のとおり、平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の各確定申告書を、いずれも法定申告期限内に提出したが、平成27年分の所得税等の確定申告書については提出しなかった。
     なお、請求人は、上記(3)のハの(ロ)の本件FX取引による売買損益の損失の金額について、平成25年分の所得税等の確定申告書において、他の先物取引に係る雑所得と通算していた。
  • ロ J税務署長は、平成29年8月8日付で、原処分に係る調査の結果に基づき、平成25年分、平成26年分及び平成27年分の所得税等について、別表の「更正処分等」欄のとおり、平成25年分及び平成26年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各過少申告加算税賦課決定処分」という。)、平成27年分の所得税等の決定処分(以下「本件決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件無申告加算税賦課決定処分」といい、本件各過少申告加算税賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 本件各更正処分等に係る各通知書の処分の理由欄には、要旨、次のとおり記載されていた。
    • (イ) 請求人は、非居住者となった期間中に本件口座において本件FX取引の差金決済を行い収入を得ていた。
    • (ロ) 上記(イ)の収入は、請求人が国内の取引業者である本件金融商品取引業者に預託した証拠金を担保に通貨の売買を行うことで得た収入であるところ、請求人が国内の取引業者に預託した証拠金は国内にある資産と考えられることから、本件規定に規定する「国内にある資産の運用」により生じた収入となる。したがって、当該収入は、国内源泉所得となるため、この金額を雑所得の総収入金額に算入した。
    • (ハ) 本件FX取引における必要経費はない。
    • (二) 本件所得は雑所得の金額となるが、国内に恒久的施設を有しない非居住者には、措置法第41条の14の規定の適用はない。
  • ニ 請求人は、平成29年10月13日、本件各更正処分等及び本件各賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
  • ホ なお、請求人は、平成30年12月15日に住所を中華人民共和国内から肩書地へ移したので、これに伴い、原処分庁はJ税務署長からH税務署長となった。

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2 争点

(1) 本件規定にいう「資産の運用、保有」に該当する事実に係る原処分庁の理由の差替えが許されるか否か(争点1)。

(2) 本件所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当するか否か(争点2)。

(3) 本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引には、措置法第41条の14第1項が適用されるか否か(争点3)。

(4) 本件所得のうちに、仮に本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」に該当する金額があるとした場合、所得税法施行令第291条第1項第6号に規定する「非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得」に該当するものはあるか否か(争点4)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件規定にいう「資産の運用、保有」に該当する事実に係る原処分庁の理由の差替えが許されるか否か。)について

原処分庁 請求人
  • イ 処分の理由とされた基本的課税要件事実の同一性が失われない範囲で理由の差替えは認められるものと解されている。
  • イ 基本的課税要件事実の同一性が失われない限度で理由の差替えが許される旨の議論は、訴訟の場における議論にすぎず、争点主義に基づき運営される審査請求手続においてそのまま妥当するものではない(東京高裁平成22年12月15日判決)。
     本件において、本件各更正処分等に係る付記理由と審査請求における原処分庁の主張との間には変遷があるところ、このような原処分庁の主張の変遷は、本件所得が本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当するか否かという唯一の争点に関する必要欠くべからざる前提事項について理由を差し替えるものであり、それによって請求人による攻撃防御の方法は全く異なるものとなるから、原処分庁によるかかる理由の差替えは、請求人に新たな主張立証の負担を課し、格別の不利益を与えるものとして許されない。
  • ロ 原処分庁は、本件各更正処分等を行った時から一貫して、本件所得が本件規定に規定する国内源泉所得に該当する旨主張しているところ、本件FX取引の契約上の権利が本件規定にいう「国内にある資産」である旨の主張を原処分庁が行ったとしても、基本的課税要件事実の同一性を失うものではないから、当該主張を行うことによって行政手続法第14条第1項の規定の趣旨が没却されることはなく、また、請求人に格別の不利益を与えることにもならない。
  • ロ 仮に基本的課税要件事実の同一性が失われない限度で理由の差替えが許されるとしても、上記イの原処分庁の主張の変遷により基本的課税要件事実の同一性は失われているといわざるを得ない。

(3) 争点2(本件所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当するか否か。)について

原処分庁 請求人
  次のとおり、本件所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。   次のとおり、本件所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当しない。
イ 「資産」該当性について イ 「資産」該当性について
  • (イ) 本件FX取引においては、請求人が本件FX取引の差金決済を行うことによって生じた差益を得ることができる契約上の権利を有している以上、差金決済により利益のみならず損失も生じ得るとしても、当該権利が「資産」に該当する。
  • (イ) 本件規定にいう「資産」は、元本部分のない、価値がマイナスになるようなものを想定しておらず、所得税法施行令第280条第1項並びに所得税基本通達(平成28年3月17日付課個2−4ほかによる改正前のもの。以下同じ。)161−5《資産の運用、保有又は譲渡により生ずる所得の範囲》及び同通達161−6《公社債等の運用、保有により生ずる所得に該当するもの》に個別に定められている元本たる資産も、このような理解に沿うものである。
     本件FX取引のような先物取引の契約上の地位は、その取得時に差金決済により利益が生じるか損失が生じるかが不確定である以上、本件規定にいう「資産」に該当しない。
  • (ロ) 本件FX取引のような外国為替証拠金取引は、平成21年法律第13号による改正前の措置法第41条の14第1項に規定する先物取引に該当する。そして、同項は、差金決済に係る先物取引について、実際に原資産の取得や売却が行われず、取引を行う者も差金の授受を目的としているという特殊性に鑑み、原資産の受渡しが行われることとなる先物取引とは異なる取引と捉えている。
     差金決済に係る先物取引により生ずる所得が原資産の売買による所得であるとした場合、上記措置法第41条の14第1項において当該所得の所得区分として譲渡所得が規定されていないこととの間で齟齬が生じる。
  • (ロ) 外国為替証拠金取引の契約上の地位(建玉)は、反対売買を行うことにより差金決済されるものであり、仮にこの地位自体が「資産」に該当するならば、上記の反対売買及び差金決済は、土地の相互売買と同じような行為であるといえるため、契約上の地位を「移転させるいっさいの行為」、すなわち「譲渡」(最高裁昭和50年5月27日第三小法廷判決・民集29巻5号641頁参照)に該当し、また、仮に権利の移転ではなく消滅であると解するとしても「譲渡」(東京高裁平成26年6月12日判決・訟月61巻2号394頁参照)に該当する。
     それにもかかわらず、平成21年法律第13号による改正前の措置法第41条の14第1項が、外国為替証拠金取引から生ずる所得を「資産」の譲渡による所得(所得税法第33条《譲渡所得》第1項)としていないのは、外国為替証拠金取引の契約上の地位それ自体が所得税法上の「資産」に該当しないからである。
  • (ハ) 外国為替証拠金取引の差金決済から生ずる所得が通貨の売買による所得であるとした場合、当該所得に係る総収入金額は原資産の売付けの総額となるはずであるが、裁判例(東京高裁平成25年4月18日判決・訟月60巻4号910頁及び東京高裁平成26年7月2日判決・税資264号順号12498)においては、差金決済における差益(純額)が当該所得に係る総収入金額とされている。
  • (ハ) 原処分庁が取り上げる東京高裁平成25年4月18日判決及び東京高裁平成26年7月2日判決は、いずれも本件FX取引に係る契約上の地位それ自体が本件規定の「資産」に該当するか否かという本件の争点とは何ら関係しない裁判例である。
  • (二) 内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第5条《国外財産調書の提出》及び同法第6条の2《財産債務調書の提出》に規定する財産債務調書においては、外国為替証拠金取引を含むデリバティブ取引の建玉を財産又は負債と認識せず、「未決済デリバティブ取引に係る権利」(正味の債権)を財産と位置付けている(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則別表第1及び第3)。
  • (二) 平成27年法律第9号による改正後の所得税法第60条の2《国外転出をする場合の譲渡所得等の特例》第3項において、デリバティブ取引について「譲渡」ではなく「決済」という文言を用いたのは、同条もデリバティブ取引に係る契約上の地位それ自体は「資産」に該当しないことを当然の前提としているためであると解される。
     内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律上の「財産」と本件規定にいう「資産」とは全く別の概念であり、前者は含み損を有するものを含むのに対し、後者は価値がマイナスになるようなものを含まない。
     所得税法の他の規定も、未決済デリバティブ取引に係る契約上の地位が資産には該当しないことを前提としている(同法第2条《定義》第1項第16号ないし第20号、所得税法施行規則第61条《貸借対照表及び損益計算書》参照)。
  • (ホ) 未決済デリバティブ取引に係る契約上の地位は、企業会計上、貸借対照表上に資産計上されないオフバランス扱いである。
  • ロ 「運用、保有により生ずる所得」該当性について
  • ロ 「運用、保有により生ずる所得」該当性について
  • (イ) 差金決済に係る所得について
  • (イ) 差金決済に係る所得について
  • A 租税法中の用語については、第一次的には当該用語の通常の意味内容を検討すべきであり、本件規定にいう「運用」とは、「金銭の利殖などの目的のために他の財産形態に変えること」という通常の意味内容で用いられていると解される。請求人が本件FX取引に係る差益を得ることができる権利を行使して差金決済を行うことは本件規定にいう「運用」に該当し、本件所得のうち差金決済に係るものは「運用により生ずる所得」に該当する。そして、金融商品取引法が「デリバティブ取引に係る権利に対する投資」を「金銭その他の財産の運用」と捉えている(同法第2条第8項第12号、第14号及び第15号)ことからも、このように解される。
     国内資産を元本として、その国内資産自体の運用保有により、時間の経過に従ってだんだん発生してくる果実としての所得に該当しないことのみをもって、「運用、保有により生ずる所得」に該当しないということにはならない。
  • B 本件所得は、本件FX取引が一定の要件を満たした場合に所得を得る契約であるという点で、所得税法施行令第280条第1項第3号が国内源泉所得たる「資産の運用、保有により生ずる所得」として例示する、国内にある営業所等を通じて締結した生命保険契約等、損害保険契約その他これらに類する契約に基づく保険金の支払又は剰余金の分配を受ける権利から生ずる所得に類似する。
  • C 所得税法上は、デリバティブ取引に係る差金決済は「原資産の売買」ではなく、所得(差益)を得ることができる契約上の権利の行使であるから、差金決済により生じた本件所得は「譲渡により生ずる所得」に該当しない。
  • A 租税法令はその立法趣旨に忠実に解釈されなければならないところ、本件規定にいう「運用、保有により生ずる所得」とは、昭和37年度税制改正に係る当時の立案担当者による解説によれば、国内資産を元本として、その国内資産自体の運用保有により、時間の経過に従ってだんだん発生してくる果実としての所得をいうとされ、所得税法施行令第280条第1項並びに所得税基本通達161−5及び同通達161−6に個別に定められている「資産の運用、保有により生ずる所得」もこのような理解に沿うものである。
     本件FX取引のような店頭外国為替証拠金取引の差金決済とは、請求人が取得した本件FX取引の契約上の地位それ自体を移転又は処分することをいうのであり、請求人が取得した本件FX取引の契約上の地位の「権利を行使して」(すなわち受渡決済をして)行われるものではない。そして、その差金決済に係る所得は、同取引の契約上の地位(建玉)を保有していた期間における増加益が、同地位(建玉)を手放す(反対売買により手仕舞いする)ことにより初めて実現する同地位(建玉)の譲渡益又は処分益であって、同地位(建玉)の権利の行使又は保有により生ずる運用果実であるとはいえないから、「運用、保有により生ずる所得」に該当しない。
  • B 生命保険契約等や損害保険契約に基づく権利は、マイナスの価値となることはあり得ず、また上記Aの解説も保険金は利子に準ずる性格を持ったものである旨述べているから、本件所得が生命保険契約等や損害保険契約に基づく権利に係る所得に類似するものであるとは到底認められない。
  • C 仮に、本件FX取引の契約上の地位が「資産」に該当するのであれば、本件所得のうち差金決済に係る所得は、上記イの(ロ)のとおり、資産の「譲渡」による所得に該当する。
  • (ロ) スワップポイントに係る所得について
     スワップポイントとは、「ロールオーバーにより決済期日が繰り越された場合に、組合せ通貨間の金利差を調整するために、その差に基づいて算出される額」をいい、また、ロールオーバーとは、「店頭外国為替証拠金取引において、同一営業日中に反対売買されなかった建玉の決済日を繰り延べること」をいうとされていることからすると、スワップポイントに係る所得は、本件FX取引に係る権利の「保有により生ずる所得」に該当する。
  • (ロ) スワップポイントに係る所得について
  • A 措置法第41条の14第1項第2号が、最終決済によるものとスワップポイントによるものを区別せずに課税上の取扱いを規定しているのは、両者がおよそ店頭外国為替証拠金取引から生じた所得という同一の経済的実質を持つものであり、課税上の取扱いも同一のものとすべきであるということにあるから、スワップポイントに係る所得も差金決済に係る所得と同様に「運用、保有により生ずる所得」に該当しない。
  • B スワップポイントについては、差金決済することでスワップポイントの収益を確定させることにより所得が生じるといえるため、仮に本件FX取引の契約上の地位が「資産」に該当するのであれば、スワップポイントに係る所得は「資産」の「譲渡」による所得に該当する。
  • C 仮に上記A及びBのとおりといえないとしても、スワップポイントは、本件FX取引に係る契約上、請求人が本件金融商品取引業者に「買い付けた通貨を預け入れる」、つまり、同通貨をロールオーバーの期間貸し付けることの果実、すなわち金利として授受されるものであるから、実質的には、その性質、内容等が消費貸借に基づく貸付債権とおおむね同様又は類似の債権といえ、請求人による本件金融商品取引業者への「貸付金」に「準ずるもの」の「利子」(所得税法第161条第6号)に該当するものである。したがって、スワップポイントに係る所得は、請求人においては、「資産の運用、保有により生ずる所得」を含め総合課税の対象となる国内源泉所得に該当するものではない。
  • ハ その他
     措置法第42条《外国金融機関等の店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の課税の特例》第1項及び同改正に係る改正要望において証拠金に係る利子のみが言及されているのは、外国金融機関等の店頭デリバティブ取引から生ずる所得は「資産の運用、保有により生ずる所得」(平成26年法律第10号による改正前の法人税法第138条《国内源泉所得》第2号)に該当しないことが当然の前提とされているためであり、実務上もこれと異なる解釈執行は行われていない。このことからも、本件所得は本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当しない。

(3) 争点3(本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引には、措置法第41条の14第1項が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
  所得税法第36条《収入金額》第1項は、いわゆる権利確定主義を採用しているものと解され、収入となるべき権利が発生した後、これを法律上行使することができるようになり、権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態になったときは、権利が確定したといい得るものと解される。
 本件FX取引についてみると、約定日において差金決済による実現予定損益が発生するものの、決済日を迎えるまでは当該損益はいまだ現金化されず、決済日において取引口座に記帳されることにより初めて現金化され、当該現金化部分も含む各通貨の現金部分について口座間振替又は出金ができるようになる。このような本件FX取引の態様に照らせば、差金決済による差損益金及びスワップポイントに係る収入の原因となる権利は、決済日の時点において、収入となるべき権利が発生した後、これを法律上行使することができるようになり、権利実現の可能性を客観的に認識することができる状態になったということができ、当該時点で確定したものということができる。そうすると、本件FX取引における売買益金及びスワップ損益の収入すべき時期は、決済日と認められる。
 そして、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引については、請求人が非居住者である期間中に決済日が到来しているから、措置法第41条の14第1項の「居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、同項各号に掲げる取引をし、かつ、先物取引の区分に応じ当該各号に定める差金等決済をした」という要件を満たさない。
  所得税法第36条第1項の解釈として、いわゆる権利確定主義によるべきだとすれば、約定日において決済益相当額の請求権が法的に発生し確定するため、約定日が権利確定時期であり収入すべき時期であるというべきである。東京地裁平成22年6月24日判決では、「収入の原因となる権利が確定した時期(収入計上時期)は、売買差損益金については、建玉を反対売買により清算して決済したとき」と判示されているが、同事件において被告国が収益計上時期について「決済の売買注文が成立したとき」と主張していたことに照らせば、同判示も「決済の売買注文が成立したとき」という意味に解される。
 したがって、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引については、請求人が居住者であった同日が収入すべき時期であり、同取引に係る所得の金額は、本件FX取引の決済により生じた所得であるから、措置法第41条の14第1項の要件を満たす。
 これに対し、原処分庁の主張は、現実の収入がなくても権利が確定したといい得るとしながら、決済日までは当該損益が現金化されていないために権利が確定していないと主張するもので論理的に矛盾している。

(4) 争点4(本件所得のうちに、仮に本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」に該当する金額があるとした場合、所得税法施行令第291条第1項第6号に規定する「非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得」に該当するものはあるか否か。)について

原処分庁 請求人
  請求人は平成25年8月26日以後において非居住者に該当し、同日以後、国内に滞在した期間中において本件FX取引を行っていたから、本件所得のうち当該期間中に生じた所得は、所得税法施行令第291条第1項第6号の「非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得」に該当する。   所得税法施行令第291条第1項第6号は、国内に恒久的施設を有しない非居住者の譲渡所得は課税しないとする原則に対する例外として、いわゆる事業譲渡類似の内国法人の株式の譲渡所得等と同程度に我が国への地理的帰属ないしは結びつきの度合いが強固であることを理由として課税の対象とする趣旨の規定と解されることからすると、上記所得に該当するためには、法的にみて複数の譲渡行為が経済的実質的にみて同一原因に基づく一連の行為と評価できる場合には、その一連の行為が開始した時から完了するまでの間、継続して国内に滞在している必要があると解すべきである(国税不服審判所平成11年6月21日裁決(東裁(所)平10第185号)、平成10年2月12日裁決(東裁(所)平9第105号)及び平成10年2月12日裁決(東裁(所)平9第106号)参照)。
 本件所得を生じさせる行為は、請求人と本件金融商品取引業者との間で締結した本件FX取引に係る店頭外国為替証拠金取引約款という同一の契約上の原因に基づく行為であるから、経済的実質的にみて一連の行為であると評価できる。しかしながら、請求人は、かかる一連の行為が開始した時から完了するまでの間、継続して国内に滞在していたわけではない。
 したがって、本件所得のうちには所得税法施行令第291条第1項第6号の「非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得」に該当するものはない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件規定にいう「資産の運用、保有」に該当する事実に係る原処分庁の理由の差替えが許されるか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 課税処分の取消請求における審判の対象は、専ら原処分庁の行った課税処分の客観的な適否であり、当該課税処分において認定された課税標準の額及び税額がその総額において租税実体法規に定められたところを上回っていなければ、その処分は適法とされる。このことに加えて、行政手続法第14条第1項が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであると解される(最高裁平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)ことからすれば、処分理由の差替えは、これを認めたのでは、同条が規定する理由の提示制度を全く無意義ならしめるような場合、又はこれを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事情がある場合以外は認められると解するのが相当である。
    • (ロ) 本件においては、本件各更正処分等に係る各通知書において記載されていた理由(上記1の(4)のハ)及び本審査請求における原処分庁の主張(上記3の(2)の「原処分庁」欄)は、いずれも請求人が店頭外国為替証拠金取引(本件FX取引)を行ったことにより生じた所得(本件所得)が本件規定にいう国内源泉所得に該当するとすることは共通しており、両者は前提となる事実関係を異にするものではなく、単に上記の結論に至るまでの考え方を異にするものにすぎないことからすれば、当該主張を認めると、行政手続法第14条が規定する理由の提示制度を全く無意義ならしめ、又はこれを認めることが納税者の正当な利益を害するような特段の事情があるとはいえない。  したがって、原処分庁の主張が、理由の差替えに当たるとしても、それが許されないものとはいえない。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、本審査請求における原処分庁の主張は、請求人に新たな主張立証の負担を課し、格別の不利益を与えるものとして許されない旨主張する。
     しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、本審査請求における原処分庁の主張は、本件各更正処分等に係る各通知書において記載されていた理由と事実関係を異にするものではないことに鑑みれば、当該主張によって請求人に新たな立証の負担を課し、格別の不利益を与えるものであるということはできない。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当するか否か。)について

  • イ 本件FX取引における「資産」について
    • (イ) 法令解釈
       本件規定にいう「資産」の用語の意義について、所得税法は特段の定義規定を置いていないが、資産とは、一般に経済的価値を有する財産権を全て含む概念で、動産・不動産はもとより、借地権、無体財産権、許認可によって得た権利や地位などが広く含まれると解されている。そうすると、本件規定にいう「資産」は、「運用、保有若しくは譲渡により生ずる所得」の基因となる資産であるから、その運用、保有又は譲渡により所得(利益又は損失)を生じさせ得る財産権をいうものと解され、経済的価値を有する契約上の権利や地位などを広く含む概念と解するのが相当である。
    • (ロ) 検討
       本件FX取引により生じた差金決済に係る所得は、上記1の(3)のロの(二)及び同ハのとおり、請求人が差金決済、すなわち、通貨の売戻し又は買戻しによる差に基づいて算出される損益に応じた金銭(差金)の授受を約する取引に基因し、請求人が差金決済をしたことにより生じたものである。そして、このような本件FX取引における未決済取引に係る契約上の地位は、差金決済を行うことにより、本件FX取引の対象とされる通貨間の為替の変動に応じた利益又は損失を生じさせ得るものであり、それ自体経済的価値を有する財産権であると解されるから(少なくとも利益を生じる形で決済する直前においてはプラスの経済的価値を有することは明らかである。)、本件規定にいう「資産」に該当する。
    • (ハ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、所得税法施行令の規定等を引用し、本件FX取引のような先物取引に係る契約上の地位は、その取得時に利益が生じるかあるいは損失が生じるかが不確定である以上、「資産」に該当しない旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のイの(イ))。
         しかしながら、請求人が引用する所得税法施行令の規定等は、本件規定にいう「資産」についての例示であって、本件FX取引のような先物取引に係る契約上の地位がこれらの例示と性質が異なるものであるということから直ちに本件規定にいう「資産」に該当しないということはできない。また、損失を生じさせ得るものであっても利益を生じさせ得るものであれば本件規定にいう「資産」に該当することは上記(ロ)のとおりであるから、請求人の上記主張には理由がない。
      • B 請求人は、平成21年法律第13号による改正前の措置法(以下「平成21年改正前措置法」という。)第41条の14第1項が外国為替証拠金取引による所得を譲渡所得(所得税法第33条第1項に規定する「資産の譲渡による所得」をいう。)としていないことに基づき、外国為替証拠金取引の契約上の地位それ自体が所得税法上の「資産」には該当しない旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のイの(ロ))。
         しかしながら、上記(ロ)のとおり、本件FX取引のような外国為替証拠金取引における未決済取引に係る契約上の地位は、本件規定にいう「資産」に該当すると解するのが相当であり、平成21年改正前措置法第41条の14第1項が外国為替証拠金取引による所得を譲渡所得としていない理由は、下記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、当該所得が資産の「譲渡による所得」(所得税法第33条第1項)に該当しないためであると解されるから、請求人の上記主張には理由がない。
      • C 請求人は、デリバティブ取引について「譲渡」ではなく「決済」という文言を用いた平成27年法律第9号による改正後の所得税法第60条の2第3項その他の所得税法の規定が、デリバティブ取引の契約上の地位について「資産」に該当しないことを前提としている旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のイの(二))。
         しかしながら、「決済」の用語は、一般に有価証券等の資産の譲渡等の取引を結了させることをいう場合にも広く用いられることからすると、所得税法第60条の2第3項がデリバティブ取引の契約上の地位について、「資産」に該当しないことを前提として「決済」という文言を用いたものと解することはできない。
         したがって、請求人の上記主張には理由がない。
      • D 請求人は、未決済デリバティブ取引に係る契約上の地位は、企業会計上、貸借対照表上に資産計上されないオフバランス扱いであるから、本件規定にいう「資産」に該当しない旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のイの(ホ))。
         しかしながら、企業会計上、デリバティブ取引により生じる正味の債権及び債務は、金融資産として資産計上され得る(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」第1項、第7項、第25項等)ことに加え、そもそも、企業会計上の取扱いを根拠に、所得税法上の概念についての法的性質を決定することが相当とはいえないことから、請求人の上記主張には理由がない。
  • ロ 本件所得が「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当するか否かについて
    • (イ) 法令解釈
       本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」とは、その経済的実質が時間の経過に従って生ずる利子といえるものを含むが、これに限らず、資産により生ずる所得のうち資産の譲渡により生ずる所得以外のもの、すなわち、資産の運用又は保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含むと解するのが相当である。
       他方、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」とは、これと所得税法第33条第1項に規定する「資産の譲渡による所得」とを別異に解する理由が見当たらないことからすると、保有資産を移転させる一切の行為から生ずる所得をいうものと解するのが相当である。
    • (ロ) 検討
       上記イのとおり、本件FX取引における契約上の地位は、本件FX取引の対象とされる通貨間の為替の変動に応じて利益又は損失を生じさせ得る契約上の地位であり、本件規定にいう「資産」に該当し、本件FX取引における差金決済に係る所得は、請求人がこのような契約上の地位に係る権利を行使することにより生じたものであって、当該契約上の地位又は権利を他に移転したことにより生じたものではない。
       したがって、差金決済に係る所得は、本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」には該当せず、「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。
       また、本件FX取引においては、スワップポイントの受払い、すなわち、ロールオーバーにより決済日が繰り越されたことによる組合せ通貨間の金利差を調整するため、その差に基づいて算出される額の受払いが行われていたところ、当該スワップポイントは、資産たる未決済取引に係る契約上の地位を他に移転することなく保有することにより授受されるものであるから、スワップポイントに係る所得は、本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当する。
       なお、本件FX取引における未決済取引に係る契約上の地位が、本件規定にいう「国内にある資産」に該当するかについては、所得税法施行令第280条第1項第3号が、本件規定にいう「国内にある資産の運用、保有により生ずる所得」として、国内にある営業所、事務所その他これらに準ずるもの又は国内において契約の締結の代理をする者を通じて締結した生命保険契約等に基づく保険金の支払等を受ける権利の運用、保有により生ずる所得を例示していることを踏まえると、本件所得が、上記1の(3)のイの(イ)及び同ハのとおり、国内の本件金融商品取引業者を通じて得られていることから、上記の地位は、「国内にある資産」と認められる。
    • (ハ) 請求人の主張について
      • A 請求人は、本件規定にいう「運用、保有により生ずる所得」とは、国内資産を元本として、その国内資産自体の運用保有により、時間の経過に従ってだんだん発生してくる果実としての所得をいうところ、本件所得は、契約上の地位(建玉)を手放して初めて生ずるものであるから「運用、保有により生ずる所得」に該当しない旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のA)。
         しかしながら、本件規定にいう「運用、保有により生ずる所得」とは、時間の経過に従って発生する果実を含むがこれに限らず、資産の運用又は保有に該当する行為がある場合に、当該行為によって生じた所得を広く含むと解されること及び本件所得がこれに該当することは上記(イ)及び(ロ)のとおりであり、請求人の上記主張には理由がない。
      • B 請求人は、仮に外国為替証拠金取引の契約上の地位が資産に該当するならば、当該契約上の地位は反対売買を行うことによって差金決済され、かかる反対売買及び差金決済は契約上の地位を移転させるものとして資産の譲渡に該当する旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のロの(イ)のC)。
         しかしながら、本件FX取引の差金決済による所得は、上記(ロ)のとおり、本件FX取引における契約上の地位に係る権利を請求人が行使したことにより生じたものであって、当該権利を他に移転したことにより生じたものではないから、請求人の上記主張には理由がない。
      • C 請求人は、東京高裁平成26年6月12日判決・訟月61巻2号394頁を引用し、仮に外国為替証拠金取引における反対売買及び差金決済が権利の移転ではなく消滅であるとしても「譲渡」に該当する旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のイの(ロ))。
         しかしながら、上記判決は、同判決の事案における株式の消却がその時価に相当する経済的な利益の移転に該当し、法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第7項に規定する「寄附金」に該当する旨を判断したものであって、当該株式の消却が資産の「譲渡」に該当する旨を判断したものではないから、請求人の上記主張には理由がない。
      • D 請求人は、本件FX取引の契約上の地位が「資産」に該当するのであれば、スワップポイントに係る所得は、差金決済に係る所得と同様に「資産」の「譲渡」による所得に該当する旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)のB)。
         しかしながら、差金決済に係る所得が「資産の譲渡により生ずる所得」に該当しないことは上記(ロ)のとおりであるから、差金決済に係る所得が「資産の譲渡により生ずる所得」に該当することを前提とする請求人の上記主張には理由がない。
      • E 請求人は、スワップポイントに係る所得は、「資産」の「譲渡」による所得に該当しないならば、実質的には請求人による本件金融商品取引業者への「貸付金」に「準ずるもの」の「利子」(所得税法第161条第6号)に該当する旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のロの(ロ)のC)。
         しかしながら、所得税法第161条第6号にいう「貸付金(これに準ずるものを含む。)」とは、その文言等に照らすと、消費貸借契約に基づく貸付債権を基本としつつ、その性質、内容等がこれとおおむね同様又は類似の債権をいうものと解するのが相当である。そして、本件FX取引の内容は、上記1の(3)のロの(へ)及び(ト)のとおり、目的物の返還約束をその本質的要素とする消費貸借とその法的性質が明らかに異なるから、本件FX取引に係る決済日を繰り越すロールオーバーによって生ずるスワップポイントに係る所得は、「貸付金(これに準ずるものを含む。)」の「利子」に該当しない。
         したがって、請求人の主張には理由がない。
      • F 請求人は、措置法第42条第1項において証拠金に係る利子のみを非課税としていることを理由に、本件所得は本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当しない旨主張する(上記3の(2)の「請求人」欄のハ)。
         しかしながら、そもそも本件所得について本件規定の適用があるか否かは、飽くまでも課税要件を定めた本件規定自体の解釈によるべきものであり、措置法第42条第1項の規定の内容をもって、本件所得が「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当しないと解釈すべきことにはならない。
         したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引には、措置法第41条の14第1項が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     措置法第41条の14第1項柱書及び同項第2号は、同項が適用されるための要件として、居住者等が、金融商品先物取引等(金融商品取引法第2条第22項第1号から同4号に掲げる取引で店頭デリバティブ取引に該当するもの。)をし、かつ、当該金融商品先物取引等の決済をしたことを規定している。そして、金融商品取引法第2条第22項第1号は、1売買の当事者が将来の一定の時期において金融商品及びその対価の授受を約する売買であって、2当該売買の目的となっている金融商品の売戻し又は買戻し(すなわち反対売買)をしたときは、3差金の授受によって決済することができる取引を掲げている。これらの各規定に照らせば、措置法第41条の14第1項第2号にいう決済とは、反対売買の約定をする行為(上記2)をいうものではなく、差金の授受によってなされる行為(上記3)をいうものと解するのが相当である。
  • ロ 検討
     本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引についてみると、当該取引について差金の授受によって決済がされたのは、請求人が国内に恒久的施設を有しない非居住者となった後の平成25年8月27日である(上記1の(3)のイの(ロ)及びハの(ハ))から、措置法第41条の14第1項が規定する「居住者又は恒久的施設を有する非居住者が、……先物取引の区分に応じ当該各号に定める差金等決済をした」という要件を満たさない。
     したがって、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引には、措置法第41条の14第1項は適用されない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引について、当該約定日が所得税法第36条第1項にいう収入すべき時期であるから措置法第41条の14第1項が適用される旨主張する。
     しかしながら、措置法第41条の14第1項にいう金融商品先物取引等の「決済」とは、反対売買による清算の決済を意味し、すなわち差金の授受によってされる行為をいうことは上記イのとおりであり、本件FX取引のうち、平成25年8月23日に反対売買の約定が成立した取引については、同月27日に決済がされ、その時点で請求人は国内に恒久的施設を有しない非居住者に該当するのであるから、措置法第41条の14第1項が規定する要件を満たさないことは上記ロのとおりである。
     したがって、請求人の上記主張には理由がない。

(4) 争点4(本件所得のうちに、仮に本件規定にいう「資産の譲渡により生ずる所得」に該当する金額があるとした場合、所得税法施行令第291条第1項第6号に規定する「非居住者が国内に滞在する間に行う国内にある資産の譲渡による所得」に該当するものはあるか否か。)について

上記(2)のとおり、本件所得はいずれも本件規定にいう「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当し、「資産の譲渡により生ずる所得」には該当しないことから、争点4については判断を要しない

(5) 本件各更正処分等の適法性について

上記(1)ないし(4)のとおり、本件各更正処分等(本件各更正処分及び本件決定処分)には、争点についてこれを取り消すべき理由はなく、これに基づき算出した平成25年分ないし平成27年分の納付すべき所得税等の額は、当審判所においても、それぞれ本件各更正処分等における金額と同額であると認められる。
 また、本件各更正処分等のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各更正処分等はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 本件各過少申告加算税賦課決定処分について
     上記(5)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、平成25年分及び平成26年分の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、いずれも本件各過少申告加算税賦課決定処分における過少申告加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、本件各過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
  • ロ 本件無申告加算税賦課決定処分について
     上記(5)のとおり、本件決定処分は適法であり、本件において、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、平成27年分の無申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても、本件無申告加算税賦課決定処分における無申告加算税の額と同額であると認められる。
     したがって、通則法第66条第1項及び内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律第6条の3《財産債務に係る過少申告加算税又は無申告加算税の特例》第2項の規定に基づいてされた本件無申告加算税賦課決定処分は適法である。

(7) 結論

よって、審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。

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