(令和3年4月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が滞納法人の事業を承継したことは、国税徴収法第38条《事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務》に規定する被支配会社への事業の譲渡に該当するとして、原処分庁が、請求人に対して第二次納税義務の納付告知処分をしたところ、請求人が、事業の譲受けに伴って積極財産を譲り受けていないこと、また、積極財産を譲り受けた時点で特殊関係者には該当しないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税徴収法及び法人税法関係
    • (イ) 国税徴収法(以下「徴収法」という。)第38条は、納税者が生計を一にする親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は被支配会社で政令で定めるもの(以下「特殊関係者」という。)に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、その譲渡が滞納に係る国税の法定納期限より1年以上前にされている場合を除き、その譲受人は、譲受財産の価額の限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
    • (ロ) 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第13条《納税者の特殊関係者の範囲》第1項第5号は、徴収法第38条本文に規定する特殊関係者の一つとして、納税者を判定の基礎として被支配会社(法人税法第67条《特定同族会社の特別税率》第2項に規定する会社に該当する会社)に該当する会社を規定している。
    • (ハ) 徴収法施行令第13条第2項は、徴収法第38条の規定を適用する場合において、特殊関係者であるかどうかの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況による旨規定している。
    • (ニ) 法人税法第67条第2項は、被支配会社とは、会社の株主等の1人がその会社の発行済株式の総数の100分の50を超える数の株式を有する場合等におけるその会社をいう旨規定している。
  • ロ 会社法関係
    • (イ) 会社法第49条《株式会社の成立》は、株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する旨規定している。
    • (ロ) 会社法第762条《新設分割計画の作成》第1項は、一又は二以上の株式会社又は合同会社は、新設分割をすることができ、この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない旨規定している。
    • (ハ) 会社法第763条《株式会社を設立する新設分割計画》第1項は、新設分割により設立する会社が株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)であるときは、新設分割計画において、次に掲げる事項を定めなければならない旨規定している。
      • A 第1号ないし第4号 省略
      • B 第5号 新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社(以下「新設分割会社」という。)から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
      • C 第6号 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付するその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の株式の数等に関する事項
      • D 第7号ないし第12号 省略
    • (ニ) 会社法第764条《株式会社を設立する新設分割の効力の発生等》第1項は、新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する旨規定している。
    • (ホ) 会社法第764条第8項は、同法第763条第1項に規定する場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、同項第6号の株式の株主となる旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 当事者
    • (イ) J社(平成30年○月○日に商号をH社に変更した。以下、この商号変更の前後を通じて「本件滞納法人」という。)は、昭和63年3月○日、○○○○の経営等を目的として設立された。
    • (ロ) 請求人は、平成30年○月○日、○○○○の経営等を目的として、本件滞納法人から分割により設立された。
    • (ハ) K社(以下「本件第三者法人」という。)は、平成29年5月○日、○○○○、○○○○の経営等を目的として設立された法人であり、Fが代表取締役を務めている。
  • ロ 事実経過の概要
    • (イ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、1新設分割により請求人を設立する旨、2請求人に本件滞納法人が営む○○○○事業、○○○○事業、○○○○事業、○○○○事業及び○○○○事業(以下、これらを併せて「本件事業」という。)に関する権利義務を承継する旨、3分割期日を同年○月○日とする旨、4分割対価として請求人の普通株式○○株(以下「本件株式」という。)を本件滞納法人に交付する旨等の新設分割計画書(以下「本件新設分割計画書」といい、本件新設分割計画書による新設分割を「本件新設分割」という。)を作成した。
       なお、本件新設分割計画書には、本件滞納法人が請求人に承継させる権利義務として、本件事業に関する承継対象契約及び承継対象負債の内容が記載されており、また、承継対象資産はない旨記載されている。
    • (ロ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、本件第三者法人との間で、1株式譲渡日を同年○月○日とする旨、2本件滞納法人が本件新設分割により請求人から交付を受ける本件株式を本件第三者法人に譲渡する旨等の株式譲渡契約(以下「本件株式譲渡契約」といい、本件株式譲渡契約による本件株式の譲渡を「本件株式譲渡」という。)を締結した。
    • (ハ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日午後○時から午後○時○分までの間に、臨時株主総会を開催し、1本件新設分割を承認する旨、2本件新設分割の効力が生じることを条件とし、本件新設分割の効力発生日をもって、本件滞納法人が所有することとなる本件株式を本件第三者法人に譲渡する旨等を承認した。
    • (ニ) 請求人について、平成30年○月○日、同日付で本件滞納法人から分割により設立された旨の登記がなされた。
    • (ホ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日午後○時から午後○時○分までの間に、臨時株主総会を開催し、同日午前中に本件第三者法人に本件株式譲渡が行われたことを踏まえ、1本件滞納法人の資産の一部である売上債権、在庫商品、貯蔵品及び電話加入権(以下、これらを併せて「本件資産」という。)を請求人に対し、○○○○円で譲渡する旨(以下「本件資産譲渡」という。)、及び2本件滞納法人の資産、負債及び賃貸借契約上の地位の各一部を本件第三者法人に対し、○○○○円で譲渡する旨を承認した。
    • (ヘ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、請求人との間で、上記(ホ)の1について、資産譲渡契約(以下「本件資産譲渡契約」という。)を締結した。
       なお、本件資産は、本件新設分割における承継対象店舗等において営む事業に必要とされる資産となっている。
    • (ト) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、本件第三者法人との間で、上記(ホ)の2について、資産等譲渡契約を締結した。
    • (チ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、本件資産譲渡契約に係る本件資産のうち、原処分庁によって、同年○月○日付で差押えがされたL社に対するクレジットカード売上債権(以下「本件売掛債権」という。)○○○○円について、当該差押えに先行する請求人への譲渡に関する第三者対抗要件を具備できなかったとして、請求人との間で、本件資産譲渡契約に基づき、本件資産の譲渡対価から減額する旨を合意し、協定書(以下「本件協定書」という。)を作成した。
    • (リ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日、M地方裁判所N支部に対して、破産手続開始の申立て(以下「本件破産申立て」という。)をし、同月○日午後○時○分、破産手続開始決定を受けた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁は、令和元年11月27日付で、請求人に対し、徴収法第38条の規定に基づき、本件滞納法人に係る別表の滞納国税について納付すべき限度の額を○○○○円(以下「本件限度額」という。)とする第二次納税義務を負うとして、同法第32条《第二次納税義務の通則》第1項の規定に基づき、第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
  • ロ 請求人は、令和2年1月30日、本件納付告知処分を不服として再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、同年3月30日付で棄却の再調査決定をした。
  • ハ 請求人は、令和2年4月23日、再調査決定を経た後の本件納付告知処分に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

本件資産は徴収法第38条にいう譲り受けた事業に属する譲受財産に該当し、かつ、請求人は本件滞納法人の事業を譲り受けた特殊関係者に該当するか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
以下の理由により、本件資産は、徴収法第38条にいう譲り受けた事業に属する譲受財産に該当し、かつ、請求人は本件滞納法人の事業を譲り受けた特殊関係者に該当する。 以下(1)の理由により、本件資産は、徴収法第38条にいう譲り受けた事業に属する譲受財産に該当しない。また、以下 (2)の理由により、請求人は本件滞納法人の事業を譲り受けた特殊関係者には該当しない。
(1) 事業の譲渡と譲受財産 (1) 事業の譲渡と譲受財産
イ 会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継は、徴収法第38条の事業の譲渡に該当すると解されるところ、本件新設分割だけでは請求人は本件滞納法人から承継した本件事業を実施することはできず、本件資産譲渡契約によって事業に必要な資産を取得し、実質的に本件事業を承継できることとなるため、本件新設分割及び本件資産譲渡契約によって初めて一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の譲渡があったものとみるべきである。
 したがって、本件新設分割と本件資産譲渡契約を全体として考察すると、平成30年○月○日に事業の譲渡があったものと認めることができる。
 なお、会社法第49条は、株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する旨規定しているが、設立の登記に設立時間や効力発生時間が登記されることはない。
イ 徴収法第38条に規定する「譲受財産」とは、譲受けに係る事業に属する積極財産をいい、事業の譲受け後に取得した財産は含まれないと解されるところ、請求人は、平成30年○月○日午前0時をもって効力発生した本件新設分割によって本件滞納法人の本件事業を譲り受けたものの、本件滞納法人からは本件事業に係る契約上の地位のほか、本件事業に属する消極財産のみを承継したものであり、本件事業の譲受けに伴って、本件事業に属する積極財産を承継したものではない。したがって、譲受財産の価額はゼロである。
 なお、請求人は本件事業を譲り受けた後、平成30年○月○日午後、請求人と本件滞納法人との間で本件資産譲渡契約を締結し、本件事業の用に供するための資産である積極財産を時価で譲り受けた。
 しかしながら、請求人は本件滞納法人から本件資産を借用等することで本件事業を行うことが容易であったものであるから、本件資産の取得がなければ事業の承継ができないということはない。
ロ 本件限度額は、本件事業の譲渡があった時である平成30年○月○日において、請求人が本件滞納法人から譲り受けた本件資産の価額であるところ、本件資産譲渡契約に基づいた本件売掛債権の価額の減額は、後発的事由によるものであることから、本件限度額から控除すべきものではない。 ロ 請求人と本件滞納法人との間では、本件資産の一部である本件売掛債権が承継できなかったことから、本件資産譲渡契約に基づき、本件資産の価額から本件売掛債権の価額を減額することが本件協定書のとおり合意されている。そのため、承継できなかった本件資産の一部である本件売掛債権については、遡及的にその譲渡が無効となったものであるから、本件資産の価額に含まれるものではない。
(2) 特殊関係者の判定 (2) 特殊関係者の判定
イ 請求人の本件株式は、平成30年○月○日、本件滞納法人に交付されているため、請求人は、本件滞納法人を判定の基礎として被支配会社に該当する会社であり、徴収法施行令第13条第1項第5号に規定する特殊関係者に該当する。 イ 請求人が本件滞納法人から本件事業を譲り受けた後、平成30年○月○日午前、本件滞納法人から本件第三者法人に本件株式が時価で譲渡されたことから、同日午前の時点で、請求人と本件滞納法人との間の支配関係がなくなり、請求人は本件滞納法人との関係で徴収法第38条及び徴収法施行令第13条第1項に規定する特殊関係者には該当しなくなった。
ロ 徴収法施行令第13条第2項の規定によれば、特殊関係者に該当するか否かの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況によるとされているところ、本件における「事業を譲渡した時」とは、本件新設分割の登記がされた平成30年○月○日であり、請求人が主張するように同日午後に限定されることはない。 ロ 徴収法施行令第13条第2項の規定によれば、特殊関係者に該当するか否かの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況によるとされているところ、本件新設分割によって本件事業の譲渡がなされたのは平成30年○月○日午前であり、本件資産譲渡がなされた同日午後の時点では請求人は本件滞納法人の特殊関係者に該当しない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 徴収法第38条の規定の趣旨
     徴収法第38条は、上記1の(2)のイの(イ)のとおり、納税者が滞納国税の法定納期限の1年前の日後に特殊関係者に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなお徴収不足と認められるときは、その譲受人は、譲受財産の価額を限度として、その滞納国税に係る第二次納税義務を負う旨規定している。
     この規定の趣旨は、事業の譲渡が行われるときは、通常、その事業用資産だけでなく、その事業に係る債務も譲受人に移転されるので、譲渡人の債権者が当該事業の譲渡によって不利益を受けることはないが、租税債務については私人間の合意によって譲受人に移転させることができないので、譲渡人が納付すべき国税を譲受人から強制的に徴収することができなくなり、租税債権の確保に支障が生じることとなる一方、事業の譲渡に際しては、通常、譲受人から譲渡人に対して相応の対価が支払われるので、譲受人に対して譲渡人の国税についての第二次納税義務を負わせることが酷に過ぎることも考慮し、事業の譲受人が譲渡人の特殊関係者である場合に限り、その譲受人に対し、譲渡人の国税の引き当てとなっていた譲受財産の価額を限度として、二次的に譲渡人の国税についての納税義務を負わせることにより、租税債権の確保を図ることとしたものと解される。
  • ロ 事業の譲渡の意義
     徴収法第38条の事業の譲渡とは、納税者が一個の債権契約で、一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡することである。また、会社法第762条に規定する新設分割においては、新設法人が交付する株式を対価として、分割の対象となる権利及び義務の全部又は一部が包括的に新設法人に移転することとなるため、分割の対象が事業であれば、事業が包括承継されることとなる。このように、会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継は、法形式において債権契約とは異なるが、その実質においては、同様の効果を目的とするものといえることから、徴収法第38条の事業の譲渡に該当するものと解される。
  • ハ 新設分割における事業の譲渡の時期
     上記ロのとおり、会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継は、徴収法第38条の事業の譲渡に該当するものと解されるところ、会社法第764条第1項は、新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する旨規定しているので、徴収法第38条にいう事業の譲渡があった時とは、新設分割設立株式会社の成立の日をいうものと解される。
     また、会社法第764条第8項は、上記1の(2)のロの(ホ)のとおり、同法第763条第1項に基づいて、新設分割計画に、新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付する株式の数等に関する事項を定めた場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割設立株式会社の株主となる旨規定している。
     そして、会社法第49条は、上記1の(2)のロの(イ)のとおり、株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する旨規定しているのであるから、新設分割設立株式会社の設立登記がされると同時に、新設分割計画の定めに従って、新設分割会社の事業が新設分割設立株式会社に譲渡され、新設分割会社が新設分割設立株式会社の株主となると解するのが相当である。
  • ニ 特殊関係者の範囲及びその判定の時期
     徴収法第38条が適用されるのは、納税者の事業の譲受人が納税者の特殊関係者である場合であるところ、徴収法施行令第13条第1項第5号及び法人税法第67条第2項は、上記1の(2)のイの(ロ)及び(ニ)のとおり、納税者を判定の基礎とした場合に、会社の株主等の1人がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える数の株式を有する場合におけるその会社は、徴収法第38条にいう特殊関係者に当たる旨規定している。
     また、徴収法施行令第13条第2項は、上記1の(2)のイの(ハ)のとおり、特殊関係者であるかどうかの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況による旨規定している。
     したがって、納税者がその事業を譲渡した時において、納税者を判定の基礎とした場合に、会社の株主等の1人がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える数の株式を有する場合におけるその会社は、徴収法第38条の特殊関係者に当たり、納税者が特殊関係者に事業を譲渡したことという徴収法第38条の成立要件の一要件を満たすこととなる。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成30年○月○日、本件滞納法人から分割により設立したことに伴い、本件新設分割計画書に記載された権利義務を承継した。
  • ロ 本件滞納法人は、平成30年○月○日、請求人が本件滞納法人から分割により設立されたことに伴い、請求人の発行した普通株式の全てである本件株式を取得した。
  • ハ 本件滞納法人は、平成30年○月○日午前○時と同日午前○時の間に、取引先に対して、本件滞納法人が、同日付で、本件新設分割の手続を行い、本件事業を請求人に承継した旨に加え、売掛債権が請求人に譲渡されるとともに、今後の取引関係も請求人に承継される旨を記載した電子内容証明郵便(以下「本件債権譲渡通知」という。)を差し出した。
  • ニ 本件資産譲渡契約において、同契約に係る契約書第5条第2項は、本件滞納法人から請求人に対する本件資産の引渡し完了の前後を問わずに、本件滞納法人の滞納公租公課に基因して、いずれかの公租公課庁が本件資産に対して差押えを行い、請求人に対する引渡しが不能となったときは、当該差押えの対象となった本件資産の相当額につき、本件滞納法人と請求人が協議の上、本件資産の譲渡対価を減額する旨定めていた。
  • ホ 本件資産には、本件売掛債権が含まれていた。
  • ヘ 本件滞納法人は、平成30年○月○日、事業を廃止した。
  • ト 本件破産申立てに係る破産申立書においては、要旨以下のとおりの内容が記載されていた。
    • (イ) 本件滞納法人は、○○○○を最優先に検討し、仮にも税務当局による突然の差押え等があれば再建の途を完全に閉ざされて破綻し、○○○○に甚大な損害を生じさせると判断し、本件新設分割を実行し、本件第三者法人による支援の下、事業を承継した請求人において事業再建を図ることとなった。
    • (ロ) 本件滞納法人は、平成30年○月○日付で本件新設分割を行い、新会社として請求人を設立し、同社に対して、○○○○、そしてほぼ全ての事業と取引関係を承継させ、同日付で事業を廃止した。
    • (ハ) 本件滞納法人の資産のうち、事業に直接関連する売掛金や在庫商品などは、本件資産譲渡契約に基づき、承継した事業を今後運営する請求人が承継した。
  • チ 原処分庁は、平成30年10月29日、本件売掛債権及び供託による利息を取り立てた上で、本件滞納法人の滞納国税に充当した。
  • リ 本件第三者法人が令和元年9月10日付で原処分庁に提出した「書類送付状」と題する書面によれば、請求人は、平成30年○月○日、本件新設分割により譲り受けた財産及び本件資産譲渡により譲り受けた財産に対して、資産として営業権を計上する会計処理をしたことが認められる。

(3) 検討

  • イ 譲受財産について
     本件滞納法人は、上記1の(3)のロの(イ)及び(ハ)のとおり、本件新設分割によって本件事業に係る権利義務を新設分割設立株式会社である請求人に承継させたところ、上記(1)のロを踏まえると、本件事業に係る権利義務の承継は、徴収法第38条に規定する事業の譲渡に該当することとなる。そこで、本件資産について徴収法第38条にいう譲受財産に該当するか否かについて、以下検討する。
    • (イ) 上記(2)のへ並びにトの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件滞納法人は、本件新設分割と同時に事業を廃止し、本件破産申立てに係る破産申立書において、本件事業に直接関連する売掛金や在庫商品などは、本件資産譲渡契約に基づき、本件事業を今後運営する請求人が承継したとしていることからすれば、本件新設分割において、別途、請求人への本件資産の譲渡が予定されていることがうかがわれ、請求人が本件事業を継続して運営するに当たって、本件資産の承継が前提となっていることが認められる。
    • (ロ) また、上記(2)のハのとおり、本件滞納法人は、本件新設分割により本件事業を承継した後、本件資産譲渡が臨時株主総会で承認されるより前の平成30年○月○日午前○時と同日午前○時の間に、本件資産の一部である売上債権に係る取引先に対して、本件債権譲渡通知の差出手続を完了していることからすると、本件新設分割と同時に承継対象店舗等の売上債権を含む本件資産の譲渡が計画されていたと推認される。さらに、上記1の(3)のロの(ハ)及び(ホ)のとおり、本件滞納法人の株主総会が本件新設分割計画を承認したのは平成30年○月○日午後○時から午後○時○分までの間であるが、同株主総会は、その約○時間から○時間後の翌○月○日午後○時から午後○時○分までの間には本件資産譲渡を承認しており、両者は極めて時間的に接着して行われていた。これらは、新設分割設立株式会社である請求人が、設立後、本件滞納法人から承継した本件事業を間断なく継続させるために、資産及び物品の調達並びに売上債権の回収が必要であったことから、本件資産譲渡に関する手続を本件新設分割と並行して行っていたためであると解される。
    • (ハ) 上記(イ)及び(ロ)によれば、本件滞納法人が事業を廃止した後、本件事業を請求人が運営していくに当たって実質的には本件資産が必要であったことから、本件滞納法人及び請求人において本件新設分割と併せて本件資産譲渡をしたことが認められ、そうすると、本件滞納法人から請求人への本件事業の譲渡は、本件新設分割と本件資産譲渡契約という2つの法形式により完成したことが認められる。
    • (ニ) 加えて、請求人は、本件資産の取得原価○○○○円が本件資産の純額を上回るとして、その超過額を営業権として資産に計上しているところ、同営業権の計上は企業結合による会計処理の一つであることから、本件資産は事業譲渡に属する資産として会計処理がされていることが、上記(2)のリにおける会計処理から認められる。そして、近時は事業譲渡が複数の取引により行われることも通常みられ、このように複数の取引が1つの企業結合を構成している場合には、それらを一体として取り扱うとされていること(企業会計基準委員会「企業会計基準第21号 企業結合に関する会計基準」平成25年9月13日改正)などからすると、複数の取引による事業譲渡については、いずれの取引により譲渡されたものであっても譲受財産に当たると解するのが自然である。
    • (ホ) また、上記(1)のイのとおり、事業の譲渡に当たって、租税債務については、私債権と異なり私人間の合意により譲受人に移転しないことから、その資産を引き当てとして租税債権を事業の譲受人から徴収するという徴収法第38条の趣旨に照らしても、本件のように複数の取引による事業譲渡の場合に譲受財産を最初の取引である本件新設分割により移転したものに限定する理由はない。
    • (ヘ) そして、上記(2)のトの(イ)及び(ロ)のとおり、本件滞納法人は、税務当局による差押えの前に本件新設分割を実行し、請求人に対し、ほぼ全ての事業と取引関係を承継しており、本件新設分割を契機とする本件資産譲渡により、本件滞納法人の責任財産を構成し、滞納処分の引き当てとなっていた本件資産が請求人に帰属することとなり、租税債権の確保に支障が生じているのであるから、上記(ホ)に照らして、本件資産は滞納国税の引き当てになるものと解するのが相当である。
    • (ト) 以上のとおり、本件事業の譲渡は、複数の取引による事業譲渡に当たると認められるところ、それらの取引の一つである本件資産譲渡契約により譲渡された本件資産は、徴収法第38条にいう譲受財産に該当すると解するのが相当である。
  • ロ 特殊関係者について
     納税者の特殊関係者であるかどうかの判定時期について、徴収法施行令第13条第2項は、上記1の(2)のイの(ハ)のとおり、納税者がその事業を譲渡した時の現況による旨規定している。そして、上記(1)のハのとおり、新設分割設立株式会社の設立登記がされると同時に、新設分割計画の定めに従って、新設分割会社の事業が新設分割設立株式会社に譲渡され、新設分割会社が新設分割設立株式会社の株主となると解される。
     そうすると、上記1の(3)のロの(ニ)及び上記(2)のイ及びロのとおり、請求人の設立登記がされた平成30年○月○日において、本件新設分割計画書に記載の事業の承継がされ、同時に、本件滞納法人が請求人の全株式を取得したことになるから、上記(1)のニによれば、請求人は本件滞納法人を判定の基礎として被支配会社に該当する会社となり、徴収法施行令第13条第1項第5号に規定する特殊関係者に該当することとなったというべきである。
  • ハ 納付すべき限度の額について
     上記イのとおり、本件事業の譲渡は複数の取引による事業譲渡であることから、納付すべき限度の金額となる徴収法第38条にいう「譲受財産の価額」を算出する対象となる財産は、請求人が本件新設分割によって譲り受けた財産と本件資産譲渡によって譲り受けた財産の双方となる。
     原処分庁は、上記(2)のチのとおり、本件売掛債権を取り立てた上、本件滞納法人の滞納国税に充当したことが認められるところ、上記(2)のニのとおり、本件資産譲渡契約には、本件資産について公租公課庁が差押えを行い、請求人に対する引渡しが不能となったときは、協議の上、譲渡対価を減額する旨あらかじめ定められており、上記1の(3)のロの(チ)のとおり、本件滞納法人は、本件売掛債権が原処分庁に差し押さえられたことから、請求人との間において、本件資産の譲渡対価から本件売掛債権の価額○○○○円を減額する旨合意している。これは、本件資産譲渡契約の一部を合意解除したものと解されるから、本件売掛債権は、もはや徴収法第38条にいう譲受財産には含まれないというべきである。
     したがって、納付すべき限度の額は、本件限度額である○○○○円から、本件売掛債権の価額○○○○円を控除した○○○○円であると認められる。

(4) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、上記3の「請求人」欄の(1)のイのとおり、本件新設分割によって請求人が譲り受けた積極財産はないから、譲受財産の価額はゼロである旨主張する。
     しかしながら、上記(3)のイのとおり、本件事業の譲渡は、本件新設分割と本件資産譲渡契約という複数の取引によりなされたものであり、本件資産が徴収法第38条にいう譲受財産と認められる以上、譲受財産の価額は、本件新設分割だけでなく本件資産譲渡に係る譲受財産も含めて判断すべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、上記3の「請求人」欄の(2)のとおり、本件資産譲渡の時点で請求人は本件滞納法人の被支配会社に該当しないから、請求人は徴収法第38条及び徴収法施行令第13条第1項に規定する特殊関係者に該当しない旨主張する。
     しかしながら、本件資産に係る上記(3)のイの(イ)ないし(ヘ)の事情を踏まえると、特殊関係者の判定は、上記(3)のロのとおり、請求人が本件新設分割の時点において当該特殊関係者であれば足りるというべきであることから、本件資産譲渡の時点をもって当該特殊関係者の関係を判断すべきとする請求人の主張には理由がない。

(5) 原処分庁の主張について

原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のロのとおり、本件限度額は、本件事業の譲渡があった時である平成30年○月○日において、請求人が本件滞納法人から譲り受けた本件資産の価額であるところ、本件資産譲渡契約に基づいた本件売掛債権の価額の減額は、後発的事由によるものであることから、本件限度額から控除すべきものでない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のホのとおり、本件資産に含まれる本件売掛債権は、上記(3)のハのとおり、本件滞納法人及び請求人における本件資産譲渡契約の一部の合意解除により、本件資産の譲渡対価から本件売掛債権の価額が減額されていること、及び既に本件滞納法人の責任財産として滞納処分の引き当てとなり本件滞納法人の滞納国税に充てられているところ、事業譲渡により国税の徴収の引き当てとなっていた財産を譲り受けた者に金銭的な納付義務を負わせるという徴収法第38条の趣旨に鑑みれば、遡って解除された本件事業の譲渡の部分についてまで第二次納税義務を生じさせる理由はない。よって、本件売掛債権の価額を納付すべき限度の額に含めるべきではない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(6) 本件納付告知処分の適法性について

上記(3)のイ及びロのとおり、本件資産は徴収法第38条にいう譲受財産に該当すると解するのが相当であり、かつ、請求人は本件事業の譲渡があった時の現況において、同条に規定する本件滞納法人の事業を譲り受けた特殊関係者に該当していたと認められる。
 また、上記(3)のハのとおり、納付すべき限度の額は、○○○○円であると認められるところ、本件納付告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件納付告知処分は、納付すべき限度の額につき○○○○円を超える部分は違法となる。

(7) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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