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(平20.10.1、裁決事例集No.76 573頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が会社法第762条《新設分割計画の作成》の規定に基づく新設分割によってA社(以下「滞納法人」という。)の事業を承継したことは、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第38条《事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務》に規定する事業を譲渡した者と特殊な関係にある同族会社(以下「特殊関係者」という。)への事業の譲渡に該当するとして、原処分庁が第二次納税義務の納付告知処分を行ったことに対し、請求人が、新設分割により設立された請求人の株式を滞納法人が所有している間は事業の譲渡があったとはいえず、当該株式が第三者に譲渡された時に初めて事業の譲渡があったというべきであり、当該株式が第三者に譲渡された時点では請求人は同条に規定する特殊関係者でなく、特殊関係者への事業の譲渡には該当しないとして、当該処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、滞納法人が納付すべき滞納国税について、請求人に対し、平成19年10月24日付で、事業譲渡に係る譲受財産を限度とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件納付告知処分」という。)をした。
ロ 上記イにより請求人が納付すべきとされる滞納法人の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)は、別表1のとおりである。
ハ 請求人は、本件納付告知処分を不服として平成19年11月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、平成20年1月21日付で、異議申立てを棄却する異議決定をしたので、同年2月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令

イ 徴収法第38条は、納税者が特殊関係者に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足する(以下「徴収不足」という。)と認められるときは、その譲受人は、譲受財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負うものとし、その譲渡が滞納に係る国税の法定納期限より1年以上前にされている場合は、この限りでない旨規定している。
ロ 国税徴収法施行令(以下「徴収法施行令」という。)第13条《納税者の特殊関係者の範囲》第1項第6号は、納税者を判定の基礎とした場合に、法人税法第2条《定義》第10号に該当する会社は、徴収法第38条本文に規定する特殊関係者に当たる旨規定している。
ハ 徴収法施行令第13条第2項は、徴収法第38条の規定を適用する場合において、特殊関係者であるかどうかの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況による旨規定している。
ニ 法人税法第2条第10号は、同族会社とは、会社の株主等の3人以下がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える株式を有する場合等におけるその会社をいう旨規定している。
ホ 会社法第762条第1項は、一又は二以上の株式会社は、新設分割をすることができ、この場合においては、新設分割計画を作成しなければならない旨規定している。
ヘ 会社法第763条《株式会社を設立する新設分割計画》は、新設分割により設立する会社が株式会社(以下「新設分割設立株式会社」という。)であるときは、新設分割計画に同条各号に掲げる事項を定めなければならない旨規定している。
(イ) 第1号ないし第4号 省略
(ロ) 第5号 新設分割設立株式会社が新設分割により新設分割をする会社(以下「新設分割会社」という。)から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
(ハ) 第6号 新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付するその事業に関する権利義務の全部又は一部に代わる当該新設分割設立株式会社の株式の数等に関する事項
(ニ) 第7号ないし第12号 省略

(4) 基礎事実

イ 平成18年11月7日に開催された滞納法人の臨時株主総会において、1請求人を新たに設立し、滞納法人の事業を承継させる、2請求人の設立に際して普通株式200株を発行し、そのすべてを滞納法人に交付する、3請求人が滞納法人から承継する資産及び負債は、別表2のとおりとする、4請求人は、分割期日において滞納法人の営業部門に在籍する従業員全員を対象とした労働契約上の地位を滞納法人から承継する、5分割をなすべき時期は平成19年1月11日とする旨の分割計画書(以下「本件分割計画書」という。)が承認された。
ロ 平成19年1月30日に開催された滞納法人の取締役会において、上記イの5の分割をなすべき時期を、同年3月○日に変更することが承認された。
ハ 請求人の履歴事項全部証明書によれば、請求人が滞納法人から分割(以下「本件新設分割」という。)により平成19年3月○日に設立された旨の登記がされている。
ニ 請求人の発行済株式の全部(200株)が、平成19年3月○日に滞納法人からBへ○○○○円で譲渡された。
ホ 原処分庁は、平成19年5月8日付で、Bを第三債務者として、上記ニの株式売却代金○○○○円の支払請求権(以下「本件差押債権」という。)を差し押さえた。

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2 争点

 本件新設分割による事業の譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)は、徴収法第38条に規定する特殊関係者への事業の譲渡に該当するか否か。

3 主張

原処分庁 請求人
 会社法第764条《株式会社を設立する新設分割の効力の発生等》第1項は、新設分割設立株式会社は、その成立の日に新設分割会社の権利義務を承継する旨規定し、当該権利義務の承継は、徴収法第38条の事業の譲渡に該当する。
 そして、会社法第764条第4項は、新設分割会社は新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割設立株式会社の株主となる旨規定しているところ、本件事業譲渡の行われた時点の請求人の株主は滞納法人であり、その発行済株式の全部を滞納法人が所有していたのであるから、請求人は、徴収法施行令第13条第1項第6号に規定する「納税者を判定の基礎として同族会社に該当する会社」に該当する。
 以上のことから、本件事業譲渡は、徴収法第38条に規定する特殊関係者への事業の譲渡であることは明らかである。
 請求人は、会社法第762条に基づく新設分割により設立され、同法第764条第4項により設立時には株式はいったん滞納法人に帰属することとなるが、会社分割において、新設分割設立株式会社の株式の売却が予定されている場合には、株式が第三者に譲渡されて初めて事業の譲渡があったものと解すべきである。
 そうすると、本件の場合、請求人の株式がBに譲渡された時が事業の譲渡の時であり、請求人は、Bを唯一の株主とする同族会社であるため、滞納法人との関係において、徴収法施行令第13条第1項第7号に規定する「納税者が同族会社である場合において、その判定の基礎となった株主の全部又は一部を判定の基礎として同族会社に該当する他の会社」に該当しない。
 よって、本件事業譲渡は、徴収法第38条に規定する特殊関係者への事業の譲渡に該当しない。

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4 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、滞納法人から承継した土地及び建物等(P県p市所在の「Cホテル」及びQ県q市所在の「Dホテル」)において、ビジネスホテルの経営を引き継いで行っている。
ロ 滞納法人は、本件新設分割後、本件差押債権以外に滞納処分を執行できる財産を有しておらず、滞納法人の滞納国税につき徴収不足の状態である。

(2) 法令解釈

イ 徴収法第38条の規定の趣旨
 徴収法第38条は、前記1の(3)のイのとおり、納税者が滞納国税の法定納期限の1年前の日後に特殊関係者に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき徴収不足と認められるときは、その譲受人は、譲受財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。
 この規定の趣旨は、事業の譲渡が行われるときは、通常、その事業用資産だけでなくその事業に係る債務も譲受人に移転されるので、譲渡人の債権者が当該事業譲渡によって不利益を受けることはないが、租税債務については私人間の合意によって譲受人に移転させることができないので、譲渡人の租税債権を譲受人から強制的に徴収することができなくなり、租税債権の確保に支障が生じることとなる一方、事業の譲渡に際しては、通常、譲受人から譲渡人に対して相応の対価が支払われるので、譲受人に対して譲渡人の国税についての第二次納税義務を負わせることが酷に過ぎることも考慮し、事業の譲受人が譲渡人の特殊関係者である場合に限り、二次的に譲渡人の国税についての納税義務を負わせ、租税債権の確保を図ることとしたものと解される。
ロ 事業の譲渡の意義
 徴収法第38条の事業の譲渡とは、納税者が一個の債権契約で、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡することであり、会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継とは、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することである。そうすると、会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継は、徴収法第38条の事業の譲渡に該当するものと解される。
ハ 事業の譲渡の時期等
 上記ロのとおり、会社法第762条に規定する新設分割による権利義務の承継は、徴収法第38条の事業の譲渡に該当するものと解されるところ、会社法第764条第1項は、新設分割設立株式会社は、その成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割会社の権利義務を承継する旨規定しているので、徴収法第38条にいう事業の譲渡があった時とは、新設分割設立株式会社の成立の日をいうものと解される。
 また、会社法第764条第4項は、同法第763条に基づいて新設分割計画に新設分割設立株式会社が新設分割に際して新設分割会社に対して交付する株式の数等に関する事項を定めた場合には、新設分割会社は、新設分割設立株式会社の成立の日に、新設分割計画の定めに従い、新設分割設立株式会社の株主となる旨規定している。
 そして、会社法第49条《株式会社の成立》は、株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する旨規定しているのであるから、新設分割設立株式会社の設立登記がされると同時に、新設分割計画の定めに従って、新設分割会社の事業が新設分割設立株式会社に譲渡され、新設分割会社が新設分割設立株式会社の株主となると解するのが相当である。
ニ 特殊関係者の範囲及びその判定の時期
 徴収法第38条が適用されるのは、納税者の事業の譲受人が納税者の特殊関係者である場合であるところ、徴収法施行令第13条第1項第6号及び法人税法第2条第10号は、前記1の(3)のロ及びニのとおり、納税者を判定の基礎とした場合に、会社の株主の3人以下がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える株式を有する場合のその会社は、徴収法第38条にいう特殊関係者に当たる旨規定している。
 また、徴収法施行令第13条第2項は、前記1の(3)のハのとおり、特殊関係者であるかどうかの判定は、納税者がその事業を譲渡した時の現況による旨規定している。
 したがって、納税者がその事業を譲渡した時において、納税者を判定の基礎とした場合に、会社の株主の3人以下がその会社の発行済株式総数の100分の50を超える株式を有する場合のその会社は、徴収法第38条の特殊関係者に当たり、納税者が特殊関係者に事業を譲渡したことという徴収法第38条の成立要件の一要件を満たすこととなる。

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(3) 前記1の(4)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記(2)の法令解釈に照らして判断すると、次のとおりである。

イ 前記1の(4)のイのとおり、本件分割計画書において、1本件新設分割により滞納法人の事業を請求人が承継し、2別表2の滞納法人の資産及び負債並びに労働契約上の地位を請求人が承継し、3請求人が請求人の発行済株式のすべてを滞納法人に交付することが定められ、前記1の(4)のハのとおり、平成19年3月○日に本件新設分割により請求人の設立登記がなされていることから、本件分割計画書に従い、当該設立登記と同時に、本件事業譲渡がなされ、滞納法人が請求人の発行済株式のすべてを有する株主になったと認められる。
 そして、上記(2)のニのとおり、特殊関係者の判定は事業の譲渡の時の現況によるところ、本件事業譲渡の時、すなわち請求人の設立登記の時においては、滞納法人は請求人の発行済株式のすべてを所有しているのであるから、請求人は滞納法人の特殊関係者である。
 そうすると、本件新設分割により、滞納法人がその特殊関係者である請求人に事業を譲渡したと認められ、かつ、1上記(1)のイのとおり、請求人は滞納法人と同一の場所において同一の事業を営み、2上記(1)のロのとおり、滞納法人は滞納国税について徴収不足の状態であると認められ、3上記のとおり、本件事業譲渡の日(平成19年3月○日)は別表1の本件滞納国税の法定納期限の1年前の日後であることから、徴収法第38条の第二次納税義務の成立要件のすべてを満たしていることになる。
 したがって、本件納付告知処分は適法である。
ロ これに対し、請求人は、会社分割において、新設分割設立株式会社の株式の売却が予定されている場合には、株式が第三者に譲渡されて初めて事業の譲渡があったものと解すべきであり、本件の場合、請求人の株式がBに譲渡された時が事業の譲渡の時であって、請求人は、Bを唯一の株主とする同族会社であるため、滞納法人との関係においては特殊関係者に該当しない旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張する第三者への株式の譲渡は、経済的実質において事業の譲渡と類似する場合もあるが、その法的性質はあくまで株主の地位の譲渡であって、一定の事業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部の譲渡をいう徴収法第38条の事業の譲渡とは明らかに性質の異なる法律行為である。そして、上記イのとおり、請求人の設立登記と同時に、本件事業譲渡がなされ、滞納法人は請求人の発行済株式のすべてを有する株主になったと認められるので、請求人は滞納法人の特殊関係者である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
 なお、納税者が事業譲受人の株式を譲渡したことによって、当該事業譲受人が特殊関係者に該当しないこととなった場合であっても、そのことによっていったん成立した徴収法第38条の第二次納税義務が消滅する旨の規定が置かれていないこと、仮に、そのことによっていったん成立した同条の第二次納税義務が消滅すると解した場合には、事業の譲渡という事実があったことを踏まえて国税の徴収確保の見地から設けられた同条の趣旨が没却されることになることからすれば、同条の第二次納税義務の成立要件が満たされた後に、滞納法人が請求人の株式を譲渡して、請求人が特殊関係者に該当しなくなったとしても、そのことによって同条の規定が適用されなくなるものではない。

(4) 原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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