(平成25年2月12日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、相続税の課税価格に算入されていない申告漏れ財産があること等から納付すべき税額が過少であったとして更正処分等を行ったのに対し、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁が申告漏れであるとした財産は請求人の弟に帰属する財産であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 審査請求(平成24年3月1日請求)に至る経緯等は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等の要旨

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである(なお、略称等は本文中の例による。)。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人とその親族の関係等について
(イ) 請求人はF(平成8年5月○日死亡。以下「母F」という。)の長女であり、請求人の弟のG(以下「G」という。)は母Fの長男である。
 H(以下「本件被相続人」という。)は母Fの弟である。
(ロ) 本件被相続人は、平成21年7月○日午前7時10分(推定)に死亡した(以下、本件被相続人の相続を「本件相続」、平成21年7月○日を「本件相続開始日」、平成21年7月○日午前7時10分を「本件相続開始時」という。)。
 本件被相続人の共同相続人は、別紙2のとおり、母Fを代襲相続した請求人及びG(以下「本件相続人ら」という。)の2名である。
ロ 本件被相続人の生前の居住状況等について
(イ) 本件被相続人は、生前、その所有するa県b市e町所在のマンション「Jマンション○○号」(以下「本件マンション」という。)に居住していた(以下、本件マンションのうち家屋部分を「本件家屋」、敷地権(借地権)部分を「本件借地権」という。)。
(ロ) 本件被相続人は、平成21年6月13日付で、K社(以下「本件会社」という。)との間で、本件会社が運営する介護型有料老人ホーム「L」(以下「本件ホーム」という。)への入居契約を締結した(以下、この契約を「本件入居契約」といい、本件入居契約に係る契約書を「本件入居契約書」という。)。
ハ 本件入居契約に基づく入居一時金について
(イ) 本件被相続人は、平成21年6月23日、M銀行f支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件M普通預金口座」という。)からN銀行g支店の本件会社名義の普通預金口座へ、本件入居契約に基づく入居一時金7,980,000円(以下「本件入居一時金」という。)を振り込んだ。
(ロ) 本件会社は、平成21年9月30日、M銀行h支店のG名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に、本件入居一時金に係る返還金7,649,098円(以下「本件返還金」という。)を振り込んだ。
ニ 本件相続に係る遺産分割について
 本件相続人らは、本件相続について、平成21年11月29日付の「遺産分割協議書」のとおり、要旨次の内容の遺産分割(以下「本件分割」という。)をした。
(イ) 相続財産は、まる1本件マンション及びまる2本件被相続人名義の銀行預金(まるアM銀行f支店及びまるイP銀行i支店の各預金。以下「本件各預金」という。)である。
(ロ) 本件マンションは、Gが取得する。
 なお、本件マンションの価額については、本件相続人らで合意決定する。
(ハ) 本件各預金は、その残高の合計額と上記(ロ)で合意した価額を合算し、葬儀費用を控除した後、本件相続人らがそれぞれ均等に分割取得する。
ホ 原処分の理由等について
 原処分庁は、Gが本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について平成23年5月9日にした更正の請求に対して、まる1租税特別措置法(平成22年法律第6号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用による本件借地権の価額の減額は認めたが、まる2別表1のNo.2の修正申告(以下「本件修正申告」という。)において、まるア丸A本件返還金及び丸B平成21年8月17日にQ生命からP銀行i支店の本件被相続人名義の普通預金口座(別表3のNo.7)に振込みにより入金された388,618円(以下「本件未収金」という。)が本件相続税の課税価格に算入されておらず、申告漏れ財産があり、また、まるイ本件相続税の課税価格に算入されていた本件各預金の金額に誤りがあるため、本件修正申告における納付すべき税額が過少であったとして、別表1のNo.3の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

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2 争点

(1) 本件返還金の額は、本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否か(争点1)。
(2) 本件未収金の額は、本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否か(争点2)。
(3) 本件相続税の課税価格に算入すべき本件各預金の価額は、本件相続開始日における残高によるべきか、実際の払出金額によるべきか(争点3)。

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3 争点1について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 本件入居一時金は、本件被相続人名義の定期預金を原資とするものであるところ、当該定期預金は、平成19年10月12日に満期償還された本件被相続人名義の割引金融債31,000,000円を原資とするものであり、同21年6月23日、当該定期預金を解約した金員の中から本件会社名義の普通預金口座に振り込まれたものであるから、本件返還金は、本件被相続人の相続財産として、本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。  原処分庁が申告漏れであるとした本件返還金は、Gが本件被相続人に預けていた金員(以下「本件預け金」という。)について清算したものであるから、Gに帰属する財産であり、本件相続税の課税価格に算入されるべきものではない。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件入居契約の内容について
 本件入居契約の内容は、要旨、次のとおりである。
(イ) 本件入居契約の当事者及び関係者(本件入居契約書表題部(3)及び(4))
A 契約当事者
 入居者:本件被相続人
 本件ホーム設置事業者:本件会社
B 身元引受人
 G
C 返還金受取人
 まる1本件被相続人、まる2(本件被相続人死亡の場合)G
(ロ) 入居一時金(本件入居契約書第22条)
 入居者は、本件ホームへの入居に当たり、本件会社に対して、入居までに入居一時金7,980,000円を支払う。
(ハ) 契約の終了(本件入居契約書第26条第1項第1号、第2項)
A 入居者が死亡したとき、本件入居契約は終了する。
B 本件入居契約の終了(契約終了日)は、居室が明け渡された日をいう。
(ニ) 返還金の支払い等(本件入居契約書第31条)
A 入居一時金は、まる1本件入居契約完了日の24時をもって入居一時金の30%相当額を取得し、まる2その後の返還金算出にあっては、次月より月割均等償却(60か月)を行う。
B 本件会社は、上記Aのとおり算出される入居一時金の返還金を、上記(イ)のCに定めた返還金受取人に対して、契約終了日(明渡し日)の属する月の次月末日に返還する。
(ホ) 返還金受取人(本件入居契約書第36条第1項)
 入居者は、本件入居契約書第31条(入居一時金返還金・未償却残額の算出及び一時金返還債務の保全)に定める返還金受取人1名を定める。
(ヘ) 90日以内に契約が終了した場合の取扱い(本件入居契約書第40条)
 本件会社は、入居契約完了日から90日以内に入居者の死亡により契約が終了した場合には、受領済みの入居一時金の全額を無利息で返還する。
 ただし、居室明渡し日までの本件ホーム利用等の対価として、受領済みの入居一時金の契約期間に係る日割相当額、月額利用料、その他費用及び原状回復費用等の支払いを要する。
ロ 本件入居一時金の原資等について
(イ) 本件被相続人は、平成21年6月22日、当時入院していたR病院において、M銀行f支店の銀行員に対し、まる1M銀行f支店の本件被相続人名義の定期預金(口座番号○○○○。以下「本件M定期預金」という。)31,000,000円を解約し、まる2その一部により本件入居一時金の支払を行い、まる3残金は、まるアM銀行f支店に本件被相続人名義の定期預金を新規に設定するとともに、まるイP銀行i支店の本件被相続人名義の普通預金口座に入金する旨の意向を示した。
(ロ) Gは、本件被相続人の上記(イ)の意向を受けて、本件M定期預金31,000,000円の払戻請求書やN銀行g支店の本件会社名義の普通預金口座への7,980,000円(手数料840円)の振込依頼書などを代書し、これをM銀行f支店に提出した。
 上記経緯により、本件被相続人は、平成21年6月23日、まる1本件M定期預金31,000,000円を解約して本件M普通預金口座へ入金し、まる2本件M普通預金口座から、まるア本件会社名義の普通預金口座へ7,980,000円を振込みし(手数料840円。上記1の(4)のハの(イ))、また、まるイP銀行i支店の本件被相続人名義の普通預金口座へ2,018,320円を振り込んだ(手数料840円)ほか、まるウM銀行f支店に本件被相続人名義の定期預金21,000,000円を新規に設定した。
(ハ) 平成21年6月23日に上記(ロ)のまる1の本件M定期預金の解約に係る金員が入金される直前の本件M普通預金口座の残高は、49,830円であった。
(ニ) なお、本件M定期預金は、平成19年10月12日、M銀行f支店の本件被相続人名義の金融債口座の割引金融債31,000,000円(平成13年9月28日以前から継続して毎年乗換えが行われてきたもの)を払い出した資金によって設定されたものであった。
ハ 本件返還金の内訳等について
 本件会社は、本件入居契約に基づき、M銀行h支店のG名義の普通預金口座に、本件入居一時金に係る返還金である本件返還金を振り込んでいる(上記1の(4)のハの(ロ))ところ、本件返還金の内訳は、別表2のとおり契約期間に係る日割相当額、月額利用料及び原状回復費用等の清算をした後の金額7,649,098円であった。
ニ 本件被相続人の生前の収入及び預金の状況について
(イ) 本件被相続人は、○○法人S院(以下「S院」という。)に○○員として勤務していたところ、退職後の昭和63年4月1日から、S院恩給規程(以下「本件恩給規程」という。)に基づき、年額3,247,860円(月額270,655円)の恩給年金を受給していた。
(ロ) 本件相続開始時における本件各預金の各預入高は、別表3の「預入高」の各欄の金額のとおりである。

(3) 判断

イ 本件預け金があったと認められるか否かについて
(イ) はじめに
 本件返還金の額が本件相続税の課税価格に算入されるべきものであるか否かを判断するに当たり、まず、請求人がその主張の前提とする本件預け金があったと認められるか否かについて検討する。
(ロ) Gの本件預け金に関する答述の要旨等
A Gは、当審判所に対して、まる1本件預け金は、Gが母Fから相続した預貯金の中から、本件被相続人の生活費等に必要であろうと考えて交付したものであること、まる2本件預け金の交付状況は、本件被相続人が嫌がるところを、本件被相続人の自宅の机の中にまず現金10,000,000円を、後日現金5,000,000円を、強引に置いてきたものであることを答述した。
B 請求人が当審判所に提出した母Fの相続に係る平成8年7月2日付遺産分割協議書には、Gが、当該相続により、預貯金計36,500,000円を取得した旨の記載がある。
(ハ) 判断
A 当審判所の調査の結果によっても、Gの上記(ロ)のAの答述の他に本件預け金の存在を直接裏付ける証拠は見当たらない(上記(ロ)のBの遺産分割協議書は、Gが相続により母Fから預貯金を取得したことを裏付けるものではあるが、本件預け金の存在を裏付ける証拠ではない。)。また、Gは、本件預け金を交付した動機について、本件被相続人の生活費等に必要であろうと考えたからである旨答述する(上記(ロ)のA)が、まる1本件被相続人が昭和63年以降月額270,655円の恩給年金を受給していたこと(上記(2)のニの(イ))、まる2本件被相続人が本件相続開始時において別表3のとおり1億円を超える預入高の預金を有していたこと(上記(2)のニの(ロ))からすると、本件被相続人はGが母Fの預貯金を取得した平成8年の時点においても相応の預金を有していたと推認されることに照らすと、客観的にみて、本件被相続人が生活費に窮していたとはうかがわれない。さらに、本件預け金の交付の状況に関するGの答述によれば、Gは、受領を嫌がる本件被相続人の自宅の机の中にまず現金10,000,000円を、後日現金5,000,000円を、強引に置いてきたというのであるが、上記のとおり本件被相続人が生活費に窮していたとはうかがわれないばかりか、Gが受領を嫌がっている本件被相続人の自宅に合計15,000,000円もの多額の現金を強引に置いてきたという状況自体、不自然なものであり、当審判所の調査の結果によっても、かかる不自然な状況を合理的に説明する事情も認められない。
 そうすると、本件預け金が存在する旨のGの答述を信用することはできない。
B そして、上記Aのとおり、本件預け金の存在を直接裏付ける唯一の証拠であるGの答述を信用することはできないから、本件預け金の存在を認めることはできない。
C したがって、本件預け金の存在を前提とする請求人の主張は前提を欠くものであり、採用することができない。
ロ 当審判所の判断について
(イ) 本件返還金は本件被相続人の相続財産であるか否かについて
 原処分庁は、本件返還金は本件被相続人の相続財産として本件相続税の課税価格に算入されるべきものである旨主張するので、次に、本件返還金は本件被相続人の相続財産であるか否かについて検討する。
A 本件入居契約では、本件入居契約の当事者は入居者(本件被相続人)と本件会社であって、返還金受取人(G)は契約当事者以外の関係者とされている(上記(2)のイの(イ)のA及びC)。また、本件入居契約では、入居者は自分が死亡した場合の入居一時金の返還金の受取人1名を定めることとした(上記(2)のイの(イ)及び(ホ))上で、入居者が死亡した場合、本件会社は上記返還金受取人に対して返還金を返還することとする条項が存する(上記(2)のイの(ハ)及び(ニ))が、本件入居契約には、入居者が死亡した場合に、返還金受取人となっていない入居者の相続人に返還金を返還することを可能とする条項は存しないことに照らすと、本件入居契約に存する上記返還金受取人に関する条項は、返還金の返還を請求する権利者を定めたものというべきである。
 上記のとおりの本件入居契約の内容によれば、本件入居契約のうち本件入居一時金の返還金に係る部分は、入居者(本件被相続人)と本件会社との間で締結された、入居者死亡時の返還金受取人(G)を受益者とする第三者のためにする契約であって、入居者死亡時の返還金受取人(G)は、本件入居契約により、入居者(本件被相続人)の死亡を停止条件として、本件会社に対して直接返還金の返還を請求する権利を取得したものと解すべきである。
B したがって、本件返還金は本件被相続人の相続財産であるということはできず、これを前提とする原処分庁の主張は、採用することができない。
(ロ) 本件返還金の額は本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否かについて
 次に、本件返還金の額は本件相続税の課税価格に算入されるべきものか否かについて検討する。
A 相続税法第9条は、法律的には贈与によって取得したものとはいえないが、そのような法律関係の形式とは別に、実質的にみて、贈与を受けたのと同様の経済的利益を享受している事実がある場合に、租税回避行為の防止、税負担の公平の見地から、その取得した経済的利益を贈与によって取得したものとみなして、贈与税を課税することとしたものである。
B 本件において、入居者死亡時の返還金受取人であるGは、本件入居契約により、受益者として、入居者である本件被相続人の死亡を停止条件として本件会社に対して直接本件入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を取得している(上記(イ)のA)。この取得原因についてみると、贈与とは、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思を表示し、相手方が受諾することによって成立する契約であるところ、本件入居契約の内容は上記(イ)のAのとおりであるから、本件入居契約のみをもって、本件被相続人とGとの間に本件入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利を贈与する旨の死因贈与契約が成立していたと認めることはできないし、その他当審判所の調査の結果によっても、本件相続開始時より前に、当該当事者間でその旨の死因贈与契約が成立していた事実や、本件被相続人がその旨の遺言をしていた事実を認めることはできないものの、まる1本件預け金があったとは認められないこと(上記イの(ハ))、まる2本件入居一時金の原資は本件M定期預金の一部であると認められること(上記(2)のロ)からすれば、実質的にみて、Gは、第三者(G)のためにする契約を含む本件入居契約により、本件相続開始時に、本件被相続人に対価を支払うことなく、同人から本件入居一時金に係る返還金の返還を請求する権利に相当する金額の経済的利益を享受したというべきである。
 したがって、Gは、当該経済的利益を受けた時、すなわち、本件相続開始時における当該利益の価額に相当する金額(別表2のとおり、返還を受ける際に控除されるべき費用等があることから、当該費用等を控除した後の金額(本件返還金と同額))を本件被相続人から贈与により取得したものとみなす(相続税法第9条)のが相当である。
(ハ) そして、Gは、本件被相続人から相続により他の財産を取得していることから、相続税法第9条の規定により本件被相続人から贈与により取得したものとみなされる利益の価額(本件返還金と同額)は、当該他の財産に加算され、本件相続税の課税対象となる(相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項)。
(ニ) したがって、本件返還金の額は、Gの本件相続税の課税価格に算入されるべきである。

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4 争点2について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 本件未収金は、本件相続開始日時点において本件被相続人に対して支払われることが確定していた金員であるから、本件被相続人の相続財産として、本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。  原処分庁が申告漏れであるとした本件未収金は、その存在が明らかでないから、本件相続税の課税価格に算入されるべきものではない。

(2) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ S院の恩給年金の支給手続等について
(イ) S院は、退職した後の○○員等に対し恩給年金等を支給する旨の本件恩給規程を定めていた。
(ロ) 本件恩給規程には、まる1上記(イ)の○○員に対し、恩給年金を支給すること(本件恩給規程第1条)、まる2上記(イ)の恩給年金は、まるア上記(イ)の○○員が退職した場合、その翌月から起算し、所定の年数割合により終身にわたり支給されること(本件恩給規程第2条)、まるイその年額を12等分して1か月とし、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の6期にそれぞれ前月分までを支払うこと(本件恩給規程第10条)などが定められていた。
 また、S院は、本件恩給規程第2条の定めについて、上記(イ)の恩給年金の受給者が死亡した場合の当該恩給年金の支給は、その死亡した月分の支払をもって終了すると解し、その支払方法は、まる1死亡した受給者の預金口座への振込み、又はまる2当該口座の解約・凍結等があった場合は、その相続人の預金口座への振込みによるとの取扱いをしていた。
ロ 本件被相続人に係る恩給年金の支給の終了の状況について
(イ) S院は、本件被相続人の死亡についてGから連絡を受けた後、平成21年7月14日付で、Gに対して、まる1恩給年金の支給は、同年8月17日に振込みを行う同年6月分及び同年7月分の支給をもって終了する旨、及びまる2恩給年金の終了に当たり、本件被相続人の除籍謄本等の書類の送付が必要となる旨を記載した書面を送付した。
 なお、S院は、Gから上記まる2の必要書類の送付を受けて、恩給年金の終了の手続をとった。
(ロ) 上記イの(ロ)の恩給年金の支払に係る事務を代行していたQ生命は、平成21年8月17日、本件被相続人の同年6月分及び同年7月分の恩給年金の合計額388,618円(本件未収金)を、P銀行i支店の本件被相続人名義の普通預金口座(別表3のNo.7)への振込みにより支払し、本件被相続人に係る恩給年金の支給は、当該支払をもって終了した。

(3) 判断

イ 上記(2)のイの(ロ)のとおり、本件恩給規程第1条は、S院を退職した後の○○員に対して恩給年金を支給する旨を、また、本件恩給規程第2条は、恩給年金は終身にわたり支給する旨をそれぞれ定めているところ、その定めの内容に照らすと、恩給年金の受給者は、その死亡時において死亡した月分までの恩給年金の受給権を有しているものと解され、本件被相続人の場合、本件相続開始時において、平成21年7月分までの恩給年金の受給権を有していたこととなる。
 そして、本件未収金は、本件被相続人の平成21年6月分及び同年7月分の恩給年金の支払がされたものであり、本件被相続人の預金口座への振込みにより、本件相続開始時において本件被相続人が有する恩給年金の受給権が履行されたものであるから、本件未収金の額は、本件相続開始時における本件被相続人の相続財産として、本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。
ロ 請求人は、本件未収金について、その存在が明らかでないから、本件相続税の課税価格に算入されるべきものではない旨主張する。
 しかしながら、まる1P銀行i支店の本件被相続人名義の普通預金口座へ本件未収金が振り込まれていること(上記(2)のロの(ロ))によれば、本件未収金の存在は明らかであり、また、まる2S院からGに対して送付された平成21年7月14日付書面の内容(上記(2)のロの(イ))をみれば、上記まる1の振込みに係る金員が本件被相続人に支給された恩給年金であることを容易に認識することができ、さらに、まる3上記まる2の書面を受けて、Gが恩給年金の終了の手続に必要な書類をS院に送付していること(上記(2)のロの(イ))に照らすと、請求人の主張は前提を欠くものであり、理由がない。

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5 争点3について

(1) 主張

原処分庁 請求人
 本件相続開始日時点における本件各預金の残高は、本件更正処分における各金額であるから、当該各金額が本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。  請求人が申告した本件各預金の各金額は、Gが本件相続開始日後に解約して受領した各金額と同額であり、誤りがないものであるから、当該各金額(実際の払出金額)が本件相続税の課税価格に算入されるべきものである。

(2) 法令解釈等

 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、相続人は相続開始の時から一身専属権を除く被相続人の財産を包括承継するものであり(民法第896条《相続の一般的効力》)、かつ、相続は死亡によって開始する(民法第882条《相続開始の原因》)から、相続により取得した財産の価額は、被相続人の死亡時(相続開始時)における時価によることとなる。
 そして、相続税法に特別の定めがない預貯金の価額について、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達)203《預貯金の評価》は、原則として、まる1課税時期(相続開始時)における預入高と、まる2同時期現在において解約するとした場合に既経過利子の額として支払を受けることができる金額から当該金額につき源泉徴収されるべき所得税(地方税分も含む。)の額に相当する金額を控除した後の金額との合計額(まる1まる2)によって評価することとしているところ、当審判所も、当該評価による預貯金の価額は、相続により取得した預貯金の取得の時における時価として相当と考える。

(3) 認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、以下の事実が認められる。
イ 本件相続開始時における本件各預金の各預入高は、別表3の「預入高」の各欄の金額のとおりであり(上記3の(2)のニの(ロ))、財産評価基本通達203の定めによる評価額は、同表の「評価額」の各欄の金額のとおりである。
ロ 本件各預金のうち、M銀行f支店の各預金については、平成21年12月22日、まる1別表3のNo.2ないし6の各定期預金が解約され、まる2その解約金が利息とともに同表のNo.1の普通預金口座(本件M普通預金口座)へ振替入金された後、まる3本件M普通預金口座も解約され、70,244,779円が出金された。
ハ 本件各預金のうち、P銀行i支店の普通預金(別表3のNo.7)については、まる1本件相続開始日の午後4時38分に500,000円、そして、まる2平成21年7月○日から同年9月15日までの間に6,000,000円(各500,000円ずつ合計12回)が出金された後、まる3平成22年1月28日、解約により、269,278円が出金された。
 また、まる4別表3のNo.8の定期預金1,000,000円及びまる5同表のNo.9ないし13の各定期預金合計26,000,000円は、平成22年1月28日に解約され、それぞれの払戻金1,000,987円(まる4)及び26,016,585円(まる5)が出金された。
 以上から、P銀行i支店の各預金からの平成22年1月28日の出金額は、合計27,286,850円であった。
ニ 別表1のNo.1の期限後申告及び本件修正申告において請求人が本件相続税の課税価格に算入した本件各預金の金額は、まる1M銀行f支店の普通預金及び定期預金の合計額70,244,779円と、まる2P銀行i支店の普通預金及び定期預金の合計額27,286,850円との合計97,531,629円であり、当該金額は、上記ロ及びハ記載の平成21年12月22日(M銀行f支店分)及び同22年1月28日(P銀行i支店分)の解約による出金額の合計と同額である。

(4) 判断

イ 上記(2)のとおり、預貯金の価額の評価は財産評価基本通達203の定めによるのが相当であるところ、当審判所において本件各預金について当該定めにより評価すると、別表3の「評価額」欄のとおりとなるから、本件各預金の本件相続税の課税価格に算入すべき価額は、103,188,419円である。
ロ 請求人は、申告に係る本件各預金の価額は、Gが本件相続開始日の後に解約して受領した各金額と同額であり、誤りがない旨主張する。
 しかしながら、当該申告における本件各預金の価額は、本件相続開始日の後の期間の既経過利子を含み(上記(3)のロ)、また、本件相続開始時の後に6,500,000円の出金がされるなどした後のもの(上記(3)のハ)であって、本件相続開始時における本件各預金の価額といえるものではないから、請求人の主張には理由がない。

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6 本件更正処分について

 本件更正処分に係る各争点に対する判断は、上記3ないし5のとおりであり、本件相続税の請求人の納付すべき税額は、当審判所において計算した結果、別表5のとおり○○○○円となる。
 そうすると、本件更正処分における請求人の納付すべき税額○○○○円は、上記の当審判所が計算した税額○○○○円を超えているから、当該超える部分の金額について、別紙3のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきである。

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7 本件賦課決定処分について

 期限内申告書の提出がなかったこと及び本件更正処分により新たに納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに本件修正申告の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成23年法律第114号による改正前のものをいう。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書及び第4項に規定する正当な理由は認められず、当審判所において上記6の判断を踏まえて無申告加算税の額を計算した結果、別表6のとおり○○○○円となるところ、本件賦課決定処分における無申告加算税の額○○○○円は、上記の当審判所が計算した金額の範囲内であるから、本件賦課決定処分は適法である。

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8 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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