(平成27年7月21日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、○○業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税について、推計の方法により事業所得の金額を算出して、所得税の更正処分等を行い、また、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、請求人は帳簿及び請求書等を保存していないことから課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)は認められないとして、消費税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が原処分庁の行った推計の方法に合理性はなく、課税仕入れはあるのだから仕入税額控除を認めるべきであるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成22年分、平成23年分及び平成24年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、それぞれ確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に申告した。

ロ 請求人は、平成20年1月1日から平成20年12月31日まで、平成21年1月1日から平成21年12月31日まで、平成22年1月1日から平成22年12月31日まで、平成23年1月1日から平成23年12月31日まで及び平成24年1月1日から平成24年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成20年課税期間」、「平成21年課税期間」、「平成22年課税期間」、「平成23年課税期間」及び「平成24年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、それぞれ確定申告書に別表2の「1確定申告」欄のとおり記載して、いずれも平成26年2月4日に原処分庁に申告した。

ハ 原処分庁は、上記ロに対し、平成26年3月11日付で、別表2の「2賦課決定処分」欄のとおり本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税の各賦課決定処分をした。 

ニ 原処分庁は、上記イに対し、平成26年3月12日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする本件各年分の所得税の各更正処分(以下「本件所得税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件所得税各賦課決定処分」という。)をした。

ホ 原処分庁は、上記ロに対し、平成26年3月12日付で、別表2の「3更正処分等」欄のとおりとする本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」といい、本件所得税各更正処分と併せて「本件各更正処分」という。)及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件消費税等各賦課決定処分」といい、本件所得税各賦課決定処分と併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ヘ 請求人は、原処分を不服として平成26年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付で、本件各年分の総所得金額がいずれも本件所得税各更正処分の金額を上回り、また、本件各課税期間の課税標準額並びに納付すべき消費税額及び地方消費税額がいずれも本件消費税等各更正処分の額と同額となることを理由にいずれも棄却の異議決定をした。

ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成26年7月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項は、税務署の当該職員は、所得税又は消費税に関する調査について必要があるときは、1所得税法の規定による所得税の納税義務がある者又は納税義務があると認められる者、21に掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認められる者又は1に掲げる者から金銭若しくは物品の給付を受ける権利があったと認められる者、3消費税法の規定による消費税の納税義務がある者又は納税義務があると認められる者、43に掲げる者に金銭の支払若しくは資産の譲渡等をする義務があると認められる者又は3に掲げる者から金銭の支払若しくは資産の譲渡等を受ける権利があると認められる者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる旨規定している(以下、同項の規定による、1及び3の者に対する質問検査権の行使を「本人調査」、2及び4の者に対する質問検査権の行使を「取引先等調査」という。)。

ロ 通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項は、税務署長等は、税務署の当該職員に納税義務者に対し実地の調査において同法第74条の2の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求(以下「質問検査等」という。)を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者に対し、その旨並びに質問検査等を行う実地の調査を開始する日時、調査を行う場所、調査の目的、調査の対象となる税目、調査の対象となる期間及び調査の対象となる帳簿書類その他の物件、その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項を通知するものとする旨規定している。

ハ 所得税法第156条《推計による更正又は決定》は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計して、これをすることができる旨規定している。

ニ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が、国内において行う課税仕入れについては、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨、同条第7項は、事業者が当該課税期間の同条第8項及び第9項の規定に該当する課税仕入れの税額の控除に係る帳簿(以下「法定帳簿」という。)及び請求書等(以下、法定帳簿と併せて「法定帳簿等」という。)を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れに係る消費税額については、同条第1項の規定を適用しない旨それぞれ規定している。

(4) 基礎事実等

以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく当審判所の調査の結果によっても認められる事実又は証拠によって容易に認められる事実である。

イ 請求人は、平成20年1月1日から平成24年12月31日まで、「H」の屋号でe市内の○○に対し、○○のサービスを提供する事業を営んでいた。

ロ 請求人の夫であるJは、本件各年分において、所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第3項第1号イに規定する事業専従者であった。

ハ 請求人は、平成20年1月1日から平成24年12月31日までにおいて、事業に関する帳簿を作成しておらず、領収証等は破棄していた。

ニ 原処分に係る調査(以下「本件調査」という。)において、平成25年11月12日に本件調査の担当職員(以下「本件調査担当者」という。)が請求人の自宅兼事業所に臨場した時の状況は、次のとおりである。

(イ) 本件調査担当者は、平成25年11月12日午前9時頃に請求人の自宅兼事業所に臨場した(以下、同日の臨場を「本件臨場」という。)が、原処分庁は、本件臨場の前に請求人に対し、通則法第74条の9第1項に規定する通知(以下「事前通知」という。)をしなかった。

(ロ) 本件調査担当者は、請求人の自宅兼事業所の玄関の外に立ち、請求人であることを確認した上、請求人及びJに身分証明書及び質問検査章を提示して所属と氏名を述べ、請求人の税務調査のために来訪した旨を伝えた。

(ハ) 請求人とJは、本件調査担当者に対して、請求人は○○なので申告関係についてはJが対応する旨申し出るとともに、電話をかける必要がある旨申し出て、玄関のドアを開けたまま両名ともに部屋の奥に入っていった。

(ニ) 本件調査担当者が玄関の外から請求人に呼びかけていたところに、Uの事務局員2名が来て、本件調査担当者に対して「請求人は○○で体調が悪い。事前通知もなく朝早くから来て非常識である。」旨の発言を繰り返した。本件調査担当者が、請求人及びJに対して調査に協力するよう繰り返し要請したところ、Jは、「本日は都合が悪い。日程を調整してから電話連絡するので今日は帰ってほしい。」旨の申出を繰り返し、玄関のドアを閉めた。その後、本件調査担当者が玄関の外から請求人に呼びかけたが、請求人は応答しなかったので、本件調査担当者は、事業に関する質問及び帳簿書類その他の物件の検査を行わずG税務署に戻った。

ホ 平成25年11月12日午前10時45分頃、JはUの事務局員2名とともにG税務署を訪れた。本件調査担当者は、Jに対し、質問検査等を行う実地の調査の相手方、調査担当者、調査の目的、対象税目、対象期間等を説明した。また、本件調査担当者は、調査の開始日時及び調査場所については、帰宅したJに電話し、平成25年11月21日午後2時、請求人の自宅兼事業所とした。

ヘ 平成25年11月21日午後2時頃、本件調査担当者は、請求人の自宅兼事業所において、Jと面接し、事業概況等に係る質問及び帳簿書類の保存状況等について確認した。

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2 争点

(1) 争点1 本件臨場の前に、事前通知をしなかったことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。

(2) 争点2 本件調査において、請求人に対する本人調査の前に、請求人の取引先等に対する取引先等調査をしたことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。

(3) 争点3 原処分庁が採用した所得税に係る推計方法に合理性があるか否か。

(4) 争点4 本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除の適用が認められるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(本件臨場の前に、事前通知をしなかったことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
イ 通則法第74条の9において、原則、事前通知をすることになっており、事前通知をしないことは例外である。請求人が、事前通知を要しない場合として平成24年9月12日付「国税通則法第7章の2《国税の調査》関係通達」(以下「手続通達」という。)4−9《「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認める場合の例示》及び4−10《「その他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があると認める場合の例示》に列挙されているいずれかに該当することについて、原処分庁の具体的立証がなされていないから、原処分庁は請求人に対し事前通知をするのが当然であるにもかかわらず、事前通知をしなかったことは違法である。
 なお、原処分庁に対し、「調査経過記録書」と「事前通知を要しない調査の適否検討表」の開示を求めたが、開示された内容からは、適法に事前通知をしなかったのかを判断することはできなかった。
 本件調査担当者は、事前通知をすることなく、本件臨場をしたが、その段階では、上記1の(4)のニのとおり、請求人に対し通則法第74条の9第1項に規定する通則法第74条の2の規定による質問検査等をしていないことから、事前通知をすることなく本件臨場をしたことが、通則法第74条の9の規定に違反するとは認められない。
 また、上記1の(4)のホのとおり、本件臨場の後にJに対して通則法第74条の9第1項に規定する事前通知事項を説明し、その後、同ヘのとおり請求人の自宅兼事業所に臨場して質問検査権を行使して調査を実施していることから、本件調査においては通則法第74条の9第1項の規定に従って、調査の事前通知を行っている。
 したがって、本件臨場の前に、事前通知をしなかったことは、原処分を取り消すべき事由に該当しない。
ロ 原処分庁は、適法に事前通知をしなかったのであればその理由を明らかにすべきであり、原処分庁が事前通知をしなかった理由を明らかにしなかったことは、通則法の改正の趣旨が、調査手続の透明性及び納税者の予見可能性を高めるということであることからすれば違法である。
 また、その調査が適法であったことを請求人が了知し得る理由が明らかでない以上、当該調査に対し請求人に受忍義務が存するのか判断できない。
ハ 本件臨場において、本件調査担当者が、請求人に対面し、「Fさん(請求人)ですか。」と質問の上、身分証明書と質問検査章を提示した行為は、質問検査権の行使そのものである。
 したがって、原処分庁は、本件臨場の前に請求人に対し事前通知をする必要があったにもかかわらず、事前通知をしなかったことは、通則法第74条の9第1項に規定する事前通知の不備に当たり、適正手続を欠いた違法調査であるので、原処分は取り消されるべきである。

(2) 争点2(本件調査において、請求人に対する本人調査の前に、請求人の取引先等に対する取引先等調査をしたことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。)について

請求人 原処分庁
 原処分庁は、本件調査担当者が無予告で請求人の自宅兼事業所に臨場した日より前に、請求人の預金残高の確認等のため銀行調査を行っており、このことは違法であり、原処分は取り消されるべきである。  質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されている。
 そして、当該職員の所得税等に関する質問検査権について規定している通則法第74条の2は、所得税及び消費税に関する調査に係る質問検査の相手方となる取引先等の範囲については規定しているものの、本人調査の後に取引先等調査をするか、あるいは取引先等調査の後で本人調査を行うかについては規定しておらず、当該職員が納税義務者に関する個別事情を総合判断して合理的に決定すべきものと考えられる。
 原処分庁は、諸般の具体的事情に鑑み、必要があったために、本人調査より前に取引先等調査を行ったものであり、違法な点はない旨主張しているが、通則法の改正により本人調査には事前通知が原則となった以上、本人調査前に取引先等調査をすることは法の精神をゆがめるものであり、その理由である「諸般の具体的事情に鑑み」とはどのような事情か明らかにされなければ、原処分庁の一方的な判断にすぎない。  本件調査においては、調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、請求人の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、必要があったため、本件調査担当者が、本人調査より前に取引先等調査を行ったものであり、違法な点はない。

(3) 争点3(原処分庁が採用した所得税に係る推計方法に合理性があるか否か。)について

原処分庁 請求人
イ 資産負債増減法は、納税義務者の当該年における純資産の増加分は、当該年の事業所得によって賄われたものであるとの合理的な経験則に立脚したものである上、所得の処分に相当する部分は、事業所得が充てられたものとして、これを加算し、事業所得以外の所得や非課税所得に該当する部分がある場合は、これを控除するなどの調整を施したものであって、推計の基礎となるべき各科目の金額を正確に把握し得る限り、所得の推計方法として十分な合理性を有するものということができると解されている。
 また、推計課税は、課税標準を実額で把握することが困難な場合、税負担公平の観点から、実額課税の代替的手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算定することを課税庁に許容した実体法上の制度と解するのが相当であり、その推計の結果は、真実の所得と合致している必要はなく、実額近似値で足りるから、推計方法の合理性も、真実の所得を算定し得る最も合理的なものである必要はなく、実額近似値を求め得る程度の一応の合理性で足りると解すべきである。したがって、他により合理的な推計方法があるとしても、課税庁の採用した推計方法に実額課税の代替手段にふさわしい一応の合理性が認められれば、推計課税は適法というべきである。
 本件においては、本件調査において、本件調査担当者が請求人に対し、再三、本件各年分の所得税の事業所得の金額の計算に必要な帳簿書類等の提示を求めたが、請求人から帳簿書類等の提示がなかったことから、実額による収支計算の方法で本件各年分の所得税の事業所得の金額を算定することができず、推計課税により本件各年分の事業所得の金額を算定する必要があった。そこで、請求人の取引先等に対する取引先等調査を実施したところ、預貯金及び有価証券等の金額を、正確に把握したことから、この金額を推計の基礎として、請求人の本件各年分の事業所得の金額を算定したのであり、当該事業所得の金額は、本件調査により把握した請求人の資産及び負債等の増減状況から求めた純資産の増減額に所得の処分と認められる生活費等の加算調整項目の金額を加算し、事業所得に係る収入以外の収入と認められる預金利子等の減算調整項目の金額及び事業専従者控除額を控除する方法により算定しており、原処分庁が採用した所得税に係る推計の方法には合理性がある。
 したがって、原処分において、資産負債増減法により推計課税を行ったことは適法かつ相当であり、原処分庁が他の推計方法による推計課税を行うことができたはずであるとする請求人の主張には理由がない。
イ 原処分庁は、請求人の取引のある○○への調査により請求人の収入金額を把握し、また、請求人が客から受け取る○○料金のうち○割を○○へ支払い、○割を○○へ支払っていることや事業所の減価償却費及び水道代等、請求人の経費についても調査によって把握可能であり、当然把握しているものと推認されるので、これを基に実額に近い、請求人の経営・生活実態に即した合理的な推計ができたはずである。
ロ 生活費の額を総務省統計局が作成した家計調査年報の「世帯人員別1世帯当たり1か月間の収入と支出」の消費支出額に基づき算定したのは、公的機関によって一般に公表されている統計値を用いることに合理性があると判断したからである。 ロ 資産負債増減法による推計では、生活費の部分を統計資料から算定しているが、請求人の生活実態を反映しておらず、合理性がない。

(4) 争点4(本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除の適用が認められるか否か。)について

原処分庁 請求人
 消費税法第30条第1項は、課税標準額に対する消費税額から、仕入税額控除をすることとしているが、同条第7項において、当該課税期間の法定帳簿等の保存がない場合は、同条第1項の規定は適用しない旨規定している。そして、事業者が、税務職員による検査に当たって適時に法定帳簿等を提示しなかった場合は、法定帳簿等の保存がない場合に当たると解されているところ、請求人は、本件調査担当者に対し、本件各課税期間の法定帳簿等を提示しなかったことから、本件各課税期間において仕入税額控除の適用は認められない。  原処分庁は、本件各課税期間の法定帳簿等がないということを理由に、本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除をすることはできないとして本件消費税等各更正処分をした。
 しかしながら、消費税の本質的な課税標準額は、飽くまでも課税売上額から課税仕入額を控除した金額であり、原処分庁は、売上げに対応する経費があることは分かっているのだから、課税売上額に連動する課税仕入額を推計により算定することができたと思われる。
 したがって、上記の推計により算定した課税仕入額により、本件各課税期間において仕入税額控除の適用が認められる。

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4 判断

(1) 争点1(本件臨場の前に、事前通知をしなかったことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。)について

本件調査担当者は、上記1の(4)のニのとおり、事前連絡をしないで請求人の自宅兼事業所を訪れ、請求人であることを確認した上で、身分証明書と質問検査章を提示し、所属と氏名を述べ、税務調査のために来訪した旨を伝えているが、請求人の課税標準等又は税額等を認定する目的で、請求人に質問し、又はその事業に関する帳簿、書類その他その調査事項に関連性を有する物件の検査をした事実は認められず、質問検査権の行使を行ってはいない。
 なお、請求人は、上記3の(1)のハのとおり、本件臨場において、本件調査担当者が、請求人に対面し、「Fさん(請求人)ですか。」と質問の上、身分証明書と質問検査章を提示した行為は、質問検査権の行使そのものである旨主張するが、本件調査担当者は請求人の事業に関する質問や帳簿書類その他の物件の検査等に至っていないのであるから、質問検査権の行使に当たらないことは明らかである。
 以上から、本件臨場の前に、事前通知をしなかったことが、原処分を取り消すべき事由には該当しない。

(2) 争点2(本件調査において、請求人に対する本人調査の前に、請求人の取引先等に対する取引先等調査をしたことが、原処分を取り消すべき事由に該当するか否か。)について

上記1の(3)のイのとおり、通則法第74条の2の規定は、取引先等調査をするに当たり、取引先等調査の前に本人調査をすることを要件としておらず、また、その他の法令にも取引先等調査の前に本人調査をすることを求める規定はないことから、本件調査において、請求人に対する本人調査の前に、請求人の取引先等に対する取引先等調査をしたことは何ら違法ではなく、原処分を取り消すべき事由には該当しない。
 なお、請求人は、上記3の(2)のとおり、通則法の改正により、本人調査には事前通知が原則となった以上、本人調査前に取引先等調査をすることは法の精神をゆがめるものである旨主張するが、具体的な違法事由を主張するものではなく、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(原処分庁が採用した所得税に係る推計方法に合理性があるか否か。)について

請求人は、事業所得の金額を推計の方法により算定することについて争わないところ、当審判所の調査の結果によっても、請求人は、上記1の(4)のハのとおり、請求人の事業に関する帳簿書類等を作成、保存していないことが認められ、このような状況下では、原処分庁としては、本件各年分の請求人の事業所得の金額を直接資料から把握することができないので、推計による課税の必要性があったものと認められる。
 また、請求人は、当審判所に対しても、帳簿書類等の提示を行わなかったことから、当審判所においても、推計の方法により本件各年分の事業所得の金額を算定せざるを得ない。
 そこで、当審判所において、原処分庁の採用した推計方法の当否を原処分関係資料等により検討したところ、次のとおりである。

イ 推計の合理性の判断基準
 納税者の所得金額を把握するのに十分な資料がない場合に合理的な推計の方法により所得金額を算定することは、十分な資料がないというだけで課税を見合わせることが許されないことからいっても、当然に許容されるものである。
 そして、推計の方法による所得金額の算定は、真実の所得金額と合致することが期し難いことをもって違法となることはなく、納税者の所得金額と認めるに足りる近似性が確保される一応の合理的な推計の方法をもって算定することで足りると解される。
 また、資産負債増減法は、所得の処分ないし留保の状態から所得の金額を把握しようとするものであって、その年における純資産の増加額はその年の所得により賄われるものであるとの合理的な経験則に基づき、当該資産の増加額に、その年中に処分(消費)した所得の金額を加算し、事業所得以外の収入や非課税所得に該当する金額を減算するなどの調整を施して事業所得の金額を算定するものであり、推計の基礎となるべき各項目の金額を正確に把握し得る限り、所得の推計方法として十分な合理性を有するものと解するのが相当である。

ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 原処分庁が採用した所得税に係る推計方法
 原処分庁は、請求人の所得税に係る推計方法として資産負債増減法を採用し、請求人及び請求人と生計を一にするJに係る1資産及び負債の本件各年分の年初と年末の価額を比較するなどして求めた純資産の増加額に、2生活費、租税公課等の処分(消費)した所得の金額を本件各年分の加算調整項目として加算し、3年金収入、預金利子等の事業所得以外の収入金額を本件各年分の減算調整項目として減算して、請求人の本件各年分の事業所得の金額を別表3の19欄の各金額のとおり算定したことが認められるところ、原処分庁が認定した上記各項目及び金額(原処分庁主張額)は、次のとおりである。

A 純資産の増加額
 原処分庁は、平成21年12月31日、平成22年12月31日、平成23年12月31日及び平成24年12月31日(以下、順次「平成21年末」、「平成22年末」、「平成23年末」及び「平成24年末」といい、これらを併せて「本件各年末」という。)における純資産の額を算定し、本件各年末の純資産の額から本件各年末に対応する年初の純資産の額(前年末の純資産の額)を差し引いて純資産の増加額を算定しているところ、その算定の基となった資産及び負債の種類及び本件各年末の価額は、次のとおりである。

(A) 資産の額

a 現金の額
 別表3の1欄の各金額のとおり、請求人が自宅に保管していた○○○○円である。

b 預貯金等の額
 請求人及びJの各名義の預貯金等口座の本件各年末における残高の合計金額で別表3の2欄の各金額であり、本件各年末の内訳及び金額は、別表4のとおりである。

c 土地建物の額
 請求人の自宅兼事業所(Jが昭和55年6月に21,000,000円で取得した鉄骨鉄筋コンクリート造8階建マンションの○号)で、本件各年末の価額は別表3の3欄の各金額であり、本件各年末の建物と土地の内訳額は次表のとおりである。

(単位:円)
項目 取得価額 平成21年末 平成22年末 平成23年末 平成24年末
建物 9,149,256 3,790,088 3,608,933 3,427,778 3,246,623
土地 11,850,744 11,850,744 11,850,744 11,850,744 11,850,744
合計 21,000,000 15,640,832 15,459,677 15,278,522 15,097,367
(注) 1 建物と土地のそれぞれの取得価額が明らかでないことから、建物の取得価額は、昭和55年当時の鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の1平方メートル当たりの標準的な建築価額(「建築統計年報(国土交通省)」の「構造別:建築物の数、床面積の合計、工事費予定額」表を基に、1平方メートル当たりの工事費予定額を算出したもの。)149,400円に床面積61.24平方メートルを乗じて算定し、残額を土地の取得価額とした。
2 建物の本件各年末の価額は、旧定額法(耐用年数47年、償却率0.022)により算定した未償却残高である。

d 車両運搬具の額
 J名義の普通乗用車で別表3の4欄の各金額であり、本件各年末の車両運搬具の額は、次表のとおり、定額法(耐用年数6年、償却率0.167)により算定した未償却残高である。

(単位:円)
項目 取得年月 平成21年末 平成22年末 平成23年末 平成24年末
取得価額
普通乗用車 平成20年3月 1,073,381 815,027
1,547,030
普通乗用車 平成23年3月 1,291,250 1,040,750
1,500,000
合計 1,073,381 815,027 1,291,250 1,040,750

(B) 負債(預り金)の額
 請求人が、元従業員の両親から預かり、K組合の請求人名義の定期預金にしていたものを平成22年7月及び同年11月に返還したものであり、本件各年末の負債(預り金)の額は、別表3の6欄の各金額のとおりである。

B 加算調整項目

(A) 生活費の額
 総務省統計局が作成した家計調査年報の「世帯人員別1世帯当たり1か月間の収入と支出」の二人世帯に基づく「消費支出」の額に月数(12月)を乗じて算定した本件各年分の請求人に係る生活費の額であり、別表3の9欄の各金額のとおりである。

(B) 租税公課等の額
 本件各年分において、請求人又はJが納付等した租税公課等の額は、別表3の10欄の各金額であり、本件各年分の内訳及び合計金額は次表のとおりである。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分
申告所得税 ○○○○ ○○○○ ○○○○
市県民税 ○○○○ ○○○○ ○○○○
固定資産税(非事業用) ○○○○ ○○○○ ○○○○
国民健康保険税 ○○○○ ○○○○ ○○○○
介護保険料 ○○○○ ○○○○ ○○○○
合計 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(C) 生命保険料の額
 本件各年分において、請求人及びJが、L生命及びM生命との生命保険契約に基づき、銀行預貯金から口座振替により支払った保険料の金額は、別表3の11欄の各金額であり、本件各年分の保険料の金額及び口座振替の摘要は、次表のとおりである。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分 口座振替の摘要
L生命 335,918 307,443 ○○サービス
325,200 487,800 487,800 ○○カンリヒ
661,118 795,243 487,800
M生命 622,202 552,849 434,088 保険 g商品
497,953 保険 h商品
622,202 552,849 932,041
合計 1,283,320 1,348,092 1,419,841

(D) 減価償却費等調整額
 建物のうち請求人の事業の用に供していない部分に係る減価償却費の額は、別表3の12欄の各金額であり、次表のとおり算定している。
 なお、減価償却費等調整額は、異議審理庁が異議決定において算定した金額であり、本審査請求において原処分庁が主張する別表3の本件各年分の事業所得の金額は、本件所得税各更正処分に係る事業所得の金額に、当該調整額相当額を加算した金額である。

1減価償却費 2事業専用割合 3必要経費算入額
1×2
4減価償却費等調整額
13
181,156 21.43 38,822 142,334
(注) 1 減価償却費は、建物(取得価額9,149,256円)について旧定額法(耐用年数47年、償却率0.022)により算定したものである。
2 事業専用割合は、自宅兼事業所の総畳数(28畳)に占める事業用として使用している畳数(6畳)の割合である。

C 減算調整項目

(A) 預貯金利子の額
 上記Aの(A)のbの各預貯金の利子の金額は、別表3の14欄の各金額であり、本件各年分の内訳金額及び合計金額は別表5のとおりである。なお、当該金額は預貯金の利子に係る所得税等を控除した金額である。

(B) 公的年金収入等の額
 請求人及びJが受け取った公的年金等の金額は、別表3の15欄の各金額であり、本件各年分の内訳及び合計金額は次表のとおりである。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分
公的年金(請求人受領分) ○○○○ ○○○○ ○○○○
公的年金(J受領分) ○○○○ ○○○○ ○○○○
○○ ○○○○ ○○○○ ○○○○
合計 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(C) 保険金収入等の額
 請求人及びJが受け取った保険金等の金額は、別表3の16欄の各金額であり、本件各年分の受取状況は次表のとおりである。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分
保険収入 M生命 ○○○○ ○○○○ ○○○○
N社 ○○○○
P社 ○○○○
分配金 Q証券 ○○○○
その他 R社 ○○○○
合計 ○○○○ ○○○○ ○○○○

(D) 事業専従者控除額
 別表3の17欄の各金額のとおり、請求人の本件各年分における事業専従者であるJに係る事業専従者控除額○○○○円である。

(ロ) L生命との生命保険契約について
 当審判所からの照会に対するL生命の回答文書(平成27年5月18日収受)によれば、請求人は、L生命と平成20年4月1日に無配当終身保険(USドル建)の契約を締結し、本件各年分において、次表のとおり、J名義の銀行預金から口座振替により、保険料を支払ったことが認められる。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分 口座振替の摘要
L生命 335,918 307,443 ○○サービス
303,867 ○○サービス
合計 335,918 307,443 303,867

(ハ) 請求人の自宅兼事業所のマンション管理費について
 当審判所からの照会に対するS社の回答文書(平成27年5月22日収受)によれば、Jは、請求人の自宅兼事業所のTマンション組合からマンション管理費の集金事務代行業務を受託したS社に、マンション管理費平成22年分325,200円、平成23年分487,800円及び平成24年分487,800円を銀行預金から口座振替(口座振替の摘要は「○○カンリヒ」である。)により支払ったことが認められる。

ハ 判断

(イ) 争点について
 原処分庁は、本件各年分の事業所得の金額を資産負債増減法により算定しているところ、上記イのとおり、資産負債増減法は、所得の処分ないし留保の状態から所得の金額を把握しようとするものであって、その基礎となるべき各項目の金額を正確に把握し得る限り、所得の推計方法として十分な合理性を有すると解される。
 そこで、原処分庁が採用した資産負債増減法の基礎となる各項目及び金額について検討すると、次のとおりである。

A 基礎とした各項目の範囲について
 上記ロの(イ)のとおり、原処分庁は、請求人及びJに係る資産、負債及び処分(消費)した所得から、資産負債増減法におけるその基礎となる各項目の金額を算定しているところ、納税者に生計を一にする親族がある場合には、一般に、生活費等の支出すなわち所得の処分(消費)が一体としてなされるため、両者の資産及び負債は混在し、また、相互に関連して増減することとなるから、その生計内の特定の者に係る資産、負債及び処分(消費)した所得を他の者のものと明瞭に区分して、推計の基礎となるべき各項目の金額を正確に把握することは困難であるから、このような場合においては、両者の資産、負債及び処分(消費)した所得を区分せずに推計の基礎とした上で、各種調整を加え、その際に当該納税者と生計を一にする者に係る固有の収入等を控除するなどの調整を施すことによって、当該納税者の事業所得の金額を算出する方法を採るのが合理的である。
 これを本件についてみると、上記1の(4)のロのとおり、本件各年分において、Jは、請求人の事業専従者であり、請求人と生計を一にしていたと認められることから、原処分庁が、請求人とJに係る資産、負債及び処分(消費)した所得から、資産負債増減法におけるその基礎となる各項目の金額を算定したことは相当と認められる。

B 純資産の増加額

(A) 純資産の額

a 資産の額
 原処分庁は、本件各年末の現金の額を上記ロの(イ)のAの(A)のaのとおり、いずれも同額の○○○○円としているところ、現金は、特段の事情がない限り、その性質上余分に手元に置くものではなく、年初と年末とで大きな差がないのが通常であるから、原処分庁が、現金の額をいずれも同額として、結果として本件各年末の資産の額の増減に影響を及ぼさないとしたことは、当審判所においても相当と認められる。
 また、原処分庁が、上記ロの(イ)のAの(A)のbないしdのとおり、請求人及びJの各名義の別表4の預貯金等口座の本件各年末の残高のほか、Jが所有する土地建物等の本件各年末の資産の額を算定し、別表3の「資産」欄の2欄ないし4欄の各金額のとおりとしたことは、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。

b 負債の額
 原処分庁が、上記ロの(イ)のAの(B)のとおり、請求人及びJの本件各年末の負債の額を算定し、別表3の6欄の各金額のとおりとしたことは、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。

c 純資産の額
 上記a及びbで認定したことからすれば、本件各年末の資産の額から負債の額を控除した額が本件各年末の純資産の額となることから、原処分庁が別表3の7欄の各金額を本件各年末の純資産の額と認定したことは、当審判所においても相当と認められる。

(B) 純資産の増加額
 原処分庁が、本件各年末の純資産の額と当該各年の年初の純資産の額(前年末の純資産の額)とを比較して、別表3の8欄の各金額を本件各年分の純資産の増加額と認定したことは、当審判所においても相当と認められる。

C 加算調整項目

(A) 生活費の額
 上記ロの(イ)のBの(A)のとおり、原処分庁は、総務省統計局が作成した家計調査年報の「世帯人員別1世帯当たり1か月間の収入と支出」の二人世帯に基づく「消費支出」の額を基に本件各年分の請求人に係る生活費の金額を算定しているところ、家計調査年報における家計調査は、総務省統計局が、国民生活における家計収支の実態を毎月明らかにすることを目的として、一定の統計上の抽出方法に基づき選定された全国約9,000世帯を調査対象として、家計の収入、支出、貯蓄及び負債などを毎月調査し、その調査結果を公表するというものであって、その調査結果は、調査対象とされた世帯の標準的な家計収支等に関する統計として信頼性が高いものとされており、その数値の合理性及び客観性は、相当程度担保されていると認められるから、原処分庁が、本件各年分の請求人に係る生活費の額を家計調査年報の「消費支出」の金額を基に算定したことには合理性がある。
 ところで、原処分庁は、平成23年分の生活費の金額について別表3の9欄のとおり○○○○円と主張するが、当審判所の調査の結果によれば、原処分時には、平成23年分の家計調査年報の「消費支出」の金額が修正されていたことから、平成23年分の生活費の金額は、修正後の「消費支出」の額○○○○円とするのが相当である。

(B) 租税公課等の額
 原処分庁は、上記ロの(イ)のBの(B)のとおり、本件各年分の租税公課等の金額を認定しているところ、これらの各項目は、税金や社会保険料など世帯の自由にならない支出として家計調査年報の「非消費支出」に分類され、「消費支出」の金額に含まれていないから、原処分庁がこれらの各項目を租税公課等として加算調整項目としたこと及び各項目の金額は、当審判所においても相当と認められる。

(C) 生命保険料の額
 原処分庁は、上記ロの(イ)のBの(C)のとおり、本件各年分の生命保険料の金額を認定しているところ、生命保険料の金額について、当審判所において検討したところ、次のとおりである。

a L生命に係る生命保険料の金額について
 原処分庁は、上記ロの(イ)のBの(C)のとおり、L生命に係る保険料の金額を平成22年分661,118円、平成23年分795,243円及び平成24年分487,800円としているが、上記ロの(ロ)のとおり、Jは、平成24年も「○○サービス」(口座振替の摘要)としてL生命へ保険料303,867円を支払っていることから、原処分庁が認定した平成24年分の生命保険料の金額に当該金額を加算するのが相当である。
 また、Jが「○○カンリヒ」(口座振替の摘要)として支払った平成22年分325,200円、平成23年分487,800円及び平成24年分487,800円は、上記ロの(ハ)のとおり、請求人の自宅兼事業所に係るマンション管理費の支払であることから、原処分庁が認定した本件各年分の生命保険料の金額から当該金額を減算するのが相当である。

b 本件各年分の生命保険料の金額について
 当審判所の調査の結果によれば、L生命に係る生命保険契約及びM生命に係る生命保険契約は、養老保険及び終身保険に係る契約であり、当該各生命保険契約に基づく保険料の支出は、いずれも家計調査年報において、「実支出以外の支払」に分類され、「消費支出」の金額から除かれているから、原処分庁が当該各生命保険契約に係る保険料の支出を加算調整項目としたことは、当審判所においても相当と認められる。
 また、原処分庁がM生命に係る保険料の金額を上記ロの(イ)のBの(C)の表の「M生命」の「計」欄の各金額のとおり認定したことは、当審判所においても相当と認められるが、L生命に係る保険料の金額については、上記aのとおり原処分庁が認定した金額に加算及び減算するのが相当である。
 したがって、本件各年分の生命保険料の金額については、次表の4欄の各金額のとおりとするのが相当である。
 なお、マンション管理費は、家計調査年報において、「消費支出」の金額に含まれている。

(単位:円)
項目 平成22年分 平成23年分 平成24年分
原処分庁認定額 1 1,283,320 1,348,092 1,419,841
加算額 2 303,867
減算額 3 325,200 487,800 487,800
審判所認定額 4 958,120 860,292 1,235,908

(D) 減価償却費等調整額
 原処分庁は、上記ロの(イ)のAの(A)のcのとおり、建物の価額を、当該建物の本件各年末の未償却残高としているが、請求人の事業所として使用している部分に係る減価償却費以外は、資産負債増減法における資産の減少とすることは相当ではないことから、上記ロの(イ)のBの(D)のとおり減価償却費等調整額を算定して純資産の増加額に加算していることは、当審判所においても相当と認められる。

(E) まとめ
 上記(A)ないし(D)のとおり、原処分庁が認定した加算調整項目は、内容に一部誤りが認められるものの、他の各項目の内容は、資産負債増減法において加算すべき処分(消費)した所得の金額として相当であると認められるから、上記の誤りを是正した後の各項目及びその金額は、資産負債増減法における加算調整項目として相当と認められる。

D 減算調整項目
 原処分庁は、減算調整項目として、上記ロの(イ)のCのとおり認定しているところ、1請求人及びJの各名義の預貯金に係る受取利子の金額、2請求人及びJが受領した公的年金等の金額及び3請求人及びJが受領した生命保険契約に係る受取保険金や分配金等の金額は、いずれも請求人の事業に基づき受領したものとは認められず、原処分庁がこれらを資産負債増減法における減算調整項目としたこと及びその算定した金額は、当審判所の調査の結果によっても相当と認められる。
 なお、事業専従者控除額は、実際にJが受領した金額ではないことから、減算調整項目とするのではなく、推計により算定した所得金額から事業専従者控除額を差し引いて事業所得の金額とするのが相当である。

(ロ) 推計方法の合理性について
 上記イのとおり、資産負債増減法は、所得の処分ないし留保の状態から所得の金額を把握しようとするものであって、その基礎となる計算要素の正確性が担保される限り、真実の所得に近似した数値が算出される客観性を備えた方法ということができるところ、上記(イ)のBないしDのとおり、原処分庁が認定した資産負債増減法における純資産の増加額、加算調整項目及び減算調整項目については、加算調整項目及び減算調整項目の内容に一部誤り等が認められるものの、これらはいずれも是正可能なものであって、その他の純資産の増加額並びに加算調整項目及び減算調整項目の内容及び金額はいずれも相当と認められるから、純資産の増加額並びに一部の誤り等を是正した後の加算調整項目及び減算調整項目により算出された所得金額は、正確性が担保された計算要素に基づき算出された所得金額ということができる。
 以上から、原処分庁が採用した所得税に係る推計方法には合理性があるというべきである。

ニ 請求人の主張について

(イ) 請求人は、上記3の(3)のイのとおり、原処分庁は、請求人の取引先等に対する取引先等調査により請求人の収入及び経費について把握可能であり、当然把握しているものと推認されるので、これを基に実額に近い、請求人の経営・生活実態に則した合理的な推計ができたはずである旨主張する。
 しかしながら、推計課税において、原処分庁が採用した推計方法に合理性があると認められる場合に、請求人がより合理的な他の推計方法がある旨の主張をする場合には、当該推計方法を客観的具体的に主張立証する必要がある。そして、上記ハのとおり、原処分庁が採用した所得税に係る推計方法には合理性があると認められるところ、請求人は、推計方法及びその方法により算出される所得金額を、客観的具体的に主張立証していない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(ロ) 請求人は、上記3の(3)のロのとおり、原処分庁が統計資料から算定した生活費の額は、請求人の生活実態を反映しておらず、合理性がない旨主張する。
 しかしながら、生活費の額を実額により算定できない本件において、家計調査年報により生活費の額を推計することが著しく不合理となるような特別な事情について請求人から具体的な主張立証がなく、また、当審判所の調査の結果によっても、請求人に当該特別な事情があったとは認められないことからすると、上記ロの(イ)のBの(A)のとおり原処分庁が家計調査年報の数値を基に本件各年分の生活費の額を算定したことは相当であると認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除の適用が認められるか否か。)について

上記1の(4)のハのとおり、請求人は、本件各課税期間において事業に関する帳簿を作成しておらず、請求書等も保存していないことが認められ、また、請求人は帳簿及び請求書等を保存できなかったことにつきやむを得ない事情が存したことを主張、立証せず、当審判所の調査の結果によってもそのような事情が存したとは認められないことから、消費税法第30条第7項に規定する「帳簿及び請求書等を保存しない場合」に該当し、本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除の適用は認められない。
 また、請求人は、課税仕入額に係る消費税の額を推計により算出して仕入税額控除を認めるべきである旨主張するが、消費税法第30条第1項が規定する仕入税額控除は、同条第7項に規定するとおり、法定帳簿等が保存されている場合に限定して適用が認められると解するのが相当であるから、請求人の主張には理由がない。

(5) 本件各更正処分について

イ 本件所得税各更正処分について

(イ) 総所得金額
 上記(3)のとおり、原処分庁の資産負債増減法を用いた所得金額の推計方法には、加算調整項目及び減算調整項目の内容に一部誤り等が認められるものの、その推計方法には合理性が認められることから、当審判所において、資産負債増減法を用いて請求人の事業所得の金額を改めて算定すると、本件各年分の事業所得の金額は、別表6の18欄の各金額から事業専従者控除額○○○○円を控除した金額であり、同表の20欄のとおり、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となる。
 そして、当審判所の調査の結果によれば、請求人には、本件各年分において事業所得以外の所得金額はないから、上記の事業所得の金額が本件各年分の総所得金額となる。
 そうすると、本件各年分の総所得金額は、平成22年分が○○○○円、平成23年分が○○○○円、平成24年分が○○○○円となり、いずれも別表1の「更正処分等」欄の「総所得金額」欄の金額を下回る。

(ロ) 納付すべき税額

A 平成22年分について
 請求人の納付すべき税額は、総所得金額○○○○円から所得控除の合計額622,300円を控除した課税総所得金額○○○○円(千円未満切捨て)に税率を乗じて算定すると○○○○円となり、更正処分による納付すべき税額○○○○円を下回る。
 したがって、平成22年分の所得税の更正処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

B 平成23年分について
 請求人の納付すべき税額は、総所得金額○○○○円から所得控除の合計額668,900円を控除した課税総所得金額○○○○円(千円未満切捨て)に税率を乗じて算定すると○○○○円となり、更正処分による納付すべき税額○○○○円を下回る。
 したがって、平成23年分の所得税の更正処分は、別紙2の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

C 平成24年分について
 請求人の納付すべき税額は、総所得金額○○○○円から所得控除の合計額642,900円を控除した課税総所得金額○○○○円(千円未満切捨て)に税率を乗じて算定すると○○○○円となり、更正処分による納付すべき税額○○○○円を下回る。
 したがって、平成24年分の所得税の更正処分は、別紙3の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

ロ 本件消費税等各更正処分について
 上記(4)のとおり、本件各課税期間の消費税額の算定に当たり、仕入税額控除の適用は認められず、本件各課税期間の課税標準額並びに納付すべき消費税額及び地方消費税額は、いずれも本件消費税等各更正処分の額と同額となるから、本件消費税等各更正処分はいずれも適法である。

(6) 本件各賦課決定処分について

イ 本件所得税各賦課決定処分について

(イ) 本件所得税各更正処分は、上記(5)のイのとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、平成22年分○○○○円、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円となる。

(ロ) また、これらの納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件所得税各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。

(ハ) したがって、請求人の本件各年分の過少申告加算税の額は、平成22年分○○○○円、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円となる。

A 平成22年分について
 請求人の平成22年分の過少申告加算税の額は、別表1の「更正処分等」欄の「過少申告加算税の額」欄の金額を下回ることから、別紙1の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

B 平成23年分について
 請求人の平成23年分の過少申告加算税の額は、別表1の「更正処分等」欄の「過少申告加算税の額」欄の金額を下回ることから、別紙2の「取消額等計算書」のとおりその一部を取り消すべきである。

C 平成24年分について
 請求人の平成24年分の過少申告加算税の額は、別表1の「更正処分等」欄の「過少申告加算税の額」欄の金額と同額となるから、平成24年分の賦課決定処分は適法である。

ロ 本件消費税等各賦課決定処分について
 上記(5)のロのとおり、本件消費税等各更正処分は、いずれも適法であるところ、本件消費税等各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第66条《無申告加算税》第4項の規定により準用する同法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、同法第66条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び同法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてその計算も正当になされていることから、本件消費税等各賦課決定処分はいずれも適法である。

(7) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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