(平成27年12月18日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成25年分の純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求について、原処分庁が、当該還付請求に係る請求書に記載された退職所得に係る金額等が前年分の確定申告書に記載されていなかったことを理由に、当該退職所得に係る所得税を還付金の額の計算の対象にすることなく当該還付請求の一部に理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、法令上は、純損失が生じた年分の前年分の退職所得に係る金額等について確定申告書に記載することを要件としていないなどとして、当該通知処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯及び基礎事実

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人は、平成25年2月14日に、原処分庁に対して、平成24年12月21日に○○業を開業した旨記載した「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出した。

ロ 請求人は、平成25年2月14日に、平成24年分以後の所得税の青色申告承認申請書を提出し、同月15日をもって青色申告の承認があったものとみなされた。

ハ 請求人は、平成24年分の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「平成24年分」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 なお、平成24年分の所得税の確定申告書には、退職所得金額、課税退職所得金額及び退職所得に係る所得税が記載されていない。

ニ 請求人は、平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、青色の確定申告書に別表1の「平成25年分」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

ホ 請求人は、平成26年3月17日(上記ニの青色の確定申告書の提出と同日)に、原処分庁に対して、所得税法第140条《純損失の繰戻しによる還付の請求》第1項に基づいて、別表2のとおり、平成25年分の純損失の金額○○○○円を平成24年分に繰り戻し、所得税○○○○円を還付請求する旨記載した純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書(以下「本件繰戻し還付請求書」といい、本件繰戻し還付請求書に係る還付請求を「本件繰戻し還付請求」という。)を提出した。

ヘ 原処分庁は、平成26年11月28日付で、本件繰戻し還付請求に対して、純損失の繰戻しによる還付請求の一部に理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件通知処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)において、この処分に不服があるときは異議申立て又は審査請求をすることができる旨の教示をした。

ト 本件通知書には、本件繰戻し還付請求に係る還付金の額の計算の内訳として、別表3-1及び別表3-2のとおり記載がある。
 また、本件通知書の「処分の理由」欄には、要旨次の(イ)ないし(ニ)のとおりの記載がある。

(イ)請求人は、平成25年分の所得税等の確定申告書及び本件繰戻し還付請求書を平成26年3月17日に提出していること。

(ロ)本件繰戻し還付請求書に添付された平成24年分退職所得の源泉徴収票・特別徴収票によれば、D社から請求人宛に支払われた○○○○円は、所得税法第120条《確定所得申告》第2項第1号に該当する退職所得に係る支払であると認められること。

(ハ)本件繰戻し還付請求書には、純損失の繰戻しによる所得税の還付金の額の計算における前年分(平成24年分)の課税総所得金額を○○○○円、課税退職所得金額を○○○○円と記載があるところ、平成24年分の所得税の確定申告書には、退職所得金額及び課税退職所得金額の記載はないこと。

(ニ)したがって、平成24年分の所得税の確定申告書に記載された課税総所得金額を基礎として、純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付金の額を計算すると○○○○円となること。

チ 請求人は、本件通知処分を不服として、上記ヘの教示に従い、平成27年1月19日に審査請求をし、当該審査請求は国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第2号の規定により、適正な審査請求とされた。

(3)関係法令の要旨

イ 所得税法関係

(イ)所得税法第140条第1項は、青色申告書を提出する居住者は、その年において生じた純損失の金額がある場合には、当該確定申告書の提出と同時に、納税地の所轄税務署長に対し、@その年の前年分の課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額につき所得税法第2編第3章第1節(税率)の規定を適用して計算した所得税の額(同項第1号)から、Aその年の前年分の課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額から当該純損失の金額の全部又は一部を控除した金額につき同節の規定に準じて計算した所得税の額(同項第2号)を控除した金額に相当する所得税の還付を請求することができる旨規定している。
 そして、所得税法第140条第2項は、同条第1項の場合において、同項に規定する控除した金額に相当する所得税の額がその年の前年分の課税総所得金額、課税退職所得金額及び課税山林所得金額に係る所得税の額(附帯税の額を除く。)を超えるときは、同項の還付の請求をすることができる金額は、当該所得税の額に相当する金額を限度とする旨規定している。
 また、所得税法第140条第4項は、同条第1項の規定は、同項の居住者がその年の前年分の所得税につき青色申告書を提出している場合であって、その年分の青色申告書をその提出期限までに提出した場合に限り、適用する旨規定している。

(ロ)所得税法第142条《純損失の繰戻しによる還付の手続等》第1項は、同法第140条の規定による還付の請求をしようとする者は、その還付を受けようとする所得税の額、その計算の基礎その他財務省令で定める事項を記載した還付請求書(以下「繰戻し還付請求書」という。)をこれらの規定に規定する税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 また、所得税法第142条第2項は、税務署長は、繰戻し還付請求書の提出があった場合には、その請求の基礎となった純損失の金額その他必要な事項について調査し、その調査したところにより、その請求をした者に対し、その請求に係る金額を限度として所得税を還付し、又は請求の理由がない旨を書面により通知する旨規定している。

(ハ)所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項は、税務署長は、居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額、退職所得金額若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には、その更正に係る通則法第28条《更正又は決定の手続》第2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。

ロ 通則法関係

(イ)通則法第2条《定義》第6号は、納税申告書とは、申告納税方式による国税に関し国税に関する法律の規定により、@課税標準、A課税標準から控除する金額、B純損失等の金額(所得税については、所得税法に規定する純損失の金額又は雑損失の金額でその年以前において生じたもののうち、同法の規定により翌年以後の年分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除し、又は前年分の所得に係る還付金の額の計算の基礎とすることができるもの)、C納付すべき税額、D還付金の額に相当する税額、E納付すべき税額の計算上控除する金額又は還付金の額の計算の基礎となる税額のいずれかの事項その他当該事項に関し必要な事項を記載した申告書をいい、国税に関する法律の規定による国税の還付金の還付を受けるための申告書でこれらのいずれかの事項を記載したものを含むものとする旨規定している。

(ロ)通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第1項は、国税についての納付すべき税額の確定の手続として申告納税方式及び賦課課税方式を規定し、同項第1号において申告納税方式とは、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長又は税関長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう旨規定している。

(ハ)通則法第17条《期限内申告》第1項は、申告納税方式による国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、納税申告書を法定申告期限までに税務署長に提出しなければならない旨規定し、同条第2項は、同条第1項の規定により提出する納税申告書を、期限内申告書という旨規定している。

(ニ)通則法第18条《期限後申告》第1項は、期限内申告書を提出すべきであった者は、その提出期限後においても、同法第25条《決定》の規定による決定があるまでは、納税申告書を税務署長に提出することができる旨規定し、同法第18条第2項は、同条第1項の規定により提出する納税申告書を期限後申告書という旨規定している。

(ホ)通則法第19条《修正申告》第1項は、納税申告書を提出した者は、その納税申告書の提出により納付すべきものとして記載した税額に不足額があるとき(同項第1号)など、同項第1号ないし第4号のいずれかに該当する場合には、その申告について同法第24条《更正》の規定による更正があるまでは、その申告に係る課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を税務署長に提出することができる旨規定している。

ハ 行政手続法関係

(イ)行政手続法第2条《定義》第3号は、申請とは、法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう旨規定している。

(ロ)行政手続法第8条《理由の提示》第1項は、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない旨規定している。

(ハ)行政手続法第14条《不利益処分の理由の提示》第1項は、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名宛人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならない旨規定するとともに、同条第3項は、不利益処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。

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2 争点

(1)本件通知書に記載された処分の理由に本件通知処分を取り消すべき不備があるか否か。(争点1)

(2)純損失の生じた年分の前年分の確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税を、所得税法第140条第1項に規定する純損失の金額の繰戻しによる還付請求の対象とすることができるか否か。(争点2)

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3 主張

(1)争点1(本件通知書に記載された処分の理由に本件通知処分を取り消すべき不備があるか否か。)について

原処分庁請求人
次のとおり、本件通知書に記載された処分の理由には、本件通知処分を取り消すべき不備はない。 次のとおり、本件通知書に記載された処分の理由には、本件通知処分を取り消すべき不備がある。
イ 本件通知処分は、行政手続法第2条第4号に規定する不利益処分に該当することから、同法第14条第1項に基づいて処分の理由を提示する必要があるところ、本件通知書に記載された処分の理由の内容からすれば、原処分庁の判断過程について具体的に記載したものということができ、原処分庁としては、当該判断過程の記載を行うことによって、本件通知処分の判断過程を検証することができることから、その判断の慎重、合理性を確保するという点について欠けるところはなく、同項に規定する不利益処分に係る処分の理由の提示制度の趣旨目的を損なうことはない。
 また、本件通知書に記載された処分の理由は、上記のとおり、その根拠を具体的に示しているものと認められる以上、理由付記制度のもう1つの目的である不服申立ての便宜という点についても、請求人に対し必要な材料を提供するものということができる。
 なお、本件通知書に係る処分の理由の提示は、上記のとおり、行政手続法第14条に基づくものであって、次のとおり、所得税法第155条第2項に規定する青色申告書の更正に係る理由付記を根拠とするものではない。
イ 繰戻し還付請求書は、通則法第2条第6号に規定する納税申告書に該当するところ、請求人は青色申告者であることから、本件繰戻し還付請求書は青色の納税申告書である。
 そうすると、本件通知処分は、通則法第24条に規定する納税申告書を是正する処分に該当するから、青色申告書に係る更正処分に該当し、所得税法第155条第2項に基づいて法規の検討結果や適用条文について記載することが必要とされる。
 しかしながら、本件通知書には、平成24年分の所得税の確定申告書に記載された課税総所得金額を基礎として計算したという結論が記載されるにとどまり、同年分の所得税の確定申告書における記載金額を基礎とする理由、課税退職所得金額を還付金の額の計算の基礎としないことについての法令等の適用関係及び法解釈の判断過程についての記載が一切なく、本件通知書に記載された処分の理由からは、原処分庁が本件通知処分をした法令等の適用関係やその判断過程を経ていることを検証することができない。
(イ)本件繰戻し還付請求書は、青色の申告書によって提出する確定申告書及び修正申告書のいずれにも該当しないから、所得税法第155条第2項に規定する更正処分の際に理由付記が必要とされる青色申告書には該当しない。
(ロ)本件通知処分は、所得税法第142条第2項の規定により通知される処分であって、同法第155条第2項に規定する理由付記が必要とされる更正処分には該当しない。
ロ 本件通知書の処分の理由に記載のある「所得税法第120条第2項第1号」の部分は、正しくは同法第121条《確定所得申告を要しない場合》第2項第1号とすべきであるが、この誤りは軽微な瑕疵であるから、本件通知処分を違法ならしめるものとは認められない。 ロ 本件通知書には、退職所得に該当する根拠条文として所得税法第121条第2項第1号を記載するべきところ、誤って同法第120条第2項第1号と記載した瑕疵がある。

(2)争点2(純損失の生じた年分の前年分の確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税を、所得税法第140条第1項に規定する純損失の金額の繰戻しによる還付請求の対象とすることができるか否か。)について

請求人原処分庁
次のとおり、純損失の生じた年分の前年分の確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税を、還付請求の対象とすることができる。 次のとおり、純損失の生じた年分の前年分の確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税を、還付請求の対象とすることはできない。
イ 所得税法第140条においては、前年分の確定申告書への記載を要件としておらず、また、確定申告書の記載金額を限度とするといった要件も規定していない。
 また、所得税基本通達140・141−2《還付金の限度額となる前年分の所得税の額》は、税額等の計算過程における正確さを期するための用語又は金額の特定にすぎないから、同通達を根拠とする原処分庁の主張も誤りである。
 なお、所得税基本通達のどこにも、所得税法第140条の規定により還付を受けることができる金額が確定申告書に記載された金額を限度とするとの定めはない。
 さらに、退職所得については、所得税法第199条《源泉徴収義務》以降に規定する退職所得に係る源泉徴収制度において税額の自動確定により課税関係が終了しており、同法第121条第2項第1号において申告不要のものと規定しているところ、請求人は、これらの条文及び国税庁作成の平成24年分所得税の確定申告のパンフレットに記載された説明内容に基づき、同年分の所得税の確定申告書に退職所得に係る所得税を記載していないものであって、所得税法の規定に基づいた申告をしている。
イ 所得税法第140条第2項は、還付を請求することができる金額の限度額は、その年の前年分の課税総所得金額及び課税退職所得金額に係る所得税の額に相当する金額を限度とする旨規定しており、所得税基本通達140・141−2は、当該所得税の額は、同法第120条第1項第3号に掲げる各種の税額控除後の所得税の額をいう旨定めている。
 所得税法第120条第1項によれば、1その年分の総所得金額及び退職所得金額並びに課税総所得金額及び課税退職所得金額又は純損失の金額など(同項第1号)や2上記1に掲げる課税総所得金額及び課税退職所得金額につき同法第2編第3章(税額の計算)の規定を適用して計算した所得税の額(同法第120条第1項第3号)などを所得税の確定申告書に記載して、税務署長に対して、法定申告期限内に提出しなければならない旨規定されている。
 そうすると、所得税基本通達140・141−2に定める税額控除後の所得税の額とは、所得税法第120条第1項の規定に基づいて確定申告書に記載された金額をいうものと解されることから、同法第140条第1項の規定により還付を受けることができる金額は、確定申告書に記載された金額が限度となる。
ロ 純損失の金額の繰戻しによる還付請求が、前年分の所得税につき青色申告書を提出することを前提としているのは、青色申告制度の趣旨に鑑み当然のことであり、純損失の金額の繰戻しによる還付金の額の計算が前年分の税額に基づいて行われるから青色申告書の提出を求めているものである。
 したがって、還付金の額の限度額について前年分の確定申告書に記載された額とする旨の明文の規定がない以上、原処分庁の主張は失当である。
ロ 所得税法第140条第4項は、同条第1項の規定はその年の前年分の所得税につき青色申告書を提出している場合に限って適用される旨規定し、前年分の所得税が記載された確定申告書の提出を前提としているのであるから、このことは、上記イのとおり、還付金の額の限度額を確定申告書記載の額としていることにも整合する。

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4 判断

(1)争点1(本件通知書に記載された処分の理由に本件通知処分を取り消すべき不備があるか否か。)について

イ 法令解釈等

(イ)純損失の金額の繰戻しによる還付請求は、所得税法第140条第1項の規定に基づき、納税者が自己に対し、過去に納税した税金の還付という利益を付与する処分を求める行為であって、同法第142条第2項の規定により、請求を受けた税務署長はこれに応答する義務を負うことからすると、本件繰戻し還付請求は、行政手続法第2条第3号に規定する申請に該当する。
 したがって、税務署長が、純損失の金額の繰戻しによる還付請求に対して通知処分を行う場合には、行政手続法第8条第1項に基づいて、その理由を提示する必要がある。

(ロ)そして、行政手続法第8条第1項が、行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合に同時にその理由を申請者に示さなければならないとしているのは、拒否事由の有無についての行政庁の判断の慎重と合理性を担保して恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、かかる趣旨に鑑みれば、同項本文及び同条第2項に基づいて行政庁がどの程度理由を提示すべきかは、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分の性質及び内容を総合考慮してこれを決定すべきところ、処分の理由の記載においては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該申請が拒否されたのかということを、申請者においてその記載自体から了知し得るものでなければならない。

ロ 当てはめ

本件通知書には、上記1の(2)のトのとおり、1請求人が本件繰戻し還付請求書を提出したこと、2D社から請求人宛に支払われた金員が所得税法第120条第2項第1号に規定する退職所得に該当すること、3本件繰戻し還付請求書には平成24年分の課税退職所得金額が記載されている一方で、同年分の所得税の確定申告書には退職所得金額及び課税退職所得金額の記載がないことが示された上で、還付金の額の計算の内訳が示されている。
 この内容によれば、平成24年分の所得税の確定申告書に記載されていない退職所得に係る所得税を、本件繰戻し還付請求の還付金の額の計算の対象に含めないという原処分庁の判断過程について、その事実関係と申請の拒否の理由が申請者においてその記載自体から了知し得る程度に記載されているものと認められる。
 したがって、本件通知書の処分の理由の記載は、処分の理由の提示制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示したものであるということができるから、本件通知書の処分の理由に不備はない。
 なお、本件通知処分の理由の提示は、上記イの(イ)のとおり、行政手続法第8条第1項の規定に基づくものであるから、原処分庁の主張する行政手続法第14条の規定に基づくものではない。

ハ 請求人の主張について

(イ)請求人は、通則法第2条第6号ハ(1)の規定により、繰戻し還付請求書が納税申告書に該当することをもって、本件通知処分が、青色の納税申告書を是正する処分として所得税法第155条第1項に規定する青色申告書に係る更正処分に該当するから、同条第2項に基づいて法規の検討結果や適用条文について記載する必要がある旨主張する。
 しかしながら、申告納税方式の国税については、通則法第16条の規定により、その納付すべき税額は、納税者の申告により確定することを原則としているところ、繰戻し還付請求書が、同法第17条ないし第19条に規定する期限内申告、期限後申告及び修正申告のいずれにも該当しないことは明らかであって、繰戻し還付請求書の提出によって納付すべき税額が確定することはない。すなわち、本件通知処分のように繰戻し還付請求の一部を認容する処分は、確定した納付すべき税額を是正する処分ではなく、そもそも更正処分に該当しない処分であると認められる。
 したがって、所得税法第155条第2項の規定による青色申告書に係る更正の理由付記に法規の検討結果や適用条文について記載する必要があるか否かを検討するまでもなく、請求人の主張はその前提を欠くことから理由がない。

(ロ)また、請求人は、本件通知書に記載すべき根拠条文について、所得税法第121条第2項第1号とすべきところ、誤って同法第120条第2項第1号と記載していることから、本件通知書の理由に瑕疵がある旨主張する。
 確かに、本件通知書には所得税法第121条第2項第1号と記載するべきところを同法第120条第2項第1号と記載した誤りが認められる。しかしながら、処分の理由の記載に誤りがある場合においても、それが誤りであることが明白であり、その他の記載内容から処分の根拠が具体的に明示されていると認められるものであれば、処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜の供与という処分の理由の提示の趣旨目的を充足するものということができ、当該処分は違法とはならないものと解されるところ、本件通知書の記載内容には、平成24年分の退職所得に係る所得税を計算の対象とせずに本件繰戻し還付請求の還付金の額を算定したことが具体的に明示されているから、当該誤りは上記ロの判断を左右する程度のものとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2)争点2(純損失の生じた年分の前年分の確定申告書に記載のない退職所得に係る所得税を、所得税法第140条第1項に規定する純損失の金額の繰戻しによる還付請求の対象とすることができるか否か。)について

イ 法令解釈

所得税は、年分ごとに課税することを原則としているが、租税負担を合理化するために一定の条件の下で純損失の金額の繰越控除を認める(所得税法第70条《純損失の繰越控除》)とともに、これを補う意味で、所得税法第140条に規定する純損失の金額の繰戻しによる還付請求制度(以下「繰戻し還付請求制度」という。)が認められている。
 この繰戻し還付請求制度は、暦年による課税を原則とする所得税において例外的な制度であるところ、所得税法第140条第4項は、その適用に当たって、純損失が生じた年分及びその前年分の申告について、帳簿記入により正確性を担保された青色申告書を提出することを要件としている。
 このことからすると、繰戻し還付請求の還付金の額の計算においては、前年分の申告において、単に青色申告書が提出されていれば要件を満たし、確定申告書に記載されていない所得も当該還付金の額の計算の対象になるものと解すべきではなく、正確性を担保された青色申告書に記載された所得及びそれに係る所得税を当該還付金の額の計算の対象としたものと解される。したがって、繰戻し還付請求においては、純損失の発生した前年分の確定申告書に記載されていない所得及びそれに係る所得税を、純損失の金額の繰戻しによる還付請求の対象とすることはできない。

ロ 当てはめ

請求人は、上記1の(2)のハのとおり、純損失が生じた平成25年分の前年分である平成24年分の所得税の確定申告書について青色申告書を提出しているものの、当該確定申告書には、退職所得金額、課税退職所得金額及び退職所得に係る所得税は記載されていないのであるから、上記イのとおり、当該確定申告書に記載されていない退職所得に係る所得税を、本件繰戻し還付請求における還付金の額の計算の対象に含めることはできない。

ハ 請求人の主張について

請求人は、純損失が生じた年分の前年分の確定申告書に退職所得に係る所得税を記載することを所得税法第140条が要件としていないこと及び退職所得に係る所得税については源泉徴収により課税関係が終了し、同法第121条第2項第1号において確定申告を要しないものとされていることから、平成24年分の確定申告書によって申告しなかった退職所得に係る所得税も本件繰戻し還付請求の対象とすることができる旨主張する。
 しかしながら、平成24年分の確定申告書によって申告されなかった退職所得に係る所得税を本件繰戻し還付請求の対象とすることはできないことは上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3)本件通知処分について

上記(1)及び(2)のとおり、本件通知処分に取り消すべき違法はなく、また、平成25年分の純損失の金額の繰戻しによる還付金の額は、本件通知処分における純損失の金額の繰戻しによる還付金の額と同額となることから、本件通知処分は適法である。

(4)その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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