ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 平成27年7月〜9月分 >>(平成27年9月28日裁決) >>別紙2 本件鑑定書の要旨(抜粋)
別紙2 本件鑑定書の要旨(抜粋)
1 本件鑑定書の構成
本件鑑定書においては、下記「6」及び「7」において株式価値評価額の算定を行い、下記「8」において結論を記載している。
なお、本件鑑定書では、特記しているものを除き、金額は百万円未満を四捨五入して記載している。
2 要約
2-1 目的
本件鑑定書は、原処分庁が、対象会社(本件子会社)の株式の全部を売却することを前提に、取引価額検討のための参考資料として内部的に使用することを目的としており、他の目的に資するものではない。
2-2 評価基準日
平成25年6月30日
2-3 評価方法
本件の株式価値を求めるために採用した評価方法は以下のとおり。
DCF法及び時価純資産法
2-4 算定結果
対象会社の株式価値として妥当と認められる範囲は以下のとおり。
基準値 | 上下10% | |
---|---|---|
株式時価総額 | ○○百万円 | ○○百万円〜○○百万円 |
1株当たり株式価値 | ○○○○円 | ○○○○円〜○○○○円 |
3 限定事項
3-3 算定結果の解釈
本件鑑定書の目的は、原処分庁における内部的な意思決定に際しての参考資料を提供することにある。本件鑑定書における結果は、意思決定において考慮すべき要素の一つに過ぎない。当社は、本件鑑定書の結果を受けて行われた意思決定の合理性、決定された価格の妥当性その他の事項について意見を表明するものでない。
また、当社は、本件鑑定書が一般投資家を含む第三者の意思決定に対して影響を与えることは想定しておらず、本件鑑定書に依拠した第三者に対して責任を負いかねる。
4 評価対象会社の基礎的事項
4-2 財務情報
貸借対照表(主要勘定科目の抜粋)
○資産の部 | (単位:千円) | ||||
事業年度 | 2010年12月期 | 2011年12月期 | 2012年12月期 | ||
---|---|---|---|---|---|
流動資産 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
現金及び預金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
商品 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
短期貸付金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
未収入金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
固定資産 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
有形固定資産 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
土地 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
投資その他の資産 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
投資有価証券 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | ||
資産の部合計 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ |
(注)2010年1月から同年12月までの事業年度を「2010年12月期」とし、以下の事業年度の表記も同様とする。
○負債・純資産の部 | (単位:千円) | |||
事業年度 | 2010年12月期 | 2011年12月期 | 2012年12月期 | |
---|---|---|---|---|
流動負債 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
支払手形 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
買掛金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
短期借入金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
未払金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
固定負債 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
長期借入金 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
負債の部合計 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
純資産の部合計 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
負債・純資産の部合計 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ |
損益計算書(主要勘定科目の抜粋)
事業年度 | 2010年12月期 | 2011年12月期 | 2012年12月期 | |
---|---|---|---|---|
売上高 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
売上総利益 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
販売費及び一般管理費 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
減価償却費 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
営業利益 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
営業外収益 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
賃貸料収入 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
受取出向料 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
雑収入 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
特別利益 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
固定資産売却益 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
特別損失 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
固定資産売却損 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
固定資産除却損 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ | |
当期純利益 | △○○○○ | △○○○○ | △○○○○ |
5 株式価値の評価方法について
5-4 DCF(Discounted Cash Flow)法
DCF法は、収益還元法の一つであり、企業が将来獲得すると期待されるキャッシュ・フローの現在価値をもとに企業価値を算定する方法である。DCF法は、評価対象会社が有する事業の収益力を、有効な期間内におけるキャッシュ・フローによって評価することから、支配株主における評価としては現在最も理論的な算定方式であるとされている。
対象会社は、現時点において継続して事業活動を営んでいくことが予定されている。過去の事業年度においては、継続してプラスのFCFを計上しており、今後も一定の利益の計上は十分な蓋然性をもって期待されると考えられる。したがって、本件株式評価においてもそのような将来利益を加味するべきであると考えられ、継続企業の評価において最も一般的かつ理論的とされているDCF法を採用している。
5-7 時価純資産法
時価純資産法は、評価時点における会社の有する資産の時価から負債の時価を控除して純資産の時価総額を求めることにより、株式価値を算定する方法である。時価純資産法は、一般に理解しやすく、将来に対する不確実性を排除し、企業の静的価値を求めるには合理的な方法であるとされている。
企業の静的価値を求める方法ではあるものの、将来の不確実性を排除し、帳簿価額を基礎とした客観性の高い評価を行う方法として有用であると判断し、同方法を採用している。
6 DCF法による株式価値評価
6-2 DCF法による株式価値評価
6-2-1 FCFの算定
本件においては対象会社の将来事業計画が入手できなかったため、対象会社のFCFを、以下に記載する方法で見積もっている。
過去 | 将来 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
2012年 12月期 (年間) |
2013年 12月期 (半期) |
2014年 12月期 (年間) |
2015年 12月期 (年間) |
2016年 12月期 (年間) |
2017年 12月期 (年間) |
|
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○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
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- | - | - | - | - | ○○○ |
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○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
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○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
![]() ![]() ![]() |
○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
○上記「修正後営業利益」の見積
対象会社の決算書によると、営業外損益のうち、賃貸料収入の大半は保有不動産の賃貸による地代・家賃収入であり、雑収入は飲料会社からのリベート収入と事務委託料収入である。また、特別損失に計上されている固定資産除売却損のほとんどは機械入れ替えのための廃棄であり、減価償却費と同等の性質をもつものと考えられる。よって、営業利益に下記に記載した営業外損益の項目及び固定資産除売却損の額を加減算した額を修正後の営業利益の額とする。
対象会社の営業利益は、2010年12月期○○○○百万円から、2011年12月期は○○○○百万円、2012年12月期は○○○○百万円と改善している。一方、固定資産の設備投資額は2012年12月期において増加している。また、対象会社の現金預金残高は横ばいとなっている。
○○という対象会社の業種の特性に鑑み、今後現状と同様の設備投資が実施されることにより、現状水準の利益が維持されるものと推定し、2013年12月期以降の営業利益は直近と同額で推移するものと推定した。なお、2013年12月期は評価基準日である2013年6月30日以降の6か月分としている。
科目 | 2013年12月期 | 2014年 12月期以降 |
|
---|---|---|---|
通年 | うち下半期分 | ||
営業履歴 | ○○○ | ○○○ | |
賃貸料収入 | ○○○ | ○○○ | |
受取出向料 | ○○○ | ○○○ | |
雑収入 | ○○○ | ○○○ | |
固定資産除売却損 | △○○○ | △○○○ | |
修正後営業利益 | ○○○○ | ○○÷2=○○ | ○○○○ |
○設備投資額
過去2期の対象会社の有形固定資産増加額が不明であったため、次表のとおり増加額を計算している。
項目 | 2011年 12月期 |
2012年 12月期 |
|
---|---|---|---|
![]() |
有形固定資産期首残高 | ○○○ | ○○○ |
![]() |
減価償却費 | ○○○ | ○○○ |
![]() |
固定資産売却損 | ○○○ | ○○○ |
![]() |
固定資産除却損 | ○○○ | ○○○ |
![]() |
固定資産売却益 | ○○○ | - |
![]() |
差引(![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
○○○ | ○○○ |
![]() |
有形固定資産期末残高 | ○○○ | ○○○ |
![]() |
有形固定資産増加額(純額)(![]() ![]() |
○○○ | ○○○ |
2012年12月期の有形固定資産増加額は○○○○百万円と前期○○○○百万円と比較して増加しており、対象会社は設備投資を積極的に実施したことが伺える。その一方で、主に○○機械の入れ替えにより、2011年12月期に○○○○百万円、2012年12月期に○○○○百万円の固定資産除売却損を計上している。
対象会社は今後も競争力を維持し同等の営業利益を稼得するために現状程度の機械入れ替えを行うものと推定し、設備投資額及び減価償却費、固定資産除売却損は2012年12月期と同等水準発生するものと推定した。
○運転資本の増減額
対象会社における過去3期の運転資本の推移は次表のとおり。
項目 | 2010年 12月期 |
2011年 12月期 |
2012年 12月期 |
|
---|---|---|---|---|
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商品 | ○○ | ○○ | ○○ |
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未収入金 | ○○ | ○○ | ○○ |
![]() |
支払手形 | ○○ | ○○ | ○○ |
![]() |
買掛金 | ○○ | ○○ | ○○ |
![]() |
未払金 | ○○ | ○○ | ○○ |
運転資本合計額(![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
○○ | ○○ | ○○ | |
運転資本合計額対前期比増減額 | △○○ | ○○ |
未払金の増加は機械購入に係るものである。未払金の増減額に見合った額が運転資本の増減額となっている。その一方、2012年12月期は対象会社の現金預金残高は横ばいとなっている。未払金の増加が抑制された場合設備投資額が同じく抑制され、キャッシュ・フローに与える影響は相殺されるものと考えられる。このため、運転資本の増減と設備投資額の変動額の合計額は横ばいで推移すると考えられる。
○上記「![]() |
(単位:百万円) | |
調整項目 | 2012年12月期 | |
---|---|---|
![]() |
減価償却費 | ○○○○ |
![]() |
固定資産除売却損 | ○○○○ |
![]() |
設備投資額 | △○○○○ |
![]() |
運転資本増減 | ○○○○ |
![]() |
調整項目合計(![]() ![]() ![]() ![]() |
○○○○ |
6-2-2 割引率の算定
○自己資本コスト
No | 内容 | 数値 | 説明 |
---|---|---|---|
![]() |
リスクフリーレート | 0.845% | 10年国債利回り(2013年6月平均) |
![]() |
市場感応度 | 1.000 | 類似会社はなく、1とした。 |
![]() |
投資収益率 | 6.717% | 東証一部の株式収益率(1983年〜2012年) |
![]() |
リスクフリーレート | 3.157% | 10年国債新発債応募者利回り(1983年〜2012年) |
![]() |
自己資本コスト | 4.405% | ![]() ![]() ![]() ![]() |
○他人資本コスト
追加借入利率は、直近の対象会社の金融機関借入金の平均利率(○○%)とし、当該利率に税効果を考慮した率を他人資本コストとしている。
税効果考慮前 | 税効果 | 税効果考慮後 |
---|---|---|
○○% | 34.60% | ○○% |
○割引率(加重平均資本コスト)
加重平均資本コストは、自己資本コスト及び他人資本コストをそれぞれ自己資本額及び他人資本額の比率で加重平均することによって算定される。
構成割合 | 資本コスト | |
---|---|---|
自己資本 | ○○% | ○○% |
他人資本 | ○○% | ○○% |
加重平均 | ○○% |
6-2-3 予測期間のFCFの現在価値
予測期間のFCFの現在価値は、各事業年度のFCFを加重平均資本コストで割り引き、以下のように算定される。
2013年 12月期 (半期) |
2014年 12月期 (年間) |
2015年 12月期 (年間) |
2016年 12月期 (年間) |
2017年 12月期 (年間) |
合 計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
FCF | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
現在価値係数 | ○○% | ○○% | ○○% | ○○% | ○○% | - |
割引現在価値 | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ | ○○○ |
6-2-4 残存価値(TV:Terminal Value)
予測期間の終了後は、予測期間最終年度の修正後営業利益が永続するものと仮定し、これに基づき維持可能FCFを算定して残存価値を算定するとともに、これを評価基準日まで割り引くことにより、その現在価値を算定する。
項目 | 金額 | 項目 | 金額 |
---|---|---|---|
予測最終年度の修正後営業利益 | ○○○ | 残存価値 | ○○○ |
法人税等(営業利益×34.6%) | ○○○ | 現在価値係数 | ○○% |
維持可能FCF | ○○○ | 残存価値の割引現在価値 | ○○% |
6-2-5 DCF法による株式価値の算定
株式価値は、FCFの現在価値合計に非事業資産を加算して求めた企業価値から有利子負債(少数株主持分を含む)残高を控除することにより算定される。
非流動性ディスカウントについては、算定された株式価値にディスカウント・レートを乗じた額を減額する方法を採用した。ディスカウント・レートとしては税務上の財産評価の規定に準じて30%を利用する事例が多いため、本件鑑定書においても同様の取扱いとする。
以上の結果、評価基準日における対象会社のDCF法による評価額は、以下のとおりと算定される。
内容(算式) | 金額 | |
---|---|---|
![]() |
予測期間のFCF現在価値 | ○○○○ |
![]() |
残存価値の割引現在価値 | ○○○○ |
![]() |
FCFの現在価値合計(![]() ![]() |
○○○○ |
![]() |
非事業用資産(加算) | - |
![]() |
有利子負債(控除) | ○○○○ |
![]() |
ディスカウント前株式価値(![]() ![]() |
○○○○ |
![]() |
非流動性ディスカウント(![]() |
○○○○ |
![]() |
株式価値(差引)(![]() ![]() |
○○○○ |
7 時価純資産法による株式価値評価
7-2 会計上の時価純資産額の算定
評価基準日における対象会社の時価純資産は債務超過のため、評価額は零円と算定される。
勘定科目 | 内容 | 金額 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
![]() |
修正前純資産額 | 帳簿価額 | ○○○○ | |||
![]() |
土地 | 帳簿価額から時価に評価替え | △○○○○ | |||
![]() |
投資有価証券 | 帳簿価額から時価に評価替え | ○○○○ | |||
![]() |
貸倒引当金 | 貸倒懸念債権に対して50%の貸倒引当金を設定 | △○○○○ | |||
![]() |
修正後純資産額 | (![]() ![]() ![]() ![]() |
△○○○○ |
(注)金額欄の「△」は、評価により減少する金額を示す。
○上記「土地」
所在地 | 簿価(![]() |
時価(![]() (路線価÷0.8) |
評価差額 ( ![]() ![]() |
---|---|---|---|
d市e町○−○〜○−○ | ○○○○ | ○○○○ | △○○○○ |
d市e町○−○ | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ |
d市f町○−○ | ○○○○ | ○○○○ | △○○○○ |
a市g町○−○〜○−○ | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ |
a市b町○−○ | ○○○○ | ○○○○ | △○○○○ |
その他 | ○○○○ | ○○○○ | ○○○○ |
合計 | ○○○○ | ○○○○ | △○○○○ |
○上記「投資有価証券」及び「
貸倒引当金」の評価額
投資有価証券である○○ホールディングスの簿価○○○○千円を時価である○○○○千円に修正(○○○○千円増額)した。また、親会社である本件滞納法人に対する金銭債権○○○○円(2012年12月期)に対して、50%の貸倒引当金○○○○円を設定した。
8 株式価値の算定
「5.株式価値の評価方法について」において記載したとおり、株式価値の評価方法には複数の手法があり、各手法は優れた点をもつと同時に様々な問題点も有しているため、相互に問題点を補完する関係にある。そのため、評価に際しては、対象会社を様々な視点から把握し、偏った視点のみからの価値算定にならないよう留意する必要がある。
したがって、評価法を単独で適用するのではなく、複数の評価法を適用し、それぞれの評価結果を総合評価することによって、対象会社の株式価値を評価する方法を採用することが適当であると考える。
なお、評価基準日と株式売買予定日との間には時間の差異があり、本来であれば株式価値はその間における会社の状況の変化により日々影響を受ける。そのため、評価結果には上下10%の誤差範囲を設けている。
評価方法 | 株式価値評価額(百万円) | 1株当たり株式価値(円) | ||
---|---|---|---|---|
基準値 | -10% 〜 +10% | 基準値 | -10% 〜 +10% | |
DCF法 | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ |
時価純資産法 | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ |
上記二法の平均値 | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ | ○○○ | ○○○ 〜 ○○○ |