(平成28年1月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、貨物自動車運送業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、売上げの減少などを理由として、国税通則法第46条《納税の猶予の要件等》第2項の規定に基づき納税の猶予の申請をしたところ、原処分庁が、請求人には同項に該当する事実がないとして納税の猶予を不許可とする処分をしたのに対し、請求人が、当該処分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであるとして、その取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 請求人は、貨物自動車運送業を営む法人である。

ロ 請求人は、平成26年6月26日、原処分庁に対し、別表記載の国税について、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条第2項の規定に基づき、納税の猶予の始期を同月11日などとして、納税の猶予の申請(以下「本件猶予申請」という。)をした。

ハ 請求人の事業年度は、4月1日から翌年3月31日までであるところ、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度(以下「平成25年3月期」という。)における売上金額はXXX,XXX,XXX円であり、また、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度(以下「平成26年3月期」という。)における売上金額はXX,XXX,XXX円であった。

ニ 原処分庁は、本件猶予申請に対し、平成26年12月10日付で納税の猶予を不許可とする処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。

ホ 請求人は、本件不許可処分を不服として、平成27年2月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月21日付で棄却の異議決定をした。

へ 請求人は、異議決定を経た後の本件不許可処分に不服があるとして、平成27年5月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

別紙のとおりである。

(4) 争点

本件不許可処分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものか否か。

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2 主張

(1) 請求人

イ 通則法第46条第2項第5号の規定は、同項第1号から第4号までの各規定で救えなかった納税者を救済するという法律的・行政的配慮が含まれているものと解される。
 そして、猶予取扱要領第1章《総則》1《納税者の実情に即して処理すること》の定めからすれば、納税の猶予の処理に当たっては、納税者に有利な方向で納税の猶予等の活用を図るよう弾力的な運用、配慮がなされるべきである。
 したがって、その判断は、納税者の事業実態として、納税を困難にしている事実が存在しているか否かによりなされるべきであり、請求人には、次のとおりの事情があることから、通則法第46条第2項第5号の規定に該当する。

(イ)請求人は、これまで経営改善に取り組んできたものの、東日本大震災、農家の高齢化及び生産品目の転換などにより、年々売上げが減少し、平成26年3月期の売上金額は、平成25年3月期に比べ、約18%も減少したのであるから、請求人には、その責めに帰すことができないやむを得ない事由により、大幅な売上げの減少があった。

(ロ)上記(イ)の売上げの減少に加え、燃料費の高騰、高速料金の値上げなどの影響もあり、請求人の平成26年3月期の損失金額は、平成25年3月期に比べ減少したものの、引き続き損失を計上しており、さらに、平成26年4月から7月までの4か月間の損失金額は、平成26年3月期の損失金額を上回ることとなったから、請求人の収益は大幅に悪化した。
 この状況において、請求人が、本件猶予申請に係る国税を一時に納付することは、事業の継続に著しい支障が生ずる。

ロ 以上のとおり、請求人は、通則法第46条第2項第5号に該当し、納税の猶予の要件を充足していたものであり、それにもかかわらず納税の猶予を許可しなかった本件不許可処分には、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法がある。

(2) 原処分庁

イ 通則法第46条第2項が規定する納税の猶予は、租税徴収における公平の実現という観点から、納税者の責めに帰すことができないやむを得ない事由により生じた猶予該当事実に基づき、その納税者が国税を一時に納付できないと認められるときに、適用することができると解され、また、同項の本文からも明らかなように、納税の猶予は、猶予該当事実が存在することを前提として適用されるものである。

ロ 請求人の事業に係る平成26年3月期の売上金額はXX,XXX,XXX円であることから、平成25年3月期の売上金額XXX,XXX,XXX円と比較すると、その売上金額の減少幅は、約18%である。
 そうすると、請求人のこの売上げの減少については、事業上の著しい損失があったものと同視できるか又はこれに準ずる重大な売上げの減少があったとはいえないから、猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘに定める第5号(第4号類似)の事実に該当せず、通則法第46条第2項の要件を満たさない。

ハ したがって、本件不許可処分は適法である。
 なお、納税の猶予は、上記イで述べたとおり、猶予該当事実が存在することを前提として適用されるものであるから、上記ロのとおり、請求人に猶予該当事実が認められない以上、請求人が本件猶予申請に係る国税を一時に納付できないことについて判断するまでもない。

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3 判断

(1) 法令解釈等

イ 納税の猶予の制度について

通則法第46条第2項が規定する納税の猶予の制度は、納税者の救済のため、例外的に、納税者がその財産につき災害を受けたこと等により国税を一時に納付することができないと認められる場合において、その納付することができないと認められる金額を限度として、納税者の申請に基づき、1年以内の期間に限り、その国税の一部又は全部の納税を猶予するというものである。
 このような制度の趣旨や同項に規定する納税の猶予の要件等に鑑みると、同項は、納税の猶予の申請をした納税者について、納税の猶予を許可するか否かを税務署長等の裁量的判断に委ねているものと解するのが相当であるから、納税の猶予を許可しない処分が違法と評価されるのは、当該処分をした税務署長等の判断に、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に限られるというべきである。

ロ 猶予取扱要領の定めと税務署長等の裁量権行使の関係について

上記イのとおり、納税の猶予の許否については、税務署長等の裁量的判断に委ねられているものであるが、納税者間の負担の公平を図り、税務行政の適正妥当な執行を確保するためには、一定の基準ないし運用方針に基づいて、納税の猶予の許否の判断がされることが望ましいところであり、猶予取扱要領は、このような趣旨の下に定められたものと解される。
 このような猶予取扱要領が定められた趣旨に鑑みると、猶予取扱要領の定めが合理性を有するものである場合には、納税の猶予の許否に関する税務署長等の判断がその定めに従っている限り、その判断は、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとの評価を受けることはないというべきである。

ハ 通則法第46条第2項第5号該当性の判断について

(イ)猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘは、通則法第46条第2項第5号該当事実のうち、同項第3号又は第4号該当事実に類する事実として、四つの事実を掲げている(猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(イ)ないし(ニ))が、ここに掲げたような事実が生じた場合には、事業の休廃止(同項第3号)又は事業上の著しい損失(同項第4号)が生じたのと同様に、国税を一時に納付することが困難になる場合が多いことからこれらを例示したものと考えられることからすれば、猶予取扱要領の上記の定めの内容は、合理性を有するものであるということができ、当審判所においても相当であると認められる。

(ロ)猶予取扱要領第2章第1節1(3)ヘ(ロ)及び(ハ)には、納税者が売上げの減少の影響を受けたことが掲げられているが、これらは、「事業の休廃止又は事業上の著しい損失に類する事実」として掲げられたものであるから、そこでいう「売上げの減少」とは、単に従前に比べて売上げが減少したというだけでは足りず、事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったことをいうものと解するのが相当である。
 そして、このような売上げの減少があったか否かは、猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)が、事業上の著しい損失があった場合(通則法第46条第2項第4号)とは、調査期間の損益計算において、調査期間の直前の1年間である基準期間の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合をいうものとする旨定めていることを踏まえて判断するのが相当である。

(ハ)また、上記(ロ)のような売上げの減少があったか否かは、事柄の性質上、一定の期間を設けて判断するのが相当であるところ、猶予取扱要領が「事業につき著しい損失を受けた」(通則法第46条第2項第4号)といえるかどうかを判断する際に用いている調査期間及び基準期間という期間設定の方法は、上記のような売上げの減少があったか否かを判断する上でも適切なものであり、基本的には、これによって判断するのが相当である。
 そして、損益計算期間の末日から調査日又は基準期間の末日までの間が近接している場合には、通常、利益金額又は損失金額が大きく変動することは少ないと考えられることからすれば、当該近接した損益計算期間の損益計算の結果を基に上記の利益金額又は損失金額を推計して差し支えないとする猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(ロ)の定めも合理的であり、当審判所においても相当であると認められるところ、上記のような売上げの減少があったか否かを判断する上でも適切なものである。

(2) 当てはめ

イ 本件猶予申請に係る納税の猶予の始期は、上記1(2)ロのとおり、平成26年6月11日であるから、猶予取扱要領第2章第1節1(3)ニ(イ)に定める調査日は同月10日、調査期間は平成25年6月11日から平成26年6月10日まで、基準期間は平成24年6月11日から平成25年6月10日までとなる。
 しかしながら、請求人及び原処分庁は、平成26年3月期及び平成25年3月期の各売上金額を前提として各々主張するところ、当該各事業年度が猶予取扱要領に定める上記の請求人の調査期間及び基準期間に近接していることからすれば、本件においては、平成26年3月期及び平成25年3月期の各売上金額を基に、猶予該当事実の有無を判断することが相当である。

ロ 上記1(2)ハのとおり、請求人の平成26年3月期の売上金額はXX,XXX,XXX円であり、平成25年3月期の売上金額はXXX,XXX,XXX円であるところ、平成26年3月期の売上金額は、平成25年3月期の売上金額と比較して、減少したことが認められるものの、その減少の程度は、約18%にすぎない。
 そうすると、この売上げの減少の程度は、事業の休廃止若しくは事業上の著しい損失があったのと同視できるか又はこれに準ずるような重大な売上げの減少があったとはいえないから、請求人には、通則法第46条第2項第5号(第4号類似)に該当する事実があったということはできない。
 したがって、請求人には猶予該当事実がないのであるから、本件不許可処分をした原処分庁の判断に、裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったと認めることはできない。

(3) 請求人の主張について

請求人は、本件猶予申請に係る国税を一時に納付することが、事業の継続に著しい支障を生じさせることを理由として、通則法第46条第2項第5号の規定に該当するとも主張するが、上記(2)ロのとおり、請求人に猶予該当事実がない以上、同項を適用する余地はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) 本件不許可処分の適法性について

以上によれば、請求人には猶予該当事実がないから、本件不許可処分は、適法である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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