(平成28年2月9日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、共同相続人である審査請求人らが、相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、被相続人の妻が相続により取得した土地の価額について、同土地は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地には該当しないとして相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、審査請求人らが、上記土地は広大地に該当するなどと主張して、上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

 以下の事実は、審査請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 審査請求人A、同D及び同E(以下、これら3名を併せて「請求人ら」という。)は、F(以下「被相続人」という。)の子であり、被相続人の共同相続人である。請求人らのほかに、共同相続人として、被相続人の妻であるGがいる。

ロ 被相続人は、平成25年6月○日に死亡し、その子である請求人ら及びその妻であるGが被相続人の権利義務を相続した(以下、この相続を「本件相続」という。)。

ハ 請求人ら及びGの間で、平成26年1月2日、遺産分割協議が成立し、Gは、a市b町○−○の土地(以下「本件土地」という。)などを取得した。

ニ 本件土地は、その北西側で市道に、その北東側で建築基準法第42条《道路の定義》第1項第5号に規定する道路(以下「本件位置指定道路」という。)にそれぞれ接している地積が613.37平方メートルの宅地である。
 なお、H国税局長が定めた平成25年分の財産評価基準書によれば、上記市道には、1平方メートル当たり92,000円の路線価が付されている。

ホ 本件位置指定道路は、幅員4.0m、延長38.55mとして位置の指定を受け、4名の第三者が共有(以下、本件位置指定道路の所有者らを「本件私道所有者ら」という。)する道路であるが、その一端が、本件土地がその北西側で接する上記市道に接続し、もう一端の先は行き止まりとなっており、通り抜けることができない。

(3) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成26年11月7日付で、別表1の「更正処分等」欄記載のとおり、本件相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人らは、上記ロの各処分を不服として、異議申立て(審査請求人Aは平成26年12月15日、同D及び同Eは同月23日)をしたところ、異議審理庁は、平成27年2月3日付で、いずれも棄却の異議決定をした。

ニ 請求人らは、異議決定を経た後の上記ロの各処分に不服があるとして、平成27年2月23日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、審査請求人Aを総代として選任し、同日、その旨を当審判所に届け出た。

(4) 相続財産の価額

イ 請求人らは、本件相続税の申告において、相続財産を評価通達の定めに従って評価したところ、本件土地は評価通達24−4(以下「広大地通達」という。)に定める広大地に該当するとして、別表2の「申告額」欄記載のとおり評価した。

ロ 原処分庁が本件各更正処分において評価通達に従って行った本件土地の評価は、別表2の「更正処分額」欄記載のとおりである。

(5) 関係法令等の要旨

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。

ロ 評価通達24−4(広大地通達)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地(5,000平方メートル以下の地積のもの)で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものを除く。以下「広大地」という。)で路線価地域に所在するものの価額は、原則として、その広大地の面する路線の路線価に、次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
 (算式)広大地補正率 = 0.6 − 0.05 × (広大地の地積 / 1,000平方メートル

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2 争点

本件の争点は、相続財産の価額であり、具体的には、次のとおりである。

(1) 本件土地は、広大地に該当するか否か(争点1)。

(2) 本件土地の評価額を算定するに当たり、評価通達24−6《セットバックを必要とする宅地の評価》に準じて減額すべきか否か(争点2)。

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件土地は、広大地に該当するか否か。)について

イ 原処分庁
 本件土地で開発行為を行うとした場合、別図1のとおり、本件位置指定道路を利用して開発行為を行うのが経済的に最も合理的である。
 この場合、本件私道所有者ら全員の同意を要し、かつ、本件位置指定道路の幅員を4mから6mに拡幅するか、自動車転回広場を設置する必要がある。しかしながら、時価とは客観的な交換価値を示す価額であるから、財産の評価に当たり考慮される個別事情は客観的に認められるものに限定される。そうすると、本件私道所有者らの同意を得られるか否かといった事情は、所有者等の意思、行為等によって変更することのできる事情であり、本件土地自体に起因する客観的な事情ではないから、財産の評価に当たって考慮されない。また、道路の拡幅又は自動車転回広場の設置による土地の提供は、開発区域内に新たな道路を開設する場合と異なり、評価通達15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までに定める減額補正では十分とはいえないほどの規模の潰れ地が生じたとは認められない。
 したがって、本件土地で開発行為を行うとした場合に広大地通達に定める公共公益的施設用地の負担が必要と認められないから、本件土地は、広大地に該当しない。

ロ 請求人ら
 別図1のような本件位置指定道路を利用した開発行為は、本件私道所有者らの同意がなければできない旨が法令で規定され、本件私道所有者らのうち1人でも同意を得られなければ、このような開発行為は不可能である。
 本件においては、現に、本件私道所有者らが本件位置指定道路の利用を拒絶する旨の回答をしており、同意を得ることは現実的に困難であるし、本件相続の開始時においても本件私道所有者らの同意を得られることが確実ではない以上、本件位置指定道路は利用できないものとして、別図2のとおり、本件土地に新たな道路を開設して開発行為を行うのが経済的に最も合理的である。
 したがって、本件土地で開発行為を行うとした場合に、広大地通達に定める公共公益的施設用地の負担が必要と認められるから、本件土地は、広大地に該当する。

(2) 争点2(本件土地の評価額を算定するに当たり、評価通達24−6に準じて減額すべきか否か。)について

イ 原処分庁
 本件位置指定道路は、建築基準法第42条第2項に規定する道路ではなく、別図1のとおり、本件位置指定道路を利用して本件土地で開発行為を行う際に開発指導等により道路敷きとして一部宅地を提供しなければならない部分が発生する場合はあるが、既存の建物の建替え等、現状の使用を継続するような場合には道路敷きとして提供しなければならない部分は生じない。また、同項に規定する道路に面している宅地のセットバックにより道路敷きとして提供する部分は明確であるのに対し、開発指導等により道路敷きとして提供する部分は必ずしも特定されていないことから、これらを一概に同視することは相当ではなく、本件土地の評価額を算定するに当たり評価通達24−6に準じて減額すべきではない。

ロ 請求人ら
 本件土地が広大地に該当しないとしても、本件土地で開発行為を行う際には、都市計画法に基づき本件位置指定道路の拡幅又は自動車転回広場の設置を強いられることになるので、本件土地を評価するに当たっては、合理的な区画割によって生ずる最低限度の道路敷き部分については、評価通達24−6に準じて減額すべきである。

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4 当審判所の判断

(1) 相続税法第22条について

相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかし、客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税実務の迅速な処理が困難となったりするおそれがある。そこで、課税実務上は、特別の定めのあるものを除き、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によってこれを画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点から見て合理的であり、相続財産の評価に当たっては、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当である。そして、本件土地の評価については、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情があるとは認められないから、評価通達によって評価することが相当である。

(2) 争点1(本件土地は、広大地に該当するか否か。)について

イ 認定事実
 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ) 本件土地は、a市b町○丁目及び同市d町○丁目において、都市計画法第7条《区域区分》に規定する区域区分が市街化区域内で、同法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域が第一種中高層住居専用地域に指定された地域内に所在している(以下、この地域を「本件地域」という。)。本件地域内においては、建築基準法第52条《容積率》に規定する容積率は200%であり、同法第53条《建ぺい率》に規定する建ぺい率は60%である。

(ロ) 本件地域は、集合住宅や駐車場が散在するものの、主として戸建住宅用地として利用されており、本件地域の存するa市においては、500平方メートル以上の規模の開発行為をする事業のうち、開発面積が2,000平方メートル未満の宅地で戸建分譲するものの必要宅地面積は原則として110平方メートル以上である。
 なお、本件地域の近隣(a市b町○−△ほか)においては、平成22年に開発許可を受けて6区画の戸建分譲が行われ、その1区画当たりの地積は108.05平方メートルから127.44平方メートルまでであった。

(ハ) 本件土地は、原処分庁が主張する本件位置指定道路を利用した開発行為(別図1)、請求人らが主張する新たに道路を開設して行う開発行為(別図2)のいずれにおいても、開発行為を行う際には、都市計画法第29条《開発行為の許可》の許可を受ける必要がある。

(ニ) 本件土地で開発行為を行う場合、都市計画法施行令第25条《開発許可の基準を適用するについて必要な技術的細目》第2号により、幅員4m以上の道路が区画割後の各敷地に接するように配置される必要がある。

(ホ) 本件位置指定道路は、本件土地と約36.49m接しており、また通り抜けることができないため、区画割後の各敷地に接する道路として本件位置指定道路を利用する場合には、都市計画法施行規則第20条《道路の幅員》及び同規則第24条《道路に関する技術的細目》第5号により、本件位置指定道路の幅員を6mに拡幅するか、本件土地の奥行終端部分を含む合計2か所に自動車転回広場を設ける必要がある。

(ヘ) 別図1のとおり本件位置指定道路を利用した開発行為を行った場合には、本件土地のうち約87平方メートルが本件位置指定道路の拡幅部分に充てられる。

(ト) 別図2のとおり新たに道路を開設して行う開発行為を行った場合には、本件土地のうち約117平方メートルが新たな道路用地に充てられる。

ロ 広大地通達について
 広大地通達の趣旨は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、「都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合」に「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」は、道路や公園等のいわゆる潰れ地が生じることになるため、当該土地の評価の際に、一定割合を減額することにしたものである。

上記の広大地通達の趣旨に照らせば、広大地通達にいう「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など土地の利用状況の連続性や地域としての一体性を分断することがあると一般に考えられる客観的な状況を総合勘案し、各土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりとみるのが相当な地域を指すものと解される。
 また、評価通達は、相続税法第22条にいう「時価」すなわち相続開始時における当該財産の客観的な交換価値(不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額)を評価するために定められたものであることは前述したとおりであることに照らせば、評価通達の一部を構成する広大地通達についても上記の時価を評価する目的にかなうように解釈するのが相当である。そして、土地は、通常、その土地に係る法規制の下において、経済的に最も合理的であると認められる利用を想定して価格が形成されて取引されていること及び上記広大地通達の趣旨に鑑みれば、広大地通達にいう「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、その土地を経済的に最も合理的に利用するために都市計画法に規定する開発行為を行うことが必要であり、その開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる場合を意味するものと解するのが相当である。

ハ 広大地通達への当てはめ

(イ) 広大地通達にいう「その地域」が本件地域であること、本件地域における標準的な宅地の地積が110平方メートル程度であること、地積が613.37平方メートルである本件土地が本件地域における「標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」であることについて、いずれも当事者間に争いがないところ、上記イ(イ)及び(ロ)で認定した事実に照らせば、本件地域は公法上の規制等が同一で、主として戸建住宅用地として利用されている地域であって、土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められることからすると、本件土地が広大地に該当するかの判断に当たっての基礎となる「その地域」とは、本件地域であると認めるのが相当である。また、上記イ(ロ)によれば、本件地域における標準的な宅地の地積は110平方メートル程度であると認めるのが相当である。そして、上記1(2)ニのとおり、本件土地の地積は613.37平方メートルであるから、本件土地が「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」であると認められる。

(ロ) 上記イ(ロ)によれば、本件地域は、主として戸建住宅用地として利用されていることが認められるから、戸建住宅分譲用地として分割利用することを前提とした開発を行うことが、本件地域における土地の経済的に最も合理的な利用であると認められる。そして、請求人らが主張する開発想定図(別図2)は、本件地域における標準的な宅地の地積(110平方メートル程度)を踏まえて、同地積に近似した面積によって整形に区画割する方法によるものであり、開発方法として十分な合理性を有するものであると認められる。
 そうすると、本件土地は、広大地通達にいうその地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地に当たり、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められることから、本件土地は広大地として評価するのが相当である。

(ハ) この点について、原処分庁は、本件土地の開発想定は別図1によるべきであり、この場合には、本件位置指定道路の拡幅などが必要ではあるものの、広大地通達にいう公共公益的施設用地の負担は生じない旨主張する。
 確かに、上記イ(ヘ)及び(ト)によれば、本件位置指定道路を利用して行う戸建住宅の分譲は、本件土地の敷地内に新たな道路を開設して行う戸建住宅の分譲と比較して、より広い建築面積及び延床面積の建物等を建築することができることになるから、このような開発方法を想定すること自体の合理性が肯定されれば、原処分庁が主張する開発方法のほうが、経済的合理性に優れているといえる。しかしながら、本件位置指定道路は、本件私道所有者らが所有するもので、被相続人及び請求人らは本件位置指定道路に係る権利を何ら有していない。そのため、本件位置指定道路を利用した開発の可否は、本件私道所有者らの意向に左右されるものであるところ、本件土地については、本件土地の敷地内に新たな道路を開設して行う開発方法(請求人ら主張の開発方法)が想定でき、上記(ロ)のとおり、十分合理性を有するものである以上、このような場合にまで、第三者の所有に係る土地を利用しての開発行為を想定することに合理性があるとはいえない。
 したがって、原処分庁の上記主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

本件土地について広大地通達に従って評価した上で、請求人らの本件相続に係る課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「申告」欄記載の金額と同額となる。そうすると、争点2について判断するまでもなく、本件各更正処分は、いずれも違法であり、取消しを免れない。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、請求人らがした本件相続税に係る申告における納付すべき税額と同額であるから、請求人らには過少申告による納税義務違反の事実は認められないことになる。
 したがって、本件各賦課決定処分は、いずれも違法であり、取消しを免れない。

(5) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分はいずれもその全部を取り消すこととする。

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