(平成28年2月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)D及び同F(以下、両名を併せて「請求人ら」という。)が相続税の申告を行ったところ、原処分庁が、請求人Dが相続により取得した各土地は、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》に定める広大地には該当しないなどとして、相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人らが当該各土地は広大地に該当するとして、上記各処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成27年4月2日)に至る経緯は、別表1記載のとおりである。
 なお、請求人らは、請求人Dを総代として選任し、平成27年4月2日、その旨を当審判所に届け出た。
 また、平成26年12月5日付でされた平成23年4月○日相続開始に係る相続税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)後に請求人らが行った各更正の請求に対して平成27年7月7日付でされた各再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令等の要旨

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、同法第3章《財産の評価》で特別の定めのあるものを除くほか、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。

ロ 評価通達24−4(以下「広大地通達」という。)は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものを除く。以下「広大地」という。)で路線価地域に所在するものの価額は、その広大地の面する路線の路線価に、評価通達15《奥行価格補正》から20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めに代わるものとして次の算式により求めた広大地補正率を乗じて計算した価額にその広大地の地積を乗じて計算した金額によって評価する旨定めている。
(算式)広大地補正率=0.6−0.05×(広大地の地積/1,000平方メートル

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

イ 請求人らは、いずれもG(以下「本件被相続人」という。)の子であり、本件被相続人の共同相続人である。請求人らのほかに、共同相続人として、本件被相続人の妻であるHがいる。

ロ 本件被相続人は、平成23年4月○日に死亡し、請求人ら及びHが本件被相続人の権利義務を相続した(以下、この相続を「本件相続」という。)。

ハ 請求人ら及びHの間で、平成23年12月1日、遺産分割協議が成立し、請求人Dは、a市b町○丁目(別図1参照。以下「b町○丁目」という。)に所在する別表2の順号1から順号4までの各土地(以下、順次「本件1土地」、「本件2土地」、「本件3土地」及び「本件4土地」といい、これらを併せて「本件各土地」という。)を取得した。

ニ 本件各土地の状況等は、次のとおりである。

(イ) 本件1土地は、b町○丁目○番の街区(当該街区は、評価通達14−2《地区》の中小工場地区に定められている。以下同じ。)に所在し、その北側で幅員約16mの市道d号線に接面する地積が1,013平方メートルのおおむね長方形の土地であり、本件相続の開始時において、簡易倉庫及びコンテナ置場として使用する目的で賃貸されていた。
 なお、本件1土地は、J鉄道K線e駅(以下「e駅」という。)の北西約1.3km(徒歩約17分)に所在し、本件1土地の北側に接面する路線に付された平成23年分の路線価は、110,000円である。

(ロ) 本件2土地は、b町○丁目○番の街区に所在し、その東側で幅員約8.5mの県道f線に接面する地積が633平方メートルのおおむね長方形の土地であり、本件相続の開始時において、本件相続に係る相続財産である貸家(工場作業場)の敷地として利用されていた。
 なお、本件2土地は、e駅の北西約1.1km(徒歩約14分)に所在し、本件2土地の東側に接面する路線に付された平成23年分の路線価は、115,000円である。

(ハ) 本件3土地は、b町○丁目○番の街区に所在し、その北側で幅員約16mの市道d号線に、その西側で幅員約3.0mの市道g号線にそれぞれ接面する地積が2,254平方メートルのおおむね長方形の土地であり、本件相続の開始時において、駐車場用地として利用されていた。
 なお、本件3土地は、e駅の北西約1.3km(徒歩約17分)に所在し、本件3土地の北側及び西側に接面する路線に付された平成23年分の路線価は、いずれも110,000円である。

(ニ) 本件4土地は、b町○丁目○番の街区(当該街区は、評価通達14−2の普通住宅地区に定められている。)に所在し、その西側で幅員約44mの国道h号線(○○バイパス)に接面する地積が725.00平方メートルのおおむね長方形の土地であり、本件相続の開始時において、更地であった。
 なお、本件4土地は、e駅の北西約1.5km(徒歩約18分)に所在し、本件4土地の西側に接面する路線に付された平成23年分の路線価は、160,000円である。

(ホ) 本件各土地は、いずれも、都市計画法第7条《区域区分》第1項及び第2項に規定する市街化区域内に存し、同法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)としては準工業地域である。また、本件各土地について、いずれも建築基準法第52条《容積率》に規定する容積率(以下「容積率」という。)は200%、同法第53条《建ぺい率》に規定する建ぺい率(以下「建ぺい率」という。)は60%である。
 なお、本件各土地の所在する地域は、首都圏整備法第2条《定義》第4項に規定する近郊整備地帯に存することから、地積が500平方メートル以上の土地に開発行為を行う場合には、都市計画法第29条《開発行為の許可》に規定する許可を受けなければならない。

(5) 相続財産の価額

イ 請求人らは、本件相続に係る相続税の申告において、相続財産を評価通達の定めに従って評価したところ、本件各土地はいずれも広大地に該当することを前提に評価した。

ロ 原処分庁が本件各更正処分において評価通達に従って行った本件各土地の評価は、それぞれ別表3の「更正処分額」欄記載のとおりであり、いずれも広大地に該当しないものとして評価した。

ハ 請求人らは、1本件各土地がいずれも広大地に該当する、2本件1土地に係る地下埋設物除去費用900,000円の80%相当額である720,000円を控除すべきであるとして、各更正の請求をしたところ、原処分庁は、上記のうち、2を認めて、本件1土地について別表3の「再更正処分額」欄記載のとおり評価した上、別表1の「再更正処分等」欄記載のとおり、本件各再更正処分をした。

(6) 争点

 本件各土地は、広大地に該当するか否か。

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2 主張

(1) 原処分庁

イ 広大地通達にいう「その地域」について

 「その地域」については、自然的状況、道路及び鉄道などの状況、行政区域並びに公法上の規制など、土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼすものなどを総合勘案して判断すべきである。
 この点、本件1土地から本件3土地までは、いずれも評価通達14−2に定める中小工場地区に所在しているところ、b町○丁目○番及び同○番の街区が同地区である一方、その周辺はすべて評価通達14−2に定める普通住宅地区である。加えて、b町○丁目○番及び同○番の街区について、1その北側は、主に戸建住宅の敷地として利用されていること、2その南側は、i県立j高等学校(以下「県立高校」という。)の敷地として利用されていること、3東側は、県道f線に面し、その東側の地域は、用途地域が第一種住居地域であり、主に戸建住宅の敷地として利用されていること、及び、4その西側は、主に戸建住宅及び共同住宅等の敷地として利用されていることなどからすると、本件1土地から本件3土地までに係る「その地域」は、別図2−1のとおり、b町○丁目○番及び同○番の街区(以下「原処分庁主張地域1」という。)である。
 また、本件4土地に係る「その地域」は、別図2−1のとおり、北側をk道路、西側を国道h号線(○○バイパス)、東側及び南側をm川に囲まれた地域(以下「原処分庁主張地域2」という。)である。

ロ 広大地該当性について

(イ) 本件1土地から本件3土地までの各土地について

 原処分庁主張地域1においては、本件相続の開始時、工場及び事務所4棟並びにマンション1棟が存していることから、その宅地の標準的使用は、工場又はこれに準ずる施設の敷地であり、標準的な宅地の地積は、1,200平方メートルから14,000平方メートル程度である。
 そうすると、本件1土地から本件3土地までの各土地は、いずれも、その地積が原処分庁主張地域1における標準的な宅地の地積の上限を超えるものではないから、著しく地積が広大な土地とは認められない。

(ロ) 本件4土地について

 原処分庁主張地域2においては、本件相続の開始時、駐車場付きの店舗3棟、事務所5棟及び戸建住宅等4戸が存していることから、その宅地の標準的使用は、駐車場付きの店舗又は事務所の敷地であり、標準的な宅地の地積は、500平方メートルから2,000平方メートル程度である。
 そうすると、本件4土地は、その地積が原処分庁主張地域2における標準的な宅地の地積の上限を超えるものではないから、著しく地積が広大な土地とは認められない。

(ハ) したがって、本件各土地は、いずれも広大地には該当しない。

(2) 請求人ら

イ 広大地通達にいう「その地域」について

(イ) 本件各土地のあるb町○丁目のうち、県立高校の敷地となっているb町○丁目○番の街区を除いた同○番から○番までの街区は、容積率及び建ぺい率が同一であり、敷地面積の最低限度も100平方メートルと同一である。

(ロ) また、b町○丁目○番から○番までの街区は、西側の国道h号線(○○バイパス)、東側の県道f線、南側の県立高校を境として地域の一体性が保たれており、幅員約16mの市道d号線を中心に街路条件の良い戸建の住宅、中高層の集合住宅及び中小工場が混在している地域である。

(ハ) 以上の点を踏まえ、1行政区域として最小限の地域の一体性があると認められる住居表示地を基本単位とし、それに、2自然的状況、3土地の利用状況の連続性や地域の一体性を分断する道路、鉄道及び公園その他の施設などの状況、4都市計画法による土地利用の規制等の公法上の規制など、土地利用上の利便性や利用形態に影響を及ぼす事項を総合勘案して本件各土地に係るその地域を判断すると、b町○丁目○番から同○番までの各街区が、土地等の利便性や環境等に同一性のあるひとまとまりの地域と認められることから、別図2−1の破線で囲まれた地域(以下「請求人ら主張地域」という。)を本件各土地に係る「その地域」とすることが相当である。

ロ 広大地該当性について

(イ) 請求人ら主張地域においては、最近新たに工場として開発された例はなく、むしろ、中小工場の数社がここ10年くらいの間に移転するという状況からすれば、資金面で利用者が極めて限定される工場又はこれに準ずる施設の敷地としての利用が経済的に最も合理的であるとはいえない。
 この点に加え、a市における準工業地域の土地利用の現況の大部分が戸建住宅であることを併せ考えれば、請求人ら主張地域における宅地の標準的使用は、戸建住宅の敷地である。

(ロ) 請求人ら主張地域において、昭和52年以降現在までに開発された戸建分譲住宅19区画の平均敷地面積は、110.45平方メートルである。
 また、本件相続の開始時において、請求人ら主張地域には地価公示の標準地が存在しないものの、a市b町並びにb町に隣接する同市n町及びp町の準工業地域にある地価公示の標準地6地点の平均地積は、約146平方メートルである。
 これに請求人ら主張地域における敷地面積の最低限度が100平方メートルであること等を総合勘案すると、請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積は、100平方メートルから120平方メートル程度というべきである。
 そうすると、本件各土地は、いずれも、請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な土地に該当する。

(ハ) 請求人ら主張地域における標準的な宅地の地積が上記(ロ)のとおりであること並びに本件各土地の形状、公道との接面状況及び地積等を踏まえると、本件各土地の開発行為を行うに当たっては、別図3のとおり、いずれも、道路を開設するのが経済的に最も合理的である。
 そうすると、本件各土地は、いずれも、開発行為をするとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要な土地である。

(ニ) したがって、本件各土地は、いずれも広大地に該当する。

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3 判断

(1) 相続税法第22条について

 相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、ここにいう時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解するのが相当である。
 しかし、客観的交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、これを個別に評価する方法をとった場合には、その評価方式等により異なる評価額が生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となったりするおそれがある。そこで、課税実務上は、特別の定めのあるものを除き、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、原則としてこれに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。このように、あらかじめ定められた評価方式によってこれを画一的に評価することは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現という観点から見て合理的であり、相続財産の評価に当たっては、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情がない限り、評価通達に定められた評価方法によって画一的に評価することが相当である。そして、本件各土地の評価については、評価通達によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情があるとは認められないから、評価通達によって評価することが相当である。

(2) 広大地通達について

イ 広大地通達の趣旨は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、「都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合」に「公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」は、道路や公園等のいわゆる潰れ地が生じることになるため、当該土地の評価の際に、一定割合を減額することにしたものである。

ロ 上記の広大地通達の趣旨に照らせば、広大地通達にいう「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制などの公法上の規制等、4道路、鉄道及び公園など土地の利用状況の連続性や地域としての一体性を分断することがあると一般に考えられる客観的な状況を総合勘案し、各土地の利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりとみるのが相当な地域を指すものと解される。

ハ また、評価通達は、相続税法第22条にいう「時価」すなわち相続開始時における当該財産の客観的な交換価値(不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額)を評価するために定められたものであることは前述したとおりであることに照らせば、評価通達の一部を構成する広大地通達についても上記の時価を評価する目的にかなうように解釈するのが相当である。そして、土地は、通常、その土地に係る法規制の下において、経済的に最も合理的であると認められる利用を想定して価格が形成されて取引されていること及び上記広大地通達の趣旨に鑑みれば、広大地通達にいう「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」とは、その土地を経済的に最も合理的に利用するために都市計画法に規定する開発行為を行うことが必要であり、その開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる場合を意味するものと解するのが相当である。

(3) 認定事実

 基礎事実に加え、請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果を総合すると、次の事実が認められる。

イ 本件各土地は、b町○丁目に所在しているところ、そのうち本件1土地から本件3土地までの各土地は○番の街区に、本件4土地は○番の街区にそれぞれ所在している(別図1参照)。

ロ b町○丁目は、北側を市道q号線、東側を県道f線、南側を市道r号線、西側を幅員約44mの国道h号線(○○バイパス)に囲まれた14の街区により構成される地域である。そのうち、○番の街区の東側及び南側にかけてm川が流れている(別図1参照)。

ハ b町○丁目は、用途地域が準工業地域であり、容積率は200%、建ぺい率は60%と定められている。そして、b町○丁目における建築物の敷地面積の最低限度は100平方メートルである。
 これに対して、県道f線の東側の地域(a市b町△丁目)については、容積率、建ぺい率及び建築物の敷地面積の最低限度はb町○丁目と同じであるが、用途地域は第一種住居地域である。

ニ b町○丁目の南端に位置する○番の街区は、その全域が県立高校の敷地となっており、住宅用や商業用への宅地転用が見込まれない地域である。

ホ b町○丁目のうち、m川の西側の地域(○番の街区)は、主に事業所や店舗の敷地として利用されており、同街区に存する3か所の事業所の敷地の地積は、それぞれ約495平方メートル、約671平方メートル及び約858平方メートルであり、店舗の敷地の地積は約859平方メートルである。
 一方、b町○丁目のm川の東側の地域は、戸建住宅や集合住宅などの混在する地域であり、この地域には中高層の集合住宅(地上階数が3階以上のものをいう。以下同じ。)が10棟あるが、その建築時期の内訳は、昭和62年以前に2棟、平成3年に3棟、平成7年に1棟、平成9年に1棟、平成20年から21年にかけて3棟というものであり、平成22年以降は、このような中高層の集合住宅の建築はない。
 また、平成19年に1区画当たり約100平方メートルの戸建住宅敷地としての分譲がされるなど、本件相続の開始時におけるこの地域の全建築物のうち約7割は戸建住宅である。このほか、平成27年には、本件1土地が1区画当たり約100平方メートルから約110平方メートルまでの8区画の戸建住宅敷地として分譲された。

ヘ b町○丁目において、昭和52年以後に開発された戸建住宅の敷地面積の平均は約110平方メートルである(それ以前の事例をみると、本件相続の開始時における建物の敷地面積の最低限度である100平方メートルを下回る事例の割合が高く、開発状況に変化が見られるため採用しない。)。

ト 本件2土地の南側には市道s号線(幅員3.5m)があるが、当該市道との間には水路があるため、当該市道を接面道路とする開発行為を行うことができない。

チ 本件各土地の存するa市b町の準工業地域には、地価公示の標準地が2地点あるところ、それらの平均地積は約139平方メートルである。

(4) 広大地通達への当てはめ

イ 本件1土地から本件3土地までの各土地について

(イ) 上記(3)で認定した事実に照らせば、本件1土地から本件3土地までの各土地は、いずれもb町○丁目○番の街区に所在しているところ、1b町○丁目においては、全ての街区において、用途地域、容積率及び建ぺい率が同じである、2b町○丁目と県道f線の東側の地域とでは、行政区域及び用途地域を異にする、3b町○丁目のうち、その南端に位置する○番の街区は、その全域が県立高校の敷地となっており、他の街区とは土地の利用状況が大きく異なる、4b町○丁目の西側は、幅員約44mの国道h号線(○○バイパス)が南北に走っているとともに、○番の街区の東側及び南側にかけてm川が流れており、これらを境に地域としての一体性が分断されている、5b町○丁目と市道q号線の北側の地域とでは、行政区域を異にするということができ、以上の事情を総合勘案すれば、b町○丁目の14の街区のうち、○番及び○番の街区を除いた地域(別図2−2の二重線で囲まれた地域であり、以下「審判所認定地域1」という。)が本件1土地から本件3土地までの各土地に係る広大地通達にいう「その地域」に当たると認めるのが相当である。
 この点について、原処分庁は、原処分庁主張地域1の評価通達14−2に定める地区が中小工業地区とされており、その周辺の地区(普通住宅地区)とは利用状況も含めて異なるなどとして、原処分庁主張地域1が広大地通達にいう「その地域」であると主張する。しかしながら、評価通達における地区の違いが、直ちに土地の利用状況の連続性や地域としての一体性を分断することがあると一般に考えられる客観的な状況に当たるということはできず、また、原処分庁主張地域1(b町○丁目○番及び○番の街区)と、b町○丁目○番から○番までの街区(○番の街区を除く。)を比較すると、前者が主に工場用地である一方、それ以外の街区が戸建住宅の割合が高いものの、いずれも準工業地域であって、公法上の規制等に異なる点はなく、行政区域も同一であることを踏まえると、それらの地域の客観的な状況に異なる点があると認めるに足りない。したがって、原処分庁の主張には理由がない。
 なお、本件1土地及び本件3土地がその北側で接する幅員約16mの市道d号線についても、その接する南北の土地について、土地の利用状況の連続性や地域としての一体性を分断するといえるような状況にはない。

(ロ) 上記(3)ホによれば、審判所認定地域1においては、戸建住宅の戸数はその地域における建築物の約7割を占めており、本件相続が開始した平成23年から過去10年の間には3棟の中高層の集合住宅の建築もある一方で戸建住宅敷地としての分譲もされていることからすると、審判所認定地域1における宅地の標準的使用は戸建住宅の敷地であると認められる。
 なお、広大地通達は、広大地の定義からマンション適地(広大地通達に定める中高層の集合住宅等の敷地用地に適している土地をいう。以下同じ。)を除外しているところ、上記(2)イで述べた広大地通達の趣旨に鑑みれば、評価対象地がマンション適地であると認められる場合とは、「その地域」における1マンション等の建築の状況、2用途地域・建ぺい率・容積率や地方公共団体の開発規制、3交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性等を総合勘案して、評価対象地をマンション等の敷地とすることが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当である。そして、本件の場合、審判所認定地域1においては中高層の集合住宅が10棟存している(上記(3)ホ)ものの、上記の事情に加え、上記1(4)ニのとおり、本件1土地から本件3土地までの各土地の容積率は200%であり、いずれもe駅から徒歩で15分前後を要する場所に位置し、最寄り駅との接近性に優れているともいいきれないこと、平成22年以降マンションの建築が進められている事実はなく(上記(3)ホ)、マンションの敷地としての利用に地域が移行している状況にはないことなどを総合勘案すると、本件1土地から本件3土地までの各土地は、マンション適地とは認められない。
 そして、上記(3)ハ、ヘ及びチによれば、審判所認定地域1における建築物の敷地面積の最低限度が100平方メートルであり、戸建住宅の敷地面積の平均が約110平方メートルであること、及び、a市b町の準工業地域に指定された地域にある地価公示の標準地(2地点)の平均地積は約139平方メートルであることが認められ、これらの事情に照らせば、審判所認定地域1における標準的な宅地の地積は、110平方メートル程度と認めるのが相当である。
 そうすると、地積が1,013平方メートルの本件1土地、地積が633平方メートルの本件2土地及び地積が2,254平方メートルの本件3土地は、いずれも「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」であると認められる。

(ハ) 当審判所の調査の結果によれば、本件1土地から本件3土地までの各土地の形状や公道への接面状況は、別図3のとおりであると認められるところ、これらの状況に鑑みると、請求人らが主張する開発想定図(別図3)は、いずれも審判所認定地域1における標準的な宅地の地積(110平方メートル程度)を踏まえて、同地積に近似した面積によって整形に区画割する方法によるものであり、開発方法として十分な合理性を有するものであると認められる。
 なお、本件2土地については、その南側に市道s号線が通っているが、上記(3)トのとおり、本件2土地と当該市道の間には水路が通っているため、本件2土地の南側を進入経路とする宅地開発ができないから、別図3のとおり道路を開設しての開発行為が合理的と認められる。
 したがって、本件1土地から本件3土地までの各土地については、道路を開設する開発行為が経済的に最も合理的であり、開発行為を行う場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる。

(ニ) 以上によれば、本件1土地から本件3土地までの各土地は、いずれも広大地に該当する。

ロ 本件4土地について

 上記(3)で認定した事実に照らせば、本件4土地は、b町○丁目○番の街区に所在しているところ、b町○丁目の西側は、幅員約44mの国道h号線(○○バイパス)が南北に走っているとともに、○番の街区の東側及び南側にかけてm川が流れており、これらを境に地域としての一体性が分断されている、また、b町○丁目と市道q号線の北側の地域とでは、行政区域を異にしているということができ、以上の事情を総合勘案すれば、b町○丁目○番の街区(別図2−2の破線で囲まれた地域であり、以下「審判所認定地域2」という。)が本件4土地に係る広大地通達にいう「その地域」に当たると認めるのが相当である。
 そして、上記(3)ホによれば、審判所認定地域2に存する土地は主に事業所や店舗の敷地として利用されており、それらの地積は約495平方メートルから約859平方メートルであると認められるところ、これらの事情に照らせば、審判所認定地域2における標準的な宅地の地積は、これらの平均地積である約720平方メートル程度と認めるのが相当である。
 そうすると、地積725.00平方メートルの本件4土地は、「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」には当たらないから、広大地に該当しない。

(5) 本件各更正処分及び本件各再更正処分の適法性について

 本件1土地から本件3土地までの各土地について広大地通達に従って評価した上で、本件各土地の相続税評価額を算定すると、それぞれ別表3の「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
 そして、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ別表4記載のとおりとなる。
 そうすると、請求人らの納付すべき税額は、本件各更正処分及び本件各再更正処分の額を下回るから、本件各更正処分及び本件各再更正処分は、いずれもその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 本件各賦課決定処分の適法性について

 上記(5)のとおり、本件各更正処分及び本件各再更正処分はいずれもその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、請求人Dは○○○○円、請求人Fは○○○○円となる。
 また、これらの納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、請求人らの過少申告加算税の額は、それぞれ別表4の「過少申告加算税の額」欄記載のとおりとなり、本件各賦課決定処分の金額に満たないから、本件各賦課決定処分もまた、それぞれその一部を別紙2−1及び別紙2−2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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