(平成28年4月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の相続税について、原処分庁が、請求人は、被相続人の預金等の口座から引き出した現金を保管しており、相続開始日において当該現金が相続財産であることを認識していたにもかかわらず、税理士にこれを説明せず、当該現金の一部を「隠ぺい」し相続財産として期限内申告をしていなかったとして、重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、税理士には当該現金の概算額が分かる資料を渡しており、期限内申告書の記載等の税務上の判断は税理士に任せていたのであるから、「隠ぺい」はないとして、当該賦課決定処分につき、過少申告加算税に相当する額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

  1. イ J(以下「本件被相続人」という。)は平成24年10月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。
     本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の兄Kの子(甥)であるL、請求人及びM、並びに本件被相続人の姉Nの子(姪)であるPの4名(各人の法定相続分は、順次、6分の1、6分の1、6分の1及び2分の1である。)である。
  2. ロ 請求人は、本件相続に係る相続税について、L及びMと共同で相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出して、別表1の「当初申告」欄のとおり、相続税の期限内申告(以下「本件申告」という。)をした。
  3. ハ 請求人は、平成25年11月14日、本件相続に係る相続税の更正の請求をしたものの、当該更正の請求において相続税法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下同じ。)第12条《相続税の非課税財産》第1項第5号に規定する保険金の非課税限度額の控除をしていなかったとして、平成26年3月6日付で、当該更正の請求を取り下げた。
  4. ニ 請求人は、平成26年3月6日、別表1の「更正の請求」欄のとおり、本件相続に係る相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁は、同年4月28日付で、別表1の「更正処分」欄のとおり、当該更正の請求に基づく更正処分をした。
  5. ホ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成26年12月19日、本件相続に係る相続税について、L及びMと共同で相続税の修正申告書を原処分庁に提出して、別表1の「修正申告」欄のとおり、相続税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
  6. ヘ 原処分庁は、本件修正申告に係る本件被相続人の財産のうち、現金20,910,546円(以下「本件現金」という。)の申告漏れについては、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項の規定により、また、当該財産のうち、本件現金以外の財産の申告漏れについては、通則法第65条《過少申告加算税》第1項及び第2項の規定により、平成27年1月27日付で、請求人に対して、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下、過少申告加算税につき「本件過少決定処分」、重加算税につき「本件重加決定処分」という。)をした。
  7. ト 請求人は、平成27年1月31日、本件重加決定処分に不服があるとして、別表1の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月1日付で、棄却の異議決定をした。
  8. チ 請求人は、平成27年5月1日、異議決定を経た後の本件重加決定処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

  1. イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定している。
  2. ロ 通則法第68条第1項は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  3. ハ 国税通則法施行令(平成28年政令第156号による改正前のもの)第28条《重加算税を課さない部分の税額の計算》第1項は、通則法第68条第1項に規定する隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額は、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額のうち当該事実のみに基づいて修正申告書の提出があったものとした場合におけるその申告に基づき同法第35条第2項の規定により納付すべき税額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  1. イ 本件被相続人の財産管理の状況について
    1. (イ) 本件被相続人は、平成22年5月12日に○○のため入院し、これ以降、請求人が本件被相続人の財産管理を行うようになった。なお、本件被相続人の財産管理に関与していた者は請求人のみである。
    2. (ロ) 請求人は、平成22年5月17日から本件相続開始日までの間に、x1信用金庫○○支店の普通預金口座(本件被相続人名義、口座番号○○○○。以下「本件x1信金口座」という。)から、10回にわたり、合計4,700,000円を現金で引き出した。
    3. (ハ) 請求人は、平成22年5月17日から本件相続開始日までの間に、x2証券○○支店の証券総合口座(本件被相続人名義、口座番号○○○○。以下「本件MRF口座」といい、本件x1信金口座と併せて「本件被相続人口座」という。)から、44回にわたり、合計24,225,000円を現金で引き出した。
    4. (ニ) 請求人は、本件相続開始日までに、上記(ロ)及び(ハ)のとおり引き出した現金の中から、本件被相続人の入院費用その他の本件被相続人の費用として、合計7,314,454円を支出した。
  2. ロ 本件申告について
    1. (イ) 請求人は、本件申告について、Q税理士(以下「本件税理士」という。)に税理士法(平成26年法律第10号による改正前のもの)第2条《税理士の業務》第1項第1号に規定する税務代理を委任した。
    2. (ロ) 本件申告書の第11表「相続税がかかる財産の明細書」の「財産の明細」の「細目」欄には「現金」の記載があり、価額は「700,000円」、取得者は「G(請求人)」と記載されている。
    3. (ハ) 本件申告書の第15表「相続財産の種類別価額表」の「各人の合計」の「現金、預貯金等丸印」欄には、「11,452,759円」と記載されている。

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2 争点

 本件現金の申告漏れについて、重加算税の賦課要件である「隠ぺい」が認められるか否か。

3 主張

原処分庁 請求人

 納税者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解されている。これを本件についてみると、次の(1)及び(2)のとおり、重加算税の賦課要件は満たされている。

 請求人には、次の(1)及び(2)のとおり、重加算税の賦課要件である「隠ぺい」といわれるような行為はなく、重加算税の賦課要件は充足されていないから、本件重加決定処分は取り消されるべきである。

(1) 請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図していたことは、次のとおりである。

イ 請求人は、本件被相続人が平成22年5月12日に入院したことを契機に本件被相続人の預貯金等の管理を行うようになり、本件被相続人の入院費用等の支払のため、本件被相続人口座から現金出金を行って請求人の自宅に保管していた旨申述していること、及び本件現金の原資である本件x1信金口座の通帳や本件MRF口座からの出金状況が記載されている書面を、本件申告書の作成に当たって本件税理士に交付していると認められることからすれば、請求人が本件被相続人の各口座から出金した現金は本件被相続人に帰属する財産であり、当該現金から入院費用等の支出をした残金が本件相続に係る相続税の申告の対象となることを十分に認識していたと認められる。

ロ 本件MRF口座からの出金状況が記載されている書面、「収入」欄に「MRFの引き出し32,090,000」「MRFの残金200,000」等を列記した記載とその合計額「合計104,170,000」(丸1)の記載、「支出」欄に「経費 - 47,367,000」(丸2)の記載及び丸1 − 丸2の額「56,803,000」の記載がある表(収支の表)の書面並びに本件被相続人のために支出した費用を項目別(「J費用(2)」と表題に記載)及び時系列(「J費用(3)」と表題に記載)に記載した各書面によれば、少なくとも約10,000,000円の現金が存在していたことが分かること、請求人は本件相続の開始の時点で一千数百万円の現金があったと申述していること、請求人は現金をその自宅で保管し、そこから本件被相続人の入院費用等に充てていた旨申述していることからすれば、請求人は、各書面の作成に当たって、現金残高を把握していたものと推察でき、かつ、入院費用等の支払の都度、おおよその現金の残額を把握していたものと認められ、本件申告書に記載された現金の額と保管していた現金残高との誤差を了知できたことから、請求人が当初から過少に申告することを意図していたことは明らかである。

ハ 上記に加えて、請求人が、本件相続開始日において、相当額の現金が残っているにもかかわらず、何ら他の相続人らと当該現金に係る相続税の申告の取扱いの協議等を行わず、本件現金の存在について黙っていたことは、後記(2)が過少申告の意図に基づいた行為であることを強く裏付けるものである。

(1) 請求人に当初から相続財産を過少に申告する意図がなかったことは、次のとおりである。

イ 請求人は、本件税理士に対し、本件x1信金口座や本件被相続人名義のx3銀行口座の各通帳及び医療費など本件被相続人の支出に係る領収書等を交付した。

ロ 請求人は、上記イに加えて、相続税の申告書の作成を適切に行えるように本件被相続人の各口座から引き出した現金を集計した表を作成して、本件税理士に渡した。

ハ 上記イ及びロに関し、請求人は、本件税理士に対して、本件被相続人の財産管理の状況や入院、介護等の世話をしていたことなどいろいろなことを話した。

ニ 上記イないしハのとおり、請求人が引き出した現金については、請求人が本件被相続人のために引き出して持っている現金であること、そこから本件被相続人のための出費に使ったことなどが分かり、本件現金の存在及びそのおおまかな額について、本件税理士は認識することができたはずである。

(2) 請求人が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしていることについては、以下のとおりである。

イ 請求人は、本件税理士から、本件相続開始日における現金の有無について質問されたのに対し、有るとも無いとも明確な回答をしないなど、本件税理士が現金残高について正確な判断をできない状況を作出した。

ロ 請求人は、相続税の申告に当たり本件税理士が請求人に示した本件申告書に相続財産のうち現金が700,000円と記載されていることにつき、本件税理士から現金を700,000円と記載した理由の説明を受け、請求人自身が保管していた現金の残高との間に一見して大きな誤差が生じていることが明らかに了知できたにもかかわらず、請求人は、何ら質問や指摘をせず、現金の額を事実と明らかに異なる700,000円であるとしたまま、本件税理士に作成させた本件申告書を提出した。

ハ 本件税理士は、請求人に対し本件申告書の現金700,000円の記載について本件申告書の第11表を示しながら説明した旨申述していること、請求人も、本件税理士から現金は700,000円であるとの説明を受けている旨申述していることから、請求人は、本件税理士から同第15表ではなく同第11表を指し示されながら説明を受けたと推測され、「請求人」欄(2)のハの主張は、自身に有利になるように事実を歪曲している。

(2) 請求人が過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしていないことは、以下のとおりである。

イ 本件申告書の作成に当たり、請求人が本件税理士に対し、現金に関する資料を提出したことについては、上記(1)のイ及びロのとおりである。

ロ 本件申告書の作成に当たり、請求人が本件税理士に対し、現金に関する説明をしたことについては、上記(1)のハのとおりである。

ハ 本件相続に関し本件税理士を通じて本件現金につき過少申告となる本件申告書を提出することとなった理由は、以下のとおりである。

(イ) 請求人は、本件税理士に渡した資料及び請求人が本件税理士に話した内容等から、本件税理士は実際に相続財産として存在する現金が700,000円より相当多いことが分かるはずであったので、本件税理士が税務的な判断を行えば700,000円になるのかと思っていた。

(ロ) 本件税理士からは、本件申告書の内容の一つ一つについての説明はなく、現金については700,000円という話はあったが、計算資料もなく単に本件申告書第11表の記載を指しただけで、現金の内容についての具体的な説明や、計算書に基づいて700,000円になる経過の説明はなかった。

(ハ) 本件申告書には「預貯金」を意味する欄に二通りの金額の記載(本件申告書の第15表の「各人の合計」の「現金、預貯金等丸印」欄の11,452,759円の記載と同第11表の「財産の明細」の「細目」欄の「現金」(「G(請求人)」取得)700,000円の記載)があり、請求人は、本件税理士から説明を受けなければ理解できない。

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4 判断

(1) 法令解釈

 過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課することとされている(通則法第68条第1項)。この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮袋という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。そして、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  1. イ 本件相続開始日の直後における本件被相続人口座からの現金の引出しについて
    1. (イ) 請求人は、本件相続開始日の翌日から平成24年11月10日までの間に、本件x1信金口座から、12回にわたり、合計5,900,000円を現金で引き出した。
    2. (ロ) 請求人は、本件相続開始日の翌日から平成24年10月28日までの間に、本件MRF口座から、2回にわたり、合計3,950,000円を現金で引き出した。
  2. ロ 本件被相続人口座から引き出された現金について
    1. (イ) 請求人が本件被相続人口座から引き出した現金(上記1の(4)のイの(ロ)及び(ハ)並びに上記イ参照)については、請求人において本件被相続人に関連する費用又は自己の生活費等に適宜に支出する傍ら、請求人がその自宅に保管していた。
    2. (ロ) 異議審理庁所属の担当職員は、平成27年3月13日、請求人の自宅に臨場して、14,400,000円の現金(封筒9個に分けて保管)を確認し、請求人も、同時にこれを確認した。
  3. ハ 本件申告書の作成及び提出に至る経緯について
    1. (イ) 請求人は、平成25年2月、知人から紹介を受けた本件税理士に電話をした上で、同月中に本件税理士の事務所を訪問したが、その際は、請求人から申告書の作成業務を本件税理士に依頼する話はしなかった。
    2. (ロ) 請求人は、平成25年6月初旬頃、本件税理士に電話をし、同月11日、本件税理士の事務所において、本件税理士と本件申告書を作成するため初めての打合せを行った。その要旨は以下のとおりである。
      1. A まず、本件税理士は、請求人に対し、本件相続に係る相続財産にどのようなものがあるか質問した。これに対し、請求人は、「不動産、預金、証券会社のものなどがある。」と述べたが、現金については何も言わなかった。
      2. B 請求人は、本件x1信金口座の通帳を本件税理士に提出した。本件税理士は、その通帳のコピーを一部作成し、通帳の原本を当日中に請求人に返却した。
      3. C 請求人は、本件税理士に対し、上記Bのほかに、遺言書の一部、相続財産である土地及び家屋の登記に関する書類、固定資産税の評価証明書、本件相続開始日現在の本件MRF口座の残高証明書並びに生命保険金の支払に関する書類を提出した。
      4. D 本件税理士は、本件x1信金口座の通帳の記載に基づき、平成22年5月17日から同月25日までの間に8回にわたり引き出された合計4,000,000円の現金について、「引き出したお金はどうしたのですか。」と請求人に質問したところ、請求人は「入院費用です。」と回答した。
      5. E 本件税理士は、本件x1信金口座の通帳の記載に基づき、本件相続開始日の直前の500,000円の引出しについて、「これは残っていますね。」と言ったところ、請求人は何も言わなかった。
    3. (ハ) 請求人と本件税理士は、本件申告書の作成のため、上記(ロ)を含め2回ないし3回程度打合せを行ったところ、かかる打合せを含む本件申告書の作成までの過程は、以下のとおりである。
      1. A 請求人は、本件税理士に対し、本件相続に係る相続財産のうち、現金の存在及びその額について自ら発言することは一度もなかった。
      2. B 本件税理士は、請求人に対し、本件相続に係る相続財産である現金の有無について、2回以上質問した。これに対し、請求人は、現金の存在及びその額のいずれについても回答せず、請求人が本件被相続人の介護をしていたことや請求人の自宅の改修工事等の支出を予定していることなどについて一方的に話をし、本件税理士の質問には一切応じなかった。
      3. C 本件税理士は、上記A及びBのとおりの状況であったことから、本件相続開始日の直前の500,000円の引出しに関する質問に対し請求人が無言であった(上記(ロ)のE)のは、当該金額に相当する現金が本件相続開始日に相続財産として存在していたことを否定していないものと解釈し、当該引出しの状況等からすれば他に全く現金がないというのは不自然であることから、請求人が本件被相続人に係る費用と主張するものに相当の支出をしたとしても、これに加えて200,000円程度は現金が残っているものと推定して、相続税の申告書の原案を作成した。
    4. (ニ) 本件税理士は、相続財産である現金について、請求人に対し、本件申告書の第11表の記載を示して「直前に引き出された500,000円が残っているはずで、これに加えて200,000円くらいはあるはずなので。」と説明し、その記載の確認を求めた。これに対し、請求人は、疑義を述べたり質問したりすることもなかったため、本件税理士は、その記載でよいというものであると解釈し、請求人から本件申告書の提出につき了解を得た。
    5. (ホ) 本件税理士は、上記(ニ)に基づき、上記1の(4)のロの(ロ)のとおり、相続財産である現金を700,000円と記載して、本件申告書を原処分庁に提出した。
  4. ニ 本件申告書の作成に当たり請求人が本件税理士に提出した資料について
     請求人は、本件税理士に対し、本件申告書の作成のため、上記ハの(ロ)のB及びCに記載の書類等に加えて、丸1請求人が本件被相続人に係る費用等と考えた支払の領収書及びこれに類するもの、丸2「MRF」及び「MRF−改」と表題が付され、本件MRF口座からの現金の引出額を集計したと思われる表形式の各書面(別表2−1及び2−2のとおり。)、丸3左欄に「収入」、右欄に「支出」と記載された表形式の書面(別表3のとおり。以下「本件収支の表」という。)、丸4「J費用(2)」及び「J費用(3)」と表題の付された表形式の各書面(別表4及び5のとおり。)をそれぞれ提出した。
    1. (イ) 本件収支の表について
      •  本件収支の表の「収入」欄のうち、「2012.10.18x1信用」、「R社」、「債券」及び「MRFの残金」の各欄は、本件申告書に記載された財産及びその価額とおおむね一致していることから、これらの項目は、本件相続開始日現在の財産を示したものと認められる一方、これら以外の項目は、本件申告書に財産として記載されていないものであり、また、上記の項目と同様の「収入」欄に記載されていることからすれば、丸1「MRFの引き出し」欄(32,090,000円)は、その文言からして、本件MRF口座から引き出された現金を意味し、丸2「2010.05x1信用」欄(4,200,000円)は、上記1の(4)のイの(ロ)のことを踏まえると、2010年(平成22年)5月頃に本件x1信金口座から引き出された現金を意味し、丸1「2010x3銀行」欄(5,400,000円)は、上記丸1及び丸2の状況を踏まえると、2010年(平成22年)頃にx3銀行から引き出された現金を意味しているものと認められる。
      •  そして、本件収支の表には、「支出」欄が設けられているところ、上記丸1ないし丸3の引き出されたと認められる現金の合計額41,690,000円から、「支出」欄の金額47,367,000円を差し引くと、マイナス5,677,000円となる。
    2. (ロ) 「J費用(2)」及び「J費用(3)」と題する書面について
      •  これらの書面には、本件被相続人に係る入院費用及び生活費として支出したもの、○○により入院した本件被相続人に係る費用として合理的に認め難いもの(負担すべき根拠が不明なものを含む。)、本件相続開始日以降に係る費用として支出したもの(支出する予定のものを含む。)、本件被相続人から請求人へ支払ったとするものが入り混じって記載されているほか、それぞれの書面に重複して記載されている費用がある。

(3) 当てはめ

  1. イ 丸1請求人は、本件被相続人が平成22年5月に入院して以降、本件被相続人の財産を管理していたこと(上記1の(4)のイの(イ))、丸2請求人が本件相続開始日までに本件被相続人口座から引き出した現金の合計額は28,925,000円であり(同(ロ)及び(ハ))、本件被相続人に係る入院費用等の額7,314,454円(同(ニ))を差し引いたとしても、本件相続開始日における現金の残額は20,000,000円以上となること、丸3請求人が本件相続開始日の翌日以降に本件被相続人口座から引き出した現金の合計額は9,850,000円であり(上記(2)のイ)、平成27年3月に請求人の自宅で14,400,000円の現金が存在していたことが認められる(同ロの(ロ))。
     これらのことからすれば、請求人は、本件現金が相続財産であることを知りながら、本件税理士により現金の残高を700,000円とする本件申告書が作成されたことを奇貨として、本件税理士に何ら告げないまま、本件申告書を提出させるに至ったといえるのであり、請求人には、本件現金について、過少に申告する意図があったものと認められる。
  2. ロ また、請求人は、本件税理士が本件申告書を作成する過程において、丸1本件税理士に対して現金の存在を告げて相談しないばかりか、本件税理士から現金の存在について質問されてもその有無を告げず、一方的に話題を変えるなど、本件税理士の当該質問には一切応じなかったこと(上記(2)のハの(ロ)のA及びE並びに同(ハ)のA及びB)、丸2本件税理士から、相続財産の確認のため本件x1信金口座から引き出した現金について質問されたのに対して、「入院費用です。」と回答していること(同(ロ)のD)、丸3本件収支の表の「収入」欄のうち現金を引き出したと認められる項目の合計額(41,690,000円)から、「支出」欄の金額(47,367,000円)を差し引くとマイナスとなり(同ニの(イ))、手元に残っていた相続財産となる現金は存在しない旨を示したといえる本件収支の表を作成して本件税理士に提出していること、丸4一部は本件被相続人に係る費用ではあるものの、実際には支出していない費用、何らかの名目で本件被相続人から請求人への支払とする費用又はこれらの点について判別しかねる費用などが記載され(同ニの(ロ))、実際の支出額及び使途を把握し得ない旨を示した「J費用(2)」及び「J費用(3)」と題する各書面を作成して本件税理士に提出していることが認められる。
     そして、上記の一連の行為の結果として、上記(2)のハの(ニ)及び(ホ)のとおり、相続財産である現金について実際の額よりも著しく過少な額を記載した本件申告書が作成されるや、請求人は、当該記載が相続財産である現金の額よりも著しく過少であることに気付きながらも、請求人は、本件税理士が作成した本件申告書を提出している。
     そうすると、本件現金の申告漏れについては、過少申告の意図を外部からもうかがい得る請求人の行為の結果としてなされたものというべきである。
  3. ハ 上記イ及びロのとおり、請求人は、本件申告書の作成を委任した本件税理士に対して、当初から現金を過少に申告することを意図し、その意図に基づき本件現金の存在について、あえて秘匿し、本件収支の表など現金の存在を否定する書類を作成し、それらの結果として、本件税理士に現金を過少に記載した本件申告書を作成させて原処分庁に提出したものであり、請求人が当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づく過少申告をしたものと認められるから、本件現金の申告漏れについては、重加算税の賦課要件である「隠ぺい」によるものと認められる。

(4) 請求人の主張について

  1. イ 請求人は、本件税理士に対し、本件現金の存在及びそのおおまかな額の分かる資料を提出し説明している旨主張する。
     しかしながら、相続財産となる現金の額は、本件相続開始日において現金として存在するものの額であり、本件被相続人口座からの引出額の合計のみでは、本件税理士は、相続財産となる現金の額を把握することはできない。
     一方で、本件被相続人の財産管理に関与していたのは請求人のみであり(上記1の(4)のイの(イ))、請求人が相続財産となる現金の額を伝えない限り、請求人以外の者がその額を知り得る余地がないことは、請求人自身も熟知していたはずである。ましてや、本件税理士が、本件被相続人の財産に関し請求人とは別に情報を得る機会はないため、相続財産を把握するには請求人から聴取するほかなく、それにもかかわらず請求人の行動は上記(2)のハ及びニのとおりであったのであるから、請求人による本件税理士に対する資料の提出及び説明は、本件現金の存在及びその額を確認できるようなものでなかったというべきである。
     したがって、請求人の主張には理由がない。
  2. ロ 請求人は、本件税理士から現金の額の算定等に係る具体的な説明がなく、本件税理士の税務的な判断に任せていた旨主張する。
     しかしながら、請求人が、本件被相続人口座から引き出した現金の管理をしていた状況が上記(2)のロの(イ)のとおりであったことに加え、請求人自ら本件被相続人の死亡後に本件被相続人口座から9,850,000円の現金を引き出す(上記(2)のイ)などしていたために、本件相続開始日時点で本件被相続人の財産であった現金の額について、計算等により確認せざるを得ない状況となったものであるところ、本件被相続人の財産状況については、当該財産を管理していた請求人が税務申告に必要な具体的事実を本件税理士に伝えるべきものであり、請求人が主張するところの「税務的な判断」により本件相続開始日に存在した現金の額を決定することができないことも明らかである。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(5) 原処分について

  1. イ 重加算税の額について
     上記(3)のとおり、本件現金(20,910,546円)の申告漏れについては、重加算税の賦課要件である「隠ぺい」が認められることから、当該金額を基に、重加算税の額の計算の基礎となるべき税額を計算すると、別表6の丸15欄のとおり○○○○円(10,000円未満切捨て)となる。そうすると、重加算税の額は、当該税額○○○○円に通則法第68条第1項に規定する割合35%を乗じた○○○○円となる。
  2. ロ 過少申告加算税の額について
     本件修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件修正申告に係る過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額は、別表6の丸16欄のとおり○○○○円(10,000円未満切捨て)となる。
     当該基礎となるべき税額は、本件申告に係る期限内申告税額○○○○円(別表1参照)を超えていないから、通則法第65条第2項は適用されず、過少申告加算税の額は、上記の基礎となるべき税額○○○○円に通則法第65条第1項に規定する割合10%を乗じた○○○○円となる。
  3. ハ 原処分の適法性について
     本件重加決定処分に係る重加算税及び本件過少決定処分に係る過少申告加算税の合計額が、上記イ及びロの本来課されるべき加算税の合計額を超えているから、原処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 結論

 よって、原処分の一部を取り消すこととする。

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