(平成28年4月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の調査による指摘に従い、消費税及び地方消費税の修正申告書を提出したところ、原処分庁が、内容虚偽の請求書を請求人が自ら作成して、太陽光発電設備の取得費を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて確定申告書を提出したことは仮装に基づくものであるとして、重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、仮装の事実はないなどとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。

  1. イ 請求人は、土木建築用機械、金物の販売及び賃貸並びに自然エネルギー等による発電、電気の供給及び販売等を主な目的とする法人である。
  2. ロ 請求人は、平成25年9月30日、G社に対し、d市e町に所在する太陽光発電設備(以下「本件太陽光発電設備」という。)に係る設置工事(以下「本件工事」という。)を273,861,000円で発注し、G社はこれを請け負った。
  3. ハ 請求人は、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書において、課税仕入れに係る支払対価の額に本件太陽光発電設備の取得費を含めた。
     なお、当該確定申告書に併せて提出された税理士法第33条の2《計算事項、審査事項等を記載した書面の添付》第1項に規定する添付書面には、G社を発行者とする本件工事の代金請求に係る平成26年1月31日付請求書(以下「本件請求書」という。)が添付されていたが、本件請求書は、請求人が作成したものであり、その欄外に補足として「工事完了は3月31日までとする。」と記載されていた。
  4. ニ 本件工事は、平成26年7月15日に完了し、請求人は、同日、G社から本件太陽光発電設備の引渡しを受けた。
  5. ホ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成26年11月から平成27年3月にかけて、請求人の法人税及び消費税等の調査を行い、請求人に対し、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日は本件課税期間の翌課税期間であるから、本件太陽光発電設備の取得費は本件課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額に含めることはできない旨指摘した。
  6. ヘ 原処分庁は、請求人が、本件課税期間の末日である平成26年3月31日までに本件工事が完了しないにもかかわらず、同日までに完了する旨記載した内容虚偽の本件請求書を作成して、課税仕入れの対価の額に本件太陽光発電設備の取得費を含めて確定申告書を提出したことは、事実の仮装に基づくものであり、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして、本件課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。

(3) 審査請求に至る経緯

  1. イ 請求人は、本件課税期間の消費税等について、課税標準額を○○○○円、仕入税額控除の額を○○○○円並びに消費税の還付税額を○○○○円及び地方消費税の還付税額を○○○○円として法定申告期限までに申告した。
  2. ロ 請求人は、本件課税期間の消費税等について、原処分庁の調査による指摘に従い、課税標準額を○○○○円、仕入税額控除の額を○○○○円並びに消費税の納付税額を○○○○円及び地方消費税の納付税額を○○○○円として平成27年3月13日に修正申告をした。
  3. ハ 原処分庁は、上記ロの修正申告に対し、平成27年3月27日付で過少申告加算税の額を○○○○円及び重加算税の額を○○○○円とする各賦課決定処分をした。
  4. ニ 請求人は、上記ハの重加算税の賦課決定処分(本件賦課決定処分)を不服として平成27年4月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月26日付で棄却の異議決定をした。
  5. ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分に不服があるとして、平成27年7月24日に審査請求をした。

(4) 関係法令の要旨

 通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし、又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし、又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

トップに戻る

2 争点

 請求人は、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したか否か。

トップに戻る

3 争点についての主張

  1. (1) 原処分庁の主張
    •  本件工事は、平成26年7月15日に完成したところ、請求人は、消費税等の還付を早く受けたいがため、本件課税期間内に本件太陽光発電設備が完成しないことを十分認識していたにもかかわらず、本件工事が平成26年3月31日までに完了する旨記載した内容虚偽の本件請求書を作成し、本件太陽光発電設備の取得費を課税仕入れの対価の額に含めた。内容虚偽の本件請求書を作成した請求人の行為は、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したものというべきである。
  2. (2) 請求人の主張
    •  本件太陽光発電設備は、本件課税期間内に雑工事を除きほとんど完成していたところ、H社の接続工事が未了で売電できなかったため、法人税については建設仮勘定として経理し、消費税等については、消費税等の課税仕入れの保存書類とするためG社の了解を得て本件請求書を作成し、本件太陽光発電設備の取得費を課税仕入れの対価の額に含めたのであって、消費税等の還付を早めに欲しいとの理由から、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装した事実はない。

トップに戻る

4 当審判所の判断

  1. (1) 争点(請求人は、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したか否か。)について
    1. イ 通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
       したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)。
    2. ロ 上記1(2)ハ及びニによれば、丸1請求人は、本件課税期間の消費税等の確定申告書において、課税仕入れに係る支払対価の額に本件太陽光発電設備の取得費を含めたこと、丸2当該確定申告書の添付書面には本件請求書が添付されていたが、本件請求書は、請求人が作成したものであり、その欄外に補足として「工事完了は3月31日までとする。」と記載されていたこと、丸3請求人が、G社から本件工事の目的物である本件太陽光発電設備の引渡しを受けたのは、本件課税期間の翌課税期間に属する平成26年7月15日であったことが認められる。
       しかしながら、本件請求書は、飽くまで本件工事の代金を請求する書面であって、本件太陽光発電設備の引渡しに係る書面ではない上、本件請求書が平成26年1月31日付で作成されていることからすれば、「工事完了は3月31日までとする。」との記載は、工事完了の予定日が記載されたものとみるほかない(なお、本件の全証拠資料を精査しても、本件請求書が本件課税期間終了後に日付を遡って作成されたなどの事情は見いだせない。)。
       そうすると、請求人が本件請求書を作成したことをもって、請求人が本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したとは到底認めることができない。
       そして、このほかに、請求人が本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したと評価すべき行為が存在すると認めることもできない
       したがって、請求人が、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したということはできない。
    3. ハ この点について、原処分庁は、請求人は本件課税期間内に本件太陽光発電設備が完成しないことを十分認識していたにもかかわらず、内容虚偽の本件請求書を作成した旨主張するが、仮に請求人がかかる認識の下で本件請求書を作成していたとしても、本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したことにはならず、上記の判断を左右するものではない。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。
  2. (2) 本件賦課決定処分の適法性について
    •  以上のとおり、請求人は本件太陽光発電設備の引渡しを受けた日を仮装したとはいえないから、請求人につき、通則法第68条第1項所定の重加算税の賦課要件を満たさない。他方、請求人につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額等については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において、請求人が納付すべき本件課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、別紙「取消額等計算書」のとおりであると認められる。
       したがって、本件賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分は違法である。
  3. (3) 結論
    •  以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

トップに戻る

トップに戻る