(平成28年6月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の平成25年分の所得税及び復興特別所得税について、原処分庁が、外貨預金の払出しにより生じた為替差益を請求人の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入するなどの更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の認定した為替差益の額が過大であるとして同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

  •  請求人の審査請求(平成27年10月9日請求)に至る経緯は別表1のとおりである。
     なお、以下、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」といい、請求人の平成25年分の所得税等の確定申告を「本件申告」という。また、本件申告に対し平成27年5月29日付でされた更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をそれぞれ「本件更正処分」、「本件賦課決定処分」という。

(3) 関係法令の要旨

  1. イ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定している。
  2. ロ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
  3. ハ 所得税法第57条の3《外貨建取引の換算》第1項は、居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下同じ。)を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。以下同じ。)は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする旨規定している。
  4. ニ 所得税法施行令第118条《譲渡所得の基因となる有価証券の取得費等》第1項は、居住者が所得税法第48条《有価証券の譲渡原価等の計算及びその評価の方法》第3項に規定する2回以上にわたって取得した同一銘柄の有価証券で雑所得又は譲渡所得の基因となるものを譲渡した場合には、その譲渡につき同法第37条《必要経費》第1項の規定によりその者のその譲渡の日の属する年分の雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額又は同法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項の規定によりその者の当該年分の譲渡所得の金額の計算上取得費に算入する金額は、当該有価証券を最初に取得した時(その後既に当該有価証券の譲渡をしている場合には、直前の譲渡の時)から当該譲渡の時までの期間を基礎として、当該最初に取得した時において有していた当該有価証券及び当該期間内に取得した当該有価証券につき所得税法施行令第105条《有価証券の評価の方法》第1項第1号(総平均法)に掲げる総平均法に準ずる方法によって算出した1単位当たりの金額により計算した金額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果においてもその事実が認められる。

  1. イ 請求人による外国通貨建預金口座の開設とその取引状況
    1. (イ) 請求人は、平成21年5月29日、D銀行d支店に請求人名義の外国通貨建預金口座(口座番号○○○○)を開設した(以下、当該口座を「本件外貨預金口座」といい、本件外貨預金口座の預金を「本件外貨預金」という。)。
    2. (ロ) 本件外貨預金は、D銀行が「○○外貨預金」との商品名で居住者(個人)向けに提供した預入期間の定めのないアメリカ合衆国ドル(以下「米ドル」という。)建ての預金商品である。○○外貨預金の預入方法は、本邦通貨(以下「円貨」という。)を米ドルに交換しての預入れ又は他行からの米ドル送金による預入れのみに限定されるところ、円貨を米ドルに交換して預入れする際には、D銀行所定の対顧客電信売相場と対顧客電信買相場の仲値を適用することとされている。また、当該預金の払出方法は、米ドル現金による払出し又は米ドルを円貨に交換しての払出しのみに限定されるところ、米ドルを円貨に交換して払出しする際には、為替手数料を含む同行所定の対顧客電信買相場を適用することとされている。
      •  なお、上記○○外貨預金の口座を開設し、これと同一支店に同一名義の円普通預金口座を有する者については、為替手数料が割引となるD銀行所定の「○○サービス」を利用することができ、これを利用した場合、当該外貨預金の預入れ又は払出しを、ATMを利用した円普通預金口座との振替の方法により行うことができる。
    3. (ハ) 請求人は、本件外貨預金口座の開設以後、○○サービスを利用し、本件外貨預金の預入れ及び払出しの全ての取引をD銀行d支店請求人名義普通預金口座(口座番号○○○○。以下、当該口座を「本件普通預金口座」といい、本件普通預金口座の預金を「本件普通預金」という。)との間の振替の方法により行っていた(以上の方法による本件外貨預金の預入れ又は払出しを、以下「本件為替取引」という。)。
  2. ロ 請求人の平成25年分の雑所得の金額について
    1. (イ) 請求人は、平成25年分の雑所得について、公的年金に係る所得金額を別表2の「確定申告」欄のとおりに記載して本件申告をした。
    2. (ロ) 原処分庁は、本件更正処分において、本件為替取引から生じた為替差損益(以下「本件為替差損益」といい、このうち為替差益についてを「本件為替差益」という。)は雑所得に該当するとした上で、平成25年中の本件為替取引により生じた本件為替差損益の合計額を本件申告に係る雑所得の金額に加算するとともに、個人年金に係る所得金額をこれに加算した。本件更正処分において原処分庁が認定した請求人の雑所得の金額の内訳は、別表2の「更正処分」欄のとおりである。
    3. (ハ) 異議審理庁は、平成27年9月16日付の異議決定において、請求人の平成25年分の本件為替差益の金額を1,088万4,082円(本件更正処分における認定額を9円上回る金額)と認定した。当該異議決定において、異議審理庁が認定した請求人の雑所得の金額の内訳は、別表2の「異議決定」欄のとおりである。

(5) 争点

 平成25年分の本件為替差益の金額は、幾らになるか。

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2 主張

原処分庁 請求人

 請求人の平成25年分の本件為替差益の金額は、1,088万4,082円である。

 請求人の平成25年分の本件為替差益の金額は、521万5,095円である。

(1) 本件為替取引は、本件外貨預金口座から米ドルが引き出されると同時に円貨により本件普通預金口座に入金されていることからすると、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当する。そして、本件為替取引によって生じた本件為替差損益は、同法第35条第1項に規定する雑所得に該当し、その収入すべき時期は、所得税基本通達36−14《雑所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期》を受け、同通達36−12《山林所得又は譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期》の取扱いに準じ、米ドルを引き渡して円貨を取得した日とするのが相当である。

(2) そして、本件為替差損益は、外国為替の売買相場(以下「為替相場」という。)が変動して生じるものであるから、その額は、米ドルを引き出して円貨を取得した時点の為替相場と、円貨により米ドルを取得した時点の為替相場の差し引きにより生じた値を、引き出した米ドルの額に乗じて計算した額、具体的には、本件外貨預金口座の引出時におけるD銀行所定の対顧客電信買相場から、同行所定の対顧客電信相場の仲値を基に総平均法に準ずる方法により計算した相場を差し引いたことにより生じた値を、引き出した米ドルの額に乗じて計算した額とすべきである。

 以上によれば、請求人の平成25年分の本件為替差益の金額は、上記のとおり、1,088万4,082円となる。

(1) 本件為替取引は、本件外貨預金口座を開設した平成21年5月29日から平成25年11月11日(平成25年中の最終払出日)までの間にわたり継続して行われた取引であるから、本件為替差損益の額は、当該期間における取引を基礎として計算されるべきである。

(2) そうすると、本件為替差損益の額は、当該期間において、本件外貨預金口座から米ドルを引き出して本件普通預金口座に入金した円貨の合計金額○○○○円から、米ドルを取得するために本件普通預金口座から出金した円貨の合計金額○○○○円を差し引いた金額とすべきであるから、請求人の平成25年分の本件為替差益の金額は、上記のとおり、521万5,095円となる。

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3 判断

(1) 原処分庁及び請求人の主張額の開差要因について

 上記2のとおり、請求人の平成25年分の本件為替差益の金額について、原処分庁及び請求人双方の主張額に開差が生じているところ、これは主として本件為替差損益の計算期間の相違によるものである。すなわち、原処分庁は、平成25年1月1日から同年12月31日までの間に生じた本件為替差損益の合計額を平成25年分の本件為替差益の金額として主張するのに対し、請求人は、本件外貨預金口座を開設した平成21年5月29日から平成25年11月11日(平成25年中における最終取引日であり、同日の払出後における本件外貨預金口座の残高は0.08米ドルである。)までの間に生じた本件為替差損益の合計額を平成25年分の本件為替差益の金額として主張するので、以下検討する。

(2) 本件為替差損益の所得区分とその収入すべき時期について

 本件為替取引は、本件外貨預金口座と本件普通預金口座との間の振替による取引であり、外国通貨で支払が行われる取引として、所得税法第57条の3第1項に規定する外貨建取引に該当する。よって、本件為替取引の金額の円換算額については、同項の規定に従い、当該取引を行った時における為替相場により換算した金額とされるところ、本件外貨預金の払出時における円換算額(円交換額)とその預入時における円換算額(円交換額)との差額、すなわち本件為替差損益については、米ドルを円貨に交換して本件外貨預金口座から払い出した時に同法第36条第1項にいう収入すべき金額が実現したものとして、所得として認識する必要がある。そして、本件為替差損益に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得として、同法第35条第1項に規定する雑所得に該当する。

 以上から、本件為替差損益に係る雑所得の収入金額の収入すべき時期は、本件外貨預金口座に預入れされていた米ドルを円貨に交換して払い出したそれぞれの時となる。

(3) 平成25年分の本件為替差益の金額について

  1. イ 計算期間について
    1. (イ) 上記(2)によれば、請求人の平成25年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき本件為替差益の金額は、平成25年中の本件為替取引において、米ドルを円貨に交換して本件外貨預金口座から払い出したそれぞれの時に生じた本件為替差損益の額の合計額とされるべきである。
    2. (ロ) 請求人は、平成25年分の本件為替差益の金額は、本件外貨預金口座を開設した平成21年5月29日から平成25年11月11日までの間において本件外貨預金口座から本件普通預金口座に振り替えられた金額の合計額(払出合計額)と、上記期間において本件普通預金口座から本件外貨預金口座へ振り替えられた金額の合計額(預入合計額)との差額(521万5,095円)とすべきである旨主張するところ、これは、本件外貨預金口座の開設日以後に生じた本件為替差損益の合計額を平成25年分の収入金額として認識すべきことを前提に、その額を本件普通預金の入出金額の差額をもって算定するというものである。
      •  しかしながら、所得税法は、1暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し課税を行うことを前提に、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額はその年において収入すべき金額とする旨規定しており(同法第36条第1項)、請求人の平成25年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべき本件為替差益の金額は、上記(イ)のとおり、平成25年中において米ドルを円貨に交換して本件外貨預金口座から払い出したそれぞれの時に生じた本件為替差損益の額の合計額とすべきであるから、上記請求人の主張を採用することはできない。
  2. ロ 本件為替差損益の金額の算出方法について
    1. (イ) 本件外貨預金は、預入れ及び払出しが随時可能な預金であるところ、このような預金の払出しに伴って生ずる為替差損益の具体的な算定方法について、所得税法は、特段の定めを置いていない。
      •  殊に本件の場合、本件外貨預金口座の開設以後、本件外貨預金の預入れ及び払出しが繰り返し行われており(平成21年5月29日から平成25年11月11日までの間における本件外貨預金の預入れ及び払出しの回数はそれぞれ百数十回にわたり、この間、同日中に複数回の預入れ又は払出しが行われることもある。)、このため、本件外貨預金の残高については、異なる為替相場が適用されて預入れされた米ドルが常に混在するという状況にある。
    2. (ロ) 上記のような取引の実態を有する本件の下においては、譲渡所得又は雑所得の基因となる同一銘柄の有価証券を2回以上にわたって取得した場合の当該有価証券の取得価額の算定方法として総平均法に準ずる方法を用いるとした所得税法第48条第3項及び所得税法施行令第118条第1項の各規定を準用することが合理的である。すなわち、これらの規定が総平均法に準ずる方法を用いることとした趣旨は、同一銘柄内における有価証券は代替性を有し、各有価証券の取得価額が異なっても有価証券の物的性格は同じであるから、これらを等価とみて単価を平均化する方法が合理的といえること、これによって取得価額の変動を利用した利益操作の可能性を排除できることにあるものと解されているところ、同一の外国通貨は、同一銘柄の有価証券と同様、代替性を有し、通貨としての物的性格は同じであるから、異なる為替相場が適用されて本件外貨預金口座に預入れされていた米ドルを等価とみてその単価を平均化し、その平均化した単価を用いて当該米ドルの預入時の円換算額を算定するという方法が、本件においては、最も合理的というべきである。
    3. (ハ) 以上により、本件においては、当該米ドルの払出しの直前の払出しの時から当該米ドルの払出しの時までの期間を基礎として、丸1当該直前の払出しの時に有していた米ドル(当該直前の払出時における本件外貨預金の残高)の円換算額と、丸2当該期間中に預入れされた米ドルの円換算額(円交換額)の総額を合計し、さらに、丸3当該合計額を当該払出しの直前に有していた米ドルの総額(当該払出しの直前における本件外貨預金の残高)で除した金額をもって当該米ドル1単位当たりの金額(円)とし、同金額を基礎として預入時の円換算額を算定することが相当である。
      •  かかる方法により、本件外貨預金口座の開設日から平成24年12月末までの期間における本件外貨預金の各残高の円換算額及び各払出し直前の残高1米ドル当たりの円換算額(単価)を算定すると、別表3の「丸7残高」欄及び「丸8払出し直前の残高1米ドル当たりの円換算額(単価)」欄に各記載のとおりとなり、平成24年12月末現在(最終取引日は同年11月16日である。)における本件外貨預金の残高○○○○米ドルの円換算額は、○○○○円となる。
  3. ハ 平成25年分の本件為替差益の金額
     上記ロの(ハ)の方法に基づき、平成25年中における本件外貨預金口座の各取引の円換算額を算出の上、同年中に生じた本件為替差損益の金額をそれぞれ算定すると、別表4の「丸9本件為替差損益」欄のとおりとなり、その合計額は1,094万6,354円となる。
     よって、上記金額は、平成25年分の本件為替差益の金額として、請求人の同年分の雑所得の金額の計算上総収入金額に算入すべきこととなる。

(4) 本件更正処分について

 以上により、請求人の平成25年分の所得税等に係る所得金額及び納付すべき税額を計算すると別表5のとおりとなる。そうすると、請求人の同年分の所得税等の納付すべき税額(○○○○円)は、本件更正処分に係る所得税等の納付すべき税額(○○○○円)を上回るから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(4)のとおり適法であり、また、本件更正処分により所得税等の納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成26年法律第10号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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