(平成28年5月30日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、医業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、同族会社から不動産を賃借し、その賃料を事業所得の金額の計算上必要経費に算入するなどしたところ、原処分庁が、当該同族会社が請求人から不動産賃貸に係る高額な賃料を収受しており、これを容認すると請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》第1項の規定を適用し、原処分庁が算定した適正賃料に基づき事業所得の金額を計算するなどして所得税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分庁が算定した適正賃料には誤りがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

  1. イ 請求人は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下、平成23年分、平成24年分及び平成25年分を併せて「本件各年分」といい、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について、青色の確定申告書により、別表1の「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した。
  2. ロ 請求人は、平成25年分の所得税等について、別表1の「修正申告丸1」欄のとおりとする修正申告書を平成26年5月12日に提出した。
  3. ハ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成23年分の所得税について、別表1の「修正申告丸2」欄のとおりとする修正申告書を平成27年1月27日に提出した。
  4. ニ 原処分庁は、上記ハの修正申告に対し、平成27年3月6日付で、別表1の「賦課決定処分丸1」欄のとおり、平成23年分の所得税の過少申告加算税の賦課決定処分をした。
  5. ホ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等について、別表1の「修正申告丸3」欄のとおりとする各修正申告書を平成27年4月3日に提出した。
  6. ヘ 原処分庁は、上記ホの各修正申告に対し、平成27年4月21日付で、別表1の「賦課決定処分丸2」欄のとおり、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
  7. ト 原処分庁は、上記ホの各修正申告に対し、平成27年4月27日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
  8. チ 請求人は、上記トの各処分を不服として国税通則法(平成26年法律第69号による改正前のもの。以下同じ。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成27年6月8日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

  1. イ 所得税法第2条《定義》第8号の2は、株主等とは、株主又は合名会社、合資会社若しくは合同会社の社員その他法人の出資者をいう旨規定している。
  2. ロ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
  3. ハ 所得税法第157条第1項本文及び第1号は、税務署長は、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の総所得金額、所得税の額等を計算することができる旨規定し、所得税法施行令第275条《同族関係者の範囲》第1項本文及び第1号は、株主等の親族は、特殊の関係のある居住者に該当する旨規定している。
  4. ニ 法人税法第2条第10号は、同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその会社をいう旨規定し、法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》第1項本文及び第1号は、株主等の親族は、特殊の関係のある個人に該当する旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  1. イ 請求人は、内科等を専門とする医師であり、平成○年1月から、○○の名称で医業を営んでいる。
  2. ロ M社は、請求人の妻(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)が代表取締役を務める不動産の賃貸等を業とする会社であり、本件各年分において、法人税法第2条第10号に規定する同族会社である。
     なお、M社では、平成23年1月1日から平成24年8月15日開催の臨時株主総会までの期間において、請求人ら及び請求人らの子2名がその発行済株式の総数を有し、その後、平成25年12月31日までの期間において、請求人の妻及び請求人らの子2名がその発行済株式の総数を有していた。
  3. ハ 請求人は、平成○年7月1日に、上記イの医業を営むための診療所として、M社から、M社が所有するQ市R町○−○に所在する土地(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の建物(種類:診療所、構造:木造スレート葺2階建、延床面積:○○平方メートル。以下「本件診療所」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を賃借した(以下、この賃借に係る契約を「本件賃貸借契約」という。)。
  4. ニ 請求人は、M社に対し、本件不動産の賃料として、平成23年分○○○○円、平成24年分○○○○円及び平成25年分○○○○円を支払っていたところ、請求人及びM社は、平成27年4月に、本件各年分の本件不動産の賃料をいずれも年額○○○○円(月額○○○○円)に遡及して変更した(以下、本件不動産の変更後の賃料を「本件賃料」という。)。
  5. ホ 本件土地の公道に面する部分には、平成20年頃から、「○○駐車場」と表示された看板が設置され、自動車○台が駐車できるアスファルトが敷設されたスペース(以下「本件診療所駐車場」という。)がある。
  6. ヘ 本件診療所駐車場には、屋根等の構造物は設置されていない。
  7. ト 請求人は、平成25年12月20日に、平成○年分、平成○年分及び平成○年分の○○の取消しを求める訴訟の事務処理を委任する弁護士N及び弁護士Pに対し、当該委任事務処理の対価として合計○○○○円を支払った(以下、当該金員を「本件弁護士費用」という。)。

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2 争点

(1)争点1 M社が請求人から本件賃料を収受したことを容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か。

(2)争点2 本件弁護士費用は、請求人の平成25年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。

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3 主張

(1) 争点1(M社が請求人から本件賃料を収受したことを容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か。)について

原処分庁 請求人

 本件不動産について、次のとおり適正賃料を算定しており、M社が請求人から本件賃料を収受したことは、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

 原処分庁が根拠とする本件不動産の適正賃料の算定については、次のとおり誤りがあり、M社が請求人から本件賃料を収受したことは、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められない。

イ 適正賃料の算定方法

 本件賃貸借契約は、土地建物賃貸借契約であるから、本件診療所だけでなく、本件土地全体も賃貸借の対象になっているところ、本件土地には、本件診療所駐車場が整備されているから、本件賃貸借契約には本件診療所駐車場に係る賃貸借が含まれており、請求人は本件診療所駐車場の賃料を実質的に負担していると考えるのが相当である。
 したがって、本件診療所と類似する物件(以下「類似物件」という。)及び本件診療所駐車場と類似する駐車場(以下「類似駐車場」という。)を抽出し、類似物件の本件各年分の1平方メートル当たりの月額賃料の金額の平均額(以下「平均月額賃料」という。)及び類似駐車場の本件各年分の1台当たりの月額駐車料金の金額の平均額(以下「平均月額駐車料金」という。)を算出し、それらを基に適正賃料を算定することには、合理性がある。

イ 適正賃料の算定方法

 本件賃貸借契約は、その契約書が「土地建物賃貸借契約書」であることから、建物及び土地を賃貸借の対象としたものであり、建物及び駐車場を対象としたものではない。
 また、本件土地について、本件診療所の建坪以外は、駐輪場、駐車場、庭と自由に使用できるスペースであり、原処分庁が本件診療所駐車場とするスペースは、駐車場として賃借されているものではない。
 したがって、平均月額賃料及び平均月額駐車料金を基に適正賃料を算定することは誤りであり、その算定方法には、合理性がない。

ロ 平均月額賃料
 原処分庁が算出した平均月額賃料の金額には、次のとおり、合理性、正確性がある。

(イ) 平均月額賃料の算出に当たっては、別紙2の「1類似物件の抽出基準」(以下「類似物件抽出基準」という。)のとおり、採用する類似物件と本件診療所の類似性を確保する観点から、本件診療所の地域的要因及びその利用状況を考慮し、かつ類似物件の個性を消去するに足りる物件を抽出できる基準に基づき、類似物件を抽出し、平均月額賃料の金額を算出している。また、類似物件の抽出は、無作為かつ機械的に行われており、恣意の介入する余地はない。
 したがって、原処分庁が算出した平均月額賃料の金額には、合理性、正確性がある。

ロ 平均月額賃料
 原処分庁が主張する平均月額賃料の金額には、次のとおり、合理性がない。

(イ) 本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内には、原処分庁が主張する抽出基準に合致する賃貸物件は1件存在するのみである。
 また、当該物件は、軽自動車1台分の駐車スペースを有することから、原処分庁が主張する類似物件には当たらない。
 したがって、原処分庁が主張する類似物件は存在しないのであり、原処分庁が主張する平均月額賃料の金額には、信ぴょう性がない。

(ロ) 原処分庁は、建物の地域的要因が賃料の金額に影響するために、本件診療所の所在地と同地域、つまり本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内にあることを類似物件の抽出基準の一つとした。
 したがって、本件診療所の所在地と同地域(本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内)にあるという抽出基準には、合理性がある。

(ハ) 原処分庁は、建物の構造や築年数等の特徴を考慮するために、一般的な合理性を有する固定資産評価基準に基づき決定された建物の固定資産税評価額を用いて、その1平方メートル当たりの固定資産税評価額が、本件診療所の0.5倍以上2倍以内の範囲であることを抽出基準とした。0.5倍以上2倍以内の範囲であるといういわゆる倍半基準は、課税庁の恣意が介入する余地はなく、また、同業者比率法において事業規模の類似する同業者を抽出するための基準として優れた合理性を有するものとして一般に承認されているものであることから、本件診療所の1平方メートル当たりの固定資産税評価額の倍半基準を類似物件の抽出基準の一つとしたことには、合理性がある。

(ロ) 本件診療所の所在地の半径500メートルの円内に地理的条件の類似性はなく、土地の価値には多様性があり、法規制がモザイク状に分布し均一ではないことから、当該円内の地理的条件は均一ではない。
 したがって、本件診療所の所在地と同地域(本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内)にあるという抽出基準には、合理性がない。

(ハ) 建物の固定資産税評価額の倍半基準は、建物の条件が揃わなければ公平な評価方法ではなく、各物件の建物用途種別及び建物構造種別が明示されない限り、類似物件の抽出基準として利用できない。
 したがって、類似物件の建物用途種別及び建物構造種別が明示されていない本件では、建物の固定資産税評価額の倍半基準を抽出基準とすることには、合理性がない。

(ニ) 類似物件の抽出は、上記イ及び(イ)ないし(ハ)のとおり、本件診療所の地域的要件及びその利用状況を考慮し、かつ、類似物件の個性を消去するに足りる物件を抽出できる基準に基づき、無作為かつ機械的に行われていることから、恣意が介入する余地はなく、結果として、類似物件が2件であったとしても、原処分庁が算出した平均月額賃料の金額には、合理性、正確性がある。

ハ 原処分庁が算定した本件各年分の適正賃料の金額に対する本件賃料の金額の比率は別表2の丸3のとおりであるところ、本件賃料の金額は、当該適正賃料の金額に比して明らかに高額であり、M社が請求人から本件賃料を収受したことにより、別表2の丸4ないし丸7のとおり、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。

(ニ) 適正賃料を算定するに当たって、類似物件が3件以下の場合は、比較検討することに信ぴょう性を保てないところ、原処分の類似物件は2件のみであるから、原処分庁が主張する平均月額賃料の金額には、信ぴょう性がない。

(2) 争点2(本件弁護士費用は、請求人の平成25年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。)について

原処分庁 請求人

 本件弁護士費用は、平成○年分以前の○○の取消しを求める訴訟に係る弁護士費用であり、本件各年分より前の年分の○○に関する紛争に係る弁護士費用であるから、請求人の事業とは関連性はない。
 したがって、本件弁護士費用は、請求人の事業所得の総収入金額を得るため直接に要した費用及びその年における事業所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しないことから、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができない。

 本件弁護士費用は、本件賃貸借契約に基づく賃料を問題として、○○と訴えた裁判に係る弁護士費用である。当該裁判は、事業所得に係る「地代家賃・賃借料」に関連した裁判であるから、当該裁判に係る弁護士費用は、事業関連支出である。
 したがって、本件弁護士費用は、業務に直接関連した費用であり、請求人の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができる。

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4 判断

(1) 争点1(M社が請求人から本件賃料を収受したことを容認した場合には、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か。)について

  1. イ 法令解釈
     所得税法第157条第1項の規定は、同族会社において、これを支配する株主等又はこれと特殊の関係のある居住者(以下、これらを併せて「同族関係者等」という。)の所得税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことに鑑み、税負担の公平を維持するため、同族関係者等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる行為又は計算が行われた場合に、これを正常な行為又は計算に引き直して同族関係者等に係る所得税の更正又は決定を行う権限を税務署長に認めたものである。
     このような所得税法第157条第1項の趣旨、内容からすれば、同族会社の行為又は計算を容認した場合には、その同族関係者等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かは、同族会社の具体的行為又は計算が、同族会社と同族関係者等のような特殊の関係にない通常の経済人の行為又は計算として経済的合理性を有しているか否かを基準として判断すべきであり、当該行為又は計算が上記経済的合理性を欠き、結果として、その同族関係者等の所得税の負担が減少している場合は、同族会社の行為又は計算を容認した場合には、その同族関係者等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるというべきである。
  2. ロ 認定事実
     原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 類似物件の抽出及び平均月額賃料の算出
      •  原処分庁は、本件各年分において、類似物件抽出基準に基づき、別表3の物件A及びBを類似物件として抽出し、それらを基に平均月額賃料を算出している。
    2. (ロ) 類似駐車場の抽出及び平均月額駐車料金の算出
      •  原処分庁は、本件各年分において、別紙2の「2類似駐車場の抽出基準」(以下「類似駐車場抽出基準」という。)に基づき、別表4の駐車場aないしzを類似駐車場として抽出し、それらを基に平均月額駐車料金を算出している。
  3. ハ 当てはめ
    1. (イ) 同族会社の行為又は計算を容認した場合には、その同族関係者等の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否かは、上記イのとおり判断すべきところ、本件のような不動産の賃貸借については、地理的条件、用途、規模、構造などの状況が類似する不動産であれば、特別の事情がない限り、賃料の金額は同程度となるといえるから、同族会社が同族関係者等に賃貸した不動産に地理的条件、用途、規模、構造などの状況が類似する物件を抽出し、それらの物件の平均賃料を用いて算定した適正賃料の金額と実際に同族会社が同族関係者等から収受した本件賃料の金額を比較して、同族会社が同族関係者等から本件賃料を収受したこと、換言すれば、同族関係者等が同族会社に本件賃料を支払ったことが、通常の経済人の行為として経済的合理性を有しているか否かを判断することには合理性が認められる。
      •  そこで、以下では、本件不動産に類似する物件の平均賃料から適正賃料の金額を算定し、その適正賃料の金額と本件賃料の金額を比較して、M社が請求人から本件賃料を収受したことが、通常の経済人の行為として経済的合理性を有しているか否かを検討する。
    2. (ロ) 本件不動産の適正賃料の算定方法
      •  不動産の賃貸借については、上記(イ)のとおり、地理的条件、用途、規模、構造などの状況が類似する物件であれば、特別の事情がない限り、賃料の金額は同程度となるところ、本件土地上には、上記1の(4)のホのとおり、本件診療所とともに、本件診療所駐車場が存在し、本件診療所駐車場に係る部分は実際に駐車場として利用されているのであり、このような本件不動産の実際の用途(利用実態)などからすると、本件不動産を本件診療所と本件診療所駐車場に区分して評価し、本件診療所については平均月額賃料、本件診療所駐車場については平均月額駐車料金を算出し、これらを基に本件不動産の適正賃料を算定することには合理性が認められる。
    3. (ハ) 平均月額賃料
      1. A 類似物件抽出基準の合理性
         不動産の賃貸借については、上記(イ)のとおり、地理的条件、用途、規模、構造などの状況が類似する物件であれば、特別の事情がない限り、賃料の金額は同程度となることから、類似物件を抽出する際には、本件診療所と地理的条件、用途、規模、構造などの類似性を確保できるような基準を用いるべきであるところ、原処分庁は、類似物件抽出基準の丸1ないし丸10を抽出基準として挙げている。
         そこで、当該各抽出基準に合理性が認められるか否かを検討する。
        1. (A) 類似物件抽出基準の丸1及び丸2について
          •  同族会社と同族関係者等の間や親族間においては、一方の者の税の負担を不当に減少させるような行為又は計算が行われやすいことから、丸1賃貸人と賃借人のいずれか一方がもう一方の同族会社となっていないこと及び丸2賃貸人と賃借人の関係が親族でないことを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        2. (B) 類似物件抽出基準の丸3丸4及び丸8について
          •  本件不動産は、上記1の(4)のハのとおり、その所有者であるM社が使用者である請求人に賃貸(有償貸付け)している物件であるところ、これとは類型的に異なる形態で利用されている物件を類似物件から除外するために、丸3又貸しでないこと、丸4無償貸付けでないこと及び丸8自己使用物件でないことを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        3. (C) 類似物件抽出基準の丸5について
          •  建物の地理的条件が賃料の金額に影響することは明らかであり、また、類似物件を本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内の範囲から抽出すれば、各物件の個別の事情を平準化できる程度の物件数を確保することが相当程度期待できるから、本件診療所の所在地と同地域(本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内)にあることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        4. (D) 類似物件抽出基準の丸6について
          •  建物の広さは建物の需要に大きく関わり、それは賃料の金額にも影響するから、延床面積が本件診療所の0.5倍以上2倍以内の範囲にあることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        5. (E) 類似物件抽出基準の丸7について
          •  固定資産税評価額は、建物の構造、用途、築年数等の特徴を踏まえた評価であり、これらの事項は、賃料の金額にも影響するから、1平方メートル当たりの固定資産税評価額が本件診療所の0.5倍以上2倍以内の範囲内にあることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        6. (F) 類似物件抽出基準の丸9について
          •  本件診療所は、上記1の(4)のハのとおり、ビル内にあるクリニック等ではなく一戸建ての物件であるところ、ビルの一室と一戸建ての物件とでは、共同部分の有無等の点で差異があり、それらの賃料の金額の算定は類型的に異なると解されることから、一戸建てであることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        7. (G) 類似物件抽出基準の丸10について
          •  事業用の建物は、投下資本の回収の観点や、不特定多数の者が頻繁に利用するために当該建物が痛みやすいことなどから、その賃料の金額は、事業用でない建物と比較して類型的に高額になると考えられる。また、工場及び倉庫は、その用途や構造が本件診療所とは類型的に異なり、それらの差異は賃料の金額にも影響するから、事業用の建物(工場、倉庫及び居住用の建物及び居住用部分を除く。)であることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        8. (H) 小括
          •  以上のとおり、類似物件抽出基準の各抽出基準はいずれも合理性が認められるものであり、また、本件診療所には、その賃料の金額に影響を与える特別の事情があるとは認められないことから、当該抽出基準により類似物件を抽出することは相当と認められる。
      2. B 類似物件の抽出
         当審判所の調査の結果によれば、類似物件抽出基準に基づき抽出される類似物件は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、平成23年分は2件、平成24年分及び平成25年分はそれぞれ3件となる(以下、これらの物件を「審判所認定物件」という。)。
         なお、別表3の物件Cは、平成24年分及び平成25年分において、類似物件抽出基準に合致することから、当審判所において新たに抽出した物件であるが、平成23年分においては、類似物件抽出基準の丸7に合致しなかった。
         また、別表3の物件B及びCは、駐車料金込みで月額賃料の金額が設定された物件であるところ、物件Bには6台、物件Cには4台が駐車できるスペースがあった。
      3. C 平均月額賃料の金額
        1. (A) 審判所認定物件のうち別表3の物件B及びCは、駐車料金込みで月額賃料の金額が設定されていることから、当該賃料の金額のうち建物の賃料に相当する金額を算出するために当該賃料の金額から駐車料金相当額を控除することが相当である。
          •  そこで、本件各年分の別表3の物件B及びCの近隣駐車場(各3か所)の1台当たりの月額駐車料金の金額の平均額を調査したところ、その平均額は、それぞれ別表5の「審判所認定額」欄のとおりであった。
             したがって、本件各年分における別表3の物件B及びCの建物の1平方メートル当たりの月額賃料に相当する金額は、当該各物件の駐車料金込みの月額賃料の金額から上記平均額に当該各物件の駐車場利用台数を乗じた金額を差し引いた金額に基づき算出された別表3の「審判所認定額」欄の金額となる。
        2. (B) 以上の結果、平均月額賃料の金額は、別表3の「平均月額賃料」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円となる。
    4. (ニ) 平均月額駐車料金
      1. A 類似駐車場抽出基準の合理性
         類似駐車場を抽出する際には、上記(ハ)のAと同様に、本件診療所駐車場と地理的条件、用途、規模、構造などの類似性を確保できるような基準を用いるべきであるところ、原処分庁は、類似駐車場抽出基準の丸1ないし丸5を抽出基準として挙げている。
         そこで、当該各抽出基準に合理性が認められるか否かを検討する。
        1. (A) 類似駐車場抽出基準の丸1について
           駐車場の地理的条件が駐車料金に影響することは明らかであり、また、類似駐車場を類似物件と比較して狭い範囲である本件診療所駐車場の所在地を中心とした半径200メートルの円内の範囲から抽出しているが、本件診療所駐車場から近い駐車場ほど、本件診療所駐車場と地理的条件が類似しているといえるから、本件診療所駐車場の所在地と同地域(本件診療所駐車場の所在地を中心とした半径200メートルの円内)にあることを抽出基準にしたことには合理性が認められる。
        2. (B) 類似駐車場抽出基準の丸2について
           本件診療所駐車場には、上記1の(4)のヘのとおり、屋根等の構造物はないところ、屋根等の構造物がある駐車場は、その構造物への資本投下等の点で、屋根等の構造物がない駐車場と異なるものであり、屋根等の構造物の有無によって駐車料金は類型的に異なることから、駐車場の屋根等の構造物がないことを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        3. (C) 類似駐車場抽出基準の丸3について
           駐車料金を月額で定める月極駐車場とコインパーキング等を比較すると、その駐車料金は類型的に異なることから、月極駐車場であることを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        4. (D) 類似駐車場抽出基準の丸4及び丸5について
           本件不動産は、上記1の(4)のハのとおり、その所有者であるM社が使用者である請求人に賃貸(有償貸付け)している物件であるところ、これとは類型的に異なる形態で利用されている駐車場を類似駐車場から除外するために、丸4又貸しでないこと及び丸5無償貸付けでないことを抽出基準としたことには合理性が認められる。
        5. (E) 小括
           以上のとおり、類似駐車場抽出基準の各抽出基準はいずれも合理性が認められるものであり、また、本件診療所駐車場には、その駐車料金に影響を与える特別の事情があるとは認められないことから、当該抽出基準により類似駐車場を抽出することは相当と認められる。
      2. B 類似駐車場の抽出
         当審判所の調査の結果によれば、類似駐車場抽出基準に基づき抽出される類似駐車場は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、平成23年分は24件、平成24年分及び平成25年分はそれぞれ26件となる。
         なお、別表4の駐車場aaは、類似駐車場抽出基準に合致することから、当審判所において新たに抽出した駐車場である。
      3. C 平均月額駐車料金の金額
         平均月額駐車料金の金額は、別表4の「平均月額駐車料金」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円となる。
    5. (ホ) 本件不動産の適正賃料の金額
       当審判所が算出した平均月額賃料及び平均月額駐車料金を基に本件各年分に係る適正賃料の金額(以下「審判所認定適正賃料額」という。)を算定すると、審判所認定適正賃料額は、別表6の「丸8本件不動産の適正賃料の金額」欄の「審判所認定額」欄のとおり、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円となる。
    6. (ヘ) 所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるか否か
       審判所認定適正賃料額と本件賃料の金額を比較すると、別表7のとおり、本件賃料の金額は、審判所認定適正賃料額より年額で○○○○円以上も高額であり、審判所認定適正賃料額の5倍以上であるから、請求人がM社に対し本件賃料を支払い、M社が本件賃料を収受したことは、経済的、実質的見地において、通常の経済人の行為として経済的合理性を有していない。
       また、審判所認定適正賃料額を基に計算した請求人の本件各年分の所得税の額は、別表8の「所得税の額」欄の「審判所認定額」欄のとおりであるところ、これを本件賃料の金額を基に計算した所得税の額(同表の「所得税の額」欄の「修正申告丸3の金額」欄の金額)と比較すると、請求人の所得税の負担は、同表の「所得税の負担の減少額」欄のとおり、平成23年分は○○○○円、平成24年分は○○○○円、平成25年分は○○○○円も減少している。
       したがって、同族会社であるM社が請求人から本件賃料を収受したことを容認した場合には、その同族関係者等である請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる。
    7. (ト) 請求人の主張について
      1. A 適正賃料の算定方法について
        •  請求人は、平均月額賃料及び平均月額駐車料金を基に本件不動産の適正賃料を算定することには合理性がない旨主張する。
           しかしながら、本件不動産の適正賃料を算定するに当たっては、対象となる不動産の用途等を踏まえる必要があるところ、本件土地のうち本件診療所の建坪以外の大部分は、実際に駐車場として利用されているのであるから、かかる実際の用途(利用実態)を考慮しない請求人の主張には理由がない。
      2. B 平均月額賃料について
        1. (A) 類似物件抽出基準について
          1. a 請求人は、本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内においても土地の価値や土地の利用に対する法規制には多様性があることなどから、本件診療所の所在地と同地域(本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内)にあるという抽出基準には合理性がない旨主張する。
            •  しかしながら、上記(ハ)のAの(C)のとおり、本件診療所の所在地と同地域(本件診療所の所在地を中心とした半径500メートルの円内)にあるとする類似物件抽出基準の丸5には合理性が認められる。
               また、原処分庁は、上記(ハ)のAのとおり、類似物件を抽出するに当たって、本件診療所と類似物件の類似性を高めるために多数の抽出基準を設定し、その抽出基準にはいずれも合理性が認められるところ、これらの抽出基準に合致する物件であれば、賃料を算定する際に考慮すべき基本的な条件である地理的条件、用途、規模、構造の類似性は確保されることから、請求人が主張する土地に対する法規制等を加味することなく、類似物件抽出基準により類似物件を抽出することも相当であり、請求人の主張には理由がない。
          2. b 請求人は、類似物件の建物用途種別及び建物構造種別が明示されない限り、建物の固定資産税評価額の倍半基準を抽出基準とすることには合理性がない旨主張する。
            •  しかしながら、上記(ハ)のAの(E)のとおり、建物の固定資産税評価額の倍半基準である類似物件抽出基準の丸7には合理性が認められる。
               また、類似物件の建物用途種別及び建物構造種別を明らかにした場合、当該類似物件が特定され、結果として、当該類似物件の所有者等の利益を害するおそれがある上、原処分庁には守秘義務が課されていることを考慮すると、原処分庁が類似物件の建物用途種別及び建物構造種別を明らかにしないことは相当であるから、類似物件の建物用途種別及び建物構造種別が明示されていないことをもって類似物件抽出基準の丸7の合理性が否定されるものではなく、請求人の主張には理由がない。
        2. (B) 類似物件の抽出について
          1. a 請求人は、原処分庁が主張する類似物件は存在しない旨主張する。
            •  しかしながら、審判所認定物件のうち別表3の物件A及びBは、原処分庁が類似物件として抽出した物件であり、当審判所の調査の結果によっても、原処分庁が類似物件として抽出した物件は存在することが認められるから、請求人の主張には理由がない。
          2. b 請求人は、適正賃料を算定するに当たって、類似物件が3件以下の場合は、比較検討することに信ぴょう性を保てないところ、原処分庁が採用する類似物件は2件であるから、平均月額賃料には信ぴょう性がない旨主張する。
            •  しかしながら、上記(ハ)のAのとおり、類似物件抽出基準により類似物件を抽出することは相当であり、また、その抽出過程において恣意は認められないことから、結果的に採用された類似物件が2件又は3件であったとしても、これらを基に算定された適正賃料の金額の合理性は否定されるものではなく、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件弁護士費用は、請求人の平成25年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができるか否か。)について

  1. イ 法令解釈
    •  所得税法第37条第1項は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額について、別段の定めのあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、この「事業所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものでなければならないのであり、また、かかる費用に該当するか否かの判断は、単に業務を行う者の主観的な動機又は判断によるものではなく、当該業務の内容や、当該支出の趣旨又は目的等の諸般の事情を総合的に考慮し、社会通念に照らして客観的に行わなければならない。
  2. ロ 当てはめ
    •  本件弁護士費用は、上記1の(4)のトのとおり、請求人の平成○年分、平成○年分及び平成○年分の○○の取消しを求める訴訟、すなわち、請求人が過去の年分の○○の取消訴訟に係る委任事務処理の対価として支払ったものであるから、請求人の本件各年分の事業所得と何らの対応も存せず、事業所得の収入を得るために直接要した費用ではない。
       また、上記取消訴訟は、過去の年分の○○を争う訴訟であり、当該訴訟が事業所得に係る地代家賃等に関連し、その結果によって、請求人の事業所得の金額に影響を与える可能性があるとしても、当該影響は反射的なものにすぎないから、上記取消訴訟に係る支出である本件弁護士費用は、請求人の事業所得を生ずべき業務と直接関係するものということはできず、かつ、その業務の遂行上必要なものということもできない。
       したがって、本件弁護士費用は、請求人の平成25年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

 以上の結果、請求人の本件各年分の事業所得の金額、総所得金額及び所得税の額は、別表8の「審判所認定額」欄のとおりとなるところ、本件各更正処分の適法性については、次のとおりとなる。

  1. イ 平成23年分について
    •  請求人の平成23年分の所得税の納付すべき税額は、別表9のとおり、○○○○円となり、平成23年分の所得税の更正処分に係る納付すべき税額○○○○円を下回ることから、平成23年分の所得税の更正処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
  2. ロ 平成24年分について
    •  請求人の平成24年分の所得税の納付すべき税額は、別表9のとおり、○○○○円となり、平成24年分の所得税の更正処分に係る納付すべき税額○○○○円を上回ることから、平成24年分の所得税の更正処分は適法である。
  3. ハ 平成25年分について
    •  請求人の平成25年分の所得税等の納付すべき税額は、別表9のとおり、○○○○円となり、平成25年分の所得税等の更正処分に係る納付すべき税額○○○○円を上回ることから、平成25年分の所得税等の更正処分は適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

  1. イ 平成23年分について
    •  平成23年分の所得税の更正処分は、上記(3)のイのとおり、その一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分の基礎となる税額は、別紙1の「取消額等計算書」の「4課税標準等及び税額等の計算」のとおり、○○○○円となる。また、この税額の計算の基礎となった事実が平成23年分の所得税の更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
       したがって、平成23年分の所得税の更正処分の一部を取り消した後の平成23年分の所得税の過少申告加算税の額は、○○○○円となり、平成23年分の所得税の更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分における過少申告加算税の額(○○○○円)を下回ることから、平成23年分の所得税の過少申告加算税の賦課決定処分は、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、その一部を取り消すべきである。
  2. ロ 平成24年分及び平成25年分について
    •  平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の各更正処分は、上記(3)のロ及びハのとおりいずれも適法であり、また、当該各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、平成24年分の所得税及び平成25年分の所得税等の過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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