(平成28年4月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人の外国子会社に対する売掛債権を放棄したとして、当該売掛債権相当額を貸倒損失として損金の額に算入したところ、原処分庁が、当該売掛債権の放棄は仮装されたものであるから、当該売掛債権相当額を損金の額に算入することはできないなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の認定に誤りがあるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

  • イ 請求人は、平成○年○月○日から平成○年○月○日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税及び平成○年○月○日から平成○年○月○日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、それぞれ青色の確定申告書等に別表1−1の「確定申告」欄及び別表2−1の「申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告したところ、H税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成27年3月30日付で、それぞれ別表1−1及び別表2−1の各「更正処分等」欄のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分並びに本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
  • ロ 請求人は、上記イの各処分のうち、本件事業年度の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分並びに本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分を不服として、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》(平成26年法律第69号による改正前のもの)第4項第1号の規定により、平成27年5月19日に審査請求をした。
  • ハ その後、請求人は、平成27年11月30日に、受取配当等の益金不算入額の計算に誤りがあったとして、本件事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税について、それぞれ更正の請求をしたところ、H税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成28年1月29日付で、それぞれ別表1−2の「減額更正処分等」欄及び別表2−2の「減額更正処分」欄のとおり、減額更正処分等をした。
     以下、平成27年3月30日付でされた本件事業年度の法人税の更正処分(平成28年1月29日付でされた減額更正処分後のもの)及び重加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件法人税更正処分」及び「本件法人税賦課決定処分」といい、本件課税事業年度の復興特別法人税の更正処分(同日付でされた減額更正処分後のもの)及び重加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件復興特別法人税更正処分」及び「本件復興特別法人税賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙3に記載のとおりである。

(4) 基礎事実

次の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人の概要
    1. (イ) 請求人は、昭和○年○月○日に設立され、a市b町○−○に本店を置く、各種繊維及びこれを原料とする衣料品等の製造、販売、輸出入等を目的とする株式会社であり、代表取締役には、昭和○年○月○日からFが就任している。
    2. (ロ) 請求人は、自社を中心に「○○」と称する○○を形成し、○○を有している。
  • ロ 請求人の外国子会社の概要
    1. (イ) 請求人は、平成○年○月○日以降、中華人民共和国(以下「中国」という。)d省e市において、繊維製品の縫製を目的として設立されたJ社(以下「本件子会社」という。)に、K社と共同出資していた(資本金総額は85万アメリカ合衆国ドルであり、請求人の出資比率は55%である。以下、アメリカ合衆国ドルを「ドル」という。)が、後記ホのとおり、平成○年○月○日付で本件子会社の会社登記を抹消した。
       なお、本件子会社は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第66条の4に規定する請求人の国外関連者に該当する。
    2. (ロ) 本件子会社の董事会(株主会に対して責任を負い会社の基本的な管理制度を定める機関)は、董事長のF、副董事長のL(K社代表取締役)のほか、3名の董事を加えた計5名により構成されていた(以下、董事会のこれら構成員を併せて「本件董事ら」という。)。
    3. (ハ) 本件子会社の業務全般を統括する総経理には、平成21年7月21日付でいずれも請求人の海外事業部の従業員であるMに代わってN(以下「N総経理」という。)が就任し、また、総経理の補佐業務を行う副総経理には、同年5月頃にP(以下「P副総経理」という。)が就任し、業務部長を兼務して、財務課、人事課及び貿易課を統括していた。
    4. (ニ) 本件子会社は、e市○○局から、営業の許可を受けていた。
       なお、営業の許可には、期間が定められており、その期間満了時に更新されてきたところ、平成20年に更新された営業許可の期間は、同年○月○日から平成○年○月○日までである。
  • ハ K社の概要
     K社は、h市i町○−○に本店を置く、衣服等の製造、卸売、小売等を目的とする株式会社であり、会社設立当初から請求人との間で衣服製品の売買をしていた。
  • ニ 請求人と本件子会社との取引等
    1. (イ) 請求人と本件子会社との取引は、ドル建てドル払いで行われ、請求人は、本件子会社に対して、原材料である生地を有償で輸出し、この生地を請求人などの仕様書等に基づいて製品である被服に委託加工させた上、完成品価格で輸入する貿易取引を行っていた。
       なお、K社は、本件子会社に対して、自社の製品加工等の作業に関する指示を行った上で、請求人を経由して取引を行っており、本件子会社との間で直接取引は行っていなかった。
    2. (ロ) 請求人は、上記(イ)の輸出取引において、本件子会社に対して、平成25年11月8日現在、売掛債権582,573.90ドルを有していたが、同月18日に76,166.64ドルの返済を受け、その残高は506,407.26ドル(以下、この売掛債権506,407.26ドルを「本件売掛債権」という。)となった。
  • ホ 本件子会社の会社登記抹消に至る経緯
     本件子会社は、平成○年○月○日付で会社登記が抹消されているところ、その経緯は次のとおりである。
    1. (イ) 本件子会社の工場の土地及び建物の賃貸借関係
       本件子会社は、e市○○委員会(その後「k委員会」に組織変更されたもの。以下「本件委員会」という。)との間で、本件子会社が使用する工場の土地及び建物(以下「本件土地建物」という。)を賃借する旨の契約を締結していた。
       なお、本件土地建物の賃借は、期間が定められており、その期間満了時に更新されてきたところ、会社登記抹消の直前の本件土地建物の賃借期間は平成21年6月16日から平成25年6月15日までである。
    2. (ロ) 本件子会社に対する本件土地建物の明渡し要求
       本件子会社は、本件委員会から、平成24年11月2日付で、都市開発を理由に速やかに本件土地建物を明け渡すよう求める旨の通知を受けた。
    3. (ハ) 本件子会社の株主会の決定
       本件子会社の株主である請求人及びK社は、平成25年9月17日に株主会を開催し、本件子会社について、都市開発を理由として撤退を要求されたこと及び市場の変化などの原因により、営業許可期間満了日である同年○月○日以降、経営を停止し営業期間の延長はせず、清算を開始する旨決定し、董事会の決議で清算業務を行うための清算組を結成することとした。
       上記株主会での決定内容について、議事録が作成され(以下、この議事録を「本件株主会議事録」という。)、これには、「4、最終の債務の返済できない分は最大の債権者のE社(請求人)の債権放棄にて補いとする」などと記載されている。
    4. (ニ) 本件子会社の特別董事会の決議
       本件子会社は、株主会の決定を受けて、平成25年9月30日に特別董事会を開催し、本件子会社の清算業務を行うために清算組を結成し(以下、この結成された清算組を「本件清算組」という。)、本件清算組の組長にN総経理を任命する旨決議した。
       上記特別董事会での決議内容について、議事録が作成され(以下、この議事録を「本件董事会議事録」という。)、これには、「四、債務の返済の不足分は最大の債権者のE社(請求人)の債権放棄にて補いとする。金額内容は清算組が債務整理時で再度董事会及び株主に報告をする。」などと記載されている。
    5. (ホ) 本件子会社に対する本件売掛債権に関する稟議
      • A 稟議の内容
          N総経理は、平成25年10月3日付で、本件子会社が、都市開発を理由として撤退を要求されたことや人件費の上昇等の市場変化を原因として、営業許可期間満了日である同年○月○日をもって清算を開始することとされた旨、請求人が、本件子会社の清算に際し、本件子会社に対する出資金及び売掛債権の放棄(放棄する額は概算でそれぞれ47万ドル及び343万人民元である。以下、人民元を「元」という。)を行う旨を内容とした、請求人の代表取締役の承認を求める稟議書(以下「本件稟議書」という。)を作成し、平成25年10月3日付でP副総経理がN総経理名義で作成した「資産、債権、債務、整理費用などの試算 2013年9月末の数字。」と題する資料(以下「本件試算表」という。)を添付の上、稟議を行い、承認された。
      • B 本件試算表の内容
         本件試算表は、平成25年9月末現在での清算費用等を含めた債権、債務の整理結果を試算したもので、同表には債権合計が1,931,046元、債務合計が5,355,806元で3,424,760元の債務超過であるから、請求人に債権放棄を求める額は343万元となる旨、さらに、上記債権放棄を受けた場合、資本金等を含めた残余金は231,905元となる旨が記載されている。
    6. (ヘ) 本件子会社に対する本件売掛債権に関する通知
       請求人は、平成25年11月8日付で「放棄債権声明文」と題する書面(以下「本件声明文」という。)を作成し、本件子会社に対して交付した。
       本件声明文には、請求人は本件売掛債権(506,407.26ドル)について、本件子会社の支払能力等を考慮して放棄する旨記載され、本件売掛債権の内訳として、本件子会社が、請求人に対して支払できない生地代の明細(生地の請求明細書番号、金額等)が記載された書面が添付されている。
    7. (ト) 本件子会社の清算の終了及び解散
       本件子会社は、清算手続を経て、本件清算組により平成26年6月5日付で行われた清算報告について、同月6日に株主会の確認を受け、その後、会社登記抹消の申請に対し、同月○日付で、e市○○局から、会社登記を抹消する旨の通知を受け、解散手続が終了した。
    8. (チ) 本件董事らに対する清算終了の報告
       本件清算組は、本件董事らに対して、清算の終了と本件清算組の解散を報告するため、平成26年6月27日付で「○○社董事長及び董事各位様」で始まる書面(以下「本件清算報告書」という。)を作成し、交付した。
       本件清算報告書には、本件子会社の清算の終了に至る経緯や清算に係る費用等とともに、「E社(請求人)からの買掛金の支払い免除の詳細」の見出しで、本件売掛債権(506,407.26ドル)から後記トの(イ)の金額498,647元(請求人への送金額は81,178.44ドルである。)及び後記トの(ロ)の金額73,470.76元を減算した金額として「放棄金決算2,533,426元」が記載されている。
  • ヘ 請求人及び本件子会社における本件声明文に関する経理処理等
    1. (イ) 本件子会社の財務状況
       本件子会社の財務状況は、平成22年12月31日現在で資産の額10,126,333元及び負債の額9,642,693元、平成23年12月31日現在で資産の額10,325,372元及び負債の額9,546,143元、平成24年12月31日現在で資産の額13,162,728元及び負債の額11,342,247元であったが、本件声明文の作成直前の平成25年10月31日現在では負債の額3,969,577元が資産の額1,451,779元を上回る債務超過の状態(債務超過額2,517,798元)になった。
    2. (ロ) 請求人における経理処理
       請求人は、本件売掛債権(506,407.26ドル)に係る帳簿上の円換算額○○○○円について、本件事業年度の貸倒損失として損金の額に算入した。
    3. (ハ) 本件子会社における経理処理
       本件子会社は、平成25年11月8日付の本件声明文に基づき、請求人に対する買掛債務506,407.26ドル(本件売掛債権)について、元換算額3,111,973.89元を営業外収入として計上した上で、本件子会社の同月17日現在の資産負債表(以下「本件資産負債表」という。)を作成した。
       本件資産負債表には、資産総額として938,078.15元が記載されているが、負債として記載された金額はない。
  • ト 貸倒損失の計上後における本件子会社からの金銭の受領
    1. (イ) 請求人は、平成26年5月21日、請求人名義のQ銀行○○支店の外貨普通預金口座に、本件子会社から81,178.44ドルが振り込まれたので、円換算額8,224,187円を平成○年○月○日から平成○年○月○日までの事業年度(以下「平成○年○月期」という。)の雑収入として益金の額に算入した。
       なお、請求人が本件子会社から受領した上記振込入金に係る送金明細には、送金理由として、本件売掛債権に係る買掛金(生地代の一部)の支払と記載されていた。
    2. (ロ) 請求人は、N総経理から、本件子会社の各銀行預金口座が平成26年5月31日までに全て解約されたことに伴い発生した73,470.76元について、同年7月9日及び同月16日にそれぞれ1,194,000円及び13.82元(請求人が円に両替した金額236円)を現金で受領し、その合計額1,194,236円を平成○年○月期の雑収入として益金の額に算入した。
  • チ 本件子会社における「B勘」と称する資金
     P副総経理は、本件子会社の清算手続を円滑に短期間で終了させるための資金として、決算報告書に反映させない現金を準備する必要があると考え、その資金には、K社から生地代の補償金として受領した現金221,927.25元を充てていた。
     また、P副総経理は、上記資金を「B勘」と称しており(以下、この資金を「本件B勘資金」という。)、本件B勘資金につき、本件子会社の簿外資金として現金で保管し、N総経理の了解の上で費消していた。

(5) 争点

  • 争点1 請求人は本件売掛債権を放棄しているか否か。
  • 争点2 請求人が本件売掛債権を放棄したとして、その相当額を損金の額に算入したことは、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装の行為に該当するか否か。

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2 主張

(1) 争点1(請求人は本件売掛債権を放棄しているか否か。)
原処分庁 請求人
以下の事実からすると、請求人が、本件声明文により、本件売掛債権を放棄したとは認められない。 以下のとおり、原処分庁の主張には誤りがあり、請求人は、中国での事業継続が不可能となった本件子会社の早期、かつ、円滑な清算終了のために、その債務超過を解消することが必須条件であったことや、本件子会社の財務状態から本件売掛債権の回収見込みが全く立たない実情であったことから、本件声明文により、本件売掛債権を放棄せざるを得なかったのである。
イ 請求人は、本件声明文の作成時において、本件子会社の清算終了後に231,905元の剰余金が発生する見込みであること(本件試算表の記載)や、本件子会社の資産総額が938,078.15元であること(本件資産負債表の記載)など、回収可能な現金の存在を認識していた上、正規の帳簿に計上されていない本件B勘資金の存在を把握していたにもかかわらず、本件子会社に支払能力がないとして本件売掛債権を放棄している。 イ 本件子会社が、正規の帳簿に基づく試算上、本件売掛債権の回収に充当可能な資金を有していなかったため、請求人は、本件子会社に対し、本件売掛債権の放棄を行った。
 本件試算表の記載は、本件子会社が清算費用を試算した結果、債権放棄すべき額が343万元と算出され、同額を債権放棄した場合、資本金部分に食い込む形で231,905元の残余額が見込まれるという推定上の少額な金額であり、本件売掛債権の回収に充当可能な剰余金が発生するというものではない。
 本件資産負債表に記載された資産総額の938,078.15元は、全て清算関連の費用として支出することを要するものと見積もられており、本件売掛債権の回収に充当できない資金であった。
 本件B勘資金の使途は、本件子会社の清算に限定されており、本件売掛債権の弁済への充当はあり得ない上、請求人はその存在を知らなかった。
ロ 請求人は、本件声明文の交付後に、本件子会社から、本件売掛債権の一部である81,178.44ドルを生地代として受領するとともに、現金で合計73,470.76元を受領しており、これらは本件売掛債権の一部の回収である。
 生地代の支払でないとすれば、残余財産の分配ということになり、出資割合に応じて株主に分配されるべきところ、請求人が全額を受領し、共同出資者であるK社には支払っていない。
ロ 本件声明文の交付後、本件子会社は請求人に対し81,178.44ドル及び73,470.76元を支払い、請求人が受領しているが、これらは、清算後の余剰金の処理である。
 清算余剰金の全額を請求人に帰属させることについては、本件子会社の董事会及びK社の了承を得ているし、また、本件子会社が、送金明細に生地代金と記載して送金したのは、中国の行政機関からの追徴回避のための便宜的措置であり、説明が一番容易であったためにすぎない。
ハ 本件株主会議事録及び本件董事会議事録の記載は、本件売掛債権以外の債務の返済を行い、返済不足が生じた場合に初めて請求人の債権放棄で補うということである。
 これに反して、清算の最終段階でない、平成25年11月8日に債権放棄をすることはあり得ない。
ハ 本件株主会議事録及び本件董事会議事録の記載は、本件子会社が資産を処分して債務の返済を行った後、最後に残った弁済不能な債務は、最大の債権者である請求人の債権放棄で補うという意味である。
 清算の最終段階まで待って初めて債権放棄をするとの意味ではない。
ニ 本件子会社は、本件清算報告書で、請求人に対し、「実際の債権放棄額」の報告を行っており、結局、この時点において初めて請求人の本件売掛債権の回収不能額が明確になったのであるから、同日以前の債権放棄はなかったといえる。  ニ 本件清算報告書は、清算終了に当たり、本件清算組が本件董事らに、清算の経過、費用及び結果等を報告した書面であり、債権放棄額を確定する書面ではない。
ホ 上記イからニまでの事実から、請求人と本件子会社との間の当事者の意思は、本件子会社の早急な清算対応を迫られる中での応急的な処置として、回収不能額が不確定な状態の下、本件売掛債権の全額を債権放棄する旨の内容虚偽の本件声明文を作成し交付することで、本件子会社の清算を進めることを企図し、その後、本件子会社の請求人に対する返済不足額が確定した回収不能額を債権放棄する趣旨であることが明らかである。 ホ 請求人が作成し交付した本件声明文は、真正な書面であり文面どおりの法律効果を生じさせること、請求人及び本件子会社は、本件声明文に沿った会計処理を行っていることから、債権放棄した事実がある。
 そもそも請求人には、虚偽の債権放棄をする必要性がなく、また、本件子会社の清算は、中国の行政機関における審査の結果、適正な清算とされ終了している。
(2) 争点2(請求人が本件売掛債権を放棄したとして、その相当額を損金の額に算入したことは、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装の行為に該当するか否か。)
原処分庁 請求人
上記(1)の「原処分庁」欄のとおり、請求人は、本件子会社と通謀し、本件売掛債権を放棄したとする内容虚偽の本件声明文を作成し、交付することにより、本件売掛債権の相当額を損金の額に算入している。
 請求人の当該行為は、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装に該当する。
上記(1)の「請求人」欄のとおり、請求人は、本件声明文を作成し、これを本件子会社に交付することにより、本件売掛債権を放棄し、これを受けた本件子会社も本件声明文に沿った会計処理を行っているのであって、事実を仮装したとする行為はない。

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3 判断

(1) 争点1(請求人は本件売掛債権を放棄しているか否か。)

  • イ 認定事実
     請求人の監査部所属のRゼネラルマネージャー、N総経理及びP副総経理の当審判所に対する各答述並びにその他当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
    1. (イ) 請求人は、上記1の(4)のホの(ロ)のとおり、平成24年11月初旬、本件委員会の要求により、本件土地建物の明渡しを余儀なくされたため、本件子会社の工場を他所に移転し、事業を継続することを検討した。
       しかし、移転費用を補うほどの採算が見込めない等の理由から、平成24年12月下旬、請求人は、賃借期間の満了に伴い、本件子会社の事業を終了することにした。
       その後の平成25年5月頃、本件委員会から、本件子会社に対し、都市開発の遅れを理由として本件土地建物の明渡し期日を延長する旨の申入れがされたが、請求人は、その頃には、本件子会社を清算しその業務をS社(中国d省e市において本件子会社と同様の縫製業を営む請求人の関連会社である。)へ技術移転する方針を既に決定しており、また、当該申入れの内容は、明渡し期日の延長にすぎず、将来的には本件土地建物の明渡しを強いられることが見込まれたことから、その申入れを断った。
       そして、請求人は、上記1の(4)のホの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件子会社の株主会の決定及び董事会の決議を経て、平成○年○月○日に、本件子会社の清算を開始し、本件清算組を結成した。
    2. (ロ) もっとも、中国においては、債務超過の会社を清算する場合、中国の人民法院に破産を申し立てる必要があるが、本件子会社を破産させると、中国での請求人に対する信用を失い、関連会社を通じての事業継続が難しくなるとの理由から、請求人は、破産を申し立てることなく、債務超過分については、請求人が本件子会社に対して有する債権を放棄することによって本件子会社を清算することとした。
       すなわち、請求人は、本件子会社の有する債務のうち、請求人以外の外注先等に対する債務を全て返済して、残債務を請求人に対するもののみとした後、請求人が、その債権を放棄することで本件子会社の債務超過を解消し清算することを、本件子会社の株主会で決定し、本件株主会議事録(平成25年9月17日付)及び本件董事会議事録(同月30日付)にも、その旨記載したのである。
       なお、K社は、本件子会社の清算に際して、出資額以上に多額の負担を強いられることを懸念し、請求人に対し、K社の負担は出資金の放棄のみとしたい、すなわち、株主としての地位を放棄することにより、本件子会社に関する一切の負担を免れたい旨申し入れたため、請求人もこれを了承した。
    3. (ハ) そして、上記1の(4)のホの(ホ)のとおり、P副総経理が、清算に必要な金額を計算して本件試算表を作成し、N総経理が、債権放棄すべきおおよその売掛債権の額を343万元と記載した本件稟議書を、平成25年10月3日付で作成し、請求人に提出した。
       請求人は、これを承認し、上記1の(4)のホの(ヘ)のとおり、本件売掛債権(506,407.26ドル)を放棄する旨記載した本件声明文を、平成25年11月8日付で作成し、本件子会社に交付した。
    4. (二) 清算手続により、本件子会社に残余財産が生じる見込みとなったが、P副総経理は、これを残しておくと中国当局に追徴されるおそれがあると考え、それを回避するとの理由から、請求人に対し、平成26年5月21日に、81,178.44ドルを便宜的に「生地代」名目で送金し、清算終了後の同年7月9日及び同月16日にも、N総経理が現金1,194,000円及び13.82元を国内に持ち込んで、請求人側に手渡した。
  • ロ 結論
     上記イの本件売掛債権の放棄に至る経緯等からすれば、請求人は、本件子会社を破産させることなく清算する必要から、本件売掛債権の全額を放棄したと認めるのが自然であり、本件売掛債権の放棄は、請求人の真意に基づくものといえる。
     したがって、本件声明文の交付をもって、請求人は、本件売掛債権を有効に放棄したと認められる。
  • ハ 原処分庁の主張について
    1. (イ) これに対し、原処分庁は、請求人が回収不能額が不確定な状態の下、本件子会社の清算を進めることを企図し、本件売掛債権の全額を債権放棄する旨の内容虚偽の本件声明文を作成し交付したとか、請求人は、本件試算表により剰余金の発生見込みや本件B勘資金等回収可能な資金の存在を認識していたなどとして、請求人が本件売掛債権を放棄したとは認められない旨主張する。
       しかしながら、上記ロのとおり、請求人の本件売掛債権の放棄に至る一連の経緯は自然であり、本件声明文にも作成日の遡及など不自然なところは認められないことからすれば、請求人が債権放棄の意思がないにもかかわらず内容虚偽の本件声明文を作成したということはできず、その他に請求人が内容虚偽の本件声明文を作成していたと認めるに足る証拠はない。
    2. (ロ) もっとも、原処分庁が主張するように、請求人は、本件売掛債権の放棄後の平成26年5月21日に、本件子会社から81,178.44ドルを「生地代」名目で受領し、また、清算終了後の同年7月9日及び同月16日にも、現金1,194,000円及び13.82元を受領しているが、これらの行為は、本件売掛債権の一部の回収とも考えられるから、本件売掛債権の放棄が請求人の真意に基づかない内容虚偽のものであったと疑わせる事情ではある。
       しかしながら、この点について、P副総経理は、1本件子会社に残余財産を残しておくと中国当局に追徴されるおそれがあったため、請求人に「生地代」名目で送金をした、2送金理由を「生地代」としたのは、商売のための送金であるという理由が、一番簡単に中国の外貨管理局の許可が取れるからである、3ただし、本件子会社の清算後は、「生地代」という名目でも送金することができなくなったので、残りの現金は、N総経理が日本に直接持参した旨答述しているところ、これらの答述は、合理的かつ説得的であり、信用性が高い。
       なお、原処分庁は、上記の金銭について、K社が受領していないので残余財産ではないとも主張するが、上記イの(ロ)のとおり、K社は、本件子会社の清算において、出資金を放棄することにより、自社の株主責任を果たすことになるとして、請求人と合意したのであるから、同社が残余財産を受領しなかったことは当然である。
       以上のことから、上記の金銭は、原処分庁の主張する本件売掛債権の一部とは認められない。
    3. (ハ) 加えて、原処分庁は、回収不能額が不確定な状態の下、本件売掛債権を放棄することはあり得ないとの前提で、種々主張するが、それは債権放棄に事業活動としての経済合理性が認められるか否か、すなわち本件売掛債権に係る貸倒損失が法人税法上の寄附金に該当するか否かについての問題にすぎず、回収不能額が確定していなくても債権放棄の有効性自体には影響しない。
       したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人が本件売掛債権を放棄したとして、その相当額を損金の額に算入したことは、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装の行為に該当するか否か。)

上記(1)のロのとおり、請求人は、本件子会社に対して、本件売掛債権を実際に放棄し、それに基づいて本件売掛債権の相当額を貸倒損失として損金の額に算入したものであり、本件声明文は内容虚偽のものであると認められないことからすると、請求人が本件売掛債権の相当額を損金の額に算入したことについて、通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったとは認められない。

(3) 本件法人税更正処分及び本件復興特別法人税更正処分

  • イ 本件売掛債権の放棄に係る損失
     上記(1)のロのとおり、請求人は、本件売掛債権を放棄したことが認められるところ、当該債権放棄に係る損失について、請求人及び原処分庁の双方とも具体的な主張を行わないため、この点について、当審判所において検討したところ、以下のとおりである。
    1. (イ) 法令解釈
       一般に、法人がその有する債権を放棄した場合、当該債権は消滅し、当該法人には債権相当額の損失が生ずるが、他方、当該債権放棄は、債務者に経済的利益を与えるものであるから、それによって供与した経済的利益の額は、原則として、法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当する。
       もっとも、その債権放棄に経済合理性が存する場合には、これを単なる無償の供与であるということはできないから、その供与した経済的利益の額は寄附金の額に該当しないと解される。
       この点について、法人税基本通達9−4−1は、子会社等を整理する場合の損失負担等について定めているが、これは、子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い損失負担等をした場合における経済合理性の有無を判断するための具体的基準を示したものであり、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
       そして、この場合における経済合理性の有無については、子会社等を整理するためにやむを得ず行うなどの損失負担の必要性の有無により判断するのが相当であり、損失負担の必要性の有無については、具体的には、1被支援者は支援者と事業関連性のある子会社等であるか、2当該子会社等は経営危機に陥っているか、3支援者が損失負担を行う相当の理由があるかの各要素を総合して判断するのが合理的と認められる。
       なお、債権放棄が回収不能に基づき行われたと認められる場合には、当該債権放棄をもって、債務者への経済的利益の供与があったということはできないから、当該債権放棄の額は寄附金の額に当たらず、貸倒損失の額に当たる。
       この点について、法人税基本通達9−6−1の(4)は、債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合には、その債務者に対して書面により明らかにされた債務免除額を貸倒損失として損金の額に算入することを認めるものであり、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
    2. (ロ) 認定事実
       上記1の(4)のロの(イ)及びニの(イ)のとおり、本件子会社が請求人にとって、事業関連性のある子会社等であることは明らかであるところ、当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
      • A 上記1の(4)のヘの(イ)のとおり、本件子会社は、本件売掛債権の放棄の直近である平成22年1月1日から同年12月31日まで、平成23年1月1日から同年12月31日まで及び平成24年1月1日から同年12月31日までの各会計期間の末日において、債務超過ではなかった。
      • B また、本件子会社は、平成21年1月1日から同年12月31日までの会計期間において、営業損失及び純損失を計上していたものを、その後の上記Aの各会計期間において、毎期営業利益及び純利益を計上し、繰越損失の額も減少させていたのであるから、本件売掛債権の放棄時に本件子会社が直ちに破綻して本件売掛債権の回収の見込みがなかったとまではいえない。
      • C さらに、本件子会社は、本件土地建物の明渡しの影響により本件売掛債権の放棄時には債務超過となったが、平成25年9月中に、請求人以外の外注先等に対する買掛債務を全て弁済しており、残債務もその大部分は親会社である請求人に対するものであったことから、特段の事情がない限り、当時、本件子会社は直ちに破産又はそれに準じた支払不能の状態になることはなかった。
      • D そもそも本件子会社の業績が好転している中、請求人が本件委員会から本件土地建物の明渡し期日延長の申入れを受け、事業継続が可能であったにもかかわらず、あえて本件子会社の清算を決定したのは、飽くまで本件子会社の経営状況や採算性を踏まえて行った請求人の経営判断によるものであり、本件売掛債権の放棄が本件子会社の清算手続のためやむなくなされたものであったとまではいえない。
    3. (ハ) 当てはめ
       上記(ロ)のAからCまでのとおり、本件では、本件売掛債権の放棄時において、本件子会社が経営危機に陥っていたとはいえず、また、上記(ロ)のDのとおり、本件子会社の事業継続が可能であったにもかかわらず、同社の清算決定が行われたのは、請求人の経営判断によるものであり、請求人が本件子会社の清算に伴う損失負担を行う相当の理由も認められないので、本件売掛債権の放棄に経済合理性が存するということはできないから、法人税基本通達9−4−1は適用されない。
       また、上記(ロ)のAのとおり、本件では、本件子会社の債務超過が相当期間継続した事実はなく、法人税基本通達9−6−1の(4)も適用されない。
       したがって、本件売掛債権の放棄に係る損失の額は、法人税法上の寄附金の額に該当する。
  • ロ 本件法人税更正処分
    1. (イ) 上記1の(4)のロの(イ)のとおり、本件子会社は、本件事業年度において、措置法第66条の4に規定する請求人に係る国外関連者に該当するところ、上記イの(ハ)のとおり、本件売掛債権の放棄に係る損失の額は、法人税法上の寄附金の額に該当し、当該寄附金の額は請求人に係る国外関連者に対するものに該当するから、同条第3項の規定により、その全額○○○○円(別表3の「審判所認定額」欄の4欄)を損金の額に算入することはできない。
       また、別表3の「原処分庁主張額」欄の3欄のとおり、原処分庁は、本件売掛債権に係る為替差益○○○○円について、これを収益として益金の額に算入しているが、上記(1)のロのとおり、請求人による本件売掛債権の放棄が認められ、本件売掛債権が消滅していることからすれば、本件事業年度の末日現在で算出された為替差益を認定することはできない。
    2. (ロ) 原処分庁が、別表3の「原処分庁主張額」欄の57及び10欄の各金額につき、本件法人税更正処分において、本件事業年度の所得金額に加算又は減算したことについては、請求人は争わず、当審判所においても相当と認められる。
    3. (ハ) 上記(イ)及び(ロ)を前提として、本件事業年度の所得金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄の12欄のとおり、○○○○円となり、本件法人税更正処分のその額を下回るから、本件法人税更正処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。
  • ハ 本件復興特別法人税更正処分
     上記ロの(ハ)のとおり、本件法人税更正処分の一部が取り消されることに伴い、本件課税事業年度の復興特別法人税の額を再計算すると、別表5の「審判所認定額」欄の4欄のとおり、○○○○円となり、本件復興特別法人税更正処分のその額を下回るから、本件復興特別法人税更正処分は、その一部を別紙2の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) 本件法人税賦課決定処分及び本件復興特別法人税賦課決定処分

上記(2)のとおり、請求人が、本件売掛債権の相当額を貸倒損失として損金の額に算入した行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていない。
 また、本件法人税更正処分及び本件復興特別法人税更正処分は、上記(3)のロ及びハのとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるところ、取消後の各処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件法人税賦課決定処分及び本件復興特別法人税賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額について、別紙1及び別紙2の各「取消額等計算書」のとおり取り消すのが相当である。

(5) その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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