(平成28年5月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して、滞納者名義の預金口座から請求人名義の預金口座への○○○○円の入金が国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第ニ次納税義務》に規定する無償による譲渡に当たるとして第ニ次納税義務の納付告知処分をしたのに対し、請求人が、その認定に誤りがあるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 納税者D(以下「本件滞納者」という。)は、自己が経営していたガソリンスタンドの事業資金をE銀行から借り入れていたところ、本件滞納者の長男である請求人は、これを連帯保証していた。本件滞納者は、この事業上の借入金の返済のため、平成22年3月17日、請求人に対し、当時請求人と同居していた自宅(土地及び建物。以下「本件不動産」という。)を15,500,000円(以下「本件売却代金」という。)で売却することとし、同日、その旨の売買契約をした。
  • ロ 請求人は、平成22年7月16日、本件不動産の購入代金及びリフォーム費用として、F信用組合(以下「F信組」という。)から19,000,000円の融資を受け、同日、当該購入代金の決済として、本件滞納者名義のF信組d支店の普通預金口座(以下「本件滞納者F信組口座」という。)に15,500,000円を振り込んだ。また、同日、上記の振込みがされた本件滞納者F信組口座から、1本件滞納者名義のE銀行e支店の普通預金口座に○○○○円の振込入金がされ(本件滞納者のE銀行からの借入金の返済のため)、2請求人名義のG銀行f支店の普通預金口座(以下「請求人G銀行口座」という。)に○○○○円の振込入金(以下「本件入金」という。)がされた。
     以下、上記の一連の決済手続を「本件決済手続」という。
     なお、本件入金に当たり、その趣旨を示す契約書、念書又は覚書等の文書が作成された事実はない。
  • ハ 請求人は、本件入金後1か月以内に、本件不動産のリフォーム費用(合計4,417,224円)を、請求人G銀行口座から工事を施工した業者の預金口座へ振り込んだ。
  • ニ 本件滞納者は、本件不動産を請求人に売却した当時、資金的にひっ迫しており、平成22年12月頃、所有していた他の不動産(経営していたガソリンスタンドの敷地である土地及びa市d町○−○に所在する土地)も売却して借入金の返済に充てたが、H公庫からの借入金約1,000万円の返済ができず、その後事業を廃止し、平成23年7月11日、a市○○に対して、○○を行い、○○している。
  • ホ 原処分庁は、本件滞納者が納付すべき別表記載の滞納国税を徴収するため、請求人に対し、本件入金は徴収法第39条に規定する無償による譲渡に当たるとして、平成26年12月24日付の納付通知書により、納付すべき金額の限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分(以下「本件告知処分」という。)をし、当該納付通知書は、同月26日、請求人に送達された。
  • ヘ 請求人は、平成27年2月26日、本件告知処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月25日付で棄却の異議決定をした。
  • ト 請求人は、平成27年6月25日、異議決定を経た後の本件告知処分に不服があるとして、審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った政令で定める無償による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分に基因すると認められるときは、これらの処分により権利を取得し、又は義務を免れた者は、これらの処分により受けた利益が現に存する限度(これらの者がその処分の時にその滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

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2 争点

本件入金は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡(贈与)に当たるか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
本件入金は、次のとおり、徴収法第39条に規定する無償による譲渡(贈与)に当たる。 本件入金は、次のとおり、徴収法第39条に規定する無償による譲渡(贈与)に当たらない。
(1) 本件入金が贈与の趣旨で行われたこと (1) 本件入金が贈与の趣旨で行われたものではないこと
本件入金は、次のイのとおり、本件滞納者による黙示の贈与の意思表示と、次のロ及びハのとおり、請求人の受贈の意思をもって行われた。  
イ 本件滞納者は、請求人が本件入金をした事実を知った以後、本件告知処分時までの間において、請求人に対して本件入金に係る○○○○円の返還を求める意思を示していない。 イ 本件滞納者が、本件入金に係る○○○○円を請求人に贈与したことはない。本件入金は、本件滞納者が、本件売却代金をE銀行からの借入金の返済に充てた後の残金を事業資金に充てたいと言ったので、請求人が預かったものである。なお、本件入金に係る金額のうち○○○○円は、後記(2)のとおり、本件滞納者の同意を得て、本件滞納者の請求人に対する借入金の返済に充てた。
ロ 請求人は、本件入金直後に、請求人G銀行口座から振込みの方法で請求人固有の費用である本件不動産のリフォーム費用を支払っている。 ロ 請求人が支払った本件不動産のリフォーム費用の原資は、別途融資を受けたF信組からの借入金であり、本件入金に係る○○○○円ではない。
ハ 本件告知処分時において、請求人が、本件滞納者に対し、本件入金に係る金額のうち○○○○円を返還した事実は認められず、本件滞納者に返還する意思もうかがえなかった。
 また、請求人が本件滞納者に返還した○○○○円から返済したと主張する、本件滞納者が請求人の伯母のJから借り入れた3,000,000円の債務が存在するか否か自体明らかでない。
ハ 本件入金に係る金額のうち○○○○円は、本件滞納者の事業資金に充てるため、本件滞納者から使途を特定して預かったもので、請求人は本件滞納者に対し、本件入金後に、○○○○円を現実に渡した。このことは、本件滞納者が、そのうち○○○○円を事業資金に、残り○○○○円をJからの借入金の残金の返済に充てていることからも明らかである。
(2) 対価性がないこと (2) 対価性があること
本件滞納者には、本件入金時、請求人に対して借入金の残高はなく、他にも本件入金に対価性を認める事実は存在しない。 本件入金に係る金額のうち○○○○円は、本件滞納者の請求人に対する借入金の返済として入金したものである。

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4 当審判所の判断

(1) 認定事実

請求人、本件滞納者及び本件入金時のF信組d支店の渉外担当者の当審判所に対する各答述、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件入金について
    1. (イ) 本件決済手続の状況
       本件決済手続は、請求人、F信組の渉外担当者、本件滞納者の債権者であり本件不動産の抵当権者であるE銀行の担当者及び司法書士らがF信組d支店に一堂に会して行われたが、本件滞納者は出席していなかった。
       なお、その際における上記1の(2)のロの1及び2の振込入金及び本件入金の手続は、請求人によって行われた。
    2. (ロ) 債務弁済に係る手続の委任
       本件決済手続について、本件滞納者は、本件売却代金による債務整理を請求人に全て任せていた旨答述し、請求人もこれに沿う答述をしている。両者の各答述は合致しているところ、1上記(イ)のとおり、本件決済手続の場に本件滞納者が出席していなかったこと、2上記1の(2)のイのとおり、請求人は本件滞納者が負っていたE銀行からの借入金債務の連帯保証人であり、かつ、3上記1の(2)のイのとおり、本件滞納者と請求人は親子であり本件不動産を売買した時点においては同居していたことからすると、これらの答述のうち、少なくとも請求人が債務整理を全て任されていた点に関する部分は信用することができるから、本件滞納者は、本件売却代金を原資として、E銀行からの借入金など、本件滞納者が負っていた債務の弁済に係る手続を請求人に一任していた事実が認められる(以下、この委任を「本件委任」という。)。
    3. (ハ) 小括
       上記(イ)及び(ロ)の事実からすると、本件入金は、請求人が本件委任に係る事務に関連して行ったものと認められる。
  • ロ 本件滞納者の本件売却代金の残余金についての認識
     本件滞納者の当審判所に対する答述からすると、本件滞納者は、請求人に対して返還を求めることができる、本件売却代金から本件滞納者の債務を弁済した後の残余金はないと認識していたことが認められる。

(2) 争点について

上記(1)のイの(ハ)のとおり、本件入金は、請求人が本件委任に係る事務に関連して行ったものと認められるから、本件入金をもって徴収法第39条に規定する無償による譲渡(贈与)があったということはできない。

(3) 原処分庁の主張について

  • イ 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のイ及びロのとおり、1本件滞納者が、本件告知処分時に至るまで請求人に対し本件入金に係る○○○○円の返還を求める意思を示していないこと、2請求人が、本件入金直後に請求人G銀行口座から振込みの方法で本件不動産のリフォーム費用を支払っていることを指摘し、これらをもって請求人への贈与が推認される旨主張する。
     しかしながら、上記1については、上記(1)のロのとおり、そもそも、本件滞納者は、請求人に対して返還を求めることができる本件売却代金の残余金はないと認識していたから、本件滞納者が返還を求める意思を示していないことをもって、黙示の贈与の意思表示があったと推認することはできない。
     また、上記1の(2)のロのとおり請求人が本件不動産のリフォーム費用について別途資金を手当てしていたことを考慮すると、上記2の事実があることの一事をもって、本件入金に係る○○○○円について、請求人に贈与の受諾があったと推認することはできず、他に贈与契約を推認させる間接事実も認められない。およそ、上記1の(2)のニのとおり、資金的にひっ迫した本件滞納者が、○○○○円もの大金をさしたる理由もなく請求人に贈与したとは考えにくい。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
  • ロ また、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のハ及び(2)のとおり、本件告知処分時において、請求人が本件滞納者に対し、本件入金に係る金額のうち○○○○円を返還した事実は認められず、また、本件滞納者には、請求人に対し、本件入金時に、請求人の主張する○○○○円を含め、何ら借入金の残高はなく、他にも本件入金に対価性を認める事実は存在しない旨主張する。
     確かに、当審判所の調査によっても上記各事実(○○○○円の返還と○○○○円の借入金)の真偽は不明といわざるを得ないが、本件においては、仮に、原処分庁が主張するように、本件滞納者に○○○○円を返還した事実や請求人からの借入金の残高がなかったとしても、本件滞納者は、請求人に対して、本件委任に係る残余金返還請求権を有しているにすぎないから、原処分庁の当該主張をもって贈与があったと推認することはできない。
     したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
  • ハ なお、原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のイのとおり、本件滞納者が本件告知処分時に至るまで請求人に対し、本件入金に係る○○○○円の返還を求める意思を示していない旨主張しているところ、この主張については、本件滞納者が請求人に対して本件委任に係る残余金返還請求権について債務免除を行った旨を主張するものと解する余地もある。
     しかしながら、本件告知処分は、本件入金が無償による譲渡に当たるとしてされたものであり、請求人が上記残余金返還請求権について債務免除を受けたとしてされたものでもないから、いずれにしても原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件告知処分の適法性について

上記(2) のとおり、本件入金は、徴収法第39条に規定する無償による譲渡(贈与)に当たらないから、同条に規定する無償による譲渡(贈与)に該当するとしてされた本件告知処分は、その全部を取り消すべきである。

(5) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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