(平成28年8月8日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、金融機関から借り入れた外貨建借入金を返済した取引について、原処分庁が、当該取引は所得税法上の外貨建取引に該当し、当初の借入時の為替相場による円換算額と最終的な返済時の為替相場による円換算額との差額(為替差益)は、雑所得に該当するなどとして所得税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当初の借入時から最終的な返済時までの間に繰り返し行った各借換え時においても為替差損益を認識して雑所得を計算すべきであるとして、当該更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成23年分の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
  • ロ 原処分庁は、これに対し、平成27年4月17日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ 請求人は、上記ロの本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成27年6月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月11日付でいずれも棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月15日に送達した。
  • ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分のうち、為替差益に係る雑所得の金額に不服があるとして、平成27年10月14日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

  • イ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、同条第1項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。
  • ロ 所得税法第57条の3《外貨建取引の換算》第1項は、居住者が、外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいう。以下同じ。)を行った場合には、当該外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。以下同じ。)は当該外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場(以下「為替相場」という。)により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする旨規定している。

(4) 基礎事実

以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 口座開設の状況等
     請求人は、遅くとも平成18年8月8日には、L社e支店(以下「L社e」という。)に請求人名義の口座(以下「L社e口座」という。)を開設し、また、平成21年11月25日には、L社a支店(以下「L社a」という。)にも請求人名義の口座(以下「L社a口座」という。)を開設して、これらの口座を通して金融商品の売買等を行っていた。
     また、これらの口座内には、少なくとも日本円及びアメリカ合衆国ドル(以下「米ドル」という。)の口座があった。
  • ロ 請求人とL社e及びL社aとの間の借入金に係る契約の内容
     請求人は、金融商品の購入資金等を調達するため、平成18年8月8日にL社eとの間で、また、平成22年2月3日にL社aとの間でそれぞれ要旨次の内容の貸付与信枠に係るファシリティー契約(以下、ファシリティー契約に係る契約書を「ファシリティー・レター」という。)を締結した。
    1. (イ) L社e
      1貸付与信限度額はX,XXX,XXX米ドル、2貸付けは同行が認める通貨による12か月を超えない短期貸付、3利率は年利○○%に同行の調達金利を加算したもの、及び4貸付けの返済は元金その他の未払残高を貸付けの返済期日に返済するものとし、5請求人は担保を提供しなければならず、実際の貸付額は与信枠にかかわらず、担保の価値により決定されるものとする。
    2. (ロ) L社a
      1貸付与信限度額はX,XXX,XXX,XXX円、212か月以下の貸付けについては、複数通貨で貸付けができる、3利率はL社aの貸付時点の基準金利に○○%を上乗せした率、及び4貸付けの返済は元金その他の未払残高を貸付けの返済期日に返済するものとし、5請求人は担保を提供しなければならず、貸付与信枠の残高の総額は、担保の市場評価額に基づいて決定される貸付評価額を超えることはできないものとする。
    3. (ハ) L社e及びL社aにおける貸付けの成立
      • A L社e及びL社aは、いずれもファシリティー契約によって直ちに貸付義務を負うものではなく、別途、請求人からの借入れの申込みが行われ、その都度独自の裁量に基づく査定を行って当該申込みの受諾又は拒絶を判断した上で、貸付けを実行していた。
         なお、請求人からの借入れの申込みは、L社eにおいては、書面によらず請求人からの電話連絡等によって行われ、また、L社aにおいては、請求人からの借入申込書の提出により行われていた。
      • B L社eの場合、貸付日のおおむね前日にファシリティー・レターに記載された条件に基づいて決定された貸付利率等が記載された貸付確認書がL社eにより発行され、当該貸付確認書の発行をもって個々の貸付契約が成立する。
         一方、L社aの場合、L社aによる請求人のL社a口座への貸付金の入金をもって、ファシリティー・レター及び借入申込書に記載された条件で個々の貸付契約が成立する。
  • ハ 請求人の借入れ及び返済の状況
     請求人は、上記イの各口座を開設した以後、以下のとおり、L社e及びL社aからそれぞれ円建て及び米ドル建てで借入れを行い、最終的に平成23年10月28日までにその全額を返済した。
    1. (イ) L社eとの取引(別表2−1参照)
      • A 請求人は、平成21年10月28日、順号1のとおり、750,462,491円を借り入れた。
      • B 請求人は、平成21年11月30日、上記Aの円建借入金の返済期日が到来したことから、順号2のとおり、8,350,627.27米ドルを借り入れて円(1米ドル当たり86.21円の為替相場で719,907,577円)に交換し、順号3のとおり、元本の一部返済と利息の支払に充てるとともに、順号4のとおり、L社e口座に預託していた31,683,797円で残額を返済した。
      • C 請求人は、平成21年12月30日、上記Bの順号2の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号5のとおり、当該米ドル建借入金の元本に利息を加算した金額8,362,617.38米ドルに借り換えた。
      • D 請求人は、その後、順号6ないし順号8のとおり、既存の米ドル建借入金の返済期日が到来した都度、上記Cと同様に、既存の米ドル建借入金の元本に利息を加算した金額(順号6は8,372,687.37米ドル、順号7は8,383,399.76米ドル、順号8は8,393,906.26米ドル)に借り換えた。
      • E 請求人は、平成22年3月31日、上記Dの順号8の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号9のとおり、L社aからの米ドル建借入金4,196,953.13米ドル(別表2−2の順号1参照)を元本の一部返済と利息の支払に充てるとともに、順号10のとおり、残額を4,199,923.17米ドルに借り換えた。
      • F 請求人は、その後、順号11及び順号12のとおり、既存の米ドル建借入金の返済期日が到来した都度、上記Cと同様に、既存の米ドル建借入金の元本に利息を加算した金額(順号11は4,233,143.16米ドル、順号12は4,266,721.16米ドル)に借り換えた。
      • G 請求人は、平成23年4月1日、上記Fの順号12の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号13のとおり、177,400,649円を借り入れて米ドル(1米ドル当たり83.151円の為替相場で2,133,475.84米ドル)に交換し、順号14のとおり、米ドル建借入金の一部返済と利息の支払に充てるとともに、順号15のとおり、残額を2,133,475.84米ドルに借り換えた。
      • H 請求人は、平成23年7月28日、上記Gの順号15の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号16のとおり、L社e口座に預託していた2,144,433.96米ドルを元本の返済と利息の支払に充てて、当該米ドル建借入金を完済した。
    2. (ロ) L社aとの取引(別表2−2参照)
      • A 請求人は、平成22年3月31日、順号1のとおり、4,196,953.13米ドルを借り入れて、上記(イ)のEのとおり、L社eからの米ドル建借入金の一部返済と利息の支払に充てた(別表2−1の順号9参照)。
      • B 請求人は、平成22年9月30日、上記Aの順号1の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号2のとおり、当該米ドル建借入金の元本に利息を加算した金額4,227,952.18米ドルに借り換えた。
      • C 請求人は、平成22年12月30日、上記Bの順号2の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号3のとおり、上記Bと同様に、当該米ドル建借入金の元本に利息を加算した金額4,241,888.45米ドルに借り換えた。
      • D 請求人は、平成23年4月28日、上記Cの順号3の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号4のとおり、780,000,000円を借り入れて、そのうち183,795,473円を1米ドル当たり82.10円の為替相場で2,238,678.12米ドルに交換し、順号5のとおり、当該米ドル建借入金の元本の一部返済と利息の支払に充てるとともに、また、順号6のとおり、L社a口座に預託していた22,322.04米ドルを当該米ドル建借入金の元本の一部返済と利息の支払に充て、順号7のとおり、残額を2,000,000.00米ドルに借り換えた。
      • E 請求人は、平成23年10月28日、上記Dの順号7の米ドル建借入金の返済期日が到来したことから、順号8のとおり、1,708,000,000円を借り入れ、そのうち152,940,000円を1米ドル当たり76.47円の為替相場で2,000,000.00米ドルに交換し、順号9のとおり、当該米ドル建借入金の元本の一部返済と利息の支払に充てるとともに、順号10のとおり、L社a口座に預託していた14,741.67米ドルを元本の返済と利息の支払に充てて、当該米ドル建借入金を完済した。
         なお、以下、請求人が平成21年10月28日以後にL社e及びL社aから借り入れた米ドル建借入金で、平成23年中に返済したものを総称して「本件外貨建借入金」、本件外貨建借入金に係る借換えを総称して「本件借換え」という。
  • ニ 原処分庁の為替差益に関する算定額
     原処分庁は、以下のとおり、本件外貨建借入金の元本返済に係る為替差益(以下「本件為替差益」という。)を算定し、これらの金額の合計額の○○○○円を雑所得として、別表1の「更正処分等」欄のとおりの本件更正処分をした。
     なお、本件為替差益の算定額は、いずれも1円未満の端数を切り捨てた後の金額である。
    1. (イ) L社eとの取引に関するもの(別表2−1参照)
      • A 順号14の米ドル建取引のうち元本の返済(2,133,360.58米ドル)に係る為替差益は、当該金額に借入残高の平均レート(1米ドル当たりXX.XX円)と当該取引に係る為替レート(1米ドル当たり83.48円)との差額を乗じて○○○○円であると算定した。
      • B 順号16の米ドル建取引のうち元本の返済(2,133,475.84米ドル)に係る為替差益は、上記Aと同様の方法により○○○○円であると算定した。
    2. (ロ) L社aとの取引に関するもの(別表2−2参照)
      • A 順号5の米ドル建取引のうち元本返済(2,228,637.06米ドル)に係る為替差益は、当該金額に借入残高の平均レート(1米ドル当たりXX.XX円)と当該取引に係る為替レート(1米ドル当たり82.10円)との差額を乗じて○○○○円と算定した。
      • B 順号6の米ドル建取引のうち元本返済(22,221.92米ドル)に係る為替差益は、上記Aと同様の方法により○○○○円と算定した。
      • C 順号9の米ドル建取引のうち元本返済(1,985,366.19米ドル)に係る為替差益は、上記Aと同様の方法により○○○○円と算定した。
      • D 順号10の米ドル建取引のうち元本返済(14,633.81米ドル)に係る為替差益は、上記Aと同様の方法により○○○○円と算定した。
    3. (ハ) なお、上記(イ)及び(ロ)の米ドル建取引の元本返済に係る為替差益を所得として認識することについては、請求人は争っていない。

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2 争点

本件借換えの時点において、既存の外貨建借入金の借入時の円換算額と新規の外貨建借入金により取得した外貨による返済額の円換算額との差額である為替差益を所得として認識すべきか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件借換え時における為替差益は所得として実現していないから、雑所得として認識する必要はない。 以下のとおり、本件借換え時においても為替差益は所得として実現しているから、雑所得として認識すべきである。
イ 所得税法第36条第1項は、収入すべき金額の計上時期について権利確定主義を採用したものといわれているところ、「収入すべき金額」とは、収入すべき権利ないし経済的利益が確定した金額をいうものと解されており、かつ、収入すべき権利が確定すれば、その段階で所得の実現があったと考えるのが合理的であると解されている。また、権利が確定したというためには、単に当該権利が発生しただけでなく、権利が具体的に実現する可能性が客観的に認識できる状態にまで高められていなければならないと解されている。 イ 所得税法第36条第1項における収入金額とすべき金額は、現実の収入がなくても、収入の原因となる権利が確定した場合は、その時点で所得の実現があったものとして権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解され、また、権利が確定しているものは全て所得が実現していると解されている。
ロ 本件借換えは、その取引時点における本件外貨建借入金の借入元金の額及び当該借入元金に対する利息の合計額に相当する金額を債権者に支払うとともに、同一の債権者からその同額を借り受けるものであると認められる。
 そうすると、本件借換えを行った後においては、本件外貨建借入金の借入元金の額は利息の額に相当する額だけ増加しており、請求人が債権者に対して負っている外貨建債務は実質的に消滅しない、すなわち、実質的には外貨建債務を保有し続けていると認められることから、本件借換えの時点では、本件外貨建借入金の返済に係る経済的利益は実現していない。
ロ 本件借換え時においては、新規に外貨建借入れを行った上で既存の外貨建借入金を返済しており、債権者に対して負っていた既存の外貨建債務が消滅しているのであるから、この借換え手続の時点においても、請求人が借り入れた金額の円換算額と請求人が返済した金額の円換算額の差額が、返済に係る経済的利益(経済的価値の流出の減少)として実現している。

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4 判断

(1) 法令解釈等

  • イ 所得税法は、第23条《利子所得》ないし第35条《雑所得》に規定する各種所得について、その金額を収入金額又は総収入金額として規定し、同法第36条第1項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」については、「収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、右権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用している」(最高裁昭和49年3月8日判決・最高裁判所民事判例集28巻2号186頁)と解されており、所得の実現があったときに収入を認識することとされている。
     そして、収入とは、経済価値の外からの流入と解されるところ、所得税法は、第36条第1項において、所得を収入金額の形態で定めていることから、原則として、収入という形態において実現した利得のみを課税の対象とし、未実現の利得(保有資産の価値の増加益)は課税の対象から除外している、と解するのが相当である。
     外貨建取引を行った場合の円換算について規定する所得税法第57条の3第1項も、「その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとする」と規定していることからすると、同項は、所得の実現があったことを前提として、当該所得の金額の計算方法について規定したものであり、未実現の利得について同項の規定による換算を行うことにはならないと解される。
  • ロ ところで、外貨建借入金の借換えの際、当該外貨建借入金の借入時の円換算額と返済時の円換算額との差額が為替差損益として計算されるのであるが、上記イによれば、当該為替差損益が単に評価上のものにとどまり、当該差額に相当する所得が実現したと認められない場合には、課税の対象となる収入として認識しないこととなる。
     そして、上記借換えの際に計算される為替差損益については、外貨建借入金の元本について、一定の基本的な借入契約に定められた条件に基づき、引き続き同一の金融機関に同一の外国通貨で借換えが行われた場合のように、借換えの前後における外貨建借入金の内容に実質的な変化がない場合には、その際に計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎないと考えられるから、当該為替差損益は所得として実現しておらず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる。
     これに対し、借換えの前後における外貨建借入金の内容が実質的に異なる場合、既存の借入金とは内容の異なる新たな借入金が生じていることからすると、その際に計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎないとはいえないから、当該為替差損益を課税の対象となる収入として認識することとなる。

(2) 検討

上記(1)の考え方に基づき、本件において、1外貨建借入金の元本の全額を借り換えた取引、2外貨建借入金の元本の一部を借り換えた取引について検討すると、次のとおりである。

  • イ 外貨建借入金の元本の全額を借り換えた取引(別表2−1の平成21年12月30日、平成22年1月29日、同年2月26日、同年3月25日、同年9月30日及び平成23年3月31日並びに別表2−2の平成22年9月30日及び同年12月30日の取引)について
     L社e及びL社aとの取引のうち、外貨建借入金の元本の全額を借り換えた取引については、請求人が、既存の借入金(元本)の残高に利息を加えた額をL社e及びL社aから新たに借り入れ、それを原資として元本の返済及びその利息の支払を行ったものである。
    1. (イ) 新たな借入れについて
       上記の新たな借入れは、外貨で行われているが、新たな借入れを行っただけでは為替差損益は生じない。
    2. (ロ) 既存の借入金(元本)の返済について
       これに対し、既存の借入金(元本)の返済に関しては、当該元本の借入時と返済時の為替相場の差額による為替差損益を計算することができる。
       しかしながら、既存の借入金及び新たな借入金(既存の借入金の元本に相当する額。以下同じ。)は、いずれも請求人がL社e又はL社aとの間で締結した貸付与信枠に係るファシリティー契約(上記1の(4)のロ)に定められた貸付限度額、金利の計算方法及び担保等の条件に基づき、同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、上記借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められない。
       そうすると、上記返済時に計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる。
  • ロ 外貨建借入金の元本の一部を借り換えた取引(別表2−1の平成22年3月31日及び平成23年4月1日並びに別表2−2の同年4月28日の取引)について
     L社e及びL社aとの取引のうち、外貨建借入金の元本の一部を借り換えた取引については、請求人が、1新たに借り入れた邦貨により取得した外貨、2口座内に保有していた外貨及び3他の支店において新たに借り入れた外貨を原資として、既存の借入金(元本)の一部返済(以下「一部返済部分」という。)及びその利息の支払を行った上で、L社e及びL社aから新たに借り入れた外貨を原資として、当該一部返済後の残額の返済(以下「借換え部分」という。)及びその利息の支払を行ったものである。
    1. (イ) 既存の借入金(元本)の一部返済部分について
       上記の取引のうち既存の借入金(元本)の一部返済部分(別表2−1の順号9及び順号14並びに別表2−2の順号5及び順号6)に関しては、1新たに借り入れた邦貨により取得した外貨(別表2−1の順号13及び別表2−2の順号4)、2口座内に保有していた外貨(別表2−2の順号6)及び3他の支店において新たに借り入れた外貨(別表2−2の順号1)を原資として、当該元本の一部を返済したものである。
       また、L社aからの借入金(別表2−2の順号1)を原資とするL社eの既存の借入金(元本)の一部返済部分(別表2−1の順号9)については、同一の通貨であり、同一の金融機関ではあるものの、新たな借入金は、既存の借入金とは支店が異なり、その基礎となるファシリティ契約の内容(上記1の(4)のロ)が異なることからすると、当該返済の前後における借入金の内容は実質的に異なるものであると認められる。
       以上のことから、上記の取引のうち既存の借入金(元本)の一部返済部分に関しては、当該元本の一部の借入時と返済時の為替相場の差額により計算される為替差損益を課税の対象となる収入として認識することとなる。
    2. (ロ) 新たな借入れについて
       上記の新たな借入れは、外貨で行われているが、新たな借入れを行っただけでは為替差損益は生じない。
    3. (ハ) 既存の借入金(元本)の借換え部分について
       これに対し、既存の借入金(元本)の借換え部分(別表2−1の順号10及び順号15並びに別表2−2の順号7)に関しては、当該元本の借入時と返済時の為替相場の差額による為替差損益を計算することができる。
       しかしながら、既存の借入金(元本)の借換え部分及び新たな借入金は、いずれも請求人がL社e及びL社aとの間でそれぞれ締結した貸付与信枠に係るファシリティー契約(上記1の(4)のロ)に定められた各条件に基づき、同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、上記借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められない。
       そうすると、上記返済時に計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる。
  • ハ 小括
     以上のとおり、既存の外貨建借入金の元本の全額又は一部の借換え(別表2−1の順号5ないし順号8、順号10ないし順号12及び順号15並びに別表2−2の順号2、順号3及び順号7)に関しては、いずれもL社e又はL社aとの間でそれぞれ締結した貸付与信枠に係るファシリティー契約(上記1の(4)のロ)に定められた各条件に基づき、同一支店から、同一の通貨、同一の金額で行われたものであり、上記借入れ及び返済の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたとは認められないから、既存の借入金の返済時に計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎず、課税の対象となる収入として認識しないこととなる。
     なお、既存の借入金(元本)の一部返済部分(別表2−1の順号9及び順号14並びに別表2−2の順号5及び順号6)に関しては、同一支店から、同一の通貨、同一の金額で借り入れた資金を原資としたものではないから、当該元本の一部の借入時と返済時の為替相場の差額により計算される為替差損益を課税の対象となる収入として認識することとなる。

(3) 請求人の主張について

請求人は、上記3の「請求人」欄のロのとおり、本件借換え時においては、新規に外貨建借入れを行った上で既存の外貨建借入金を返済しており、債権者に対して負っていた既存の外貨建債務が消滅しているのであるから、この借換え手続の時点においても、請求人が借り入れた金額の円換算額と請求人が返済した金額の円換算額の差額が、返済に係る経済的利益(経済的価値の流出の減少)として実現している旨主張する。
 しかしながら、外貨建借入金の元本の全額を借り換えた取引及び元本の一部を借り換えた取引において、当該取引の前後における借入金の内容に実質的な変化が生じたと認められない場合には、既存の借入金を返済した時点において計算される為替差損益は、単に評価上のものにすぎないから所得として実現したとはいえず、当該為替差損益を課税の対象となる収入として認識することにはならないことは、上記(2)において述べたとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(4) 請求人のその他の主張について

  • イ 請求人は、本件外貨建借入金に係る利息については、本件為替差益との直接的な関係があると認められるので、本件為替差益から必要経費として控除すべきである旨主張する。
     しかしながら、本件外貨建借入金に係る利息を、本件為替差益に係る所得金額の計算上必要経費に算入するためには、当該利息が本件為替差益を得るため「直接に要した費用」又は本件為替差益との関係で「所得を生ずべき業務について生じた費用」のいずれかに当たらなければならないところ(所得税法第37条《必要経費》第1項)、本件外貨建借入金は、請求人が金融商品の購入資金等として借り入れた借入金の返済及びその利息の支払に充てるために借り換えられたものであり、本件為替差益を得るために借り入れたものとは認められないから、当該利息は、本件為替差益を得るため「直接に要した費用」にも、本件為替差益との関係で「所得を生ずべき業務について生じた費用」にも当たらない。
     したがって、本件外貨建借入金に係る利息を、本件為替差益に係る所得金額の計算上必要経費に算入することはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  • ロ また、請求人は、請求人が行っていた米ドル建ての金銭消費貸借取引は、米ドル建ての返済義務(負債)を負担する行為と米ドル建ての金銭(資産)を受け取る行為が一体となっている取引であるから、負債側のみに着目した課税処分は誤りであって、当該借入金により取得した資産についての為替差損益も考慮するべきであり、そうすると、本件外貨建借入金は、全て有価証券の取得に充てられているため、本件為替差益は、有価証券の譲渡に係る所得を生ずべき業務に付随して発生しているものとして、有価証券の譲渡損に含まれる為替差損と相殺すべきであるから、原処分庁が認定するような負債側のみに着目した為替差益は生じない旨主張する。
     しかしながら、請求人が主張するように当初借り入れた借入金が有価証券の取得に充てられていたとしても、本件外貨建借入金は、既存の借入金の元本の返済及びその利息の支払に充てるために借り換えられたものであり、また、本件為替差益は、本件外貨建借入金の元本の返済によって生じたものであって、有価証券の譲渡によって生じたものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(5) 本件更正処分について

原処分庁は、上記1の(4)のニの(イ)及び(ロ)のとおり、本件為替差益(別表2−1の順号14及び順号16並びに別表2−2の順号5、順号6、順号9及び順号10の米ドル建取引のうち元本返済額に係る為替差益)を○○○○円と算定し、当該金額を雑所得としているところ、本件為替差益を所得として認識することについては、同(ハ)のとおり、請求人は争っておらず、また、本件為替差益の算定及び所得区分については、当審判所においても相当であると認められる。
 以上のことを踏まえ、平成23年分の所得税の納付すべき税額を算定すると、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(6) 本件賦課決定処分について

上記(5)のとおり、本件更正処分は適法であり、同処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成26年法律第10号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(7) その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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