(平成28年9月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人E(以下「兄E」という。)、同F(以下、兄Eと併せて「請求人ら」という。)及び同G(以下「弟G」という。)が、兄E及び弟Gが母からの相続により取得した宅地について、遺産分割が確定したとして、租税特別措置法(平成23年法律第114号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第69条の4《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して、それぞれ、相続税の更正の請求をしたのに対して、原処分庁が当該宅地の一部は本件特例の適用要件を満たさないなどとして、その請求の一部のみを認めて各更正処分をしたことから、請求人ら及び弟Gが、当該各処分の全部の取消しを求めた事案である。
 なお、弟Gは、本審査請求後に死亡したため、兄Eが弟Gの地位を承継している。

(2) 関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙2のとおりである。
 なお、以下では、別紙2で用いた略語を本文においても用いることとする。

(3) 基礎事実

以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査及び審理の結果によっても、その事実が認められる。

  • イ 請求人ら及び弟Gの母であるH(以下「本件被相続人」という。)は、平成22年10月○日に死亡し、その相続(以下「本件相続」という。)が開始した。本件相続に係る相続人は、長男の兄E、長女のF及び二男の弟Gの3名である。
  • ロ 本件被相続人の相続財産には、a市b町○−○(住居表示は同○丁目○−○)に所在する238.38平方メートルの宅地(以下「本件宅地」という。)がある。請求人ら及び弟Gは、平成25年10月21日、本件相続に係る遺産分割協議を成立させ、本件宅地については、兄E及び弟Gが、持分2分の1ずつを相続した。
  • ハ 本件宅地上には1棟の建物(以下「本件建物」という。)がある。本件宅地は本件建物の敷地として利用され、他の用途に供されていた部分はなかった。なお、本件宅地に敷地権の設定はない。
  • ニ 本件建物について
    1. (イ) 本件建物の登記の状況等
       本件建物は、平成元年9月30日に新築された軽量鉄骨造陸屋根2階建ての建物であり、建物の区分所有等に関する法律第1条《建物の区分所有》に規定する建物として、1階の専有部分(家屋番号:b町○丁目○−○の○)と2階の専有部分(同:b町○丁目○−○の○)で、それぞれ区分登記がされている。なお、本件相続開始時において、1階部分は本件被相続人(持分100分の25)と弟G(持分100分の75)が共有し、2階部分は兄Eが単独所有していた。
    2. (ロ) 本件建物の現況床面積
       本件建物に係る平成26年度土地・家屋名寄帳によれば、本件建物の1階部分の現況床面積は114.52平方メートルであり、2階部分の現況床面積は103.25平方メートルである。
    3. (ハ) 本件建物の構造及び利用状況等
      • A 本件建物の1階部分及び2階部分にはそれぞれ玄関があり、台所、居間・食堂、浴室、洗面所及びトイレも別々に設けられている。また、2階部分への出入りのために本件建物の外部に階段が設置されており、本件建物の内部には、階段やエレベーターなどの本件建物の1階部分と2階部分を行き来するための設備はない。
      • B 本件建物の1階部分には、本件相続の開始の直前まで本件被相続人及び弟Gが居住し、本件相続の開始後は弟Gが一人で居住していた。本件建物の2階部分には、本件相続の開始前から兄E及びその妻が居住し、本件相続の開始後も兄E及びその妻が引き続き居住していた。
         なお、本件建物に居住用以外の用途に供されていた部分はなく、本件宅地は、措置法第69条の4第1項に規定する特例対象宅地等のうち、特定居住用宅地等以外のもの(別紙2の1参照)には該当しない。
      • C 兄E及び弟Gは、上記ロのとおり本件相続により本件宅地を取得し、引き続き本件宅地を有していた。

(4) 審査請求に至る経緯等

  • イ 請求人ら及び弟Gは、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告期限内である平成23年7月11日に、別表1の「申告」欄のとおり記載した申告書を原処分庁に共同で提出して、相続税の申告をした。
     請求人ら及び弟Gは、上記申告において、本件相続により取得した財産の一部(本件宅地を含む。)が未分割であるとして、平成23年法律第114号による改正前の相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定に基づき、請求人ら及び弟Gが法定相続分の割合に従って当該財産を取得したものとして課税価格を計算している。なお、上記申告書には、「申告期限後3年以内の分割見込書」が添付されていた。
  • ロ 請求人ら及び弟Gは、上記(3)のロのとおり遺産分割協議が成立したとして、平成26年2月18日、別表1の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求書をそれぞれ提出して、各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
     なお、本件各更正の請求では、兄Eと弟Gの両名が、それぞれ相続した本件宅地238.38平方メートルのうちの119.19平方メートルを、本件特例に規定する特定居住用宅地等(以下、単に「特定居住用宅地等」という。)として選択している。
  • ハ 原処分庁は、本件各更正の請求に対し、平成27年4月6日付で、弟Gの相続した本件宅地のうち本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のみが特定居住用宅地等に該当し、兄Eの相続した本件建物の敷地の全てと、弟Gの相続した本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地については、本件特例を適用することができないなどとして、請求人ら及び弟Gに対して、本件各更正の請求の一部を認容した上で、別表1の「更正処分」欄のとおり各更正処分をした。
  • ニ 請求人ら及び弟Gは、平成27年6月3日、上記ハの各更正処分に不服があるとして、それぞれ異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月31日付で、有価証券の評価額に計算誤りがあったなどとして、別表1の「異議決定」欄のとおり、上記各更正処分の一部をいずれも取り消す旨の異議決定をした(以下、当該異議決定により、その一部がいずれも取り消された後の各更正処分を「本件各更正処分」という。)。
  • ホ 請求人ら及び弟Gは、平成27年9月30日、本件各更正処分に不服があるとしてそれぞれ審査請求をし、同年10月20日、兄Eを総代として選任する旨を届け出た。
  • ヘ 弟Gは、平成28年6月○日に死亡したため、公正証書遺言に基づいてその財産及び負債の一切を相続した兄Eが、国税通則法第106条《不服申立人の地位の承継》第1項の規定により、弟Gの審査請求人の地位を承継した。

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2 争点

本件宅地全体(本件宅地のうち、本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地で、弟Gの相続した分以外の部分)に本件特例を適用することができるか否か。

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3 主張

(1) 請求人ら

次のことから、兄E及び弟Gが本件相続により取得した本件宅地の全体が特定居住用宅地等に該当し、本件特例が適用される。

  • イ 1弟Gは、○○○○の認定を受けており、○○ではないため、本件被相続人に保護されていた立場にあり、2兄Eは、本件被相続人及び弟Gの面倒を見ていた。また、3請求人らの父(平成12年7月死亡)と母(本件被相続人)は、将来、兄Eに弟Gの面倒を見てほしいと望んで二世帯住宅(本件建物)を建てており、兄Eは、両親の遺志に沿うつもりであった。
     本件特例の立法趣旨は、事業又は居住の用に供されていた宅地等のうち最小限必要な部分については、相続人等の生活基盤維持のため欠くことができないものであって、その処分に相当の制約を受けるのが通常であることから、このような財産について評価上所要のしんしゃくを加えることとしたものであり、その立法趣旨からすると、本件特例は、原則として、対象となる宅地等を生活の基盤とし、両親の面倒を見て、当該宅地等を子供や子孫に継承していく相続人を適用対象としていると考えられる。
     この考えに、上記2及び3の事情を併せれば、本件特例の適用対象者は兄Eである。他方で、措置法第69条の4第3項第2号イに規定する被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者として、上記1のような○○○○がある者を想定しているとは考えられない。
  • ロ 具体的には、次のとおり判断すべきである。
    1. (イ) 措置法第69条の4第1項に規定する「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」について
       本件建物は、次のとおり、本件被相続人又は本件被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた家屋であり、当該家屋の敷地として利用されていた本件宅地は、その全体が措置法第69条の4第1項に規定する「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当する。
      • A 本件建物について、本件建物の1階部分と2階部分を区分せず、1棟の建物として考えれば、本件建物は本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に該当する。
      • B 所得税基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30国税庁長官通達)2−47《生計を一にするの意義》は、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、同一の家屋に起居する親族は生計を一にするものとする旨定めており、家族は経済生活単位であり、同一の生活共同体であることから、二世帯住宅に居住している親子も生計を一にするとみなされる。
         弟Gは、本件被相続人や兄Eの保護の下で心安らかな生活が維持されているのであり、家族として同一の生活共同体に属していると考えるのが妥当である。したがって、兄Eは、本件被相続人と生計を一にしていたものとみなされる。
         そうすると、本件建物の1階部分は本件被相続人の居住の用に、本件建物の2階部分は本件被相続人と生計を一にしていた兄Eの居住の用にそれぞれ供されていたことから、本件建物は、本件被相続人又は本件被相続人と生計を一にしていた親族の居住の用に供されていた家屋に該当する。
    2. (ロ) 措置法第69条の4第3項第2号イに規定する「親族」について
       措置法第69条の4第3項第2号イに規定する親族に該当するか否かの判断は、上記(イ)のAと同様に、本件建物の1階部分及び2階部分を区分せず、1棟の建物と考えて行うべきである。そうすると、弟G及び兄Eは、本件相続の開始の直前において、本件被相続人の居住の用に供されていた家屋(本件建物)に居住していた者であり、本件相続の開始時から本件相続に係る相続税の申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該家屋に居住していることから、同号イに規定する親族に該当する。
  • ハ 本件通達のなお書について
     また、次のとおり、本件通達のなお書の取扱いからみても、本件各更正処分は妥当性を欠いている。
    1. (イ) 弟Gは本件被相続人と同居していたが、これは、弟Gが○○ため本件被相続人が同居して保護していたものであり、仮に、弟Gが健康であったならば、決して親と同居することはなく、本件建物の他の独立部分か、本件宅地以外の他の場所に居住していたはずである。
    2. (ロ) 上記(イ)を前提にすれば、弟G及び兄Eは、本件被相続人が居住していた独立部分以外の独立部分に居住しており、弟G及び兄Eがそれぞれ本件宅地を相続により取得していることになるので、本件通達のなお書の取扱いによれば、本件宅地の全体が特定居住用宅地等に該当することとなる。

(2) 原処分庁

次のことから、本件宅地のうち、弟Gの取得した本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のみが特定居住用宅地等に該当し、これを超える部分に本件特例を適用することはできない。

  • イ 1本件建物は、本件相続の開始の直前において、その1階部分を本件被相続人(持分100分の25)及び弟G(持分100分の75)が、2階部分を兄Eがそれぞれ区分所有していること、2兄Eは、原処分庁所属の調査担当者に対して、本件建物の1階部分には本件被相続人及び弟Gが、2階部分には兄Eが、それぞれ居住している旨申述し、また、本件被相続人と兄Eの家族とは生計を一にしておらず、本件被相続人が自ら生活費を負担していた旨申述していること、3本件建物の1階部分と2階部分に係る水道、ガス及び電気に係る各契約並びにそれらの料金支払が別々であること、以上によれば、本件被相続人は、兄Eと生計を一にしているとは認められない。したがって、本件宅地のうち、本件被相続人の居住の用に供されていた家屋の敷地である「本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地」のみが、措置法第69条の4第3項第2号に規定する「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」に該当する。
  • ロ 次に、本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のうち、措置法第69条の4第3項第2号イないしハに規定する要件を満たす親族が取得した部分はいずれか、すなわち、弟G及び兄Eの取得した持分が特定居住用宅地等に該当するか否かについてみると、次のとおり、本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のうち弟Gの取得した部分は特定居住用宅地等に該当するが、兄Eの取得した部分は特定居住用宅地等に該当しない。
    1. (イ) 措置法第69条の4第3項第2号イに規定する要件について
       本件被相続人及び弟Gが本件建物の1階部分に居住し、兄Eが本件建物の2階部分に居住していたことから、弟Gは、措置法第69条の4第3項第2号イに規定する要件である「被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者」に該当するが、兄Eはこれに該当しない。そして、弟Gは、本件相続に係る遺産分割協議によって、本件宅地のうち2分の1を取得し、本件相続の開始時から本件相続に係る相続税の申告期限まで引き続き当該部分を有し、かつ、本件建物の1階部分に居住していたことから、弟Gの取得した本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地は、特定居住用宅地等に該当する。
    2. (ロ) 措置法第69条の4第3項第2号ロに規定する要件について
       措置法第69条の4第3項第2号ロは、被相続人の親族(当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者に限る。配偶者を除く。)が相続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋(当該相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがない者である旨等を規定しているところ、兄Eは、本件相続の開始前3年以内に本件建物の2階部分を所有し、当該部分に居住していたことから、同号ロに規定する要件を満たしていない。
    3. (ハ) 措置法第69条の4第3項第2号ハに規定する要件について
       措置法第69条の4第3項第2号ハは、被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等を当該親族が取得し、継続して居住の用に供している場合を規定しているところ、兄Eは、本件建物の2階部分に居住しており、上記イのとおり、本件被相続人と生計を一にしているとは認められないことから、同号ハに規定する要件を満たしていない。
  • ハ 請求人らの主張について
    1. (イ) 請求人らの主張する上記(1)のイの1ないし3の事情は、本件特例の適用の可否に何ら影響を与えるものではない。
    2. (ロ) また、弟Gに○○○○がなければ独立して生活しており、本件被相続人と同居することもなかったという事情があったとしても、本件相続の開始の直前において、弟Gが措置法第69条の4第3項第2号イに規定する本件被相続人と同居していた親族ではないと解釈できる規定等は見当たらない。

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4 判断

(1) 本件特例の概要等

  • イ 本件特例に関する規定は別紙2のとおりであり、相続開始直前において、被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(被相続人等)の居住の用に供されていた宅地等であって(措置法第69条の4第1項及び第3項並びに措置法施行令第40条の2第2項。別紙2の1ないし3参照)、下記(イ)ないし(ハ)に掲げた措置法第69条の4第3項第2号の要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(配偶者を除く。)が相続により取得した場合には、当該宅地等は特定居住用宅地等に該当し、限度面積要件を満たすものに限り、小規模宅地等として相続税の課税価格に算入すべき当該宅地等の価額を80%減額するというものである。
     これは、小規模宅地等については、相続人等の生活基盤の維持のために欠くことのできないものであって、相続人等において事業の用又は居住の用を廃してこれを処分することに相当の制約を受けることが通常であることから、相続税の課税上特別の配慮を加えることとしたものである。
    1. (イ) 措置法第69条の4第3項第2号イに規定する要件
      1相続開始の直前において、当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族が、2相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、3当該家屋に居住していること
    2. (ロ) 措置法第69条の4第3項第2号ロに規定する要件
      1相続開始の直前において、当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族が無く、2同居していない親族が、相続開始前3年以内に日本国内にその者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがなく、かつ、3相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること
    3. (ハ) 措置法第69条の4第3項第2号ハに規定する要件
      1相続開始の直前において、当該被相続人と生計を一にする親族の居住の用に供されていた宅地等で、2生計を一にしていた親族が、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、3相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること
  • ロ なお、上記イにいう「生計を一にしていた」とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の資を共通にしている場合をいうものと解され、その判断は社会通念に照らして個々になされるべきである。

(2) 検討

  • イ 被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲(本件宅地のうち本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地が、本件特例を適用し得るか否か)について
    1. (イ) 上記(1)のイのとおり、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の範囲は、相続開始直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族(被相続人等)の居住の用に供されていた宅地等に限られる。
    2. (ロ) そこで、本件における上記(イ)の「被相続人等」の居住の用に供されていた宅地等の範囲について検討するに、本件建物は、1階部分と2階部分がそれぞれ区分登記され(上記1の(3)のニの(イ))、玄関も別々で1階と2階を直接行き来することのできる内階段等もなく、日常生活に必要な台所、浴室、トイレ等の設備も別々に備え付けられていて(同ニの(ハ)のA)、各階が独立して生活できる構造になっており、実際の利用状況についても、1階部分は本件被相続人及び弟Gが居住し、2階部分は兄Eが居住していた(同(ハ)のB)。
       また、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件建物に係る電気、ガス及び水道に係る契約は、1階部分及び2階部分が別々に契約され、本件相続の開始前の1階部分の契約者は本件被相続人、2階部分の契約者は兄Eであり、使用料は、契約者がそれぞれ支払っていたこと、上記使用料以外の生活費についても、基本的には、本件被相続人と兄Eが、各自に係る費用をそれぞれ負担していたことが認められる。
    3. (ハ) 上記(ロ)によれば、まず、本件被相続人の居住の用に供していた宅地については、本件宅地のうち、本件被相続人が居住していた本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地であると認められる。
       続いて、残る本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地についてみるに、兄Eは2階部分に居住していたところ、上記(ロ)のとおり、2階部分は、本件被相続人の居住していた1階部分とは構造上明確に区分されている状況にあって、兄Eと本件被相続人は、水道光熱費のほか、基本的な生活費の負担を各自が行っていたというのである。これらの事情を併せれば、兄Eと本件被相続人とは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の資を共通にしていたとは認められず、兄Eの当審判所に対する答述ないし回答の内容、具体的には、1本件被相続人が、平日は、自ら費用負担した給食サービスを利用する一方で、週末は、兄Eの妻が調理したものを食しており、その材料費は兄Eが支払っていたこと、2本件被相続人が、晩年入退院を繰り返すようになってからは、入退院時の送迎及び入院中の洗濯などの身の回りの世話は、兄E及びその妻が行い、治療費については本件被相続人が自ら支払う一方で、送迎に必要な費用は兄Eが支払っていたことなどを前提としても、上記認定は左右されない。
       よって、本件被相続人と兄Eが生計を一にしていたとは認められず、兄Eは「被相続人等」に該当しないから、本件宅地のうち、本件建物の2階部分の敷地に相当する宅地は、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等には当たらない。
  • ロ 特定居住用宅地等に該当するか(兄Eに本件特例を適用し得るか)否かについて
    1. (イ) 上記(1)のイのとおり、特定居住用宅地等として本件特例の適用を受けるには、親族において、措置法第69条の4第3項第2号イないしハに規定する要件のいずれかを満たす必要がある。
    2. (ロ) この点、弟Gについてみると、弟Gは、本件相続が開始するまで、本件被相続人と共に本件建物の1階部分に居住し、本件相続が開始した後も平成28年6月○日に亡くなるまで、本件建物の1階部分に引き続き居住していたから(上記1の(3)のニの(ハ)のB及び(4)のヘ)、措置法第69条の4第3項第2号イに規定する者に該当する(上記(1)のイの(イ)参照)。
    3. (ハ) 次に、兄Eについて検討する。
      • A 措置法第69条の4第3項第2号イは、被相続人の居住の用に供されていた家屋に被相続人と同居していた親族であることを要件とするところ(上記(1)のイの(イ)の1)、被相続人が共同住宅の独立部分の一を居住の用に供していた場合には、当該独立部分のみが上記「家屋」に当たると解される。なお、本件通達はこれと同旨の定めである(別紙2の5参照)。
         そして、上記イの(ロ)のとおり、本件建物は、1階部分と2階部分がそれぞれ区分登記され、構造上も各々別々に生活できる設備・構造を備え、現実の生活も別々に営まれていたから、本件被相続人の居住の用に供されていた「家屋」は、独立部分すなわち本件建物の1階部分に限られ、当該独立部分以外の独立部分(2階部分)に居住していた兄Eは、同居していた親族に該当せず、措置法第69条の4第3項第2号イの要件を満たさない。
      • B また、兄Eは、本件建物の2階部分を区分所有し、そこに居住していたのであるから(上記1の(3)のニの(イ)及び(ハ)のB)、措置法第69条の4第3項第2号ロの要件(上記(1)のイの(ロ)の2)を満たさない。
      • C さらに、上記イの(ハ)のとおり、兄Eは、本件被相続人と生計を一にしていた親族に該当しないので、措置法第69条の4第3項第2号ハの要件(上記(1)のイの(ハ)の1)を満たさない。
      • D したがって、兄Eは、措置法第69条の4第3項第2号に規定する者に該当せず、本件特例を適用することはできない。
  • ハ 小括
     以上のとおりであるから、本件宅地については、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等である本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のうち、措置法第69条の4第3項第2号イの要件に該当する部分である弟Gの相続した2分の1(上記1の(3)のロ)のみが、特定居住用宅地等として本件特例の適用対象となり(措置法施行令第40条の2第7項)、その他の部分については本件特例を適用することができない(別図参照)。

(3) 請求人らの主張について

  • イ 請求人らは、本件建物を1階部分と2階部分に区分せずに1棟の建物と考えれば、本件建物は、その全部が本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に該当し、兄Eは本件被相続人と生計を一にしていたものとみなされるし、本件相続開始の直前において、本件被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者にも該当する旨主張する。
     しかしながら、上記(2)のロの(ハ)のAのとおり、被相続人が共同住宅の独立部分の一を居住の用に供していた場合には、当該独立部分のみが、措置法69条の4第3項第2号イに規定する家屋に当たると解されるところ、区分せずに考えるということ自体が、事実を離れたものである。また、本件特例の趣旨(上記(1)のイ)や、請求人らの主張する事情(上記3の(1)のイの1ないし3)をもって、請求人らの考えに沿う解釈が許容されるものでもない。
  • ロ また、請求人らは、弟Gが健康であったならば親と同居することはなかったから、本件通達のなお書に基づいて、兄Eに本件特例を適用すべきである旨主張する。
     しかしながら、現実には、本件被相続人の居住の用に供していた家屋である本件建物の1階部分において、弟Gが本件被相続人と起居を共にしている(上記1の(3)のニの(ハ)のB)ところ、本件通達のなお書は、当該被相続人の配偶者又は当該被相続人が居住の用に供していた独立部分に共に起居していた当該被相続人の相続人がいない場合に限り、措置法第69条の4第3項第2号イに該当する者と認める旨定めている(別紙2の5参照)。そうである以上、兄Eは、本件通達のなお書が適用される者には当たらず、仮定の事情を持ち出して本件通達のなお書を適用することもできない。
  • ハ したがって、請求人らの主張は、いずれも理由がない。

(4) 本件各更正処分の適法性について

争点以外の課税要件及び税額計算の基礎となる金額等について、請求人らは争わず、当審判所の調査の結果によっても、違法ないし不当な点は認められない。そして、上記(2)のハのとおり、弟Gの相続した本件建物の1階部分の敷地に相当する宅地のみを本件特例の適用対象として本件宅地の価額を計算すると、別表2のとおりとなり、当該価額に基づき、請求人ら及び弟Gの本件相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「異議決定」欄の課税価格及び納付すべき税額と同額となる。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(5) 結論

よって、本審査請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとする。

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