(平成28年12月20日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、青果物卸売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、これまで消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の免税取引とされていたアメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)軍隊の調達機関に対する青果物の販売について、合衆国軍隊の調達機関と請求人との取引の間に合衆国の法人が介在する取引形態へと変更された以降の取引についても消費税等の免税取引としていたところ、原処分庁が、当該取引は合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関との取引によるものではなく、また、合衆国軍隊の権限のある官憲の発給する証明書の保存がないから、消費税等の免税取引に該当しないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該取引は合衆国軍隊の公認調達機関との取引であるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

  • イ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「安保条約」という。)第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(以下「日米地位協定」という。)の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律(以下「所得税等特例法」という。)第1条《目的》は、日米地位協定を実施するため、消費税法等の特例を設けることを目的とする旨規定している。
  • ロ 所得税等特例法第2条《定義》第2項は、所得税等特例法において「合衆国軍隊」とは、安保条約に基づき日本国にある合衆国の陸軍、空軍及び海軍をいう旨規定している。
  • ハ 所得税等特例法第7条《消費税法の特例》第1項は、消費税法第2条《定義》第1項第4号に規定する事業者が、次の各号に掲げる者に対し当該各号に定める用途に供される同条第1項第9号に規定する課税資産の譲渡等(以下「米軍用途免税取引」という。)を行った場合には、消費税を免除する旨規定している。
    1. (イ) 合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関
       合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関が合衆国軍隊の用に供するために購入するもの(第1号)
    2. (ロ) 個人契約者又は法人契約者
       当該個人契約者又は法人契約者がその締結した建設等契約に係る建設、維持又は運営のみの事業の用に供するために購入するもので合衆国軍隊の用に供されるもの及び当該事業を行うためにこれらの者が購入するもので政令で定めるもの(第2号)
  • ニ 所得税等特例法第7条第2項は、同条第1項の規定は、当該課税資産の譲渡等が同項各号に規定する用途に供されたものであることにつき、政令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない旨規定している。
  • ホ 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律施行令(以下「所得税等特例法施行令」という。)第2条《消費税の免税手続》は、所得税等特例法第7条第2項に規定する政令で定めるところにより証明されたものでない場合は、同条第1項に規定する事業者が同法第2条第2項に規定する合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書で当該課税資産の譲渡等が同法第7条第1項各号に規定する用途に供されたものであることを証明するものを当該課税資産の譲渡等を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しない場合とする旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、昭和48年5月○日に、本店所在地をa市b町○-○とし、青果物卸売業を営むことを目的として設立された法人である。
  • ロ Eは、合衆国の○○などを担当する○○で、その下部組織として事業部門のEサポートを有している。そして、Eサポートは、日本の太平洋エリアを管轄する部署である、Eパシフィックを合衆国○○地区(以下「F地区」という。)に有している(以下、単にEとした場合は、Eサポート及びEパシフィックを含む。)。
  • ハ 請求人は、Eパシフィックを窓口として、Eへ直接青果物を販売する取引を行っていたところ、2010年(平成22年)10月1日にEと当該取引を2010年(平成22年)10月1日から2013年(平成25年)9月30日まで延長する契約を締結した。
  • ニ G社は、1973年(昭和48年)8月○日に、合衆国d州「e市○-○」に設立登記された、食料品全般及び日用雑貨全般の販売を行う法人であり、合衆国内においては、飲食店など様々な顧客に対して、食料品の販売及び配達を行っている。
  • ホ G社は、請求人がEと直接青果物の取引を行っていた時は、請求人を含め国内の青果物卸売業者がF地区内の倉庫に搬入した青果物をg県内に所在する合衆国軍隊の基地内の各施設へ搬送する業務を行っていた。
  • ヘ Eは、2011年(平成23年)2月15日付の文書により、請求人とも行っていた複数の青果物○○契約の取引を終了し、1社との長期契約を結ぶ旨を請求人に通知し、2011年(平成23年)6月9日、食料品全般をG社へ一括して発注する元請契約(契約番号○○○○)を締結した。
  • ト 請求人は、上記への取引形態の変更により、平成23年7月1日から平成27年3月31日までの間、Eが調達する青果物について、供給業者として、元請業者であるG社に対して青果物を販売する取引(以下「本件取引」という。)を行った。
  • チ 請求人は、平成27年8月28日、本件取引が消費税の免税取引に該当することを証明するものとして、原処分調査時に請求人からの照会を受けて、Eパシフィック、G社がそれぞれ作成した次の各書面を異議申立書に添付して異議審理庁に提出した。
    1. (イ) Eパシフィックが関係者宛作成した、2015年(平成27年)6月24日付の「MEMORANDUM(覚書)」(以下「E覚書」という。)
       E覚書には、1G社は現在、g県内の合衆国軍隊及びその職員に食料品を提供するためにEと元請契約(契約番号○○○○)を結んでおり、契約は2016年(平成28年)2月16日まで有効である、2この契約により輸入され調達された商品は、合衆国軍隊職員専用のものであり、又は合衆国軍隊又はその職員によって最終的に使用されるものである、3この契約は、日米地位協定(SOFA)の減税条項や日本と米国政府間にある補足協定等に該当する、4この契約は一般の商用のために使用されるものではない旨記載されている。
    2. (ロ) G社が請求人宛作成した、2015年(平成27年)7月6日付の「MEMORANDUM(覚書)」(以下「G社覚書」という。)
       G社覚書には、上記(イ)の覚書に付随して、1G社が請求人から購入する全ての青果物が契約番号○○○○の元請契約に基づくものであることを証明するものである、2購入する全ての青果物は、この契約に定められた要件を満たすものである、3(G社が)2011年(平成23年)8月から2015年(平成27年)4月までの間に請求人から購入した全ての商品は、gの合衆国軍人及び軍事施設に所属する合衆国国民のためだけに使用されるものである、4この契約は一般の商用のために使用されるものではない旨記載されている。
  • リ 請求人は、平成28年11月18日、当審判所に対し新たな証拠として、Eサポートが発給した、請求人が供給業者、G社が元請業者となって行った、2011年(平成23年)7月1日から2016年(平成28年)9月30日までの間の取引に係る物資につき、合衆国軍隊が最終的に使用するために、合衆国軍隊又はその公認調達機関によって調達されたものである旨を証した「Consumption Tax Exemption Form(消費税免税証明書)」(以下「本件免税証明書」という。)の写しを提出した。本件免税証明書には、2016年(平成28年)11月8日付でEサポートのContracting Officer であるHの署名がある。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成23年4月1日から平成24年3月31日まで、平成24年4月1日から平成25年3月31日まで、平成25年4月1日から平成26年3月31日まで及び平成26年4月1日から平成27年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成24年3月課税期間」、「平成25年3月課税期間」、「平成26年3月課税期間」及び「平成27年3月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、本件取引に係る売上金額を免税売上として、いずれも法定申告期限までに申告した。
  • ロ 原処分庁は、平成27年6月30日付で、G社は、所得税等特例法第7条第1項に規定する合衆国軍隊又は合衆国軍隊の公認調達機関に該当しないこと、また、所得税等特例法施行令第2条に規定する合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書の保存がないことを理由に、請求人が免税売上としていた本件取引に係る売上金額を本件各課税期間の消費税の課税標準に加算するなどした、本件各課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び本件各課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をした。
  • ハ 請求人は、平成27年8月28日、本件各更正処分等を不服として、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月26日付で、異議申立てを棄却する旨の異議決定をし、同月27日、その決定書謄本を請求人に送達した。
  • ニ 請求人は、平成27年12月25日、異議決定を経た後の本件各更正処分等になお不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

本件取引について、所得税等特例法第7条第1項の免税規定の適用を受けることができるか否か。

3 主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人が本件取引を行っているG社は、合衆国軍隊の公認調達機関ではない。
 合衆国軍隊の公認調達機関とは、合衆国政府の予算によって、合衆国軍隊全体のために契約を締結し、軍用物資を調達することを専管する軍の機関を指称する。
 G社は、食料品全般の販売を取り扱う法人として合衆国d州に登記されていること、また、G社のマネージャーであるJ氏がG社は合衆国内においてはあらゆる顧客に対して営業活動を行っている旨申述していることから、「軍用物資を調達することを専管する軍の機関」とはいえず、合衆国軍隊の公認調達機関に該当しない。
(1) 請求人が本件取引を行っているG社は、合衆国軍隊の公認調達機関である。
 Eは、○○、つまり合衆国軍隊そのものである。
 また、請求人がG社へ販売している商品(青果物)は、E覚書及びG社覚書により、合衆国軍隊や合衆国軍隊の担当者が排他的に使用するものであることが裏付けられている。
 すなわち、合衆国軍隊そのものであるEから、合衆国軍隊の用に供する物資の調達を請け負っているG社は合衆国軍隊の公認調達機関であると考えられる。
(2) 本件取引が消費税の免税取引に該当することを証明するものとして、請求人が提示した各覚書は、所得税等特例法第7条第2項及び所得税等特例法施行令第2条に規定する証明書に該当しない。
 G社のような米国法人を合衆国軍隊の公認調達機関と判断する法令等の規定はなく、また、G社のような米国法人が発給した書類について、所得税等特例法第7条第2項及び所得税等特例法施行令第2条に規定する合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書として取り扱う法令の規定はないため、G社覚書は証明書に該当しない。
 したがって、所得税等特例法施行令第2条に規定する合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書を保存しているとは認められない。
(2) 本件取引が消費税の免税取引に該当することを証明するものとして、請求人が提示した各覚書は、所得税等特例法第7条第2項及び所得税等特例法施行令第2条に規定する証明書に該当する。
 所得税等特例法第7条の趣旨は、日本に駐留する合衆国軍隊が、自ら使用し他へ転売することのない商品を日本国内において購入した場合には消費税を課さないということであると考えられる。
 E覚書及びG社覚書は、請求人がG社へ販売している商品(青果物)が合衆国軍隊や合衆国軍隊の担当者が排他的に使用するものであることを証明するものであるから、所得税等特例法第7条の趣旨を踏まえるならば、同条第2項及び所得税等特例法施行令第2条に規定する証明書に該当すると認められる。
(3) 本件免税証明書は、平成28年11月8日付で新たに発行されたものであることからすれば、これをもってしても所得税等特例法施行令第2条に規定する「保存しない場合」に当たることは、明らかである。 (3) Eサポートにより新たに発行された、本件免税証明書は、所得税等特例法施行令第2条に規定する「合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書」であり、同条の「事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存」されているものと考える。

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4 審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 所得税等特例法第7条第1項は、米軍用途免税取引を行った場合には、消費税を免除する旨規定しているが、同条第2項は、当該課税資産の譲渡等が当該用途に供されたものであることにつき政令で定めるところにより証明されたものでない場合には、同条第1項を適用しない旨規定している。そして、同条第2項の委任を受けた所得税等特例法施行令第2条は、事業者が、合衆国軍隊の権限ある官憲の発給する証明書で米軍用途免税取引であることを証明するもの(以下「免税証明書」という。)を、米軍用途免税取引を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、所定の方法で保存すること(以下「保存要件」という。)を手続要件としているのであるから、米軍用途免税取引を行ったか否かにかかわらず、保存要件を欠く場合には、所得税等特例法第7条第1項の適用を受けることはできない。
  • ロ 請求人は、本件取引が免税取引に該当することを証明するものとして、上記1の(3)のチのとおり、異議審理庁にE覚書及びG社覚書を提出しているところ、これらの覚書はそれぞれ平成27年6月24日付及び同年7月6日付で作成されたものと認められる。また、上記1の(3)のリのとおり、請求人が当審判所に平成28年11月18日に写しを提出した本件免税証明書は、同月8日に署名されたものであると認められる。
  • ハ ところで、上記1の(3)のトのとおり、本件取引は平成23年7月1日から平成27年3月31日の間に行われており、請求人の本件取引を行った日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日は、それぞれ平成24年6月1日、平成25年6月1日、平成26年6月1日、平成27年6月1日となるが、E覚書及びG社覚書が免税証明書に該当するかを措き、これらの覚書が作成された日付は上記ロのとおり、それぞれ平成27年6月24日及び同年7月6日であるから、保存要件を満たしているとはいえない。また、本件免税証明書についても、その証明日は上記ロのとおり平成28年11月8日であるから、保存要件を満たしているとはいえない。
  • ニ 以上によれば、本件取引は、保存要件を満たしていないことから、所得税等特例法第7条第1項の適用を受けることはできない。

(2) 請求人の主張について

請求人は、Eから物資の調達を請け負っているG社は合衆国軍隊の公認調達機関であり、また、提出した各覚書に加え、本件免税証明書の発給を受けたことを根拠に保存要件を満たしており、本件取引は、所得税等特例法第7条第1項の適用を受けることができる旨主張する。
 しかしながら、本件取引が米軍用途免税取引に当たるかどうかはともかく、本件取引においては、免税証明書の保存要件を満たしておらず、同項の適用を受けることができないのは上記(1)のロないしニのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件各更正処分の適法性について

本件取引が、所得税等特例法第7条第1項の適用を受けることができないことは、上記(1)のロないしニのとおりである。これに基づき本件各課税期間における消費税等の納付すべき税額を算出すると、消費税等の額は別表のとおりとなり、当審判所においても、「更正処分等」欄の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄の金額と同額と認められる。
 なお、本件各更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件取引に係る売上金額を本件各課税期間の消費税の課税標準額に加算して行った本件各更正処分は適法である。

(4) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、本件各更正処分は適法であり、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、本件各課税期間の過少申告加算税の額については、計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所においても本件各課税期間の過少申告加算税の額は、本件各賦課決定処分と同額であると認められる。
 したがって、本件各賦課決定処分は適法である。

(5) 結論

よって、審査請求は理由がないから、棄却することとする。

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