(平成29年1月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、ゴルフ会員権の譲渡により損失の金額が生じたとして、これを他の所得と損益通算して平成25年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の確定申告をしたところ、原処分庁が、当該ゴルフ会員権が、請求人が当初取得したゴルフ会員権との間に同一性が認められないことを理由に、当初取得したゴルフ会員権について支払った登録料等の取得費該当性を否認して更正処分等をしたのに対し、請求人が原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙のとおりである。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成9年9月4日、G社に対し、入会登録料○○○○円(以下「本件登録料」という。)及び入会保証金(預託金)○○○○円(以下「本件預託金」という。)を支払って、同社が経営する預託金会員制ゴルフクラブであるHクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の会員権(以下「本件旧会員権」という。)を取得した。
  • ロ G社は、平成○年2月○日、J地方裁判所から民事再生手続開始決定を受け、その再生手続において同年7月○日に同裁判所から認可され、同年8月○日に確定した再生計画(以下「本件再生計画」という。)には、要旨、次の定めがある。
    • (イ) 営業譲渡
      • A G社は、同社が所有するゴルフ場施設(以下「本件ゴルフ場」という。)の営業を、再生計画認可決定確定日(以下「本件確定日」という。)が属する月の翌月1日(以下「本件実行日」という。)をもって、K社の100%出資の関連会社であるL社に譲渡する。
         譲渡の対象は、本件ゴルフ場の営業及びG社が保有する資産(ただし、現預金、未収入金及び固定資産を除く。)の全部とし、L社は、G社の一切の債務を承継しない。
      • B L社は、G社と本件ゴルフクラブの会員契約を締結していた者(以下、「本件旧会員」といい、当該会員契約を「本件旧会員契約」という。)との間で、新規に会員契約(以下「本件新会員契約」という。)を締結することとし、本件旧会員契約を承継しない。
      • C L社は、本件旧会員のうち、L社による本件ゴルフ場の運営が開始した後も会員としての利用を希望する旨を本件確定日から2か月以内に書面で申し込んだ者で、本件実行日前日現在、本件旧会員契約に基づき有効な会員資格を有し、年会費の未納がない者については、全て、本件新会員契約の締結の申込みがあったものとみなして、同契約を締結し、遅滞なく新会員権を発行する。
         なお、会則、規約、諸規則は、本件再生計画に定めるほかは、本件ゴルフクラブのそれを基本的に踏襲し、年会費も従前と同額とする。
      • D 本件新会員契約に係る預託金は○○○○円とするが、上記Cにより本件新会員契約を締結した者からは、入会金その他の金員は徴収しない。
    • (ロ) 権利変更
      • A 本件旧会員
        • (A) L社は、本件旧会員のうち、上記(イ)のCにより本件新会員契約を締結した者(以下「本件新会員」という。)に対し、本件確定日から90日以内を目途に、入会金その他の金員を徴収することなく、預託金額面○○○○円(従来の額面○○○○円の2.22%)の新会員権を発行する。
           なお、G社は、L社に対し、L社が当該預託金について将来負担することとなる返還債務に係る精算金を支払う。
        • (B) G社は、本件旧会員のうち、本件新会員契約を締結せず、退会することとした者(以下「本件退会会員」という。)に対しては、G社に対する預託金返還請求権に係る確定した再生債権元本額に1.66%を乗じた金額を、本件確定日から90日以内に一括して支払う。
      • B 債務免除等
         G社は、上記Aの(A)又は(B)の履行がされた場合、本件旧会員が有する預託金返還請求権の残元本及び遅延損害金等の支払債務を免除される。
         また、上記Aの(B)の履行がされた場合、本件退会会員が有するゴルフ場の施設利用権は消滅する。
    • (ハ) K社グループによる資金支援
       K社又はその関連会社は、G社に対し、次の資金支援を行う。
      • A 本件ゴルフ場に設定された担保権の抹消資金の融資
      • B 上記(ロ)のAの(A)の精算金の原資の融資
      • C 上記(ロ)のAの(B)の弁済金その他の再生債権弁済資金の融資
      • D 運転資金・設備投資資金の支援
  • ハ L社及びM社が本件旧会員に宛てた平成○年8月○日付の「ご挨拶および入会説明会開催のご案内」と題する書面には、要旨、次の記載がある。
    • (イ) L社及びM社を含むK社グループは、本件ゴルフ場の運営に携わるが、本件旧会員に対する預託金返還債務を含む従来の会員契約上の地位は、本件再生計画に基づき、一切承継していない。
    • (ロ) 平成○年9月○日までに、L社との間で本件新会員契約を締結した場合には、本件新会員契約に従って新たな預託金の支払をすることなく、一口○○○○円の新会員権(預託金は平成○年10月○日以降、退会時に返還する。)を発行するとともに、当該預託金返還債務はL社が負う。
  • ニ G社は、平成○年9月○日に、その商号をN社に変更し(以下でも、従前どおり「G社」という。)、同日、L社との間で、本件再生計画に従い、本件ゴルフ場の営業をL社に譲渡する旨の契約(以下「本件営業譲渡契約」といい、当該営業譲渡を「本件営業譲渡」という。)を締結した。
     本件営業譲渡契約においては、L社は、G社の一切の債務、G社と本件旧会員との本件旧会員契約及びG社と従業員との雇用契約を譲り受けない旨が定められている。
  • ホ 請求人は、平成○年9月27日付で、L社に対し、「個人会員入会申込書」を提出し、L社が本件ゴルフ場において経営する預託金会員制ゴルフクラブへの入会を申し込んだ。
  • ヘ L社は、平成○年11月1日付で、請求人に対し、預託金額面○○○○円の会員権(以下「本件新会員権」という。)を発行し、請求人はこれを取得した。
  • ト 請求人は、平成25年12月13日、P社に対し、本件新会員権を代金○○○○円で売却するとともに、あっせん手数料として○○○○円を支払った。
  • チ 請求人は、平成26年3月12日、別表の「確定申告」欄のとおり、平成25年分の所得税等の確定申告をした。
     当該申告に係る確定申告書に添付された「【平成25年分】譲渡所得の内訳書(確定申告書付表)【総合譲渡用】」には、本件新会員権の取得費として、本件登録料及び本件預託金の合計○○○○円が記載されている。
  • リ 原処分庁は、平成27年10月2日付で、本件新会員権は本件旧会員権との間に同一性が認められないことを理由に、本件登録料及び本件預託金の取得費該当性を否認して、別表の「更正処分等」欄のとおり、平成25年分の所得税等の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
  • ヌ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成27年10月15日付で異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成28年1月14日付で棄却の異議決定をした。
  • ル 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成28年2月8日に審査請求をした。

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2 争点

本件新会員権と本件旧会員権に資産としての同一性が認められるか否か。

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3 主張

原処分庁 請求人
本件再生計画において、G社は、1本件新会員に対しては、L社による預託金額面○○○○円の新会員権の発行、2本件退会会員に対しては、確定再生債権元本額に1.66%を乗じた金額の弁済により、本件旧会員の有する再生債権の残元本額等の全額の支払債務の免除を受けるとされている。
 また、本件再生計画及び本件営業譲渡契約において、L社はG社の一切の債務及び本件旧会員契約を承継しないこととされており、本件旧会員は、本件営業譲渡後の本件ゴルフ場の利用に当たっては、L社との間で本件新会員契約を締結し、新会員権を取得する必要がある。
 以上のことからすれば、本件旧会員権の預託金債権、ゴルフ場施設の優先的施設利用権(以下「プレー権」という。)は消滅し、本件旧会員契約は効力を失い、本件旧会員権は無効になったものと認められ、本件新会員権は本件旧会員権とは別個の資産であり、これらに同一性があるとは認められない。
本件旧会員権の預託金債権については、本件再生計画において、預託金額面○○○○円の新会員権の発行に際し、新たな預託金の支払は不要とされていること、当該預託金相当額については、G社がK社グループの支援を受けて、L社に精算金を支払うとされていることからすれば、実質的には本件旧会員の預託金債権に係る預託金返還債務の一部(○○○○円)が、G社からL社に引き継がれたものであり、同一性が認められる。
 また、本件旧会員権のプレー権については、本件新会員権の会則の内容、年会費の金額に変更がなく、同一性が認められる。
 さらに、本件営業譲渡後もG社が本件ゴルフ場の保有を継続し、同社が存続するとされている。
 以上の事情によれば、本件新会員権と本件旧会員権には資産としての同一性が認められる。

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4 判断

(1) 本件新会員権と本件旧会員権の資産としての同一性について

  • イ いわゆる預託金会員制ゴルフクラブのゴルフ会員権は、プレー権や預託金返還請求権を内容とする包括的な契約上の地位であり、このうちプレー権がその基本的な部分を構成するものと解されるところ、上記1の(3)のロの(イ)のB及びC並びにハのとおり、本件再生計画において、L社は、G社が本件旧会員との間で締結した本件旧会員契約に基づく契約上の地位を同社から承継せず、L社による本件ゴルフ場の運営が開始した後も引き続き会員としての利用を希望する本件旧会員が、同社に対し、その旨を書面で申し込んだ場合に限り、当該会員との間で新たに会員契約を締結して新会員権を発行する旨が定められており(なお、同ニのとおり、同再生計画に基づきG社とL社の間で締結された本件営業譲渡契約においても、L社は、G社から本件旧会員契約を譲り受けない旨が定められている。)、現に、同ホ及びヘのとおり、請求人は、本件再生計画の確定後、同再生計画の定めに従い、L社に対し、「個人会員入会申込書」を提出して同社との間で本件新会員契約を締結し、これに基づき本件新会員権の発行を受けていることからすれば、上記のとおりゴルフ会員権の中核をなすプレー権に関する部分において、本件新会員権と本件旧会員権には、資産としての同一性がないというべきである。
  • ロ また、上記1の(3)のロの(イ)のA及びニのとおり、本件再生計画及びこれに基づき締結された本件営業譲渡契約において、L社は、G社の一切の債務を承継しない旨が定められるとともに、同ロの(ロ)及びハの(ロ)のとおり、本件再生計画において、本件旧会員が有する預託金返還請求権に関しては、同会員の選択に応じて、1L社との間で本件新会員契約を締結することを選択した者については、同契約に基づく新会員権の発行を条件に、2退会することを選択した者については、本件再生計画により切り捨てられた後の預託金相当額(預託金元本の1.66パーセント)の金員の支払を条件に、G社は当該預託金の返還債務を免除される旨が定められていることからすれば、預託金返還請求権に関する部分においても、本件新会員権と本件旧会員権には、資産としての同一性がないというべきである。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、本件新会員権のプレー権に関する部分について、本件旧会員権の会則の内容、年会費の金額から変更がないことから、同一性が認められる旨主張する。
       しかし、上記イでみたとおり、本件再生計画及びこれに基づき締結された本件営業譲渡契約において、L社は、G社から本件旧会員契約を承継せず、本件ゴルフ場について引き続き会員としての利用を希望する本件旧会員との間でのみ、新たに会員契約を締結して新会員権を発行するものとされていることや、現に、請求人の本件新会員権について、同再生計画の定めに従い、新たな入会手続がとられていることにも照らすと、本件旧会員権と本件新会員権とで、会則等に変更がない(上記1の(3)のロの(イ)のC)からといって、これらのプレー権に関する部分に同一性があるということはできず、請求人の上記主張は採用することができない。
    • (ロ) 請求人は、本件新会員権の預託金返還請求権に関する部分について、本件再生計画では、預託金額面○○○○円の新会員権の発行に際し、新たな預託金の支払は不要とされていること、当該預託金相当額については、G社がK社グループの支援を受けて、L社に精算金を支払うとされていることからすれば、実質的には、本件旧会員権の預託金返還請求権に係る預託金返還債務の一部(○○○○円)が、G社からL社に引き継がれたものであり、同一性が認められる旨主張する。
       この点、上記1の(3)のロの(ロ)及びハの(ロ)のとおり、本件再生計画において、本件旧会員のうち、L社との間で本件新会員契約を締結することを選択した者については、同契約に係る預託金(○○○○円)相当額の金員を現実に支払うことなく、同契約に基づく新会員権の発行を受けることができ、G社は、L社に対し、同社が当該預託金について将来負担することとなる返還債務に係る精算金を支払う旨が定められているが、これは、本件新会員契約の締結に伴い、本来は本件新会員が支払うべき預託金相当額の金員を、顧客離れを防ぐなどの観点から、G社がいわば肩代わりすることとしたものであるとうかがわれ、上記事情をもって、本件旧会員が有する預託金返還請求権がG社からL社に引き継がれたものと評価するのは相当でないから、請求人の上記主張は採用することができない。
  • ニ 小括

    以上によれば、本件新会員権と本件旧会員権には、資産としての同一性が認められない。

(2) 本件新会員権の取得費について

本件新会員権の譲渡に係る譲渡所得の計算上控除されるべき取得費は、譲渡資産である本件新会員権と同一性が認められる資産の取得に要した金額に限られるところ、上記(1)のとおり、本件新会員権と本件旧会員権には同一性が認められないから、当該譲渡所得の計算上、本件旧会員権に係る本件登録料及び本件預託金の額(合計○○○○円)を取得費として控除することはできない。本件新会員権の取得費は、本件新会員権において預託金の金額とされている○○○○円である。

5 原処分について

本件新会員権の譲渡に係る譲渡所得の計算上控除されるべき取得費は、上記4の(2)のとおりであるから、本件旧会員権に係る本件登録料及び本件預託金の額(合計○○○○円)を取得費として控除できないとした本件更正処分は適法である。
 また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

6 その他

原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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