(平成29年7月26日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、矯正歯科医院を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成26年分の所得税及び復興特別所得税(以下、これらを併せて「所得税等」という。)並びに平成26年1月1日から平成26年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税(以下、これらを併せて「消費税等」という。)についてそれぞれ確定申告をした後、矯正診療費のうち未収となっている額を総収入金額に計上したのは誤りであったとして、所得税等及び消費税等の更正の請求をしたところ、原処分庁が、1いずれも更正をすべき理由がない旨の各通知処分を行うとともに、2上記申告において、矯正診療費の一部が総収入金額に計上されておらず、また、課税標準額にも含まれていないとして、所得税等及び消費税等の各更正処分等をしたのに対して、請求人が、上記1の各通知処分の全部の取消しを求めるとともに、上記2の各更正処分等のうち所得税等に係るものは一部の取消しを、消費税等に係るものについては全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 事業所得の総収入金額に関するもの
    • (イ) 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定している。
    • (ロ) 所得税基本通達36-8《事業所得の総収入金額の収入すべき時期》の(5)は、人的役務の提供(請負を除く。)による収入金額についての事業所得の総収入金額の収入すべき時期は、その人的役務の提供を完了した日による旨定めるとともに、人的役務の提供による報酬を期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて収入する特約又は慣習がある場合におけるその期間の経過又は役務の提供の程度等に対応する報酬については、その特約又は慣習によりその収入すべき事由が生じた日による旨定めている。
  • ロ 消費税の課税標準等に関するもの
    • (イ) 国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第7号は、消費税についての納税義務は、課税資産の譲渡等をした時に成立する旨規定している。
    • (ロ) 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第8号は、資産の譲渡等は、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう旨規定している。
    • (ハ) 消費税法第28条《課税標準》第1項は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする旨規定している。
    • (ニ) 消費税法第29条《税率》は、消費税の税率は、100分の6.3とする旨規定している。
       なお、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(平成24年法律第68号)の附則第1条は、消費税法第29条に規定する改正後の消費税の税率は、平成26年4月1日から施行する旨規定し、同法による改正前の消費税法第29条は、消費税率を100分の4とする旨規定している。
    • (ホ) 地方税法第72条の83《地方消費税の税率》は、地方消費税の税率は、63分の17とする旨規定している。
       なお、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための地方税法及び地方交付税法の一部を改正する法律」(平成24年法律第69号)の附則第1条は、地方税法第72条の83に規定する改正後の地方消費税の税率は、平成26年4月1日から施行する旨規定し、同法による改正前の地方税法第72条の83は、地方消費税の税率を100分の25とする旨規定している。
    • (ヘ) 「平成26年4月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いについて」(平成25年3月25日付課消1-9ほか4課共同による国税庁長官通達。)の2《施行日前の契約に基づく取引》は、平成26年4月1日以降に行われる資産の譲渡等について、平成26年4月1日の前日までに締結した契約に基づくものであっても、消費税法第29条に規定する改正後の消費税の税率が適用される旨定めている。
  • ハ 更正の請求に対する通知処分に係る理由附記に関するもの
    • (イ) 行政手続法第8条《理由の提示》第1項本文は、行政庁は、申請により求められた許認可等(行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分をいう。以下同じ。)を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない旨規定し、同条第2項は、同条第1項本文に規定する処分を書面でするときは、同項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
    • (ロ) 通則法第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定し、同条第4項は、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、自らの経営するa市d町○-○所在の「G歯科医院」において、歯列矯正治療等を行う歯科医師である。
  • ロ 請求人が患者に対して行う一般的な歯列矯正治療の内容等は次のとおりである。
    • (イ) 請求人は、歯列矯正治療を希望する患者に対し、治療内容等の概要を説明し、口腔内を確認した後、問診、レントゲン撮影、歯の型取り並びに顔及び口腔内の写真撮影等の精密検査を行う。
    • (ロ) 請求人は、上記(イ)の精密検査を行ってから2週間を経過した後に、同検査を行った患者に対し、患者の歯の模型及びレントゲン写真を使用し、現在の患者の口腔内の状態、治療方針、治療に使用する装置を説明する。
    • (ハ) 請求人は、上記(ロ)の説明を受け歯列矯正治療を希望した患者に対して、歯列を矯正するための装置(以下「矯正装置」という。)の装着等を行い、その後おおむね2年間にわたり、月1回の頻度で矯正装置の調整等を行い、歯列矯正が終わったと判断した時点で矯正装置を取り外し、その後の歯列の後戻りを防ぐための装置(以下「保定装置」という。)を装着する。
    • (ニ) 請求人は、保定装置の装着後、おおむね2年間にわたり、3か月から6か月に1回の頻度で保定装置の調整等を行った後に、歯列の後戻りがないと判断した時点で保定装置を取り外す。
  • ハ 請求人は、患者に対して、歯列矯正治療に係る各書面を次のとおり交付している。
    • (イ) 請求人は、上記ロの(ロ)の説明の際に、治療に係る費用及び予定の治療期間を説明し、患者が歯列矯正治療を希望した場合には、「○○規定」と題する書面に矯正診療費の金額及び予定の治療期間を記載して、患者に交付する。
       その際、請求人は、患者に対して、次回来院時に、当該書面に署名押印したものを提出するよう、また、矯正診療費の分割払を希望する場合は、当該書面に希望する分割払の年月及び金額を記入するよう併せて説明する(以下、当該書面に患者の署名押印等がされたものを「本件○○規定」といい、本件○○規定に記載された矯正診療費を「本件矯正診療費」という。)。
    • (ロ) 請求人は、患者から本件○○規定の提出を受けた後に、その患者に対して、当該患者の本件○○規定の写しを交付するとともに、「今回の治療費用等、下記の通り御請求申し上げます。」、振込先となる銀行名及び口座番号、「○○ 月 日までにお支払い下さいますようお願い申し上げます。」などの印字がされた書面に当該患者の氏名、当該患者の本件矯正診療費の金額及び交付年月日を手書きで記入したもの(以下、患者の氏名、当該患者の本件矯正診療費の金額及び交付年月日が記入されたものを「本件書面」という。)を交付する。なお、「○○・・・お願い申し上げます。」の月日を記載する部分は、空欄のまま交付している。
  • ニ 請求人は、患者から、上記ロの(イ)の精密検査を行う際の検査料を受領し、また、歯列矯正治療に係る治療費用として、本件矯正診療費とは別に、再診の都度、矯正装置及び保定装置の調整等の費用を請求し受領している。
  • ホ 請求人は、平成26年中に本件書面を交付した患者に係る本件矯正診療費の経理処理として、1同年中に本件矯正診療費の一部でも支払を受けた患者に係る本件矯正診療費については、その全額を当該患者に本件書面を交付した日付で総勘定元帳の自費診療収入勘定に計上し、2同年中に一切の支払を受けていない患者に係る本件矯正診療費については、その全額を同年中の当該自費診療収入勘定に計上しなかった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成26年分(以下「本件年分」という。)の所得税等及び平成26年1月1日から平成26年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり、いずれも法定申告期限までに申告した(以下、所得税等に係る申告を「本件所得税等申告」、消費税等に係る申告を「本件消費税等申告」といい、これらを併せて「本件各申告」という。)。
  • ロ 請求人は、本件所得税等申告において、上記(3)のホの1の自費診療収入勘定に計上した本件矯正診療費の全額を平成26年分の所得税の事業所得の総収入金額に計上した。また、本件消費税等申告においては、上記本件矯正診療費のうち消費税等を除いた額を、本件課税期間の消費税の課税標準額に算入した。
     なお、請求人は、本件年分における消費税等の経理方式については、税込経理方式を選択し適用するとともに、本件課税期間における本件消費税等申告については、簡易課税制度の適用をしていた。
  • ハ 請求人は、平成28年3月15日に、本件各申告において、平成26年中に自費診療収入勘定に計上した金額(上記(3)のホの1)のうち未収となっている額を事業所得の総収入金額及び本件課税期間に係る課税資産の譲渡等の対価の額に算入したことは誤りであり、本件各申告の納付すべき税額がいずれも過大になっているとして、別表1及び別表2の各「更正の請求」欄のとおり、所得税等及び消費税等に係る各更正の請求を行った(以下、所得税等に係る更正の請求を「本件所得税等更正請求」、消費税等に係る更正の請求を「本件消費税等更正請求」という。)。
  • ニ 原処分庁は、平成28年7月28日付で、別表1及び別表2の各「通知処分」欄のとおり、本件所得税等更正請求及び本件消費税等更正請求について、いずれも更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下、所得税等に係る通知処分を「本件所得税等通知処分」、消費税等に係る通知処分を「本件消費税等通知処分」といい、これらを併せて「本件各通知処分」という。)を行った。
     なお、本件所得税等通知処分に係る通知書(以下、「本件所得税等通知書」という。)の「処分の理由」欄には、別紙3のとおり記載されており、本件消費税等通知処分に係る通知書(以下、「本件消費税等通知書」といい、本件所得税等通知書と併せて「本件各通知書」という。)の「処分の理由」欄には、別紙4のとおり記載されている。
  • ホ さらに、原処分庁は、上記ニの本件各通知処分と同日付で、別表1及び別表2の各「更正処分等」欄のとおり、本件各申告において、本件矯正診療費のうち、上記(3)のホの2の自費診療収入勘定に計上しなかった額が事業所得の総収入金額及び課税資産の譲渡等の対価の額に算入されていないため、本件年分の事業所得の金額及び本件課税期間の消費税の課税標準額に誤りがあるなどとして、所得税等及び消費税等に係る各更正処分(以下、所得税等に係る更正処分を「本件所得税等更正処分」、消費税等に係る更正処分を「本件消費税等更正処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、所得税等に係る賦課決定処分を「本件所得税等賦課決定処分」、消費税等に係る賦課決定処分を「本件消費税等賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各賦課決定処分」という。)を行った。
  • ヘ 請求人は、平成28年9月9日に、本件各通知処分、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として審査請求をした。なお、請求人は、本件所得税等更正処分及び本件所得税等賦課決定処分のうち、必要経費の金額の更正に係る部分については取消しを求めていない。

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2 争点

  • (1) 争点1 本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期及び課税資産の譲渡等の時期はいつか。
  • (2) 争点2 本件各通知書に記載された理由に不備があるか否か。

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3 争点についての主張

(1) 争点1 (本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期及び課税資産の譲渡等の時期はいつか。)について

原処分庁 請求人
請求人は、矯正装置の装着という一定の役務の提供を行った後に本件書面を患者に交付するところ、本件書面の記載内容からすると、本件書面の交付により本件矯正診療費の全額について支払を請求していると認められるから、別紙5の国税庁ホームページの質疑応答事例「歯列矯正料の収入すべき時期」(以下、ここに示された取扱いを「本件取扱い」という。)によれば、その1の場合に該当する。
 したがって、本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期は、本件書面を患者に交付した時であり、本件矯正診療費に係る課税資産の譲渡等の時期もこれと同じである。
患者に対する矯正装置の装着等は、原則として、本件書面を交付した後に行っており、そのうえ、本件書面は、患者に対して本件矯正診療費の支払を請求するものではなく、本件矯正診療費の総額及びその振込口座を示して患者の便宜を図るために交付するものにすぎないから、本件取扱いによれば、その1の場合には該当せず、その3のロの場合に該当する。
 したがって、本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期は、一括又は分割により支払を受けたそれぞれの日であり、本件矯正診療費に係る課税資産の譲渡等の時期もこれと同じである。

(2) 争点2 (本件各通知書に記載された理由に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件所得税等通知書には、所得税法における総収入金額の計上時期に係る法令解釈、本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期の認定及び通則法第23条第1項の規定に該当しない旨の結論が記載されている。本件消費税等通知書には、消費税法における納税義務の成立の時期に係る法令解釈並びに本件所得税等通知書と同様の認定及び結論が記載されており、法令が要求する理由附記の趣旨を満たしている。
 したがって、本件各通知書に記載された理由に不備はない。
本件各通知書にはいずれも根拠法令の記載がないし、仮にそれらの記載が本件取扱いを念頭に置くものであると理解するとしても、このうち「一定の役務」及び「基本料等の全額について請求し」という要件に該当することを基礎付ける具体的な理由が記載されておらず、法令が要求する理由附記の趣旨を満たしていない。
 したがって、本件各通知書に記載された理由に不備がある。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 事業所得の総収入金額に関するもの
       所得税法は、一暦年を単位としてその期間ごとに課税所得を計算し、課税を行うこととしており、同法第36条第1項が、その期間中の総収入金額又は収入金額の計算について、「収入すべき金額」による旨規定し、「収入した金額」とはしていないことからすると、同法は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、その権利発生の時期に属する年分の課税所得を計算するという考え方(いわゆる権利確定主義)を採用しているものと解され、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定されるべきものである。
    • (ロ) 課税資産の譲渡等に関するもの
       通則法第15条第2項第7号は、消費税の納税義務は、「課税資産の譲渡等をした時」に成立する旨を規定しているが、通則法及び消費税法には「課税資産の譲渡等をした時」の意義について定めた規定はない。
       もっとも、消費税法が、同法第28条第1項において、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は「課税資産の譲渡等の対価の額」であり、この対価の額とは「対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭等の額」である旨規定し、所得税法と同様に、「収受すべき」金銭等の額を課税の対象としていることに鑑みると、消費税の納税義務が成立する「課税資産の譲渡等をした時」とは、基本的には「課税資産の譲渡等の対価の額」を収受すべき権利が確定したときを指すものと解するのが相当であり、その時期は、それぞれの権利の特質を考慮し決定すべきである。
  • ロ 認定事実

    請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

    • (イ) 請求人は、平成26年中に74名の患者から、平成25年12月に患者Lから、それぞれ本件○○規定の提出を受け、これらの患者に対して、平成26年中に本件書面を交付した(以下、平成26年中に本件書面の交付をした75名の患者を「本件各患者」という。)。
    • (ロ) 本件各患者に係る本件○○規定には、前記1の(3)のハの(イ)のとおり、各自の本件矯正診療費の金額及び各自の予定治療期間が記載されているほか、歯列矯正治療に係る注意事項、さらには、本件矯正診療費の返却に関する定めなどが記載されている。そして、これらの記載のうち、治療期間中に患者の転居等により歯列矯正治療を行うことができなくなった場合における各自の本件矯正診療費の返却に関する取扱いについて、要旨次のとおり定めるほか、注書きとして、「患者さんの都合により、勝手に治療を中止・中断されたとき」には、次の定めは適用されないとしている。
      • A 治療開始1年以内のときは、本件矯正診療費の金額の○○%相当額を返却する。
      • B 治療開始2年以内のときは、本件矯正診療費の金額の○○%相当額を返却する。
      • C 2年以上経過したときは、原則として本件矯正診療費の全額が納入となる。
    • (ハ) 請求人は、本件各患者のうち68名に対しては、各自の本件○○規定の提出を受けた後に矯正装置の装着を行っており、当該各患者のうち、67名に対しては平成26年中に当該矯正装置を装着し、1名(患者H)に対しては平成27年○月○日に同装置の装着を行った。
       また、請求人は、本件各患者のうち7名(上記の68名以外)については、平成26年中に矯正装置の装着を行った後、当該各患者から本件○○規定の提出を受けた(なお、矯正装置の装着後に本件○○規定の提出がされたのは、当該患者が本件○○規定を持参し忘れたことなどが理由であり、特別の意図によるものではない。)。
    • (ニ) 請求人の本件各患者への矯正装置の装着をもって、請求人の本件各患者に対する治療が開始した。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期
      • A 1本件矯正診療費は、人的役務の提供による収入金額であるが、歯列矯正治療は、通常数年の治療期間を要すること、2請求人は、矯正装置を装着した後、本件矯正診療費とは別に再診に係る費用をその都度請求しており、本件矯正診療費に対応する中核的な治療は矯正装置の装着であるといえることに照らすと、請求人の行う歯列矯正治療の全てが完了しなければ、その収入の原因となる権利が確定しないと一律に解するのは相当でなく、請求人と本件各患者との間の契約の実態も踏まえて、当該権利の確定時期を決するべきである。
      • B まず、前提として、請求人と本件各患者との間に契約が成立した時期等についてみる。
         本件各患者に係る本件○○規定は、本件各患者が本件○○規定に記載された各自の本件矯正診療費の金額、予定の治療期間及び治療上の注意事項(上記ロの(ロ))等を承諾した場合に、請求人に提出されるものである。このことからすれば、請求人と本件各患者のうち矯正装置の装着前に本件○○規定を提出した68名(上記ロの(ハ))との間においては、これらの各患者に係る本件○○規定の提出の時に、歯列矯正治療に係る契約がそれぞれ成立したと認められる。
         また、本件各患者のうち7名(上記ロの(ハ))については、矯正装置の装着後にそれらの各患者に係る本件○○規定が請求人に提出されているものの、請求人から矯正装置の装着前に本件○○規定に記載される内容と同旨の説明を受けた(前記1の(3)のハの(イ))上で、矯正装置の装着等の治療を受けていることからすれば、矯正装置の装着時に請求人との間で歯列矯正治療に係る契約がそれぞれ成立していたと認められる。
      • C そこで、次に、請求人と本件各患者との間の歯列矯正治療に係る契約の実態について検討する。
        1本件○○規定に記載された本件矯正診療費の返却に係る規定は、治療開始時を基準として適用されるものであり(上記ロの(ロ))、返却される金額は本件矯正診療費に一定の割合を乗じて計算されること(かつ、その割合は、○○%又は○○%にとどまる。)、2治療開始後、患者の都合により、勝手に治療を中断・中止した場合に当該返却規定が適用されることはないことを併せみれば、当該返却規定は、本件各患者に係る本件○○規定に記載された各自の本件矯正診療費の全額について、各自の治療開始時に支払われること(言い換えれば、請求人が請求する権利を有すること)を前提として定めていることが認められる。そして、それに沿うものとして、請求人は、本件各患者に係る本件○○規定の写しを交付すると同時に、本件○○規定に記載された各自の本件矯正診療費の全額を請求する旨の本件書面を本件各患者に交付していることが挙げられる。以上の事情のほか、請求人は、本件各患者に対し矯正装置の装着後の再診の都度、別途再診料を請求することとなっていること、請求人と本件各患者との間に、一定の期間の経過や役務提供の程度等に応じて各自の本件矯正診療費の一部を支払う特約や慣習はないことからすれば、請求人は、本件各患者の治療開始時(上記ロの(ニ)の矯正装置の装着時)に各自の本件矯正診療費の全額について請求する権利を有しているものと認められる。
         なお、本件各患者の中には、本件矯正診療費を分割して支払っている者が存在し、また、本件○○規定には分割方法を記載する欄もあるが、本件矯正診療費に係る報酬請求権が確定する時期と本件矯正診療費の現実の支払時期は必ずしも一致するものではないし、当該記載欄は、本件各患者の治療開始時に各自の本件矯正診療費の全額を請求し、受領することを前提とした上で、現実の支払額及び支払時期について請求人と本件各患者との間で調整を図るものとみるのが相当であり、このことをもって上記判断が左右されるものではない。
      • D 以上によれば、本件各患者に係る本件矯正診療費は、治療開始時、すなわち、矯正装置の装着時において、その全額を請求し、受領するものであると認められ、同時点をもって当該本件矯正診療費に係る報酬請求権が確定したといえるから、本件各患者に係る本件矯正診療費の事業所得の総収入金額に収入すべき時期は、矯正装置の装着時とするのが相当である。
         なお、原処分庁の主張は、本件書面の交付時をもって本件矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべきであるというものであるところ、その主張は上記理由から採用できない。
    • (ロ) 本件矯正診療費に係る課税資産の譲渡等の時期
       課税資産の譲渡等の時期についての考え方は、上記イの(ロ)のとおり、当該譲渡等の対価の額を収受すべき権利が確定したときと解されるところ、本件矯正診療費に係る報酬請求権の確定時期は上記(イ)のDのとおりであるから、本件各患者に係る本件矯正診療費の課税資産の譲渡等の時期についても、矯正装置の装着時とするのが相当である。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のとおり、本件書面については、本件各患者に対して各自の本件矯正診療費の支払を請求するものではなく、各自の本件矯正診療費の総額及びその振込口座を示して患者の便宜を図るために交付するものにすぎないため、本件取扱いの3のロの場合に該当し、本件各患者に係る本件矯正診療費の事業所得の総収入金額に収入すべき時期及び課税資産の譲渡等の時期は、当該診療費を一括又は分割により支払を受けたそれぞれの日である旨主張する。
     しかしながら、本件各患者に係る本件矯正診療費の事業所得の総収入金額に収入すべき時期及び課税資産の譲渡等の時期は、上記ハに記載したとおり、本件各患者の矯正装置の装着時に各自の本件矯正診療費に係る報酬請求権が確定したといえるのであり、当該本件矯正診療費の実際の支払時期と必ずしも同一になるものではないし、本件○○規定にある分割方法の記載欄は、現実の支払額及び支払時期について調整するものとみるのが相当である(上記ハの(イ)のC)から、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2について

  • イ 法令解釈
     通則法第23条第4項に規定する更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分は、申請により求められた許認可等を拒否する処分であるから、通則法第74条の14《行政手続法の適用除外》第1項及び行政手続法第8条第1項により、処分に当たってその理由を示さなければならない。行政手続法第8条第1項の趣旨は、拒否事由の有無についての行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服申立てに便宜を与える点にあると解される。
     このような理由の提示を求めた趣旨に鑑みれば、通則法第23条第4項に規定する更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分に付すべき理由は、上記の趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにするものであることが必要であり、かつ、それで足りると解するのが相当である。
  • ロ 当てはめ
    • (イ) 本件所得税等通知書
       本件所得税等通知書の記載内容は、別紙3のとおり、まず1矯正診療費に係る事業所得の総収入金額に収入すべき時期の考え方について、「矯正装置の装着など一定の役務の提供を行った時に基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額についてその一定の役務の提供を了した日の収入金額とされている」とした上で、2本件矯正診療費に係る報酬請求権の確定時期について、請求人の提出した本件年分の総勘定元帳、本件○○規定、本件書面等の資料に照らし、請求人が矯正装置の装着などの一定の役務の提供を行った時に、患者に対して、各自の本件矯正診療費の全額について請求しその全額を収入金額として計上していることが認められるものとし、最後に、3本件所得税等申告は、上記の事業所得の総収入金額に収入すべき時期の考え方に沿って収入金額の計算がされているから、本件所得税等更正請求の理由は通則法第23条第1項の規定には該当しないという構成になっている。
       このように、本件所得税等通知書に記載された理由には、事業所得の総収入金額の収入すべき時期の考え方、本件矯正診療費に係る当てはめ及び通則法第23条第1項に規定する更正の請求に該当しないことについて、原処分庁の恣意の抑制と請求人の不服申立ての便宜という趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにしているといえるから、行政手続法第8条第1項の趣旨に照らし、法令の要求する理由の提示として欠けるものはないと認められる。
       したがって、本件所得税等通知書に記載された理由に不備はない。
    • (ロ) 本件消費税等通知書
       本件消費税等通知書の記載内容は、別紙4のとおり、まず1矯正診療費の納税義務の成立時期の考え方について、「原則として、所得税における収入金額の計上時期と同様とされており、矯正装置の装着などの一定の役務の提供を行った時に基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額についてその一定の役務の提供を了した日に納税義務が成立することとされている」とした上で、2本件矯正診療費の納税義務の成立時期について、請求人の提出した本件課税期間の総勘定元帳、本件○○規定、本件書面等の資料に照らし、請求人が矯正装置の装着などの一定の役務の提供を行った時に、患者に対して、各自の本件矯正診療費の全額について請求しその全額を課税資産の譲渡等の対価の額として計上していることが認められるものとし、最後に3本件消費税等申告は、上記の納税義務の成立時期の考え方に沿って課税資産の譲渡等の対価の額が計上されているから、本件消費税等更正請求の理由は通則法第23条第1項の規定には該当しないという構成になっている。
       このように、本件消費税等通知書に記載された理由には、納税義務の成立時期の考え方、本件矯正診療費に係る当てはめ及び通則法第23条第1項に規定する更正の請求に該当しないことについて、原処分庁の恣意の抑制と請求人の不服申立ての便宜という趣旨を充足する程度に具体的な根拠を明らかにしているといえるから、行政手続法第8条第1項の趣旨に照らし、法令の要求する理由の提示として欠けるものはないと認められる。
       したがって、本件消費税等通知書に記載された理由に不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件各通知書には、いずれも根拠法令の記載がなく、その記載された内容が本件取扱いを念頭に置くものであるとしても、本件取扱いの要件に該当することの具体的な理由が記載されていないことから、法令が要求する理由附記の趣旨を満たしておらず、本件各通知書に記載された理由に不備がある旨主張する。
     しかしながら、理由の提示を求めた趣旨に照らせば、適用法令を条文の番号という形で記載しなければならないと解する理由はなく、その適用法令の内容を了知し得るものであれば、当該趣旨に反しないといえる。そして、本件各通知書は、その根拠法令の内容を了知し得る程度に記載されているものであり、その他、本件各通知書に記載された各処分理由が法令の要求する理由の提示として欠けるものではないことは上記ロのとおりであるから、請求人の主張には理由がない。

(3) 本件所得税等通知処分及び本件所得税等更正処分の適法性について

  • イ 本件年分の事業所得の金額
     上記(1)のロの(ハ)及びハの(イ)のDに基づき、本件年分の事業所得の総収入金額を計算すると、患者Hを除く本件各患者に係る本件矯正診療費については、当該診療費に係る収入すべき時期を本件年分とすべきものであるが、患者Hに係る本件矯正診療費については、矯正装置の装着日が平成27年○月○日であり、事業所得の総収入金額に収入すべき時期は同日となるため、同人の本件矯正診療費の金額○○○○円(消費税等を含む。)は、本件年分の事業所得の総収入金額にはならない。
     以上に基づき、請求人の本件年分の事業所得の金額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄の「事業所得の金額」欄のとおりとなる。
  • ロ 納付すべき税額及び結論
     上記イに基づき、請求人の本件年分の所得税等の納付すべき税額を計算すると、当該税額は、別表3の「審判所認定額」欄の「納付すべき税額」欄のとおり、○○○○円となり、その金額は本件所得税等更正処分の納付すべき税額を下回るから、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、本件所得税等更正処分はその一部を取り消すべきであるものの、本件所得税等申告に係る納付すべき税額を上回ることから、本件所得税等通知処分は適法である。
     なお、本件所得税等通知処分及び本件所得税等更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(4) 本件消費税等通知処分及び本件消費税等更正処分の適法性について

  • イ 本件課税期間の消費税の課税標準額
     上記(1)のロの(ハ)及びハの(ロ)に基づき、本件課税期間の消費税の課税標準額をみると、本件各患者のうち、患者Hに対する矯正装置の装着日は平成27年○月○日であり、課税資産の譲渡等の時期は同日となるため、同人の本件矯正診療費の金額○○○○円(消費税等を含む。)に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、本件課税期間の消費税の課税標準額に含まれない。
     また、本件消費税等通知処分及び本件消費税等更正処分においては、本件各患者のうち、患者J及び患者Kに係る本件矯正診療費の金額の合計額○○○○円(消費税等を含む)について本件課税期間における平成26年4月1日より前の課税標準額に含めて4%の消費税率を適用しているが、同人らに対する歯列矯正治療の開始時期は平成26年4月1日以降であると認められるから、同人らの本件矯正診療費に係る課税資産の譲渡等の対価の額は、本件課税期間における平成26年4月1日以降の課税標準額に含まれ、6.3%の消費税率が適用されることになる。
     以上によれば、患者Hを除く本件各患者の本件矯正診療費に係る課税資産の譲渡等の対価の額を課税標準額に計上すべき時期は、本件課税期間とすべきものであるから、請求人の本件課税期間の消費税の課税標準額は、別表4-1の「審判所認定額」欄の「課税標準額」欄のとおりとなる。
  • ロ 納付すべき税額及び結論
     上記イに基づき、請求人の本件課税期間の消費税等の各納付すべき税額を計算すると、当該各税額は、別表4-2の「審判所認定額」欄の「納付すべき消費税額」欄及び「納付すべき地方消費税額」欄のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、本件消費税等更正処分の各納付すべき税額をいずれも下回るから、別紙2の「取消額等計算書」のとおり、本件消費税等更正処分は、その一部を取り消すべきであるものの、本件消費税等申告の各納付すべき税額をいずれも上回ることから、本件消費税等通知処分は適法である。
     なお、本件消費税等通知処分及び本件消費税等更正処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

  • イ 本件所得税等賦課決定処分
     本件所得税等更正処分は、上記(3)のロのとおり、その一部を取り消すべきであり、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円(1万円未満の端数切捨て)となる。
     そして、この税額の計算の基礎となった事実が本件所得税等更正処分の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     以上に基づき、請求人の本件所得税等更正処分に係る過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となり、本件所得税等賦課決定処分の額を下回るから、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、本件所得税等賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
  • ロ 本件消費税等賦課決定処分
     本件消費税等更正処分は、上記(4)のロのとおり、その一部を取り消すべきであり、過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円(1万円未満の端数切捨て)となる。
     そして、この税額の計算の基礎となった事実が本件消費税等更正処分の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     以上に基づき、請求人の本件消費税等更正処分に係る過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となり、本件消費税等賦課決定処分の額を下回るから、別紙2の「取消額等計算書」のとおり、本件消費税等賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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