(平成29年7月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、役員の分掌変更に伴いその役員に対し退職慰労金として支給した金員について、原処分庁が、当該役員は分掌変更により実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められないから、当該金員は退職給与ではなく損金の額に算入されない役員給与であるとして法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、当該金員は給与所得に該当するとして源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該金員は退職給与ないし退職所得であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙のとおりである。なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 当事者等
    • (イ) 請求人は、昭和○年○月○日に設立された、a市b町内に本社を置く同族会社であり(なお、商業登記上の本店は、平成19年9月○日から平成28年11月○日までe市内であった。)、本社近隣の製鉄メーカーで発生する○○を購入し、a市b町、g市及びi市所在の各事業所において加工し、製鉄メーカーに納入している。
    • (ロ) D(以下「本件役員」という。)は、請求人の設立時取締役であり、昭和41年7月○日付で請求人の代表取締役社長に就任した。また、本件役員の長女であるBは、平成18年1月○日付で請求人の代表取締役に就任した。
    • (ハ) 請求人の発行済株式の総数は10,000株であるところ、平成11年頃から、本件役員が500株、Bが4,000株、Bの夫で請求人の取締役であるFが1,750株、G社が3,750株を保有していた。
       なお、本件役員は、G社の株式を保有していない。
  • ロ 本件役員の代表取締役辞任
    • (イ) 本件役員は、平成17年8月に○○を、平成21年7月に○○を発症し、それぞれ入院したことがあり、平成22年7月に再度○○を発症した。その後、本件役員は、○○等の治療のために通院を続けた。
    • (ロ) 本件役員は、上記(イ)の2度目の○○の発症及びその後の通院を契機として、平成23年5月○日付で請求人の代表取締役社長を辞任し、代表権のない取締役会長となった(以下、この本件役員の役職の変更を「本件分掌変更」という。)。本件分掌変更後の請求人の代表取締役はBのみであり、請求人の取締役は本件役員、B及びFであった。
  • ハ 本件役員への退職慰労金の支給
     請求人は、平成23年5月20日付の臨時株主総会において、本件分掌変更に際し本件役員に対して退職慰労金○○○○円(以下「本件金員」という。)を支給することを決議し、同月26日付で、本件役員に対し、本件金員から所得税及び住民税を控除し、本件役員に対する仮払金及び貸付金を清算した残額○○○○円を支払った。
  • ニ 本件役員の代表取締役復帰
     本件役員は、平成27年7月○日付で請求人の代表取締役に再度就任した。
  • ホ 請求人の確定申告等
    • (イ) 請求人は、平成22年6月1日から平成23年5月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、本件金員を役員退職金勘定に計上し、本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入して、別表1の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限までに、当時の所轄税務署長であるH税務署長に申告した。
    • (ロ) 請求人は、平成23年6月10日、本件金員が退職所得に該当するとして、本件金員に対する源泉所得税○○○○円を納付した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ H税務署長は、J国税局の職員の調査に基づき、本件事業年度の法人税について、平成28年5月31日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
  • ロ H税務署長は、平成23年5月分の源泉所得税について、平成28年5月31日付で、別表2のとおり、納税告知処分(以下「本件告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件不納付加算税賦課決定処分」という。)をした。
  • ハ H税務署長は、本件事業年度の法人税について、平成28年6月30日付で、加算税の処分の理由に不備があったとして、別表1の「更正処分等の取消し」欄のとおり、同年5月31日付の更正処分等を取り消すとともに、J国税局の職員の調査に基づき、同年6月30日付で、別表1の「再更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)をした。
  • ニ 請求人は、平成28年11月○日に本店所在地をe市から肩書地へ異動し、これに伴い、原処分庁はH税務署長からE税務署長となった。
  • ホ 以上のほか、審査請求(平成28年8月8日及び同月19日の各請求)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりであるところ、当審判所は、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第104条《併合審理等》第1項の規定に基づき、同月19日の審査請求を同月8日の審査請求に併合した。

トップに戻る

2 争点

本件金員が法人税法上の損金算入することのできる退職給与に該当するか否か。

トップに戻る

3 主張

原処分庁 請求人
本件役員は、本件分掌変更後も請求人の取締役として勤務しており、本件事業年度において実際に退職した事実はない。また、以下の(1)ないし(6)のとおり、本件役員は、本件分掌変更後も経営上重要な業務を担い、取締役会長として経営上主要な地位を占めていたのであるから、その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったとは認められない。したがって、本件金員は法人税法上の退職給与に該当しない。
 なお、本件役員の役員給与は半額以下に減額され、本件通達の(3)の例示を形式的に満たしているものの、そのことから直ちに本件金員を退職給与として取り扱ってよいものではない。
本件役員は、本件分掌変更により、財務面、営業面、人事面及び生産面における権限を全てB及びF等に移譲し、仕事の量、質及び内容が大幅に縮小又は変更した。また、本件役員は、本件分掌変更に伴い、金融機関との間の個人保証を解除し、役員給与をそれまでの半額以下に減額している。このように、請求人の役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったと認められる。さらに、本件分掌変更は、本件役員が平成22年7月に2度目の○○を発症したという真にやむを得ない事情に基づくものである。したがって、本件金員は法人税法上の退職給与に該当する。
(1) 本件役員は、本件分掌変更後も、1単発的に発生する流れ屑等の評価及び仕入単価について、それらの決定権を有するKj事業所長(以下「K所長」という。)やLk事業所長(以下「L所長」という。)から報告を受けて承諾し、2M社の担当者から、流れ屑の輸入取引に係るファックスを受信し、自ら当該取引の承諾を行っていた。以上のとおり、本件役員は、請求人の仕入価格決定に関与していた。 (1) 原処分庁の主張の(1)の1については、その取扱量が流れ屑の全取扱量のうちごくわずかである上、本件分掌変更前から、K所長及びL所長が決定しており、本件役員が承諾を与えた後に仕入れを決定していたものではない。原処分庁の主張の(1)の2については、その取扱量が全体の取扱量に占める割合が少ない上、本件役員は、同社の担当者と付き合いが長かったので、便宜上、継続して関与したにすぎない。このように、原処分庁の主張の(1)の各事情は、本件分掌変更後のごく一部の事例にすぎない。
(2) 本件役員は、本件分掌変更後も、請求人の取引先である高炉メーカーの役員幹部に対して自ら飲食等の接待を行い、また、請求人が得意先に配布するギフトカードの管理を行っており、請求人の接待業務に関与していた。 (2) 原処分庁の主張の(2)の各事情は、仮にそれらが認められるとしても、Fへの引継ぎのために、本件分掌変更後の短期間に行われたものにすぎず、本件役員の接待業務への関与は、本件分掌変更前より大幅に減少している。また、本件役員は、ギフトカードの配布について指示していない。
(3) 本件役員は、本件分掌変更後も、ほぼ毎日請求人のj事業所に出勤し、毎月1回の安全会議で全職員に対し、安全管理の徹底等を指導するなどしていた。また、本件役員は、本件分掌変更後も、後任の代表取締役であるBの役員給与年額○○○○円より高額な役員給与年額○○○○円を受け取っていた。以上のとおり、本件役員は、請求人において、影響力のある地位を保っていた。 (3) 本件役員は、医師の勧めでリハビリを兼ね出勤し、在席も短時間にとどめていたし、安全会議に参加したとしても、発声訓練のために話をした程度であった。また、本件役員の役員給与がBのそれより高額なことについては、請求人のような中小同族企業においては、本件役員の請求人に対する長年の功労度合いからみて不自然ではない。
(4) 本件役員は、本件分掌変更後も、1金融機関の担当者との間で、金利の折衝業務を行い、2金融機関からの請求人保有不動産の有効活用に係る提案に対応しており、請求人の資金調達等における重要な判断を行っていた。 (4) 本件分掌変更後の請求人の財務面の権限の行使及び金融機関への対応は、代表取締役であるBが全て行っていた。原処分庁の主張の(4)の1の事実はない。原処分庁の主張の(4)の2については、N社から紹介があったために挨拶を含めて3度ほど業者と会ったにすぎず、金融機関からの話ではない。このように、本件役員は、請求人の資金調達等において重要な判断を行っていたわけではない。
(5) 本件役員は、本件分掌変更後も、1平成25年にK所長の横領が発覚した際、B、Fと共に、K所長を退職させることを決め、2平成27年にFが取引上の失敗をした際、Bと共に、Fを専務取締役から降格させることを決めた。また、3請求人の役員及び幹部は、本件分掌変更後も、本件役員が役員等の人事権を有していると認識していたと申述している。このように、本件役員は、請求人の役員等の人事権を有していた。 (5) 原処分庁の主張の(5)の1及び2の各事情はいずれも、相手方が親族で、特殊な原因もあったので、やむを得ず関与したものにすぎない。原処分庁の主張の(5)の3の事情については、個人の主観にすぎない。このように、これらの事情をもって、本件役員が本件分掌変更後も請求人の役員等の人事権を有していたとはいえない。
(6) 本件役員は、本件分掌変更後も、トラック輸送時の沿線住民に対する住民対策費の支払に関して、支出決定等の最終判断を行って金員をL所長に渡しており、請求人の事業遂行上の重要な経費の支出に関与していた。 (6) 原処分庁の主張の(6)の事情は、沿線住民対策が機微な問題を含んでいることから、本件役員とL所長の専権事項としていたものの、経営上ささいなことであるから、この事実をもって、本件役員が請求人の経営上重要な経費支出に関与したとはいえない。

トップに戻る

4 争点に対する判断

(1) 法令解釈等

法人税法第22条第3項第2号及び同法第34条第1項ないし第3項の各規定によれば、役員に対して支給する退職給与については、同項に規定する、事実を隠蔽し、又は仮装して経理することによって当該役員に支給されたものでなく、また、同条第2項に規定する不相当に高額な部分の金額がない場合には、同法第22条第3項第2号の規定に基づき、損金の額に算入されることになる。この役員に対して支給する退職給与とは、役員が会社その他の法人を退職したことにより支給される一切の給与をいうと解するのが相当であり、法人が退職給与や退職慰労金などといった名目で役員に対して支給した給与であっても、当該役員に退職の事実がない場合には、当該支給した給与は、原則として当該役員に対する臨時的な給与として取り扱われることとなるため、新株予約権型ストック・オプション、使用人兼務役員の使用人としての職務に対する給与又は同法第34条第1項各号に掲げるいずれかの給与(以下、これらを併せて「退職給与以外の損金算入役員給与」という。)に該当しない場合には、損金の額に算入されないこととなる。
 ところで、一般に、法人の役員については、一定の任期が定められており、その任期が到来する都度役員の改選が行われるので、形式的にはその任期が満了する都度一旦退職しているようにもみえるが、通常は再任されることが多く、そのような場合、退職ではなく役員委任契約が継続しているものとして退職したとの取扱いはされていない。同様に、法人の代表取締役の地位にあった者がその地位を辞任し、代表取締役以外の当該法人の取締役等の役員として引き続き従事している場合には、たとえ代表取締役を辞任したことにより法人の代表権を喪失したとしても、その者は単に役員としての分掌が変更されたにすぎないのであるから、当該法人を退職したということはできない。
 もっとも、役員の分掌変更又は改選による再任等がされた場合であっても、例えば、常勤取締役が経営上主要な地位を占めない非常勤取締役になったり、取締役が経営上主要な地位を占めない監査役になったりするなど、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、法人税法上も退職給与として取り扱うことができるとするのが相当である(本件通達もこれと同趣旨によるものと解される。)。

(2) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件役員の出勤状況
     本件役員は、本件分掌変更前は、ほぼ毎日、午前6時から6時半頃請求人に出社し、午後4時から5時頃退社していたところ、本件分掌変更後は、ほぼ毎日、午前7時から8時頃請求人に出社し、午前中に退社していた。また、本件役員は、○○発症直後を除き、本件分掌変更前後を通じ、自ら自動車を運転して通勤していた。
  • ロ 本件分掌変更後の取引先との折衝等
    • (イ) 請求人は、平成23年6月○日付の挨拶状を各取引先に対して送付し、本件役員が代表取締役社長を辞任し取締役会長に就任した旨とBが本件役員の後を受け代表取締役社長に就任した旨を告知した。
    • (ロ) 本件役員は、本件分掌変更の後、j事業所における流れ屑の取引価格の決定に係る権限をF及びK所長に、流れ屑の配合方針の決定や機械設備の修理に係る権限をF、K所長及びL所長に、徐々に移譲するようになった。
       上記権限移譲の過程においても、本件役員は、少なくとも、単発的に発生する流れ屑の購入取引における流れ屑の評価についてFやK所長から相談を受けてアドバイスをしたり、平成25年7月には、流れ屑の輸入取引に係る取引条件についてM社から直接連絡を受けることがあった。
       また、本件役員は、本件分掌変更後の平成24年2月頃まで、少なくとも22回以上、請求人の流れ屑の取引先である商社や製鉄メーカーの幹部に対して飲食等の接待をした。
  • ハ 本件分掌変更後の金融機関との折衝等
     本件役員は、本件分掌変更の後、融資交渉等の金融機関との折衝に係る権限を徐々にBに移譲するようになり、Bが、金融機関との間のコミットメントライン契約締結や金融機関からの借入れの申込みを行った。また、本件分掌変更に伴い、本件役員は、請求人のP信用金庫及びQ銀行に対する債務に関し、それぞれ平成23年1月と平成24年11月に各金融機関から同意を得て、請求人の連帯保証人の地位から脱退した。もっとも、上記権限移譲の過程で、本件役員は、Bと金融機関との借入れに係る利率等の条件交渉の場に立ち会い、自らの意見を述べることもあった。
  • ニ 本件分掌変更後の人事関係の決定等
    • (イ) 本件役員は、本件分掌変更前、従業員の採用決定に関与するとともに、従業員の給料や賞与の査定を行っていたが、本件分掌変更に伴い、従業員の採用及び給料や賞与の査定に係る上記権限をB及びFに移譲した。
    • (ロ) 本件役員は、平成23年7月18日、請求人の取締役会に出席し、B及びFと共に、同年7月分以降の役員給与について、本件役員の給与を月額○○○○円から月額○○○○円に減額し、B及びFの給与をそれぞれ月額○○○○円から月額○○○○円に、月額○○○○円から月額○○○○円に増額すること並びに請求人の監査役であるRの同月分以降の報酬を月額○○○○円から月額○○○○円に増額することを承認した。
    • (ハ) 本件役員は、平成24年7月30日、請求人の取締役会に出席し、B及びFと共に、Bが取締役を任期満了したことによる代表取締役の資格喪失に伴い、Bを改めて代表取締役に選定した。
    • (ニ) 本件役員は、平成24年7月30日、請求人の取締役会に出席し、同年8月分以降の役員給与について、本件役員の給与を月額○○○○円から月額○○○○円に減額し、B及びFの給与を月額○○○○円から月額○○○○円に増額することをB及びFと共に承認した。
    • (ホ) 本件役員は、平成25年5月、K所長が横領等の不正行為を働いたとして、B及びFと共にK所長の解雇を決定した。
       なお、K所長は、本件役員の妹婿として本件役員と並んで流れ屑取引に長年携わっており、10年以上にわたってj事業所長を務め、また少なくとも平成12年7月から平成21年3月までの間、請求人の取締役であった。
  • ホ 本件分掌変更後の事業所に係る支出等
    • (イ) 本件役員は、本件分掌変更前と同様、取締役である本件役員、B及びFのみを構成員として年5、6回不定期に開催される経営会議に出席し、FからBに対して購入要請があった、請求人による油圧ショベル、ホイールローダなど最大約XX,000,000円の事業用資産の購入をB及びFと共に決定しており、同様に、請求人が○○トンの○○をXXX,XXX,000円で購入し、これを請求人のj事業所に設置する旨、B及びFと共に決定した。
    • (ロ) 請求人は、本件分掌変更前後を通じ、請求人のk事業所(請求人の3か所の事業所の1つ。)周辺の住民との間で、同事業所の騒音、振動等に関してトラブルを抱えており、同トラブルは、同事業所の主要な取引先との関係を悪化させかねないものであった。本件役員は、同トラブルを解決しなければ、同事業所の主要な取引先との関係が悪化し、同事業所の操業に支障を及ぼすと考え、同トラブルの解決のために同住民などに金員を渡すこととし、本件分掌変更前後を通じ、必要に応じて、Bに出金を指示して現金を受け取り、L所長を通じて同住民などに金員(本件事業年度において○○○○円(本件事業年度の申告所得額○○○○円の11%強に相当する額)、平成23年6月から平成24年5月まで○○○○円(その事業年度の申告所得額○○○○円の10%弱に相当する額)、平成24年6月から平成25年5月まで○○○○円(その事業年度の申告所得額○○○○円の3%弱に相当する額)。以下「本件住民対策費」という。)を支払っていたが、その詳細については、請求人の代表取締役のB及び請求人の取締役のFに知らせていなかった。
    • (ハ) 本件役員は、平成23年6月以降も、それ以前と同様、本社のみならず各事業所の経費に係る領収書を多数チェックし、それらに自らのサイン(「○○」と手書きし、それを丸囲いしたもの等)を記載していた。
  • ヘ 本件役員の代表取締役への復帰
     以上のとおり、本件役員は、本件分掌変更後、B、F、K所長等の関係者に請求人における種々の権限の移譲を図っていたが、K所長の解雇やFが問題を起こしたとして取締役を解任されたこと等を踏まえ、自らが代表取締役に復帰することを決意し、平成27年7月○日付で代表取締役に再度就任した。

(3) 検討

  • イ 本件役員は、上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、平成23年5月○日付で請求人の代表取締役を辞任し、代表権のない取締役会長となった(本件分掌変更)にすぎないから、請求人を退職していないと認められる。
  • ロ もっとも、上記(1)のとおり、役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められる場合には、その分掌変更等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、法人税法上も退職給与として取り扱うことができることから、以下、当該事情の有無を検討する。
    • (イ) 上記(2)のロの(イ)及びハのとおり、本件分掌変更に際して、請求人は、各取引先に挨拶状を送付して本件役員が社長を辞任し会長に就任した旨を周知し、本件役員は、取引金融機関に対する連帯保証人の地位から離れている。また、上記(2)のロの(ロ)、ハ及びニの(イ)のとおり、本件分掌変更の後、本件役員が行っていた業務のうち、流れ屑の取引価格等の決定、金融機関との折衝及び従業員の人事に関する権限を、本件役員から他の役員や使用人に徐々に移譲した。さらに、上記1の(3)のロの(イ)並びに上記(2)のイ及びニの(ロ)のとおり、本件分掌変更が本件役員の二度目の○○発症を端緒として行われたこともあり、本件分掌変更後、本件役員の勤務時間は相当程度減少し、また本件役員の平成23年7月分の給与額も改定前の平成23年6月分の給与額に比べて約55%減少した(この給与の減少は、本件通達の(3)にいう給与の「おおむね50%以上の減少」に当てはまる。)。
       以上によれば、本件分掌変更により、本件役員の地位や職務につき相応の変動が生じたと認められる。
    • (ロ) しかしながら、上記(2)のホの(ロ)のとおり、本件役員は、本件分掌変更後も、数年にわたって、請求人の3か所の事業所のうちのk事業所の操業継続に支障を及ぼすようなトラブルの解決のために同事業所周辺の住民などに金員を支払うことを、請求人の代表取締役や取締役に相談することなく決定し、本件事業年度やその翌事業年度において申告所得額の約1割前後にも及ぶ多額の本件住民対策費を支払っていたものであり、このような事情からは、本件役員が、本件分掌変更後も、請求人の事業に関する重要な意思決定及びその執行の一部を行っていたことが認められる。
       また、上記(2)のロの(ロ)のとおり、少なくとも、単発的に発生する流れ屑の購入取引における流れ屑の評価についてアドバイスをしたほか、請求人の取引先の幹部に対する接待をも担当しており、請求人の営業面においても、相応の役割を果たしている。
       さらに、上記(2)のハのとおり、本件役員は、本件分掌変更後も、Bと金融機関との交渉の場に立ち会い、自らの意見を述べることもあったのであり、金融機関との折衝の場面でも、一定の役割を果たしていたことがうかがわれる。
       加えて、上記(2)のニの(ロ)ないし(ニ)、ホの(イ)のとおり、本件役員は、本件分掌変更後も、取締役会において、Bの代表取締役の任期満了に伴う代表取締役の選定及び役員給与の変更についてBやFと共に決定したり、経営会議において、数千万円から1億円超にも及ぶ事業用資産の購入をBやFと共に決定したりしており、さらに、上記(2)のニの(ホ)のとおり、本件役員と長年の公私にわたる関係がある古参の使用人かつ元取締役のK所長の解雇の際には、BやFと共にこれを決定していたことが認められるから、本件役員は、本件分掌変更後も引き続き請求人の事業及び人事に関する重要な決定事項に関与していたことが認められる。
       その他、上記(2)のホの(ハ)のとおり、本件役員は、請求人における経費に係る多数の領収書を自らチェックしており(なお、本件役員は、J国税局の職員による質問検査において、上記領収書のチェックについて、平成25年6月にK所長の不正が発覚したため、その際に、交際費の使い方についてチェックしたものであり、本件分掌変更当時からチェックしていたものではない旨申述する。しかし、当審判所の調査及び結果によれば、上記領収書には、病院からの請求書など交際費とは無関係であることが明らかなものや、K所長の所属していたj事業所以外の事業所に係ることが明らかなものも含まれていることが認められ、しかも、本件役員が申述するように不正発覚の際にチェックしたとしても、多数に上る領収書の全てにいちいち自らのサインを記載するというのも不自然といわざるを得ず、これらのことからすると、本件役員の上記答述は採用することができない。)、経理面においても、本件役員は、請求人の経費の支出状況を監視していたことがうかがわれる。
       これらの各事情からすると、前記(イ)の各事情を考慮しても、本件役員は、本件分掌変更後も、請求人の経営上主要な地位を占めていたというべきである(このことは、上記(2)のニの(ロ)及び(ニ)のとおり、本件役員が、本件分掌変更後1年以上も、他の取締役の給与である月額○○○○円の2倍の額の給与の支給を受けていたことによっても裏付けられる。)。
       なお、上記1の(3)のロのとおり、本件役員は、平成22年7月に2度目の○○を発症し、その後、○○等の治療のために通院を続け、このことを契機として本件分掌変更に至っているが、上記 (2)のイのとおり、本件分掌変更後も、ほぼ毎日、自ら自動車を運転して請求人に通勤していたことからすると、請求人の事業や人事に関する決定事項に関与などすることに耐え得る状態にあったと認められるから、本件分掌変更の経緯やその後の通院状況は、本件役員が本件分掌変更後も請求人の経営上主要な地位を占めていたという上記認定を左右しないというべきである。
    • (ハ) 以上によれば、本件役員は、本件分掌変更により、役員としての地位又は職務の内容が激変しておらず、本件役員について実質的に退職したと同様の事情があったものとは認められない。
  • ハ 上記イ及びロによれば、本件金員は法人税法上の損金算入することができる退職給与に該当しないものと認められる。

(4) 請求人の主張について

  • イ 請求人は、本件役員が本件分掌変更により財務面、営業面、人事面及び生産面における権限を全てB及びF等に移譲し、仕事量、質及び内容が大幅に縮小又は変更したこと、本件役員が本件分掌変更に伴い、金融機関との間の個人保証を解除し、役員給与をそれまでの半額以下に減額したことから、請求人の役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあったと認められるので、本件金員は法人税法上の退職給与に該当する旨主張する。
     しかしながら、上記(3)で説示したとおり、請求人が、本件役員の二度目の○○などを契機として本件分掌変更を行い、それにより本件役員の地位や職務に相応の変動が生じたことが認められるものの、本件役員が、本件分掌変更により、実質的に退職したと同様の事情があったものとは認められないから、請求人の主張は採用することができない。
     なお、請求人は、上記主張に関連して、本件分掌変更が本件役員の二度目の○○発症という真にやむを得ない事情に基づくものである旨も主張するが、このことを考慮しても本件役員が実質的に退職したと同様の事情にないと認められることは上記(3)のロの(ロ)及び(ハ)のとおりであり、請求人の主張は採用することができない。
  • ロ 請求人は、本件分掌変更後の本件役員の役員報酬がBのそれより高額であることについて、本件役員の請求人に対する長年の功労度合いからみて不自然ではない旨主張するが、長年の功労だけで、本件役員の報酬が、当分の間、本件分掌変更後の請求人の唯一の代表取締役であったBの報酬の2倍にも及んでいたこと(上記1の(3)のロの(ロ)、上記(2)のニの(ロ))の理由にはならないのであって、むしろ本件役員の職務内容が、本件分掌変更後においてもなお請求人にとって貢献度の高いものであると評価されたことを示すものであるといえるから、請求人の当該主張は上記(3)の認定を左右するものではない。
  • ハ 請求人は、要するに、本件住民対策費の支出について、請求人の経営上ささいなことである旨主張する。
     しかしながら、請求人の本件住民対策費の支出が請求人の経営上ささいなことであったと認めるに足りる証拠はない。かえって、本件役員は、当審判所の質問調査に対し、請求人のk事業所周辺の住民との間のトラブルを解決しなければ、同事業所の主要な取引先との関係が悪化し、同事業所の操業に支障を及ぼすと考えて同住民らに金員を支払うこととしたなどと上記(2)のホの(ロ)のとおり答述しているところ、本件役員が請求人にとって不利に解され得る事実を詳細に答述していることなどに照らすと、上記答述は信用できるから、上記(2)のホの(ロ)のとおり認定するのが相当であり、これによれば、本件住民対策費の支出は、同事業所の操業継続にとって必要な支出であり(なお、本件役員及びBも、当審判所の質問調査に対し、本件住民対策費の支出が同事業所の操業継続のために必要であった旨答述する。)、請求人の事業において重要なものであったといえる。よって、請求人の主張は採用することができない。
  • ニ 請求人は、本件役員がBやFと共にK所長の解雇を決定したことについて、K所長が親族であるという特殊な原因によるもので、やむを得ず関与したものにすぎない旨主張する。
     しかしながら、本件役員は、K所長の解雇の決定について、親族間のことなので経営会議とは別にその決定をしたと請求人の主張に沿うような答述をするものの、これを裏付ける証拠はなく、かえって、B及びFは、当審判所の質問調査に対し、経営上重要な事項を決定する経営会議でK所長の解雇の決定をしたと請求人の主張と食い違うような答述をしていることからすると、請求人の主張する事実を認めることはできない。また、仮に請求人の主張する事実が認められるとしても、K所長の解雇の決定が人事に関する重要な決定事項であることは否定されない上、本件役員については、前記解雇の決定への関与だけでなく、上記(3)のロの(ロ)に記載の各事情も認められることからすると、請求人の主張する事実が直ちに上記(3)の認定を左右するものではない。以上によれば、請求人の主張は採用することができない。
  • ホ その他の主張を含め、請求人の主張は、いずれも採用することができない。

トップに戻る

5 本件金員の所得税法上の退職所得該当性について

  • (1) 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいうところ(所得税法第30条第1項)、法人の役員が実際に退職した場合でなくても、役員の分掌変更又は改選による再任等により、役員としての地位又は職務の内容が激変したと認められる場合には、上記分掌変更又は再任の時に支給される給与も「退職により一時に受ける給与」に該当するものとして、同給与に係る所得も退職所得として扱うのが相当である(所得税基本通達30-2の(3)参照)。
  • (2) 上記4の(3)のとおり、本件役員は、請求人を退職しておらず、また、本件分掌変更によって、役員としての地位又は職務の内容が激変したとは認められないから、本件分掌変更に伴い支給された本件金員は退職所得に該当しない。そして、本件金員は、上記4の(3)のとおり、本件分掌変更後も引き続き請求人の取締役の地位を有し、重要な決定事項に関与するなどしていた本件役員に対して、取締役としての稼働に対する対価として臨時的に支給されたものであると認められるから、その収入に係る所得は、所得税法第28条第1項に規定する給与所得(賞与)として認めるのが相当である。

トップに戻る

6 原処分の適法性について

  • (1) 本件更正処分の適法性について
     上記4の(3)のとおり、本件金員は本件役員に対する退職給与に該当せず、また、退職給与以外の損金算入役員給与に該当しないことも明らかであるから、本件事業年度の損金の額に算入されない。これを前提に請求人の本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「再更正処分等」欄の額と同額となる。
     なお、本件更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件更正処分は適法である。
  • (2) 本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性について
     上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、過少申告加算税の額は、別表1の「再更正処分等」欄の額と同額となる。
     したがって、本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。
  • (3) 本件告知処分の適法性について
     上記5のとおり、本件金員を本件役員の退職所得ではなく、給与所得として取り扱うべきところ、請求人は、本件金員の支払の際に、所得税法第183条《源泉徴収義務》に規定する源泉徴収義務を負うこととなり、これを前提に同法第186条《賞与に係る徴収税額》の規定に基づき請求人が徴収すべき所得税の額を計算すると、別表2の「納税告知処分」欄の額と同額となる。
     なお、本件告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件告知処分は適法である。
  • (4) 本件不納付加算税賦課決定処分の適法性について
     上記(3)のとおり、本件告知処分は適法であり、また、請求人が本件告知処分による源泉所得税を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、不納付加算税の額は、別表2の「賦課決定処分」欄の額と同額となる。
     したがって、本件不納付加算税賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

7 結論

よって、本件審査請求はいずれも理由がないのでこれを棄却する。

トップに戻る