(平成29年9月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の内容

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、郵便物として輸出した商品の譲渡全てについて、消費税法第7条《輸出免税等》第1項第1号により消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)が免除されるとして、消費税等の確定申告を行ったところ、D税務署長が、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査に基づき、上記商品に係る郵便物の一部について、その価格が20万円を超えているが輸出許可を証する書類の保存がないことから、その譲渡に係る消費税等が免除されないとして、消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、消費税等が免除されないとされた譲渡に係る商品は、関税法(平成29年法律第13号による改正前のもの。以下同じ。)第76条《郵便物の輸出入の簡易手続》第1項に規定する郵便物として輸出されたものであるから、上記書類の保存がなくても、当該譲渡に係る消費税等が免除されるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

別紙のとおりである。
 なお、別紙で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、原処分に係る平成23年10月1日から平成23年12月31日まで、平成24年1月1日から平成24年3月31日まで、平成24年4月1日から平成24年6月30日まで、平成24年7月1日から平成24年9月30日まで、平成24年10月1日から平成24年12月31日まで、平成25年1月1日から平成25年3月31日まで、平成25年4月1日から平成25年6月30日まで、平成25年7月1日から平成25年9月30日まで、平成25年10月1日から平成25年12月31日まで、平成26年1月1日から平成26年3月31日まで、平成26年4月1日から平成26年6月30日まで、平成26年7月1日から平成26年9月30日まで、平成26年10月1日から平成26年12月31日まで、平成27年1月1日から平成27年3月31日まで及び平成27年4月1日から平成27年6月30日までの各課税期間(以下「本件各課税期間」という。)のうちの個別の課税期間を、当該課税期間の終了する年月をもって略称表記する(例えば、平成23年10月1日から平成23年12月31日までの課税期間を「平成23年12月課税期間」という。)。

  • イ 請求人は、中華人民共和国などの取引先から、中華人民共和国現地スタッフのEなる者を介して日本製の化粧品や健康食品の注文を受けて、国内で商品を仕入れ、当該商品を輸出する取引を行う個人事業者である。
     また、請求人は、平成22年12月24日に、消費税課税事業者届出書及び消費税課税期間特例選択届出書をD税務署長に提出し、消費税法第19条《課税期間》第1項第3号の規定の適用を受け、課税期間を3月ごとの期間に短縮された課税事業者である。
  • ロ 請求人は、本件各課税期間において、20万円を超える商品を郵便物として輸出するに際し、F社(旧G社)所定の伝票(以下「郵便発送伝票」という。)の「内容品の価格」欄に、取引先の要望に応じて、商品の合計額として20万円以下の金額を記載し、税関長に対する関税法第67条の規定に基づく申告(以下「輸出申告」という。)をせず、輸出許可書等の交付を受けることなく、関税法第76条第1項ただし書の規定に基づく税関職員の検査を経た後、輸出した。
     請求人が本件各課税期間において輸出した郵便物のうち、その現実の取引価格が20万円を超えるものの内容は、別表2のとおりである(以下、別表2記載の郵便物を「本件郵便物」、本件郵便物の輸出取引を「本件取引」、本件取引に係る商品を「本件商品」という。)。請求人は、本件郵便物について、輸出申告をせず、輸出許可書等の交付を受けていない。
     なお、請求人は、本件郵便物の郵便発送伝票の控えとともに、本件商品に関する商品名、数量、現実の取引価格などが記載された書類を保存していた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件取引について輸出免税規定の適用があるとして、別表1の「確定申告」欄のとおり課税標準額及び消費税額を○○○○円と記載するなどした本件各課税期間の消費税等の確定申告書を、それぞれD税務署長に提出した。
  • ロ 調査担当職員は、平成27年9月15日、請求人に対する税務調査(以下「本件調査」という。)を開始したが、本件調査において、本件郵便物に係る輸出許可書等の保存を確認することができなかった。
  • ハ D税務署長は、本件郵便物の現実の取引価格がいずれも20万円を超えているにもかかわらず、それらに係る輸出許可書等の保存が本件調査において確認できなかったことから、本件取引について、消費税法第7条第2項に規定する財務省令で定めるところにより証明がなされたものでない場合に該当し、輸出免税規定が適用されないとして(なお、本件各課税期間の消費税等の下記各更正処分の一部については、課税仕入れの計上時期に誤りがあることなども理由となっている。)、平成28年7月5日、本件調査に基づき、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の消費税等の各更正処分並びに平成23年12月課税期間、平成24年3月課税期間、平成24年6月課税期間、平成24年9月課税期間、平成24年12月課税期間、平成25年3月課税期間、平成25年6月課税期間、平成25年12月課税期間、平成26年6月課税期間、平成26年12月課税期間、平成27年3月課税期間及び平成27年6月課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
     なお、本件各課税期間の消費税等の上記各更正処分のうち、平成25年9月課税期間、平成26年3月課税期間及び平成26年9月課税期間の消費税等の各更正処分(以下「本件各減額更正処分」という。)は、別表1の「更正処分等」欄のとおり、課税標準に係る消費税額の加算額より控除対象仕入税額の加算額が多かったことから、還付金の額に相当する税額を増額するものである(以下、本件各課税期間の消費税等の上記各更正処分から、本件各減額更正処分を除いた各更正処分を「本件各更正処分」という。)。
  • ニ 請求人は、原処分を不服として、平成28年10月4日に審査請求をした。

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2 争点

本件取引について、輸出免税規定が適用されるか。

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3 争点についての当事者の主張

原処分庁 請求人
1 関税法第76条第1項に規定する郵便物とは、その価格が20万円以下の郵便物(以下「簡易郵便物」という。)をいい、簡易郵便物に該当するか否かは、輸出しようとする者の申告額ではなく、現実の取引価格が基準とされる。そして、本件郵便物の現実の取引価格が20万円を超えることから、本件郵便物は、簡易郵便物に該当しない。
 したがって、本件取引について輸出免税規定が適用されるためには、輸出許可書等の保存が必要であるところ、請求人は、輸出許可書等の交付を受けていないことから、本件取引については、輸出免税規定が適用されない。
1 郵便物の価格の査定は関税法に委ねられており、簡易郵便物の該当性に関する認定の調査権限は税関長にある。本件郵便物は、その現実の取引価格が20万円を超えていたとしても、郵便発送伝票に20万円以下の価格が記載され、税関長の管理の下、何ら指摘を受けず輸出された以上、簡易郵便物として輸出されたことになる。
 したがって、本件取引については、輸出許可を受ける必要がないので、輸出許可書等の保存がないのは当然のことであり、簡易郵便物として、輸出許可書等の保存がなくても、輸出免税規定が適用される。
2 本件取引について輸出免税規定が適用されるためには、請求人が輸出許可書等を保存していればよかったのであり、輸出免税規定が適用されないのは、請求人が自ら導いた結果である。 2 消費税は、世界的に消費地課税主義の原則が採られており、この原則に則って、物品の輸出、輸出に類する取引について免税されることになったものであることから、本件取引について輸出免税規定を適用しないことは、消費地課税主義に反し、仕向地との間で二重課税が生じることになる。

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4 当審判所の判断

(1) 本件各減額更正処分の取消しを求めることの適法性について

請求人は、本件各減額更正処分の取消しを求めるが、本件各減額更正処分は、不利益処分ではなく、請求人には、その取消しを求める利益がない。なぜなら、更正処分が不利益処分に当たるかどうかは、更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、本件各減額更正処分は、上記1の(4)のハのとおり、消費税等の還付金の額を増加させる処分であり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないからである。
 よって、請求人の本件各減額更正処分を対象とした審査請求は、不服申立ての利益を欠く不適法なものとして、却下すべきである。
 なお、請求人は、本件各減額更正処分の違法事由として理由付記がないことを主張するが、行政手続法第14条第1項本文は、行政庁は、不利益処分をする場合には、当該不利益処分の理由を示さなければならないとしているところ、本件各減額更正処分は、上記のとおり不利益処分に当たらないことから、理由付記を要さない。

(2) 争点(本件取引について、輸出免税規定が適用されるか)について

  • イ 検討
    • (イ) 消費税法第7条第1項第1号、同条第2項及び規則第5条第1項第1号、同項第2号は、輸出取引について、原則として、輸出許可書等の一定期間の保存を輸出免税規定の適用要件とするが、「郵便物(その価格が20万円を超えるものを除く。)」(簡易郵便物)として資産を輸出した場合(規則第5条第1項第2号)には、輸出許可書等の保存に代えて所定の事項を記載した帳簿等の保存を輸出免税規定の適用要件としている。
       ここで、ある郵便物が簡易郵便物に該当するか否かは、その現実の取引価格が20万円を超えるか否かで決すべきものと解される。その理由は、1関税法施行令第58条第1号、第59条の2第2項が、要するに、輸出しようとする貨物について税関長に申告すべき「価格」(関税法第67条)を、現実の取引価格を基準とした本船甲板渡し価格とする旨規定していることからすると、簡易郵便物につき同項を適用しない旨定めた同法第76条第1項の(郵便物の)「価格」という文言についても、同法第67条の「価格」、すなわち本船甲板渡し価格に準じて、現実の取引価格であると解されること、2関税法が、簡易郵便物の発送につき輸出申告を不要とし、その余の郵便物の発送につき輸出申告を必要としている趣旨が、民間業者による国際貨物運送(同法第67条により輸出申告が必要)との格差の是正や、テロ対策等の観点から輸出入者及び貨物に係る管理強化であること(当審判所の調査の結果)からすると、簡易郵便物に該当するか否かの判断は、輸出申告の必要性の高い郵便物か否かという観点からされるべきであり、その意味でも、郵便物の現実の取引価格を基準とすることが相当と解されることである。
       なお、簡易郵便物として資産を輸出した場合(規則第5条第1項第2号)に当たるか否かは、当該郵便物が現実に簡易郵便物として扱われたか否かにかかわらず、簡易郵便物として資産を輸出すべきか否か、すなわち当該郵便物が簡易郵便物に該当するか否かにより判断すべきである。なぜなら、簡易郵便物として資産を輸出した場合(規則第5条第1項第2号)に当たるか否かについて、仮に、当該郵便物が簡易郵便物に該当するか否かにかかわらず、当該郵便物が現実に簡易郵便物として扱われたか否かにより判断するとすれば、郵便物の現実の取引価格が20万円を超えるにもかかわらず、その価格が20万円以下であると偽り、簡易郵便物として扱わせて輸出申告をしないということを是認することにつながり、同号や関税法第67条等による規制の趣旨を没却し、相当ではないからである。
       以上によれば、郵便物として資産を輸出した場合、当該郵便物の現実の取引価格が20万円を超えるならば、簡易郵便物として資産を輸出したこと(規則第5条第1項第2号)には該当せず、当該郵便物に係る輸出許可書等の一定期間の保存がない限り、当該郵便物の輸出取引について輸出免税規定は適用されないものと解される。
    • (ロ) これを本件についてみると、本件郵便物の現実の取引価格は、いずれも20万円を超えているので(上記1の(3)のロ)、本件取引は、簡易郵便物として資産を輸出した場合には該当しない。よって、本件郵便物に係る輸出許可書等の一定期間の保存がない限り、本件取引について輸出免税規定が適用されないところ、請求人は、本件郵便物についてそもそも輸出申告をしておらず、輸出許可書等の交付を受けていないから(同ロ)、請求人は、本件郵便物に係る輸出許可書等の一定期間の保存をしていない。
       したがって、本件取引については、輸出免税規定が適用されない。
  • ロ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、簡易郵便物の該当性に関する認定の調査権限は税関長にあるので、本件郵便物は、現実の取引価格が20万円を超えていたとしても、郵便発送伝票に20万円以下の価格が記載され、上記権限を有する税関長の管理の下、何ら指摘を受けず輸出されたことにより、簡易郵便物として輸出されたことになるとして、本件取引について、輸出許可書等の保存がなくても輸出免税規定が適用される旨主張する。
       しかしながら、上記イの(イ)のとおり、郵便物として資産を輸出した場合、当該郵便物の現実の取引価格が20万円を超えるならば、簡易郵便物として資産を輸出したこと(規則第5条第1項第2号)には該当せず、税関長の輸出許可書等の一定期間の保存がない限り、輸出免税規定は適用されないものと解すべきである。そうすると、税関長が、現実の取引価格が20万円を超える郵便物を簡易郵便物として輸出する際に、当該郵便物が簡易郵便物に該当しないことを指摘しなかったとしても、これによって、輸出許可書等の一定期間の保存がない場合の輸出免税規定の適用の可否が左右されるものではないから、請求人の主張は採用することができない。
    • (ロ) 請求人は、輸出取引である本件取引について輸出免税規定を適用しないことは、消費地課税主義に反し、仕向地との間で二重課税が生じることとなるのであるから、輸出免税規定が適用されるべきである旨主張する。
       しかしながら、本件取引について輸出免税規定の適用がないことは上記イのとおりである。請求人の主張する事情は、要するに、簡易郵便物以外の郵便物の輸出免税規定の適用について輸出許可書等の一定期間の保存を要件とする立法政策に対する独自の解釈にすぎず、上記イの判断を左右するものではない。
       また、上記1の(3)のロによれば、請求人は、本件郵便物の現実の取引価格が20万円を超えることを認識しながら、郵便発送伝票に20万円以下の金額を虚偽記載して簡易郵便物として輸出し、輸出申告を怠ったものであることが認められる。その結果として、本件取引について、輸出許可書等の一定期間の保存がないことから輸出免税規定の適用を否定され、仕向地との間で二重課税が生じたとしても、それは、請求人自身の上記虚偽記載の結果によるものにすぎないから、請求人の主張する事情は、本件取引について輸出免税規定を適用すべき事情とはいえない。
       よって、請求人の主張は採用することができない。

(3) 原処分(本件各減額更正処分を除く。)の適法性について

  • イ 本件各更正処分について
     上記(2)で説示したとおり、本件取引には輸出免税規定が適用されないことから、本件取引の取引金額から消費税等の額に相当する額を控除した金額(別表2の「本件郵便物の取引価格(税込金額)」の「合計金額」欄を税抜処理した金額)は、本件各課税期間の消費税の課税標準額に算入されることになる。これに基づき算出した本件各課税期間の納付すべき消費税等の合計額はいずれも、別表1の「更正処分等」欄に記載された金額と同額であると認められる。
     なお、請求人は、要するに、本件各減額更正処分に理由付記がなされていないため、その前後の課税期間の消費税等の本件各更正処分も効力を有しない旨主張するが、上記(1)のとおり、本件各減額更正処分は理由付記を要するものではないから、請求人の主張は採用することができない。
     また、本件各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。
  • ロ 本件各賦課決定処分について
     上記イのとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、本件各賦課決定処分を不相当とする理由は認められない。したがって、本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(4) 結論

よって、本件審査請求のうち、本件各減額更正処分に対する審査請求についてはいずれも不適法であるのでこれらを却下し、その他の審査請求については理由がないのでこれらを棄却する。

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