(平成30年2月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、亡養母に課されるべき相続税の納付義務を承継した審査請求人M及び同D(以下、順に「請求人M」及び「請求人D」といい、両者を併せて「請求人ら」という。)が、原処分庁の調査を受けて当該相続税の修正申告書を提出したところ、原処分庁から国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとして重加算税の各賦課決定処分を受けたが、請求人らには隠ぺい又は仮装と評価できる行為はないとして、当該各処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令の要旨

通則法第68条第1項は、通則法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、政令で定めるところにより、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 被相続人及び請求人らの状況等
    • (イ) 請求人らの異母弟であるE(以下「本件被相続人」という。)は、平成27年5月○日に死亡し、相続が開始した(以下、当該相続を「本件相続」という。)。本件相続に係る相続人は、本件被相続人の実母であるF(以下「相続人F」という。)のみである。
       なお、相続人Fは、本件相続の開始前から○○であった。
    • (ロ) 請求人ら及び相続人Fは、平成27年○月○日に、それぞれ相続人Fを養母とする養子縁組をした。
    • (ハ) 相続人Fは、平成28年6月○日に死亡し、相続が開始した。この相続に係る共同相続人は、請求人ら2名のみで、その法定相続分は各2分の1である。
  • ロ 請求人らによる本件相続に係る財産の確認
    • (イ) 相続人F及び請求人らは、本件被相続人の存命が危ぶまれた平成27年1月頃から、本件被相続人が亡くなった際の財産の確認や相続税の手続について話合いを重ね、その結果、相続人Fに代わり、請求人らがこれらの確認や手続を行うこととした。
    • (ロ) 本件被相続人は、生前G病院に入院しており、その際、請求人Mは、本件被相続人から、財産管理等をパソコンで行っていることを聞いており、また、請求人Dは、本件被相続人から、H銀行○○支店の本件被相続人名義のキャッシュカードを預かるとともに、その暗証番号を聞いていた。
    • (ハ) 請求人らは、平成27年5月○日から同月○日までの間、上記(ロ)のキャッシュカードを使用して、H銀行○○支店の本件被相続人名義の普通預金口座(口座番号は○○○○であり、以下「本件預金口座」という。)から毎日50万円の現金を出金した(出金額は、本件相続の開始前が100万円、本件相続の開始後が250万円の合計350万円であり、以下、この現金を「本件現金」という。)。
    • (ニ) 請求人Mは、平成27年5月○日、本件被相続人のパソコンに保存されていた本件被相続人の財産の内容等が記録されている各種ファイル(以下「本件各ファイル」という。)をUSBメモリに保存した(以下、本件各ファイルを保存したUSBメモリを「本件USBメモリ」という。)。
       なお、本件各ファイルの中には、金融機関別の金融資産の残高などが記録されているファイル(ファイル名「銀行口座残高」。以下「本件残高ファイル」といい、その内容は別表1のとおりである。)及び各種のIDやパスワードなどが記録されているファイル(ファイル名「○○○○」)が含まれていた。
    • (ホ) 請求人らは、上記(ロ)及び(ニ)のほか、本件相続の開始後、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の法定申告期限までの間に、本件被相続人が所有する不動産に係る固定資産税の通知書、株式の配当金に係る通知書、預貯金通帳及びキャッシュカードなどの本件相続に関係があると思われる書類等を把握した。
  • ハ 本件相続に係る弁護士への財産調査依頼及び期限内申告書の提出等
    • (イ) 請求人Mは、平成27年6月18日、J法律事務所(以下「本件法律事務所」という。)に所属するK弁護士(以下「本件弁護士」という。)に、本件相続に係る財産の調査や本件被相続人の預貯金等の解約手続等を依頼した。
    • (ロ) 本件弁護士は、本件相続税の法定申告期限までに本件相続に係る財産の調査が完了しなかったことから、本件弁護士が作成した本件相続税の申告書の下書及び「まだ財産調査中で、おそらく、相続税が発生するので、とりあえず申告に来ました。後日、修正申告します。」などと記載したメモ(以下「本件メモ」という。)等を請求人Dに交付した。
    • (ハ) 相続人Fは、本件相続税について、別表2の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に提出し、申告した(以下、当該申告書を「本件当初申告書」という。)。本件当初申告書には、本件相続に係る財産として、土地及び建物のみが記載されており、これ以外の財産や債務及び葬式費用などは記載されていなかった。
       なお、本件当初申告書は、請求人DがN税務署の窓口で提出したものであり、本件当初申告書には、本件メモ等が添付されていた。
    • (ニ) 請求人らは、相続人Fが平成28年6月○日に死亡したことにより、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項及び第2項の規定に基づき、相続人Fに課されるべき本件相続税の納付義務を、各2分の1の割合で承継した。
  • ニ 原処分に係る調査及び修正申告書等の提出
    • (イ) 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、請求人らに対し、それぞれ通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項の規定に基づく事前通知をした上で、請求人Mについては平成28年10月19日に、請求人Dについては同月20日に、それぞれの自宅で面接し、本件相続税に係る調査を開始した(以下、本件相続税に係る一連の調査を「本件調査」という。)。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、本件調査の結果、本件当初申告書に記載された土地及び建物の評価に誤りがあること、有価証券及び預貯金等が申告漏れとなっていることなどを把握した。
       そして、本件調査担当職員は、平成28年12月8日に、請求人らに対し、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項及び第3項の規定に基づき、本件調査に係る調査結果の内容を説明するとともに、修正申告を勧奨した。
    • (ハ) 請求人らは、平成28年12月12日に、「納税義務等の承継に係る明細書」を添付した上で、別表2の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
  • ホ 原処分及び審査請求
    • (イ) 原処分庁は、申告漏れとなっていた本件相続に係る財産のうち、本件各ファイルなどを基に把握した財産(以下「本件財産」といい、その内訳は別表3のとおりである。)を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすと判断し、請求人らに対し、平成29年1月16日付で、別表2の「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
    • (ロ) 請求人らは、平成29年4月13日に、本件各賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めて審査請求をした。
       なお、請求人らは、請求人Mを総代として選任し、その旨を平成29年7月19日に当審判所に届け出た。

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2 争点

相続人Fが本件財産を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たすか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人ら
請求人らの行為は、下記(1)のとおり、相続人Fの行為と同視できるところ、請求人らは、下記(2)及び(3)のとおり、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づき過少申告したものと認められるから、本件財産を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。 請求人らの行為は、下記(1)のとおり、相続人Fの行為と同視できないし、また、請求人らには、下記(2)及び(3)のとおり、隠ぺい又は仮装と評価できる行為はないから、本件財産を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件は満たさない。
(1) 請求人らの申述によれば、相続人Fは、本件相続に係る財産の確認や本件相続税の申告手続を請求人らに委任したものといえるから、請求人らの行為は、相続人Fの行為と同視できる。 (1) 請求人らは、○○であった相続人Fに代わり、本件相続に係る財産の確認や本件相続税の申告手続をしたにすぎず、相続人Fが、請求人らに対し、これらに関する明確な委任の意思表示をしたことはない。
(2) 請求人らは、本件被相続人の自宅において把握した株式の配当金に係る通知書、預貯金通帳、キャッシュカード及び本件残高ファイルを含む本件各ファイルにより、本件財産が本件被相続人の財産であり、これを申告しなければならないことを十分認識していた。 (2) 請求人らは、本件被相続人の自宅において、株式の配当金に係る通知書、預貯金通帳、キャッシュカード及び本件残高ファイルを含む本件各ファイルを把握はしていたが、その詳細までは確認していない。
(3) それにもかかわらず、請求人らは、本件残高ファイルを含む本件各ファイルが保存された本件USBメモリを、相続税を安くする目的を持って、本件弁護士に渡すことなく、また、請求人らが本件相続の開始直前に本件被相続人の本件預金口座から現金を出金したことも本件弁護士に伝えなかった。
 加えて、請求人Mは、本件USBメモリを本件弁護士に渡していないにもかかわらず、本件調査において、本件調査担当職員に対し、これを本件弁護士に渡したなどと、事実と異なる申述をした。
(3) 請求人らは、本件弁護士に、本件相続に係る関係書類や本件USBメモリを渡している。また、請求人らが本件預金口座から出金した本件現金は、本件被相続人の葬式費用などに充てるためのものであり、請求人らは、本件弁護士から本件相続の開始前後の現金出金について尋ねられなかったため伝えていないにすぎず、請求人らに相続税を安くする意図や目的はない。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

通則法第68条第1項に規定する重加算税の制度は、納税者が過少申告をすることについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

請求人ら提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。

  • イ 本件弁護士への本件USBメモリの交付の有無に関する事実
    • (イ) 請求人Mが本件弁護士に依頼した経緯等
      • A 請求人Mは、平成27年6月16日に、本件法律事務所に電話し、本件相続に係る法律相談をしたい旨伝え、同月18日に本件法律事務所を訪れることとなった。その際、本件法律事務所の職員が作成したメモには、「弟死亡、相続、PC内に預金マンション関係データがある様子、どうしたら?」と記載されている。
      • B 請求人Mは、平成27年6月18日に、本件法律事務所において、本件弁護士と面談し、本件相続に係る相続手続全般についての依頼をした。その際、請求人Mは、本件弁護士に、本件相続に係る相続関係図、前記1の(3)のロの(ニ)の「○○○○」ファイルを印刷した書面、本件預金口座に係る通帳を含む本件被相続人名義の預金通帳及びキャッシュカード並びにL証券との取引に係る書類などの本件被相続人の財産に係る書類等を交付した。
    • (ロ) 本件法律事務所のサーバに保存されたファイル
       本件法律事務所のサーバには、フォルダ名を「M」とするフォルダが保存されており、その中には、フォルダ名を「○○○○」とするフォルダが保存されている。当該「○○○○」フォルダの中には、本件被相続人の財産等に関する各フォルダや本件各ファイルが保存されており、それらの構成や内容は、本件USBメモリの「○○○○」フォルダに保存されているものと全く同じである。
       また、本件法律事務所のサーバに保存された「M」フォルダ内の各フォルダの更新日時は、いずれも平成27年6月22日午後6時27分ないし28分である。
  • ロ 本件現金の使途等に関する事実
    • (イ) 請求人らは、前記1の(3)のロの(ハ)のとおり、本件預金口座から本件現金を出金した。
       そして、請求人Dは、本件現金を管理していたところ、本件被相続人が死亡した後、本件被相続人の入院費用その他の債務の弁済や葬式費用等に充てるなどし、これら本件現金の使途を日記帳に記載していた。
    • (ロ) 請求人Dは、本件弁護士から手持ちの現金について尋ねられなかったこともあり、本件当初申告書の提出日までに、本件弁護士に本件現金のことを伝えたことはなかったが、相続人Fが死亡した頃に、本件弁護士に本件現金のことを伝えるとともに、上記(イ)の日記帳を提示した。
  • ハ 本件調査時における本件弁護士及び請求人らの応答状況
    • (イ) 本件弁護士は、本件調査担当職員に対し、請求人Mから本件USBメモリを受領していない旨申述した。
    • (ロ) 請求人Mは、本件調査担当職員に対し、当初は、本件弁護士に本件USBメモリを渡した旨申述したものの、最終的には、本件弁護士に本件USBメモリを渡さなかった旨申述した。
    • (ハ) 請求人Dは、本件調査担当職員に対し、上記ロの(イ)の日記帳を提示した。その際、請求人Dが当該日記帳の提示を拒否することはなかった。
  • ニ 当審判所に対する本件弁護士及び請求人Mの各答述
    • (イ) 本件弁護士は、本件調査時における上記ハの(イ)の申述内容は誤りであり、本件USBメモリは請求人Mから受領している旨、具体的には、上記イの(イ)のBの面談の際、請求人Mに対し、「○○○○」ファイルのほかにデータがないか確認し、当該面談の際かその数日後に本件USBメモリを受領したので、本件法律事務所のサーバにデータを移した旨答述する。
       また、本件弁護士は、請求人らが本件各賦課決定処分を受けることになったのは、請求人Mから依頼を受けた本件相続に係る財産調査等に時間が掛かってしまったことが原因であり、請求人らは、意図的に財産を隠したものではないと考えている旨答述する。
    • (ロ) 請求人Mは、本件調査時における上記ハの(ロ)の最終的な申述内容は誤りであり、本件USBメモリを本件弁護士に渡した旨答述する。

(3) 検討

  • イ 本件弁護士への本件USBメモリの交付の有無について
    • (イ) 本件弁護士は、上記(2)のハの(イ)のとおり、本件調査の際、請求人Mから本件USBメモリを受領していない旨申述したが、当審判所に対しては、上記(2)のニの(イ)のとおり、この申述内容は誤りであり、本件USBメモリは請求人Mから受領していた旨答述する。
       そこで、以下、本件弁護士の上記申述及び答述の信用性について検討する。
    • (ロ) 上記(2)のイの(イ)の各事実によれば、本件弁護士は、本件法律事務所の職員が作成したメモにより、請求人Mが本件被相続人の相続財産に関するデータを把握している可能性を認識していたと認められるから、「○○○○」ファイルを印刷した書面の交付を受けた際、ほかに本件財産に関するデータがないか確認するというのは自然な流れといえる。
       また、上記(2)のイの(ロ)の事実に加えて、当審判所の調査及び審理の結果によっても、本件法律事務所のサーバに保存された「M」フォルダ内の各フォルダの更新日時の信用性を疑わせる事情は見当たらないことにも照らせば、本件弁護士が、平成27年6月22日に、本件USBメモリに保存された「○○○○」フォルダ内の各フォルダ及び各ファイルを、機械的に本件法律事務所のサーバ内の「M」フォルダ内にコピーして保存したことが推認できる。
       そうすると、上記(2)のニの(イ)の当審判所に対する本件弁護士の答述は、以上検討したところと整合し、信用できるものであり、事実に反する上記(2)のハの(イ)の申述内容を訂正したものとみるのが相当である。
    • (ハ) そして、当該答述に上記(ロ)の推認できる事実も併せると、請求人Mは、少なくとも平成27年6月18日以降、同月22日までの間に、本件弁護士に対し、本件USBメモリを交付したと認められる。
  • ロ 本件現金について
     前記1の(3)のロの(ハ)のとおり、請求人らは、本件被相続人が亡くなる前後の7日間にわたり、本件預金口座から本件現金を出金しているところ、上記(2)のロの(イ)のとおり、本件現金を管理していた請求人Dが、本件現金を本件被相続人の入院費用その他の債務の弁済や葬式費用等に充て、その旨を当時所持していた日記帳に記載していたことに加え、本件現金は350万円であり、当該日記帳に記載されている内容におおむね見合う金額であると認められることからすると、請求人らは、これら当面の出費のために本件現金を出金したものとみるのが相当である。
     そして、請求人らは、本件弁護士に対し、本件当初申告書の提出日までに、本件預金口座から本件現金を出金したことを明示的に伝えたとは認められないものの、1請求人らは、上記のとおり、本件被相続人の入院費用や葬式費用等に係る当面の出費のために本件現金を出金したものと認められること、2請求人Mが、本件弁護士に相続手続を依頼した際、本件現金の出金が容易に判明する本件預金口座に係る通帳を交付していること(上記(2)のイの(イ)のB)に加え、3請求人Dが、相続人Fが死亡した頃、本件弁護士に対して当該日記帳を提示し本件現金について伝えていること(上記(2)のロの(ロ))や、本件調査において、本件調査担当職員に対して、本件現金の使途を記載した日記帳を何ら拒否することなく提示していること(上記(2)のハの(ハ))も併せ鑑みると、請求人らが、当該出金の事実を本件弁護士に秘匿するために、その事実を明示的に伝えなかったものと評価することはできない。
  • ハ 小括
      以上のとおり、請求人Mは、本件弁護士に対して本件USBメモリを交付していたものと認められ、また、請求人らは、本件預金口座から本件現金を出金した事実を本件弁護士に秘匿するために、その事実を明示的に伝えなかったものと評価することはできず、その他、当審判所の調査及び審理の結果によっても、請求人らに、「当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」があったことをうかがわせる事情は見当たらない。
     結局、本件は、請求人らが、本件弁護士に対し、本件相続に係る財産の調査に必要な資料として本件USBメモリ等を交付し、当該調査等を依頼したが、本件弁護士が、本件相続税の法定申告期限間近になっても全ての財産調査を完了することができなかったことから、請求人Dは、本件弁護士の助言に従い、相続人Fに代わって本件メモを添付して本件当初申告書を提出し、その後、請求人らが本件調査を受けるまでの間に修正申告に至らなかったことについても、上記(2)のニの(イ)の本件弁護士の答述にあるように、本件相続に係る財産調査等に時間が掛かってしまったことによるものとみるのが相当であり、請求人らが当初から本件相続税を免れる目的で過少申告をしたとか、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものと評価することはできない。
     したがって、請求人らの行為が相続人Fの行為と同視できるか否かを判断するまでもなく、相続人Fが本件財産を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件は満たさない。

(4) 原処分庁の主張について

原処分庁は、前記3の「原処分庁」欄の(2)及び(3)のとおり、請求人らは、本件財産を申告しなければならないと認識していたにもかかわらず、相続税を安くする目的の下、本件USBメモリを本件弁護士に渡さず、請求人らが本件現金を出金したことも本件弁護士に伝えなかった上、請求人Mは、本件調査の際、本件USBメモリを本件弁護士に渡した旨の事実と異なる申述をした旨主張する。
 しかしながら、請求人らが本件財産につきどのような認識を有していたかはともかくとして、上記(3)のイのとおり、請求人Mは、本件弁護士に本件USBメモリを交付していたのであるし、上記(3)のロのとおり、請求人らが、本件現金の出金の事実を本件弁護士に秘匿するために、その事実を明示的に伝えなかったと評価することもできない。また、請求人Mは、上記(2)のハの(ロ)のとおり、本件調査の際、当初、本件USBメモリを本件弁護士に渡した旨申述したが、請求人Mは本件弁護士に本件USBメモリを交付していたのであるから、これは事実に合致した申述であって、原処分庁が主張するような事実と異なる申述との評価は当たらない。
 なお、上記(2)のハの(ロ)及びニの(ロ)のとおり、請求人Mは、本件調査担当職員に対して最終的には本件USBメモリを本件弁護士に渡さなかった旨申述し、当審判所に対しては本件USBメモリを本件弁護士に渡した旨答述するが、これは、事実に反する申述内容を訂正し、改めて事実に合致する答述をしたものとみるのが相当である。
 したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(5) 本件各賦課決定処分の適法性について

上記(3)のとおり、相続人Fが本件財産を申告しなかったことについて、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件は満たさず、他方、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。そして、当審判所において、本件相続税の過少申告加算税の額を計算すると、別紙2及び別紙3の各「取消額等計算書」のとおりであると認められる。
 なお、本件各賦課決定処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分はいずれも違法である。

(6) 結論

以上によれば、審査請求には理由があるから、原処分の一部を別紙2及び別紙3の各「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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