(平成30年2月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、設立2期目の事業年度について、消費税の納税義務が免除されるとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を提出しなかったところ、原処分庁が、当該設立2期目の事業年度の前事業年度開始の日以後6月の期間における課税売上高が1,000万円を超えていることなどから、消費税の納税義務は免除されないとして、消費税等の決定処分等を行ったことに対し、請求人が、当該設立2期目の事業年度には基準期間が存在しないから、消費税の納税義務が免除されるとして原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第1項第14号は、基準期間とは、法人についてはその事業年度の前々事業年度をいう旨規定している。
  • ロ 消費税法第5条《納税義務者》第1項は、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある旨規定している。
  • ハ 消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項は、事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同法第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨規定し、ただし書において、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない旨規定している。
  • ニ 消費税法第9条の2《前年又は前事業年度等における課税売上高による納税義務の免除の特例》第1項は、法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、当該法人のうち、当該法人のその事業年度に係る特定期間における課税売上高が1,000万円を超えるときは、当該法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、同法第9条第1項本文の規定は適用しない旨規定している。
  • ホ 消費税法第9条の2第3項は、同条第1項の規定を適用する場合においては、同項の法人が同項の特定期間中に支払った所得税法第231条《給与等、退職手当等又は公的年金等の支払明細書》第1項に規定する支払明細書に記載すべき同項の給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額をもって、消費税法第9条の2第1項の特定期間における課税売上高とすることができる旨規定している。
  • ヘ 消費税法第9条の2第4項は、同条第1項ないし第3項に規定する特定期間とは、その事業年度の前事業年度がある法人の場合には、当該前事業年度開始の日以後6月の期間をいう旨規定している。
  • ト 消費税法第12条の2《新設法人の納税義務の免除の特例》第1項は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人については、当該法人の基準期間がない事業年度に含まれる各課税期間(同法第9条の2第1項の規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等については、同法第9条第1項本文の規定は、適用しない旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成25年4月○日、貴金属製品の加工及び販売等を目的に資本金の額を500万円として設立された法人であり、その事業年度は4月1日から3月31日までである。
  • ロ 請求人の設立2期目の事業年度である平成26年4月1日から平成27年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)に係る基準期間はないが、請求人の平成25年4月○日から平成25年9月30日までの期間(以下「本件期間」という。)における課税売上高及び消費税法第9条の2第3項に規定する給与等の金額に相当するものとして財務省令で定めるものの合計額(以下「本件給与等支払額」という。)はいずれも1,000万円を超えていた。
  • ハ 請求人は、本件課税期間の消費税等について、原処分庁に確定申告書を提出しなかった。
  • ニ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人の本件課税期間における課税資産の譲渡等については、消費税法第9条の2第1項の規定により、同法第9条第1項本文の規定は適用されないとして、平成29年1月16日付で、本件課税期間の消費税等について、別表の「決定処分等」欄のとおり決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と併せて「本件決定処分等」という。)をした。
  • ホ 請求人は、本件決定処分等に不服があるとして、平成29年3月23日に審査請求をした。

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2 争点

請求人は、本件課税期間において消費税法第9条の2第1項の規定が適用されるか否か。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
事業者は国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務があるところ、消費税法第9条第1項では、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、別段の定めがある場合を除き、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨を規定している。
 他方、消費税法第9条の2第1項は、事業者のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合で、その事業年度に係る特定期間における課税売上高又は給与等支払額の金額が1,000万円を超える場合には、同法第9条第1項本文の規定を適用しない旨規定している。
 そして、消費税法基本通達1−4−6《新規開業等した場合の納税義務の免除》は、消費税法第9条第1項本文の規定の適用があるかどうかは、事業者の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であるかどうかによって判定するところ、例えば、新たに設立された法人のように、当該課税期間について基準期間がない場合には、納税義務が免除されるが、当該法人が同法第9条の2第1項の規定の適用を受ける場合には、当該課税期間における納税義務は免除されない旨を定めている。
 上記の各規定等からすると、事業者のその事業年度の基準期間がない場合であっても、当該事業者の特定期間における課税売上高又は給与等支払額が1,000万円を超える場合には、消費税法第9条の2第1項が適用され、消費税の納税義務は免除されない。
 そうすると、請求人の本件課税期間に係る基準期間はないところ、本件課税期間の特定期間に該当する本件期間の課税売上高及び本件給与等支払額は1,000万円を超えていることから、消費税法第9条の2第1項の規定により、同法第9条第1項本文は適用されない。したがって、請求人は、本件課税期間において、消費税の納税義務は免除されない。
消費税法第9条の2第1項の規定は、「法人のその事業年度の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合において」と限定されており、同項の規定を条文に沿って解釈すれば、その事業年度の基準期間がない場合については、同項の適用はない。本件課税期間は、設立2期目の事業年度で、その事業年度の基準期間がない場合に該当することから、同項の規定は適用されない。
 また、消費税法第9条の2第4項において、「特定期間」について定義をしているが、同項が指している「前3項」は課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合の規定であり、基準期間がない請求人においては、そもそも「特定期間」はないと解される。
 そして、その事業年度の基準期間がない場合には、消費税法第12条の2第1項の適用がなければ、同法第9条第1項本文が適用されるところ、請求人の本件課税期間に係る事業年度開始の日における資本金の額は1,000万円未満であるから、同法第12条の2第1項の適用はなく、同法第9条第1項本文が適用される。したがって、請求人は、本件課税期間において、消費税の納税義務が免除される。

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4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

  • イ 消費税法は、第5条第1項において、事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法により、消費税を納める義務があることを明確に規定した上で、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者については、同項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する旨の規定(同法第9条第1項本文)をおいている。しかし、この事業者免税点制度は、小規模零細事業者の事務負担への配慮、多数の納税者に対する税務執行への配慮等から定められたものであるから、消費税法第9条第1項ただし書は、別段の定めがある場合には、同項本文の規定の適用がないことを明らかにし、これを受けて、同法第12条の2第1項は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人について、当該事業年度における課税資産の譲渡等につき、同法第9条第1項本文の規定を適用しないこととしている。
     要するに、消費税法は、事業者が、国内において行った課税資産の譲渡等につき、同法第5条第1項により、消費税を納める義務があるとの原則を明確に定める一方、同法第12条の2第1項において、例外的にその納税義務を免除する規定である同法第9条第1項本文の規定は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円以上である法人には適用しないことをも明確に規定しているのである。
     したがって、消費税法第9条第1項本文に規定する「事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下である者」には、当然に「その事業年度の基準期間がない法人」も含まれることになる。そして、消費税法第9条の2第1項に規定する「法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合」についても、同法第9条第1項本文と別意に解する理由はないことから、「その事業年度の基準期間がない」場合が含まれることになる。
  • ロ また、消費税法第12条の2第1項は、その事業年度の基準期間がない法人のうち一定の法人について、同法第9条第1項本文の規定を適用しないこととなる課税期間を規定しているところ、同法第12条の2第1項の括弧書において、同条の適用がある法人の課税期間から同法第9条の2第1項の規定により納税義務が免除されないこととなる課税期間が除かれていることからすると、同法第12条の2第1項は、同法第9条の2第1項の適用対象にその事業年度の基準期間がない法人が含まれていることを前提に規定されており、このことをみても、同法第9条の2第1項の適用対象に、その事業年度の基準期間がない法人が含まれることは明らかである。
  • ハ そして、消費税法第9条の2は、事業者免税点制度が小規模零細事業者への事務負担への配慮等から定められた制度であるにもかかわらず、その事業年度の基準期間がない事業者については、1期目から相当の課税売上高がある場合であっても、実際に課税事業者となるのは3期目からとなることや、その事業年度の基準期間がない事業者に事業者免税点制度が適用されることを利用した租税回避等が散見されていたことを背景として、課税の適正化等の観点から措置されたものであるから、このような同条の立法趣旨からすれば、同条の適用対象に、その事業年度の基準期間がない法人が含まれることは明らかである。

(2) 当てはめ

上記(1)のとおり、消費税法第9条の2第1項に規定する「法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合」には、当然にその事業年度の基準期間がない場合が含まれ、同条の規定は、その事業年度の基準期間がない場合であっても適用されるところ、上記1の(3)のロのとおり、請求人の本件課税期間の特定期間に該当する本件期間における課税売上高及び本件給与等支払額は、いずれも1,000万円を超えていることから、同条第1項及び第3項の規定により、請求人の本件課税期間における課税資産の譲渡等については、同法第9条第1項本文の規定は適用されず、請求人の消費税の納税義務は免除されない。

(3) 請求人の主張について

請求人は、消費税法第9条の2第1項の規定は、「法人のその事業年度の基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合において」と限定されており、同項の規定を条文に沿って解釈すれば、その事業年度の基準期間がない場合には、同項の規定は適用されず、かつ、請求人の本件課税期間に係る事業年度開始の日における資本金の額は1,000万円未満であり、同法第12条の2第1項の規定の適用はないことから、同法第9条第1項本文の規定が適用され、請求人は、本件課税期間において、消費税の納税義務が免除される旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、消費税法第9条の2第1項は、その事業年度の基準期間がない場合であっても適用されるのであり、また、上記(1)のロのとおり、同項の規定が適用される場合には、同法第12条の2第1項の規定の適用はないことから、同項の要件に該当するか否かにかかわらず、消費税の納税義務は免除されない。したがって、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、請求人は、本件課税期間において、消費税の納税義務は免除されず、消費税等が課税されるところ、これに基づき算出した請求人の本件課税期間の納付すべき消費税等の額は、当審判所においても、本件決定処分における金額と同額であると認められる。
 なお、本件決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件決定処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件決定処分は適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。そして、当審判所においても、本件課税期間の無申告加算税の額は、本件賦課決定処分における無申告加算税の額と同額であると認められる。したがって、本件賦課決定処分は適法である。

(6) 結論

よって、審査請求は理由がないから、いずれも棄却することとする。

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