(平成30年6月22日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人A及び同D(以下「請求人ら」という。)が、債務者に対して有する金銭債権を保全するため、原処分庁に対し、当該債務者が行った贈与税の申告について各更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正の請求をすることができるのは納税申告書を提出した者に限られるとして、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をしたことから、請求人らが当該各通知処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第5条《相続による国税の納付義務の承継》第1項前段は、相続(包括遺贈を含む。)があった場合には、相続人(包括受遺者を含む。以下同じ。)は、その被相続人(包括遺贈者を含む。以下同じ。)に課されるべき、又はその被相続人が納付し、若しくは徴収されるべき国税を納める義務を承継する旨規定している。
  • ロ 通則法第16条《国税についての納付すべき税額の確定の方式》第2項第1号は、納税義務が成立する場合において、納税者が、国税に関する法律の規定により、納付すべき税額を申告すべきものとされている国税についての納付すべき税額の確定は、申告納税方式によりされる旨規定している。また、同条第1項第1号は、申告納税方式とは、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、その申告がない場合又は申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他当該税額が税務署長の調査したところと異なる場合に限り、税務署長の処分により確定する方式をいう旨規定している。
  • ハ 通則法第23条《更正の請求》第1項は、納税申告書を提出した者(その相続人その他当該提出した者の財産に属する権利義務を包括して承継した者を含む。)は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
     なお、同条第4項は、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。
  • ニ 通則法第126条は、国税に関する調査などに関する事務に従事している者が、これらの事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、又は盗用したときは、これを2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する旨規定している。
  • ホ 相続税法(平成30年法律第7号による改正前のもの。以下同じ。)第28条《贈与税の申告書》第1項は、贈与により財産を取得した者は、その年分の贈与税額があるときは、その年の翌年2月1日から3月15日までに、課税価格及び贈与税額等を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
  • ヘ 行政手続法第8条《理由の提示》第1項本文は、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、当該処分の理由を同時に示さなければならない旨規定し、同条第2項は、当該処分を書面でするときは、同条第1項の理由は、書面により示さなければならない旨規定している。
  • ト 民法第423条《債権者代位権》第1項本文は、債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に帰属する権利を行使することができる旨規定し、同項ただし書は、債務者の一身に専属する権利は、この限りではない旨規定している。
  • チ 民事執行法第155条《差押債権者の金銭債権の取立て》第1項は、金銭債権を差し押さえた債権者は、債務者に対して差押命令が送達された日から1週間を経過したときは、その債権を取り立てることができる旨規定している。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人らは、請求人らに対して金銭債務を有するE(以下「債務者E」という。)を被告として、F地方裁判所に対し、詐害行為取消権に基づき債務者Eの父であるGが平成24年1月○日にd市所在の土地を債務者Eに贈与した契約の取消しと、それぞれ1,930,786円の価格賠償を求める訴えを提起したところ、同裁判所は、平成29年4月○日、請求人らの訴えを全て認める旨の判決をし、同判決は平成29年5月○日に確定した。
  • ロ 請求人らは、債務者Eが第三債務者である国に対して有する贈与税の還付請求権の差押えをF地方裁判所に申し立て、同裁判所は、平成29年6月6日、国に対し、当該還付請求権の差押命令を行った。なお、当該差押命令は、同月7日に国へ送達された。
  • ハ 請求人らは、平成29年7月21日、原処分庁に対し、債務者Eが行った平成24年分の贈与税の申告について各更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
  • ニ 原処分庁は、平成29年10月31日付で、請求人らに対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。なお、本件各通知処分に係る各通知書(以下「本件各通知書」という。)に記載された処分の理由(以下「本件処分理由」という。)は、別紙2のとおりである。
  • ホ 請求人らは、原処分に不服があるとして、平成30年1月29日に審査請求をした。

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2 争点

  • (1) 本件処分理由の提示に不備があり原処分を取り消すべき違法があるか否か。(争点1)
  • (2) 請求人らは債権者代位権又は取立権に基づいて更正の請求をすることができるか否か。(争点2)

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3 争点についての主張

(1) 争点1(本件処分理由の提示に不備があり原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人ら
本件各通知書には、本件各更正の請求は債務者Eの平成24年分の贈与税に係る更正の請求を行う趣旨であると認められること、通則法第23条第1項は納税申告書を提出した者に限って更正の請求をすることができる旨規定し、請求人らは更正の請求をすることができる者に該当しないことが記載されていることから、いかなる事実関係に基づき、いかなる法規を適用して本件各更正の請求が拒否されたのかを、請求人らがその記載内容から了知し得る程度に処分の理由が記載されているものと認められる。
 そうすると、本件処分理由は、行政手続法第8条第1項の規定の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示したものであるから、原処分の理由提示に不備はなく、違法な点はない。
法令等は、各権利の行使の主体として代位債権者や取立権者をあえて規定することはない。通則法第23条第1項においても、更正の請求は、納税申告書を提出した者が主体となる旨規定しているが、この規定から、債権者が、債権者代位権の行使又は取立権の行使として更正の請求を行うことを「いかなる場合も一切禁止している」と解することはできず、請求人らが本件各更正の請求をすることができる者に該当しないというのであれば、債権者代位権又は取立権に基づいて更正の請求を行うことができない理由を原処分で示すべきであるが、それが示されていない。
 したがって、本件処分理由の提示には不備があり、行政手続法第8条第1項に違反していることから、原処分を取り消すべき違法がある。

(2) 争点2(請求人らは債権者代位権又は取立権に基づいて更正の請求をすることができるか否か。)について

請求人ら 原処分庁
債務者Eに対して債権者代位権又は取立権を有する請求人らが、当該権利の行使として、更正の請求をすることができることは明らかであり、原処分庁の主張には、以下のとおりいずれも理由がない。 以下の理由から、通則法は、納税者又は代理人以外の第三者による更正の請求を許容していないと解されることから、請求人らは、債権者代位権又は取立権に基づく更正の請求をすることはできない。
  • イ 請求人らは、債務者Eに対して詐害行為取消権を行使した本人であり、本件各更正の請求に関する事情に最も通じている。
  • ロ 債務者Eには、贈与税に係る課税標準及び税額等について、請求人らとの関係で保護に値する秘密はなく、そのようなことが守秘義務違反になるのであれば、債権執行を行う余地はほとんどなくなり、裁判による紛争の解決の意味が薄れ、民事訴訟制度の意義を根底から覆すことになりかねない。
     判決によって取消しの効果が発生している贈与税を、国が還付せずに保有し続ける理由はなく、差押命令が出ているにもかかわらず、詐害行為を行った本人が更正の請求をするなどということは通常考え難い。
     詐害行為を行った者の秘密の保護を理由として、差押債権者の権利を害するような解釈がされるということは、通則法の予定するところではない。
  • イ 通則法に規定する申告納税方式において、納税すべき税額が第一義的には納税者の申告により確定することとされているゆえんは、課税要件に関する事実関係に最も通じているのは納税者本人であり、納税申告により納税者は具体的な租税債務を負担することになるから、納税者自身の判断と責任において納税申告させることが最も適切であるからにほかならない。
     したがって、申告納税方式における納税申告を行うことができるのは、納税者本人のほか、その代理人に限られると解されている。
     そして、通則法は、納税申告書の記載内容の過誤の是正手続として、修正申告及び更正の請求の各手続を設けており、当該各手続は、それにより直接的又は間接的に税額が確定するという意味で、いずれも申告納税方式による国税の一体的な確定手続のひとつであるといえるのであり、納税者自身が行った当初の申告についての税額の過不足を認識して行われるものであるから、修正申告及び更正の請求は、納税申告と同様、納税申告書の内容及びそれが適正でなかったことについての事情に通じている納税者あるいはその代理人によってのみなされるべきものであり、第三者がこれらの手続を行うことは認められない。
  • ロ また、第三者が更正の請求をなし得るとした場合、更正の請求に係る課税標準等又は税額等を調査した結果を第三者に通知することになり、税務署長の行為は守秘義務との関係で弊害が生じ得る。

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4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件処分理由の提示に不備があり原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     行政手続法第8条第1項本文が、処分をする場合は同時にその理由を申請者に示さなければならないとしているのは、申請者の権利を制限するという処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。
     そして、行政手続法第8条第1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容、当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきところ、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がなされたのかを処分の相手方においてその提示内容自体から了知し得るものである必要があるというべきである。
  • ロ 検討
     本件処分理由は、別紙2のとおり、通則法第23条第1項は納税申告書を提出した者に限り更正の請求を行うことができる旨規定していること、本件各更正の請求は納税申告書を提出した者が行ったものではないこと、及び請求人らは更正の請求をすることができる者に該当しないことが示されたものであり、原処分庁の恣意抑制という理由提示の趣旨・目的を充足する程度に記載されたものといえるとともに、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して原処分がなされたのかを、その理由提示の記載自体から了知し得るものと認められ、不服申立ての便宜を与えるという理由提示の趣旨・目的にも欠けるところはないといえる。
     したがって、本件処分理由の提示に不備はなく、原処分を取り消すべき違法はない。
  • ハ 請求人らの主張について
     請求人らは、債権者代位権又は取立権に基づいて更正の請求を行うことができない理由を示すべきである旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、本件処分理由は、理由提示の趣旨・目的に欠けるところはない上、行政手続法第8条第1項の規定は、適用法令の解釈を示すことまでを求めているものとは解されていないことから、請求人らの主張には理由がない。

(2) 争点2(請求人らは債権者代位権又は取立権に基づいて更正の請求をすることができるか否か。)について

  • イ 検討
    • (イ) 贈与税は申告納税方式により納付すべき税額が確定する国税(上記1(2)ロ及びホ)であり、その納付すべき税額は、第一義的には贈与税の納税義務者(その者が死亡した場合にはその相続人(上記1(2)イ)。以下「贈与税の納税者」という。)が課税価格及び贈与税額等を記載した申告書を税務署長に提出することにより、その申告書に記載された税額が確定することとされている。
       そして、第二義的には、納税申告書の提出がない場合又は納税申告書に記載された税額が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合その他税務署長が調査したところと異なる場合に限り、税務署長の処分(通則法第25条《決定》の決定又は同法第24条《更正》の更正をいう。)により納付すべき税額が確定することとなる。
       すなわち、申告納税方式により納付すべき税額が確定する贈与税では、原則として贈与税の納税者の申告により納付すべき税額が確定し、税務署長による処分は補助的な地位に置かれているところ、その趣旨は、課税要件に関する事実関係に最も通じているのは贈与税の納税者本人であり、贈与税の納税者は納税申告により具体的な租税債務を負担することとなるから、贈与税の納税者自身の判断と責任において申告させることが最も適切であるからにほかならないと解される。
    • (ロ) 贈与税の納税者は、申告により確定した納付すべき贈与税額が過大であるときには、一定の期間内に限り税務署長に対して、その税額について更正をすべき旨を請求することができ、税務署長は、その請求があった場合には、その更正の請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知することとされている(上記1(2)ハ)。
       更正の請求の手続等を規定した通則法第23条第1項は、更正の請求をすることができる者として納税申告書を提出した者と規定しているところ、その趣旨は、上記(イ)のとおり、申告納税方式では、納付すべき税額は納税者自らの申告により確定することが原則とされており、その税額が過大であった場合の是正手続もまた、納税申告書を提出した者、すなわち贈与税の納税者自らが行うことが申告納税方式に適合するからであると解される。
       なお、納税申告書を提出した者が死亡した場合には、その相続人が更正の請求をすることが認められているが、これは納税者が死亡した場合には、その相続人が死亡した納税者(以下「被相続人」という。)の納税義務を承継する旨規定されている(上記1(2)イ)ことから、その相続人が納税者となり、被相続人の有していた税法上の地位を承継し被相続人の国税に係る申告や更正の請求等の主体となるからである。
    • (ハ) 贈与税の更正の請求は、申告納税方式の一環として贈与税の納税者自らの請求によって申告により確定した贈与税額の是正を認めたものであり、通則法及び相続税法の規定上も、贈与税の更正の請求をすることができる者は贈与税の納税者に限られており、それ以外の者が更正の請求をすることができることを規定した法令は存在しない。
       なお、付言すると、更正の請求を受けた税務署長が調査をした結果の通知先はその請求をした者であり(上記1(2)ハ)、仮に納税者の債権者等の第三者が更正の請求をすることができるとすると、その通知先は当該第三者となるところ、更正をした場合には納税者の課税標準等又は税額等に係る情報を当該第三者に知らせることになり、通則法第126条及び国家公務員法第100条《秘密を守る義務》第1項に規定する守秘義務に抵触するにもかかわらず、その解除を規定した法令は存在しない。
    • (ニ) 以上のことから、通則法は更正の請求をすることができる者を、納税申告書を提出した者に限定していると解するのが相当であるから、請求人らは本件各更正の請求をすることはできない。
  • ロ 請求人らの主張について
    • (イ) 請求人らは、債権者代位権を有する者は更正の請求をすることができることは明らかであると主張する。
       しかしながら、民法第423条第1項ただし書は、債務者の一身に専属する権利は債権者代位の目的とならない旨規定しており、行使上の一身専属権(その権利の行使をするか否かが専ら債務者の意思のみに委ねられる権利)は代位権の目的から除外されている。
       贈与税の更正の請求は、納税申告書を提出した者が、その申告により確定した贈与税額の減額を税務署長に対して求める権利であるところ、通則法第23条第1項は「納税申告書を提出した者は、(中略)更正をすべき旨の請求をすることができる。」と規定し(上記1(2)ハ)、更正の請求ができる者を納税申告書を提出した者に限定しているのであり、更正の請求をするか否かは、納税申告書を提出した者の自由意思に委ねられていると解されるから、更正の請求をする権利は、納税申告書を提出した者に認められる行使上の一身専属権に当たるというべきである。
       なお、通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者の相続人が更正の請求をすることができる旨規定し、更正の請求をする権利が一定の者に承継される場合があることを予定しているが、この点は、この権利が帰属上の一身専属性を有しないことを示すものにすぎず、行使上の一身専属性を有しないことまでを示すものではない。
       したがって、更正の請求をする権利は、納税申告書を提出した者の行使上の一身専属権に当たり、民法第423条第1項ただし書の規定により、債権者代位の目的から除外されることとなるから、請求人らの主張には理由がない。
    • (ロ) 請求人らは、取立権を有する者は更正の請求をすることができることは明らかであると主張する。
       しかしながら、通則法が更正の請求をすることができる者を納税申告書を提出した者に限定していることは上記イのとおりである上、民事執行法第155条第1項による取立権も、債務者の一身専属権には及ばないものと解されており、更正の請求をする権利が、納税申告書を提出した者の行使上の一身専属権に当たると解されることは上記(イ)で説示したとおりであるから、請求人らの主張には理由がない。
    • (ハ) また、請求人らは、詐害行為を行った者(贈与税の納税者)の秘密の保護を理由として、差押債権者の権利を害するような解釈は通則法の予定するところではない旨主張する。
       しかしながら、通則法第126条が税務職員の守秘義務違反について国家公務員法第109条の場合と比較して罰則を加重している趣旨は、単に、納税者個人の私的な秘密を保護するにとどまらず、かかる秘密を保護することをもって、納税者の協力を得て、申告納税制度の適正な運用を、ひいては国税の賦課、徴収の適正かつ円滑な実現を図るという公共の利益を保護することにあると解されることから、請求人らの主張には理由がない。

(3) 原処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件処分理由の提示に原処分を取り消すべき違法はなく、上記(2)のとおり、請求人らは本件各更正の請求をすることはできないから、本件各更正の請求に対して更正をすべき理由がないとした原処分は適法である。

(4) 結論

よって、審査請求は理由がないから、いずれも棄却することとする。

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