(平成30年5月31日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、いわゆる兄弟会社の債務を引き受けるとともに、これにより発生した当該兄弟会社に対する債権を放棄し、当該債権放棄の金額について、貸倒損失勘定に計上し、所得金額の計算上損金の額に算入して、翌期へ繰り越すべき欠損金がある旨の法人税及び復興特別法人税の各確定申告をし、後続事業年度において、当該欠損金の額を所得金額から控除して上記各税の各確定申告をした後、原処分庁の指摘を受けて、当該債権放棄の金額について、所得金額の計算上寄附金の額に該当するとして当該先行事業年度の上記各税の各修正申告をし、これに伴って、当該後続事業年度の上記各税の各修正申告をしたところ、原処分庁が、当該債権放棄の金額を貸倒損失勘定に計上したことについて、隠ぺい又は仮装に該当するとして、当該後続事業年度の上記各税に係る重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、事実の隠ぺい又は仮装はないとして、当該各処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等

別紙4のとおりである。なお、別紙4で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要
     請求人は、昭和36年9月○日に設立された、パチンコ店等を経営する同族会社であり、請求人の代表取締役であるEは、遅くとも平成20年2月29日以降、請求人の発行済株式の20%を保有し、Eの長男であるGが残りの80%を保有している。
  • ロ H社の概要
     H社(平成22年9月○日にJ社へ商号変更された。以下「本件分割法人」という。)は、昭和52年3月○日に設立された、コンサルタント事業、労働者派遣事業及びレストラン(中華料理店)経営事業等を営む同族会社であるところ、平成12年10月頃、経営していたレストランを閉鎖し、以後は、主にコンサルタント事業及び労働者派遣事業を行っていた。
     Eは、本件分割法人の設立当初から、本件分割法人の代表取締役であり、同人は、遅くとも平成21年8月31日以降、本件分割法人の発行済株式の全てを保有していた。
  • ハ 請求人の債務の免除等
     請求人は、平成22年3月1日から平成23年2月28日までの事業年度において、K社から、借入金に係る債務免除を受け、1,910,205,172円の債務免除益(以下「本件債務免除益」という。)を計上した。
  • ニ 本件分割法人の会社分割
    • (イ) 本件分割法人は、平成22年8月20日付で、本件分割法人の事業用資金等の借入先であるL信用金庫(以下「本件金融機関」という。)に対し、要旨、本件債務免除益の計上によって生ずる請求人における租税負担と請求人の資金繰り悪化に対応するため、請求人の本件分割法人に対する貸付金を貸倒損失として処理することを目的として、本件分割法人の会社分割及び特別清算や、本件分割法人の本件金融機関に対する債務の請求人による引受けをそれぞれ行う予定であることを記載した書面を交付し、会社分割を行うことについての協力等を要請した。
    • (ロ) 本件分割法人は、平成22年9月○日、新設分割(以下「本件会社分割」という。)により、Eを代表取締役としてH社(以下「本件分割承継法人」という。)を新たに設立し(この際、本件分割法人は、従来のH社からJ社へと商号変更した。)、本件分割法人のレストラン経営事業以外の全ての事業に関する権利義務を本件分割承継法人に承継させて、同月○日に解散した。
       なお、本件分割法人の解散に伴って提出された確定申告書(以下「本件解散確定申告書」という。)添付の貸借対照表の内訳は、資産の部合計が630,932,838円(建物附属設備549,743,233円、工具器具備品11,189,605円及びEに対する差入保証金70,000,000円)、負債の部合計が580,378,917円(固定負債580,378,917円)であり、純資産の部合計が50,553,921円であった。上記負債の部の固定負債は、1昭和63年頃にレストラン経営事業用の資金として借り入れた借入金の残債務である請求人からの長期借入金336,378,917円及び2本件金融機関からの長期借入金244,000,000円(以下「本件債務」という。)であった。
  • ホ 貸倒損失計上の経緯
    • (イ) 請求人は、平成22年10月28日、本件金融機関から244,000,000円を借り入れ、同日付で、本件分割法人に同額を貸し付け(以下、当該貸付けに係る債権を「本件債権」という。)、本件分割法人は、本件債権に係る借入金により、本件債務を返済した(以下、請求人が、本件金融機関から上記借入れを行い、当該借入金を本件分割法人に貸し付けて、本件分割法人において、本件債務を返済したことにより、事実上、請求人が本件債務を引き受けたことを「本件債務引受け」という。)。
       これに基づき、請求人は、平成22年10月28日、本件分割法人、本件分割承継法人及び本件金融機関との間で、根抵当権変更契約を締結し、昭和57年10月30日付及び平成6年3月3日付の各根抵当権設定契約(極度額288,000,000円。目的物を請求人の所有する土地及び建物とするもの。以下、当該各根抵当権設定契約により設定された各根抵当権を「本件各根抵当権」という。)の債務者を、本件分割法人及び本件分割承継法人から請求人に変更した。
    • (ロ) 本件分割法人は、平成23年2月23日、M地方裁判所に対し、特別清算開始申立書(以下「本件申立書」という。)を提出し、同月○日にその開始が決定された。
       本件申立書には、本件分割法人の資産が70,000,000円、負債が580,378,917円であり、510,378,917円の債務超過となっている旨が記載されており、本件申立書添付の清算貸借対照表及び財産目録には、建物附属設備及び工具器具備品の時価がいずれも零円である旨記載されていた。
       なお、本件申立書には、請求人における本件債務免除益の発生に係る税務対策として、請求人の本件分割法人に対する債権を貸倒損失として処理することとした旨記載されていた。
    • (ハ) 請求人は、平成23年4月7日、本件分割法人との間で和解契約を締結し、本件債権を含む請求人から本件分割法人への貸付金580,378,917円から、当該和解契約によって本件分割法人から請求人に譲渡された本件分割法人のEに対する差入保証金70,000,000円を控除した残額510,378,917円の債権を放棄した(以下、当該債権放棄のうち本件債権の放棄を「本件債権放棄」という。)。
       そして、請求人は、平成23年3月1日から平成24年2月29日までの事業年度(以下「平成24年2月期」という。)において、本件分割法人に対する580,378,917円の債権を貸倒損失勘定に計上し(以下、当該計上額のうち本件債権の金額244,000,000円を「本件貸倒損失額」という。)、平成24年2月期の法人税の所得の金額の計算上、損金の額に算入した。
    • (ニ) 本件分割法人は、平成23年4月○日、M地方裁判所から特別清算の終結の決定を受け、同年5月○日に同決定が確定した(以下、本件会社分割、本件分割法人の解散、本件債務引受け、本件債権放棄及び本件分割法人の特別清算の終結などの本件分割法人の整理に係る一連の経緯を併せて「本件分割法人整理」という。)。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成24年3月1日から平成25年2月28日まで及び平成25年3月1日から平成26年2月28日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成25年2月期」、「平成26年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税並びに平成25年3月1日から平成26年2月28日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の復興特別法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表1及び別表2の各「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した(以下、当該申告を「本件各確定申告」という。)。
  • ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、同職員の勧奨に応じて、平成29年4月13日、平成24年2月期の法人税について、本件貸倒損失額が本件分割法人に対する寄附金の額に該当するとして修正申告を行い、併せて本件各事業年度の法人税及び本件課税事業年度の復興特別法人税について、それぞれ別表1及び別表2の各「修正申告」欄のとおり、各修正申告をした(以下、当該修正申告を「本件各修正申告」という。)。なお、別表1の「修正申告」欄の本件各事業年度の所得金額の増加は、平成24年2月期の翌期へ繰り越す欠損金額の減少に伴うものである。
  • ハ 原処分庁は、本件各修正申告に対し、平成29年4月26日付で、別表1及び別表2の各「賦課決定処分」欄のとおり、重加算税の各賦課決定処分をした。
  • ニ 請求人は、原処分に不服があるとして、平成29年6月30日に審査請求をした。

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2 争点

本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものか。

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3 争点に対する当事者双方の主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、請求人は、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で、その意図に基づいて本件各確定申告を行っているから、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものである。 請求人は、本件貸倒損失額の計上により所得金額が減少した認識を有していたものの、以下のとおり、当該計上が、税法の規定に基づく適法な処理であると認識していたのであるから、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものではない。
(1) 請求人は、本件債務免除益に係る課税により資金繰りに窮するので、当該課税を避けるべく、本件分割法人整理を検討したことからすると、請求人は、当初から所得を過少に申告することを意図していたと認められる。 (1) 本件分割法人のレストラン経営事業は休業状態にあり、いずれ解散せざるを得ない状況にあったから、その他の事業を分割した上で本件分割法人を解散した本件分割法人整理は、合理的な企業再生行為である。
 原処分庁は、請求人が、本件債務免除益の計上時に本件分割法人整理を検討したことや、本件分割法人が、本件会社分割の2日後に解散したことをもって、当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと主張するが、上記のとおり、本件分割法人整理が合理的な企業再生行為であることからすると、原処分庁の主張には理由がない。
(2) 以下の各事情からすると、本件分割法人整理は、当初から所得を過少に申告するという請求人の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当する。
  • イ 上記(1)のとおり、請求人は、本件債務免除益に係る課税を免れるために、本件分割法人整理を検討した。
  • ロ 本件分割法人は、本件会社分割により、本件分割承継法人に対して、本件分割法人のレストラン経営事業以外の全ての事業に関する権利義務を承継させた上で、レストラン経営事業を開始することなく、本件会社分割の2日後に解散した。
  • ハ 本件分割法人は、債務超過を装うため、本件申立書において、本件解散確定申告書に添付された貸借対照表の記載とは異なり、上記貸借対照表に記載されていた固定資産560,932,838円を意図的に零円として計上した。
  • ニ 請求人は、本件分割法人の特別清算を可能にするために、本件分割法人の本件金融機関に対する債務を全て引き受けた(本件債務引受け)。
(2) 請求人が、本件分割法人整理において、本件債務引受けを行った上で本件債権放棄を行ったことには、以下のとおり、相当な理由があったから、請求人は、本件貸倒損失額が、本件通達規定により寄附金の額に該当せず、本件貸倒損失額の計上が適法であると認識していた。
  • イ 請求人は、兄弟会社である本件分割法人に対し、レストラン経営事業開始時の設備の取得費用の全額を貸し付けていた。
  • ロ 請求人は、本件債務の物上保証人であり、本件債務が履行されなかった場合には、事実上、その履行を求められる立場にあった。
  • ハ 本件債務引受けにより、請求人と本件分割法人の共通の取引金融機関である本件金融機関の協力を得ることができ、本件分割法人整理が可能となった。
     本件債務引受けは、本件会社分割に際して本件分割法人の債権者を保護し、濫用的会社分割との指摘を受けるなどの不測のトラブルを防ぎ、本件分割法人整理を円滑に行うために必要であった。
  (3)  なお、本件分割法人の解散時の貸借対照表に計上された固定資産(建物附属設備及び工具器具備品)は、ほとんど値打ちがなかったので、本件申立書添付の清算貸借対照表及び財産目録には、当該固定資産の時価を零円と記載したものであり、本件申立書において、当該固定資産を除外した事実はない。

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4 当審判所の判断

(1) 争点について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件分割法人の経営状況等
      • A 本件分割法人の純利益・純損失の金額は、平成18年9月1日から平成19年8月31日までの事業年度において○○○○円の損失、平成19年9月1日から平成20年8月31日までの事業年度において○○○○円の損失、平成20年9月1日から平成21年8月31日までの事業年度において○○○○円の利益、平成21年9月1日から平成22年8月31日までの事業年度において○○○○円の利益、平成22年9月1日から平成22年9月21日までの事業年度において○○○○円の損失であった。また、本件分割法人の平成21年9月1日から平成22年8月31日までの事業年度の営業利益額は、○○○○円であった。
      • B 本件分割法人の平成21年8月31日現在の貸借対照表には、資産の部合計795,876,445円のうち建物附属設備が556,074,033円、工具器具備品が12,727,633円であり、負債の部合計が749,276,675円である旨記載されており、本件分割法人の平成22年8月31日現在の貸借対照表には、資産の部合計741,426,084円のうち建物附属設備が555,016,790円、工具器具備品が12,503,992円であり、負債の部合計が690,152,979円である旨記載されていた。
         上記各建物附属設備の金額のうち549,743,233円及び上記各工具器具備品の金額のうち11,189,605円は、いずれも本件分割法人のレストラン経営事業に係る金額である。
      • C 本件分割法人は、平成21年9月1日から平成22年8月31日までの事業年度において、本件金融機関に対し、本件債務の元本6,000,000円及び利息7,387,180円を支払った。
    • (ロ) 本件分割法人のレストラン経営事業
       本件分割法人は、経営していたレストランを平成12年10月頃に閉鎖した後、レストラン経営事業に係る建物附属設備及び工具器具備品を、レストランを閉鎖した空き店舗内に放置したままにして事業の用に供していなかった。
    • (ハ) 請求人と本件金融機関との関係
       本件各根抵当権は、請求人が経営していたパチンコ店の建物及びその敷地を目的物とするものであり、本件債務は、その被担保債権の範囲に含まれるものであった。
    • (ニ) 本件会社分割整理の検討状況
       請求人は、本件会社分割整理の検討過程において、税理士や弁護士の指導を受けた。
  • ロ 検討
    • (イ) 上記1の(3)のホの(イ)及び(ハ)並びに同(4)のイ及びロによれば、本件各確定申告における所得金額が過少となった原因は、本件貸倒損失額が、本来寄附金の額に該当するにもかかわらず、請求人が、これを寄附金の額に該当しないとして平成24年2月期の当初申告をした点にあると認められる。そうすると、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたと認められない限り、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものであるとは認められない。
       この点について、原処分庁は、要するに、請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していた旨主張する。
    • (ロ) しかしながら、本件通達規定によれば、兄弟会社(「資本関係を有する者」(本件通達規定注書。ただし、親子会社を除く。)又は「取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者」(本件通達規定の注書)をいう。以下同じ。なお、前記1の(3)のイ及びロの各事実によれば、請求人と本件分割法人は、ここにいう兄弟会社の関係にあるものと認められる。)の債務引受け等であっても、そのことについて相当な理由があると認められる場合には、その債務引受け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないところ、上記相当な理由については、1当該兄弟会社の経営成績が悪いなど、放置した場合には今後より大きな損失を被るか否か、2債務引受け等を行った支援者がこれを行うことに相当な理由があるか否かなどを総合的に検討して判断すべきと解されるから、当該支援者が、多額の収益に対する課税を回避するために当該債務引受け等を行ったことのみをもって、直ちに、当該債務引受け等により供与する経済的利益の額が、寄附金の額となるものではないというべきである。したがって、請求人が、本件債務免除益に係る課税を避けるために本件分割法人整理を検討したことをもって、直ちに、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたとはいい難い。
       かえって、上記1に係る事情についてみると、本件分割法人は、本件会社分割が行われた事業年度の5期前の事業年度において、本件会社分割の行われた事業年度の2期前の事業年度及び3期前の事業年度の純利益の各金額以上の純損失を計上し、本件会社分割の行われた事業年度の4期前の事業年度においても、少なくない額の純損失を計上していた(上記イの(イ)のA)。また、同(ロ)によれば、本件分割法人のレストラン経営事業に係る建物附属設備及び工具器具備品は、本件会社分割の行われた事業年度の3期前の事業年度の頃には、実質的にほぼ無価値であったと認められるところ、このことに加えて本件分割法人の貸借対照表の記載(同(イ)のB)によれば、本件分割法人は、遅くとも本件会社分割の行われた事業年度の3期前の事業年度以後、実質的には債務超過の状態にあったと認められる。そうすると、本件分割法人の経営成績は、悪いものであったというべきである。
        また、上記2に係る事情についてみると、請求人は、経営するパチンコ店のうち1店舗の建物及び敷地に、本件債務が被担保債権の範囲に含まれる根抵当権を設定していたこと(上記イの(ハ))からすると、本件分割法人の経営が悪化して本件債務の支払が滞った場合には、上記建物及び敷地が競売にかけられるなどして上記パチンコ店の経営ができなくなることにより、請求人自身の経営が悪影響を受ける可能性も否定できない。
       さらに、本件分割法人は、本件会社分割の行われた事業年度の前々事業年度において、本件債務の元本及び利息として、当該事業年度の営業利益額の半分近い金額を支払ったこと(上記イの(イ)のA及びC)からすると、本件分割法人が本件債務を免除されることは、本件分割法人の整理・再建に寄与するものであったといえる。
       加えて、請求人は、本件債務引受け及び本件債権放棄を含む本件分割法人整理の検討過程において、税理士の指導を受けていたところ(上記イの(ニ))、その際、当該税理士から、本件貸倒損失額が寄附金の額に当たる旨の指摘を受けていなかった可能性がある(これを否定するに足りる証拠はない。)。
       これらの事情を総合すると、請求人は、本件債務引受け及び本件債権放棄を行うことには、本件通達規定の定める相当な理由があるなどとして、本件債権放棄の額について、寄附金の額に該当しないと認識していた可能性があるというべきである。
    • (ハ) ところで、原処分庁は、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたことを前提に、要旨、1本件分割法人が、本件会社分割により、本件分割承継法人に対して本件分割法人のレストラン経営事業以外の全ての事業に関する権利義務を承継させた上で、本件会社分割の2日後に解散したこと、2本件分割法人が、債務超過を装うため、本件申立書において、本件解散確定申告書に添付された貸借対照表の記載とは異なり、上記貸借対照表に記載されていた固定資産560,932,838円を意図的に零円として計上したこと及び3請求人が、本件分割法人の特別清算を可能にするために、本件分割法人の本件金融機関に対する債務を全て引き受けたことからすると、本件分割法人整理は、当初から所得金額を過少に申告するという請求人の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当する行動を取っていた旨主張する。そこで、上記1ないし3をもって、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたと認められるか否かを検討する。
       まず、上記1及び3の各指摘事情についてみると、原処分庁は、要するに、これらの事情からすると、請求人が、本件貸倒損失額の計上のみを目的として本件分割法人整理を行ったと認められる旨主張するものと解される。しかし、上記(ロ)で説示したところによれば、上記1及び3を考慮しても、請求人が、本件分割法人整理に際し、経営状態の悪い本件分割法人を整理・再建することによって、本件分割法人の経営悪化による請求人の不利益を避ける目的も有していた可能性を否定することはできないというべきである。したがって、上記1及び3の各指摘事情をもって、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたとは認められない。
       次に、上記2の指摘事情についてみると、特別清算の開始原因は、債務超過、すなわち、清算株式会社の財産がその債務を完済するのに足りない状態などであるから(会社法第510条《特別清算開始の原因》第2号)、債務超過の状態にあることを理由として特別清算を申し立てる場合、当該申立書には、時価により評価した資産の額を記載すべきものと解される(なお、本件申立書添付の清算貸借対照表及び財産目録は、会社法第492条《財産目録等の作成等》第1項に基づき作成されたものであるところ(原処分関係資料)、同項に基づき作成される財産目録及び貸借対照表には、原則として、解散時における財産の処分価格(時価)を付さなければならない(会社法施行規則第144条《財産目録》第2項、同規則第145条第2項)。)。これに対し、確定申告書に添付される貸借対照表には財産の帳簿価格を記載すべきであるから、本件解散確定申告書に添付された貸借対照表と本件申立書において、固定資産の価額が異なることは当然である。また、上記(ロ)のとおり、本件分割法人のレストラン経営事業に係る建物附属設備及び工具器具備品は、その解散時において、ほぼ無価値であったから、上記1の(3)のホの(ロ)のようにこれらの固定資産を零円と評価することが不自然であるともいえない。そうすると、本件申立書の記載をもって、本件分割法人が債務超過を装ったとは認められず、上記2の指摘事情は認められない。
       以上のとおり、上記2の指摘事情は認められず、上記1及び3の各指摘事情は、いずれも、請求人が、本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたことを認めるに足りるものではない。
    • (ニ) 以上のことからすると、原処分庁の主張、指摘する事情をもって、請求人が本件貸倒損失額について、寄附金の額に該当することを認識していたとは認められず、他に、請求人にそのような認識があったことを認めるに足りる証拠はない。
       したがって、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものであるとは認められない。

(2) 原処分の適法性について

上記(1)のとおり、本件各確定申告は、事実を隠ぺい又は仮装したところに基づくものとは認められないので、原処分は取消しを免れない。
 もっとも、本件各修正申告につき、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、本件各修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、同条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定は免れず、原処分は、別紙1ないし別紙3のとおり、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についてそれぞれ違法であり、当該各部分を取り消すべきである。

(3) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を、別紙1ないし別紙3の「取消額等計算書」のとおり取り消すこととする。

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