(平成30年4月13日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請負工事に係る収益を、その工事の全部が完成し、元請先の検査に合格した日の属する事業年度に計上していたところ、原処分庁が、請求人が未成工事受入金として経理処理していた工事収入の一部について、出来高に応じて工事代金を収入する旨約していることから、当該出来高に対応する工事収入は出来高部分が検収された日の属する事業年度の益金の額に算入すべきであるなどとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令等の要旨

  • イ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする旨規定し、また、同条第4項は、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定している。
  • ロ 消費税法第28条《課税標準》第1項は、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とする。)とする旨規定している。
  • ハ 民法第624条《報酬の支払時期》第1項は、労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができないと規定している。
     また、民法第632条《請負》は、請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる旨、同法第633条《報酬の支払時期》は、報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならない旨、ただし、物の引渡しを要しないときは、同法第624条第1項の規定を準用する旨規定している。
  • ニ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25の国税庁長官通達。以下同じ。)2−1−5(請負による収益の帰属の時期)は、請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定めている。
  • ホ 法人税基本通達2−1−9(部分完成基準による収益の帰属時期の特例)は、法人が請け負った建設工事等について次に掲げるような事実がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その事業年度において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事収入をその事業年度の益金の額に算入する旨定めている。
    • (イ) 一の契約により同種の建設工事等を多量に請け負ったような場合で、その引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合
    • (ロ) 1個の建設工事等であっても、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引き渡した都度その割合に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合
  • ヘ 消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2−25ほか国税庁長官通達。以下同じ。)9−1−5(請負による資産の譲渡等の時期)は、請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする旨定めている。
  • ト 消費税法基本通達9−1−8(部分完成基準による資産の譲渡等の時期の特例)は、事業者が請け負った建設工事等(消費税法第17条《工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例》第1項若しくは第2項の規定の適用を受けるものを除く。)について上記ホの(イ)又は(ロ)に掲げるような事実がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その課税期間において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事代金に係る資産の譲渡等の時期については、その引渡しを行った日とする旨定めている。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の概要
     請求人は、平成23年4月○日に、a県b市d町○−○に本店を置いていた旧D社(現在のG社)から会社分割により設立された、同所在地に本店を置く、○○○○に関する業務等を目的とする資本金10,000,000円の株式会社である。
  • ロ 請求人がH社から受注した各工事
    • (イ) 請求人は、H社から、J社が所有するe、f及びgにおける別表1の「工事件名」欄記載の各工事(以下「本件各工事」という。)を受注し、本件各工事に係る請負契約を締結した。
       H社と請求人は、本件各工事に関し、双方が遵守すべき一般的契約条件を定める工事下請契約約款(以下「本件約款」という。)を取り決めて、個々の請負工事契約は、H社が請求人に対して注文書(以下「本件各注文書」という。)等を交付し、これを受けた請求人がH社に対して注文請書(以下「本件各注文請書」という。)を交付することにより締結した。
    • (ロ) 本件各工事は、別表1の順号15から18までの各工事を除いて、同表の「契約変更日」欄の記載のとおり、いずれも工期が変更され、また、本件各工事は、同表の順号8の工事を除いて、いずれも、平成28年4月以降に完成(竣工)し、請求人は、H社に対し、竣工届を提出した。
    • (ハ) なお、本件各工事は、いずれも、H社がJ社から請け負った工事の一部を請求人が請け負ったものである。
  • ハ 本件約款の概要
     H社と請求人は、本件約款により、請負工事の検査及び引渡し並びに請負代金の支払方法及び支払時期について、次のとおり定めている。
    • (イ) 検査及び引渡しについて
       請求人は、工事が完成したときは、速やかに竣工届によりH社に通知しなければならず、H社は、通知を受けたときは、遅滞なく請求人の立会いの下、工事の完成を確認するための検査(以下「竣工検査」という。)を行う。
       竣工検査に合格した後、請求人が引渡しを申し出たときは、H社は、直ちに工事目的物の引渡しを受け、竣工検査に合格しないときは、請求人は、遅滞なくこれを修補し、再度、H社の検査を受ける。
    • (ロ) 請負代金の支払方法及び支払時期について
       請負代金の支払方法及び支払時期は、注文書及び注文請書に定めるところによるが、H社及び請求人は、やむを得ない場合には相手方の同意を得て、注文書及び注文請書によって定めた請負代金の支払方法又は支払時期を変更することができる。
  • ニ H社から受注した工事の完成
     本件約款では、上記ハの(イ)のとおり、請求人は、工事が完成(竣工)すると、H社に対して、竣工届を提出し、その後に、H社による竣工検査が行われる旨定められているが、実際には、請求人とH社が合意した日に、竣工検査が行われ、竣工検査に合格した後に、請求人は、H社に対し、竣工検査に合格した日(以下「検査合格日」という。)を「工事竣工兼検査依頼日」欄に記入した竣工届を提出している。
     H社は、提出された竣工届の「竣工検査日」欄及び「検収日(引渡日)」欄に、いずれも検査合格日を記載している。
     なお、本件各工事の検収日は、別表1の「竣工日」欄の各日である。
  • ホ 本件各工事に係る請負代金の支払状況等
    • (イ) 本件各工事における請負代金の支払条件は、いずれも出来高払である。
       なお、別表1の順号1、2、5、8、10及び11の各工事については、当初の支払条件は検収後一括払とされていたが、同表の変更理由を「支払条件変更」としている「契約変更日」に、出来高払へ変更されている。
       また、本件各工事の出来高の支払時期について、本件各注文書及び本件各注文請書には、各月の1日から10日までに検収したものは翌月20日、11日から月末までに検収したものは翌月27日である旨記載されている。
    • (ロ) H社は、自社の各工事の工事監督者が査定した出来高の結果を記載した出来高調書と題する書面を作成しており、本件各工事の出来高調書には、工事件名、検収月、前月末の累計出来高の割合、当月の出来高の割合、当月の出来高の金額及び当月の検収金額(税込み)などが記載されている。
    • (ハ) 請求人は、H社に対し、本件各工事について、平成23年4月○日から平成24年3月31日まで、同年4月1日から平成25年3月31日まで、平成26年4月1日から平成27年3月31日まで及び同年4月1日から平成28年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成24年3月期」、「平成25年3月期」、「平成27年3月期」、「平成28年3月期」といい、これらの各事業年度のうち、平成24年3月期、平成27年3月期及び平成28年3月期を併せて「本件各事業年度」という。)において、上記(ロ)の本件各工事の工事監督者が査定した出来高調書に基づき、出来高請求書と題する各書面(以下「本件各出来高請求書」という。)を作成し、H社に対し、別表2から別表5までの「出来高請求金額」欄の各金額(以下「本件各出来高請求金額」という。)を「請求日」欄の各日(以下「本件各請求日」という。)に請求した。
       なお、本件各出来高請求書には、請求日、工事件名、出来高の計算期間、出来高請求金額(税込み)、今回及び前回までの検収金額(税込み)などが記載されている。
  • ヘ 請求人の経理処理
    • (イ) 請求人は、H社から受注した工事の収益の計上に関する会計処理基準として、検査合格日の属する事業年度に収益(完成工事高)を計上する、いわゆる工事完成基準を一貫して採用しており、本件各事業年度において、当該会計処理基準に変更はない。
    • (ロ) また、請求人は、本件各工事について、本件各事業年度及び平成25年3月期の各事業年度末において、本件各出来高請求金額のうち、H社から支払われた未竣工の各工事に係る金額を、総勘定元帳の未成工事受入金勘定に計上するとともに、これらの各工事に対応する工事直接費及び工事間接費に係る金額を未成工事支出金に計上している。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税について、青色の確定申告書に、別表6の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
     また、請求人は、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度(以下「本件課税事業年度」という。)の地方法人税について、青色の確定申告書に、別表7の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
     なお、請求人は、平成24年11月27日、平成24年3月期の法人税について、別表6の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を原処分庁に提出した。
  • ロ 請求人は、平成23年4月○日から平成24年3月31日まで、同年4月1日から平成25年3月31日まで、平成26年4月1日から平成27年3月31日まで及び同年4月1日から平成28年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成24年3月課税期間」、「平成25年3月課税期間」、「平成27年3月課税期間」、「平成28年3月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下、これらを併せて「消費税等」という。)の確定申告書に、別表8の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
  • ハ 原処分庁は、本件各出来高請求金額は、本件各請求日の属する事業年度の完成工事高であるなどとして、平成29年2月15日付で、法人税については、別表6の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件法人税各賦課決定処分」という。)を、地方法人税については、別表7の「更正処分等」欄のとおり、本件課税事業年度の更正処分(以下「本件地方法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件地方法人税賦課決定処分」という。)を、また、消費税等については、別表8の「更正処分等」欄のとおり、本件各課税期間の各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれした。
  • ニ 請求人は、上記ハの各処分に不服があるとして、平成29年5月12日に審査請求をした。

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2 争点

本件各出来高請求金額は、本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上益金の額に算入されるか、また、本件各課税期間の消費税の課税資産の譲渡等の対価となるか。

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3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 次のとおり、本件各出来高請求金額は、法人税の所得金額の計算上本件各請求日の属する各事業年度の益金の額に算入される。 (1) 次のとおり、本件各出来高請求金額は、法人税の所得金額の計算上本件各工事に係る検査合格日の属する事業年度の益金の額に算入されるものであるから、本件各請求日の属する事業年度の益金の額には算入されない。
  • イ 請負による収益のうち、物の引渡しを要しない契約において、出来高に応じて請負報酬の代金を支払う旨の特約がある場合には、出来高に応じた報酬債権が現実化している部分の金額を、その現実化した事業年度の益金の額に算入することになる。
  • ロ 本件各注文書及び本件各注文請書には、いずれも本件各工事の請負代金の支払条件として、H社の検収に基づく出来高払によることとされており、本件各工事の全部が完成していなかったとしても、本件約款に基づき、H社が出来高の検収を行った時に、当該出来高部分について、請求人の収入すべき金額が確定する。
  • ハ 本件各工事に係る請負契約は点検や修理などを主な内容とし、労務費を主な原価とする、物の引渡しを要しない請負契約であるところ、本件約款、本件各注文書及び本件各注文請書からすると、本件各工事に係る請負契約には、請負契約に係る建築工事等につき、部分的に引渡しが行われ、それに応じて工事代金を収入する旨の法人税基本通達2−1−9が定める特約又は慣習がある。
  • ニ そして、本件各工事に係る出来高調書には、「当月の出来高」の査定に基づく「検収額」が算出され、H社の工事監督者と請求人の工事責任者とで確認した当該検収額に基づいて、請求人は本件各請求日に、H社に対し、本件各工事の出来高を請求していることからすれば、本件約款、本件各注文書及び本件各注文請書に基づく特約に従い、実際に検収された部分について出来高に応じた請求が行われているのであるから、本件各出来高請求金額は、H社が出来高の検収を行った時、すなわち、本件各請求日の属する事業年度の完成工事高に計上すべきである。
  • ホ なお、本件各工事の経済的実態からみて、全部の完成引渡しを待たずに、一部について報酬債権が確定していることから、請求人が継続的に適用している収益の計上に関する会計処理方法は、合理的な基準に従っているとはいえない。
  • イ 本件約款では、H社の検査に合格しない場合は、請求人は遅滞なくこれを修補して再度H社の検査を受けることとしており、H社による検査が終了するまで、各工事に係る収益は実現しない。
     本件各工事は、いずれも本件各請求日において完了しておらず、H社による検査がされていないから、本件各工事に係る収益は、本件各請求日において、実現したとはいえず、すなわち、その収入すべき権利はいまだ確定していない。
  • ロ また、本件各工事の内容は、ポンプの分解保守点検、ポンプ及び弁の取替、消火設備の設置、コンベアの保守点検並びに○○○○の分解保守点検であり、その工事内容からすると、本件各工事は、いずれも部分的に完成し得ない工事であるから、法人税基本通達2−1−9の適用はない。
  • ハ 請求人がH社から請け負った工事は、検査合格日において、H社の検収によって、当該工事に係る収益が実現するものであり、請求人は、従前から継続して、当該工事に係る工事代金を検査合格日の属する事業年度の完成工事高に計上する、いわゆる工事完成基準で経理しており、本件各出来高請求金額は、本件各工事に係る検査合格日の属する事業年度の完成工事高に計上すべきである。
  • ニ 請求人が継続的に採用している、いわゆる工事完成基準に基づく会計処理方法は、法人税基本通達2−1−5に定められた方法であり、法人税法第22条第4項に規定する一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったものである。
     なお、本件各請求日が属する事業年度において、本件各出来高請求金額を益金の額に算入するいわゆる部分完成基準に基づいて会計処理を行うと、恣意的な出来高の算定によって所得金額の調整が可能であるほか、本件各工事の進捗率に基づいて出来高が算定されないなど、出来高の具体的な算定基準がないことから、法人税法第22条第4項に規定する一般に公正妥当と認められる会計処理の基準とはいえない。
(2) 本件各出来高請求金額は、上記(1)と同様の理由により、本件各請求日の属する課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額となる。 (2) 本件各出来高請求金額は、上記(1)と同様の理由により、検査合格日の属する課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額となる。

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4 当審判所の判断

(1) 争点(本件各出来高請求金額は、本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上益金の額に算入されるか、また、本件各課税期間の消費税の課税資産の譲渡等の対価となるか。)について

  • イ 法令解釈等
    • (イ) 法人税法第22条第2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る当該事業年度の収益の額とする旨規定し、同条第4項は、当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定しているところ、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、これによれば、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきものであると解される。
       もっとも、法人税法第22条第4項は、現に法人のした利益計算が法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、収益を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、上記の権利の確定時期に関する会計処理を、法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を唯一の基準としてしなければならないとするのは相当ではなく、取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、継続してその基準によって収益を計上している場合には、法人税法上も上記会計処理を正当なものとして是認すべきである。
    • (ロ) 請負代金を支払う時期について、民法第633条及び同法第624条第1項によれば、物の引渡しを要するときは、仕事の目的物の引渡しと同時に、物の引渡しを要しないときは、その約した役務の提供を完了したときにそれぞれ支払うこととされている。
       そうすると、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日に、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日に請負代金を請求することができ、収入すべき権利が実現又は確定したといえるから、その日の属する事業年度の益金の額に算入するものと解するのが相当である。
    • (ハ) 消費税法には課税標準の計算の基礎となる課税資産の譲渡等の時期についての明文の規定はないが、消費税法第28条第1項が、課税資産の譲渡等の対価の額について、対価として収受し又は収受すべき一切の金銭等とする旨規定していることからすると、課税資産の譲渡等の時期については、法人税法における益金の額に算入すべき時期の取扱いと同様に解するのが相当である。
       そうすると、消費税法における課税資産の譲渡等の時期についても、物の引渡しを要する請負に係る対価の額は、その目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負に係る対価の額は、その約した役務の全部を完了した日となるから、その日の属する課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額とするのが相当である。
    • (ニ) そして、法人税基本通達2−1−5は上記(ロ)と、消費税法基本通達9−1−5は上記(ハ)と、それぞれ同趣旨を定めた取扱いであり、これらの取扱いは当審判所においても相当と認められる。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに請求人のe営業所長であるK、H社の資材部長であるL、本件各工事の工事監督者等であるM、N、P、Q、R、S、T及びUの当審判所に対する各答述その他当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件各工事の工事内容について
      • A 本件各工事は、e、f又はgに設置された各種機器等に対する定期点検を含む分解点検などの工事やeに設置された各機器の取替えの工事など、基本的に主要な資材を必要としない工事と、eに消火設備等を設置する工事など、工事に使用する配管、支柱、消火栓等の資材が必要な工事とがあり、資材を必要とする工事において主要な資材はH社の負担により請求人に支給され、請求人が負担するのは作業に必要な消耗品程度のものに限られており、これらの工事内容からすると、本件各工事は、いずれも請求人が工事に必要な主要な資材の負担をすることがない工事で、本件各工事に係る請負契約は主として役務の提供を内容とするものである。
      • B 本件各工事は、上記1の(3)のハ及びニのとおり、竣工検査に合格しない場合は、請求人は、遅滞なくこれを修補して、再度、竣工検査を受けなければならないのであるから、本件各工事に係る請負契約においては、いずれも、H社による竣工検査に合格して、初めてH社に検収されることとなる。
    • (ロ) 本件各出来高請求金額について
       上記1の(3)のホの(イ)のとおり、本件各工事における請負代金の支払条件は、いずれも出来高払とされているが、本件各出来高請求金額は、本件各工事の工事監督者が、本件各工事の工期や工程に照らして工事の進捗状況を確認した上で、本件各工事の出来高として査定したものである。
       また、H社の資材部長及び本件各工事に係る各工事監督者等の当審判所に対する各答述によれば、本件各注文書、本件各注文請書、本件各工事に係る出来高調書及び本件各出来高請求書では上記査定を「検収」と記載しているが、これらは、H社が本件各工事の出来高の金額を確認する、あるいは、請求人に対する出来高の金額の支払を認めるという意味で使用しており、上記1の(3)のニの竣工検査を了したという意味の検収として使用しているものではない。
       したがって、H社が本件各工事のうち本件各出来高請求金額に相当する部分の完成を確認したものではない。
    • (ハ) 本件各工事の工期の変更理由
       eにおける本件各工事のうち、別表1の順号1から11まで、13及び14の各工事の工期が、当初の契約から数度にわたり変更されている理由は、○○○○を背景とした設計変更などの、J社の事情によるものであった。
       また、fにおける別表1の順号12の工事の工期が、当初の契約から変更となっている理由は、当該工事の対象となった設備を利用して○○○○を受け入れる他の事業者の事情により、最終段階の試運転ができなくなり、H社が工期を延長せざるを得なかったものであった。
  • ハ 当てはめ
    • (イ) 本件各工事の請負契約は、上記ロの(イ)のAのとおり、請求人が主要な資材の負担をすることがなく、主として役務の提供を行う工事を内容とするものであるから、物の引渡しを要しない請負契約に該当する。
       そして、上記1の(3)のニのとおり、H社は、検査合格日を検収日(引渡日)としているところ、本件各工事の検収日は、別表1の各「竣工日」欄の各日であるから、本件各工事は同表の「竣工日」欄の各日に請求人の役務の提供が完了したと認められる。
       したがって、法人税基本通達2−1−5により、本件各出来高請求金額を含む、本件各工事の請負代金の全額が、本件各工事の検査合格日の属する各事業年度の益金の額に算入されるものであるから、本件各出来高請求金額は、本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上益金の額には算入されない。
    • (ロ) 他方、本件各工事は、請負契約に基づく役務の提供を内容とするものであるから、課税資産の譲渡等に該当する。
       そして、上記(イ)と同様に、本件各工事は、消費税法基本通達9−1−5により、本件各工事の検査合格日に、請求人の役務の提供が完了し、それぞれ対価を請求し得る状態になると認められ、本件各出来高請求金額を含む、本件各工事の請負代金の全額が、本件各工事の検査合格日の属する各課税期間において課税資産の譲渡等の対価の額となるものであるから、本件各出来高請求金額は、本件各課税期間の消費税の課税資産の譲渡等の対価の額とはならない。
  • ニ 原処分庁の主張について
    • (イ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のイからニまでのとおり、本件各工事に係る請負契約は、請負契約に係る建築工事等につき、部分的に引渡しが行われ、それに応じて工事代金を収入する旨の法人税基本通達2−1−9が定める特約又は慣習があり、当該出来高部分について報酬債権が現実化しているから、本件各出来高請求金額は本件各事業年度の益金の額に算入することとなる旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(ロ)のとおり、本件各注文書及び本件各注文請書に記載された「検収」の文言は、本件各工事の竣工検査を終了したという意味で用いられたものではないから、本件各注文書及び本件各注文請書に「検収したもの」との文言が記載されていることをもって、法人税基本通達2−1−9に定める「特約又は慣習」があったとみることはできない。
       また、H社が行っているのは、本件各工事の進捗状況に応じた出来高の査定であって、H社が本件各工事のうち本件各出来高請求金額に相当する工事の部分の完成又は引渡しを確認したものではないから、当該出来高部分について、請求人の収入すべき金額が確定したとはいえない。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
    • (ロ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(1)のホのとおり、本件各工事の経済的実態からみて、全部の完成引渡しを待たずに、一部について報酬債権が確定していることから、請求人が継続的に適用しているいわゆる工事完成基準は、合理的な会計処理の基準とはいえない旨主張する。
       しかしながら、法人が、一般に公正妥当と認められる会計処理の方法を継続適用していれば、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、是認されると解されるところ、上記1の(3)のヘの(イ)のとおり、請求人が継続適用している、検査合格日の属する事業年度の益金の額に算入する方法は、法人税基本通達2−1−5に定めるいわゆる工事完成基準の適用にほかならず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に基づいた経理方法であると認められる。
       また、本件各工事の工期は当初の契約から数度にわたり変更され、その収益を益金の額に算入する時期が先に延びているが、その原因をみると、上記ロの(ハ)のとおり、○○○○を背景とする工期の延長などといったH社の元請先であるJ社や他の事業者の事情によるものであり、請求人が恣意的に収益の計上時期を遅らせたものではなく、法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものには該当しない。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由はない。
    • (ハ) 原処分庁は、上記3の「原処分庁」欄の(2)のとおり、本件各出来高請求金額は、本件各請求日の属する課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額となる旨主張する。
       しかしながら、本件各出来高請求金額が、本件各工事の検査合格日の属する各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額となるのは、上記ハの(ロ)のとおりである。
       したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(2) 本件法人税各更正処分の適法性について

上記(1)のハの(イ)のとおり、本件各出来高請求金額は、法人税の所得金額の計算上、本件各請求日の属する事業年度の益金の額に算入されないこととなるが、本件各出来高請求金額に対応する工事原価もまた損金の額に算入されないこととなるため、これらに基づいて、当審判所が改めて本件各事業年度の法人税の所得金額及び納付すべき税額を計算したところ、本件法人税各更正処分は、いずれも更正前の額を上回る部分の全額が違法であると認められる。
 したがって、本件法人税各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(3) 本件法人税各賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、本件法人税各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、本件法人税各賦課決定処分も、いずれもその全部を取り消すべきである。

(4) 本件地方法人税更正処分の適法性について

上記(2)のとおり、平成28年3月期の法人税の更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件地方法人税更正処分もその全部を取り消すべきである。

(5) 本件地方法人税賦課決定処分の適法性について

上記(4)のとおり、本件地方法人税更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、本件地方法人税賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

(6) 本件消費税等各更正処分の適法性について

上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件各出来高請求金額は、消費税等の計算上、本件各請求日の属する課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額には含まれないこととなるが、本件消費税等各更正処分の上記以外の部分を請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 これらに基づいて、当審判所が改めて本件各課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額を計算したところ、次のとおりである。

  • イ 平成24年3月課税期間及び平成25年3月課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額は、いずれも更正前の額を上回る部分の全額が違法であると認められる。
     したがって、平成24年3月課税期間及び平成25年3月課税期間の消費税等の各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ロ また、平成27年3月課税期間及び平成28年3月課税期間の消費税等の課税標準額及び納付すべき税額は、いずれも当該各課税期間の各更正処分の額を下回るから、当該各更正処分はいずれも違法である。
     したがって、平成27年3月課税期間及び平成28年3月課税期間の消費税等の各更正処分は、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(7) 本件各課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分の適法性について

  • イ 上記(6)のイのとおり、平成24年3月課税期間及び平成25年3月課税期間の各更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきであるから、平成24年3月課税期間及び平成25年3月課税期間の消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分についても、いずれもその全部を取り消すべきである。
  • ロ また、平成27年3月課税期間及び平成28年3月課税期間の消費税等については、上記(6)のロのとおり、いずれもその一部を取り消すべきであるところ、取消後の各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のもの)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     したがって、平成27年3月課税期間及び平成28年3月課税期間の消費税等に係る過少申告加算税の各賦課決定処分は、別紙1及び別紙2の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(8) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部又は一部を取り消すこととする。

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